【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明に係るアクリル系エマルジョン粘着剤は、アクリル系単量体混合物の全重量を基準として、1〜10重量%のアクリル系単量体混合物が無乳化重合されたシード(seed)、及び90〜99重量%のアクリル系単量体混合物が乳化重合されたアクリル系エマルジョン樹脂を含んでおり、前記シードは、アクリル系エマルジョン樹脂によって包まれていることを特徴とする。
【0017】
本明細書で使用された用語、“単量体混合物”は、アクリル系単量体をベースとして、以下で説明する単量体が共に混合された状態で投入されて製造されてもよく、前記単量体が順次投入されて製造されてもよいなどの多様性を含む。
【0018】
前記“無乳化重合”は、界面活性剤を使用せず、親水性開始剤で水相で重合するものであって、懸濁重合と呼ぶこともできる。
【0019】
前記単量体混合物は、一部が前記シードを製造するために使用され、残りの単量体は、以降、シード上に形成されるアクリル系エマルジョン樹脂を製造するのに使用される。このとき、前記シードを製造するためには、前記で言及したように、アクリル系単量体混合物の全重量を基準として1〜10重量%のアクリル系単量体混合物が使用されてもよく、詳細には、1〜5重量%のアクリル系単量体混合物が使用されてもよい。
【0020】
前記範囲を外れ、1重量%未満のアクリル系単量体混合物のみを使用してシードを無乳化重合する場合、シードを別途に製造することによる所望の効果を得ることができないため、最終粒子が過度に大きくなってしまい、安定性が不足するため、凝集物が多く発生するという問題があり、10重量%を超えて使用する場合には、シードの製造時に安定性が悪くなり、凝集物が多く発生すると同時に、最終粒子のサイズがむしろ小さくなるため、洗浄性が低下するという問題がある。
【0021】
このようにアクリル系単量体混合物が無乳化重合されたシードは、その粒子サイズが、詳細には100〜300nmであってもよく、より詳細には150〜200nmであってもよい。
【0022】
前記範囲を外れ、シードの粒子が100nm未満である場合、シードを製造することによる効果を得ることができないため、その最終粒子が過度に小さいか、または粒子の分布が広くなるという問題があり、300nmを超える場合には、安定性に問題があるため、凝集物が多く発生する問題があるため、好ましくない。
【0023】
本出願の発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、前記のような条件を満足するように製造されたアクリル系エマルジョン粘着剤は、その粒子のサイズ及び分布が、所望の水準の粘着性及び洗浄性を同時に有することができるように適宜調節され得ることを確認した。
【0024】
具体的に、このように製造されたアクリル系エマルジョン粘着剤の粒子サイズは、詳細には、300〜800nmであってもよく、より詳細には、400〜600nmであってもよい。前記アクリル系エマルジョン粘着剤の粒子分布は、前記アクリル系エマルジョン粘着剤の95%以上の粒子が平均粒子サイズの±10%の粒子分布を有することができ、より詳細には、95%以上の粒子が平均粒子サイズの±5%の粒子分布を有することができる。
【0025】
また、粒子分布に対して、他の要素として、前記アクリル系エマルジョン粘着剤の粒子は、変動係数が0.01〜0.1であってもよい。ここで、前記変動係数は、標準偏差を平均粒径(D50)で割った値を意味する。
【0026】
前記範囲を外れ、アクリル系エマルジョン粘着剤の粒子サイズが300nm未満であるか、又は粒子の分布が過度に広い場合には、洗浄性が低下し、粒子サイズが800nmを超える場合には、最終粒子の安定性が不足して凝集物が多く発生する問題があるため、好ましくない。
【0027】
一方、前記シードに含まれるアクリル系単量体混合物の重量%及びシードの粒子サイズに応じて最終物質の物性が変わることと同様に、このような前記アクリル系単量体混合物に含まれる単量体の種類及び含量もまた基本的に粘着剤の物性を左右するところ、前記のように、シードを含むアクリル系エマルジョン粘着剤でも同様に、既存のアクリル系粘着剤の利点が最大限効果的に発揮され得るように、これを調節することが重要である。したがって、以下、本発明に係るアクリル系単量体混合物について詳細に説明する。
【0028】
前記アクリル系単量体混合物は、具体的に、i)炭素数1〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体、ii)アリルエステル、ビニルエステル、不飽和アセテート及び不飽和ニトリルからなる群から選択される1種以上の単量体、iii)不飽和カルボン酸及び水酸基含有不飽和単量体からなる群から選択される1種以上の単量体、及びiv)架橋剤を含むことができる。
【0029】
より具体的に、前記アクリル系単量体混合物は、アクリル系単量体混合物の全重量を基準として、i)炭素数1〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体60〜90重量%、ii)アリルエステル、ビニルエステル、不飽和アセテート及び不飽和ニトリルからなる群から選択される1種以上の単量体5〜35重量%、iii)不飽和カルボン酸及び水酸基含有不飽和単量体からなる群から選択される1種以上の単量体0.5〜5重量%、及びiv)架橋剤0.1〜3重量%を含むことができる。
【0030】
一具体例において、前記i)の単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、及びラウリル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上であってもよく、詳細には、(メタ)アクリル酸エステル単量体の全重量を基準として、2−エチルヘキシルアクリレート60〜80重量%及びブチルアクリレート20〜40重量%の混合物であってもよい。
【0031】
前記i)の単量体は、アクリル系単量体混合物の全重量を基準として60〜90重量%含まれてもよく、60重量%未満含まれる場合には、初期粘着力を確保することができず、90重量%を超えて含まれる場合には、使用後、除去時に被着物に対する粘着剤の転写が大きく発生し、洗浄性が低下するため、好ましくない。
【0032】
また、前記i)のアルキル基の炭素数は、詳細には、1〜14個であってもよく、より詳細には、2〜14個であってもよく、1個未満である場合には、粘着剤の凝集力が低下し、14個を超える場合には、柔軟になりすぎて粘着物性が低下するため、好ましくない。
【0033】
一具体例において、前記ii)の単量体は、酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる群から選択される1つ以上であってもよく、詳細には、酢酸ビニル、ブタン酸ビニルまたはアクリロニトリルであってもよい。
【0034】
前記ii)の単量体は、アクリル系単量体混合物の全重量を基準として5〜35重量%含まれてもよく、詳細には7〜25重量%含まれてもよく、5重量%未満含まれる場合には、粘着剤が柔軟になりすぎて十分な粘着物性を確保することができず、35重量%を超えて含まれる場合には、硬くなりすぎて著しい粘着力の低下が発生するため、好ましくない。
【0035】
一具体例において、前記iii)の単量体は、アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上であってもよい。
【0036】
前記iii)の単量体は、アクリル系単量体混合物の全重量を基準として0.5〜5重量%含まれてもよく、0.5重量%未満含まれる場合には、粘着剤が柔軟になりすぎて十分な粘着物性を確保することができず、5重量%を超えて含まれる場合には、硬くなりすぎて著しい粘着力の低下が発生するため、好ましくない。
【0037】
前記iv)の架橋剤は、凝集力を補強するために添加されるものであって、一具体例において、アルキレンオキシド基を5〜15個含み、アクリレート基又はビニル基を有する化合物であってもよく、詳細には、アルキレンオキシド基を6〜12個含み、アクリレート基又はビニル基を有する化合物であってもよく、前記範囲内で、常温及び老化粘着性、安定性がいずれも優れるという効果がある。
【0038】
参考に、前記アルキレンオキシド基の個数は、使用された架橋剤内に含まれたアルキレンオキシド基の平均数を意味し、架橋剤内にアルキレンオキシド基が5個未満である場合、製造される粘着剤が必要以上に硬くなって初期粘着力が低下し、アルキレンオキシド基が15個を超える場合には、必要以上に柔軟になって粘着物性が低下するため、好ましくない。
【0039】
一具体例において、前記架橋剤は、有機架橋剤であるポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチルプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、ビニルトリメトキシシラン及びジビニルベンゼンなどと、無機架橋剤であるアルミニウムアセチルアセトネート、酢酸亜鉛、炭酸ジルコニウムなどからなる群から選択された1種以上であってもよく、詳細には、ポリエチレングリコールジアクリレート及びポリプロピレングリコールジアクリレートからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0040】
本発明はまた、前記アクリル系エマルジョン粘着剤の製造方法を開示する。
【0041】
前記アクリル系エマルジョン粘着剤の製造方法は、
【0042】
(A)i)炭素数1〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体60〜90重量%、ii)アリルエステル、ビニルエステル、不飽和アセテート及び不飽和ニトリルからなる群から選択される1種以上の単量体5〜35重量%、iii)不飽和カルボン酸及び水酸基含有不飽和単量体からなる群から選択される1種以上の単量体0.5〜5重量%、及びiv)架橋剤0.1〜3重量%を混合してアクリル系単量体混合物を製造する過程;
【0043】
(B)前記アクリル系単量体混合物の全重量を基準として1〜10重量%のアクリル系単量体混合物を反応器に投入し、開始剤を添加して無乳化重合させることによってシードを製造する過程;
【0044】
(C)別途に、前記アクリル系単量体混合物の全重量を基準として90〜99重量%のアクリル系単量体混合物を含むプレエマルジョン溶液を製造する過程;及び
【0045】
(D)前記シードが製造された反応器に前記プレエマルジョン溶液及び開始剤を添加した後、乳化重合してアクリル系エマルジョン粘着剤を製造する過程;
【0046】
を含む。
【0047】
本明細書で使用された用語、“プレエマルジョン溶液”は、アクリル系単量体混合物以外に、水、電解質及び界面活性剤などをさらに含むことができる。
【0048】
前記シードをベースとした乳化重合によるアクリル系エマルジョン粘着剤の製造方法をより具体的に説明すると、
【0049】
詳細には、水を反応器に投入し、80℃に昇温させて酸素を除去する第1過程;これとは別途に、i)炭素数1〜14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体60〜90重量%、ii)アリルエステル、ビニルエステル、不飽和アセテート及び不飽和ニトリルからなる群から選択される1種以上の単量体5〜35重量%、iii)不飽和カルボン酸及び水酸基含有不飽和単量体からなる群から選択される1種以上の単量体0.5〜5重量%、及び架橋剤0.1〜3重量%を配合した単量体混合物を製造する第2過程;前記単量体混合物の全重量を基準として1〜10重量%のアクリル系単量体混合物を反応器に投入し、攪拌した後、開始剤を投入してシードを製造する第3過程;これとは別途に、前記単量体混合物の全重量を基準として90〜99重量%のアクリル系単量体混合物に水、電解質及び界面活性剤を投入してプレエマルジョン溶液を製造する第4過程;前記第3過程のシードが製造された反応器に第4過程のプレエマルジョン溶液及び開始剤を連続投入し、80℃に昇温後、常温に冷却させてアクリル系エマルジョン粘着剤を製造する第5過程;及び前記アクリル系エマルジョン粘着剤のpHを6〜9に調節する第6過程;で構成されてもよい。
【0050】
ここで、第3過程のように、別途の界面活性剤を使用せずに重合する過程を無乳化重合といい、第4過程及び第5過程のように、界面活性剤を溶液に含ませて重合する過程を乳化重合という。
【0051】
すなわち、本発明に係るアクリル系エマルジョン粘着剤の前記シードは、界面活性剤を使用しない無乳化重合、すなわち、懸濁重合によって製造され、このようなシードをベースとして、アクリル系エマルジョン粘着剤が乳化重合によって製造され得る。
【0052】
このように製造された前記シードの粒子サイズは、上述したように、100〜300nmであってもよい。
【0053】
一方、一具体例において、前記開始剤は、水溶性開始剤であって、アンモニウム又はアルカリ金属の過硫酸塩、過酸化水素、ペルオキシド、ヒドロペルオキシドなどの水溶性重合開始剤であってもよく、低温下で乳化重合反応を行うために、還元剤1種以上と共に使用することもできる。前記還元剤は、ナトリウムバイサルファイト、ナトリウムメタバイサルファイト、ナトリウムハイドロサルファイト、ナトリウムチオサルフェート、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸などであってもよい。
【0054】
前記無乳化重合反応の温度は、詳細には50〜100℃であってもよく、より詳細には70〜90℃であってもよく、前記乳化重合反応の温度は、詳細には0〜100℃であってもよく、より詳細には40〜90℃であってもよい。前記重合反応の温度は、前記開始剤の単独使用、又は前記開始剤と前記還元剤のうち1種以上を混合して使用する方法などで調節することができる。
【0055】
前記重合反応に使用される電解質は、pHを調節し、重合されるアクリル系エマルジョン粘着剤に安定性を付与するもので、具体的には、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化ナトリウムなどからなる群から選択される1種以上であってもよく、詳細には炭酸ナトリウムであってもよく、前記乳化重合に使用されるアクリル系単量体混合物100重量部を基準として0.1〜2重量部含まれてもよく、詳細には0.3〜1重量部含まれてもよい。
【0056】
前記界面活性剤は、前記乳化重合時に生成された粒子のサイズ調節及び粒子の安定性などのために用いられ、親水性基と親油性基で構成されており、アニオン、カチオン及び非イオン界面活性剤などに分けられる。主にアニオン及び非イオン界面活性剤を用い、機械的安定性及び化学的安定性などを補完するために互いに混ぜて使用することもある。
【0057】
前記アニオン界面活性剤は、ナトリウムアルキルジフェニルオキシドジスルホネート、ナトリウムポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ナトリウムポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェート、ナトリウムジアルキルスルホサクシネートなどであってもよく、前記非イオン界面活性剤は、ポリエチレンオキシドアルキルアリールエーテル、ポリエチレンオキシドアルキルアミン、ポリエチレンオキシドアルキルエステルなどであってもよく、これらは、単独或いは2種以上混合して使用することができ、アニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤を混合して使用する場合よりも効果的である。
【0058】
前記アクリル系エマルジョン粘着剤は、アルカリ性物質で酸度(pH)を調整することができ、アクリル系エマルジョン樹脂のpHは、詳細には6〜9であってもよく、より詳細には7〜8であってもよく、前記アルカリ性物質は、1価金属又は2価金属の水酸化物、塩化物、炭酸塩などの無機物、アンモニアまたは有機アミンなどであってもよい。
【0059】
さらに、本発明に係るアクリル系エマルジョン粘着剤は、シリコン離型紙の表面にコーティングするときに発生するアクリル系エマルジョン粘着剤の収縮現象を防止するために、増粘剤及び湿潤剤(wetting agent)をさらに含むことができる。
【0060】
前記増粘剤は、CMC(Carboxyl Methyl Cellulose)、アクリルゾル、ポリビニルアルコール、スターチ、アルジネート、デキストリンなどであってもよく、詳細には、ポリビニルアルコールであってもよい。
【0061】
前記湿潤剤(wetting agent)は、親水性の粘着剤を疎水性に変化させて、疎水性のシリコーン離型紙の表面に粘着剤が良好に密着するようにするもので、通常、界面活性剤混合物であり、グリコール又はアルコールがさらに含まれてもよい。
【0062】
本発明はまた、アクリル系エマルジョン粘着剤を粘着用フィルム又はシート上に適用して粘着剤層を形成する粘着シートを提供する。
【0063】
前記粘着シートは、製品の商標、広告はもちろん、印刷、化学、医薬品、家電製品、自動車、文具用ラベルなどに使用される粘着用フィルムやシートであってもよく、前記粘着剤層は、厚さが10〜100μm、詳細には20〜30μmであってもよく、コーティング性に優れ、十分な粘着物性を有する。