【実施例】
【0120】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1−1)
以下の手順により、
図3に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0121】
最初に正極を作製した。正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を95質量部と、正極導電助剤2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0122】
次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層を被覆した。作製した粉末はプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒(電解質塩を1.3mol/kgの濃度で含んでいる。)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。続いて、負極ケイ素系活物質粒子と天然黒鉛(必要に応じて人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンを一部配合)を15:85の重量比で配合した。次に配合した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2、スチレンブタジエンコポリマー(以下、SBRと称する)、カルボメチルセルロース(以下、CMCと称する)を90.5〜92.5:1:1:2.5:3〜5の乾燥重量比で混合した後、純水で希釈し負極合材スラリーとした。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。
【0123】
また、ケイ素系活物質粒子と天然黒鉛を50:50の重量比で配合した。活物質材、導電助剤1、導電助剤2、負極結着剤の前駆体とを80〜83:10:2:5〜8の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で400℃で1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成される。
【0124】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC))、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0125】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0126】
(実施例1−2〜実施例1−6)
実施例1−1と同様に、二次電池を作製したが、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を、下記の表1に示すように6質量%以上の範囲で変更した。実施例1−3〜実施例1−6のように、SiO材比率が15%を超える場合、バインダではSBR/CMCでは担持し辛くなるため、PI(ポリイミド)をバインダとして使用した。
(比較例1−1〜比較例1−3)
実施例1−1と同様に、二次電池を作製したが、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比を、下記の表1に示すように6質量%未満の範囲で変更した。比較例1−1においては、SiO材比率は0質量%であり、負極活物質は炭素系活物質のみとなっている。
【0127】
実施例1−1〜1−6、比較例1−2〜比較例1−3におけるケイ素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。ケイ素系活物質のメジアン径Yは4μmであった。X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は2.593°であり、その結晶面(111)に起因する結晶子サイズは3.29nmであった。SiOxで表されるケイ素系活物質において、xの値は1.0であった。表層には含有物としてLiF、Li
2CO
3、炭素層(C層)が形成されており、活物質内には含有物としてLi
2SiO
3、Li
4SiO
4が形成されていた。
このとき、ケイ素系活物質の
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/B=2であった。
【0128】
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜比較例1−3における炭素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。炭素系活物質のメジアン径Xは20μmであった。従って、炭素系活物質のメジアン径Xとケイ素系活物質のメジアン径Yの比X/Y=5であった。また、炭素系活物質中に含まれる天然黒鉛の比率は100%であった。
【0129】
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜比較例1−3の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0130】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。このとき、ケイ素系活物質(SiO材)の初期効率は80%であった。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、%表示のため100を掛け、容量の維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧に達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電池電圧が3.0Vに達するまで放電した。
この際、対極リチウムを用い電圧が0(V)まではCC(定電流)モード、0(V)からはCV(定電圧)モードで充電を行い、電流値が0.07Cとなった時に充電を終了した。そして、この充電を行った後、CC(定電流)で電池電圧が3.0Vに達するまで放電を行った。
【0131】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。充放電条件はサイクル特性の0.2倍で行った。すなわち、4.3Vに達するまで定電流密度、0.5mA/cm
2で充電し、電圧が4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.05mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0132】
【表1】
【0133】
SiO比率が増加すると共に充電時の体積密度が低下し、負極終止電位が高くなる。
【0134】
また、比較例1−1、実施例1−2、実施例1−4〜実施例1−6において、二次電池の容量増加率を調べたところ表1aのような結果が得られた。ここでいう容量増加率は、ケイ素系活物質の比率を0wt%とした場合の電池容量を基準として算出している。
【0135】
【表1a】
【0136】
表1aから分かるように、ケイ素系活物質の比率が高くなるほどSiO放電電位が炭素材に対して受ける影響が小さくなり電池容量の増加が見込める。
【0137】
ここで、
図4に負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の比率と二次電池の電池容量の増加率との関係を表すグラフを示す。
図4中のaで示す曲線は、本発明の負極活物質中においてケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。一方、
図4中のbで示す曲線はLiをドープしていないケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。
図4に示すように、曲線aはケイ素系活物質の比率が6wt%以上となる範囲で、曲線bよりも電池容量の増加率が特に大きくなり、ケイ素系活物質の比率が高くなるにつれて、その差は広がっていく。以上の表1、表1a及び
図4の結果より、本発明において、負極活物質中でのケイ素系活物質の比率が6wt%以上となると電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、このことから負極活物質の体積エネルギー密度が、上記比率の範囲で特に顕著に増加することが分かった。
【0138】
一方で、比較例1−1〜比較例1−3のように、SiO比率が5質量%以下の範囲では、炭素系活物質の比率が高いため維持率、初期効率はともに高い数値となる。しかし、SiO放電電位が炭素系活物質に対して高い影響を受けるため、電池の体積エネルギー密度(Wh/l)の増加が見込めない。
【0139】
(実施例2−1〜実施例2−5、比較例2−1、比較例2−2)
負極材を製造する際のケイ素系活物質のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1−2と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させ堆積される酸素量を調整した。実施例2−1〜2−5、比較例2−1、2−2における、SiO
xで表されるケイ素系活物質のxの値を表2に示した。
【0140】
実施例2−1〜2−5、比較例2−1、2−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0141】
【表2】
【0142】
表2からわかるように、酸素が十分にない場合(比較例2−1、x=0.3)、初期効率は向上するものの容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合(比較例2−2、x=1.8)、導電性の低下が生じSiO材の容量が設計通り発現しなかった。このとき、炭素材のみ充放電を行ったが容量増加が得られず評価を中断している。
【0143】
(実施例3−1〜実施例3−5)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、二次電池の負極利用率を表3に示すように変化させた。これに伴い、負極終止電位及び負極活物質の充電時の体積密度は表3に示すように変化した。
【0144】
実施例3−1〜実施例3−5の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0145】
【表3】
【0146】
負極利用率が93%未満の場合(実施例3−1、実施例3−2)と比べ、負極利用率が93%以上の場合(実施例3−3〜実施例3−5)は、電池の初期効率が増加するため電池容量の向上が見込める。
また、負極利用率100%は電池容量が増加すると考えられるが、設計上Li析出が懸念されるため最大利用率を99%とし実験を行った。以上より、電池容量増加を考慮した場合、負極利用率は93%以上99%以下が望ましいことが分かった。
【0147】
(実施例4−1、実施例4−2、比較例4−1)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、実施例4−1では、ケイ素系活物質の表層にLiF、炭素層を、実施例4−2ではLi
2CO
3、炭素層を担持させた。また、比較例4−1では表層にLiF、Li
2CO
3、炭素層のいずれも担持させなかった。
【0148】
実施例4−1、実施例4−2、比較例4−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0149】
【表4】
【0150】
表4に示すように、ケイ素系活物質の表層にLiF、Li
2CO
3、炭素層を担持させることで、容量の維持率、初期効率いずれも向上させられることが確認された。
【0151】
(実施例5−1〜実施例5−6)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、バルク内に生成するSi/SiO
2成分を変化させることで、SiO単体の初期効率を増減させ、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/Bを表5に示すように変化させた。これは、SiO
2領域を電気化学的なLiドープ法を用いて、電位規制を行うことで制御できる。
【0152】
実施例5−1〜実施例5−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0153】
【表5】
【0154】
表5に示すように、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフトのSiO
2領域のピーク値強度値Bが小さくなり、A/Bが0.8以上となる場合に高い電池特性が得られた。このように、Li反応サイトであるSiO
2部を予め減らすことで電池の初期効率が向上すると共に、安定したLi化合物がバルク内、または表面に存在する事で充放電に伴う電池劣化の抑制が可能となることが分かった。
また、実施例5−2〜実施例5−6においては、電池終始電位が3.0V時に負極終止電位が0.35V以上0.85V以下であるため、実施例5−1よりさらに良好な電池特性が得られている。
【0155】
(実施例6−1〜実施例6−7)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、負極活物質中の炭素系活物質の種類及び炭素系活物質の総重量にしめる天然黒鉛の比率(質量%)を表6に示すように変化させた。
【0156】
実施例6−1〜実施例6−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0157】
【表6】
【0158】
表6に示すように、天然黒鉛の比率が30%以上である場合は、天然黒鉛の比率が30%未満となった場合(実施例6−4)に比べ、初期効率、維持率が高くなることがわかった。また、人造黒鉛の混合量が増加すると共に電池特性向上が得られることがわかった。人造黒鉛は、初期効率サイクル特性が高く、人造黒鉛を混合することで電池特性の向上が見られることがわかった。
【0159】
(実施例7−1)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、負極中に導電助剤としてCNTを添加しなかった。
【0160】
実施例7−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0161】
【表7】
【0162】
表7に示すように、CNTを添加した方が維持率、初期効率が共に向上することが確認された。このように、負極中にCNTを添加すれば、ケイ素系活物質(SiO材)及び炭素系活物質間の電子コンタクトを得られるため、電池特性が向上することが分かった。
【0163】
(実施例8−1〜実施例8−6)
ケイ素系活物質のバルク内に生成されるLiシリケート化合物(Li
2SiO
3及びLi
4SiO
4)の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶化度の調整はLiの挿入・脱離後に、非大気雰囲気下で熱処理を加えることで可能である。
【0164】
実施例8−1〜実施例8−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0165】
【表8】
【0166】
Liシリケート化合物の結晶化度が低いほど容量維持率の向上が見られた。これは、結晶化度が低い場合、活物質中の抵抗を減少させられるためと考えらえる。
【0167】
(実施例9−1〜実施例9−9)
ケイ素系活物質の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例9−1〜9−9のケイ素系活物質の半値幅を表9中に示した。実施例9−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例9−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。
【0168】
実施例9−1〜実施例9−9の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0169】
【表9】
【0170】
表9に示すように、それらの結晶性に応じて容量維持率および初回効率が変化した。
特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率、初期効率が得られた。特に、非結晶領域(実施例9−9)では最も良い電池特性が得られた。
【0171】
(実施例10−1〜実施例10−7)
炭素系活物質のメジアン径X、ケイ素活物質のメジアン径Y、及びX/Yの値を表10のように変えたことの他は、実施例1−2と同様にして二次電池の製造を行った。
【0172】
実施例10−1〜実施例10−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0173】
【表10】
【0174】
表10からわかるように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0175】
(実施例11−1〜実施例11−6、比較例11−1〜比較例11−3)
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)であるLiNi
0.7Co
0.25Al
0.05Oを使用し、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を、下記の表11−1に示すように変更したことの他は、実施例1−1と同様に二次電池を作製した。但し、SiO材比率が15%を超える場合(実施例11−3〜実施例11−6)、バインダがSBR/CMCでは、担持しづらくなるためPIバインダを使用した。比較例11−1においては、SiO材比率は0質量%であり、負極活物質は炭素系活物質のみとなっている。
【0176】
実施例11−1〜実施例11−6、比較例11−1〜比較例11−3の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表11−1に示した結果が得られた。
【0177】
ここで、サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、%表示のため100を掛け、容量の維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧に達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0178】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。充放電条件はサイクル特性の0.2倍で行った。すなわち、4.3Vに達するまで定電流密度、0.5mA/cm
2で充電し、電圧が4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.05mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
このように、電池の放電終止電位を2.5Vとして、二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べた。以後の実施例、比較例では、放電終止電位を2.5Vとして、二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べた。
【0179】
【表11-1】
【0180】
(実施例11−7〜実施例11−12、比較例11−4〜比較例11−6)
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)であるLiCo
0.33Ni
0.33Mn
0.33O
2を使用し、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を、下記の表11−2に示すように変更したことの他は、実施例1−1と同様に二次電池を作製した。但し、SiO材比率が15%を超える場合(実施例11−9〜実施例11−12)、SBR/CMCバインダでは、担持し辛くなるためPIバインダを使用した。比較例11−4においては、SiO材比率は0質量%であり、負極活物質は炭素系活物質のみとなっている。
【0181】
また、実施例11−1〜実施例11−6、比較例11−1〜比較例11−3と同様に、電池の放電終止電圧を2.5Vとして二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表11−2に示した結果が得られた。
【0182】
【表11-2】
【0183】
表11−1、表11−2に示すように、正極活物質材がNCA、NCMのいずれの場合であっても、SiO材比率が増加すると共に充電時の体積密度が低下し、負極終止電位が高くなる。
【0184】
また、比較例11−1、実施例11−2、実施例11−4〜実施例11−6において、二次電池の容量増加率を調べたところ表11aのような結果が得られた。ここでいう容量増加率は、ケイ素系活物質の比率を0wt%とした場合の電池容量を基準として算出している。
【0185】
【表11a】
【0186】
ここで、
図4に、正極がNCAである場合における、負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の比率と二次電池の電池容量の増加率との関係を表すグラフを示す。
図4中のcで示す曲線は、本発明の負極活物質中においてケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。一方、
図4中のdで示す曲線はLiをドープしていないケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。この場合も、負極活物質中でのケイ素系活物質の比率が6wt%以上となると、本発明の負極を有する二次電池の電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、負極活物質の体積エネルギー密度も、特に顕著に増加する。
【0187】
比較例11−1〜比較例11−6のように、SiO材比率が5質量%以下の範囲では、炭素系活物質の比率が高いため維持率、初期効率はともに高い数値となる。しかし、SiO放電電位が炭素系活物質に対して高い影響を受けるため、電池の体積エネルギー密度(Wh/l)の増加が見込めない。負極活物質中のケイ素系活物質の比率が6質量%以上で体積エネルギー密度の増加が顕著となる。
これは、一般的な炭素材の可逆容量が330mAh/gであり、SiO材は1500mAh/g程度であり、例えば、SiO材を5質量%添加した場合、負極容量のうちケイ素系材料は約19%程度の容量を担うこととなる。また、SiO材を6質量%添加した場合、負極容量のうちケイ素系活物質は約22.5%程度の容量を担うこととなる。これらの容量を担う領域において負極電位の放電カーブの形状変化が大きく寄与する。特に、SiO材を5質量%以下添加した場合では負極における放電カーブが高い影響を受け、実質的な電池容量向上は小さくなる。一方で、SiO材を6質量%以上添加した場合では、ケイ素系活物質が担う容量が大きく、実質的な電池容量向上が実現できる。
【0188】
以降の実験では、正極活物質をNCMとして二次電池を作製して実験を行っている。
【0189】
(実施例12−1〜実施例12−5、比較例12−1、比較例12−2)
負極材を製造する際のケイ素系活物質のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例11−8と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させ堆積される酸素量を調整した。実施例12−1〜実施例12−5、比較例12−1、比較例12−2における、SiO
xで表されるケイ素系活物質のxの値を表12に示した。
【0190】
実施例12−1〜実施例12−5、比較例12−1、比較例12−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
【0191】
【表12】
【0192】
表12からわかるように、酸素が十分にない場合(比較例12−1、x=0.3)、初期効率は向上するものの容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合(比較例12−2、x=1.8)、導電性の低下が生じ導電性の低下が生じSiO材の容量が設計通り発現しなかった。炭素材のみ充放電を行ったが容量増加が得られず評価を中断している。このように、0.5≦x≦1.8の範囲で、良好な電池特性を得られることが確認された。
【0193】
(実施例13−1〜実施例13−5)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、二次電池の負極利用率を表13に示すように変化させた。これに伴い、負極終止電位及び負極活物質の充電時の体積密度も表13に示すように変化した。
【0194】
実施例13−1〜実施例13−5の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表13に示した結果が得られた。
【0195】
【表13】
【0196】
負極利用率が93%未満の場合(実施例13−1、実施例13−2)と比べ、負極利用率が93%以上の場合(実施例13−3〜実施例13−5)は、電池初期効率が増加するため電池容量の大幅な向上が見込める。
また、負極利用率100%とした場合は電池容量が増加すると考えられるが、設計上Li析出が懸念されるため最大利用率を99%とすることが望ましい。以上より、電池容量増加を考慮した場合、負極利用率は93%以上99%以下であることが望ましいことが分かった。
【0197】
(実施例14−1、実施例14−2、比較例14−1)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、実施例14−1では、ケイ素系活物質の表層にLiF、炭素層を、実施例14−2ではLi
2CO
3、炭素層を担持させた。また、比較例14−1では表層にLiF、Li
2CO
3、炭素層のいずれも担持させなかった。
【0198】
実施例14−1、実施例14−2、比較例14−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表14に示した結果が得られた。
【0199】
【表14】
【0200】
表14に示すように、ケイ素系活物質の表層にLiF、Li
2CO
3、炭素層を担持させることで、容量の維持率、初期効率いずれも向上させられることが確認された。
【0201】
(実施例15−1〜実施例15−6)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、バルク内に生成するSi/SiO
2成分を変化させることで、SiO単体の初期効率を増減させ、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO
2領域のピーク値強度値Bの比A/Bを表15に示すように変化させた。これは、SiO
2領域を電気化学的なLiドープ法を用いて、電位規制を行うことで制御できる。
【0202】
実施例15−1〜実施例15−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表15に示した結果が得られた。
【0203】
【表15】
【0204】
表15に示すように、
29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフトのSiO
2領域のピーク値強度値Bが小さくなり、A/Bが0.8以上となる場合に高い電池特性が得られた。このように、Li反応サイトであるSiO
2部を予め減らすことで電池の初期効率が向上すると共に、安定したLi化合物がバルク内、または表面に存在する事で充放電に伴う電池劣化の抑制が可能となることが分かった。
また、実施例15−2〜実施例15−6においては、電池終始電位が2.5V時に負極終止電位が0.39V以上1.06V以下であるため、実施例15−1よりさらに良好な電池特性が得られている。
【0205】
(実施例16−1〜実施例16−7)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、負極活物質中の炭素系活物質の種類及び炭素系活物質の総重量にしめる天然黒鉛の比率(質量%)を表16に示すように変化させた。
【0206】
実施例16−1〜実施例16−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表16に示した結果が得られた。
【0207】
【表16】
【0208】
表16に示すように、天然黒鉛の比率が30%以上である場合は、天然黒鉛の比率が30%未満となった場合(実施例16−4)に比べ、初期効率、維持率が高く、人造黒鉛の混合量が増加すると共に電池特性向上が得られることがわかった。また、人造黒鉛は、初期効率サイクル特性が高く、天然黒鉛の比率が30%以上であることを満たしつつ人造黒鉛を混合することで電池特性の向上が見られることがわかった(実施例16−1〜実施例16−3)。
【0209】
(実施例17−1)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、負極中に導電助剤としてCNTを添加しなかった。
【0210】
実施例17−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表17に示した結果が得られた。
【0211】
【表17】
【0212】
表17に示すように、CNTを添加した方が維持率、初期効率が共に向上することが確認された。このように、負極中にCNTを添加すれば、ケイ素系活物質と炭素系活物質間の電子コンタクトを得られるため、電池特性が向上することが分かった。
【0213】
(実施例18−1〜実施例18−6)
ケイ素系活物質のバルク内に生成するLiシリケート化合物(Li
2SiO
3及びLi
4SiO
4)の結晶性を変化させた他は、実施例11−8と同様に二次電池の製造を行った。Liシリケート化合物の結晶化度の調整はLiの挿入・脱離後に、非大気雰囲気下で熱処理を加えることで可能である。
【0214】
実施例18−1〜実施例18−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表18に示した結果が得られた。
【0215】
【表18】
【0216】
Liシリケート化合物の結晶化度が低いほど容量維持率の向上が見られた。これは、結晶化度が低い場合、活物質中の抵抗を減少させられるためと考えらえる。従って、より望ましくはLiシリケート化合物が非晶質であることが好ましく、このようにすればより良好な電池特性を得られると考えられる。
【0217】
(実施例19−1〜実施例19−9)
ケイ素系活物質の結晶性を変化させた他は、実施例11−8と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例19−1〜19−9のケイ素系活物質の半値幅を表19中に示した。実施例19−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例19−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。
【0218】
実施例19−1〜実施例19−9の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表19に示した結果が得られた。
【0219】
【表19】
【0220】
表19に示すように、それらの結晶性に応じて容量維持率および初回効率が変化した。
特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率、初期効率が得られた。特に、非結晶領域では最も良い電池特性が得られた。
【0221】
(実施例20−1〜実施例20−7)
炭素系活物質のメジアン径X、ケイ素活物質のメジアン径Y、及びX/Yの値を表20のように変えたことの他は、実施例11−8と同様にして二次電池の製造を行った。
【0222】
実施例20−1〜実施例20−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表20に示した結果が得られた。
【0223】
【表20】
【0224】
表20からわかるように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0225】
(実施例21−1〜実施例21−12)
基本的に、実施例1−1〜実施例1−6と同様に二次電池を作製した。
但し、実施例21−1、実施例21−2では、ケイ素系活物質として、粉末状態のケイ素材を、熱ドープ法を用いて改質したものを使用した。また、実施例21−1では、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を30質量%とした。また、実施例21−2においては、SiO材比率を50質量%とした。
【0226】
また、実施例21−3〜実施例21−12においては、ケイ素系活物質のバルク内改質は、未改質のケイ素系活物質と炭素系活物質の混合スラリーを負極集電体(金属集電体)に塗布した後に、負極集電体上に塗布された混合スラリー中のケイ素系活物質を改質することにより行った。負極集電体に塗布した後のケイ素材の改質方法としては、実施例21−3〜実施例21−9においては電気化学法を、実施例21−10においてはLi金属貼り付け法を、実施例21−11〜実施例21−12においてはLi蒸着法を用いた。尚、Li金属貼り付け法としては、特に限定されることは無いが、負極集電体に混合スラリーを塗布した後、さらにリチウム金属箔を付着させ、簡易プレスを行い、その後、真空環境下200℃で熱処理をすることでケイ素活物質を改質する方法を用いることができる。また、Li金属貼り付け法として、その他にも、上記同様リチウム金属箔を貼り付けた後、電解液に含浸させ、60℃で1週間程度保存する方法や、上記同様リチウム金属箔を貼り付けた後に、倦回して電池を作製した後の初期充電でリチウムをケイ素系活物質へ入れる方法などが挙げられる。
【0227】
また、実施例21−3〜実施例21−6及び実施例21−11のSiO材比率を30質量%、実施例21−7のSiO材比率を50質量%、実施例21−8〜実施例21−10及び実施例21−12のSiO材比率を80質量%とした。
【0228】
実施例21−1〜実施例21−12の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表21に示した結果が得られた。
【0229】
【表21】
【0230】
表21から分かるように、実施例21−1、21−2のように、負極集電体に塗布する前の粉末状態のケイ素材を、熱ドープ法を用いて改質した場合も、良好な維持率及び初期効率となり、ケイ素材の改質が十分に行えることを確認できた。また、実施例21−3〜実施例21−12のように、混合スラリーを金属集電体に塗布した後に、ケイ素系活物質の改質を行うことで、維持率及び初期効率がより一層向上していることが確認できた。また、特に、A/B比を大幅に向上させる場合、混合スラリーを金属集電体に塗布した後に、電気化学法によりケイ素系活物質の改質を行うことが好ましい。電気化学法を用いれば、Li貼り付け法やLi蒸着に比べて、より容易にケイ素系活物質内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することが可能な改質ができる。
【0231】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。