(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
間隔をおいて配設された複数のガイドローラと、該ガイドローラの軸方向に間隔をあけて複数回巻き掛けられ該ガイドローラ間で並列するワイヤと、インゴットを固定する基台部と、該ワイヤと該基台部に固定されたインゴットに高周波パルス電力を供給する高周波パルス電源ユニットと、を備えるマルチワイヤ放電加工装置を用いて、該ワイヤで円柱状のインゴットをウェーハにスライスするウェーハの製造方法であって、
円柱状のインゴットを該基台部に固定する固定ステップと、
隣接する該ガイドローラ間で並列する該ワイヤとインゴットとを相対的に加工送りさせて、該ワイヤでインゴットを複数枚のウェーハに切断するスライスステップと、からなり、
該スライスステップは、
該ワイヤがインゴットの外周に切り込んでから、該ワイヤとインゴットを所定量加工送りする第1スライスステップと、
該第1スライスステップを実施後、少なくとも該ワイヤがインゴットの軸心部分を通過するまで加工送りする第2スライスステップと、
該第2スライスステップを実施後、インゴットがウェーハに切断されるまで加工送りする第3スライスステップと、から構成され、
該第2スライスステップでは、
該ワイヤとインゴットとを加工送りさせつつ、インゴットの切断面に沿ってインゴットが任意の角度で天秤のごとくに揺動するよう該ワイヤとインゴットを相対移動させ、ウェーハの中央領域で加工溝に溜まる加工屑の排出を促進して平坦なウェーハを形成し、
該第1スライスステップ及び該第3スライスステップでは、該第2スライスステップより加工送り速度が速く、又は該ワイヤに供給される電圧が低く設定されていることを特徴とするウェーハの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0014】
〔実施形態〕
実施形態に係るマルチワイヤ放電加工装置について説明する。
図1は、マルチワイヤ放電加工装置の構成例を示す斜視図である。
図1に示すように、マルチワイヤ放電加工装置1は、ワイヤRを繰り出す繰り出しボビン20と、間隔をおいて複数配設され、繰り出しボビン20により繰り出されたワイヤRを案内する円柱状のガイドローラ21〜26と、ワイヤRを巻き取る巻き取りボビン27とを備える。ガイドローラ21は繰り出しボビン20の近傍に配設され、ガイドローラ26は巻き取りボビン27の近傍に配設されている。4箇所のガイドローラ22〜25は、ガイドローラ21とガイドローラ26の間に配設されると共に、矩形の形状をなすようにそれぞれが矩形の角に配設されている。
【0015】
Y軸方向から見た場合に、ガイドローラ22とガイドローラ23で形成される線分と、ガイドローラ25とガイドローラ24で形成される線分は平行になるようにガイドローラ22〜25は配設されている。矩形状に配設されたガイドローラ22〜25は、繰り出しボビン20から繰り出されてガイドローラ21から送り出されたワイヤRを複数回掛け回し、ガイドローラ26を介して巻き取りボビン27に送り出す。繰り出しボビン20、ガイドローラ21〜26及び巻き取りボビン27は、図示しないモータによって回転駆動される。なお、全てのガイドローラ21〜26をモータ駆動とする必要はなく、例えばガイドローラ23,25を従動ローラとしてもよい。
【0016】
繰り出しボビン20には、放電加工に用いられる黄銅などの金属線であるワイヤRが巻き回されている。繰り出しボビン20は、ワイヤRをガイドローラ21に対して繰り出す。ガイドローラ21は、繰り出しボビン20から繰り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ22に送り出す。ガイドローラ22は、ガイドローラ21から送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ23に送り出す。ガイドローラ23は、ガイドローラ22から送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ24に送り出す。ガイドローラ24は、ガイドローラ23から送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ25に送り出す。ガイドローラ25は、ガイドローラ24から送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ22に送り出す。ワイヤRは、ガイドローラ22〜25の長手方向に間隔をあけて複数回巻き掛けられ、ガイドローラ26を介して巻き取りボビン27に巻き取られる。このように、ワイヤRは、ガイドローラ22〜25の軸方向であるY軸方向に間隔をあけて複数回巻き掛けられてガイドローラ22〜25間で並列し、インゴットIを切断するX軸方向に位置付けられている。
【0017】
インゴットIは導電性がある材料であり、炭化珪素、単結晶ダイヤモンド、シリコン又はGaN(窒化ガリウム)等からなり、円柱状に形成されている。ワイヤRは、一対の隣接するガイドローラ24とガイドローラ25との間に形成された切断ワイヤ部30を構成し、切断ワイヤ部30はX軸方向に走行するよう位置付けられている。
【0018】
切断ワイヤ部30はインゴットIを切断するものであり、ガイドローラ24とガイドローラ25で一定のテンションを有して張設され、所定の間隔でガイドローラ24,25の長手方向(Y軸方向)に並列して配設された8本のワイヤRから構成されている。切断ワイヤ部30を構成するワイヤRはX軸方向に進行し、ワイヤRの間隔は0.5mm〜数mm程度である。
【0019】
切断ワイヤ部30に対向した位置には、インゴットIを設置するインゴット設置手段50と、インゴットIをY軸方向に移動させるY方向移動手段40と、インゴットIをZ軸方向に移動させるZ方向移動手段41、インゴットIを揺動させる揺動手段42とが設けられている。インゴット設置手段50は切断ワイヤ部30の上面側に配設され、インゴットIを固定する基台部51と、インゴットIを取り付ける取り付け部材52とを備える。基台部51は、円柱状のインゴットIの長手方向及び短手方向の長さよりも若干大きく形成された直方体形状であり、取り付け部材52を介してインゴットIを固定する。
【0020】
Y方向移動手段40は、Y軸方向に対して平行に延在される図示しないボールねじと、パルスモータ等で構成される駆動源とを有し、ボールねじのナットに固定された基台部51を、切断ワイヤ部30のワイヤRの進行方向(X軸方向)に直角であるY軸方向に移動させる。これにより、基台部51に固定されたインゴットIの端材の分量等を調整する。
【0021】
Z方向移動手段41は、Z軸方向に対して平行に延在される図示しないボールねじと、パルスモータ等で構成される駆動源とを有し、ボールねじのナットに固定された基台部51を加工送り方向(Z軸方向)に移動させて、切断ワイヤ部30のワイヤRでインゴットIをウェーハW(
図4等参照)にスライスさせる。
【0022】
揺動手段42は、Y軸方向を回動軸とし、基台部51のY軸方向における長方形の端面510の中心Pを回動支点として基台部51を揺動させる。例えば、揺動手段42は、基台部51の端面510に固定されて、基台部51をY軸方向を回動軸として回動させる図示しない歯車と、歯車を回動するパルスモータとを有する。パルスモータを正転又は逆転させて基台部51をY軸方向を回動軸として回動させてインゴットIを天秤のごとくに揺動させる。
【0023】
すなわち、基台部51の端面510の中心Pを回動支点として、ワイヤRが走行するX軸方向にインゴットIを振り子のように一定の振り幅で揺動させる。なお、インゴットIの振り幅は、回動支点である基台部51側が小さくなり、基台部51から離れるに従って大きくなるので、ワイヤRがインゴットIを切断する位置と加工長に応じて調整してもよい。例えば、インゴットIの基台部51側を切断するとき、振り幅が小さくなり加工長が短くなるので、インゴットIの振り幅が大きくなるように調整する。
【0024】
基台部51の下面側には、導電性接着剤53を介してインゴットIが接着固定された取り付け部材52が固定される。インゴットIをワイヤRにより切断する場合、ワイヤRがインゴットIを通過して取り付け部材52を若干切り込むようにしてインゴットIを切断する。すなわち、インゴットIと共に取り付け部材52の一部も同時に切断する。これにより、インゴットIを確実に切断することができる。
【0025】
マルチワイヤ放電加工は、誘電体である水や油などの加工液F(
図2等参照)の中で実施され、切断ワイヤ部30は加工液Fが満たされた加工槽60の中に浸漬される。加工槽60の中で、貯留された加工液Fに浸漬された切断ワイヤ部30のワイヤRがインゴットIを加工する。
【0026】
加工槽60の中には、ウェーハWを収容するための籠61が配置されている。籠61は、インゴット設置手段50の真下に配置され、インゴットIの長手方向及び短手方向の長さよりも大きく形成され、一定の深さを有している。基台部51に固定されたインゴットIから分離されたウェーハWは、加工槽60の中に配置された籠61に沈下して収容される。
【0027】
マルチワイヤ放電加工装置1は、切断ワイヤ部30に給電する給電手段70を備える。給電手段70は、高周波パルス電源ユニット71と、給電子72とを備える。高周波パルス電源ユニット71は、給電子72と基台部51に接続されている。給電子72は、切断ワイヤ部30の8本のワイヤRに接続されている。高周波パルス電源ユニット71は、給電子72を介して切断ワイヤ部30のワイヤRと基台部51に固定されたインゴットIに高周波パルス電力を供給する。
【0028】
高周波パルス電源ユニット71から高周波パルス電力を供給して、給電子72に接続された切断ワイヤ部30のワイヤRとインゴットIとの極間に電圧を印加すると、ワイヤRは、正面に配置されたインゴットIに対して放電を行う。例えば、液中で絶縁状態にあるインゴットIとワイヤRの間隔が数十μm位まで近づくと、両者の絶縁が破壊されて放電が発生する。この放電によってインゴットIが加熱されて溶融され、さらに液体の温度が急激に上昇することにより液体が気化し、体積膨張によって溶融箇所を飛散させる。このように、高周波パルス電力を切断ワイヤ部30のワイヤRとインゴットIとの極間に供給することで、インゴットIを溶融すると共に飛散させる処理を断続的に行ってインゴットIを切断する。
【0029】
高周波パルス電源ユニット71、Y方向移動手段40、Z方向移動手段41及び揺動手段42を制御する制御手段80を備え、制御手段80は、高周波パルス電力の周波数や、インゴットIの位置等を制御する。
【0030】
次に、マルチワイヤ放電加工装置1を使用してインゴットIからウェーハWを製造する方法について説明する。ウェーハWの製造方法は、固定ステップと、スライスステップとから構成され、スライスステップは、第1スライスステップと、第2スライスステップと、第3スライスステップとから構成される。
【0031】
図2は、インゴットのスライスステップの領域を示す正面図である。
図3は、インゴットの揺動例を示す正面図である。
図4は、インゴットの加工例を示す側面図である。
図5は、ウェーハの形成例を示す斜視図である。
図6は、ウェーハの形成例(従来)を示す斜視図である。
図7は、ウェーハの製造方法(メインルーチン)を示すフローチャートである。
図8は、ウェーハの製造方法(サブルーチン)を示すフローチャートである。
【0032】
図7に示す固定ステップST1で、インゴットIを基台部51に固定する。例えば、作業者は、導電性接着剤53を取り付け部材52に塗布してインゴットIを取り付け部材52に接着する。そして、インゴットIが接着された取り付け部材52を基台部51に固定する。次に、スライスステップST2に移行する。
【0033】
図7に示すスライスステップST2で、制御手段80は、隣接するガイドローラ24,25間で並列するワイヤRとインゴットIとを相対的に加工送りさせて、ワイヤRでインゴットIを複数枚のウェーハWに切断するように制御する。例えば、インゴットIを切断する場合、インゴットIを加工する領域に応じて、インゴットIの加工送り速度とワイヤRの電圧を以下の条件1〜3のいずれかの条件に設定する。条件2は、条件1と比較して電圧が低く設定され、条件3は条件1と比較して加工送り速度が速く設定されている。
(条件1)
・加工送り速度:0.1mm/min程度
・電圧:200V程度
(条件2)
・加工送り速度:0.1mm/min程度
・電圧:150V程度(上記条件1の電圧を25%程度低くした電圧)
(条件3)
・加工送り速度:1.2〜2mm/min程度
・電圧:200V程度
【0034】
図8に示すサブルーチンの第1スライスステップST21で、制御手段80は、ワイヤRがインゴットIの外周に切り込んでから、ワイヤRとインゴットIを所定量加工送りするように制御する。加工送りする所定量とは、
図2に示すように、斜線で記載したインゴットIの領域T1である。領域T1は、インゴットIが基台部51に固定される側を上端部としたとき、インゴットIの下端部に相当し、インゴットIの切断面全体の7.5%程度を占める。
【0035】
インゴットIの下端部に相当する領域T1を切断する場合、制御手段80は、後述する第2スライスステップST22より加工送り速度を速く、又はワイヤRに供給される電圧を低く設定する。例えば、制御手段80は、ワイヤRがインゴットIの領域T1を切断する場合、上述の条件2又は条件3に設定する。例えば、制御手段80は、Z方向移動手段41の加工送り速度を0.1mm/min程度の速度で、高周波パルス電源ユニット71の電圧を150V程度の低い電圧に設定するか、又は、Z方向移動手段41の加工送り速度を1.2〜2mm/min程度の速い速度で、高周波パルス電源ユニット71の電圧を200V程度に設定する。これにより、加工長が短いことにより放電が集中することを防止できる。次に、第2スライスステップST22に移行する。
【0036】
第2スライスステップST22で、制御手段80は、第1スライスステップST21を実施後、少なくともワイヤRがインゴットIの軸心部分を通過するまで所定の条件で加工送りするように制御する。例えば、
図2に示すように、斜線で記載したインゴットIの領域T2の範囲において、加工長が領域T1より長いので、加工送り速度が遅くて電圧が高い上述の条件1に設定する。例えば、制御手段80は、Z方向移動手段41の加工送り速度を0.1mm/min程度の速度に設定し、高周波パルス電源ユニット71の電圧を200V程度の電圧に設定する。領域T2は、インゴットIの切断面全体の85%程度を占める。
【0037】
また、制御手段80は、ワイヤRとインゴットIとを加工送りさせつつ、
図3に示すように、インゴットIの切断面に沿ってインゴットIが任意の角度で天秤のごとくに揺動するようにワイヤRとインゴットIを相対移動させ、ウェーハWの中央領域で加工溝に溜まる加工屑の排出を促進して平坦なウェーハWを形成するように制御する。
【0038】
例えば、制御手段80は、Z方向移動手段41を駆動してインゴットIをZ軸方向に加工送りさせつつ、揺動手段42を駆動して基台部51を回動支点としてインゴットIを揺動させる。インゴットIが揺動されると、
図4の(A)の拡大図に示すように、インゴットIの加工溝V1とワイヤRの間(放電ギャップG)に存在する加工屑Uが揺れ落ちて除去され、加工屑Uにより加工溝V1が太くなることを防止できる。なお、
図4の(B)は従来技術に係る放電加工の例であり、インゴットIの加工溝V2とワイヤRの放電ギャップGに加工屑Uが滞留している。このため、滞留した加工屑Uを介してワイヤRとインゴットIとの距離が短くなり、この部分に集中的に放電が発生してしまい、切削量が増えて加工溝V2が加工溝V1よりも太く形成されている。
【0039】
なお、揺動によりインゴットIの加工溝V1の端部がワイヤRに何度も近接するが、加工屑Uが無ければインゴットIの加工溝V1の端部がワイヤRによって放電加工されても加工溝V1の幅は一定であり、ウェーハWの平坦化が阻害されることはない。また、インゴットIを揺動させた時に、インゴットIの加工溝V1の端部とワイヤRの短絡を防止するために、インゴットIの加工溝V1の端部がワイヤRに近づいた場合に放電加工が可能な速さでインゴットIを揺動させる。次に、第3スライスステップST23に移行する。
【0040】
第3スライスステップST23で、制御手段80は、第2スライスステップST22を実施後、インゴットIがウェーハWに切断されるまで所定の条件で加工送りするように制御する。第3スライスステップST23では、インゴットIの上端部に相当する領域T3を切断する。領域T3は、インゴットIの切断面全体の7.5%程度を占める。
【0041】
制御手段80は、領域T3を切断する場合、上述の領域T1を切断する場合と同様に、第2スライスステップST22より加工送り速度を速く、又はワイヤRに供給される電圧を低く設定する。例えば、制御手段80は、ワイヤRが領域T3を切断する場合、領域T1と同様に、条件2又は条件3に設定する。例えば、制御手段80は、Z方向移動手段41の加工送り速度を0.1mm/min程度の速度で、高周波パルス電源ユニット71の電圧を150V程度の低い電圧に設定するか、又は、Z方向移動手段41の加工送り速度を1.2〜2mm/min程度の速い速度で、高周波パルス電源ユニット71の電圧を200V程度に設定する。これにより、加工長が短いことにより放電が集中することを防止できる。
【0042】
また、制御手段80は、領域T3を切断する場合は揺動手段42を停止させている。領域T3の切断が終了すると、
図7に示すスライスステップST2に戻ってウェーハWの切断が終了となる。
【0043】
なお、切断されたウェーハWを基台部51から分離する場合、ウェーハWの根本が固定されている取り付け部材52を切断する。そして、基台部51から各ウェーハWを分離させて加工槽60の中に配置された籠61に収容する。
【0044】
以上のように、実施形態に係るウェーハWの製造方法によれば、第2スライスステップST22において、インゴットIの中心部に近づくほど除去されにくい加工屑Uが揺動によって除去されることで加工屑Uの放電による余分な加工が行われず、
図5に示すようにウェーハWの中心部Mを平坦に切り出すことができる。
【0045】
また、第1スライスステップST21及び第3スライスステップST23において、インゴットIの中心部を含んだ領域T2に比べ、その両側の領域T1,T3は速い加工送り速度又は低い電圧で加工する事により、加工長が短いことにより放電が集中することを防止できる。これにより、ウェーハWの加工開始部分K1及び加工終了部分K2で形成される加工溝の幅を太くすること無く切り出すことができ、加工時間の短縮や省電力につながる。
【0046】
このように、ワイヤRとインゴットIの相対移動によりインゴットIを揺動させると共に、加工送り速度又はワイヤRの電圧を調整することで、ウェーハWの全面を平坦に切り出すことができるようになる。従って、後段のウェーハWを研削する工程において研削する取り量が少なく済むので、ウェーハWの切り出しにおいてウェーハWを薄く切断することができ、インゴットIから多くのウェーハWを形成できる。
【0047】
また、インゴットIの領域T2のみでインゴットIを揺動させ、領域T1,T3ではインゴットIを揺動させないので、放電加工が不安定になりやすい領域T3を良好に加工できる。すなわち、領域T3は、インゴットIを取り付ける取り付け部材52に近いので、仮にインゴットIを揺動させながら領域T3を加工すると、インゴットIのみを加工する場合や、インゴットI及び取り付け部材52の両方を加工する場合が、インゴットIの揺動に応じて交互に訪れる。インゴットIと取り付け部材52は抵抗値が異なるために、これらの抵抗値の異なるものを交互に加工すると加工条件が変化するため、加工結果が不安定になりやすくなるが、本発明では領域T3でインゴットIを揺動させないので、このような加工結果が不安定になることがない。
【0048】
ところで、
図6の(A)〜(C)又は
図4の(B)に示す従来例のように、インゴットIを揺動しない場合、ワイヤRの延在方向においてインゴットIの中央領域に滞留した加工屑Uの放電による余分な加工が行われて加工量が多くなるため、ウェーハW’が平坦に切り出せない。例えば、
図6の(A)に示すように、ウェーハW’の中央領域がくぼんだ形状となる。また、加工送り速度やワイヤRの電圧を調整しなければ、加工送り方向においてワイヤRの入り口側と出口側で加工長が短くなるために、放電が集中して加工溝が太くなりウェーハW’が薄くなる。例えば、
図6の(B)及び(C)に示すように、加工の入り口側と出口側においてウェーハW’の外周曲面90の縁部91が加工面92側にくぼんでいる。なお、
図6の(B)は、
図6の(A)に示すウェーハW’を矢印Q1方向から見た図であり、
図6の(C)は、
図6の(A)に示すウェーハW’を矢印Q2方向から見た図であり、
図6の(A)〜(C)に示す外周曲面90には、説明の理解を容易にするためにハッチングをしている。
【0049】
なお、インゴットIを揺動させる方法は、基台部51を回動支点にする揺動手段42に限定されない。例えば、インゴットIのY軸方向における中心部が回動支点になるようにインゴットIを揺動してもよい。また、インゴットIは固定し、切断ワイヤ部30のワイヤRを揺動させてもよい。さらに、インゴットI及び切断ワイヤ部30のワイヤRの両方を揺動させてもよい。この場合、インゴットIとワイヤRを同じ方向に揺動させることで、インゴットIとワイヤRが短絡する可能性を低減することができる。また、インゴットIをワイヤRの下方から上昇させつつワイヤRを切り込ませて加工させても良い。
【0050】
また、第1スライスステップST21及び第3スライスステップST23において、加工送り速度を速くするか、又は電圧を低くする設定するように制御したが、これらの制御を同時に実施してもよい。すなわち、加工送り速度を速くすると共に、電圧を低く設定してもよい。この場合、低い電圧で加工送り速度を速くするためにインゴットIとワイヤRが短絡する可能があるので、上述の条件2の電圧よりも若干高く、条件3の加工送り速度よりも若干遅くすることが好ましい。