【文献】
J.T.Son, H.J.Jeon, J.B.Lim,Synthesis and electrochemical characterizatrion of Li2MnO3-LiNixCoyMnzO2 cathode for lithium battery using co-precipitation method,Advanced Powder Technology,2013年,Vol.24,p.270-274
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リチウム含有複合酸化物に含まれるLi以外の金属元素の合量に対してモル比率で、Ni比率が10〜50%、Co比率が0〜33.3%、Mn比率が33.3〜85%である、請求項1に記載の正極活物質。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「Li」との表記は、金属ではなくLi元素であることを示す。Ni、CoおよびMnなどの他の元素の表記も同様である。また、以下に説明するリチウム含有複合酸化物の元素の比率は、初回充電(活性化処理ともいう。)前のリチウム含有複合酸化物における値である。
【0011】
[正極活物質]
本発明の正極活物質は、式(1)で表されるリチウム含有複合酸化物からなる。
Li
aMO
x ・・・(1)
ただし、MはNi、CoおよびMnから選ばれる少なくとも1種を含む元素(ただし、LiおよびOは含まない。)であり、aは1.1〜1.7であり、xはLiおよびMの原子価を満足するのに必要なOのモル数である。
以下、Ni、CoおよびMnから選ばれる少なくとも1種を含む遷移金属元素をまとめて遷移金属元素(X)ともいう。
【0012】
本発明の正極活物質は、少なくとも空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造を有する。正極活物質は、空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造と空間群C2/mの層状岩塩型結晶構造とを有するものが好ましい。
本発明の正極活物質は、空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造と空間群C2/mの層状岩塩型結晶構造とを有し、これらの結晶構造を有する化合物の固溶体であるのが好ましい。また、空間群C2/mの結晶構造は、リチウム過剰層とも呼ばれる。
本発明の正極活物質は、X線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I
003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I
020)の比(I
020/I
003)が0.02〜0.3の関係を満たすのが好ましい。このため、本発明の正極活物質は放電容量が高い。
【0013】
空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造を有する結晶子においては、充放電時に各々のLiは同一層内でa−b軸方向に拡散し、結晶子の端でLiの出入りが起こる。結晶子のc軸方向は積層方向であり、c軸方向が長い形状は、同一体積の他の結晶子に対して、Liが出入りできる端の数が増える。a−b軸方向の結晶子径は、空間群R−3mの(110)面の結晶子径(r)から算出でき、c軸方向の径は、空間群R−3mの(003)面の結晶子径(l)から算出できる。
【0014】
結晶子径は、X線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面のピークと(003)面のピークの回折角度と半値幅から、シェラーの式により算出できる。空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークは、X線回折パターンにおいて回折角度2θが18〜19°の付近に観察される。空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面のピークは、X線回折パターンにおいて回折角度2θが64〜66°に観察される。
【0015】
本発明の正極活物質のX線回折パターンは、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面の結晶子径(r)に対する(003)面の結晶子径(l)の比(l/r)が、2.6以上である。つまり、本発明の正極活物質の一次粒子を構成している結晶子は、結晶子のc軸方向の径に比べて結晶子のa−b軸方向の径が短い縦長の形状を有している。このような構造を有すれば、充電時に結晶子からLiが抜けた後の構造が安定化し、放電時にLiが正極活物質の結晶子内に戻りやすくなり、この結晶子を有する正極活物質は、サイクル特性が向上する。l/rは、2.8以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、l/rは、空間群R−3mの結晶構造の安定性の観点から、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。なお、X線回折測定は、実施例に記載の方法で行える。
【0016】
本発明の正極活物質は、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面の結晶子径(l)が、40〜200nmであることが好ましく、40〜100nmがより好ましい。結晶子径(l)が下限値以上であれば、電池の放電容量を高くしやすい。また、結晶子径(l)が上限値以下であれば、電池のサイクル特性を良好にしやすい。本明細書において、前記結晶子とは、単結晶とみなせる最大の集まりをいう。
【0017】
本発明の正極活物質は、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面の結晶子径(r)が、5〜80nmであることが好ましく、10〜40nmがより好ましい。結晶子径(r)が下限値以上であれば、結晶構造の安定性が向上する。結晶子径(r)が上限値以下であれば、優れたサイクル特性が得られやすい。
【0018】
リチウム含有複合酸化物は、Ni、CoおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を必須として含む。そして、必要に応じて他の金属元素を含んでもよい。他の金属元素としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、Zr、B、Fe、Zn、Y、Nb、Mo、Ta、W、CeおよびLaなどが挙げられる。これらの金属元素は、必要に応じていずれか1つを選択して含有してもよく、2つ以上を含有してもよい。
【0019】
リチウム含有複合酸化物は、高い放電容量が得られやすい点から、NiおよびMnを含有することが好ましく、Ni、CoおよびMnを含有することが好ましい。高い放電容量と優れたサイクル特性が得られやすい点から、リチウム含有複合酸化物において、Ni、CoおよびMnの含有比率は、リチウム含有複合酸化物に含まれるLi以外の金属元素の合量(M)に対してモル比率で、Ni比率(Ni/Mの百分率)が10〜50%、Co比率(Co/Mの百分率)が0〜33.3%、Mn比率(Mn/Mの百分率)が33.3〜85%、であることが好ましい。
【0020】
本発明の正極活物質において、Ni比率は、15〜50%がより好ましく、20〜50%が特に好ましい。前記Ni比率が下限値以上であれば、これを用いたリチウムイオン二次電池の放電電圧を高くできる。前記Ni比率が上限値以下であれば、これを用いたリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
【0021】
本発明の正極活物質において、Mn比率は、40〜77%がより好ましく、40〜72%が特に好ましい。前記Mn比率が下限値以上であれば、これを用いたリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。前記Mn比率が上限値以下であれば、l/rを2.6以上に制御しやすく、これを用いたリチウムイオン二次電池の放電電圧を高くできる。
【0022】
本発明の正極活物質において、Co比率は、0〜30%がより好ましく、0〜28%が特に好ましい。前記Co比率が上限値以下であれば、これを用いたリチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上できる。
【0023】
本発明の正極活物質において、他の金属元素の合計量はリチウム含有複合酸化物に含まれるLi以外の金属元素の合量(M)に対してモル比率で、0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましく、0〜2%が特に好ましい。前記他の金属元素の合計量のモル比率が上限値以下であれば、これを用いたリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
【0024】
リチウム含有複合酸化物に含まれるLiの量は、リチウム含有複合酸化物に含まれるLi以外の金属元素の合量(M)の合計量に対するモル比(Li/M)で1.1〜1.7の関係を満たす量である。Li/Mは、1.1〜1.55が好ましく、1.15〜1.45がより好ましい。Li/Mがこの範囲内にある正極活物質は、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
【0025】
本発明の正極活物質は、高い放電容量および優れたサイクル特性が得られやすい点から、式(2)で表されるリチウム含有複合酸化物からなることが好ましい。
Li
aNi
αCo
βMn
γO
x ・・・(2)
ただし、aは1.1〜1.7、αは0.1〜0.5、βは0〜0.33、γは0.34〜0.85、α+β+γ=1、xはLi、Ni、CoおよびMnの原子価を満足するのに必要なOのモル数である。
【0026】
前記リチウム含有複合金属化合物において、高い放電容量および優れたサイクル特性が得られやすい点から、aは、1.1〜1.55が好ましく、1.15〜1.45がより好ましい。
αは、aと同様の理由から、0.15〜0.5が好ましく、0.2〜0.5がより好ましい。
βは、aと同様の理由から、0〜0.3が好ましく、0〜0.28がより好ましい。
γは、aと同様の理由から、0.4〜0.77が好ましく、0.4〜0.72がより好ましい。
xは、aと同様の理由から、2〜2.7が好ましく、2.1〜2.6がより好ましい。
【0027】
本発明の正極活物質は、前記した結晶構造の結晶子が複数集合した一次粒子および該一次粒子が複数凝集した二次粒子により構成される。一次粒子とは、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)により観察される最小の粒子をいう。
本発明の正極活物質の平均粒径(D
50)は、3〜15μmが好ましい。正極活物質のD
50が前記範囲内にあれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。正極活物質のD
50は4〜15μmがより好ましく、5〜12μmが特に好ましい。
本明細書においてD
50は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において、累積体積が50%となる点の粒子径を意味する。粒度分布は、レーザー散乱粒度分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。粒子径の測定では、粉末を水媒体中に超音波処理などで充分に分散させて粒度分布を測定する。具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0028】
本発明の正極活物質のD
90/D
10は、2.4以下が好ましい。D
90/D
10が2.4以下であれば、粒子径分布が狭いため、電極密度を大きくできる。電極密度が高ければ、同じ放電容量が得られる電池をより小さくできるため好ましい。D
90/D
10は、1以上が好ましい。正極活物質のD
90/D
10は、2.3以下がより好ましく、2.2以下が特に好ましい。D
10およびD
90は、D
50と同様に前記累積体積分布曲線において累積体積が10%および90%となる点の粒子径を意味する。
【0029】
本発明の正極活物質は、一次粒子の円相当の平均粒子径が10〜1000nmであることが好ましい。一次粒子の円相当の平均粒子径がこの範囲にあれば、リチウムイオン二次電池を製造したときに、電解液が正極における正極活物質間に充分に行き渡りやすくなる。
円相当の粒子径は、150〜900nmが好ましく、200〜800nmがより好ましい。なお、本明細書において、前記円相当の粒子径とは、粒子の投影図を円と仮定し、投影図の表面積と等しくなる円の直径である。これと同様の操作を他の一次粒子について測定を行い、合計100個の測定値の平均値を、円相当の平均粒子径とする。粒子の投影図としては、SEMによって観察した画像を使用し、1つのSEM画像に一次粒子が100〜150個含まれる倍率で観察した画像を使用する。円相当の粒子径の測定には、例えば、画像解析式粒度分布ソフトウェア(マウンテック社製、商品名:Mac−View)を使用できる。
【0030】
本発明の正極活物質の比表面積は、0.1〜10m
2/gが好ましい。比表面積が下限値以上であれば、高い放電容量が得られやすい。正極活物質の比表面積が上限値以下であれば、優れたサイクル特性が得られやすい。正極活物質の比表面積は、0.5〜7m
2/gがより好ましく、0.5〜5m
2/gが特に好ましい。正極活物質の比表面積は、実施例に記載の方法で測定される。
【0031】
(製造方法)
正極活物質の製造方法としては、高い放電容量が得られやすい点から、共沈法により得られた共沈物と、リチウム化合物とを混合して焼成する方法が好ましい。共沈法としては、アルカリ共沈法または炭酸塩共沈法が好ましく、優れたサイクル特性が得られやすい点から、アルカリ共沈法が特に好ましい。
【0032】
アルカリ共沈法とは、遷移金属元素を含む金属塩水溶液と、強アルカリを含有するpH調整液とを連続的に反応容器に添加して混合し、反応溶液中のpHを一定に保ちながら、反応溶液中で、遷移金属元素を含む水酸化物を析出させる方法である。アルカリ共沈法では、得られる共沈物の粉体密度が高く、正極活物質層における充填性に優れた正極活物質が得られる。
【0033】
遷移金属元素を含む金属塩としては、遷移金属元素の硝酸塩、酢酸塩、塩化物塩、硫酸塩が挙げられる。材料コストが比較的安価で優れた電池特性が得られることから、遷移金属元素の硫酸塩が好ましく、Niの硫酸塩、Coの硫酸塩およびMnの硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の硫酸塩がより好ましい。
【0034】
Niの硫酸塩としては、例えば、硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸ニッケル(II)・七水和物、硫酸ニッケル(II)アンモニウム・六水和物などが挙げられる。
Coの硫酸塩としては、例えば、硫酸コバルト(II)・七水和物、硫酸コバルト(II)アンモニウム・六水和物などが挙げられる。
Mnの硫酸塩としては、例えば、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸マンガン(II)アンモニウム・六水和物などが挙げられる。
【0035】
アルカリ共沈法における反応中の溶液のpHは、10〜12が好ましい。
添加する強アルカリを含有するpH調整液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液が好ましい。中でも、水酸化ナトリウム水溶液がより好ましい。
アルカリ共沈法における反応溶液には、遷移金属元素の溶解度を調整するために、アンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液を加えてもよい。
【0036】
炭酸塩共沈法とは、遷移金属元素を含む金属塩水溶液と、アルカリ金属の炭酸塩水溶液とを連続的に反応容器に添加して混合し、反応溶液中で、遷移金属元素を含む炭酸塩を析出させる方法である。炭酸塩共沈法では、得られる共沈物が多孔質で比表面積が高く、高い放電容量を示す正極活物質が得られる。
炭酸塩共沈法に用いる遷移金属元素を含む金属塩としては、アルカリ共沈法で挙げたものと同じ遷移金属塩が挙げられる。
【0037】
炭酸塩共沈法における反応中の溶液のpHは、7〜9が好ましい。
アルカリ金属の炭酸塩水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸水素カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液が好ましい。
炭酸塩共沈法における反応溶液には、アルカリ共沈法と同様の理由により、アンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液を加えてもよい。
【0038】
共沈法の条件を制御することにより、正極活物質のl/rを所望の範囲にできる。上に述べた条件以外に、金属元素の含有量について、Mn比率を低くするほどl/rが高くなる傾向がある。共沈物の析出反応において、反応温度を低くするほど、また反応時間を長くするほどl/rが高くなる傾向がある。また、共沈物の析出反応を窒素雰囲気下で行うことで、l/rが高くなる傾向がある。
【0039】
共沈法により析出させた共沈物を含む反応溶液に対しては、濾過、または遠心分離によって水溶液を取り除く工程を実施することが好ましい。濾過または遠心分離には、加圧濾過機、減圧濾過機、遠心分級機、フィルタープレス、スクリュープレス、回転型脱水機などが使用できる。
【0040】
得られた共沈物に対しては、さらに遊離アルカリなどの不純物イオンを取り除くために、洗浄する工程を実施することが好ましい。共沈物の洗浄方法としては、例えば、加圧濾過と蒸留水への分散を繰り返す方法などが挙げられる。洗浄を行う場合、共沈物を蒸留水へ分散させたときの上澄み液の電気伝導度が50mS/m以下になるまで繰り返すことが好ましく、20mS/m以下になるまで繰り返すことがより好ましい。
【0041】
共沈物の粒子径D
50は、3〜15μmが好ましい。共沈物のD
50が前記範囲内であれば、正極活物質のD
50を3〜15μmにでき、高い放電容量が得られやすい。共沈物のD
50は、4〜15μmがより好ましく、5〜12μmが特に好ましい。
【0042】
共沈物の粒子径D
10に対する粒子径D
90の比(D
90/D
10)は、2.5以下が好ましい。共沈物のD
90/D
10が2.5以下であれば、優れたサイクル特性が得られる正極活物質が得られやすい。共沈物のD
90/D
10は、1以上が好ましい。共沈物のD
90/D
10は、2.3以下がより好ましく、2.1以下が特に好ましい。
【0043】
共沈物の比表面積は、10〜300m
2/gが好ましい。共沈物の比表面積は、10〜150m
2/gがより好ましく、10〜50m
2/gが特に好ましい。共沈物の比表面積は、共沈物を120℃で15時間加熱した後の比表面積である。共沈物の比表面積は析出反応で形成される細孔構造を反映しており、前記範囲であると正極活物質の比表面積が制御しやすくなり電池特性も良好となる。
【0044】
リチウム化合物としては、共沈物と混合して焼成して、リチウム含有複合酸化物が得られるものであれば、特に限定されない。このようなリチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウムまたは硝酸リチウムが好ましく、安価であることから炭酸リチウムがより好ましい。
【0045】
共沈物とリチウム化合物とを混合する方法は、例えば、ロッキングミキサ、ナウタミキサ、スパイラルミキサ、カッターミル、Vミキサなどを使用する方法などが挙げられる。
焼成温度は、500〜1000℃が好ましい。焼成温度が、前記範囲内であれば、結晶性の高い正極活物質が得られやすい。焼成温度は、600〜1000℃がより好ましく、800〜950℃が特に好ましい。
焼成時間は、4〜40時間が好ましく、4〜20時間がより好ましい。
【0046】
焼成は、500〜1000℃での1段焼成でもよく、400〜700℃の仮焼成を行った後に、700〜1000℃で本焼成を行う2段焼成でもよい。なかでも、Liが正極活物質中に均一に拡散しやすいことから2段焼成が好ましい。
2段焼成の場合の仮焼成の温度は、400〜700℃が好ましく、500〜650℃がより好ましい。また、2段焼成の場合の本焼成の温度は、700〜1000℃が好ましく、800〜950℃がより好ましい。
【0047】
焼成装置としては、電気炉、連続焼成炉、ロータリーキルンなどを使用できる。
焼成を1段焼成で行う場合、共沈物は焼成時に酸化されることから、焼成雰囲気を大気下とすることが好ましく、空気を供給しながら焼成することが特に好ましい。
焼成を2段焼成で行う場合、仮焼成または本焼成の少なくとも一方の焼成雰囲気を大気雰囲気とすればよい。2段焼成を行う雰囲気は、仮焼成を大気雰囲気とし、本焼成を低酸素雰囲気とする場合、仮焼成と本焼成を大気雰囲気とする場合等が挙げられる。前記低酸素雰囲気としては、酸素の体積比率が0.1%以下の雰囲気が好ましく、さらに窒素の体積比率が99.9%以上の雰囲気がより好ましい。
空気の供給速度は、炉の内容積1Lあたり、10〜200mL/分が好ましく、40〜150mL/分がより好ましい。
焼成時に空気を供給することで、共沈物中の金属元素(X)が充分に酸化され、結晶性が高く、かつ目的とする結晶相を有する正極活物質が得られる。
【0048】
なお、本発明の正極活物質の製造方法は、前記方法には限定されず、水熱合成法、ゾルゲル法、乾式混合法(固相法)、イオン交換法、ガラス結晶化法などを用いてもよい。
【0049】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本発明の正極活物質は、リチウムイオン二次電池用正極に好適に使用できる。
リチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体と、該正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を有する。リチウムイオン二次電池用正極は、本発明の製造方法で得られた正極活物質を用いる以外は、公知の態様を採用できる。
【0050】
(正極集電体)
正極集電体としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔などが挙げられる。
【0051】
(正極活物質層)
正極活物質層は、本発明の正極活物質と、導電材と、バインダと、を含む層である。正極活物質層には、必要に応じて増粘剤などの他の成分が含まれていてもよい。
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、黒鉛、カーボンブラックなどが挙げられる。導電材は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
バインダとしては、例えば、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなど。)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど。)、不飽和結合を有する重合体および共重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムなど。)、アクリル酸系重合体および共重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体など。)などが挙げられる。バインダは、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
正極活物質は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
増粘剤としては、例えば、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、ガゼイン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。増粘剤は1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
(リチウムイオン二次電池用正極の製造方法)
リチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本発明の正極活物質を用いる以外は、公知の製造方法を採用できる。例えば、リチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
正極活物質、導電材およびバインダを、媒体に溶解もしくは分散させてスラリーを得る、または正極活物質、導電材およびバインダを、媒体と混練して混練物を得る。次いで、得られたスラリーまたは混練物を正極集電体上に塗工することによって正極活物質層を形成させる。
【0054】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、前記したリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、非水電解質とを有する。
【0055】
[負極]
負極は、負極集電体と、負極活物質層とを少なくとも含有する。
負極集電体の材料としては、ニッケル、銅、ステンレス鋼などが挙げられる。
負極活物質層は、負極活物質を少なくとも含有し、必要に応じてバインダを含有する。
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、および放出可能な材料であればよい。例えば、リチウム金属、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物、またはケイ素、スズ、もしくはコバルトを主体とする合金などが挙げられる。
【0056】
負極活物質に使用する炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類などが挙げられる。前記コークス類としては、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなどが挙げられる。有機高分子化合物焼成体としては、フェノール樹脂、フラン樹脂などを適当な温度で焼成し炭素化したものが挙げられる。
その他に、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料としては、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ、Li
2.6Co
0.4Nなども前記負極活物質として用いることができる。
バインダとしては、正極活物質層で挙げたバインダと同様である。
【0057】
負極は、例えば、負極活物質を有機溶媒と混合することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって得られる。
【0058】
非水電解質としては、非水電解液、無機固体電解質、電解質塩を混合または溶解させた固体状またはゲル状の高分子電解質などが挙げられる。
非水電解液としては、有機溶媒と電解質塩とを適宜組み合わせて調製したものが挙げられる。
【0059】
非水電解液に含まれる有機溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステルなどが挙げられる。環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどが挙げられる。これらの中でも、電圧安定性の点から、環状カーボネート、鎖状カーボネートが好ましく、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートがより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
電解質塩を混合または溶解させた固体状の高分子電解質に用いられる高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの誘導体、混合物、並びに複合体などが挙げられる。
電解質塩を混合または溶解させたゲル状の高分子電解質に用いられる高分子化合物としては、フッ素系高分子化合物、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリルの共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの共重合体などが挙げられる。フッ素系高分子化合物としては、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)などが挙げられる。
【0061】
ゲル状電解質のマトリックスとしては、酸化還元反応に対する安定性の観点から、フッ素系高分子化合物が好ましい。
電解質塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、CF
3SO
3Li、LiCl、LiBrなどが挙げられる。
【0062】
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられる。
【0063】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型などの形状を、用途に応じて適宜選択できる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1〜15は実施例、例16〜20は比較例である。
[比表面積]
正極活物質の比表面積は、マウンテック社製比表面積測定装置(装置名;HM model−1208)を使用して窒素吸着BET(Brunauer,Emmett,Teller)法により算出した。脱気は、200℃、20分の条件で行った。
【0065】
[粒子径]
正極活物質を水中に超音波処理によって充分に分散させ、日機装社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(装置名;MT−3300EX)により測定を行い、頻度分布および累積体積分布曲線を得ることで体積基準の粒度分布を得た。得られた累積体積分布曲線において10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれD
10、D
50、D
90とした。
【0066】
[結晶子径]
正極活物質のX線回折は、リガク社製X線回折装置(装置名;SmartLab)により測定した。測定条件を表1に示す。測定は25℃で行った。得られたX線回折パターンについて、リガク社製統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を用いてピーク検索し、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークと(110)面のピークの回折角度と半値幅から、シェラー式を用いて結晶子径(l)および(r)を算出した。また、結晶子径(l)と結晶子径(r)の比(l/r)を算出した。また、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークに対する空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークのピーク強度比を算出した。
上記の各ピークはX線回折パターンにおいて回折角度2θが18〜19°の付近に観察される空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピーク、回折角度2θが64°の付近に観察される空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面のピークおよび回折角度2θが21〜22°の付近に観察される空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークを用いた。
【0067】
【表1】
【0068】
[組成分析]
正極活物質の組成分析は、プラズマ発光分析装置(SIIナノテクノロジー社製、型式名:SPS3100H)により行った。得られた組成から、式(2)のa、α、β、およびγを算出した。xはLi、Ni、CoおよびMnの原子価を満足するのに必要なOのモル数である。
【0069】
[評価方法]
(正極体シートの製造)
各例で得られた正極活物質と、導電材であるアセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(バインダ)とを、質量比で80:10:10となるように秤量して、N−メチルピロリドンに加え、スラリーを調製した。
次いで、該スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面上にドクターブレードにより塗工した。ドクターブレードのギャップは圧延後のシート厚みが30μmとなるように調整した。これを120℃で乾燥した後、ロールプレス圧延を2回行い、正極体シートを作製した。
(リチウムイオン二次電池の製造)
得られた正極体シートを直径18mmの円形に打ち抜いたものを正極とし、ステンレス鋼製簡易密閉セル型のリチウムイオン二次電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。なお、負極集電体として厚さ1mmのステンレス鋼板を使用し、該負極集電体上に厚さ500μmの金属リチウム箔を形成して負極とした。セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いた。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の容積比1:1の混合溶液に、濃度が1モル/dm
3となるようにLiPF
6を溶解させた液を電解液として使用した。
(初期放電容量、容量維持率)
正極活物質1gにつき20mAの負荷電流で23時間かけて4.6Vまで定電流充電および4.6V定電圧充電した後、正極活物質1gにつき20mAの負荷電流で2.0Vまで放電した。この時の放電容量を初期放電容量とした。
次いで正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.5Vまで充電した後、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で2.0Vまで放電する充放電サイクルを100回繰り返した。3回目の4.5V充電における放電容量に対する、100回目の4.5V充電における放電容量の割合を容量維持率(%)とした。
【0070】
[例1]
硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸コバルト(II)・七水和物、および硫酸マンガン(II)・五水和物を、Ni、CoおよびMnの比率が表2に示すとおりとなるように、かつNi、CoおよびMnの合計濃度が1.5モル/Lとなるように蒸留水に溶解して硫酸塩水溶液を得た。硫酸アンモニウムを濃度が0.75モル/Lとなるように蒸留水に溶解して硫酸アンモニウム水溶液を得た。
次いで、2Lのバッフル付きガラス製反応槽に蒸留水を入れてマントルヒータで50℃に加熱し、反応槽内の溶液を2段傾斜パドル型の撹拌翼で撹拌しながら、前記硫酸塩水溶液と前記硫酸アンモニウム水溶液を添加した。前記硫酸塩水溶液の添加速度は5.0g/分とした。前記硫酸アンモニウム水溶液は、Ni、CoおよびMnからなる金属元素(M)の合計量に対するアンモニウムイオンのモル比(NH
4+/M)が表2に示すとおりとなるように28時間かけて添加した。また、反応溶液のpHを11.0に保つように48質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、Ni、CoおよびMnを含む共沈物(複合水酸化物)を析出させた。反応溶液の初期のpHは7.0であった。析出反応中は、析出した共沈物が酸化しないように、反応槽内に窒素ガスを流量2L/分で流した。
得られた共沈物に対して、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返して洗浄を行い、不純物イオンを取り除いた。洗浄は、ろ液の電気伝導度が20mS/m未満となった時点で終了した。洗浄後の共沈物は、120℃で15時間乾燥させた。
次に、得られた共沈物と炭酸リチウムとを、Ni、CoおよびMnからなる金属元素(M)の合計量に対するLiのモル比(Li/M)が表2に示すとおりとなるように混合し、大気雰囲気下において、600℃で5時間仮焼成した後に850℃で16時間本焼成して、複合酸化物からなる正極活物質を得た。
【0071】
[例2〜6]
硫酸塩の仕込み比率、反応時間(硫酸塩水溶液の添加時間)、反応液のpH、反応温度、NH
4+/MおよびLi/Mの条件を表2に示すように変更した以外は、例1と同様にして正極活物質を得た。
【0072】
[例7〜15]
硫酸塩の仕込み比率、反応時間(硫酸塩水溶液の添加時間)、反応液のpH、反応温度、NH
4+/MおよびLi/Mの条件を表2に示すように変更し、本焼成の雰囲気を低酸素雰囲気とする以外は、例1と同様にして正極活物質を得た。例7〜15の低酸素雰囲気は、酸素の体積比率が0.01%以下とし、さらに窒素の体積比率が99.99%とした。低酸素雰囲気は、表2において「窒素」と記す。
【0073】
[例16、17]
硫酸塩の仕込み比率、反応時間(硫酸塩水溶液の添加時間)、反応液のpH、反応温度、NH
4+/MおよびLi/Mの条件を表2に示すように変更した以外は、例1と同様にして正極活物質を得た。
【0074】
[例18]
硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸コバルト(II)・七水和物、および硫酸マンガン(II)・五水和物を、Ni、CoおよびMnの比率が表2に示すとおりとなるように、かつNi、CoおよびMnの合計濃度が1.5モル/Lとなるように蒸留水に溶解して硫酸塩水溶液を得た。炭酸ナトリウムを濃度が1.5モル/Lとなるように蒸留水に溶解して炭酸塩水溶液を得た。
次いで、2Lのバッフル付きガラス製反応槽に蒸留水を入れてマントルヒータで30℃に加熱し、反応槽内の溶液を2段傾斜パドル型の撹拌翼で撹拌しながら、前記硫酸塩水溶液を5.0g/分の速度で14時間かけて添加し、また反応溶液のpHを8.0に保つように炭酸塩水溶液を添加して、Ni、CoおよびMnを含む共沈物(複合炭酸塩)を析出させた。
得られた共沈物に対して、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返して洗浄を行い、不純物イオンを取り除いた。洗浄は、ろ液の電気伝導度が20mS/m未満となった時点で終了した。洗浄後の共沈物は、120℃で15時間乾燥させた。
次に、得られた共沈物と炭酸リチウムとをLi/Mが表2に記載の比率となるように混合し、大気雰囲気下、600℃で5時間仮焼成した後に870℃で16時間焼成し、複合酸化物からなる正極活物質を得た。
【0075】
[例19、20]
硫酸塩の仕込み比率、反応時間(硫酸塩水溶液の添加時間)、反応液のpH、反応温度、NH
4+/M、Li/Mおよび焼成温度の条件を表2に示すように変更した以外は、例18と同様にして正極活物質を得た。
【0076】
各例で得られた正極活物質を式(2)(Li
aNi
αCo
βMn
γO
x)で表したときのa、α、β、γ、およびxの値、l/r、粒子径および比表面積を表3に示す。
また、各例における正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の初期放電容量および容量維持率の測定結果を表4に示す。また、l/rと容量維持率との関係を
図1に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表3および表4に示すように、例1〜15は、l/rが2.6以上であり、かつX線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I
003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I
020)の比(I
020/I
003)が0.02〜0.3の正極活物質を用いているので、初期放電容量が高い。
さらに、例1〜15は、表4および
図1に示すように、l/rが2.6未満の正極活物質を用いた例16〜20に比べて、容量維持率が高く、優れたサイクル特性を有していた。例16〜18は、例4に比べてLiの拡散面である(110)面の結晶子径rが小さい。しかし、これらは(003)面の結晶子径も小さいため、結晶構造の安定性が低い。そのため、容量維持率が充分に高くならなかったと考えられる。