【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]ラクトースを溶解したNaOH溶液の発酵促進効果
25%(wt/wt)のNaOH溶液(NaOH水溶液)にラクトースを溶解して50%(wt/wt)のラクトース溶液を調製した(以下、ラクトースを溶解した水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を、「ラクトース−NaOH溶液」とも称する)。ラクトースの溶解は氷水中で実施した。得られたラクトース−NaOH溶液は、やや黄緑色を呈した透明な液体であった。
【0060】
温度保持群では、得られたラクトース−NaOH溶液を、-20℃、5℃、25℃、又は37℃で4時間保持した。加熱群では、得られたラクトース−NaOH溶液を、調製直後に95℃で30分加熱した後、低温で保存した。その後、温度保持又は加熱した溶液の外観を観察した。
【0061】
その結果、-20℃で保持した溶液に色の変化は見られなかったが、5℃で保持した溶液は若干の褐変化が見られ、25℃で保持した溶液はやや黒色化し、37℃で保持した溶液は黒色化した。また、95℃で30分加熱した溶液は強く黒色化した。各溶液の色調を示す写真を
図1に示す。
【0062】
それぞれのラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳(UHT法(超高温殺菌法)で殺菌した牛乳;130℃、2秒殺菌)に0.0025%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後の溶液にストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus又はS. thermophilus)OLS3059株(受託番号FERM BP-10740)をスターターとして1%(vol/wt)(菌体濃度で1〜2×10
7cfu/mL)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、ラクトース−NaOH溶液の代わりに殺菌水を添加したUHT殺菌乳を用いた発酵も実施した。なお、S. thermophilus OLS3059株はMRS(Difco)を用いて37℃で16時間の培養により得た菌体を使用した。MRSでの培養後、遠心分離(8000 g × 5分)で菌体を回収し、0.8%の食塩水で菌体を懸濁して菌液(菌体濃度1〜2×10
9cfu/mL)をスターターとした。以降の実施例では、特に記載の無い限り、同じ方法で調製したS. thermophilusをスターターとして使用している。
【0063】
発酵液のpHを経時的に測定した。乳酸菌培養培地におけるpHの低下は、乳酸菌の発酵に伴う乳酸産生量の増加を意味し、乳酸菌の発酵の進行度の指標として用いられている。測定結果を
図2に示す。-20℃、5℃、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液を添加した場合は、対照と比較したpH低下は認められず、発酵促進効果は認められなかった。一方、37℃で保持したラクトース−NaOH溶液を添加した場合は、対照と比較してpHが大きく低下したことから、S. thermophilusによる発酵の促進が認められた。また、95℃で30分加熱したラクトース−NaOH溶液は、37℃で保持したラクトース−NaOH溶液よりも高い発酵促進効果を示した。
【0064】
また、上述の-20℃、5℃、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳に上記の5倍量である0.0125%(vol/wt)添加して、上記と同様の試験を実施した。その結果、-20℃で保持したラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示さなかった。しかし5℃、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示し、また、5℃で保持したラクトース−NaOH溶液と比べて、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液でより高い発酵促進効果が得られた(
図3)。
【0065】
以上の結果から、糖(ラクトース)をアルカリ溶液(NaOH溶液)に溶解させ、5℃以上の温度で保持又は加熱処理した溶液は、S. thermophilusの発酵を促進する作用を有することが示された。さらに、溶液の処理温度を高めることにより、その効果をさらに増強できることが示された。
【0066】
[実施例2]低濃度のNaOH溶液で調製した低濃度ラクトース溶液の効果
0.1%(wt/wt)のNaOH溶液にラクトースを溶解して0.1%(wt/wt)ラクトース溶液を調製した。この0.1%ラクトース溶液のサンプルを5℃で冷蔵保存した(非加熱ラクトース−NaOH溶液)が、着色は見られなかった。一方、調製した0.1%ラクトース溶液のサンプルを、95℃で30分加熱して、加熱ラクトース−NaOH溶液を調製したところ、得られた溶液はやや褐色化した。これらのラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳に1%又は10%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後にそのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種して、43℃で発酵を開始した。対照として、殺菌水をUHT殺菌乳に1%又は10%(vol/wt)添加し、43℃に加温し、加温後にS. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種し、43℃で発酵を開始した。
【0067】
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図4(添加率1%)及び
図5(添加率10%)に示す。ラクトース−NaOH溶液のいずれの添加率でも、非加熱ラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示さなかったが、加熱ラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示した。このことから、糖濃度で0.1%、アルカリ濃度で0.1%という低濃度で調製した糖−アルカリ溶液も、加熱により発酵促進効果を誘導できること、また少なくとも10%の添加率までは、問題なく発酵促進効果が得られることが示された。
【0068】
[実施例3]発酵促進効果と糖濃度及びNaOH濃度との相関
0%、0.8%、1.6%、8%、27%(wt/wt)のNaOH溶液にラクトースを溶解して25%(wt/wt)ラクトース溶液を調製した。なお27% NaOH溶液を使用した場合、ラクトースの溶解後に自然に発熱し、黒色化した。調製した25%ラクトース溶液を95℃で30分加熱処理した。得られた加熱ラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳に0.01%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−NaOH溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
【0069】
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図6に示す。ラクトースの溶解に使用するNaOH溶液の濃度を高めるほど、発酵促進効果も高まることが示された。なお、水(0% NaOH溶液)にラクトースを溶解したラクトース溶液では、加熱後も、発酵促進効果は得られなかった。8%及び27% NaOH溶液を用いて調製したラクトース溶液は、ほぼ同じレベルの発酵促進効果を示した。
【0070】
続いて、糖とアルカリ溶液の濃度が異なる3種のラクトース−NaOH溶液を調製して、さらなる試験を行った。まず、ラクトースを27%(wt/wt) NaOH溶液に溶解して25%(wt/wt)ラクトース溶液(NaOH最終濃度:20.3%)を調製した(以下、「25% Lac / 27% NaOH」と称する)。またラクトースを27%(wt/wt) NaOH溶液に溶解して50%(wt/wt)ラクトース溶液(NaOH最終濃度: 13.5%)を調製した(以下、「50% Lac / 27% NaOH」と称する)。さらにラクトースを40%(wt/wt) NaOH溶液に溶解して70%(wt/wt)ラクトース溶液(NaOH最終濃度: 12%)を調製した(以下、「70% Lac / 40% NaOH」と称する)。これらの全てのラクトース−NaOH溶液は、溶解後に自然に発熱し、黒色化した。
【0071】
これらラクトース−NaOH溶液を95℃で30分加熱し、UHT殺菌乳に0.00325%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−NaOH溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
【0072】
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図7に示す。ラクトース濃度及びラクトースの溶解に使用するNaOH溶液の濃度を高めるほど、発酵促進効果が高まることが示された。
【0073】
次に、95℃で30分加熱した「70% Lac / 40% NaOH」を、UHT殺菌乳に、0.0005%、0.00075%、0.001%、又は0.00125%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−NaOH溶液の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図8に示す。その結果、0.0005%の添加でも低レベルではあるが明らかな発酵促進効果が得られた。また70% Lac / 40% NaOHの添加率を高めるほど、発酵促進効果も高くなった。このことから、糖及びアルカリ溶液の濃度を上昇させ、さらに加熱温度を上昇させることにより、極めて低い添加率でも発酵を促進できる糖−アルカリ溶液を製造できることが明らかとなった。
【0074】
[実施例4]発酵促進効果へのアルカリ溶液の種類の影響
NaOH溶液に代わるアルカリ溶液としてKOH溶液を用いた。具体的には、10%(wt/wt) KOH溶液にラクトースを溶解して10%(wt/wt)ラクトース溶液を調製し、95℃で30分加熱した後、それをUHT殺菌乳に0.025%添加し、43℃に加温した。加温後、UHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−KOH溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
【0075】
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を
図9に示す。KOH溶液で調製したラクトース溶液(ラクトース−KOH溶液)もS. thermophilusの発酵を促進することが明らかとなった。
【0076】
[実施例5]発酵促進効果への糖の種類の影響
ラクトースの代わりに異なる種類の糖を使用して同様の試験を行った。単糖としてはグルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、ラムノース、キシロース、キシリトール、マンニトール、又はソルビトールを用いた。二糖としてはラクツロース、スクロース、又はトレハロースを用いた。オリゴ糖としてはガラクトオリゴ糖又はフラクトオリゴ糖、多糖としてはデキストリンを用いた。それぞれの糖を25%(wt/wt) NaOH溶液に12.5%(wt/wt)濃度で溶解して糖−NaOH溶液を調製し、95℃で30分加熱した。加熱後の糖−NaOH溶液の外観を観察した。加熱後、各糖溶液を個別にUHT殺菌乳に0.035%(vol/wt)添加し、UHT殺菌乳を43℃に加温してから、S. thermophilus 1131株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱した糖−NaOH溶液の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。
【0077】
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を
図10〜14に示す。単糖ではグルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、ラムノース、キシロース、二糖ではラクツロース、多糖ではガラクトオリゴ糖、デキストリンを用いた場合に、発酵促進効果が得られた(
図10、11、12)。
【0078】
加熱後の糖−NaOH溶液の色調を
図13及び14に示す。発酵促進効果が得られた単糖(還元糖)は、NaOH溶液で溶解した後に加熱することで黒色化したが、発酵促進効果が得られなかった単糖(非還元糖)は薄く褐変化するだけに留まるか、又は無色透明のままであった(
図13)。また、二糖、多糖でも同様の結果となった(
図14)。
【0079】
[実施例6]糖類含有食品素材を含むアルカリ溶液の発酵促進効果
糖の代わりに果汁を用いて同様に糖−アルカリ溶液の発酵促進効果について試験した。果汁はフルクトース等の糖類を多く含むことが知られている。果汁としては、グレープ(ブドウ)100%ジュース(セブンアンドアイ社;炭水化物量24.7g/200ml)、グレープフルーツ100%ジュース(ドール社;炭水化物量16.8g/200ml)、オレンジ100%ジュース(セブンアンドアイ社;炭水化物量20.7g/200ml)、アップル(リンゴ)100%ジュース(セブンアンドアイ社;炭水化物量22.1g/200ml)を用いた。比較群では、果汁を95℃で15分加熱した。試験群では、果汁にNaOHを10%(wt/wt)添加してから95℃で15分加熱した。
【0080】
加熱後のそれぞれの果汁を、UHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。さらに対照として、NaOHを添加して加熱した果汁の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図15〜18に示す。試験した全ての果汁について、NaOHを添加せずに加熱した果汁は発酵促進効果を示さなかったが、NaOHを添加してから加熱した果汁は、発酵促進効果を示した(
図15〜18)。
【0081】
なお、全ての果汁はNaOHを添加してから加熱することにより、黒色化した(
図19)。グレープ果汁は本来黒味を帯びているが、NaOH添加後の加熱処理によって明確に黒色化した。
【0082】
次に、糖の代わりに還元脱脂乳(SMP)を用いて同様に糖−アルカリ溶液の発酵促進効果について試験した。還元脱脂乳は脱脂粉乳(乾燥粉末)を水などに溶解して調製したものであり、ラクトースを含むことが知られている。
【0083】
還元脱脂乳(明治 脱脂粉乳)に、NaOHを5%(wt/wt)濃度で添加して10%還元脱脂乳を調製し、95℃で15分の加熱処理を実施した。NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳をUHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、UHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。比較のため、NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳の代わりにNaOHを添加せずに加熱した還元脱脂乳を用いて、同様の試験を実施した。さらに対照として、NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。
【0084】
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を
図20に示す。NaOHを添加せずに加熱した還元脱脂乳は発酵促進効果を示さなかったが、NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳は、発酵促進効果を示した。また、NaOHを添加した還元脱脂乳は、加熱により、沈殿等を生じることなく黒色化した(
図19)。
【0085】
以上の結果から、果汁や還元脱脂乳などの、フルクトースやラクトース等の糖類を含有する食品素材をアルカリ溶液に溶解して加熱することによって調製される組成物も、S. thermophilusの発酵を促進できることが明らかとなった。
【0086】
[実施例7]各種ストレプトコッカス・サーモフィルス株に対する糖−アルカリ溶液の発酵促進効果
実施例3に従って、「50% Lac / 25% NaOH」を調製し、95℃で30分加熱した。得られた溶液をUHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳に、S. thermophilusを接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱した「50% Lac / 25% NaOH」を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
【0087】
S. thermophilusとしては、S. thermophilus OLS3059株(受託番号FERM BP-10740)、S. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)、S. thermophilus OLS3289株(受託番号ATCC 19258)、S. thermophilus OLS3469株(受託番号IFO 13957 / NBRC 13957)、S. thermophilus OLS3058株、及びS. thermophilus OLS3290株(受託番号FERM BP-19638)の6株を個別に用いた。
【0088】
なお、S. thermophilus 6株の調製は、実施例1に記載したS. thermophilus OLS3059株の調製法に準じて行った。また同等の菌数が添加されるように、OLS3059株とOLS3294 株は1%(vol/wt)、OLS3289株、OLS3469株、OLS3058株は1.5%(vol/wt)、OLS3290株は3%(vol/wt)の量でUHT殺菌乳に接種した。
【0089】
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を
図21〜26に示す。試験した全てのS. thermophilus株に対して発酵促進効果が認められた。このことから、本発明に係る糖−アルカリ溶液は、各種S. thermophilus 株に対して発酵促進効果を発揮することが示された。
【0090】
[実施例8]S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵における糖−アルカリ溶液の発酵促進効果
本実施例では、ヨーグルトの製造に用いられる菌種ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus)とラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus又はLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus; L. bulgaricus)を用いた混合培養(共培養)における、S. thermophilusに対する糖−アルカリ溶液の発酵促進効果を試験した。
【0091】
実施例3に従って、「50% Lac / 25% NaOH」を調製し、95℃で30分加熱した。得られた糖−アルカリ加熱溶液をUHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)、L. bulgaricus OLL1073R-1株(受託番号FERM BP-10741)を0.2%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、糖−アルカリ加熱溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いた発酵も実施した。なお、L. bulgaricus OLL1073R-1株の調製は、実施例1に記載したS. thermophilus OLS3059株の調製法に準じて行った。
【0092】
発酵液の酸度を経時的に測定した。具体的には、発酵液9gにフェノールフタレインを0.5 mL添加した後、0.1 N NaOHを発酵液が薄く赤色に呈色するまで添加することにより中和滴定を行い、要した0.1 N NaOHの全量が乳酸量に相当するものとみなして発酵液中の乳酸濃度(%)を算出し、それを酸度とした。結果を
図27に示す。糖−アルカリ加熱溶液の添加により、対照と比較して酸度が大きく上昇したことから、発酵が促進されたことが示された。
【0093】
また、発酵液中のL-乳酸濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。用いたHPLC測定条件を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
糖−アルカリ加熱溶液の添加により、L-乳酸の産生が促進されたことが示された(
図28)。S. thermophilusはL-乳酸、L. bulgaricusはD-乳酸を産生することが知られている(微生物, Vol.6, No.1, p2-3 (1990);モダンメディア, Vol.57, No.10, p277-287 (2011))。したがってL-乳酸の産生が促進されたという結果は、S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵(混合培養)においても、S. thermophilusによる発酵が促進されたことを意味する。
このことから、本発明の糖−アルカリ溶液は、ヨーグルトの生産においても発酵促進のために利用できることが示された。
【0096】
[実施例9]糖−アルカリ溶液のヨーグルト発酵における風味への影響
実施例3に従って、「50% Lac / 25% NaOH」を調製し、95℃で30分加熱した。この糖−アルカリ加熱溶液を用いて、表2の配合比に従ってヨーグルトを調製した。まず酵母エキス及び糖−アルカリ加熱溶液以外の成分(表2)を混合してヨーグルトベースを調製し、95℃で殺菌し、40〜45℃に冷却した後、そこに糖−アルカリ加熱溶液を添加した(糖−アルカリ溶液群)。風味の比較のため、発酵促進剤として糖−アルカリ加熱溶液の代わりに酵母エキスを添加した試験群(酵母エキス群)、糖−アルカリ加熱溶液も酵母エキスも添加しない対照群も用意した(表2)。これらはスターター接種前に90℃で殺菌した。
【0097】
【表2】
【0098】
L. bulgaricus OLL1255株(受託番号NITE BP-76)(菌体濃度1×10
9cfu/mL)とS. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)(菌体濃度3×10
9cfu/mL)を混合して高濃度に培養し、凍結保存したスターターを用意した。このスターターを、酵母エキス群と糖−アルカリ溶液群には0.05%(vol/wt)、対照群には0.15%(vol/wt)接種した。スターター接種後、43℃で酸度が0.75%になるまで発酵させ、その後、5℃で冷却し、ヨーグルトを調製した。
【0099】
調製したヨーグルトの風味の評価を、ヨーグルトの官能に長けた5人のパネラーで実施した。ヨーグルトについて、カードの物性、酸味、甘味、雑味の各評価項目を5段階評価で評点を付け、各評価項目の対照群の平均評点を1とした場合の酵母エキス群と糖−アルカリ溶液群の平均評点の相対値を算出した。カード物性の評価は「滑らかさ」と「硬さ」を考慮して評価した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3に示されるように、これらのヨーグルトに関して、物性、酸味、甘味では差はほとんど見られなかった。雑味は、酵母エキス群のヨーグルトが明らかに劣っており、一方、糖−アルカリ溶液群のヨーグルトでは対照群との差はなかった。雑味に関する評価内訳を見ても、酵母エキスを添加して調製したヨーグルトでは明らかに雑味を感じたパネラーが3人いたが、糖−アルカリ加熱溶液を添加して調製したヨーグルトでは、酵母エキスも糖−アルカリ加熱溶液も添加せずに調製したヨーグルト(対照)と同様に、雑味を感じたパネラーは1人もいなかった。このようにヨーグルトの風味にほとんど影響を与えない点で、糖−アルカリ加熱溶液は、酵母エキスよりも優れていた。
【0102】
なお、糖−アルカリ加熱溶液又は酵母エキスを添加した場合のヨーグルトの発酵では、対照の1/3量しかスターターを接種しなかったにもかかわらず、対照よりも発酵終了までの時間が2時間以上も短縮された。このことは、糖−アルカリ加熱溶液がヨーグルト生産のための発酵も顕著に促進することを示している。