特許第6397262号(P6397262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6397262
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20180913BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180913BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180913BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20180913BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180913BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/587
   H01M4/36 C
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 E
   H01M4/62 Z
   H01M4/58
   H01M10/052
【請求項の数】8
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-164368(P2014-164368)
(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-165482(P2015-165482A)
(43)【公開日】2015年9月17日
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-22151(P2014-22151)
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博樹
(72)【発明者】
【氏名】加茂 博道
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−059213(JP,A)
【文献】 特開2013−073764(JP,A)
【文献】 特開2013−110105(JP,A)
【文献】 特開2013−098070(JP,A)
【文献】 特開2011−222153(JP,A)
【文献】 特開2004−193052(JP,A)
【文献】 特開2013−110104(JP,A)
【文献】 特開2011−113862(JP,A)
【文献】 特開2005−293943(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108113(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極と、正極活物質としてコバルト酸リチウムを含有する正極を有する非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質は、少なくともケイ素系活物質(SiO:0.5≦x≦1.6)及び炭素系活物質を含むとともに、前記ケイ素系活物質の内部にLiSiO及びLiSiOのうち少なくとも一種を含み、前記ケイ素系活物質の表層はLiCO、LiF、炭素の少なくとも一種にて被覆されており、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の比が6質量%以上であり、
前記負極活物質の充電時の体積密度が、0.75g/cc以上1.38g/cc以下であり、
電池終止電位が3Vであるときの前記負極における負極放電終止電位が0.35V以上0.85V以下であり、
前記非水電解質二次電池用負極において、負極利用率が93%以上99%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
複数の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極と、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物又はリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含有する正極を有する非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質は、少なくともケイ素系活物質(SiO:0.5≦x≦1.6)及び炭素系活物質を含むとともに、前記ケイ素系活物質の内部にLiSiO及びLiSiOのうち少なくとも一種を含み、前記ケイ素系活物質の表層はLiCO、LiF、炭素の少なくとも一種にて被覆されており、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の比が6質量%以上であり、
前記負極活物質の充電時の体積密度が、0.75g/cc以上1.38g/cc以下であり、
電池終止電位が2.5V時の前記負極における負極放電終止電位が0.39V以上1.06V以下であり、
前記非水電解質二次電池用負極において、負極利用率が93%以上99%以下であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記非水電解質二次電池用負極は、カーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記炭素系活物質は天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち少なくとも2種を含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記炭素系活物質は天然黒鉛を含み、前記炭素系活物質の総重量に占める前記天然黒鉛の比率が30質量%以上80質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記炭素系活物質のメジアン径Xと前記ケイ素系活物質のメジアン径YがX/Y≧1の関係を満たすものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
ケイ素系活物質の29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO領域のピーク値強度値BがA/B≧0.8の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiO及びLiSiOは非晶質であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極および負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。
電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。
また、活物質形状は、炭素材では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。
負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。
また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。
さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。
また、サイクル特性向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。
また、サイクル特性改善のため、SiO(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。
また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。
また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。
また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm−1及び1580cm−1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。
また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、ケイ素と炭素の混合電極を作成しケイ素比率を5wt%以上13wt%以下で設計している(例えば、特許文献13参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−185127号公報
【特許文献2】特開2002−042806号公報
【特許文献3】特開2006−164954号公報
【特許文献4】特開2006−114454号公報
【特許文献5】特開2009−070825号公報
【特許文献6】特開2008−282819号公報
【特許文献7】特開2008−251369号公報
【特許文献8】特開2008−177346号公報
【特許文献9】特開2007−234255号公報
【特許文献10】特開2009−212074号公報
【特許文献11】特開2009−205950号公報
【特許文献12】特許第2997741号明細書
【特許文献13】特開2010−092830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。
この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。
しかしながら、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、電池容量の増加、サイクル特性及び初期充放電特性を向上させることが可能な負極電極、及びこの負極電極を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、複数の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極であって、前記負極活物質は、少なくともケイ素系活物質(SiO:0.5≦x≦1.6)及び炭素系活物質を含むとともに、前記ケイ素系活物質の内部にLiSiO及びLiSiOのうち少なくとも一種を含み、前記ケイ素系活物質の表層はLiCO、LiF、炭素の少なくとも一種にて被覆されており、前記負極活物質の総量に対する前記ケイ素系活物質の比が6質量%以上であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0014】
このような負極は、炭素材が、より低電位で放電が可能であるため、ケイ素系活物質と炭素系活物質を混合することで電池の体積エネルギー密度を向上させることができる。また、ケイ素系活物質は、リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO成分部が予め別のLi化合物に改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。更に、ケイ素系活物質表層に被覆されるLiCO、LiFは耐水性が高く、炭素は導電性を高めることができるので電池特性を向上させることができる。更に、負極活物質中のケイ素系活物質の比が6質量%以上であれば、炭素材に対して高電位放電であるケイ素材であっても電池の体積エネルギー密度を向上させることができる。
【0015】
このとき、前記負極活物質の充電時の体積密度が、0.75g/cc以上1.38g/cc以下であることが好ましい。
このような体積密度の範囲であれば、負極において体積エネルギー密度が低下し難くなる。
【0016】
またこのとき、前記非水電解質二次電池用負極は、カーボンナノチューブを含むことが好ましい。
カーボンナノチューブ(CNT)は膨張率及び収縮率が高いケイ素系活物質と炭素系活物質の電気コンタクトを得ることに適しており、負極に良好な導電性を付与することができる。
【0017】
このとき、前記炭素系活物質は天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち少なくとも2種を含むことが好ましい。
これらのようなもののうち少なくとも2種が含まれていれば、良好な電池特性を得ることができる。
【0018】
またこのとき、前記炭素系活物質は天然黒鉛を含み、前記炭素系活物質の総重量に占める前記天然黒鉛の比率が30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
天然黒鉛は、ケイ素材の膨張及び収縮に伴う応力緩和に適しており、これにより負極活物質の破壊を抑制でき、良好なサイクル特性を得ることができる。
【0019】
このとき、前記炭素系活物質のメジアン径Xと前記ケイ素系活物質のメジアン径YがX/Y≧1の関係を満たすものであることが好ましい。
膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。更に、炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0020】
またこのとき、ケイ素系活物質の29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO領域のピーク値強度値BがA/B≧0.8の関係を満たすことが好ましい。
ケイ素系活物質として、上記のピーク値強度値比を有するものを用いることで、さらに良好な初期充放電特性が得られる。
【0021】
このとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiOは、X線回折により38.2680°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.75°以上であることが好ましい。
このようにケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiOの結晶性が低ければ、電池特性の悪化を低減できる。
【0022】
またこのとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiOは、X線回折により23.9661°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.2°以上であることが好ましい。
このようにケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiOの結晶性が低ければ、電池特性の悪化を低減できる。
【0023】
このとき、前記ケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiO及びLiSiOは非晶質であることが好ましい。
これらのリチウム化合物が非晶質であれば、電池特性の悪化をより確実に低減できる。
できる。
【0024】
またこのとき、前記ケイ素系活物質は、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズは7.5nm以下であることが好ましい。
このようなものであれば、Si結晶核が減少するため、良好な電池サイクル特性が得られる。
【0025】
また本発明は、上記のような非水電解質二次電池用負極を有し、正極活物質としてコバルト酸リチウムを含有する正極を有し、電池終止電位が3Vであるときの前記負極における負極放電終止電位が0.35V以上0.85V以下であることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0026】
正極に含まれる正極活物質がコバルト酸リチウムである場合に、このように、負極終止電位を0.85V以下へ下げる事で負極表面に生成する被膜成分の一部剥離、溶解を抑制し、電池のサイクル特性を向上させることができる。更に、負極終止電位が0.35V以上であれば、体積エネルギー密度が高くなり、電池容量を向上させ易くすることができる。
【0027】
さらに本発明は、非水電解質二次電池用負極を有し、正極活物質としてリチウムニッケルコバルト複合酸化物を含有する正極を有し、電池終止電位が2.5V時の前記負極における負極放電終止電位が0.39V以上1.06V以下であることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0028】
このように、正極が正極活物質としてリチウムニッケルコバルト複合酸化物を含有するものである場合は、負極終止電位を1.06V以下へ下げる事で負極表面に生成する被膜成分の一部剥離、溶解を抑制し、電池サイクル特性が向上する。更に、負極終止電位が0.39V以上であれば、体積エネルギー密度が高くなり、電池容量を向上させ易くすることができる。
【0029】
このとき、前記リチウムニッケルコバルト複合酸化物は、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、又はリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物であることが好ましい。
このようなものであれば、本発明の非水電解質二次電池の正極活物質として好適に用いることができる。
【0030】
またこのとき、前記非水電解質二次電池用負極において、負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。
負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【0031】
上記目的を達成するために、本発明は、さらに、負極活物質及び金属集電体を含む非水電解質二次電池用負極の製造方法であって、前記負極活物質として、未改質のケイ素系活物質(SiO:0.5≦x≦1.6)及び炭素系活物質を準備する工程と、該準備した前記未改質のケイ素系活物質と前記炭素系活物質の混合スラリーを作成する工程と、該作成した混合スラリーを、前記金属集電体上に塗布する工程と、該塗布後に、Li金属貼り付け法、Li蒸着法、及び電気化学法のうち少なくとも1種を用いて、前記金属集電体上に塗布された前記混合スラリー中の前記ケイ素系活物質を改質する工程とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極の製造方法を提供する。
【0032】
このように、塗布により金属集電体上に形成されたケイ素系活物質を、Li金属貼り付け法、Li蒸着法、及び電気化学法のうち少なくとも1種を用いて改質することで、非水電解質二次電池の負極として使用した際に、より良好な電池特性を有する負極を製造することができる。そしてこのような製造方法であれば、前述の本発明の非水電解質二次電池用負極を製造することができる。
【0033】
また、本発明では、非水電解質二次電池用負極の製造方法を用いて製造された非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0034】
上記方法で製造した電解質二次電池用負極であれば、非水電解質二次電池の負極として使用した際に、より良好な電池特性を有するものとなる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の非水電解質二次電池用負極におけるケイ素系活物質は、リチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO成分部が予め別の化合物に改質させたものであるため、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。
また、ケイ素系活物質を炭素系活物質に混合することで電池容量を増加させることができる。更に、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比を6質量%以上とすることで、電池容量を確実に向上させることが可能となる。
【0036】
本発明の負極材を用いた非水電解質二次電池用負極及びこの負極を用いた非水電解質二次電池は、電池容量、サイクル特性、及び初回充放電特性を向上させることができる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の非水電解質二次電池用負極の構成を示す断面図である。
図2】本発明の非水電解質二次電池用負極に含まれる負極活物質を製造する際に使われるバルク内改質装置である。
図3】本発明の負極を含むリチウム二次電池の構成例(ラミネートフィルム型)を表す図である。
図4】負極活物質中においてケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。
このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極電極を提案するには至っていなかった。
【0039】
そこで、本発明者らは、リチウムイオン二次電池の負極として、良好なサイクル特性が得られる負極活物質について鋭意検討を重ね、本発明に至った。
本発明の非水電解質二次電池用負極は、ケイ素系活物質(SiO:0.5≦x≦1.6)及び炭素系活物質を含むとともに、ケイ素系活物質の内部にLiSiO及びLiSiOのうち少なくとも一種を含み、ケイ素系活物質の表層はLiCO、LiF、炭素の少なくとも一種にて被覆されており、尚且つ負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比が6質量%以上である。
本発明の非水電解質二次電池用負極材を用いた非水電解質二次電池用負極について説明する。図1は、本発明の一実施形態における非水電解質二次電池用負極(以下、単に「負極」と称することがある。)の断面構成を表している。
【0040】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0041】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0042】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、100ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0043】
負極集電体11の表面は、粗化されていても、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0044】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な複数の粒子状負極活物質(以下、負極活物質粒子とも称する)を含んでおり、電池設計上、さらに負極結着剤や導電助剤など、他の材料を含んでいても良い。
【0045】
本発明の負極に用いられる負極活物質は、ケイ素系活物質及び炭素系活物質を含む。そして、ケイ素系活物質はリチウムイオンを吸蔵、放出可能なケイ素化合物の部分(表面又は内部)にLi化合物を含有しており、さらにその表面にLiCO、LiF、炭素の少なくとも一種による被膜層を有する。
【0046】
上記のように、ケイ素系活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なコア部を有し、その表層に導電性が得られる炭素被覆部、また電解液の分解反応抑制効果があるフッ化リチウム部、炭酸リチウム部の少なくとも1種以上を有している。この場合、炭素被覆部の少なくとも一部でリチウムイオンの吸蔵放出が行われても良い。また、炭素被覆部、フッ化リチウム部、炭酸リチウム部は島状、膜状のどちらでも効果が得られる。
【0047】
本発明の負極に用いられるケイ素系活物質(SiO:0.5≦x≦1.6)は酸化ケイ素材であり、その組成としてはxが1に近い方が好ましい。高いサイクル特性が得られるからである。本発明におけるケイ素材組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいても良い。
【0048】
ケイ素系活物質は、その粒子内部にLiSiO及びLiSiOのうち少なくとも一種を含み、更に上記のように、ケイ素系活物質の表層はLiCO、LiF、炭素の少なくとも1種にて被覆されている。
このようなものであれば、安定した電池特性を得ることをできる。
【0049】
このようなケイ素系活物質粒子は、内部に生成するSiO成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することにより得ることができる。なかでもLiSiO、LiSiO、は特に良い特性を示す。これはリチウム対極に対する電位規制や電流規制などを行い、条件を変更することで選択的化合物の作製が可能となる。
Li化合物はNMR(核磁気共鳴)とXPS(X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置
・X線源: 単色化Al Kα線
・X線スポット径: 100μm
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV 2mm×2mm
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器
・プローブ: 4mmHR−MASローター 50μL
・試料回転速度: 10kHz
・測定環境温度: 25℃
【0050】
選択的化合物の作製方法、すなわち、ケイ素系活物質の改質は、電気化学的手法により行うことが好ましい。
【0051】
このような改質(バルク内改質)方法を用いて負極活物質粒子を製造することで、Si領域のLi化合物化を低減、又は避けることが可能であり、大気中、又は水系スラリー中、溶剤スラリー中で安定した物質となる。また、電気化学的手法により改質を行うことにより、ランダムに化合物化する熱改質(熱ドープ法)に対し、より安定した物質を作ることが可能である。
【0052】
ケイ素系活物質のバルク内部に生成したLiSiO、LiSiOは少なくとも1種以上存在することで特性向上となるが、より特性向上となるのはこれら2種の共存状態である。
【0053】
また、ケイ素系活物質の最表層にLiF等のフッ素化合物やLiCOを生成することで、粉末の保存特性が飛躍的に向上する。特に30%以上の被覆率で存在することが良く、材質はLiF、LiCOが最も望ましく、手法は特に限定しないが、電気化学法が最も好ましい。
【0054】
特に、ケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiOは、X線回折により38.2680°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.75°以上であることが好ましい。同様にケイ素系活物質の内部に含まれるLiSiOは、X線回折により23.9661°付近でみられる回折ピークの半値幅(2θ)が0.2°以上であることが好ましい。より望ましくは、LiSiO及びLiSiOは非晶質であることが好ましい。
【0055】
ケイ素系活物質の内部に含まれるこれらのLi化合物の、結晶性が低いほど、負極活物質中の抵抗が下がり、電池特性の悪化を低減でき、実質的に非晶質であればより確実に電池特性の悪化を低減できる。
【0056】
また、本発明において負極活物質はケイ素系活物質と炭素系活物質を混合したものである。より低電位放電が可能な炭素材は電池の体積エネルギー密度向上へ繋がる。
【0057】
負極に含まれる炭素系活物質は、天然黒鉛ベースが良い。具体的には、天然黒鉛が、炭素系活物質の総重量に占める天然黒鉛の比率が30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
天然黒鉛はケイ素材の膨張及び収縮に伴う応力緩和に適しており、上記のような比率であればサイクル特性に優れた負極となる。
更に、より優れたサイクル特性を得るには人造黒鉛を含むことが望ましい。ただし、天然黒鉛に対して硬い人造黒鉛はケイ素材の膨張及び収縮に伴う応力緩和には不向きであるため、天然黒鉛に対して10%以上120%以下の添加量とすることが望ましい。
【0058】
また、負極に含まれる炭素系活物質は天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンのうち少なくとも2種を含むことが好ましい。
これらの炭素系活物質の中の2種類以上を含むことで応力緩和力を有するとともに電池容量に優れた負極活物質となる。
【0059】
そして、本発明においてケイ素系活物質は、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比率を6質量%以上とする。さらに、ケイ素材単体の電池効率75%以上が望ましい。
初期効率が低く、炭素系活物質に対して高電位放電であるケイ素系活物質を使用する場合であっても、上記比率以上であれば、電池の体積エネルギー密度を上昇させることが可能である。
【0060】
本発明の負極材に含まれるケイ素系活物質の結晶性は低いほどよい。具体的には、ケイ素系活物質のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下であることが望ましい。特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的なLi化合物の生成をすることができる。
【0061】
ケイ素系活物質のメジアン径は特に限定されないが、中でも0.5μm〜20μmであることが好ましい。この範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、粒子が割れにくくなるからである。このメジアン径が0.5μm以上であれば表面積が大きすぎないため、電池不可逆容量を低減することができる。一方、メジアン径が20μm以下であれば、粒子が割れにくく新生面が出にくいため好ましい。
【0062】
また、ケイ素系活物質のメジアン径は、炭素系活物質のメジアン径をX、ケイ素系活物質のメジアン径をYとしたときに、X/Y≧1の関係を満たすものであることが好ましい。
このように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。更に、炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0063】
ここで、負極活物質のケイ素系材料は、29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフト値として、−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク強度値Aと−100〜−150ppmに与えられるSiO領域のピーク強度値Bが、A/B≧0.8というピーク強度比の関係を満たすことが好ましい。
このようなものであれば、安定した電池特性を得ることができる。
【0064】
ケイ素系活物質の表層に炭素を被覆する場合、炭素被覆部の平均厚さは、特に限定されないが1nm〜5000nm以下であることが望ましい。
このような厚さであれば電気伝導性を向上させることが可能である。炭素被覆部の平均厚さが5000nmを超えても電池特性を悪化させる事はないが、電池容量が低下するため、5000nm以下とすることが好ましい。
【0065】
この炭素被覆部の平均厚さは以下の手順により算出される。まず、TEM(透過型電子顕微鏡)により任意の倍率で負極活物質を観察する。この倍率は厚さを測定するため目視で確認できる倍率が好ましい。続いて、任意の15点において、炭素材被覆部の厚さを測定する。このとき、できるだけ特定の場所に測定位置を集中させず、広くランダムに測定位置を設定することが好ましい。最後に測定結果から厚さの平均値を算出する。
【0066】
また、ケイ素系活物質の表層における炭素材の被覆率は特に限定されないが、できるだけ高い方が望ましい。中でも被覆率が30%以上あれば、十分な電気伝導性が得られる。
これらの炭素材被覆手法は特に限定されないが、糖炭化法、炭化水素ガスの熱分解法が好ましい。これらの方法であれば、炭素材の被覆率を向上させることができるからである。
【0067】
負極結着剤として、例えば高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上があげられる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、あるいはカルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、あるいはエチレンプロピレンジエンなどである。
【0068】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上があげられる。
特にカーボンナノチューブは膨張収縮率が高いケイ素材と炭素材の電気コンタクトを得ることに向いている。
【0069】
負極活物質層は、例えば塗布法で形成される。塗布法とは負極活物質粒子と上記した結着剤など、また必要に応じて導電助剤、炭素材料を混合したのち、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0070】
[負極の製造方法]
最初に本発明の非水電解質二次電池用負極材に含まれる負極活物質粒子の製造方法を説明する。まず、SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素系活物質を作製する。次に、ケイ素系活物質にLiを挿入することにより、該ケイ素系活物質の表面若しくは内部又はその両方にLi化合物を生成させて該ケイ素系活物質を改質する。
【0071】
より具体的には、負極活物質粒子は、例えば、以下の手順により製造される。
【0072】
まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0073】
次に、得られた粉末材料の表層に炭素層を生成することができるが、この工程は必須ではない。
【0074】
得られた粉末材料の表層に炭素層を生成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内にセットした酸化ケイ素粉末と炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、活物質粒子の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、CnHm組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性が良いからである。
【0075】
バルク内改質は電気化学的にLiを挿入・脱離し得ることが望ましい。特に装置構造を限定することはないが、例えば図2に示すバルク内改質装置20を用いて、バルク内改質を行うことができる。バルク内改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。粉末格納容器25には、酸化ケイ素の粉末22が格納される。
【0076】
尚、改質した酸化ケイ素の粉末22は、その後LiCO、LiF、炭素の少なくとも一種による被膜層を作製する。
【0077】
上記バルク内改質処理において、表面にフッ素化合物を生成するときは、フッ素化合物を電位、温度条件を変化させ生成させることが望ましい。これにより、より緻密な膜が得られる。特にフッ化リチウムを生成させるときは、Li挿入、Li離脱のときに45℃以上で保持することが望ましい。
【0078】
上記のように、得られた改質粒子は、炭素層を含んでいなくても良い。ただし、バルク内改質処理において、より均一な制御を求める場合、電位分布の低減などが必要であり、炭素層が存在することが望ましい。
【0079】
浴槽27内の有機溶媒23として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどを用いることができる。また、有機溶媒23に含まれる電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などを用いることができる。
【0080】
陽電極21はLi箔を用いてもよく、また、Li含有化合物を用いてもよい。Li含有化合物として、炭酸リチウム、酸化リチウム、コバルト酸リチウム、オリビン鉄リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸バナジウムリチウムなどがあげられる。
【0081】
続いて、上記ケイ素系活物質と前記の炭素系活物質を混合するとともに、負極活物質粒子と負極結着剤、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0082】
次に負極集電体の表面に合剤スラリーを塗布し、乾燥させて図1に示す負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行っても良い。
【0083】
この負極によれば、バルク内に存在するSiO成分を安定したLi化合物へ変化させると共に、表面保護層としてLi化合物、炭酸リチウムを形成し、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比を6質量%以上にする事で電池初期効率の向上や、サイクル特性に伴う活物質の安定性が向上する。
【0084】
また、本発明の負極を負極電極とした非水電解質二次電池において、正極に含まれる正極活物質がコバルト酸リチウムであり、電池終止電位が3.0Vである場合には、負極のケイ系活物質の電池効率を75%以上とすることで、電池設計上の負極終止電位を0.85V以下へ下げることが好ましい。
このように、負極終止電位を0.85V以下へ下げる事で負極表面に生成する被膜成分の一部剥離、溶解を抑制し、電池のサイクル特性が向上させることができる。
【0085】
更にこのとき、電池容量を向上させるために、負極終止電位が0.35V以上であることが好ましい。
負極終止電位が0.35V以上であれば、体積エネルギー密度が高くなり、電池容量を向上させ易くすることができる。
【0086】
また、本発明の負極を負極電極とした非水電解質二次電池において、正極に含まれる正極活物質がリチウムニッケルコバルト複合酸化物であり、電池終止電位が2.5Vである場合には、負極のケイ系活物質の電池効率を75%以上とする事で、電池設計上の負極終止電位を1.06V以下へ下げる事が好ましい。
このように、負極終止電位を1.06V以下へ下げる事で負極表面に生成する被膜成分の一部剥離、溶解を抑制し、電池サイクル特性が向上する。
【0087】
更にこのとき、電池容量を向上させるために、負極終止電位が0.39V以上であることが好ましい。
負極終止電位が0.39V以上であれば、体積エネルギー密度が高くなり、電池容量を向上させ易くすることができる。
【0088】
上記のリチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)、又はリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)を好適に用いることができる。
【0089】
また、充電時の負極活物質層中の負極活物質の体積密度が0.75g/cc以上、1.38g/cc以下であることが望ましい。体積密度が0.75g/cc以上であれば、負極体積エネルギー密度が増加する。また体積密度が1.38g/cc以下であれば、ケイ素系活物質の添加量が少なくなることがなく、炭素系活物質を単独で負極活物質として使用する場合と比較しても電池の体積エネルギー密度(Wh/l)が著しく低くなることがない。
【0090】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記した負極を用いた非水電解質二次電池の具体例として、リチウムイオン二次電池について説明する。
【0091】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回体は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0092】
正負極リードは、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0093】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0094】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0095】
[正極]
正極は、例えば、図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0096】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0097】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0098】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiあるいはLiPOで表される。式中、M、Mは少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0099】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1−uMnPO(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0100】
[負極]
負極は、上記した図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0101】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0102】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0103】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0104】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0105】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0106】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒としてハロゲン化鎖状炭酸エステル又はハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において負極活物質表面に安定な被膜が形成されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0107】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素がより好ましい。他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は、多いほど望ましい。得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0108】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどがあげられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0109】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0110】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0111】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0112】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0113】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0114】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
【0115】
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0116】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0117】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(図1を参照)。
【0118】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。
以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【0119】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池30等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。
負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例】
【0120】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1−1)
以下の手順により、図3に示したラミネートフィルム型の二次電池30を作製した。
【0121】
最初に正極を作製した。正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO)を95質量部と、正極導電助剤2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVDF)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0122】
次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層を被覆した。作製した粉末はプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒(電解質塩を1.3mol/kgの濃度で含んでいる。)中で電気化学法を用いバルク改質を行った。続いて、負極ケイ素系活物質粒子と天然黒鉛(必要に応じて人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンを一部配合)を15:85の重量比で配合した。次に配合した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2、スチレンブタジエンコポリマー(以下、SBRと称する)、カルボメチルセルロース(以下、CMCと称する)を90.5〜92.5:1:1:2.5:3〜5の乾燥重量比で混合した後、純水で希釈し負極合材スラリーとした。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。
【0123】
また、ケイ素系活物質粒子と天然黒鉛を50:50の重量比で配合した。活物質材、導電助剤1、導電助剤2、負極結着剤の前駆体とを80〜83:10:2:5〜8の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で400℃で1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成される。
【0124】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC))、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合したのち、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0125】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0126】
(実施例1−2〜実施例1−6)
実施例1−1と同様に、二次電池を作製したが、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を、下記の表1に示すように6質量%以上の範囲で変更した。実施例1−3〜実施例1−6のように、SiO材比率が15%を超える場合、バインダではSBR/CMCでは担持し辛くなるため、PI(ポリイミド)をバインダとして使用した。
(比較例1−1〜比較例1−3)
実施例1−1と同様に、二次電池を作製したが、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比を、下記の表1に示すように6質量%未満の範囲で変更した。比較例1−1においては、SiO材比率は0質量%であり、負極活物質は炭素系活物質のみとなっている。
【0127】
実施例1−1〜1−6、比較例1−2〜比較例1−3におけるケイ素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。ケイ素系活物質のメジアン径Yは4μmであった。X線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は2.593°であり、その結晶面(111)に起因する結晶子サイズは3.29nmであった。SiOxで表されるケイ素系活物質において、xの値は1.0であった。表層には含有物としてLiF、LiCO、炭素層(C層)が形成されており、活物質内には含有物としてLiSiO、LiSiOが形成されていた。
このとき、ケイ素系活物質の29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO領域のピーク値強度値Bの比A/B=2であった。
【0128】
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜比較例1−3における炭素系活物質はいずれも以下の物性を有していた。炭素系活物質のメジアン径Xは20μmであった。従って、炭素系活物質のメジアン径Xとケイ素系活物質のメジアン径Yの比X/Y=5であった。また、炭素系活物質中に含まれる天然黒鉛の比率は100%であった。
【0129】
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜比較例1−3の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0130】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。このとき、ケイ素系活物質(SiO材)の初期効率は80%であった。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、%表示のため100を掛け、容量の維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cmで充電し、電圧に達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cmに達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cmの定電流密度で電池電圧が3.0Vに達するまで放電した。
この際、対極リチウムを用い電圧が0(V)まではCC(定電流)モード、0(V)からはCV(定電圧)モードで充電を行い、電流値が0.07Cとなった時に充電を終了した。そして、この充電を行った後、CC(定電流)で電池電圧が3.0Vに達するまで放電を行った。
【0131】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。充放電条件はサイクル特性の0.2倍で行った。すなわち、4.3Vに達するまで定電流密度、0.5mA/cmで充電し、電圧が4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.05mA/cmに達するまで充電し、放電時は0.5mA/cmの定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0132】
【表1】
【0133】
SiO比率が増加すると共に充電時の体積密度が低下し、負極終止電位が高くなる。
【0134】
また、比較例1−1、実施例1−2、実施例1−4〜実施例1−6において、二次電池の容量増加率を調べたところ表1aのような結果が得られた。ここでいう容量増加率は、ケイ素系活物質の比率を0wt%とした場合の電池容量を基準として算出している。
【0135】
【表1a】
【0136】
表1aから分かるように、ケイ素系活物質の比率が高くなるほどSiO放電電位が炭素材に対して受ける影響が小さくなり電池容量の増加が見込める。
【0137】
ここで、図4に負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の比率と二次電池の電池容量の増加率との関係を表すグラフを示す。
図4中のaで示す曲線は、本発明の負極活物質中においてケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。一方、図4中のbで示す曲線はLiをドープしていないケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。
図4に示すように、曲線aはケイ素系活物質の比率が6wt%以上となる範囲で、曲線bよりも電池容量の増加率が特に大きくなり、ケイ素系活物質の比率が高くなるにつれて、その差は広がっていく。以上の表1、表1a及び図4の結果より、本発明において、負極活物質中でのケイ素系活物質の比率が6wt%以上となると電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、このことから負極活物質の体積エネルギー密度が、上記比率の範囲で特に顕著に増加することが分かった。
【0138】
一方で、比較例1−1〜比較例1−3のように、SiO比率が5質量%以下の範囲では、炭素系活物質の比率が高いため維持率、初期効率はともに高い数値となる。しかし、SiO放電電位が炭素系活物質に対して高い影響を受けるため、電池の体積エネルギー密度(Wh/l)の増加が見込めない。
【0139】
(実施例2−1〜実施例2−5、比較例2−1、比較例2−2)
負極材を製造する際のケイ素系活物質のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1−2と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させ堆積される酸素量を調整した。実施例2−1〜2−5、比較例2−1、2−2における、SiOで表されるケイ素系活物質のxの値を表2に示した。
【0140】
実施例2−1〜2−5、比較例2−1、2−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0141】
【表2】
【0142】
表2からわかるように、酸素が十分にない場合(比較例2−1、x=0.3)、初期効率は向上するものの容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合(比較例2−2、x=1.8)、導電性の低下が生じSiO材の容量が設計通り発現しなかった。このとき、炭素材のみ充放電を行ったが容量増加が得られず評価を中断している。
【0143】
(実施例3−1〜実施例3−5)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、二次電池の負極利用率を表3に示すように変化させた。これに伴い、負極終止電位及び負極活物質の充電時の体積密度は表3に示すように変化した。
【0144】
実施例3−1〜実施例3−5の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0145】
【表3】
【0146】
負極利用率が93%未満の場合(実施例3−1、実施例3−2)と比べ、負極利用率が93%以上の場合(実施例3−3〜実施例3−5)は、電池の初期効率が増加するため電池容量の向上が見込める。
また、負極利用率100%は電池容量が増加すると考えられるが、設計上Li析出が懸念されるため最大利用率を99%とし実験を行った。以上より、電池容量増加を考慮した場合、負極利用率は93%以上99%以下が望ましいことが分かった。
【0147】
(実施例4−1、実施例4−2、比較例4−1)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、実施例4−1では、ケイ素系活物質の表層にLiF、炭素層を、実施例4−2ではLiCO、炭素層を担持させた。また、比較例4−1では表層にLiF、LiCO、炭素層のいずれも担持させなかった。
【0148】
実施例4−1、実施例4−2、比較例4−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0149】
【表4】
【0150】
表4に示すように、ケイ素系活物質の表層にLiF、LiCO、炭素層を担持させることで、容量の維持率、初期効率いずれも向上させられることが確認された。
【0151】
(実施例5−1〜実施例5−6)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、バルク内に生成するSi/SiO成分を変化させることで、SiO単体の初期効率を増減させ、29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO領域のピーク値強度値Bの比A/Bを表5に示すように変化させた。これは、SiO領域を電気化学的なLiドープ法を用いて、電位規制を行うことで制御できる。
【0152】
実施例5−1〜実施例5−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表5に示した結果が得られた。
【0153】
【表5】
【0154】
表5に示すように、29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフトのSiO領域のピーク値強度値Bが小さくなり、A/Bが0.8以上となる場合に高い電池特性が得られた。このように、Li反応サイトであるSiO部を予め減らすことで電池の初期効率が向上すると共に、安定したLi化合物がバルク内、または表面に存在する事で充放電に伴う電池劣化の抑制が可能となることが分かった。
また、実施例5−2〜実施例5−6においては、電池終始電位が3.0V時に負極終止電位が0.35V以上0.85V以下であるため、実施例5−1よりさらに良好な電池特性が得られている。
【0155】
(実施例6−1〜実施例6−7)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、負極活物質中の炭素系活物質の種類及び炭素系活物質の総重量にしめる天然黒鉛の比率(質量%)を表6に示すように変化させた。
【0156】
実施例6−1〜実施例6−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表6に示した結果が得られた。
【0157】
【表6】
【0158】
表6に示すように、天然黒鉛の比率が30%以上である場合は、天然黒鉛の比率が30%未満となった場合(実施例6−4)に比べ、初期効率、維持率が高くなることがわかった。また、人造黒鉛の混合量が増加すると共に電池特性向上が得られることがわかった。人造黒鉛は、初期効率サイクル特性が高く、人造黒鉛を混合することで電池特性の向上が見られることがわかった。
【0159】
(実施例7−1)
基本的に実施例1−2と同様に二次電池の製造を行ったが、負極中に導電助剤としてCNTを添加しなかった。
【0160】
実施例7−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。
【0161】
【表7】
【0162】
表7に示すように、CNTを添加した方が維持率、初期効率が共に向上することが確認された。このように、負極中にCNTを添加すれば、ケイ素系活物質(SiO材)及び炭素系活物質間の電子コンタクトを得られるため、電池特性が向上することが分かった。
【0163】
(実施例8−1〜実施例8−6)
ケイ素系活物質のバルク内に生成されるLiシリケート化合物(LiSiO及びLiSiO)の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶化度の調整はLiの挿入・脱離後に、非大気雰囲気下で熱処理を加えることで可能である。
【0164】
実施例8−1〜実施例8−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表8に示した結果が得られた。
【0165】
【表8】
【0166】
Liシリケート化合物の結晶化度が低いほど容量維持率の向上が見られた。これは、結晶化度が低い場合、活物質中の抵抗を減少させられるためと考えらえる。
【0167】
(実施例9−1〜実施例9−9)
ケイ素系活物質の結晶性を変化させた他は、実施例1−2と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例9−1〜9−9のケイ素系活物質の半値幅を表9中に示した。実施例9−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例9−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。
【0168】
実施例9−1〜実施例9−9の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表9に示した結果が得られた。
【0169】
【表9】
【0170】
表9に示すように、それらの結晶性に応じて容量維持率および初回効率が変化した。
特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率、初期効率が得られた。特に、非結晶領域(実施例9−9)では最も良い電池特性が得られた。
【0171】
(実施例10−1〜実施例10−7)
炭素系活物質のメジアン径X、ケイ素活物質のメジアン径Y、及びX/Yの値を表10のように変えたことの他は、実施例1−2と同様にして二次電池の製造を行った。
【0172】
実施例10−1〜実施例10−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表10に示した結果が得られた。
【0173】
【表10】
【0174】
表10からわかるように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0175】
(実施例11−1〜実施例11−6、比較例11−1〜比較例11−3)
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)であるLiNi0.7Co0.25Al0.05Oを使用し、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を、下記の表11−1に示すように変更したことの他は、実施例1−1と同様に二次電池を作製した。但し、SiO材比率が15%を超える場合(実施例11−3〜実施例11−6)、バインダがSBR/CMCでは、担持しづらくなるためPIバインダを使用した。比較例11−1においては、SiO材比率は0質量%であり、負極活物質は炭素系活物質のみとなっている。
【0176】
実施例11−1〜実施例11−6、比較例11−1〜比較例11−3の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表11−1に示した結果が得られた。
【0177】
ここで、サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、%表示のため100を掛け、容量の維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cmで充電し、電圧に達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cmに達するまで充電した。また放電時は2.5mA/cmの定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0178】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100を算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。充放電条件はサイクル特性の0.2倍で行った。すなわち、4.3Vに達するまで定電流密度、0.5mA/cmで充電し、電圧が4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.05mA/cmに達するまで充電し、放電時は0.5mA/cmの定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
このように、電池の放電終止電位を2.5Vとして、二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べた。以後の実施例、比較例では、放電終止電位を2.5Vとして、二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べた。
【0179】
【表11-1】
【0180】
(実施例11−7〜実施例11−12、比較例11−4〜比較例11−6)
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)であるLiCo0.33Ni0.33Mn0.33を使用し、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を、下記の表11−2に示すように変更したことの他は、実施例1−1と同様に二次電池を作製した。但し、SiO材比率が15%を超える場合(実施例11−9〜実施例11−12)、SBR/CMCバインダでは、担持し辛くなるためPIバインダを使用した。比較例11−4においては、SiO材比率は0質量%であり、負極活物質は炭素系活物質のみとなっている。
【0181】
また、実施例11−1〜実施例11−6、比較例11−1〜比較例11−3と同様に、電池の放電終止電圧を2.5Vとして二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表11−2に示した結果が得られた。
【0182】
【表11-2】
【0183】
表11−1、表11−2に示すように、正極活物質材がNCA、NCMのいずれの場合であっても、SiO材比率が増加すると共に充電時の体積密度が低下し、負極終止電位が高くなる。
【0184】
また、比較例11−1、実施例11−2、実施例11−4〜実施例11−6において、二次電池の容量増加率を調べたところ表11aのような結果が得られた。ここでいう容量増加率は、ケイ素系活物質の比率を0wt%とした場合の電池容量を基準として算出している。
【0185】
【表11a】
【0186】
ここで、図4に、正極がNCAである場合における、負極活物質材の総量に対するケイ素系活物質の比率と二次電池の電池容量の増加率との関係を表すグラフを示す。
図4中のcで示す曲線は、本発明の負極活物質中においてケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。一方、図4中のdで示す曲線はLiをドープしていないケイ素系活物質の比率を増加させた場合の電池容量の増加率を示している。この場合も、負極活物質中でのケイ素系活物質の比率が6wt%以上となると、本発明の負極を有する二次電池の電池容量の増加率は従来に比べて大きくなり、負極活物質の体積エネルギー密度も、特に顕著に増加する。
【0187】
比較例11−1〜比較例11−6のように、SiO材比率が5質量%以下の範囲では、炭素系活物質の比率が高いため維持率、初期効率はともに高い数値となる。しかし、SiO放電電位が炭素系活物質に対して高い影響を受けるため、電池の体積エネルギー密度(Wh/l)の増加が見込めない。負極活物質中のケイ素系活物質の比率が6質量%以上で体積エネルギー密度の増加が顕著となる。
これは、一般的な炭素材の可逆容量が330mAh/gであり、SiO材は1500mAh/g程度であり、例えば、SiO材を5質量%添加した場合、負極容量のうちケイ素系材料は約19%程度の容量を担うこととなる。また、SiO材を6質量%添加した場合、負極容量のうちケイ素系活物質は約22.5%程度の容量を担うこととなる。これらの容量を担う領域において負極電位の放電カーブの形状変化が大きく寄与する。特に、SiO材を5質量%以下添加した場合では負極における放電カーブが高い影響を受け、実質的な電池容量向上は小さくなる。一方で、SiO材を6質量%以上添加した場合では、ケイ素系活物質が担う容量が大きく、実質的な電池容量向上が実現できる。
【0188】
以降の実験では、正極活物質をNCMとして二次電池を作製して実験を行っている。
【0189】
(実施例12−1〜実施例12−5、比較例12−1、比較例12−2)
負極材を製造する際のケイ素系活物質のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例11−8と同様に、二次電池の製造を行った。この場合、気化出発材の比率や温度を変化させ堆積される酸素量を調整した。実施例12−1〜実施例12−5、比較例12−1、比較例12−2における、SiOで表されるケイ素系活物質のxの値を表12に示した。
【0190】
実施例12−1〜実施例12−5、比較例12−1、比較例12−2の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表12に示した結果が得られた。
【0191】
【表12】
【0192】
表12からわかるように、酸素が十分にない場合(比較例12−1、x=0.3)、初期効率は向上するものの容量維持率が著しく悪化する。また、酸素量が多すぎる場合(比較例12−2、x=1.8)、導電性の低下が生じ導電性の低下が生じSiO材の容量が設計通り発現しなかった。炭素材のみ充放電を行ったが容量増加が得られず評価を中断している。このように、0.5≦x≦1.8の範囲で、良好な電池特性を得られることが確認された。
【0193】
(実施例13−1〜実施例13−5)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、二次電池の負極利用率を表13に示すように変化させた。これに伴い、負極終止電位及び負極活物質の充電時の体積密度も表13に示すように変化した。
【0194】
実施例13−1〜実施例13−5の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表13に示した結果が得られた。
【0195】
【表13】
【0196】
負極利用率が93%未満の場合(実施例13−1、実施例13−2)と比べ、負極利用率が93%以上の場合(実施例13−3〜実施例13−5)は、電池初期効率が増加するため電池容量の大幅な向上が見込める。
また、負極利用率100%とした場合は電池容量が増加すると考えられるが、設計上Li析出が懸念されるため最大利用率を99%とすることが望ましい。以上より、電池容量増加を考慮した場合、負極利用率は93%以上99%以下であることが望ましいことが分かった。
【0197】
(実施例14−1、実施例14−2、比較例14−1)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、実施例14−1では、ケイ素系活物質の表層にLiF、炭素層を、実施例14−2ではLiCO、炭素層を担持させた。また、比較例14−1では表層にLiF、LiCO、炭素層のいずれも担持させなかった。
【0198】
実施例14−1、実施例14−2、比較例14−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表14に示した結果が得られた。
【0199】
【表14】
【0200】
表14に示すように、ケイ素系活物質の表層にLiF、LiCO、炭素層を担持させることで、容量の維持率、初期効率いずれも向上させられることが確認された。
【0201】
(実施例15−1〜実施例15−6)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、バルク内に生成するSi/SiO成分を変化させることで、SiO単体の初期効率を増減させ、29Si−MAS−NMR スペクトルから得られる、ケミカルシフト値として−60〜−100ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと−100〜−150ppmで与えられるSiO領域のピーク値強度値Bの比A/Bを表15に示すように変化させた。これは、SiO領域を電気化学的なLiドープ法を用いて、電位規制を行うことで制御できる。
【0202】
実施例15−1〜実施例15−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表15に示した結果が得られた。
【0203】
【表15】
【0204】
表15に示すように、29Si−MAS−NMR スペクトルから得られるケミカルシフトのSiO領域のピーク値強度値Bが小さくなり、A/Bが0.8以上となる場合に高い電池特性が得られた。このように、Li反応サイトであるSiO部を予め減らすことで電池の初期効率が向上すると共に、安定したLi化合物がバルク内、または表面に存在する事で充放電に伴う電池劣化の抑制が可能となることが分かった。
また、実施例15−2〜実施例15−6においては、電池終始電位が2.5V時に負極終止電位が0.39V以上1.06V以下であるため、実施例15−1よりさらに良好な電池特性が得られている。
【0205】
(実施例16−1〜実施例16−7)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、負極活物質中の炭素系活物質の種類及び炭素系活物質の総重量にしめる天然黒鉛の比率(質量%)を表16に示すように変化させた。
【0206】
実施例16−1〜実施例16−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表16に示した結果が得られた。
【0207】
【表16】
【0208】
表16に示すように、天然黒鉛の比率が30%以上である場合は、天然黒鉛の比率が30%未満となった場合(実施例16−4)に比べ、初期効率、維持率が高く、人造黒鉛の混合量が増加すると共に電池特性向上が得られることがわかった。また、人造黒鉛は、初期効率サイクル特性が高く、天然黒鉛の比率が30%以上であることを満たしつつ人造黒鉛を混合することで電池特性の向上が見られることがわかった(実施例16−1〜実施例16−3)。
【0209】
(実施例17−1)
基本的に実施例11−8と同様に二次電池の製造を行ったが、負極中に導電助剤としてCNTを添加しなかった。
【0210】
実施例17−1の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表17に示した結果が得られた。
【0211】
【表17】
【0212】
表17に示すように、CNTを添加した方が維持率、初期効率が共に向上することが確認された。このように、負極中にCNTを添加すれば、ケイ素系活物質と炭素系活物質間の電子コンタクトを得られるため、電池特性が向上することが分かった。
【0213】
(実施例18−1〜実施例18−6)
ケイ素系活物質のバルク内に生成するLiシリケート化合物(LiSiO及びLiSiO)の結晶性を変化させた他は、実施例11−8と同様に二次電池の製造を行った。Liシリケート化合物の結晶化度の調整はLiの挿入・脱離後に、非大気雰囲気下で熱処理を加えることで可能である。
【0214】
実施例18−1〜実施例18−6の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表18に示した結果が得られた。
【0215】
【表18】
【0216】
Liシリケート化合物の結晶化度が低いほど容量維持率の向上が見られた。これは、結晶化度が低い場合、活物質中の抵抗を減少させられるためと考えらえる。従って、より望ましくはLiシリケート化合物が非晶質であることが好ましく、このようにすればより良好な電池特性を得られると考えられる。
【0217】
(実施例19−1〜実施例19−9)
ケイ素系活物質の結晶性を変化させた他は、実施例11−8と同様に二次電池の製造を行った。結晶性の変化はLiの挿入、脱離後の非大気雰囲気下の熱処理で制御可能である。実施例19−1〜19−9のケイ素系活物質の半値幅を表19中に示した。実施例19−9では半値幅を20°以上と算出しているが、解析ソフトを用いフィッティングした結果であり、実質的にピークは得られていない。よって実施例19−9のケイ素系活物質は、実質的に非晶質であると言える。
【0218】
実施例19−1〜実施例19−9の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表19に示した結果が得られた。
【0219】
【表19】
【0220】
表19に示すように、それらの結晶性に応じて容量維持率および初回効率が変化した。
特に半値幅(2θ)が1.2°以上で、尚且つSi(111)面に起因する結晶子サイズが7.5nm以下の低結晶性材料で高い容量維持率、初期効率が得られた。特に、非結晶領域では最も良い電池特性が得られた。
【0221】
(実施例20−1〜実施例20−7)
炭素系活物質のメジアン径X、ケイ素活物質のメジアン径Y、及びX/Yの値を表20のように変えたことの他は、実施例11−8と同様にして二次電池の製造を行った。
【0222】
実施例20−1〜実施例20−7の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表20に示した結果が得られた。
【0223】
【表20】
【0224】
表20からわかるように、負極活物質層中の炭素系活物質は、ケイ素系活物質に対し同等以上の大きさであることが望ましい。膨張収縮するケイ素系活物質が炭素系活物質に対して同等以下の大きさである場合、合材層の破壊を防止することができる。炭素系活物質がケイ素系活物質に対して大きくなると、充電時の負極体積密度、初期効率が向上し、電池エネルギー密度が向上する。
【0225】
(実施例21−1〜実施例21−12)
基本的に、実施例1−1〜実施例1−6と同様に二次電池を作製した。
但し、実施例21−1、実施例21−2では、ケイ素系活物質として、粉末状態のケイ素材を、熱ドープ法を用いて改質したものを使用した。また、実施例21−1では、負極活物質の総量に対するケイ素系活物質の比(以下、SiO材比率とも称する)を30質量%とした。また、実施例21−2においては、SiO材比率を50質量%とした。
【0226】
また、実施例21−3〜実施例21−12においては、ケイ素系活物質のバルク内改質は、未改質のケイ素系活物質と炭素系活物質の混合スラリーを負極集電体(金属集電体)に塗布した後に、負極集電体上に塗布された混合スラリー中のケイ素系活物質を改質することにより行った。負極集電体に塗布した後のケイ素材の改質方法としては、実施例21−3〜実施例21−9においては電気化学法を、実施例21−10においてはLi金属貼り付け法を、実施例21−11〜実施例21−12においてはLi蒸着法を用いた。尚、Li金属貼り付け法としては、特に限定されることは無いが、負極集電体に混合スラリーを塗布した後、さらにリチウム金属箔を付着させ、簡易プレスを行い、その後、真空環境下200℃で熱処理をすることでケイ素活物質を改質する方法を用いることができる。また、Li金属貼り付け法として、その他にも、上記同様リチウム金属箔を貼り付けた後、電解液に含浸させ、60℃で1週間程度保存する方法や、上記同様リチウム金属箔を貼り付けた後に、倦回して電池を作製した後の初期充電でリチウムをケイ素系活物質へ入れる方法などが挙げられる。
【0227】
また、実施例21−3〜実施例21−6及び実施例21−11のSiO材比率を30質量%、実施例21−7のSiO材比率を50質量%、実施例21−8〜実施例21−10及び実施例21−12のSiO材比率を80質量%とした。
【0228】
実施例21−1〜実施例21−12の二次電池のサイクル特性及び初回充放電特性を調べたところ、表21に示した結果が得られた。
【0229】
【表21】
【0230】
表21から分かるように、実施例21−1、21−2のように、負極集電体に塗布する前の粉末状態のケイ素材を、熱ドープ法を用いて改質した場合も、良好な維持率及び初期効率となり、ケイ素材の改質が十分に行えることを確認できた。また、実施例21−3〜実施例21−12のように、混合スラリーを金属集電体に塗布した後に、ケイ素系活物質の改質を行うことで、維持率及び初期効率がより一層向上していることが確認できた。また、特に、A/B比を大幅に向上させる場合、混合スラリーを金属集電体に塗布した後に、電気化学法によりケイ素系活物質の改質を行うことが好ましい。電気化学法を用いれば、Li貼り付け法やLi蒸着に比べて、より容易にケイ素系活物質内部に生成するSiO成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することが可能な改質ができる。
【0231】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0232】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
20…バルク内改質装置、 21…陽電極(リチウム源、改質源)、
22…酸化ケイ素の粉末、 23…有機溶媒、 24…セパレータ、
25…粉末格納容器、 26…電源、 27…浴槽、
30…リチウム二次電池(ラミネートフィルム型)、 31…電極体、
32…正極リード(正極アルミリード)、
33…負極リード(負極ニッケルリード)、 34…密着フィルム、
35…外装部材。
図1
図2
図3
図4