【実施例】
【0074】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0075】
[製造例1]化合物5の合成
まず、下記工程を経て、反応中間体(化合物3)を得た。
【0076】
【化38】
【0077】
ATTO−488NHS−ester(ATTO−TEC GmbH)である6−アミノ−3−(14−アザニリジン)−9−(2−((2−((2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)オキシ)−2−オキソエチル)(メチル)カルバモイル)フェニル)−3H−キサンテン−4,5−ジスルホン酸(化合物1)1.45μmolをDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)450μLに溶解した。これに、トリエチルアミン3.71μL(18.3μmol)を加え、引き続き32−アジド−3,6,9,12,15,18,21,24,27,30−デカオキサドトリアコンタン−1−アミン(化合物2)(O-(2-Aminoethyl)-O'-(2-azidoethyl)nonaethylene glycol, Aldrich 社から購入)を1.45μmol加え、室温で7時間攪拌した。溶媒を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム、メタノール及び水の混合液(CHCl
3:CH
3OH:H
2O=13:9:2(容量比))及びゲル浸透クロマトグラフィー(JAIGEL−GS、溶媒CH
3OH)により精製し6−アミノ−3−(14−アザニリジン)−9−(2−((35−アジド−2−オキソ−6,9,12,15,18,21,24,27,30,33−デカオキサ−3−アザペンタトリアコンチル)(メチル)カルバモイル)フェニル)−3H−キサンテン−4,5−ジスルホン酸(化合物3)を得た。
【0078】
次に、下記工程を経て、化合物5を得た。
【0079】
【化39】
【0080】
得られた化合物3(1.0μmol)をt−BuOH/H
2O(4/1、400μL)に溶解し、硫酸銅(0.5μmol)とアスコルビン酸ナトリウム(1.5uμmol)を加え、次にメタノール100μLに溶解させた2−(エチニルジメチルアンモニオ)エチル((2S,3R,E)−3−ヒドロキシ−2−ステアルアミドオクタデク−4−エン−1−イル)リン酸塩(化合物4)(Sarah A. Goretta, Masanao Kinoshita, Shoko Mori, Hiroshi Tsuchikawa, Nobuaki Matsumori, Michio Murata Bioorg. Med. Chem.20, 4012-4019 (2012)に記載の方法により製造)を加え室温で1日攪拌した。溶媒を留去し、残渣を薄層クロマトグラフィー(展開溶媒CHCl
3/MeOH/H
2O=13/9/1)及びゲル浸透クロマトグラフィー(JAIGEL−GS、溶媒CH
3OH)により分離精製し、2−(((1−(1−(2−(6−アミノ−3−(14−アザニリジン)−4,5−ジスルホ−3H−キサンテン−9−イル)フェニル)−2−メチル−1,4−ジオキソ−8,11,14,17,20,23,26,29,32,35−デカオキサ−2,5−ジアザペンタトリアコンタン−37−イル)−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル)ジメチルアンモニオ)エチル((2S,3R,E)−3−ヒドロキシ−2−ステアルアミドオクタデク−4−エン−1−イル)(化合物5)を0.29μmol(総収率19%)得た。
【0081】
化合物5のNMRについて、NMRデータ処理プログラム(Delta 5.0.0)を用いて一次元データ処理、二次元データ処理した結果をそれぞれ
図29、30に示した。化合物5のHRMSチャート(Xcalibur)を
図31に示した。
【0082】
(化合物5)
NMR(400MHz,CD3OD)δ0.90(t,J=6.64Hz,6H),1.07−1.50(m,50H),1.52−1.69(m,2H),1.94−2.08(m,2H),2.11−2.24(m,2H),2.87(s,3H),3.17(s,6H),3.44−3.76(m,40H,PEG),3.82−4.16(m,4H),4.22−4.41(m,2H),4.58−4.70(m,1H),5.40−5.51(m,1H),5.61−5.78(m,1H),6.94−7.03(m,2H,aromatic),7.23−7.28(m,2H,aromatic),7.33−7.81(m,4H,aromatic),8.36−8.60(m,1H).
HRMS calcd for C
90H
151N
9O
25PS
2+ [M]
+1852.9995, found: 1852.9972.
【0083】
[製造例2]化合物6の合成
ATTO−488N−ヒドロキシコハク酸イミド誘導体の代わりに、ATTO−594N−ヒドロキシコハク酸イミド誘導体(ATTO−TEC GmbH)を用いた以外は、製造例1と同様の方法で合成し化合物6を0.34μmol(総収率22%)得た。
【0084】
化合物6のNMRについて、NMRデータ処理プログラム(Delta 5.0.0)を用いて一次元データ処理、二次元データ処理した結果をそれぞれ
図32、33に示した。化合物5のHRMSチャート(Xcalibur)を
図34に示した。
【0085】
(化合物6)
NMR(500MHz,CD3OD)δ0.90(t,J=6.73Hz,6H),1.20−1.45(m,50H),1.51−1.66(m,6H),1.78(t,J=5.80Hz,1H),1.97−2.09(m,2H),2.13−2.23(m,2H),2.64(s,1H),2.72(s,1H),3.19(s,6H),3.43−3.52(m,2H),3.54−3.70(m,40H,PEG),3.70−3.78(m,2H),3.85(d,J=15.75Hz,1H),3.90−4.01(m,2H),4.03−4.09(m,1H),4.10−4.18(m,1H),4.33−4.39(m,1H),4.58(s,12H),4.64−4.68(m,1H),4.76(s,2H),5.41−5.48(m,1H),5.66−5.74(m,1H),5.89(s,1H),6.79(s,1H),7.38(d,J=15.32Hz,1H),7.46−7.53(m,1H),7.57−7.64(m,1H),7.68−7.76(m,2H),8.41(s,1H).
HRMS found:[M+2Na]
2+ 1056.5724.
【0086】
[製造例3]人工膜リポソーム(GUV)の作製
スフィンゴミエリン(SM)とDOPCは、Avanti Polar Lipid (Alabaster AL)から購入した。コレステロールは、Sigma Aldrich (St.Louis,LO)から購入した。SM、DOPC及びコレステロールから成る3成分系巨大脂質膜リポソーム(GUV: Giant Unilamellar Vesicle)は、Dimitrov, D. S. Liposome Electro formation. 303−311(1986)に従いエレクトロフォーメーション法を用いて作製した。具体的には、適量の蛍光プローブを添加したSM/DOPC/chol溶液(1mg/mL)5〜10μLを電極(白金線、直径=100μm)の表面上に塗り広げた。この電極を真空下で24時間乾燥させた後、薄い脂質膜でコーティングした。次に、平行に配置した電極を、四角い枠の形をしたゴム製スペーサー(厚さ1mm)を使って2枚のカバーガラス(24mm×60mm、厚さ0.12〜0.17mm)で挟んだ約400μLのミリQ水の中に入れた。このチャンバーは、温度制御されたサンプルステージ(サーモプレート、東海ヒット社、静岡、日本)の上に固定した。その後、サンプルは、純粋なSM二重層のTmよりも十分に高い温度である50℃で60分間インキュベートし、ファンクションジェネレータ(20MHz,Agilent社、カリフォルニア州サンタクララ)を使って低周波交流(AC)(正弦波関数、10Vpp、10Hz)を印加した。エレクトロフォーメーション後、その後の観察のためにGUVを25℃に冷却し、15分間平衡化してから、28.5℃まで加熱した。バルク溶液の温度は、別途にKタイプ温度計(AD−5602a、株式会社三商(SANSYO Co.,LTD)東京、日本)を用いて測定し、サンプルステージとサンプルの温度差を較正した。
【0087】
[実施例1]化合物5及び化合物6を含む3成分系巨大脂質膜リポソーム(GUV)におけるラフト様相への移行(蛍光顕微鏡観察)
0.2%molの化合物5又は0.2%molのTX−red DHPEを含むSM/DOPC/chol(1/1/1mol/mol/mol)で形成されるGUVを28.5℃で共焦点蛍光顕微鏡観察した。なお、GUVは、この条件下において、ラフト様の秩序相と非ラフト様の無秩序相とに相分離することが知られている。またそれぞれの相では脂質組成が異なり、とりわけラフトの主要成分であるSMは秩序相に豊富に分布することが報告されている。
【0088】
蛍光顕微鏡観察の結果を
図1〜6に示す。
図1及び
図5の白い部分は、青色蛍光部分であり、
図2及び
図4の白い部分は、赤色蛍光部分である。
図3、
図6はそれぞれ、
図1及び
図2、
図4及び
図5を重ね合わせた写真である。化合物5が、無秩序相(非ラフト様相)に結合することで知られるTX−red DHPE(Invitrogen, Eugene, OR, USA)と反対の分布を示すことがわかった(
図1〜3)。このことは化合物5が通常のSMと同様に秩序相(ラフト様相)に優先的に取り込まれることを示している。同様に化合物6も、無秩序相(非ラフト様相)に結合するBoipy−PC(Invitrogen,Eugene,OR,USA)と反対の分布を示すことより、秩序相(ラフト様相)に優先的に分布することがわかった(
図4〜6)。
【0089】
[実施例2]化合物5と6のラフト様相及び非ラフト様相への分布の割合(共焦点レーザー顕微鏡観察)
SM/DOPC/chol(1/1/1mol/mol/mol)からなるGUVにおける秩序相(Lo、ラフト様相)と非秩序相(Ld、非ラフト様相)でのSMの分布を、0.2mol%化合物5又は化合物6を加えて調べた。それぞれの励起は、共焦点レーザー(λex=473±2nm及び559±2nm)を用いた。それぞれの放射は、485nm−585nmと570nm−670nmで調べた。レーザーパワーは、9mW/cm
2、6mW/cm
2で、スキャン速度は、化合物5を含むGUVと、化合物6を含むGUVでそれぞれ2μs/pix、4μs/pixで、共焦点イメージは、1024pix×1024pixで得た。
【0090】
化合物5と化合物6の秩序相及び非秩序相の分布を蛍光強度で調べた。GUVの断面を
図7及び9に示す。
図7の白い部分は、青色蛍光部分を、
図9の白い部分は、赤色蛍光部分を示す。球状のGUVを20個選び、その断面周辺の強度をプロットした(
図8及び10)。化合物5と化合物6の秩序相の蛍光強度はともに、非秩序相の蛍光強度の4倍であり(
図11)、化合物5と化合物6は秩序相へ多く分布していることが示された。
【0091】
[実施例3]FRET法による化合物6の秩序相Lo移行領域の検出
0.2mol% 化合物5又は化合物6をSM/DOPC/cholの混合物(1:1:0.5mol/mol/mol)に加えて、GUVを作成した。化合物5を含むGUVに473±2nmの波長のレーザーを照射した。化合物5から化合物6へのエネルギー移行後、化合物6からの放射を波長610−630nmで検出した。レーザーパワー71mW/cm
2及び89mW/cm
2、スキャンスピード4μs/pix及び8μs/pixで得たFRETイメージ(1024pix×1024pix)を
図12及び14(スケールバーは10μm)に示す。
図12及び
図14の白い部分は、赤色蛍光部分を示す。
【0092】
同じ大きさのGUVを21個選び、GUV表面(
図12参照)に沿った化合物6からのみの放射を波長(λem=610−630nm)で検出した結果から得られるFRET強度のプロファイルを
図13に示した。その結果、秩序相(Lo、ラフト様相)と非秩序相(Ld、非ラフト様相)の平均的強度比は5.9±1.1であり、FRET現象によりコントラストが強くなっていることが確認された。
【0093】
[実施例4]赤血球の突起構造におけるSMクラスターの標識
大阪大学の診療所にて看護師により注射で血液を採取した。1mLの血液を、4mL燐酸バッファ溶液(PBS、pH7.4)で懸濁し、遠心分離した。この操作を2回繰り返し、得られた赤血球10μLを990mLのPBSに懸濁した。これに、化合物5及び6のエタノール溶液(0.5mM)5μLを加え、7分間室温でインキュベートした。赤血球膜に化合物5及び6を添加する方法は既知の方法(Mikhalyov, I. & Samsonov, A. Lipid raft detecting in membranes of live erythrocytes. Biochim. Biophys. Acta 1808, 1930-9 (2011).)を参考にした。その後直ちに、10倍量のPBSで5回洗浄し、赤血球膜外にある化合物5及び6を完全に除いた。化合物5及び6が挿入された赤血球をPBSで1%(v/v)以下になるように希釈した。この希釈溶液をカバーグラス(広さ24mm×60mm、厚さ0.12−0.17mm)に乗せ蛍光顕微鏡及び共焦点顕微鏡観察した。
【0094】
λex=559±2nm(178mW/cm
2)のレーザーで化合物6を励起しλem=610−630nmの発光を検出した蛍光顕微鏡観察の結果を
図15に示す。λex=473±2nm(178mW/cm
2)のレーザーで化合物5を励起し、化合物6からの発光(λem=610−630nm)を側方走査速度8μs/pixで検出した共焦点顕微鏡観察(1024pix.×1024pix.)の結果を
図16に示す。
図15及び
図16の白い部分は、赤色蛍光部分を示す。なお、この領域で、化合物5と化合物6のクロストーク(発光波長の重複)が生じないことを確認した。共焦点顕微鏡像(1024pix.×1024pix.)は側方走査速度100μs/pixで共焦点顕微鏡像を取得した。通常の蛍光顕微鏡像にくらべ、FRET法では長時間の露光が必要となるため比較的大きなバックグラウンド(デジタルノイズ)を被る。そのため、
図16にはそのバックグラウンドを差し引いた写真を示した。
【0095】
図15及び
図16において、コントラストが比較しやすいように、輝度はSM−rich領域の明るさで規格化した(矢尻)。後者では前者では見られなかった新しいドメインが現れていることから(
図16矢印)、FRETを用いることでSM−rich/SM−poor領域間でのコントラストが強調されていることがわかる。一方、これらの蛍光観察で得られたSM−rich領域(〜1μm)は、通常知られているラフト(<200nm)よりも大きいことが確認された。
【0096】
そこで、ここで得られたSMの凝集は赤血球上の突起(Echinocyte)の形成に関与しているのではないかと考え、化合物5及び6の赤血球上の突起への取り込みについて調べた。より高濃度の化合物6を加えることで人工的に誘起させた赤血球上の突起の微分干渉顕微鏡像、化合物6の蛍光顕微鏡像をそれぞれ
図17、
図18に示す。
図18の白い部分は、赤色蛍光部分である。
図17及び
図18を重ね合わせた写真を
図19に示す(スケールバーは5μm)。これらの結果より化合物6が、赤血球上の突起に局在することがわかった。この結果はSMが赤血球上の突起に局在することを直接的に可視化した初めての例である。このことから、脂質の埋込みにより生じた膜曲率の変化が化合物6の凝集を引き起こしたと考えられる。
【0097】
また、これまでの研究で、ラフトの主要成分であるGPI−anchoredタンパク質は赤血球上の突起に局在し、赤血球上の突起を介して細胞間でのタンパク質のやりとりが行われることが示唆されていることを考慮すると、
図15〜19の結果から、赤血球におけるタンパク質のやりとりにはGPI−anchoredタンパク質だけではなくSMも関与していることが示唆される。タンパク質の選択ややりとりは、生体膜におけるラフトの代表的な機能の一つであることを考慮すると、興味深い結果である。
【0098】
[実施例5]CHO−K1細胞中における化合物6の拡散運動の経時変化
チャイニーズハムスター卵巣由来培養細胞株(CHO−K1細胞株)中における化合物6の拡散運動の経時変化をSFMT法(1蛍光分子追跡法)で調べた。2分子の化合物6に注目した4ms/フレームの結果を
図20上欄に、2分子の化合物6の拡散運動の軌跡を
図20下欄に示す。
図20の結果から、当初独立にブラウン運動していた2分子の化合物6が9フレーム目で共局在し、その後、29フレームまで共拡散を続けるが、30フレーム目で共局在が解消されたことがわかった。ここで述べた共局在とは、化合物6が顕微鏡の分解能以下(<240nm)の距離まで近接していることを意味する。また、この自由拡散、共拡散、自由拡散の繰り返しプロセスは他の化合物6でも観察された。
【0099】
そこで、化合物6の共局在を定量的に評価するため、共局在の数を共局在時間の関数としてプロットした(
図21)。さらに、異なる分子間での共局在時間の差を明示するため、得られたヒストグラムを一次の指数関数でフィッティングすることにより見かけのダイマー寿命(緩和時間)を見積もった(
図21中の線)。その結果化合物6の見かけのダイマー寿命は50msとなり、ラフトに親和性を持たないことが知られているATTO594−DOPEのダイマー寿命(34ms)(
図22)より、有意義に長いことを示す結果が得られた。おそらく、複数個の化合物6がラフト領域に取り込まれることで、その共局在が安定化されているのではないかと考えられる。この結果は生体膜内におけるSMの挙動を一分子レベルで可視化した初めての例である。
【0100】
[実施例6]化合物6の赤血球ゴースト膜ラフト相への特異的分布の確認
赤血球ゴースト膜は、非特許文献(Tsuji, a, Kawasaki, K., Ohnishi, S., Merkle, H. & Kusumi, a. Regulation of band 3 mobilities in erythrocyte ghost membranes by protein association and cytoskeletal meshwork. Biochemistry 27, 7447-52 (1988).)に従い作製した。
すなわち、大阪大学の診療所にて看護師により注射で採取した50μLの血液を、450mL燐酸バッファ溶液(PBS、pH7.4)で懸濁し、遠心分離した。この操作を3回繰り返し、得られた赤血球を1mLの5P8バッファ溶液(140mM NaCl,5mM Na
3PO
4/Na
2HPO
4,及び20mMphenylmethylsulfonylfluoride(pH8.0))に懸濁し、20分間氷冷下インキュベートした。次に、5P8バッファで懸濁し、遠心分離した。この操作を4回行った。
【0101】
得られた赤血球ゴースト膜の溶液10μLを1mLのPBSバッファ(pH7.4)で懸濁した。続いて、これに化合物5と6およびATTO−DOPEを、実施例4に記載した方法で添加した。これを適当量(約3μL)poly−Llysineでコートされたガラスに乗せた。
カバーガラスに固定した赤血球ゴースト膜に200μLの1%TX−100(界面活性剤トリトンX−100)を加え15分間氷冷下インキュベートした。その後、PBSバッファで2回洗浄し、界面活性剤を取り除いた。
【0102】
化合物6を赤血球ゴースト膜に添加した蛍光顕微鏡写真を
図23に、
図23の赤血球ゴースト膜を界面活性化剤TX−100で処理後の蛍光顕微鏡写真を
図24に示した。化合物6は、界面活性化剤TX−100で処理後も赤血球ゴースト膜に残っていることから、化合物6は、赤血球ゴースト膜のラフト相に選択的に移行していることが確認された。
【0103】
[実施例7]化合物6のCHO−K1ゴースト膜又はECV304ゴースト膜のラフト相への特異的分布の確認
赤血球の代わりに、CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣細胞)又はECV304(ヒト膀胱がん由来細胞)を用いた以外は実施例6と同様の方法によりのゴースト膜を作製した。実施例6と同様の方法で化合物6の分布を調べた。
【0104】
化合物6をCHO−K1ゴースト膜に添加した蛍光顕微鏡写真を
図25に、
図25のCHO−K1ゴースト膜を界面活性化剤TX−100で処理後の蛍光顕微鏡写真を
図26に示した。化合物6は、界面活性化剤TX−100で処理後もゴースト膜に残っていることから、化合物6は、CHO−K1ゴースト膜のラフト相に選択的に移行していることが確認された。
【0105】
化合物6をECV304ゴースト膜に添加した蛍光顕微鏡写真を
図27に、
図27のECV304ゴースト膜を界面活性化剤TX−100で処理後の蛍光顕微鏡写真を
図28に示した。化合物6は、界面活性化剤TX−100で処理後もECV304ゴースト膜に残っていることから、化合物6は、ECV304ゴースト膜のラフト相に選択的に移行していることが確認された。
【0106】
上記結果から、化合物5及び化合物6は、脂質ラフト領域を選択的に標識することが確認できた。
【0107】
[実施例8]赤血膜のタンパク質(GPI−anchored CD59)の存在領域の検出
ラフト特異的なタンパク質GPI−anchored CD59が凝集することが知られているエキノサイト(棘状赤血球)の棘(
図37の白い領域)において、化合物5がGPI−anchored CD59と共局在することを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて調べた。
【0108】
大阪大学の診療所にて看護師により注射で血液を採取した。500μLの血液を10倍量のPBS緩衝液(pH7.4)で2回洗浄することで、赤血球を抽出した。抽出した赤血球5μLを450μLの緩衝液に懸濁することで10倍希釈した。次に、10μLのCy3−IgG(Suzuki, K. G. N., Fujiwara, T. K., Sanematsu, F., Iino, R., Edidin, M., Kusumi, A. GPI-anchored receptor clusters transiently recruit Lyn and Galpha for temporary cluster immobilization and Lyn activation:single-molecule tracking study 1. J. Cell Biol. 177, 717-730 (2007) に記載の方法で作製)(150μg/mL)を希釈した赤血球懸濁液に加え、37℃で1時間温置することで、GPI−anchored CD59を標識化した。次に、1μgの化合物5を含む200μLのPBS緩衝液を加え室温で7.5分放置した。その後、サンプルはPBS緩衝液で5回洗浄することにより、膜に取り込まれていない蛍光物質を除去した。最後に、赤血球にPBS緩衝液を加え、〜1%(v/v)に希釈した。試料はカバーガラス(24mm×60mm、厚さ0.12mm〜0.17mm)上に置き、共焦点顕微鏡観察を行った。採取した血液は3日以内に使用した。標識化は観察の直前に行った。
【0109】
蛍光抗体Cy3−IgGで標識したCD59の分布を
図36に示した。
図36より、Cy3はエキノサイトの棘に凝集することを示す結果を得た。興味深いことに、化合物5も棘に凝集しており(
図37)、その分布はCD59と重複することがわかった(
図38)。
【0110】
前記赤血球のエキノサイト初期における化合物5、Cy3−IgGで標識されたGPI−anchored CD59の分布を示す共焦点蛍光顕微鏡画像を、それぞれ
図39、40に示した。微分干渉顕微鏡像を
図41に、
図39〜41の重ねあわせを
図42に示した。
473±2nm(8.9μW/cm
2)のレーザーでATTO488、559±2nm(120μW/cm
2)のレーザーでCy3を励起した。それぞれの発光は485−515nm及び590−690nmで検出した。そのようなスペクトル領域においてATTO488とCy3のクロストーク(励起光の波長の重複)は十分に小さい。10μs/pixでレーザーを走査することにより1024pix×1024pixの画像を得た。それぞれの分布を明示するため、明るさとコントラストはAdobe Photoshopで調整した。
【0111】
エキノサイトが出来かけの状態においても、化合物5とCy3−GPI−anchored CD59の共局在が観察できた。このことより、僅かな曲率の変化が引き金となり、GPI−anchored CD59とSMが〜1μMサイズのラフト様領域を形成することが示唆される。