特許第6396819号(P6396819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396819
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20180913BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20180913BHJP
【FI】
   H01L21/302 101H
   !H05H1/46 M
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-19660(P2015-19660)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-143803(P2016-143803A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏治
【審査官】 佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−066493(JP,A)
【文献】 特開2000−091327(JP,A)
【文献】 特開2004−190136(JP,A)
【文献】 特開2009−188257(JP,A)
【文献】 特表2005−531157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム(Cr)の含有部材を有する処理容器と、該処理容器内に配置された載置台とを備えるプラズマ処理装置を用いて該載置台上の基板をプラズマ処理するプラズマ処理方法であって、
臭素を含む第1のガスから生成されたプラズマにより基板をエッチングする工程と、
前記エッチングされた基板を搬出後、Cガス(x≧1、y≧4)及び不活性ガスを含む第2のガスから生成されたプラズマと前記エッチングにより生成された反応生成物との反応により保護膜を前記処理容器の内壁に形成する工程と、
前記エッチングする工程において生成されたクロムを含む反応生成物を排気する工程と、
を含むプラズマ処理方法。
【請求項2】
前記保護膜を形成する工程後、酸素を含む第3のガスから生成されたプラズマにより前記処理容器内をクリーニングする工程を更に含む、
請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記第1のガスは、臭化水素(HBr)ガスを含む、
請求項1又は2に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記保護膜を形成する工程は、臭化クロムを含む反応生成物からフッ化クロム含有物を生成し、
前記排気する工程は、前記フッ化クロム含有物を排気する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記Cガスは、CF、C、C、C、C及びCの少なくともいずれかである、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
クロム(Cr)の含有部材を有する処理容器と、該処理容器内に配置された載置台と、制御部とを備え、該載置台上の基板をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
前記制御部は、
臭素を含む第1のガスから生成されたプラズマにより基板をエッチングする工程と、
前記エッチングされた基板を搬出後、Cガス(x≧1、y≧4)及び不活性ガスを含む第2のガスから生成されたプラズマと前記エッチングにより生成された反応生成物との反応により保護膜を前記処理容器の内壁に形成する工程と、
前記エッチングする工程において生成されたクロムを含む反応生成物を排気する工程と、を制御するプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの集積度の向上に伴い、シリコンの半導体ウェハ(以下、「ウェハ」という。)の加工やデバイスの作製プロセスにおいて処理容器内の重金属汚染がより重要な課題になっている。重金属は、熱処理によってウェハ上の膜中に拡散及び固溶し、トランジスタの作製時に形成されるドーパントとペアを形成したり、重金属の析出物や積層欠陥等を生成したりする。その結果、酸化膜の耐圧を劣化させたり、リーク電流の増加を引き起こしたりする。
【0003】
クロム(Cr)による重金属汚染は、プラズマ処理装置の性能や能力に拠るところが大きい。プラズマ処理装置内にCrを含有する部材が含まれる場合、エッチング処理時にCrの反応生成物が処理容器の内壁に堆積することがある。この場合に生じるCrによる重金属汚染は、半導体製品の性能に大きな影響を与え、歩留まりを低下させる。
【0004】
Crによる重金属汚染を改善するために、プラズマ処理装置のハードウェアを改良することが考えられる。しかしながら、装置のハードウェアを改良する場合には開発費が増大しコスト面で不利益がある。このため、装置のハードウェアを変えずにCrによる汚染を低減することが望まれる。
【0005】
例えば、特許文献1では、堆積性が低いエッチング条件において酸素(O)ガスのプラズマクリーニング後、エッチングの開始前にパーフルオロシクロブタン(C)ガス及びアルゴン(Ar)ガスのプラズマにより処理容器の内壁に膜を堆積させることが提案されている。これによれば、堆積膜によりエッチング時のスパッタから処理容器の内壁を保護し、異物が内壁から叩き出されてウェハに付着することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−91327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1には、異物がどのような物質を含むかについての明示がなく、プラズマエッチングにより生成した反応生成物にCrが含まれる場合に処理容器内の重金属汚染を防止する方法は開示されていない。
【0008】
上記課題に対して、一側面では、本発明は、プラズマエッチングにおける処理容器内のCrの重金属汚染を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、一の態様によれば、クロム(Cr)の含有部材を有する処理容器と、該処理容器内に配置された載置台とを備えるプラズマ処理装置を用いて該載置台上の基板をプラズマ処理するプラズマ処理方法であって、臭素を含む第1のガスから生成されたプラズマにより基板をエッチングする工程と、前記エッチングされた基板を搬出後、Cガス(x≧1、y≧4)及び不活性ガスを含む第2のガスから生成されたプラズマにより保護膜を形成する工程と、前記エッチングする工程において生成されたクロムを含む反応生成物を排気する工程と、を含むプラズマ処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
一の側面によれば、プラズマエッチングにおける処理容器内のCrの重金属汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態にかかるプラズマ処理装置の縦断面の一例を示す図。
図2】一実施形態にかかるプラズマ処理方法と比較例のプラズマ処理方法を示した図。
図3】一実施形態にかかる比較例の場合のコンタミネーション数の一例を示す図。
図4】一実施形態にかかるプラズマ処理方法の一例を示すフローチャート。
図5】エッチング工程にHBrや腐食性ガスを用いない場合のコンタミネーション数の一例を示す図。
図6】一実施形態にかかるプラズマ処理方法を実行した場合のコンタミネーション数の一例を示す図。
図7】一実施形態にかかる保護膜の形成とEPD解析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
【0013】
[プラズマ処理装置の全体構成]
まず、本発明の一実施形態にかかるプラズマ処理装置10の全体構成について、図1を参照しながら説明する。プラズマ処理装置10は、アルミニウム等からなり、内部を密閉可能な筒状の処理容器11を有している。処理容器11は、接地電位に接続されている。処理容器11の内部には、導電性材料、例えばアルミニウム等から構成された載置台12が設けられている。載置台12は、ウェハWを載置する円柱状の台であり、下部電極を兼ねている。
【0014】
処理容器11の側壁と載置台12の側面との間には、載置台12の上方のガスを処理容器11外へ排出する経路となる排気路13が形成されている。排気路13の途中には排気プレート14が配置される。排気プレート14は多数の孔を有する板状部材であり、処理容器11を上部と下部とに仕切る仕切り板として機能する。排気プレート14によって仕切られた処理容器11の上部は、プラズマ処理が実行される反応室17である。処理容器11の下部の排気室(マニホールド)18には、処理容器11内のガスを排出する排気管15及びAPC(Adaptive Pressure Control:自動圧力制御)バルブ16を介して排気装置38が接続されている。排気プレート14は、反応室17にて生成されるプラズマを捕捉又は反射して排気室18への漏洩を防止する。排気装置38は、APCバルブ16の調整により処理容器11内を減圧し、所望の真空状態に維持する。
【0015】
第1の高周波電源19は、整合器20を介して載置台12に接続され、例えば400kHz〜13.56MHzのバイアス用の高周波電力(以下、「LF」(Low Frequency)とも表記する。)を載置台12に供給する。整合器20は、載置台12からの高周波電力の反射を抑え、バイアス用の高周波電力LFの供給効率を最大にする。
【0016】
載置台12の上部には、静電電極板21を内部に有する静電チャック22が配置されている。静電チャック22は下部円板状部材の上に、下部円板状部材より直径の小さい上部円板状部材を重ねた形状を有する。なお、静電チャック22はアルミニウムからなり、上面にはセラミック等が溶射されている。載置台12にウェハWを載置するとき、ウェハWは静電チャック22の上部円板状部材の上に置かれる。
【0017】
静電電極板21には、直流電源23が接続されている。静電電極板21に正の直流電圧(以下、「HV」(High Voltage)とも表記する。)が印加されると、ウェハWの裏面(静電チャック22側の面)に負電位が発生して静電電極板21とウェハWの裏面との間に電位差が生じる。ウェハWは、この電位差に起因するクーロン力又はジョンソン・ラーベック力により、静電チャック22における上部円板状部材上に静電吸着され、保持される。
【0018】
また、静電チャック22には、ウェハWの周縁部を囲うように、円環状のフォーカスリング24が載置される。フォーカスリング24は、導電性部材、例えば、シリコンからなり、反応室17においてプラズマをウェハWの表面に向けて収束し、エッチング処理の効率を向上させる。
【0019】
また、載置台12の内部には、例えば、円周方向に延在する環状の冷媒室25が設けられる。この冷媒室25には、冷媒用配管26を介してチラーユニットから低温の冷媒、例えば、冷却水やガルデン(登録商標)が循環供給される。該低温の冷媒によって冷却された載置台12は静電チャック22を介してウェハW及びフォーカスリング24を冷却する。
【0020】
静電チャック22における上部円板状部材上のウェハWが吸着する面(吸着面)には、複数の伝熱ガス供給孔27が開口している。これら複数の伝熱ガス供給孔27には、伝熱ガス供給ライン28を介してヘリウム(He)ガス等の伝熱ガスが供給される。伝熱ガスは、伝熱ガス供給孔27を介して静電チャック22の吸着面とウェハWの裏面との間隙に供給され、ウェハWの熱を静電チャック22に伝達する。
【0021】
処理容器11の天井部には、載置台12と対向するようにガスシャワーヘッド29が配置されている。第2の高周波電源31は、整合器30を介してガスシャワーヘッド29に接続され、例えば40MHz程度のプラズマ励起用の高周波電力(以下、「HF」(High Frequency)とも表記する。)をガスシャワーヘッド29に供給する。このようにしてガスシャワーヘッド29は上部電極としても機能する。なお、整合器30は、ガスシャワーヘッド29からの高周波電力の反射を抑え、プラズマ励起用の高周波電力HFの供給効率を最大にする。なお、第2の高周波電源31及び整合器30は設けられていなくてもよい。
【0022】
ガスシャワーヘッド29は、多数のガス穴32を有する天井電極板33と、天井電極板33を着脱可能に釣支するクーリングプレート34と、クーリングプレート34を覆う蓋体35とを有する。また、クーリングプレート34の内部にはバッファ室36が設けられ、バッファ室36にはガス導入管37が接続されている。ガスシャワーヘッド29は、ガス供給源8からガス導入管37及びバッファ室36を介して供給されたガスを、多数のガス穴32を介して反応室17内へ供給する。
【0023】
ガスシャワーヘッド29は、処理容器11に対して着脱自在であり、処理容器11の蓋としても機能する。処理容器11からガスシャワーヘッド29を離脱させれば、作業者は処理容器11の壁面や構成部品に直接触れることができる。これにより、作業者は処理容器11の壁面や構成部品の表面をクリーニングすることができ、処理容器11の壁面等に付着した付着物を除去することができる。
【0024】
プラズマ処理装置10では、ガスシャワーヘッド29から供給されたガスからプラズマが生成され、そのプラズマによってウェハWにエッチング等のプラズマ処理が施される。なお、プラズマ処理装置10の各構成部品の動作は、プラズマ処理装置10の全体を制御する制御部50によって制御される。
【0025】
制御部50は、CPU51,ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53を有し、RAM53などに記憶されたレシピに設定された手順に従い、エッチング処理、コーティング処理及びクリーニング処理を制御する。なお、制御部50の機能は、ソフトウエアを用いて実現されてもよく、ハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0026】
かかる構成のプラズマ処理装置10においてエッチング等の処理を行う際には、まず、ウェハWが、搬送アーム上に保持された状態で、開口されたゲートバルブ9から処理容器11内に搬入される。ゲートバルブ9は、ウェハWを搬入後に閉じられる。ウェハWは、静電チャック22の上方でプッシャーピンにより保持され、プッシャーピンが降下することにより静電チャック22上に載置される。処理容器11内の圧力は、排気装置38により設定値に減圧される。ガスがガスシャワーヘッド29からシャワー状に処理容器11内に導入される。所定のパワーの高周波電力が載置台12に印加される。また、静電チャック22の静電電極板21に直流電源23からの電圧を印加することで、ウェハWは、静電チャック22上に静電吸着される。
【0027】
導入されたガスを高周波電力により電離及び解離させることでプラズマが生成される。プラズマの作用によりウェハWにプラズマエッチングが施された後、ウェハWは、搬送アーム上に保持され、処理容器11の外部に搬出される。処理容器11内にてコーティング及びクリーニング等のプラズマ処理が実行された後、次のウェハWにプラズマエッチングが施される。
【0028】
(クロムの反応生成物)
本実施形態にかかるプラズマ処理装置10には、処理容器11内にCrを含有する部材が含まれる。例えば、ガスを供給するガス供給管やその他の部材がCrを含有する金属で形成されている場合が挙げられる。処理容器11内にCrを含有する部材が含まれる場合、エッチング処理時にCrの反応生成物が処理容器の内壁に堆積することがある。この場合に生じるCrによる重金属汚染は、半導体製品の性能に大きな影響を与え、歩留まりを低下させる。
【0029】
臭素(Br)、塩素(Cl)及びヨウ素(I)のいずれかを含むガス(以下、「第1のガス」ともいう。)を供給し、第1のガスから生成されたプラズマによりウェハWをエッチングする際、Crを含む反応生成物が生成され、処理容器11の内壁に堆積する。例えば、臭素を含む第1のガスを供給した場合、Crを含む反応生成物の一例として臭化クロム(CrBr)を含む反応生成物が生成される。
【0030】
図2の(a)の「エッチング」に示すように、例えば、第1のガスが臭化水素(HBr)ガスを含む場合、エッチング中に反応式(1)により示される化学反応が起こり、CrBrを含む反応生成物100が処理容器11の内壁に堆積する。
Cr+HBr→CrBr↓・・・(1)
予め定められた枚数(1枚又は複数枚)のウェハWをエッチング後、図2の(e)の「クリーニング」に示すように、Oプラズマにより処理容器11内をクリーニングし、堆積した反応生成物を除去する。具体的には、クリーニング中に反応式(2)により示される化学反応が進み、CrBrがOプラズマと反応して気化する。
CrBr+O→CrBrO↑・・・(2)
その結果、気化したCrBrOがコンタミネーションとなり、プラズマエッチングにおける処理容器11内のCrの重金属汚染を引き起こす。図3は、図2の(a)エッチング→図2の(e)クリーニングを実行した後において、ウェハW上に存在するコンタミネーション数を測定した結果の一例を示す。コンタミネーション数は、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)及び鉄(Fe)の場合、「1.0×e10(atoms/cm2)」未満であれば、処理容器11内の各物質による金属汚染は発生していないと判定できる。また、アルミニウム(Al)の場合、「15.0×e10(atoms/cm2)」未満であれば、処理容器11内のアルミニウムによる金属汚染は発生していないと判定できる。図3に示す結果によれば、Na、Al及びFeのコンタミネーション数は閾値より低くなっており、これらの金属汚染は発生していないと判定できる。一方、Crのコンタミネーション数は閾値の9倍高くなっており、Crによる汚染が課題になっていることがわかる。
【0031】
よって、以下の本実施形態にかかるプラズマ処理方法では、プラズマエッチングにおける処理容器11内のCrによる重金属汚染を防止することが可能である。本実施形態にかかるプラズマ処理方法は、上記構成のプラズマ処理装置10にて使用することができる。ただし、本実施形態にかかるプラズマ処理方法は、上記構成のプラズマ処理装置10に限らない。例えば、本実施形態にかかるプラズマ処理方法は、プラズマ励起用の高周波電力HF及びバイアス用の高周波電力LFを載置台12に印加する平行平板のプラズマ処理装置や、その他の構成のプラズマ処理装置で使用することができる。
【0032】
[プラズマ処理方法]
本実施形態にかかるプラズマ処理方法について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。本実施形態にかかるプラズマ処理方法では、エッチング工程とクリーニング工程との間に保護膜を形成するコーティング工程が実行される。エッチング工程、コーティング工程及びクリーニング工程は、制御部50により制御される。
【0033】
まず、未処理のウェハWが処理容器11内に搬入される(ステップS10)。次に、臭素、塩素及びヨウ素のいずれかを含む第1のガスが処理容器11内に供給され、該第1のガスから生成されたプラズマによりウェハWをエッチングする工程が実行される(ステップS12)。
【0034】
この場合、前述したようにエッチング中にCrを含む反応生成物が生成され、処理容器11の内壁に堆積する。図2の(a)の「エッチング」に示すように、例えば、第1のガスがHBrガスを含む場合、エッチング中に上記反応式(1)により示される化学反応により、CrBrを含む反応生成物100が処理容器11の内壁に堆積する。
【0035】
次に、エッチング処理済みのウェハWが処理容器11から搬出される(ステップS14)。次に、所定枚数のウェハWをエッチングしたかが判定される(ステップS16)。所定枚数は、予め定められた枚数であって、1枚でもよく2枚以上でもよい。所定枚数のウェハWがエッチングされるまでステップS10〜S16の処理が繰り返され、所定枚数のウェハWがエッチングされた場合、ステップS18に進む。
【0036】
ステップS18では、処理容器11の内壁等に保護膜を形成するコーティング工程が実行される。このとき、処理容器11内には、Cガス(x≧1、y≧4)及び不活性ガスを含む第2のガスが供給され、該第2のガスから生成されたプラズマにより保護膜が形成される。
【0037】
具体的には、図2の(b−1)及び(b−2)に示すように、コーティング工程では、処理容器11の内壁へのスパッタとコーティングとが並行して行われる。例えば、パーフルオロシクロブタン(C)ガス及びアルゴン(Ar)ガスを含む第2のガスが供給される場合、処理容器11の内壁に堆積した反応生成物100がプラズマ中のイオンによりスパッタされる。
【0038】
コーティング工程では、図2の(b−1)に示すスパッタと図2の(b−2)に示すコーティングとが並行して行われる。まず、図2の(b−1)に示すスパッタの作用について説明する。
【0039】
図2の(a)のエッチング工程にて生成された反応生成物100には、天井電極板33のシリコン(Si)、エッチング対象膜の酸化ケイ素(SiO)及び臭化クロム(CrBr)が含まれる。この状態でコーティング工程が実行されると、図2の(b−1)に示すように、C及びArガスから生成されるプラズマのスパッタの作用により、反応生成物100からCrOFxが叩き出される。その際の化学反応式(3)は以下である。
CrBr+CFx+SiO→CrOFx+BrFx+SiFx+CO・・・(3)
CrOFxの蒸気圧は20℃のとき約400mmHgであり、処理容器11内が真空状態に維持されている処理容器11内では、より気化しやすい状態となっている。よって、処理容器11の内壁から叩き出されたCrOFxは気化され、排気装置38により処理容器11の外部へ排気される(コーティング工程中に図2の(c)の排気が行われる)。なお、CrOFxは、フッ化クロム含有物の一例である。
【0040】
このようにCrOFxが排出された状態で、反応式(3)により、図2の(b−2)に示すように、フッ化物(BrFx、SiFx)を含む保護膜110が処理容器11の内壁に形成される。その結果、反応室17内のクロム汚染を回避しながら処理容器11の内壁に保護膜110を形成することができる。
【0041】
図4に戻り、保護膜110の形成後、処理容器11内に酸素ガスを含む第3のガスを供給し、該第3のガスから生成されたプラズマにより処理容器11内をクリーニングするクリーニング工程が実行される(ステップS20)。
【0042】
図2の(d)に示すように、酸素プラズマにより処理容器11内をクリーニングする際、保護膜110によって処理容器11の内壁は保護される。これにより、処理容器11の内壁にCrBrの成分が残っていたとしてもCrBrと酸素プラズマとが反応してCrBrOが生成されることを回避できる。これにより、CrBrOがコンタミネーションとなって引き起こされる処理容器11内のCrの重金属汚染を防止することができる。
【0043】
クリーニング後、ステップ10に戻り未処理のウェハWが処理容器11内に搬入され、エッチング処理(ステップS12〜S16)→保護膜の形成(コーティング処理:ステップS18)→クリーニング処理(ステップS20)が順に繰り返される。
【0044】
以上に説明したように、本実施形態にかかるプラズマ処理方法では、保護膜110を形成する工程中にスパッタによりクロム含有物質を処理容器11の内壁から叩き出し、気化させることでクロム含有物質を処理容器11から排気することができる。また、処理容器11の内壁に保護膜110を形成することで、処理容器11の内壁に付着したクロム含有物質を保護膜110でコーティングすることができる。これにより、クリーニング工程において処理容器11の内壁に付着したクロム含有物質が酸素プラズマと反応して気化することを回避し、処理容器11内のCrによる重金属汚染を防止することができる。
【0045】
[実験結果]
本実施形態にかかるプラズマ処理方法をプラズマ処理装置10で実行した結果について、図5及び図6を参照しながら説明する。図5は、エッチング工程にHBrガスや腐食性ガスを用いない場合のウェハW上のコンタミネーション数の一例を示す。つまり、図5は、HBrガスや腐食性ガスを用いないエッチング工程後、保護膜の形成(コーティング工程)を行った場合において、ウェハW上のCrのコンタミネーション数を測定した結果の一例を示す。
【0046】
図6は、一実施形態にかかるプラズマ処理方法の場合のウェハW上のコンタミネーション数の一例を示す。つまり、図6は、HBrガスを用いたエッチング工程後、保護膜の形成(コーティング工程)を行った場合において、ウェハW上のCrのコンタミネーション数を測定した結果の一例を示す。前述したとおり、ウェハW上のコンタミネーション数は、Crの場合、「1.0×e10(atoms/cm2)」未満であれば重金属汚染は発生していないと判定できる。
【0047】
HBrガスやフッ素系ガス等の腐食性ガスを用いないエッチング工程では、図5に示すように、高周波電力をオンした時点において、ウェハW上に存在するCrのコンタミネーション数は、0.28×e10(atoms/cm2)であった。また、HBrガスやフッ素系ガス等の腐食性ガスを用いないエッチングガスをオンした時点において、ウェハW上に存在するCrのコンタミネーション数は、0.05×e10(atoms/cm2)であった。
【0048】
次に、HBrガスや腐食性ガスを用いないエッチング工程後のコーティング工程においてHBrガスを用いた場合、コーティング工程を実行した後のウェハW上のCrのコンタミネーション数は「0.23×e10(atoms/cm2)」となった。
【0049】
HBrガスや腐食性ガスを用いないエッチング工程後のコーティング工程においてCH及びOガスを用いた場合、コーティング工程を実行した後のウェハW上のCrによるコンタミネーション数は「0.41×e10(atoms/cm2)」となった。
【0050】
HBrガスや腐食性ガスを用いないエッチング工程後のコーティング工程においてC及びArガスを用いた場合、コーティング工程を実行した後のウェハW上のCrのコンタミネーション数は「0.1×e10(atoms/cm2)」となった。
【0051】
これにより、エッチング工程にHBrガスや腐食性ガスを用いない場合、Crのコンタミネーション数は「1.0×e10(atoms/cm2)」より少なく、処理容器11内のCrの重金属汚染は生じないことがわかった。
【0052】
これに対して、HBrガスやフッ素系ガス等の腐食性ガスを用いるエッチング工程では処理容器11内のCrの重金属汚染を防止する必要がある。図6に示すように、HBrガスを用いるエッチング工程では、高周波電力をオンした時点において、ウェハW上に存在するCrのコンタミネーション数は、21×e10(atoms/cm2)であった。また、HBrガスを含むエッチングガス(第1のガス)をオンした時点において、ウェハW上に存在するCrのコンタミネーション数は、4.8×e10(atoms/cm2)であった。
【0053】
次に、図6には、コーティング工程において、以下の(1)〜(4)の4種類の保護膜形成の結果が示されている。
(1)HBrガスによる保護膜の形成(成膜時間5分)
(2)CH及びOガスによる保護膜の形成(成膜時間5分)
(3)C及びArガスによる保護膜の形成(成膜時間1分)
(4)C及びArガスによる保護膜の形成(成膜時間5分)
この結果、(1)〜(3)の場合、いずれもCrのコンタミネーション数は「1.0×e10(atoms/cm2)」より大きくなった。すなわち、(1)〜(3)の保護膜では、処理容器11内にてCrの重金属汚染が発生した。
【0054】
これに対して、(4)の場合、Crのコンタミネーション数は「0.56×e10(atoms/cm2)」となり、「1.0×e10(atoms/cm2)」未満であった。処理容器11内のCrの重金属汚染は発生していないと判定できる。つまり、(4)C及びArガスにより保護膜を形成するコーティング工程を5分間実行することで、処理容器11内のCrの重金属汚染は発生していないと判定できる程度にまでCrのコンタミネーション数を減らすことができることがわかった。
【0055】
実験の結果、HBrガスを用いたエッチング工程後のC及びArガスを用いたコーティング工程においてスパッタと成膜とが並行して行われることによって、Crのコンタミネーション数が「2.1×e11(atoms/cm2)」から「5.6×e(atoms/cm2)」まで低減され、処理容器11内のCrの重金属汚染を防止できることがわかった。ただし、成膜時間が1分では保護膜110の厚さが充分でなくCrの重金属汚染を十分に低減することはできなかった。これに対して、成膜時間が5分の場合には、保護膜110が充分な厚さになりCrの重金属汚染を防止することができた。
【0056】
また、実験の結果、HBrガスを用いたエッチング工程後のCH及びOガスを用いたコーティング工程において、Crのコンタミネーション数は処理容器11内のCrの重金属汚染を防止できるまで十分に低減できなかった。ただし、図6には示していないが、Yのコンタミネーション数が「2.0×e11(atoms/cm2)」から「2.4×e10(atoms/cm2)」まで低減され、処理容器11内のYの金属汚染を防止できることがわかった。
【0057】
また、図7は、図6の(1)〜(4)にて示した保護膜が形成された処理容器11の内部と、保護膜が形成されていない場合(コーティングなし:(P))の処理容器11の内部をEPDにより解析した結果を示す。図7の(a)は、処理容器11の内部の全物質(全波長)の発行強度が示されている。
【0058】
図7の(a)に示すEPD解析結果によれば、250nm前後に波長のピークがあり、CF,CF2、SiO、SiFの成分が保護膜中に存在することがわかる。図7の(a)の「A」で示される波長帯について、発光強度のスケールを変えて示した図7の(b)と図7の右上の波長に対する成分表を参照すると、「A」で示される波長帯にはCr,Fe、AlH+の成分が保護膜中に存在することがわかる。
【0059】
更に、250nm前後の波長帯の成分について図7の(c)を参照し、350nm前後の波長帯の成分について図7の(d)を参照しながら説明する。図7の(c)に示すように、249nmの波長で示される保護膜のSiO及びCF成分の発光強度は(4)及び(3)が高く、(2)、(1)及びコーティングなし(P)が低いことがわかる。
【0060】
また、図7の(d)に示すように、358nm及び359nmの波長で示される保護膜のCr成分の発光強度は(4)が最も高く、(3)、(1)、(2)、コーティングなし(P)の順に低くなっていくことがわかる。よって、以上から、(4)及び(3)のC及びArガスによる保護膜の形成の場合、Cr成分の排気が促進され、かつ、保護膜により内壁からCr成分が叩き出されることが防止され、処理容器11の内部でCr汚染が最も発生していないことがわかる。
【0061】
以上から、本実施形態にかかるプラズマ処理方法では、エッチング工程とクリーニング工程との間にCガスを含むガスにより保護膜を形成する工程(コーティング工程)が実行されることで、Crによる重金属汚染を防止できることが証明された。
【0062】
なお、保護膜110を形成する工程において、処理容器11内に供給される第2のガスに含有されるCガスは、x≧1及びy≧4を満たすフッ化炭素ガスであれば、Cガスに限らない。例えば、CF、C、C、C、C及びCの少なくともいずれかであってもよい。また、第2のガスに含有される不活性ガスは、アルゴンガスに限らず、例えば、ヘリウム(He)ガス等の不活性ガスであればよい。
【0063】
以上に説明したように、本実施形態のプラズマ処理方法及びプラズマ処理装置10によれば、装置のハードウェアを改良することなく、処理容器11内のCrによる重金属汚染を防止することができる。
【0064】
以上、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を上記実施形態により説明したが、本発明にかかるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。上記実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0065】
例えば、本発明に係るプラズマ処理方法は、上記実施形態にかかる平行平板型の容量結合型プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)装置だけでなく、その他のプラズマ処理装置に適用可能である。その他のプラズマ処理装置としては、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)、ラジアルラインスロットアンテナを用いたプラズマ処理装置、ヘリコン波励起型プラズマ(HWP:Helicon Wave Plasma)装置、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR:Electron Cyclotron Resonance Plasma)装置等が挙げられる。なお、これらのプラズマ処理装置の処理容器にはCrの含有部材が含まれ、本発明に係るプラズマ処理方法によりCrによる重金属汚染を防止できる。
【0066】
また、本発明にかかるプラズマ処理方法により処理される基板は、ウェハに限られず、例えば、フラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display)用の大型基板、EL素子又は太陽電池用の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
8:ガス供給源
10:プラズマ処理装置
11:処理容器
12:載置台(下部電極)
19:第1の高周波電源
21:静電電極板
22:静電チャック
29:シャワーヘッド(上部電極)
31:第2の高周波電源
50:制御部
100:反応生成物(CrBr含有)
110:保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7