【実施例】
【0047】
[熱伝導性部材の製造方法]
(実施例1)
上述した本発明に係る熱伝導性部材100の製造方法について、具体例を示して、詳細に説明する。なお、以下に説明する本発明に係る熱伝導性部材100の製造方法は一例であって、これらに限定されるものではない。
【0048】
基材110として、プラスチック基板(ポリイミドシート)を準備した。基材110の炭素材料層130を形成する面に、水溶性の接着剤(水性ボンド7(3M製))を、塗工機(ナイフコーター)を用いて均一塗布し、溶剤を半乾燥させ、厚さ約250μmの接着層を形成した。
【0049】
炭素材料10として、ピッチ系炭素繊維であるダイアリード(K13D2U、三菱樹脂製、繊維方向熱伝導率832W/mK)の1mmカット品を用いた。表面に付着するサイジング剤を除去し、乾燥させるため、400℃の電気炉中で1時間燃焼させた。
【0050】
静電植毛装置(グリーンテクノ社製簡易静電植毛装置)を用いて、電圧−30kV、電流量80μAを印加した。接着層120を形成した基材110に対し、炭素材料10を起毛させることで、基材110に対し垂直に配向させた構造体とし、接着剤を完全に乾燥させ固化した。
【0051】
炭素材料10を配向させた基材110をシャーレ容器内に静置し、マトリクス30(フッ素ゴム、4g)を有機溶剤(メチルイソブチルケトン:MIBK、20mL)に溶解させた溶液を注入し、含浸乾燥させた。
【0052】
乾燥後の炭素材料層130を形成した基材110を容器から剥離し、さらに接着剤を塗布した基材110を剥離する。その時、接着層120も同時に剥離することができる場合がある。
【0053】
得られた炭素材料層130においては、炭素材料10が炭素材料層130に包埋された構造となる。炭素材料10を炭素材料層130の表面(上面)に露出させることで、熱伝導に有意に寄与させることができる。そのため、炭素材料層130を適当な大きさに切断した後、端部を固体基板(テフロン(登録商標)シャーレ)上に固定し、液体窒素等で凍結させ、同様に冷却した金属やすりを用いて冷却状態を維持しながら表面を研磨することで、炭素材料10を露出させた。必要に応じ、炭素材料層130の裏面についても表面と同様に処理を行ってもよい。その後、解凍することで、炭素材料10が厚み方向に配向し、シート両面に露出した熱伝導性部材200を得た。熱伝導性部材200の模式図を
図3(a)に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1では、基材110の接着層120が形成された面全体に炭素材料10が付着する。この方法では、炭素材料10を付着させる量、すなわち、炭素材料層130中の炭素材料10の含有量を制御するのは難しい。また、炭素材料10の含有量を少なくした場合、接着層120を乾燥・固化した後も、マトリクス30を含浸させた際に、配向した炭素材料10が倒れるリスクが有る。この問題を解決するため、実施例2においては、接着層120の上面にメッシュを配設した。接着層120の上面にメッシュを配設したこと以外は、実施例1と同様に、熱伝導性部材を製造した。
【0055】
図4に、本発明の一実施例に係る接着層120を介して基材110に付着した炭素材料10の周期加熱法により測定した加熱周波数の位相遅れをマッピングした図である。
図4(a)は実施例2に基づく径が300μmのメッシュを用いた例を示し、
図4(b)は実施例2に基づく径が500μmのメッシュを用いた例を示し、
図4(c)はメッシュを用いない実施例1を示す。なお、
図4(a)及び
図4(b)において、挿入図はメッシュのSEM像を示す。これらの結果から、メッシュの径を変更することにより、接着層120を介して基材110に付着する炭素材料10の量を制御可能であることが示された。
【0056】
(実施例3:積層体)
上述して実施形態及び実施例においては、基材110上から上方に所定の配向角度をもって起立して配設された炭素材料10を含む炭素材料層130を備える熱伝導性部材100や、炭素材料層130の上面を研磨するとともに基材110を剥離して、厚み方向に対向する両面で炭素材料10を露出させた熱伝導性部材200を示した。本実施例においては、炭素材料10を露出させた熱伝導性部材200の露出面を互いに積層してなる積層体について説明する。
【0057】
図3(b)は、本発明にお実施例3に係る積層体300を示す模式図である。積層体300は、一例として熱伝導性部材200の露出面を互いに3層積層した積層体として示したが、本実施例の積層体はこれに限定されるものではなく、2層以上の積層体を広く含む。また、このような積層体の側面どうしを密着又は接着して、タイル状に配置して大面積の積層体を形成することもできる。
図3(b)においては、熱伝導性部材200のみを積層した構造を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、最下層に基板を有する熱伝導性部材100を配置して、その上に熱伝導性部材200を積層してもよい。
【0058】
積層体300においては、上下に配置した熱伝導性部材200の露出面に露出した炭素材料10が互いに接触して、上下に配置した熱伝導性部材200の間の熱伝導のパスを提供する。従って、積層体300は厚膜でありながら、厚み方向に高い熱伝導率を有することができる。また、熱伝導性部材200の露出面に導電性を有する接着層を形成して上下に配置する露出面どうしを接着してもよい。
【0059】
(実施例4)
上述した実施例1及び2においては、マトリクス30としてフッ素ゴム(FKM)を用いた例を示した。本実施例においては、マトリクス30として様々な材料を用いた例を示す。本実施例においては、マトリクス30としてアクリルゴム(AR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)及び人肌ゲル(2液性ウレタンゲル)を用いた。なお、熱伝導性部材の製造方法は実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0060】
図5及び
図6は、本実施例に係る熱伝導性部材を示す。
図5(a)は水素化ニトリルゴム、
図5(b)はニトリルゴム、
図5(c)はアクリルゴム、
図5(d)はブタジエンゴムを用いた表面研磨前の熱伝導性部材を示す。また、
図6(a)は人肌ゲルを用いた表面研磨前の熱伝導性部材を示し、
図6(b)はその側面の拡大図を示す。何れの実施例においても、植毛により垂直に配向した炭素繊維は、マトリクス中に含浸しても垂直配向構造が維持されていることがわかる。
【0061】
(炭素材料の配向角度)
実施例1の熱伝導性部材200について、炭素材料10の配向角度を検証した。
図7は、本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向角度の分布を示す図である。植毛した基板のSEM観察像を基に、100から200本の植毛炭素材料10を任意に抽出し、基材110方向を角度0度とした時の角度(≦90度)をそれぞれ測定することで配向分布とした。実施例1において、基材110に対し45度以上90度以下の角度で植毛された炭素材料10の割合は83%であった。
【0062】
図8に、本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向と熱伝導性部材の厚み方向の熱伝導率との関係を示す。
図8中の点(a)〜(c)は、
図4(a)〜
図4(c)に対応する熱伝導性部材の値を示す。
図8から明らかなように、接着層120を介して基材110に付着する炭素材料10の量が増加するに連れて、熱伝導性部材の厚み方向の熱伝導率が向上した。なお、少ない炭素材料10の量での植毛パターンにおいて、熱拡散率の位相ずれとしてはっきり現れることから、マトリクスに含浸した後も炭素材料10はその密度によらず、ほとんど変化することなく、その絶対量と配向(骨格構造)が熱伝導に直接寄与することが明らかとなった。
【0063】
(実施例5)
上述した実施例においては、炭素材料層130において炭素材料10を厚み方向、基材110に対して垂直に配向させた例を示した。本実施例においては、実施例1と同様に接着層120を介して炭素材料10を起毛させた後、基材110に対して主たる配向が45度となるように炭素材料10を倒して、マトリクス30を含浸させた。これ以外は実施例1と同様に熱伝導性部材400を製造した。
【0064】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同量の炭素材料10を基材110上に形成した接着層120に倒したまま配置し、マトリクス30を含浸させて熱伝導性部材500を製造した。
【0065】
図9に、実施例1、実施例4及び比較例1の熱伝導性部材を示す。
図9(a)は実施例1の熱伝導性部材200を示し、
図9(b)は実施例5の熱伝導性部材400を示し、
図9(c)は比較例1の熱伝導性部材500を示す。それぞれの図において、左図は接着層120を介して基材110に起毛させた炭素材料10を示し、右図はマトリクス30を含浸させた熱伝導性部材を示す。なお、それぞれの左図においは、Hermanの配向秩序パラメータS
2を示した。ここで、
図9中のSEM像に示した3つの配向状態について、Hermanの配向秩序パラメータS
2に基づき、その分布を求めた。
S
2=(3〈cos
2θ〉−1)/2
(θ:基板方向を基準方位とした方位角)
ここで、S
2=1のときθ=90°(繊維は垂直配向)、S
2=0のときθはランダム(繊維はランダムに配向)、S
2=−0.5のときθ=0°(繊維は基板方向に配向)を示す。
【0066】
図10は、本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向と熱伝導性部材の厚み方向及び面内方向の熱伝導率との関係を示す。
図10において、炭素材料10が厚み方向に配向した実施例1の熱伝導性部材200では、厚み方向の熱伝導率が22W/mK、面内方向の熱伝導率が7W/mKであったのに対して、面内方向に配向した比較例では、面内方向の熱伝導率が14W/mKであったものの、厚み方向の熱伝導率は0.4W/mKであった。また、熱伝導性部材の厚み方向及び面内方向の熱伝導率は、基材110に対する炭素材料10の配向角度に関連することが明らかとなった。
【0067】
(炭素繊維の植毛密度)
実施例1の熱伝導性部材について、重量測定法により、植毛した基材110の単位面積重量から植毛前の接着層120を形成した基材110のそれを差し引くことで、単位面積あたりの炭素繊維重量(植毛密度)を求めた。本実施例においては、密度2.2g/cm
3の炭素繊維を用い、単位面積あたりの炭素繊維重量(植毛密度)は12.54mg/cm
2であった。
【0068】
(炭素材料の起立密度)
上述した実施例1の炭素繊維の植毛密度と、45度以上90度以下の角度で植毛された炭素材料の割合から起立密度を求めた。実施例1の炭素材料の起立密度は、10.4mg/cm
2であった。
【0069】
(炭素材料の充填密度)
実施例1の熱伝導性部材について、重量測定法により求めた炭素繊維の重量%を、単位体積あたりの充填量(体積比率)に換算した。本実施例においては、密度2.2g/cm
3の炭素繊維を用い、実施例1の炭素材料の充填密度(体積比率)は10.1vol%であった。
【0070】
(露出している炭素材料の比率)
実施例1の熱電部材について、凍結研磨処理によって表面に露出した炭素繊維の比率は、50%であった。
【0071】
(ショアA硬度)
実施例1及び実施例4の熱伝導性部材について、JIS K 6253, ASTM D 2240, ISO 7619に準拠してショアA硬度を測定した。
図11に実施例の熱伝導性部材のショアA硬度を示す。
図11において、白の棒グラフはマトリクス単体のショアA硬度を示し、黒の棒グラフは熱伝導性部材のショアA硬度を示す。実施例1の熱伝導性部材200の硬度は66であった。実施例4の各マトリクスを含有する熱伝導性部材の硬度は40〜69を示した。
【0072】
実施例1及び比較例1を用いて、熱伝導性部材中の炭素材料10の配向と、ショアA硬度との関係を検討した。
図12に、熱伝導性部材中の炭素材料10の配向とショアA硬度との関係を示す。
図12から明らかなように、厚み方向に炭素材料10が配向した実施例1の熱伝導性部材200は、面内方向に炭素材料10が配向した比較例1の熱伝導性部材500よりも可撓性が高く、TIMとして好適である。
【0073】
(実施例6)
基材上に、実施例1〜5に記載の炭素材料層を設けた熱伝導性部材である。基材としては、接着剤が塗布できる表面、例えば、紙・金属・セラミクス・プラスチックあるいはガラスのような部材であれば、特に限定されず、シリコン基板やサファイア基板等を用いてもよい。平面に限らず、立体面・湾曲面を用いてもよい。基材は、高い熱伝導性を有することが好ましい。基材は、炭素材料を起立させるために用いたものでもよく、また起立用ではなく異なる基材を別途用意したものでもよい。