特許第6397180号(P6397180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397180繊維強化樹脂組成物、および繊維強化成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397180
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物、および繊維強化成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20180913BHJP
   C08L 77/02 20060101ALI20180913BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   C08J5/04CFG
   C08L77/02
   C08K7/02
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-236012(P2013-236012)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93980(P2015-93980A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】島本 太介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】今井 祐介
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266586(JP,A)
【文献】 特開平08−283456(JP,A)
【文献】 特開2013−040220(JP,A)
【文献】 特開2010−116518(JP,A)
【文献】 特開2013−032451(JP,A)
【文献】 特開2011−084716(JP,A)
【文献】 特開2005−298552(JP,A)
【文献】 特開2013−001818(JP,A)
【文献】 特開2002−146187(JP,A)
【文献】 特開2001−247768(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/050083(WO,A1)
【文献】 特開2013−075996(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051707(WO,A1)
【文献】 特開2010−195848(JP,A)
【文献】 特表2013−532219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/00−5/24
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂であるポリアミド6と、熱伝導性フィラーである窒化ホウ素と、繊維強化フィラーである炭素繊維と、からなり、
前記熱可塑性樹脂よりも熱伝導率が0.2W/m・K以上0.41W/m・K以下高い繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂組成物を成形した繊維強化成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂組成物、および繊維強化成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維等を用いた繊維強化複合樹脂材料は、高強度・高剛性の構造材として従来から研究開発がなされてきた。例えば炭素繊維強化樹脂複合材料は、軽量であり機械的特性に優れた繊維強化成形体を作製可能なことから、輸送機器用構造材として期待されている。
【0003】
繊維強化複合樹脂材料の樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合、熱可塑性樹脂は加熱することで成形が可能なため、特に自動車用の構造材料として導入が検討されている。
【0004】
上述のように熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合樹脂材料は加熱して成形が行えるが、樹脂の劣化は加熱温度が高いほど急速に進行するため、高温下で熱可塑性繊維強化樹脂組成物を扱う場合における熱劣化(樹脂劣化)の抑制が求められていた。
【0005】
例えば特許文献1では、樹脂を黒く着色したり導電性を付与したりするために添加されるカーボンブラックとして、一次粒子径が30〜300nmかつDBP吸収量が25〜150cm/100gのカーボンブラックを用いることにより、カーボンブラック含有繊維強化樹脂組成物の熱劣化を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−82810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された熱劣化抑制方法は、カーボンブラックを含有する樹脂の場合に限定されており、熱劣化を抑制した繊維強化複合樹脂材料となる繊維強化樹脂組成物を提供するものではなかった。
【0008】
上記従来技術の問題に鑑み本発明は、熱劣化を抑制した繊維強化樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱可塑性樹脂であるポリアミド6と、熱伝導性フィラーである窒化ホウ素と、繊維強化フィラーである炭素繊維と、からなり、前記熱可塑性樹脂よりも熱伝導率が0.2W/m・K以上0.41W/m・K以下高い繊維強化樹脂組成物を提供する。


【発明の効果】
【0010】
本発明は、熱劣化を抑制した繊維強化樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0012】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物の構成例について以下に説明する。
【0013】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、熱伝導性フィラーと、繊維強化フィラーと、を含有することができる。
【0014】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物(熱劣化抑制繊維強化熱可塑性樹脂組成物)に含まれる各成分について以下に説明する。
【0015】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の種類は、例えば本実施形態の繊維強化樹脂組成物の用途等に応じて任意に選択することができ、特に限定されるものではない。
【0016】
熱可塑性樹脂としては例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン、アクリロニトリル共重合体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、変性アクリル、酢酸セルローズ、ポリカーボネイト、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリウレタン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、フッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0017】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は1種類に限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0018】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物に含まれる熱伝導性フィラーとしては、特に限定されるものではないが、繊維強化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂よりも熱伝導率が高い熱伝導性フィラーを好ましく用いることができる。
【0019】
熱伝導性フィラーとしては例えば、各種セラミックス材料や、炭素系材料を好ましく用いることができる。具体的には、例えばセラミックス材料としては、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、立方晶窒化ホウ素、六方晶窒化ホウ素、サファイア、アルミナ、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、イットリア、ムライト、フォルステライト、コージライト、ジルコニア、ステアタイト、サイアロン等を挙げることができる。また、炭素系材料としては例えば、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン等を用いることができる。熱伝導性フィラーについては1種類に限定されず、2種類以上の熱伝導性フィラーを混合して用いることができる。
【0020】
なお、繊維強化樹脂組成物に含まれる熱伝導性フィラーは、構造欠陥が少ないことが好ましい。これは、熱はフォノンにより伝導されるが、熱伝導性フィラーの結晶構造中に構造欠陥が含まれているとフォノンが散乱し熱伝導率が低下し、好ましくないためである。
【0021】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物は、後述のように例えば熱可塑性樹脂と、熱伝導性フィラーと、繊維強化フィラーとを溶融混練することにより製造することができるが、溶融混練を行う際に熱伝導性フィラーに構造欠陥が生じる場合がある。このため、溶融混練を行う前後で、構造欠陥を含む程度が大きく変化していないことが好ましい。
【0022】
熱伝導性フィラーの形状についても特に限定されるものではない。例えば、板状、針状、繊維状、不定形等の各種形状の熱伝導性フィラーを用いることができる。
【0023】
熱伝導性フィラーは、熱可塑性樹脂中に十分に分散できるよう平均粒子径は50μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。ただし、平均粒子径が小さすぎると、繊維強化樹脂組成物を製造する際等の操作が難しくなることから、平均粒子径は0.005μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましい。
【0024】
なお、ここでの平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0025】
熱伝導性フィラーの添加量についても特に限定されるものではなく、繊維強化樹脂組成物に要求される熱伝導率等に応じて任意の量を添加することができる。ただし、多量に添加すると繊維強化樹脂組成物の流動性や成形性を損なう場合があるため、熱伝導性フィラーの添加量は繊維強化樹脂組成物中30vol%以下とすることが好ましく、20vol%以下とすることがより好ましい。なお、熱伝導性フィラーの添加量の下限値は特に限定されるものではないが、例えば、繊維強化樹脂組成物中0.05vol%以上添加することが好ましく、1vol%以上添加することがより好ましい。
【0026】
繊維強化フィラーは、繊維形状を有するフィラーであればよく、特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ホウ素繊維、炭化タングステン繊維等の連続および不連続強化繊維が挙げられる。繊維強化フィラーに関しても、1種類のみを添加してもよいが、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
繊維強化フィラーは上述のように繊維形状を有するフィラーであればよく、サイズ等については特に限定されるものではない。不連続繊維強化フィラーは例えば数平均繊維長が20μm以上40mm以下であることが好ましく、30μm以上30mm以下であることがより好ましい。また、連続および不連続繊維強化フィラーは、数平均繊維径が1μm以上30μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがより好ましい。なお、ここで説明した数平均繊維長、数平均繊維径は、熱可塑性樹脂等と溶融混練する前の原料の状態で充足していれば良いが、繊維強化樹脂組成物に含まれている状態、すなわち、例えば原料を溶融混練した後も充足していることが好ましい。
【0028】
また、繊維強化フィラーの添加量は特に限定されるものではなく、繊維強化樹脂組成物やその繊維強化成形体に要求される強度等に応じて任意に選択できる。ただし、繊維強化フィラーの添加量が多すぎると繊維強化樹脂組成物の流動性が低下するため、例えば60vol%以下であることが好ましく、50vol%以下であることがより好ましい。添加量の下限値は上述のように要求される強度等により選択することができるが、例えば0.1vol%以上とすることが好ましく、0.5vol%以上とすることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物は、上述の各成分を含んでいればよく、具体的な製造方法は特に限定されるものではないが、後述のように例えば上記各成分を、混練機を用いて溶融混練することにより製造することができる。また、熱可塑性樹脂と熱伝導性フィラーを混練機で溶融混練した後、得られた熱可塑性樹脂と熱伝導性フィラーを含む樹脂を、含浸機を用いて繊維強化フィラーに含浸することでも製造することができる。
【0030】
そして、上述の繊維強化樹脂組成物は、熱可塑性樹脂よりも熱伝導率が0.2W/m・K以上高いことが好ましく、0.3W/m・K以上高いことがより好ましく、0.35W/m・K以上高いことがさらに好ましい。これは、繊維強化樹脂組成物の熱伝導率と、熱伝導性フィラー等を含まない熱可塑性樹脂の熱伝導率と比較した場合に、繊維強化樹脂組成物の熱伝導率の向上の程度が0.2W/m・Kに満たない場合、熱伝導性フィラーの添加効果が十分ではない場合があるためである。
【0031】
また、繊維強化樹脂組成物の熱伝導率は高い方がより好ましいことから、熱可塑性樹脂からの熱伝導率の向上の程度の上限は特に限定されるものではない。ただし、繊維強化樹脂組成物の熱伝導率を向上させるためには熱伝導性フィラーの添加量を増加させる必要がある。このため、繊維強化樹脂組成物の熱伝導率の向上に伴い熱伝導性フィラーの添加量が増加し、既述のよう繊維強化樹脂組成物のハンドリング性が悪化する恐れがあり、強度低下の恐れもある。そこで、繊維強化樹脂組成物の、熱可塑性樹脂からの熱伝導率の向上の程度、すなわち、繊維強化樹脂組成物と熱可塑性樹脂の熱伝導率の差は15W/m・K以下であることが好ましく、10W/m・K以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物は、用途に応じて任意の形状とすることができる。すなわち、繊維強化樹脂組成物を成形した繊維強化成形体とすることができる。
【0033】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物の用途については特に限定されるものではなく、各種用途に用いることができる。例えば、自動車、航空機などの輸送機器用構造材料、宇宙開発材料、風力発電用ブレードなどの発電用構造材料、建築構造材料、スポーツ機材、医療機器、モバイル機器の筐体材料等に好ましく用いることができる。そして、各用途においては、所望の形状に成形した繊維強化成形体を好ましく用いることができる。すなわち、本実施形態の繊維強化樹脂組成物の繊維強化成形体は、例えば輸送機器用の構造部材、風力発電用ブレード、建築用の構造部材、スポーツ機材の筐体、医療機器の筐体、モバイル機器の筐体等とすることができる。
【0034】
以上に説明した本実施形態の繊維強化樹脂組成物、繊維強化成形体においては、熱可塑性樹脂と熱伝導性フィラーを含むマトリックスに用いることで、繊維強化フィラーからマトリックスおよびマトリックスから繊維強化フィラーへ熱が伝搬し易くなる。その結果、繊維強化フィラー/樹脂界面に熱が籠もることなく繊維強化樹脂組成物全体へ熱が拡散することができ、例えば熱可塑性樹脂単体、または、熱可塑性樹脂に熱伝導性フィラー及び繊維強化フィラーのいずれか一方のみを添加した場合と比較して、樹脂の熱劣化を抑制できる。特に、例えば繊維強化樹脂組成物がマイクロ波加熱のように高速に加熱された場合であっても上述のように熱を拡散し易くなっていることから、樹脂の熱劣化を抑制できる。
【0035】
また、本実施形態の繊維強化樹脂組成物、繊維強化樹脂成形体においては、熱可塑性樹脂よりも熱伝導率を高くすることもできる。
【0036】
次に本実施形態の繊維強化樹脂組成物の製造方法の構成例について説明する。
【0037】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂と、熱伝導性フィラーと、繊維強化フィラーと、を混練機で溶融混練して繊維強化樹脂組成物を形成する溶融混練工程を有することができる。
【0038】
ここでの繊維強化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂等の各成分等については既述のためここでは説明を省略する
溶融混練工程においては、上述のように、繊維強化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂、熱伝導性フィラー、繊維強化フィラーの各成分を混練機で溶融混練することにより、繊維強化樹脂組成物を作製できる。混練機で各原料を溶融混練する際に加熱する手段は特に限定されるものではなく、例えばヒータ等の抵抗加熱体を用いた加熱手段等を用いることができる。
【0039】
加熱の温度は、熱可塑性樹脂の種類等により任意に選択することができるため特に限定されるものではなく、任意に選択でき、原料を十分に混練できる流動性となるように温度を選択することが好ましい。例えば熱可塑性樹脂の融点より5℃以上10℃以下高温に加熱することが好ましい。
【0040】
次に繊維強化成形体の製造方法について説明する。
【0041】
繊維強化成形体の製造方法は、上記繊維強化樹脂組成物の製造方法により得られた繊維強化樹脂組成物を成形する成形工程を有することができる。
【0042】
成形工程において繊維強化樹脂組成物を成形する方法は特に限定されるものではないが、例えば、加熱プレス機、射出機、含浸機等を用いることにより実施することができる。
【0043】
なお、成形を行う際、樹脂組成物の流動性を高めるため樹脂組成物を加熱することができる。加熱の手段としては、各成形手段に応じて任意に選択することができるが、例えばヒータ等の抵抗加熱体を用いた加熱手段等を用いることができる。
【0044】
成形工程において成形する形状についても特に限定されるものではなく、用途に応じて任意の形状に成形することができる。
【0045】
本実施形態の繊維強化樹脂組成物またはその繊維強化成形体は既述のように、自動車、航空機などの輸送機器用構造材料、宇宙開発材料、風力発電用ブレードなどの発電用構造材料、建築構造材料、スポーツ機材、医療機器、モバイル機器の筐体材料等に好ましく用いることができる。このため、例えばこれらの各用途において所望の形状に成形した繊維強化成形体とすることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
熱可塑性樹脂、熱伝導性フィラー、繊維強化フィラーを用いて繊維強化樹脂組成物を製造した。
【0047】
この際、熱可塑性樹脂としてポリアミド6(東レ株式会社製)を用いた。なお、ポリアミド6の融点は225℃である。
【0048】
熱伝導性フィラーとして数平均粒径7μmの板状構造である六方晶窒化ホウ素(昭和電工株式会社製 型番:UHP−10)を用いた。
【0049】
繊維強化フィラーとして不連続繊維強化フィラーを含有しており、不連続繊維強化フィラーの数平均繊維長が150μm、不連続繊維強化フィラーの数平均繊維径が7μmの炭素繊維(東レ株式会社製 型番:MLD−1000)を用いた。
【0050】
繊維強化樹脂組成物を製造する際の具体的な手順としてまず、熱伝導性フィラーである六方晶窒化ホウ素を10体積%、繊維強化フィラーである炭素繊維を10体積%、残部が熱可塑性樹脂であるポリアミド6となるように各原料を秤量して準備した。
【0051】
そして、スクリュー回転数15rpmの230℃に加熱した混練機に上記秤量した原料を投入し溶融混練することにより複合化して繊維強化樹脂組成物を得た。
【0052】
係る繊維強化樹脂組成物の一部について、熱伝導性フィラーを取り出し構造欠陥の評価を行った。
【0053】
また、得られた繊維強化樹脂組成物について直径10mm、厚さ1mmとなるように金型に入れて230℃に加熱し、荷重0.2tで5分間プレスすることで繊維強化成形体を作製し、評価を行った。
[実験例2]
熱伝導性フィラーを添加していない点以外は実験例1と同様にして繊維強化樹脂組成物を作製した。
【0054】
なお、繊維強化フィラーである炭素繊維を10体積%、残部が熱可塑性樹脂であるポリアミド6となるように、各原料を秤量して準備し、実験例1の場合と同様にして溶融混練した。
【0055】
また、得られた繊維強化樹脂組成物について、実験例1の場合と同様にして繊維強化成形体を作製し、評価を行った。
(評価方法、評価結果)
上記実験例1、2において作製した試料について以下の手順により評価を行った。評価方法と評価結果について説明する。
(1)熱伝導性フィラーに含まれる構造欠陥の評価
実験例1の試料について、原料を溶融混練する前後での熱伝導性フィラーである六方晶窒化ホウ素に含まれる構造欠陥の程度の変化について評価を行った。
【0056】
繊維強化樹脂組成物とした後の熱伝導性フィラーの構造欠陥を評価するため、繊維強化樹脂組成物をギ酸に浸しポリアミド6を溶解させた。その後、濾紙を用いて濾過し蒸留水で洗浄することで、溶融混練工程を経た六方晶窒化ホウ素を得た(溶融混練後試料)。
【0057】
そして、溶融混練前試料および溶融混練後試料の六方晶窒化ホウ素について、波長514.5nm励起のラマン分光を行った。なお、溶融混練前試料として、原料として用いた六方晶窒化ホウ素粉末を測定に供した。測定に当たっては、板状構造の面内振動である1365cm−1の振動ピークを、ローレシアン関数でピークフィッティングし半値幅を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から、溶融混練後においても、半値幅は大きく変化しておらず、熱伝導性フィラーである六方晶窒化ホウ素の性状に大きな構造欠陥は生じていないことが確認できた。
(2)熱劣化特性評価
熱劣化特性を評価するため、実験例1で作製した繊維強化成形体に対して出力1600Wのマイクロ波照射装置(三洋株式会社製 型式:EM−1605)によりマイクロ波を30秒間、または、60秒間照射して加熱した。また、実験例2で作製した繊維強化成形体に対して同じマイクロ波照射装置によりマイクロ波を15秒間、または30秒間照射して加熱した。
【0060】
なお、本評価に当たっては、マイクロ波を照射して加熱しているが、実験例1で繊維強化樹脂組成物に添加した熱伝導性フィラーである六方晶窒化ホウ素は低誘電損失であり、マイクロ波を殆ど吸収しない。このため、熱伝導性フィラーの添加の有無により加熱条件に変化はなく、ポリアミド6、六方晶窒化ホウ素、炭素繊維を含む実験例1の繊維強化樹脂組成物(繊維強化成形体)にマイクロ波を照射した場合でも、繊維強化樹脂組成物の熱劣化抑制評価について正確に評価することができる。また、熱伝導性フィラーを含まない実験例2の繊維強化樹脂組成物と加熱条件については同じ条件で熱劣化特性評価を行うことができる。
【0061】
マイクロ波照射前後における繊維強化成形体断面の観察を、走査型顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 型式:S−4300)を用いて行った。
【0062】
また、密度測定をアルキメデス法で、熱伝導率測定をレーザーフラッシュ法の熱伝導率測定装置(アルバック理工株式会社製 型式:TC−7000H)を用いてそれぞれ行った。
【0063】
なお、マイクロ波照射後の試料の、繊維強化成形体断面の観察、密度測定、熱伝導率測定に関しては、実験例1の繊維強化成形体についてはマイクロ波を60秒間照射した試料について、実験例2の繊維強化成形体についてはマイクロ波を15秒間照射した試料について観察を行っている。
【0064】
結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示した結果のうち、実験例1、2のマイクロ波照射前の繊維強化成形体の物性を比較すると、実施例である実験例1の繊維強化成形体は熱伝導率が0.97W/m・Kと、比較例である実験例2の繊維強化成形体の熱伝導率0.57W/m・Kと比較して高いことが確認できた。
【0067】
また、実施例である実験例1の繊維強化成形体においてはマイクロ波の照射により溶融が起きず、マイクロ波の照射前後で繊維強化成形体断面の観察結果、密度と熱伝導率にほとんど変化が見られないことが確認できた。これに対して、比較例である実験例2の繊維強化成形体においては、マイクロ波照射後の断面には、繊維強化フィラーと熱可塑性樹脂との界面に空隙が生じたことによる密度の低下、熱伝導率の低下が確認できた。
【0068】
これらの結果から、実験例1の繊維強化成形体については繊維強化樹脂組成物中に熱伝導性フィラーを添加したため、繊維強化フィラーから、熱可塑性樹脂と熱伝導性フィラーを含むマトリックスへ、熱が伝搬し易くなっていることが確認できた。そして、実験例1の繊維強化成形体では繊維強化フィラーからマトリックスへ熱が伝搬し易くなっているため、繊維強化フィラーと熱可塑性樹脂との界面に熱が籠もることなく組成物全体へ熱が拡散することで、樹脂の熱劣化を抑制できることが確認できた。
[実験例3]
熱伝導性フィラーの添加量を変化させて繊維強化樹脂組成物及びその繊維強化成形体を製造した。
【0069】
熱可塑性樹脂としてポリアミド6を、熱伝導性フィラーとして六方晶窒化ホウ素を、繊維強化フィラーとして炭素繊維をそれぞれ用いており、いずれも実験例1と同じ原料を用いている。
【0070】
表3に示すように、実験例3−1〜実験例3−4において六方晶窒化ホウ素を0.5〜5.0体積%の範囲で添加し、炭素繊維を10体積%添加し、残部をポリイミド6として繊維強化樹脂組成物を作製した。
【0071】
繊維強化樹脂組成物は表3に示した添加量になるように秤量した原料を、それぞれスクリュー回転数15rpmの230℃に加熱した混練機に投入し混練・複合化することで作製した。そして、直径10mm、厚さ1mmとなるように、得られた繊維強化樹脂組成物を金型に入れて230℃に加熱し、荷重0.2tで5分間プレスすることで繊維強化成形体を得た。
【0072】
評価方法と評価結果について以下に説明する。
【0073】
まず、得られた繊維強化成形体について、後述するマイクロ波照射を行う前に熱伝導率を、レーザーフラッシュ法により測定した。レーザーフラッシュ法は、実験例1、2を評価した場合と同様の装置を用いて行っている。
【0074】
次に、加熱により繊維強化成形体の熱可塑性樹脂部分が溶融を開始するのに要する時間の評価を行った。評価に当たっては、出力10Wのシングルモードマイクロ波照射装置(富士電波工機株式会社製 型式:FSU−201VP)を用いて加熱を行い、目視で繊維強化成形体の熱可塑性樹脂部分の溶解が始まるまでの時間を測定した。
【0075】
結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
繊維強化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂のポリアミド6単体の熱伝導率は、0.25W/m・Kである。そして、表3に示したように、実施例である実験例3−1〜実験例3−4のいずれの試料においてもポリアミド6単体の熱伝導率との差が0.28W/m・K以上となっており、熱伝導率が大幅に向上していることが確認できた。また、熱伝導性フィラーの添加量が増加するに伴い、熱可塑性樹脂のポリイミドが溶解するまでの時間が長くなっていることが確認できた。