(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398111
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20180920BHJP
【FI】
H01M10/12 K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-241540(P2013-241540)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-103330(P2015-103330A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輔
【審査官】
山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−026753(JP,A)
【文献】
特開2007−328979(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/008383(WO,A1)
【文献】
特開平08−102329(JP,A)
【文献】
特開平08−171929(JP,A)
【文献】
特開2003−338274(JP,A)
【文献】
特開2008−186654(JP,A)
【文献】
実開昭59−134374(JP,U)
【文献】
小久見善八他編,はじめての二次電池技術,2001年 5月25日,初版,pp.38、41、42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と袋セパレータで包み込まれた負極板を交互に積層し、前記正極板同士および負極板同士それぞれの集電部を溶接した極板群を、複数のセル室を有する電槽に収納した鉛蓄電池において、
前記負極板が炭素粉末を含有し、
前記電槽のセル室には壁面にリブを設けず、かつ、化成後の極板群厚みb(スペーサを用いる場合、極板群厚みbはスペーサの厚みを含む)と、前記セル室の相対する壁面間の内寸aとの比率が、0.85≦b/a≦0.90の範囲にあることを特徴とする鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、信頼性、価格の安さから産業用、民生用に広く用いられており、特に自動車用鉛蓄電池(バッテリー)の需要が多い。
【0003】
従来、自動車用鉛蓄電池では、鉛合金の格子体に所定の活物質ペーストを充填したペースト式極板が用いられて、極板には、正極板と負極板がある。鉛蓄電池(以下電池と略す)は、前記正極板と負極板を、合成樹脂製のセパレータを介して交互に積層し、正極板同士および負極板同士それぞれの集電部を溶接した極板群を構成単位としている。
【0004】
前記セパレータは、合成樹脂製の微多孔性シートを二つ折りして、両側部をシールして袋状にした、いわゆる袋セパレータが用いられている。袋セパレータに極板を挿入することで、正極板と負極板の間を確実に隔離することができる。
【0005】
袋セパレータで包み込む極板は、正極板、負極板どちらでもよく、両方のタイプの電池がある。正極板を袋セパレータで包み込むタイプの電池は、高温下で使用されると正極板が腐食、変形し、袋セパレータを突き破る場合がある。このことを防止するために、正極板の代わりに負極板をセパレータで包み込むことにより、セパレータの突き破りを防止する構成の電池がある。
【0006】
近年の自動車は電装品が増加しており、電池への負荷が大きくなり、電池の放電量が多くなっている。これは、電池の放電深度(Depth of Discharge)が深くなることである。このような状況下では、正極活物質の軟化が進行し、徐々に格子体から活物質が脱落していく。前記脱落した活物質は、電解液(希硫酸)中に浮遊し、電池底部に沈殿する。
【0007】
前記脱落した活物質は、電池充電中のガス発生によって、電解液中を極板群の上部にまで舞い上げられる。すると、前記活物質は、正極板、負極板の上部に付着、堆積し、短絡を引き起こす。その結果、電池が短寿命となる問題があった。
【0008】
特許文献1では、正極板と袋セパレータに収納された負極板を交互に積層してなる極板群を備えた鉛蓄電池において、極板群の外側に負極板と電気的に接続された脱落活物質捕捉用の電極部材を設け、極板群上部での脱落活物質の付着による内部短絡を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−130030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の脱落活物質補足用の電極部材を設けても、脱落した活物質が、すべて前記電極部材に捕捉されるとは考えにくい。それは、前記電極部材が実質負極板と同じ構成とあるが、脱落した活物質をガス発生により舞い上げる力は、負極板が脱落した正極活物質を捕捉する力より大きいためである。
【0011】
従って、袋セパレータに収納された負極板にも脱落した活物質が付着し、堆積して、袋セパレータに収納された負極板をまたいで正極板と接触して短絡する可能性がある。
【0012】
本発明の目的は、脱落した活物質による極板群上部での短絡を防止し、サイクル特性に優れた電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明は、上記課題を解決するために以下の構成とする。
(第1の発明)正極板と袋セパレータで包み込まれた負極板を交互に積層し、前記正極板同士および負極板同士それぞれの集電部を溶接した極板群を、複数のセル室を有する電槽に収納した鉛蓄電池において、前記電槽のセル室には壁面にリブを設けず、かつ、化成後の極板群厚みbと、前記セル室の相対する壁面間の内寸aとの比率が、0.85<b/a<1.0の範囲にあることを特徴とする。
(第2の発明)第1の発明において、0.90≦b/a≦1.0の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、脱落した活物質が極板群上部に付着、堆積することによる短絡を防止し、サイクル特性に優れた鉛蓄電池を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の極板群と電槽セル室の断面を示す図である。
【
図2】比較例の極板群と電槽セル室の断面を示す図である。
【
図4】微多孔性のポリエチレン製シートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
(格子体)
格子体は、
図3に示す鉛−カルシウム-スズ系合金シートに切れ目をいれて拡開するエキスパンド格子体5を用いた。集電部6を除いた寸法は、正極用が幅145mm、高さ115mm、厚さ1.5mm、負極用が幅145mm、高さ115mm、厚さ1.3mmである。
(正極板)
ボールミル法によって作製した酸化度70%の鉛粉に、鉛丹化度90%の鉛丹を希硫酸と混合・反応させたスラリと水および希硫酸を加えて混練し、活物質ペーストを作製する。この活物質ペーストを、前記正極用エキスパンド格子体に充填し、常法により熟成・乾燥して正極板とする。
(負極板)
ボールミル法によって作製した酸化度70%の鉛粉に、添加剤として、炭素粉末、リグニン粉末、バリウム化合物粉末を加え混合する。続いて水および希硫酸を加えて混練し、活物質ペーストを作製する。この活物質ペーストを、前記負極用エキスパンド格子体に充填し、常法により熟成・乾燥して負極板とする。
(袋セパレータ)
図4に微多孔性のポリエチレン製シート7を示す。ポリエチレン製シート7の片面には、長手方向にセパレータのリブ8が設けられており、ポリエチレン製シート7のベース部の厚みは0.2mm、リブ8を含めた総厚みは0.8mmである。ポリエチレン製シート7を長さ235mm、幅152mmに切り出し二つ折りにする。続いて両側部をメカニカルシール、又は熱溶着し、
図6のような袋セパレータ2に加工する。
(極板群)
図5に示すように、前記袋セパレータ3に負極板3を入れ、正極板7枚と袋セパレータに包まれた負極板8枚を交互に積層する。正極、負極各々の集電部6をキャストオンストラップ法で溶接し、
図6に示す溶接部、すなわちストラップ9を形成させ、極板群10を得る。
(電槽)
図7にポリプロピレン製の電槽11を示す。電槽11は、隔壁12によって6区画に分割され、セル室13を設けられる。前記極板群10は、別名単電池といい、これは2Vの電池能力しかない。自動車用の電装品は、直流電圧12Vを昇圧または降圧して駆動するため、極板群10を6個直列接続して、2V×6=12Vとしている。そのため、セル室13は6個必要である。
【0017】
電槽11の隔壁12の両面及び電槽11の両端面の内壁面に、リブ1が電槽11の高さ方向に複数本設けられている。リブ1は、極板群を適切に加圧する役割がある。本発明では、壁面にリブ1を設けない電槽を用いる。
(電槽のセル室の内寸a)
電槽のセル室13の内寸とは、リブ1のある電槽は、相対するリブの頂部と頂部の間の幅を指し、リブ1のない電槽は、相対する隔壁12と隔壁12の壁面間の幅を指す。
(電池の作製)
前記極板群10を電槽11のセル室13に挿入し、隣の極板群10のストラップ9を隔壁貫通溶接で溶接する。前記電槽11に図示しないポリプロピレン製の蓋を熱溶着する。続いて蓋にセル室13ごとに開けた注液口から電解液である希硫酸を注液し、周囲温度40℃、電流25Aで20時間通電して電槽化成する。電槽化成後、電解液液面を調整し、JISD5301規定の85D23形電池を作製した。
(極板群の厚みb)
電槽化成後の電池を解体し、極板群10を取り出す。極板群10は電解液を吸収しているため、電槽化成前より膨潤している。極板群10の厚みbとは、電槽化成後において、積層方向の一番外側の袋セパレータのリブ8の頂部と、その反対側の袋セパレータのリブ8の頂部間の距離を指す。
(評価試験)
前記電池に、JISD5301規定の軽負荷寿命試験を実施する。これは、周囲温度75℃で、(ア)電流25Aで4分間定電流放電、(イ)定電圧14.8V、制限電流25Aで10分間定電圧充電し、(ア)と(イ)を1サイクルとして充放電を繰り返す試験である。
【0018】
試験中、480サイクルごとに56時間放置し、その後、定格コールドクランキング電流で30秒間放電し、30秒目の電流を記録する。電池の寿命判定は、前記30秒目電流が7.2V以下となり、その480サイクル後の定格コールドクランキング電流放電で再び7.2Vを超えないことを確認したときとした。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(実施例1)
図1に、セル室13の断面と収納された極板群10を示す。セル室3の壁面にはリブを設けず、袋セパレータ2に包み込まれた負極板3、正極板4が交互に配置されている。なお、ストラップ9の図示は省略した。電槽化成後の極板群の厚みb/電槽のセル室の内寸aは、0.85となるように電池を作製した。
(実施例2)
実施例1において、b/aが、0.88となるように電池を作製した。これは、エキスパンド格子体への正極板活物質ペーストの充填量を増やし、正極板4を厚くすることによって調整した。
(実施例3)
実施例1において、b/aが、0.90となるように正極板4を厚くして電池を作製した。
(実施例4)
実施例1において、b/aが、1.0となるように正極板4を厚くして電池を作製した。
(比較例1)
実施例1において、b/aが、0.82となるように電池を作製した。これは、エキスパンド格子体への正極板活物質ペーストの充填量を減らし、正極板4を薄くすることによって調整した。
(比較例2)
図2に、セル室13の断面と収納された極板群10を示す。セル室13には高さ120mm、幅3mmのリブ1を設け、極板群の厚みb/リブとリブの間の幅a´は、0.82となるように電池を作製した。
(比較例3)
比較例2において、b/a´が、0.85となるように電池を作製した。これは、エキスパンド格子体への正極板活物質ペーストの充填量を増やし、正極板4を厚くすることによって調整した。
(比較例4)
比較例2において、b/a´が、0.88となるように正極板4を厚くして電池を作製した。
(比較例5)
比較例2において、b/a´が、0.90となるように正極板4を厚くして電池を作製した。
(比較例6)
比較例2において、b/a´が、1.0となるように正極板4を厚くして電池を作製した。
【0020】
極板群1の厚みを変える手段は、上記の他に、負極活物質の充電量を増やして、負極板3を厚くする、正極板4と負極板3の双方を厚くする、エキスパンド格子体1を厚くする、ポリエチレン製シート7のベース厚みやリブ8の高さを変える、極板群10に平板のスペーサを当接させるなどから選択できる。
【0021】
極板群の厚みb/電槽のセル室の内寸aの比率が1.0以上であると、極板群1が電槽2に収納できない。
【0022】
前述の評価試験で各電池を評価した結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
本発明を用いた実施例1〜4は、寿命サイクル数に優れる。これらの理由は、サイクルと共に正極活物質の軟化が進行し、活物質が脱落するが、電槽のセル室にリブがないこと、かつ、極板群厚み/電槽のセル室の内寸の比率が0.85〜1.0の範囲にあることから、脱落した活物質が極板群の上に舞い上がるスペースが無くなったことによる効果である。
【0025】
特に、極板群厚み/電槽のセル室の内寸の比率が0.90〜1.0の範囲にあると、より脱落した活物質が極板群の上に舞い上がるスペースが狭小化するため、寿命サイクル数が伸び好ましい。
【0026】
比較例1には電槽リブはないが、寿命サイクル数が少ない。これは、極板群厚み/電槽のセル室の内寸の比率が0.85未満であると、活物質量が少ないため、充放電の繰り返しに対する極板の耐久性が低下するためである。たとえ、正極板の活物質を増やしても、極板群の厚みが規制されているので、負極板の活物質が相対的に減ることになり、負極板の耐久性が低下し寿命性能が低下する。
【0027】
また、活物質量を維持してエキスパンド格子体を薄くすると、寿命サイクル中の正極板の耐食性が著しく低下する。同様に、ポリエチレン製シートのベース厚みやリブの高さを小さくすると、電池が短絡しやすくなる。いずれの手段でも寿命性能が低下するため、極板群厚み/電槽のセル室の内寸の比率を0.85以上としなければならない。
【符号の説明】
【0028】
1.リブ、2.袋セパレータ、3.負極板、4.正極板、5.エキスパンド格子体、6.集電部、7.ポリエチレン製シート、8.セパレータのリブ、9.ストラップ、10.極板群、11.電槽、12.隔壁、13.セル室