(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態1,2に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0012】
〔実施形態1〕
実施形態1に係るマルチワイヤ放電加工装置によるウェーハの製造方法について説明する。
図1は、実施形態1に係るマルチワイヤ放電加工装置の構成例を示す概略図である。
図2は、実施形態1に係るマルチワイヤ放電加工装置の構成例を示す要部斜視図である。
【0013】
図1に示すように、マルチワイヤ放電加工装置1は、ワイヤRによりインゴットIを放電加工するものであり、繰り出しボビン20、巻き取りボビン21及びガイドローラ部30を備えている。
【0014】
繰り出しボビン20には、黄銅などの金属線であるワイヤRが一定量巻き回されている。繰り出しボビン20はガイドローラ部30に向けてワイヤRを繰り出す。ガイドローラ部30は、繰り出しボビン20の近傍に配設され、繰り出しボビン20から繰り出されたワイヤRを案内する。ガイドローラ部30は、複数のガイドローラ31〜39から構成される。ガイドローラ31〜39は、円柱状に形成され、間隔をおいて配設されている。
【0015】
ガイドローラ31,32は、繰り出しボビン20の近傍に配設され、繰り出しボビン20により繰り出されたワイヤRを巻き掛けてワイヤRをガイドローラ33〜38に向けて送り出す。
【0016】
ガイドローラ33〜38は、並列ワイヤ部310を構成し、ワイヤRを環状に支持するように配設されている。並列ワイヤ部310は、ガイドローラ31,32により送り出されたワイヤRを軸方向に一定の間隔をあけて複数回巻き掛ける。並列ワイヤ部310のワイヤRは、例えば、軸方向に0.5mm〜数mm程度の間隔をあけてガイドローラ33〜38に9回巻き掛けられている。並列ワイヤ部310は、9回巻き掛けられた最後のワイヤRをガイドローラ39に送り出す。
【0017】
ガイドローラ39は、巻き取りボビン21の近傍に配設され、並列ワイヤ部310から送り出されたワイヤRを巻き掛けて巻き取りボビン21に送り出す。巻き取りボビン21は、ガイドローラ39から送り出されたワイヤRを巻き取って回収する。
【0018】
なお、繰り出しボビン20、巻き取りボビン21及びガイドローラ31〜39は、図示しないモータによって回転駆動される。全てのガイドローラ31〜39をモータ駆動とする必要はなく、例えば、並列ワイヤ部310を構成しないガイドローラ31,32,39を従動ローラとしてもよい。
【0019】
並列ワイヤ部310のワイヤRは、ガイドローラ36とガイドローラ37により鉛直方向に沿って一定のテンションを有して張設されている。例えば、ガイドローラ36とガイドローラ37により張設されたワイヤRは、鉛直方向に平行になるように張設してもよいし、鉛直方向に対して若干傾きを有するように張設してもよい。ガイドローラ36とガイドローラ37により張設されたワイヤRは、インゴットIをスライスする切断ワイヤ部320を構成する。
【0020】
インゴットIは円柱形状であり、切断ワイヤ部320のワイヤRの間隔で円板状にスライスされる。インゴットIは導電性がある材料であり、SiC、単結晶ダイヤ、シリコン、GaN(窒化ガリウム)等から形成される。
【0021】
切断ワイヤ部320の近傍には、インゴットIを支持する支持機構40が設けられている。支持機構40は、基台部41A、支持柱42A及び駆動手段43を備えている。基台部41Aは、直方体に形成された2つの部材から構成されており、インゴットIを固定するものである。基台部41Aは、その前面41aにインゴットIの側面I
aを接着剤B
nにより固定する。インゴットIは、その端面I
eが切断ワイヤ部320のワイヤRの進行方向Q又は駆動手段43の移動方向と平行になるように基台部41Aの前面41aに固定される。なお、接着剤B
nは導電性の接着剤を用いなくてもよい。
【0022】
支持柱42Aは、棒状に形成されており、一端に基台部41Aが固定されている。駆動手段43は、インゴットIとワイヤRとを相対的に加工送りし、並列するワイヤRをインゴットIに切り込ませる。駆動手段43は、水平方向に対して平行に延在される図示しないボールねじと、パルスモータ等で構成される駆動源とを有し、ボールねじのナットに固定された支持柱42Aを加工送り方向(P方向)に移動させ、支持柱42Aに固定された基台部41AのインゴットIをワイヤRに向けて送り出す。
【0023】
マルチワイヤ放電加工は、誘電体である水や油などの加工液の中で実施され、切断ワイヤ部320は加工液が満たされた図示しない加工槽の中に浸漬されている。加工槽の中で、加工液に浸漬された切断ワイヤ部320のワイヤRがインゴットIを加工する。
【0024】
マルチワイヤ放電加工装置1は、ワイヤRとインゴットIに給電する給電手段60を備えている。給電手段60は、高周波パルス電源ユニット61、ワイヤ用電極62、インゴット用電極63及び導電性部材64(
図8等参照)を備えている。
【0025】
高周波パルス電源ユニット61は、ワイヤRとインゴットIに高周波パルス電圧を供給する。高周波パルス電源ユニット61は、ワイヤ用電極62に接続され、ワイヤ用電極62を介して高周波パルス電圧をワイヤRに供給する。
図2に示すように、ワイヤ用電極62は、棒状に形成され、ガイドローラ37とガイドローラ38との間に張設されるワイヤRに当接されている。また、高周波パルス電源ユニット61は、インゴット用電極63に接続され、インゴット用電極63を介して高周波パルス電圧をインゴットIに供給する。インゴット用電極63は、板状に形成され、インゴットIの両方の端面I
eに図示しない導電性接着剤により固定される。
【0026】
導電性部材64は、SiCプレートや金属板などで形成され、インゴットIの厚みよりも若干長く形成されている。導電性部材64は、インゴットIの加工がある程度進んだ状態で、ワイヤRによって部分的にスライスされた領域のインゴットIの側面I
aに導電性接着剤B
c(例えば銀ペースト)により固定される。
【0027】
次に、マルチワイヤ放電加工装置を用いたウェーハの製造方法について説明する。
図3は、実施形態1に係るウェーハの製造方法を示すフローチャートである。
図4は、実施形態1に係るインゴットの固定例及び電極の接続例を示す側面図である。
図5は、実施形態1に係るインゴットの固定例及び電極の接続例を示す上面図である。
図6は、実施形態1に係るインゴットの第1加工例を示す一部破断の側面図である。
図7は、実施形態1に係るインゴットの第1加工例を示す上面図である。
図8は、実施形態1に係る導電性部材の固定例を示す一部破断の側面図である。
図9は、実施形態1に係る導電性部材の固定例を示す上面図である。
図10は、実施形態1に係るインゴットの第2加工例を示す一部破断の側面図である。
図11は、実施形態1に係るインゴットの第2加工例を示す上面図である。
図12は、実施形態1に係る第2加工例における電流の流れを示す上面図である。なお、説明の理解を容易にするために、
図6、
図8、
図10に示すハッチング部分は、インゴットIをワイヤRにより切り込んだ領域として図示している。
【0028】
先ず、インゴットIを基台部41Aに固定する(
図3に示すステップST1)。例えば、
図4及び
図5に示すように、基台部41Aの前面41aに接着剤B
nを塗布し、接着剤B
nが塗布された基台部41AにインゴットIの側面I
aを押し付けてインゴットIを基台部41Aに固定する(固定ステップ)。
【0029】
次に、インゴットIにインゴット用電極63を接続する(
図3に示すステップST2)。例えば、
図4及び
図5に示すように、インゴットIの両方の端面I
eにインゴット用電極63を図示しない導電性接着剤により固定し、インゴットIと高周波パルス電源ユニット61とを電気的に接続する(接続ステップ)。インゴット用電極63をインゴットIに固定後、図示しない加工槽に加工液を注ぎ入れて、インゴットIを加工液の中に浸漬させる。
【0030】
次に、インゴットIの第1加工を行う(
図3に示すステップST3)。例えば、
図6及び
図7に示すように、駆動手段43を作動させてインゴットIの側面I
aからワイヤRを所定量切り込ませる(第1加工ステップ)。例えば、切断ワイヤ部320のワイヤRにインゴットIの側面I
aを接近させ、高周波パルス電源ユニット61から高周波パルス電圧を供給して、ワイヤRとインゴットIとの極間に電圧を印加すると、切断ワイヤ部320のワイヤRは、正面に配置されたインゴットIに対して放電を行う。加工液の液中で絶縁状態にあるインゴットIとワイヤRの間隔が数十μm位まで近づくと、両者の絶縁が破壊されて放電が発生する。この放電によってインゴットIが加熱されて溶融され、さらに加工液の温度が急激に上昇することにより加工液が気化し、体積膨張によって溶融箇所を飛散させる。高周波パルス電圧を供給して極間に電圧を印加することで、ワイヤRによりインゴットIを溶融すると共に飛散させる処理を断続的に行って放電加工を実施し、ワイヤRを所定量インゴットIに切り込ませる。例えば、ワイヤRをインゴットIに切り込ませる量は、ワイヤRによって部分的にスライスされた領域におけるインゴットIの側面I
aに、導電性接着剤B
cにより導電性部材64を問題なく固定できる程度である。ここで、ワイヤRをインゴットIに切り込ませる量が少ないと、ワイヤRに導電性接着剤B
cが付着するおそれがあるので、ワイヤRに導電性接着剤B
cが付着しない程度にワイヤRをインゴットIに切り込ませておく必要がある。この例では、インゴットIの側面I
aからワイヤRをインゴットIの直径の1/5程度切り込ませている。
【0031】
次に、導電性部材64を固定する(
図3に示すステップST4)。例えば、高周波パルス電源ユニット61からの高周波パルス電圧の供給を一旦停止させ、
図8及び
図9に示すように、導電性接着剤B
cを導電性部材64の一面の略全域に塗布し、ワイヤRによって部分的にスライスされた領域におけるインゴットIの側面I
aに導電性部材64を導電性接着剤B
cにより固定し、導電性部材64でスライス部I
s同士を電気的に接続する(導電性部材固定ステップ)。インゴットIの厚みよりも若干長く形成された導電性部材64の両端部64aが、インゴットIの両端面I
eから少し突出するようにインゴットIの側面I
aに導電性部材64を固定する。導電性部材64の一面の略全域に導電性接着剤B
cが塗布されているので、導電性部材64は、導電性接着剤B
cを介して全てのスライス部I
sに及ぶように固定されている。
【0032】
次に、インゴットIの第2加工を行う(
図3に示すステップST5)。例えば、高周波パルス電源ユニット61からの高周波パルス電圧の供給を再開させ、
図10及び
図11に示すように、第1加工ステップで切り残したインゴットIの領域をワイヤRでスライスし、インゴットIを複数のウェーハWに分割する(第2加工ステップ)。
図12に示すように、インゴットIの端面I
eに固定したインゴット用電極63からの高周波パルス電圧が導電性部材64を介してスライス部I
s(ウェーハW)へ均等に印加され、電流iは導電性部材64を介してスライス部I
sに均等に流れている。
【0033】
ワイヤRによりインゴットIを完全にスライスしてウェーハWを形成後、溶剤等を使用してウェーハWを基台部41Aから取り外すと共に導電性部材64をウェーハWから取り外してウェーハWの製造の終了となる。
【0034】
以上のように、実施形態1に係るウェーハの製造方法によれば、インゴット用電極63及び導電性部材64を介して高周波パルス電圧をインゴットIに印加するので、部分的にスライスされたインゴットIに高周波パルス電圧を均等に印加でき、ワイヤRとインゴットIとの極間の電圧を一定に保つことができる。
【0035】
また、従来のように基台部41Aから導電性接着剤を介してインゴットIに電圧を印加しないので、当該導電性接着剤の抵抗値不均一によって生じるワイヤRの断線や導電性接着剤付近のウェーハWのバリ発生を抑制することができる。
【0036】
なお、インゴットIの端面I
eに固定するインゴット用電極63は、インゴットIの片方の端面I
eにのみ固定するようにしてもよい。また、インゴット用電極63は、導電性接着剤によりインゴットIの端面I
eに接着する例を説明したが、導電性接着剤を用いずにインゴットIに直接電圧を印加するようにしてもよい。
【0037】
また、導電性部材64に導電性接着剤B
cを塗布して導電性部材64をインゴットIの側面I
aに固定する例を説明したが、導電性接着剤B
cを導電性部材64に塗布するのではなく、導電性接着剤B
cをインゴットIの側面I
aに塗布して導電性部材64を固定するようにしてもよい。
【0038】
また、導電性部材64を導電性接着剤B
cによりインゴットIの側面I
aに固定する例を説明したが、導電性接着剤B
cを使用しなくてもよい。例えば、治具などを用いて導電性部材64をインゴットIの側面I
aに直接押し当てるように設置してもよい。
【0039】
〔実施形態2〕
次に、実施形態2に係るマルチワイヤ放電加工装置によるウェーハの製造方法について説明する。実施形態2のウェーハ製造方法は、インゴットIを切り込む方向を加工途中で変更するものである。
図13は、実施形態2に係るウェーハの製造方法を示すフローチャートである。
図14は、実施形態2に係るインゴットの第1加工例を示す説明図である。
図15は、実施形態2に係るインゴットの離脱例を示す説明図である。
図16は、実施形態2に係るインゴットの第2加工例を示す説明図である。
図17は、実施形態2に係るインゴットの第2加工例を示す説明図である。
【0040】
先ず、板形状のインゴット固定部41BにインゴットIを固定する(
図13に示すステップST11)。例えば、
図14に示すように、インゴット固定部41Bの側面に図示しない接着剤を塗布し、接着剤が塗布されたインゴット固定部41Bの側面にインゴットIの一方の端面I
eを押し付けてインゴットIを固定する(固定ステップ)。
【0041】
次に、インゴットIに図示しないインゴット用電極を接続する(
図13に示すステップST12)。例えば、インゴットIの他方の端面I
eにインゴット用電極を当接させ、インゴットIと高周波パルス電源ユニット61とを電気的に接続する(接続ステップ)。インゴット用電極をインゴットIに当接後、図示しない加工槽に加工液を注ぎ入れて、インゴットIを加工液の中に浸漬させる。
【0042】
次に、インゴットIの第1加工を行う(
図13に示すステップST13)。例えば、高周波パルス電源ユニット61からの高周波パルス電圧を供給し、
図14に示すように、インゴットIがワイヤRの正面に配設された状態で、インゴット固定部41Bを支持するステージ42BをワイヤRに接近する方向(P1方向)に移動させて、インゴットIの側面I
aからワイヤRを所定量切り込ませる(第1加工ステップ)。例えば、インゴットIの側面I
aからワイヤRをインゴットIの直径の4/5程度切り込ませる。
【0043】
次に、インゴットIに切り込んだワイヤRをインゴットIから離脱させる(
図13に示すステップST14)。例えば、高周波パルス電源ユニット61からの高周波パルス電圧の供給を一旦停止させ、
図15に示すように、ステージ42BをワイヤRから離れる方向(P2方向)に移動させて、インゴットIに切り込んだワイヤRをインゴットIから離脱させる。
【0044】
次に、導電性部材64を固定する(
図3に示すステップST15)。例えば、
図15に示すように、ワイヤRによって部分的にスライスされた領域におけるインゴットIの側面I
aに導電性部材64を導電性接着剤B
cにより固定し、導電性部材64でスライス部I
s同士を電気的に接続する(導電性部材固定ステップ)。
【0045】
次に、部分的にスライスされていない領域におけるインゴットIの側面I
aがワイヤRと対面するようにインゴットIを移動させる。例えば、
図15に示す部分的にスライスされた領域におけるインゴットIの側面I
aとワイヤRとが対面した状態から、インゴットIをY方向に移動させてインゴットIとワイヤRとが対面していない状態とする。インゴットIとワイヤRとが対面していない状態で、インゴットIをX方向に移動させてインゴットIにワイヤRの側方を通過させる。インゴットIがワイヤRを通過後、インゴットIをY方向に移動させて、
図16に示すように、ワイヤRによって部分的にスライスされていない領域におけるインゴットIの側面I
aとワイヤRとが対面するようにインゴットIを配設し、インゴットIの溝I
dの延長線上にワイヤRを位置させる。例えば、ステージ42BのX方向及びY方向の移動は、X座標及びY座標の数値を装置に入力して行う。
図16に示すインゴットIのY座標は、
図14に示す第1加工で設定したY座標と同じ数値である。また、
図16に示すインゴットIのX座標は、
図15に示すワイヤRから離脱したインゴットIの位置のX座標に対して、インゴットIがワイヤRを通過する距離を加算した数値である。X座標及びY座標の入力値は、サブミクロン以下まで入力可能なので、インゴットIの溝I
dの延長線上に対応するようにワイヤRを位置付けることが可能である。
【0046】
次に、インゴットIの第2加工を行う(
図13に示すステップST16)。例えば、高周波パルス電源ユニット61からの高周波パルス電圧の供給を再開させ、
図17に示すように、第1加工ステップで切り残したインゴットIの領域をワイヤRでスライスし、インゴットIをウェーハに分割する(第2加工ステップ)。
【0047】
以上のように、実施形態2に係るウェーハの製造方法によれば、ワイヤRが接着剤B
nや基台部41Aに切り込まないので、ワイヤRの損傷を抑制することができる。
【0048】
また、インゴット固定部41Bの側面にインゴットIの端面I
eを固定し、さらに、部分的にスライスされた領域におけるインゴットIの側面I
aを導電性部材64により固定するので、インゴットIを確実に固定できる。これにより、インゴットIをスライス中にウェーハWがインゴット固定部41Bから脱落することを防止でき、ウェーハWの端部がバリ状になることを回避することができる。
【0049】
また、分割されたウェーハは、インゴット固定部41Bから分離されて導電性部材64によりのみ固定されているので、溶剤等を使用してインゴット固定部41Bからウェーハを取り外す手間を省略でき、作業プロセスを簡略化できる。