特許第6397229号(P6397229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6397229厚み方向に高い熱伝導率を有する熱伝導性部材及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397229
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】厚み方向に高い熱伝導率を有する熱伝導性部材及び積層体
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20180913BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20180913BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20180913BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01L23/36 M
   B32B5/02 D
   H01L23/36 D
   B32B5/28 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-121852(P2014-121852)
(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公開番号】特開2016-506(P2016-506A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年4月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】阿多 誠介
(72)【発明者】
【氏名】上谷 幸治郎
(72)【発明者】
【氏名】友納 茂樹
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−335958(JP,A)
【文献】 特開2001−353736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
H01L 23/34 − 23/473
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上から上方に所定の配向角度をもって炭素材料が起立して配設された炭素材料層とを備える熱伝導性部材であり、
前記炭素材料層は、前記炭素材料と、ゴム、樹脂又はゲルから選択されるマトリクスとからなり、
前記炭素材料層は、前記炭素材料の前記所定の配向角度が45度以上90度以下の範囲であり、且つ、前記範囲に入る炭素材料の割合は50%以上100%以下であり、前記配向角度は、前記炭素材料層の厚み方向と平行な断面において、前記基材の面に対する炭素材料の長軸が成す角度であり、
前記炭素材料の起立密度は1mg/cm2以上40mg/cm2以下であり、前記起立密度は前記炭素材料層の単位面積あたりに含まれる前記炭素材料の質量に、前記炭素材料全体に対して前記範囲に入る炭素材料の割合を掛けた値であり、
前記炭素材料の充填密度は1vol%以上50vol%以下であり、
前記炭素材料層の表面に露出している前記炭素材料の比率は10%以上100%以下であり、
前記炭素材料層のショアA硬度は10以上90以下であり、
前記炭素材料層の厚み方向の熱伝導率は15W/mK以上500W/mK以下であることを特徴とする熱伝導性部材。
【請求項2】
基底面から、上方に所定の配向角度を持って炭素材料が起立して配設された炭素材料層を備える熱伝導性部材であり、
前記炭素材料層は、前記炭素材料と、ゴム、樹脂又はゲルから選択されるマトリクスとからなり、
前記炭素材料は、基底面に対して配向角度が45度以上90度以下の範囲であり、且つ、前記範囲に入る炭素材料の割合が50%以上100%以下であり、前記配向角度は、前記炭素材料層の厚み方向と平行な断面において、前記基底面に対する炭素材料の長軸が成す角度であり、
前記炭素材料の起立密度は1mg/cm2以上40mg/cm2以下であり、前記起立密度は前記炭素材料層の単位面積あたりに含まれる前記炭素材料の質量に、前記炭素材料全体に対して前記範囲に入る炭素材料の割合を掛けた値であり、
前記炭素材料の充填密度は1vol%以上50vol%以下であり、
前記炭素材料層の前記基底面及び前記基底面に対向する表面に露出する前記炭素材料の比率が10%以上100%以下であり、
前記炭素材料層のショアA硬度が10以上90以下であり、
前記炭素材料層の厚み方向の熱伝導率が15W/mK以上500W/mK以下であることを特徴とする熱伝導性部材。
【請求項3】
前記炭素材料は炭素繊維であり、
前記炭素材料層は、前記ゴム、前記樹脂又は前記ゲルに含浸した前記炭素繊維を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性部材。
【請求項4】
前記炭素材料層において、前記炭素繊維の含有量は、0.1wt%以上30wt%以下であることを特徴とする請求項に記載の熱伝導性部材。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか一に記載の熱伝導性部材の露出面を互いに積層してなることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み方向に高い熱伝導率を有する熱伝導性部材、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの小型化・高エネルギー密度化や、半導体チップの高集積化に伴い、半導体チップ等の電子部品からの放熱・排熱対策が重要となっている。例えば、半導体集積回路(LSI)においては、デバイスの小型化や高速化に伴って発熱量が増加し、LSIの温度が上昇する。このため、(1)LSIの本来の性能を発揮できなくなる、(2)繰り返しの熱ストレスによって接合部の信頼性が低下する、(3)デバイス寿命が短くなるといった問題が生じる。
【0003】
このため、半導体チップ等の電子部品に放熱装置を取り付けることにより、効率的に放熱させ、電子デバイスの外部に排熱する手法が一般的に用いられている。放熱装置には主に熱を伝えやすい(熱伝導率の高い)金属材料が使用されるが、熱源となる電子部品と放熱装置は共に硬い材料であり、接触表面には微細な凹凸があるため緊密に接触できず、電子部品からの放熱効率が低下するという問題がある。この対策として、電子部品と放熱装置との間に薄くて柔らかく、且つ熱伝導性のよい、シート状熱界面材料(Thermal interface materials:TIM)を挿入する。TIMは、電子部品と放熱装置との熱交換器として機能する必要性から、電子部品から放熱装置への高い熱伝導性、すなわち、TIMの厚み方向に対する高い熱伝導性が求められる。
【0004】
従来のTIMは、粒子状黒鉛、AlN、BN、SiO2、Al2O3、Ag等の金属および無機粒子、カーボンナノチューブ、炭素繊維などの熱伝導性フィラーと、ゴム、ポリマーなどのマトリクス樹脂(熱伝導率が0.2W/mK程度)との複合材料である。TIMに添加する熱伝導性フィラーの量を増量することにより、熱伝導性フィラー同士を相互に接触させてTIMの熱伝導性を調整する。しかし、添加した熱伝導性フィラーが多過ぎる場合、TIMは硬くなり、脆性が大きくなる。このため、TIMとして十分な熱伝導特性を発揮できない不都合がある。
【0005】
一方、熱伝導性フィラーとして繊維状フィラーを添加する場合、粒子よりも低添加量で熱伝導性を高めることができる。従来、カーボンナノチューブを用いたTIMは、カーボンナノチューブを基材に添加して一体成型加工し、プレス処理して製造する。しかし、従来のTIMにおいて、カーボンナノチューブは比表面積が大きいため、長手方向の熱伝導効果によりマトリクス樹脂あるいはナノチューブ同士の界面における熱抵抗の影響が大きくなってしまうため、カーボンナノチューブの長手方向での良好な熱伝導性を十分に利用できず、TIM全体としては熱伝導性が低くなる。
【0006】
炭素繊維、特にピッチ系の炭素繊維は約1000W/mKという高い熱伝導率を備え、TIMの熱伝導性を大幅に向上させる熱伝導性フィラーとして注目されている。しかし、炭素繊維は硬質で直線性が高い材料であるため、成形粘度の上昇や脆化、硬化が問題となる。また、炭素繊維は異方性を有し、TIMをシート状に成形する際にシート面方向に炭素繊維が配向しやすい。このため、炭素繊維を用いたTIMでは、熱伝導率が面内方向には向上するが、厚み方向では熱伝導率が向上しにくく、結果としてTIMの熱伝導率はマトリクス樹脂の熱伝導率よりも大幅な向上は見込めない。
【0007】
そこで、異方性の熱伝導性フィラーでは径方向よりも軸方向に熱伝導率が高いという性質を利用して、熱伝導性フィラーを同一方向に配向させた異方性伝熱シートが提案されている。例えば、特許文献1には、静電植毛により炭素繊維等の熱伝導性繊維を被植毛層の表面に配向させ、液状高分子を配向した熱伝導性繊維の間に含浸させた後固化させることにより、熱伝導性繊維が高分子シート中の厚み方向に配向された異方性伝熱シートが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載された異方性伝熱シートは、10W/mKを超えることができず、TIMとして十分な熱伝導特性を有するものではない。したがって、10W/mKを超える熱伝導性を有するTIMを実現するには、さらなる検討が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−353736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決するものであって、厚み方向に高い熱伝導率を有する熱伝導性部材、積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によると、基材と、前記基材上から上方に所定の配向角度をもって炭素材料が起立して配設された炭素材料層とを備える熱伝導性部材であり、前記炭素材料層は、前記炭素材料の前記所定の配向角度が45度以上90度以下の範囲であり、且つ、前記範囲に入る前記炭素材料の割合は50%以上100%以下であり、前記炭素材料の起立密度は1mg/cm以上40mg/cm以下であり、前記炭素材料の充填密度は1vol%以上50vol%以下であり、前記炭素材料層の表面に露出している前記炭素材料の比率は充填密度の10%以上100%以下であり、前記炭素材料層のショアA硬度は10以上90以下であり、前記炭素材料層の厚み方向の熱伝導率は15W/mK以上500W/mK以下である熱伝導性部材が提供される。
【0012】
本発明の一実施形態によると、基底面から、上方に所定の配向角度を持って炭素材料が起立して配設された炭素材料層を備える熱伝導性部材であり、前記炭素材料は、基底面に対して配向角度が45度以上90度以下の範囲であり、且つ、前記範囲に入る炭素材料の割合が50%以上100%以下であり、前記炭素材料の起立密度は1mg/cm以上40mg/cm以下であり、前記炭素材料の充填密度は1vol%以上50vol%以下であり、前記炭素材料層の前記基底面及び前記基底面に対向する表面に露出する前記炭素材料の比率が充填密度の10%以上100%以下であり、前記炭素材料層のショアA硬度が10以上90以下であり、前記炭素材料層の厚み方向の熱伝導率が15W/mK以上500W/mK以下である熱伝導性部材が提供される。
【0013】
前記熱伝導性部材において、前記炭素材料は炭素繊維であり、前記炭素材料層は、ゴム、樹脂、ゲルに含浸した前記炭素繊維を備えてもよい。
【0014】
前記炭素材料層において、前記炭素繊維の含有量は、0.1wt%以上30wt%以下であってもよい。
【0015】
前記熱伝導性部材において、前記炭素材料層中の前記炭素繊維は、静電植毛装置を用いて起立されてもよい。
【0016】
また、本発明の一実施形態によると、前記何れかに記載の熱伝導性部材の露出面を互いに積層してなる積層体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、厚み方向に高い熱伝導率を有する熱伝導性部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る熱伝導性部材100の模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る熱伝導性部材100の製造方法を示す模式図であり、(a)は静電植毛法を示す模式図であり、(b)は垂直配向構造体を示し、(c)は炭素材料層130を示す。
図3】(a)は本発明の一実施例に係る熱伝導性部材200の模式図であり、(b)は積層体300を示す模式図である。
図4】本発明の一実施例に係る炭素材料の加熱周波数の位相遅れをマッピングした図であり、(a)は径が300μmのメッシュを用いた例を示し、(b)は径が500μmのメッシュを用いた例を示し、(c)はメッシュを用いない実施例1を示す。
図5】本発明の一実施例に係る熱伝導性部材を示し、(a)は水素化ニトリルゴム、(b)はニトリルゴム、(c)はアクリルゴム、(d)はブタジエンゴムを用いた熱伝導性部材を示す。
図6】本発明の一実施例に係る熱伝導性部材を示し、(a)は人肌ゲルを用いた表面研磨前の熱伝導性部材を示し、(b)はその側面の拡大図を示す。
図7】本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向角度の分布を示す図である。
図8】本発明の一実施例に係る炭素材料10の充填量と熱伝導性部材の厚み方向の熱伝導率との関係を示す図である。
図9】本発明の一実施例に係る熱伝導性部材を示し、(a)は実施例1の熱伝導性部材200を示し、(b)は実施例5の熱伝導性部材400を示し、(c)は比較例1の熱伝導性部材500を示す。
図10】本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向と熱伝導性部材の厚み方向及び面内方向の熱伝導率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、上述した問題を解決すべく鋭意検討した結果、熱伝導性部材に含まれる炭素材料を厚み方向に配向させることだけでは不十分であり、炭素材料を所定の配向度の範囲を取るように配置し、および研磨によって表面に露出させ、材料の厚み方向に貫通した構造とすることで、厚み方向に高い熱伝導率を実現可能であることを見出し、発明を完成させた。
【0020】
以下、図面を参照して本発明に係る熱伝導性部材、積層体及びその製造方法について説明する。本発明の熱伝導性部材、積層体及びその製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱伝導性部材100の模式図である。熱伝導性部材100は、基材110と炭素材料層130とを備える。炭素材料層130は、基材110上から上方に所定の配向角度をもって炭素材料10が起立して配設される。また、炭素材料層130は、マトリクス30を含む。
【0022】
(炭素材料の配向角度)
本発明において、炭素材料層130は、炭素材料10の所定の配向角度が45度以上90度以下の範囲であり、且つ、この範囲に入る炭素材料10の割合は50%以上100%以下であり、好ましくは70%以上100%以下である。本発明に係る炭素材料層130において、配向角度が45度以上90度以下の範囲に入る炭素材料10の割合が50%よりも少ないと、熱伝導性部材100の厚み方向に対する高い熱伝導率を実現することができない。なお、本明細書において、炭素材料10の「配向角度」は、炭素材料層130の厚み方向と平行な断面の走査型電子顕微鏡(以下、SEMとも呼ぶ)により観察した像において、炭素材料層130を配設する基材110の面を基準として求めるものとする。
【0023】
本明細書において、所定の配向角度の範囲に入る炭素材料10の割合は、炭素材料層130の厚み方向と平行な断面を観察したSEM像を基に、100から200本の炭素材料10を任意に抽出し、基材110方向を角度0度とした時の角度(≦90°)をそれぞれ測定し、配向分布を求めるものとする。
【0024】
(炭素材料の起立密度)
また、炭素材料層130において、炭素材料10の起立密度は1mg/cm2以上40mg/cm2以下であり、好ましくは1mg/cm2以上20mg/cm2以下である。本発明に係る炭素材料層130において、炭素材料10の起立密度が1mg/cm2より低いと、熱伝導性部材100の厚み方向に対する高い熱伝導率を実現することができない。本明細書において、基板面と炭素材料10の長軸が成す角度が45°以上90°以下の炭素材料10を「起立した炭素材料」と定義する。また、炭素材料層130の単位面積あたりに含まれる炭素材料10の質量に、炭素材料10全体に対して起立した炭素材料10の比を掛けたものを炭素材料10の「起立密度」と定義する。
【0025】
(炭素材料10の充填密度)
本発明において、炭素材料10の充填密度は1vol%以上50vol%以下であり、好ましくは3vol%以上10vol%以下である。炭素材料10の充填密度が1vol%よりも低いと、炭素材料10の配向角度を45度以上90度以下の範囲に制御しても、TIMに要求される熱伝導率を得ることは困難である。また、炭素材料10の充填密度が50vol%を超えると、マトリクス30が有する特性が低下し、例えば、電子部品と緊密に接触をするのが困難となる。
【0026】
(露出している炭素材料の比率)
また、発明に係る炭素材料層130において、表面(上面)に露出している炭素材料10の比率は10%以上100%以下であり、好ましくは50%以上100%以下である。表面(上面)に露出している炭素材料10の比率が10%よりも小さいと、炭素材料10により炭素材料層130の厚み方向に伝わった熱が表面から放出、又は他の部材へ伝導されにくくなる。なお、本明細書において、炭素材料層130の「表面に露出している炭素材料の比率」とは、炭素材料層130の厚み方向と平行な断面を観察した3次元暗視野顕微鏡像において、100から200本の炭素材料10を任意に抽出し、炭素材料層130の表面(上面)よりも先端が上に出ている炭素繊維の本数の割合を算出したものである。
【0027】
(ショアA硬度)
本発明に係る炭素材料層130のショアA硬度は10以上90以下であり、好ましくは10以上70以下である。ショアA硬度が90を超えると、例えば、電子部品の表面の凹凸に対する追従性が低下し、緊密に接触をするのが困難となる。
【0028】
(厚み方向の熱伝導率)
また、本発明に係る炭素材料層130の厚み方向の熱伝導率は、15W/mK以上500W/mK以下である。炭素材料層130において、炭素材料10が上述したような配向を有することにより、熱伝導性部材100は厚み方向に高い熱伝導率を有することができる。なお、熱伝導率の測定には、レーザーフラッシュ法、周期加熱放射測温法、平板熱流計法、温度波熱分析法(TWA法)、温度傾斜法(平板比較法)などの測定方法を採用することができる。
【0029】
(基材)
基材110は、接着剤が塗布できる表面、例えば、紙・金属・セラミクス・プラスチックあるいはガラスのような部材であれば、特に限定されず、シリコン基板やサファイア基板等を用いてもよい。後述する接着層を形成するために、基材110には、プラスチック基板を用いることが好ましい。また基材を使用しなくてもよい。
【0030】
(炭素材料)
本発明に係る熱伝導性部材100において、炭素材料10は所定の配向角度で配置するため、炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、PAN(Polyacrylonitrile)系、ピッチ(PITCH)系からつくられた炭素繊維や黒鉛繊維、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)など、任意の原料あるいは合成方法で合成されたものを用いることができる。これらのうちピッチ系、気相法、さらに黒鉛化処理を行って得られるカーボンファイバーは、結晶性に優れ、繊維軸方向の熱伝導性に優れるため好ましい。
【0031】
本発明に係る熱伝導性部材100に用いる炭素繊維の長さとしては、平均繊維長が10μm以上10mm以下のものが好ましい。炭素材料層130において上述した配向を得るには、後述するように、静電植毛法によって繊維を十分に飛翔させる必要があり、長すぎる繊維は飛翔性に乏しい。また炭素材料層130の厚み方向に配向した炭素繊維基板にマトリクスを注入後、埋没した繊維を表面に露出させる研磨処理を施すため、炭素繊維は形成される炭素材料層130の厚みより長い必要がある。
【0032】
本発明に係る熱伝導性部材100の炭素繊維の植毛密度は、好ましくは1mg/cm以上40mg/cm以下、より好ましくは10mg/cm以上20mg/cm以下である。炭素繊維の植毛密度が1mg/cmより低いと、本発明に係る熱伝導性部材の厚み方向の熱伝導率を得られない。
【0033】
(マトリクス)
本発明に係る炭素材料層130を構成するマトリクス30としては、ゴム、樹脂、ゲル等を用いることができる。マトリクス30に用いる樹脂としては、シリコーン系樹脂、変成シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、クロロプレン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂、フロロシリコーン系樹脂の少なくとも1つを用いることができる。樹脂は、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のどちらも使用することができる。
【0034】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、および、2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。また、更に耐衝撃性向上のために、上記熱硬化性樹脂にエラストマーもしくはゴム成分を添加した樹脂であってもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂であってもよい。
【0036】
本発明に係る炭素材料層130に用いるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。エラストマーとしては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(AR)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類、またはオレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)などの熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を含有することができる。また、混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、これらの混合物、共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドしたものであってもよい。また、これらのエラストマーに架橋剤・加硫剤等を添加し、加熱処理等により架橋・加硫を施したものであってもよい。
【0037】
本発明に係る炭素材料層130に用いるマトリックスはとしては、特にフッ素樹脂や、フッ素ゴムが好ましい。フッ素ゴムと炭素繊維の親和性が高く、良好に含浸させることができるため、また適度な硬度を持ち研磨しやすいためである。
【0038】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体のいずれか、もしくはこれらの混合物、いずれも好適に用いることができる。
【0039】
炭素材料層130において、炭素繊維含有量は、0.1wt%以上30wt%以下であることが好ましい。炭素材料層130中の炭素繊維含有量が0.1wt%より少ないと、炭素材料10の配向角度を45度以上90度以下の範囲に制御しても、TIMに要求される熱伝導率を得ることは困難である。また、炭素材料層130中の炭素繊維含有量が30wt%を超えると、マトリクス30が有する特性が低下し、例えば、電子部品と緊密に接触をするのが困難となる。
【0040】
(熱伝導性部材の製造方法)
上述した本発明の実施形態に係る熱伝導性部材100の製造方法について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る熱伝導性部材100の製造方法を示す模式図である。図2(a)は、静電植毛法を示す模式図である。炭素材料層130を形成する面に、接着層120を形成した基材110を準備する。
【0041】
接着層120に用いる接着剤は、その後含浸させるマトリクス樹脂及びその溶剤と非相溶または低反応性であることが望ましい。例えば、アクリル系接着剤である水性ボンド7(3M製)はMIBKに可溶であるが、フッ素ゴムのMIBK溶液に含浸させても即座に溶解・変形することがなく、マトリクス溶剤(MIBK)が乾燥するまで炭素繊維の構造を維持するため、好ましい。熱伝導性部材100の製造方法において、接着剤は、マトリクス30を構成する材料及び溶媒を考慮して適宜選択できる。
【0042】
熱伝導性部材100の製造方法に用いる静電植毛法は、アップ法、ダウン法、アップダウン方式、または静電銃によるハンド式(吹付け加工)などの加工方式を採用することができる。印加する電圧は1kV以上100kV以下、電流量は10μA以上100μA以下が好ましい。植毛する繊維と対象基板の距離は、1mm以上150mm以下であることが好ましい。また対象基板とパイルの間にメッシュ、スクリーン、ステンシルなどを配置する、又はそれらを基板に接触させることで、植毛繊維密度やパターンを制御することがある。なお、図2(a)においては、一例として、アップ法の静電植毛装置を示す。
【0043】
植毛に際し、接着剤が固化しているほど炭素材料10が垂直に配向性する傾向が得られている。一方で、接着剤が完全に乾燥すると接着力が低下し、良好な植毛が得られない。そのため、基材110に塗布した接着剤は、半乾燥(余剰の溶剤を除去した)後、接着力を発揮する可使時間内に植毛処理に供することが好ましい。
【0044】
接着層120を形成した基材110を、接着層120が電極910と対向するように静電植毛装置のグラウンドアース電極930に取り付ける。付着(植毛)させる炭素材料10を電極910上に置き、例えば、電圧−30kV、電流量80μAを印加する。高電圧により電極910と電極930との間に電界が発生し、炭素材料10に分極が生じ、基材110に引きつけられることで、接着層120に付着植毛される。その際、炭素材料10は電界方向に沿って飛翔し、基材110上に垂直に投錨されることで垂直配向構造体となる(図2(b))。
【0045】
付着植毛した炭素材料10にマトリクス30を含浸させ、マトリクス30を固化させて、炭素材料層130を形成する(図2(c))。ここで、炭素材料層130の厚み方向の高い熱伝導率を得るため、埋没した炭素材料10を表面に露出させる研磨処理を施すことが好ましい。表面研磨に際し、液体窒素等で試料を凍結し固化することで、研磨しやすくすることが好ましい。研磨器具には、金属および紙ヤスリ、電動サンダー、グラインダー等を採用することができる。その際、摩擦熱によるマトリクス30の破損を防ぐため、工具も同時に冷却することが好ましい。
【0046】
このようにして、厚み方向に高い熱伝導率を有する本発明の一実施形態係る熱伝導性部材100を製造することができる。
【実施例】
【0047】
[熱伝導性部材の製造方法]
(実施例1)
上述した本発明に係る熱伝導性部材100の製造方法について、具体例を示して、詳細に説明する。なお、以下に説明する本発明に係る熱伝導性部材100の製造方法は一例であって、これらに限定されるものではない。
【0048】
基材110として、プラスチック基板(ポリイミドシート)を準備した。基材110の炭素材料層130を形成する面に、水溶性の接着剤(水性ボンド7(3M製))を、塗工機(ナイフコーター)を用いて均一塗布し、溶剤を半乾燥させ、厚さ約250μmの接着層を形成した。
【0049】
炭素材料10として、ピッチ系炭素繊維であるダイアリード(K13D2U、三菱樹脂製、繊維方向熱伝導率832W/mK)の1mmカット品を用いた。表面に付着するサイジング剤を除去し、乾燥させるため、400℃の電気炉中で1時間燃焼させた。
【0050】
静電植毛装置(グリーンテクノ社製簡易静電植毛装置)を用いて、電圧−30kV、電流量80μAを印加した。接着層120を形成した基材110に対し、炭素材料10を起毛させることで、基材110に対し垂直に配向させた構造体とし、接着剤を完全に乾燥させ固化した。
【0051】
炭素材料10を配向させた基材110をシャーレ容器内に静置し、マトリクス30(フッ素ゴム、4g)を有機溶剤(メチルイソブチルケトン:MIBK、20mL)に溶解させた溶液を注入し、含浸乾燥させた。
【0052】
乾燥後の炭素材料層130を形成した基材110を容器から剥離し、さらに接着剤を塗布した基材110を剥離する。その時、接着層120も同時に剥離することができる場合がある。
【0053】
得られた炭素材料層130においては、炭素材料10が炭素材料層130に包埋された構造となる。炭素材料10を炭素材料層130の表面(上面)に露出させることで、熱伝導に有意に寄与させることができる。そのため、炭素材料層130を適当な大きさに切断した後、端部を固体基板(テフロン(登録商標)シャーレ)上に固定し、液体窒素等で凍結させ、同様に冷却した金属やすりを用いて冷却状態を維持しながら表面を研磨することで、炭素材料10を露出させた。必要に応じ、炭素材料層130の裏面についても表面と同様に処理を行ってもよい。その後、解凍することで、炭素材料10が厚み方向に配向し、シート両面に露出した熱伝導性部材200を得た。熱伝導性部材200の模式図を図3(a)に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1では、基材110の接着層120が形成された面全体に炭素材料10が付着する。この方法では、炭素材料10を付着させる量、すなわち、炭素材料層130中の炭素材料10の含有量を制御するのは難しい。また、炭素材料10の含有量を少なくした場合、接着層120を乾燥・固化した後も、マトリクス30を含浸させた際に、配向した炭素材料10が倒れるリスクが有る。この問題を解決するため、実施例2においては、接着層120の上面にメッシュを配設した。接着層120の上面にメッシュを配設したこと以外は、実施例1と同様に、熱伝導性部材を製造した。
【0055】
図4に、本発明の一実施例に係る接着層120を介して基材110に付着した炭素材料10の周期加熱法により測定した加熱周波数の位相遅れをマッピングした図である。図4(a)は実施例2に基づく径が300μmのメッシュを用いた例を示し、図4(b)は実施例2に基づく径が500μmのメッシュを用いた例を示し、図4(c)はメッシュを用いない実施例1を示す。なお、図4(a)及び図4(b)において、挿入図はメッシュのSEM像を示す。これらの結果から、メッシュの径を変更することにより、接着層120を介して基材110に付着する炭素材料10の量を制御可能であることが示された。
【0056】
(実施例3:積層体)
上述して実施形態及び実施例においては、基材110上から上方に所定の配向角度をもって起立して配設された炭素材料10を含む炭素材料層130を備える熱伝導性部材100や、炭素材料層130の上面を研磨するとともに基材110を剥離して、厚み方向に対向する両面で炭素材料10を露出させた熱伝導性部材200を示した。本実施例においては、炭素材料10を露出させた熱伝導性部材200の露出面を互いに積層してなる積層体について説明する。
【0057】
図3(b)は、本発明にお実施例3に係る積層体300を示す模式図である。積層体300は、一例として熱伝導性部材200の露出面を互いに3層積層した積層体として示したが、本実施例の積層体はこれに限定されるものではなく、2層以上の積層体を広く含む。また、このような積層体の側面どうしを密着又は接着して、タイル状に配置して大面積の積層体を形成することもできる。図3(b)においては、熱伝導性部材200のみを積層した構造を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、最下層に基板を有する熱伝導性部材100を配置して、その上に熱伝導性部材200を積層してもよい。
【0058】
積層体300においては、上下に配置した熱伝導性部材200の露出面に露出した炭素材料10が互いに接触して、上下に配置した熱伝導性部材200の間の熱伝導のパスを提供する。従って、積層体300は厚膜でありながら、厚み方向に高い熱伝導率を有することができる。また、熱伝導性部材200の露出面に導電性を有する接着層を形成して上下に配置する露出面どうしを接着してもよい。
【0059】
(実施例4)
上述した実施例1及び2においては、マトリクス30としてフッ素ゴム(FKM)を用いた例を示した。本実施例においては、マトリクス30として様々な材料を用いた例を示す。本実施例においては、マトリクス30としてアクリルゴム(AR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)及び人肌ゲル(2液性ウレタンゲル)を用いた。なお、熱伝導性部材の製造方法は実施例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0060】
図5及び図6は、本実施例に係る熱伝導性部材を示す。図5(a)は水素化ニトリルゴム、図5(b)はニトリルゴム、図5(c)はアクリルゴム、図5(d)はブタジエンゴムを用いた表面研磨前の熱伝導性部材を示す。また、図6(a)は人肌ゲルを用いた表面研磨前の熱伝導性部材を示し、図6(b)はその側面の拡大図を示す。何れの実施例においても、植毛により垂直に配向した炭素繊維は、マトリクス中に含浸しても垂直配向構造が維持されていることがわかる。
【0061】
(炭素材料の配向角度)
実施例1の熱伝導性部材200について、炭素材料10の配向角度を検証した。図7は、本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向角度の分布を示す図である。植毛した基板のSEM観察像を基に、100から200本の植毛炭素材料10を任意に抽出し、基材110方向を角度0度とした時の角度(≦90度)をそれぞれ測定することで配向分布とした。実施例1において、基材110に対し45度以上90度以下の角度で植毛された炭素材料10の割合は83%であった。
【0062】
図8に、本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向と熱伝導性部材の厚み方向の熱伝導率との関係を示す。図8中の点(a)〜(c)は、図4(a)〜図4(c)に対応する熱伝導性部材の値を示す。図8から明らかなように、接着層120を介して基材110に付着する炭素材料10の量が増加するに連れて、熱伝導性部材の厚み方向の熱伝導率が向上した。なお、少ない炭素材料10の量での植毛パターンにおいて、熱拡散率の位相ずれとしてはっきり現れることから、マトリクスに含浸した後も炭素材料10はその密度によらず、ほとんど変化することなく、その絶対量と配向(骨格構造)が熱伝導に直接寄与することが明らかとなった。
【0063】
(実施例5)
上述した実施例においては、炭素材料層130において炭素材料10を厚み方向、基材110に対して垂直に配向させた例を示した。本実施例においては、実施例1と同様に接着層120を介して炭素材料10を起毛させた後、基材110に対して主たる配向が45度となるように炭素材料10を倒して、マトリクス30を含浸させた。これ以外は実施例1と同様に熱伝導性部材400を製造した。
【0064】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同量の炭素材料10を基材110上に形成した接着層120に倒したまま配置し、マトリクス30を含浸させて熱伝導性部材500を製造した。
【0065】
図9に、実施例1、実施例4及び比較例1の熱伝導性部材を示す。図9(a)は実施例1の熱伝導性部材200を示し、図9(b)は実施例5の熱伝導性部材400を示し、図9(c)は比較例1の熱伝導性部材500を示す。それぞれの図において、左図は接着層120を介して基材110に起毛させた炭素材料10を示し、右図はマトリクス30を含浸させた熱伝導性部材を示す。なお、それぞれの左図においは、Hermanの配向秩序パラメータSを示した。ここで、図9中のSEM像に示した3つの配向状態について、Hermanの配向秩序パラメータSに基づき、その分布を求めた。
=(3〈cosθ〉−1)/2
(θ:基板方向を基準方位とした方位角)
ここで、S=1のときθ=90°(繊維は垂直配向)、S=0のときθはランダム(繊維はランダムに配向)、S=−0.5のときθ=0°(繊維は基板方向に配向)を示す。
【0066】
図10は、本発明の一実施例に係る炭素材料10の配向と熱伝導性部材の厚み方向及び面内方向の熱伝導率との関係を示す。図10において、炭素材料10が厚み方向に配向した実施例1の熱伝導性部材200では、厚み方向の熱伝導率が22W/mK、面内方向の熱伝導率が7W/mKであったのに対して、面内方向に配向した比較例では、面内方向の熱伝導率が14W/mKであったものの、厚み方向の熱伝導率は0.4W/mKであった。また、熱伝導性部材の厚み方向及び面内方向の熱伝導率は、基材110に対する炭素材料10の配向角度に関連することが明らかとなった。
【0067】
(炭素繊維の植毛密度)
実施例1の熱伝導性部材について、重量測定法により、植毛した基材110の単位面積重量から植毛前の接着層120を形成した基材110のそれを差し引くことで、単位面積あたりの炭素繊維重量(植毛密度)を求めた。本実施例においては、密度2.2g/cmの炭素繊維を用い、単位面積あたりの炭素繊維重量(植毛密度)は12.54mg/cmであった。
【0068】
(炭素材料の起立密度)
上述した実施例1の炭素繊維の植毛密度と、45度以上90度以下の角度で植毛された炭素材料の割合から起立密度を求めた。実施例1の炭素材料の起立密度は、10.4mg/cmであった。
【0069】
(炭素材料の充填密度)
実施例1の熱伝導性部材について、重量測定法により求めた炭素繊維の重量%を、単位体積あたりの充填量(体積比率)に換算した。本実施例においては、密度2.2g/cmの炭素繊維を用い、実施例1の炭素材料の充填密度(体積比率)は10.1vol%であった。
【0070】
(露出している炭素材料の比率)
実施例1の熱電部材について、凍結研磨処理によって表面に露出した炭素繊維の比率は、50%であった。
【0071】
(ショアA硬度)
実施例1及び実施例4の熱伝導性部材について、JIS K 6253, ASTM D 2240, ISO 7619に準拠してショアA硬度を測定した。図11に実施例の熱伝導性部材のショアA硬度を示す。図11において、白の棒グラフはマトリクス単体のショアA硬度を示し、黒の棒グラフは熱伝導性部材のショアA硬度を示す。実施例1の熱伝導性部材200の硬度は66であった。実施例4の各マトリクスを含有する熱伝導性部材の硬度は40〜69を示した。
【0072】
実施例1及び比較例1を用いて、熱伝導性部材中の炭素材料10の配向と、ショアA硬度との関係を検討した。図12に、熱伝導性部材中の炭素材料10の配向とショアA硬度との関係を示す。図12から明らかなように、厚み方向に炭素材料10が配向した実施例1の熱伝導性部材200は、面内方向に炭素材料10が配向した比較例1の熱伝導性部材500よりも可撓性が高く、TIMとして好適である。
【0073】
(実施例6)
基材上に、実施例1〜5に記載の炭素材料層を設けた熱伝導性部材である。基材としては、接着剤が塗布できる表面、例えば、紙・金属・セラミクス・プラスチックあるいはガラスのような部材であれば、特に限定されず、シリコン基板やサファイア基板等を用いてもよい。平面に限らず、立体面・湾曲面を用いてもよい。基材は、高い熱伝導性を有することが好ましい。基材は、炭素材料を起立させるために用いたものでもよく、また起立用ではなく異なる基材を別途用意したものでもよい。
【符号の説明】
【0074】
10:炭素材料、30:マトリクス、100:熱伝導性部材、110:基材、120:接着層、130:炭素材料層、200:熱伝導性部材、300:熱伝導性部材、400:熱伝導性部材、500:熱伝導性部材、910:電極、930:電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10