特許第6398382号(P6398382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398382
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】光デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20180920BHJP
【FI】
   G02F1/035
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-135319(P2014-135319)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-14698(P2016-14698A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年2月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成26年03月04日に発行された電子情報通信学会2014年総合大会プログラム(主催者:一般社団法人 電子情報通信学会および新潟大学)にて発表 (2)平成26年03月18日から平成26年03月21日にかけて開催された電子情報通信学会2014年総合大会(主催者:一般社団法人 電子情報通信学会および新潟大学)において、平成26年03月18日に口頭で発表 (3)平成26年03月に発行された電子情報通信学会2014年総合講演論文集(主催者:一般社団法人 電子情報通信学会および新潟大学)にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/低消費電力高速光スイッチング技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】細川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】本谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】石川 佳澄
(72)【発明者】
【氏名】及川 哲
【審査官】 橿本 英吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−029987(JP,A)
【文献】 特開2004−007682(JP,A)
【文献】 米国特許第07197222(US,B1)
【文献】 特開2000−068715(JP,A)
【文献】 特開2010−191346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、
前記基板の上に形成される信号電極と、
前記基板の上に形成される複数の上部接地電極と、
前記基板の下に形成されて切り欠き部を有する下部接地電極と、を備え、
前記信号電極の端部において、前記信号電極を一対の上部接地電極にて挟むコプレーナ型電極部と、前記信号電極及び前記下部接地電極からなる電極変換部と、前記信号電極及び前記下部接地電極を重ね合わせたマイクロストリップ型電極部とがこの順に連続するフィードスルー部が設けられ、
前記下部接地電極は、前記コプレーナ型電極部において形成されるとともに前記信号電極の下方位置に形成されず、前記電極変換部においては前記マイクロストリップ型電極部側の前記信号電極の下方位置の一部に形成され、
前記電極変換部の前記コプレーナ型電極部側の一端における前記信号電極の幅をW1、前記電極変換部の前記マイクロストリップ型電極部側の一端における前記信号電極の幅をW2、前記電極変換部の前記コプレーナ型電極部側の一端における前記下部接地電極の切り欠き部の幅をWgとしたとき、Wg>W1であり、
平面視において、前記電極変換部にて前記信号電極の一辺と前記下部接地電極の切り欠き部の一辺とが交差する点を点A、前記点Aから前記幅W2の延長線に垂直に交わる点を点Bとしたときの前記点Aと前記点Bとを結ぶ線分の長さをLabとし、
前記幅Wgの一端の点と前記幅W2の中点とを結ぶ線分と、前記幅W1の一端と前記幅W2の一端とを結ぶ線分との交点を点C、前記点Cから前記幅W2の延長線上に垂直に交わる点を点Dとしたときの前記点Cと前記点Dとを結ぶ線分の長さをLcdとすると、
LabはLcdよりも短いことを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
前記コプレーナ型電極部のインピーダンスは、前記マイクロストリップ型電極部のインピーダンスと略等しいことを特徴とする請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記電極変換部のインピーダンスは、前記コプレーナ型電極部のインピーダンス及び前記マイクロストリップ型電極部のインピーダンスと略等しいことを特徴とする請求項2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記電極変換部における前記下部接地電極の切り欠き部の一辺は連続関数にて表される形状を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスに関し、更に詳しくは、電気光学効果を有する基板と、この基板の上に形成されるフィードスルー部と、この基板の下に形成されて切り欠き部を有する下部接地電極と、を備えた光デバイスにおける電気的特性を精密に制御することが可能な光技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光伝送技術においては、さらなる小型化、低駆動電圧化に対する要求が高まっている。このような中、光変調器としては、電気光学効果を有するニオブ酸リチウム(LiNbO)や樹脂等を用いた薄い電気光学基板を信号電極及び下部接地電極により上下方向から挟んだ構造が提案されている(特許文献1、2等参照)。
特に、樹脂等を基板に用いた変調器においては、基板の上側に信号電極のみを設けて接地電極を設けず、この基板の下側に接地電極を設けた、いわゆるマイクロストリップ構造(以下、MSL構造と称することもある)が用いられている(特許文献2)。
【0003】
また、このような変調器においては、電気光学基板の外部に配置された外部電極と電気光学基板に形成された下部接地電極とを接続する場合、下部接地電極を露出させる等の処理をしないと接続面積が十分でないため直接ワイヤボンディングにより電気的に接続することが難しい。
そこで、電気的な接続を容易にするために、電気光学基板の外部電極との接続部における電極構成を、信号電極を一対の上部接地電極にて挟んだコプレーナ型構造(以下、CPW構造と称することもある)とすることがある。この場合、CPWの信号電極幅をワイヤボンディングなどで電気的に更に容易に接続できるように、MSL電極部の信号電極よりも広くしている。また、このようなCPW構造及びMSL構造の双方を備えた変調器においては、CPW−MSL変換構造を導入した構成の光変調器が提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
図6は、従来のCPW−MSL変換構造を導入した光変調器を示す平面図である。図において、符号1は光変調器であり、電気光学効果を有する基板2と、この基板2上にその長手方向に沿って形成された光導波路3と、この光導波路3上に形成された上部クラッド層4と、この上部クラッド層4上かつ光導波路3の上方に形成された信号電極5と、この上部クラッド層4上の信号電極5と異なる位置に、この上部クラッド層4の長手方向に沿う端部に沿って形成された上部接地電極6〜8と、を有している。このような光導波路3が形成された基板2を「光導波路基板」と称することがある。
【0005】
信号電極5は、両端側がクラッド層4上の上部接地電極6〜8が配列した端部の方へ屈曲している。信号電極5の両端は、上部接地電極6〜8とともに端部で配列しており、フィードスルー部9,10の一部を構成している。ここでフィードスルー部9は電気信号を入力するための入力用フィードスルー部を表している。またフィードスルー部10は電気信号を出力するための出力用フィードスルー部を表しており、これらを総称してフィードスルー部という。
【0006】
入力用フィードスルー部9および出力用フィードスルー部10は、互いに同様の構成を有している。以下、フィードスルー部の構成について、入力用フィードスルー部9を例にして説明する。
図7〜10は、入力用フィードスルー部9について示す図である。図7は入力用フィードスルー部9の平面図、図8は入力用フィードスルー部9の下部電極の構造を示す平面図、図9図7のA−Aにおける矢視断面図、図10図7のB−Bにおける矢視断面図である。
【0007】
図7図10に示す様に、入力用フィードスルー部9は、光導波路3を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向(図7中、矢印方向)に、コプレーナ型電極部11と、電極変換部12と、マイクロストリップ型電極部13が、順に形成されている。
コプレーナ型電極部11は、信号電極5と、信号電極5を挟持する一対の上部接地電極6,7とを有している。また、コプレーナ型電極部11を平面視したとき、基板2の下面には下部クラッド層35を介して下部接地電極17が形成されている。
電極変換部12は、信号電極5と、基板2の下面に下部クラッド層35を介して形成された下部接地電極17とにより構成されている。
マイクロストリップ型電極部13は、信号電極5及び下部接地電極17により構成されている。
【0008】
そして、下部接地電極17のうちコプレーナ型電極部11及び電極変換部12に位置する領域には、信号電極5に沿って略五角形状の切り欠き部が形成されている。入力用フィードスルー部9では、下部接地電極17に略五角形状の切り欠き部18を形成することにより、インピーダンスに大きな不連続点が生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−250080号公報
【特許文献2】特開2009−145475号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ウイリアムズ C チャン( Williams.c.chang)編、"RF フォトニック テクノロジー イン オプティカル ファイバー リンクス(RF Photonic Technology in Opticai Fiber Links)" (英国)、2009年09月19日発行、p.218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のCPW−MSL変換構造を導入した光変調器においては、下部接地電極に略五角形状の切り欠き部を形成することで大まかなインピーダンス整合を取っているために、インピーダンスに大きな不連続点は生じないようになっているものの、インピーダンスが整合していない領域が生じることに変わりはない。このため依然として、電気反射特性や光伝送特性が劣化するという問題点があった。
特に、コプレーナ型電極部においては、下部接地電極の切り欠き幅が信号電極の幅より大きい場合、信号電極の幅が下部接地電極の幅より大きい部分の長さは、変調信号が伝搬する方向において長くなる。その結果、インピーダンスの不連続部が長くなるので、電気反射特性や光伝送特性はさらに劣化し易くなるという問題点があった。
【0012】
また、光変調器の駆動電圧を下げるために、光導波路基板を薄くする形状を取った場合、樹脂等を用いてコア層やクラッド層を形成した光変調器においても、電極変換部における上部クラッド層の表面形状は、下部接地電極のギャップ形状を反映した凹形状になる。
一方、ニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)等においてもクラッド層等を蒸着法やスパッタリング法等により成膜しているために、光導波路基板が反り易く、上部クラッド層の表面形状は下部接地電極のギャップ形状を反映した凹形状になる。
このように、下部接地電極の切り欠きにより、上部クラッド層は凹形状となるが、下部クラッド層の凹形状にはバラツキがあることから、結果として、上部クラッド層上に形成される信号電極と下部電極との間隔形状にもバラツキが生じ、変調器の特性、特にインピーダンスのバラツキが大きくなるという問題点があった。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、光導波路を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向のインピーダンスが精度良く整合することにより、電気反射特性や光伝送特性が長期間に亘って維持することができ、しかも、形状のバラツキや電気的特性のバラツキが小さい光デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の構成により、光導波路を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向のインピーダンスが精度良く整合していることを見出し、これにより、電気反射特性を改善することができることが可能であり、しかも、信号電極の形状のバラツキを抑制することで電気的特性のバラツキが小さくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の光デバイスは、電気光学効果を有する基板と、前記基板の上に形成される信号電極と、前記基板の上に形成される複数の上部接地電極と、前記基板の下に形成されて切り欠き部を有する下部接地電極と、を備え、
前記信号電極の端部において、前記信号電極を一対の上部接地電極にて挟むコプレーナ型電極部と、前記信号電極及び前記下部接地電極からなる電極変換部と、前記信号電極及び前記下部接地電極を重ね合わせたマイクロストリップ型電極部とがこの順に連続するフィードスルー部が設けられ、
前記下部接地電極は、前記コプレーナ型電極部においては前記信号電極の下方位置に形成されず、前記電極変換部においては前記マイクロストリップ型電極部側の前記信号電極の下方位置の一部に形成され、
前記電極変換部の前記コプレーナ型電極部側の一端における前記信号電極の幅をW1、前記電極変換部の前記マイクロストリップ型電極部側の一端における前記信号電極の幅をW2、前記電極変換部の前記コプレーナ型電極部側の一端における前記下部接地電極の切り欠き部の幅をWgとしたとき、Wg>W1であり、
平面視において、前記電極変換部にて前記信号電極の一辺と前記下部接地電極の切り欠き部の一辺とが交差する点を点A、前記点Aから前記幅W2の延長線に垂直に交わる点を点Bとしたときの前記点Aと前記点Bとを結ぶ線分の長さをLabとし、
前記幅Wgの一端の点と前記幅W2の中点とを結ぶ線分と、前記幅W1の一端と前記幅W2の一端とを結ぶ線分との交点を点C、前記点Cから前記幅W2の延長線上に垂直に交わる点を点Dとしたときの前記点Cと前記点Dとを結ぶ線分の長さをLcdとすると、
LabはLcdよりも短いことを特徴とする。
【0016】
前記コプレーナ型電極部のインピーダンスは、前記マイクロストリップ型電極部のインピーダンスと略等しいことが好ましい。
前記電極変換部のインピーダンスは、前記コプレーナ型電極部のインピーダンス及び前記マイクロストリップ型電極部のインピーダンスと略等しいことが好ましい。
前記電極変換部における前記下部接地電極の切り欠き部の一辺は連続関数にて表される形状を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光デバイスによれば、電極変換部のコプレーナ型電極部側の一端における信号電極の幅をW1、電極変換部のマイクロストリップ型電極部側の一端における信号電極の幅をW2、電極変換部のコプレーナ型電極部側の一端における下部接地電極の切り欠き部の幅をWgとしたとき、Wg>W1とし、平面視において、電極変換部にて信号電極の一辺と下部接地電極の切り欠き部の一辺とが交差する点を点A、点AからW2の延長線上に垂直に交わる点を点Bとしたときの点Aと点Bとを結ぶ線分の長さをLabとし、Wgの一端の点とW2の中点とを結ぶ線分と、W1の一端とW2の一端とを結ぶ線分との交点を点C、点CからW2の延長線上に垂直に交わる点を点Dとしたときの点Cと点Dとを結ぶ線分の長さをLcdとしたとき、LabをLcdよりも短くしたので、光導波路を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向のインピーダンスを精度良く整合することができる。したがって、電気反射特性を改善することができる。
さらに、信号電極の形状のバラツキを抑制することができ、電気的特性のバラツキを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の光変調器を示す概略斜視図である。
図2】本発明の一実施形態の光変調器の入力用フィードスルー部を示す平面図である。
図3】本発明の一実施形態の光変調器の入力用フィードスルー部の下部電極の構造を示す平面図である。
図4図2のC−C線に沿う断面図である。
図5】本発明の一実施形態の光変調器の入力用フィードスルー部の下部電極の切り欠き部の形状を示す平面図である。
図6】従来の光変調器を示す平面図である。
図7】従来の光変調器の入力用フィードスルー部を示す平面図である。
図8】従来の光変調器の入力用フィードスルー部の下部電極の構造を示す平面図である。
図9図7のA−A線に沿う矢視断面図である。
図10図7のB−B線に沿う矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の光デバイスを実施するための形態について説明する。
本発明では、光デバイスとしてCPW−MSL変換構造を導入した光変調器及びそこに形成された入力用フィードスルー部を例に取り説明する。
なお、以下の実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態のCPW−MSL変換構造を導入した光変調器を示す概略斜視図である。図1において、図6と同一の構成要素については同一の符号を付してある。
【0021】
図1において、符号21は本実施形態の光変調器であり、電気光学効果を有する基板2と、この基板2上にその長手方向に沿って形成された光導波路(コア層)3と、この光導波路3上に形成された上部クラッド層4と、この光導波路3の下に形成された下部クラッド層35と、この上部クラッド層4上かつ光導波路3の上方に形成された信号電極5と、この上部クラッド層4上の信号電極5と異なる位置に、この上部クラッド層4の長手方向に沿う端部に沿って形成された上部接地電極6〜8と、を有している。これらの積層構造が、基体100の上に積層している。このような光導波路3が形成された基板2を「光導波路基板」と称することがある。信号電極5の端部5aは、入力用フィードスルー部22の一部を構成し、信号電極5の端部5bは、出力用フィードスルー部23の一部を構成している。
【0022】
この光変調器21では、電気光学効果を有する基板2としては、ニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ジルコン酸チタン酸ランタン(PLZT)、石英(SiO)等の薄厚の誘電体基板、あるいは樹脂(ポリマー材料)を用いた薄厚の電気光学基板が好適に用いられる。
このポリマー材料としては、光導波路3(コア層)を伝搬する光に対して高い透過率を有するものであればよく、例えば、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリキノリン系樹脂、ポリキノキサリン系樹脂、ポリベンゾオキサゾール系樹脂、ポリベンゾチアゾール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂等が挙げられる。これらのポリマー材料は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのポリマー材料には、必要に応じて、無機微粒子や、他の成分等を添加してポリマーの屈折率や機械的特性等を調整することが可能である。
【0023】
光導波路3は、電気光学効果を有する基板2の構成に応じて、種々の形状・構造を有する。
基板2の形成材料がニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)等の10μm以下の薄厚の誘電体基板の場合、光導波路3は、誘電体基体の表面にチタン(Ti)等を熱拡散法やプロトン交換法等により拡散させることにより形成される。本実施形態の基板2は、SiOなどで形成したクラッド層4,35により上下方向から挟まれている。
また、上述のような熱拡散やプロトン交換により光導波路3を形成する方法に替えて、誘電体基体である基板2の一部を凸状に成形して光導波路を形成してもよい。このような光導波路を有する基板2は、上述のような熱拡散やプロトン交換により光導波路3が形成された基板2と同様に、誘電体基体をSiOなどで形成したクラッド層4,35により上下方向から挟まれる構造としてもよい。
【0024】
一方、ポリマー材料を用いた薄厚の電気光学基板においては、電気光学基板の上部の一部を凸状にして光導波路3(コア層)を形成し、光導波路3(コア層)が上部クラッド層4及び下部クラッド層35により上下方向から挟まれた3層構造となっている。
この光導波路3においては、下部クラッド層および上部クラッド層4の厚みは、光導波路3の光導波領域の厚みより厚くなっている。
例えば、光導波路3の光導波領域の厚みが0.1μm〜10μmの範囲の場合、上部クラッド層4及び下部クラッド層の厚みは、0.5μm〜20μmの範囲である。
【0025】
このポリマー材料を用いた電気光学基板では、光導波路3に電気光学効果を付与するために、光導波路3、上部クラッド層4及び下部クラッド層35のうち少なくとも1つ以上の層に、電気光学効果を有する有機分子(以下、有機EO分子と称する)を添加することが必要である。
この有機EO分子は、上記のポリマー材料に単に添加してポリマー中に分散させるか、もしくは、上記のポリマー材料の側鎖または主鎖に化学結合によって導入することで、添加することが可能である。
【0026】
この有機EO分子としては、公知のものであればよく、特に限定されないが、1分子中に、電子供与性を有する原子団(以下、ドナーと称する)、及び電子吸引性を有する原子団(以下、アクセプターと称する)の双方を有し、かつ、ドナーとアクセプターとの間にπ電子共役系の原子団を配置している構造を有する有機EO分子が好ましい。
この有機EO分子の具体例としては、Disperse Red類、Disperse Orenge類、スチルベン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
次に、フィードスルー部について詳細に説明する。本実施形態の光変調器21において、入力用フィードスルー部22と出力用フィードスルー部23とは同じ形状を有している。
【0028】
図2は本実施形態の光変調器の入力用フィードスルー部22を示す平面図、図3は本実施形態の光変調器の入力用フィードスルー部22の下部電極の構造を示す平面図、図4図2のC−C線に沿う断面図、図5は本実施形態の光変調器の入力用フィードスルー部22の下部電極の切り欠き部の形状を示す平面図である。
【0029】
この入力用フィードスルー部22は、電気信号が伝搬する方向、すなわち光導波路3を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向(図2中、矢印方向)に、コプレーナ(CPW)型電極部31と、電極変換部32と、マイクロストリップ(MSL)型電極部33が、順に形成されている。
コプレーナ型電極部31は、信号電極5と、信号電極5を挟持する一対の上部接地電極6,7とを有している。また、コプレーナ型電極部31を平面視したとき、基板2の下面には下部クラッド層35を介して下部接地電極36が形成されている。
電極変換部32は、信号電極5と、基板2の下面に下部クラッド層35を介して形成された下部接地電極36とにより構成されている。
マイクロストリップ型電極部33は、信号電極5及び下部接地電極36により構成されている。
【0030】
下部接地電極36は、図2、3に示すように、信号電極5に沿って正多角形状の切り欠き部37が形成されている。これにより、下部接地電極36はCPW型電極部31においては、信号電極5の下方位置に形成されず、電極変換部32においては、MSL型電極部33側の信号電極5の下方位置の一部に形成されるようになっている。
この切り欠き部37の一辺の形状は、インピーダンスの不連続性を避けるために、図2図5に示すように、3つの線分を連続的に繋ぎ合わせた多角形の複数辺のような形状でもよいが、より連続関数に近い形状を有することが好ましい。
【0031】
一般に、下部接地電極の上に形成される下部クラッド層35、基板2、上部クラッド層4は、スピンコート法や蒸着法、スパッタリング法等により積層される。そのため、図7,8に示す従来例のように、下部接地電極17に切り欠き部18が形成されていると、下部クラッド層35、基板2、上部クラッド層4の厚みの合計(総和)が30μm以下の場合には、下部クラッド層35、基板2、上部クラッド層4は、切り欠き部18に起因した下部接地電極17の凹凸形状を反映した形状になることになる。すると、上部クラッド層4の上に形成される信号電極5も同様に、下部接地電極17の凹凸形状を反映して歪み、信号電極5と下部接地電極36との間隔が一定に制御することが困難となる(間隔にバラツキが生じ易くなる)。
【0032】
信号電極5と下部接地電極36との間隔にバラツキがあると、基板2において所望の印加電圧に応じた電気光学効果を発生させにくく、所望の光変調が困難となるおそれがある。特に下部接地電極36の間隔が信号電極5の幅よりも狭い場合、下部クラッド層35、基板2、上部クラッド層4に形成される凹凸形状は、変化が急峻となり、信号電極5の歪みも大きくなる。そのため、信号電極5と下部接地電極36との間隔バラツキが大きくなり、所望の光変調が困難となりやすい。
【0033】
一方、本実施形態では、下部接地電極36の間隔が信号電極5の幅よりも広い部分(信号電極5の長手方向の長さ)を従来よりも長くすることができるので、下部クラッド層35、基板2、上部クラッド層4の厚みの合計(総和)が30μm以下の場合においても、信号電極5は下部クラッド層35の凹凸形状の影響を受け難く、信号電極5と下部接地電極36との間隔の形状にバラツキが生じにくくなる。
【0034】
この下部接地電極36では、図5に示すように、CPW型電極部31側の一端における信号電極5の幅をW1、電極変換部32のMSL型電極部33側の一端における信号電極5の幅をW2、電極変換部32のCPW型電極部31側の一端における切り欠き部37の幅をWgとしたとき、Wg>W1という関係が成り立つ。
ここで、Wg>W1という関係が成り立たない場合、特に、下部接地電極36の上に形成される下部クラッド層35、基板2、上部クラッド層4が、スピンコート法や蒸着法、スパッタリング法等により積層される場合には、信号電極5が下部クラッド層35の凹形状の影響を受けて信号電極5と下部接地電極36との間隔にもバラツキが生じ、その結果、光変調器21の特性のバラツキが大きくなるので好ましくない。
【0035】
また、入力用フィードスルー部22を基板2の上方から見たとき(平面視において)、電極変換部32にて信号電極5の一辺と下部接地電極36の切り欠き部37の一辺とが交差する点を点A、この点Aから信号電極5の幅W2の延長線上に垂直に交わる点を点Bとしたときの点Aと点Bとを結ぶ線分の長さLabは、切り欠き部37の幅Wgの一端の点と信号電極5の幅W2の中点を結ぶ線分と、信号電極5の幅W1の一端と信号電極5の幅W2の一端とを結ぶ線分との交点を点C、この点Cから信号電極5の幅W2の延長線上に垂直に交わる点を点Dとしたときの点Cと点Dとを結ぶ線分の長さLcdよりも短い。すなわち、Lab<Lcdという関係が成り立つ。
【0036】
ここで、Lab<Lcdという関係が成り立たない場合、電極変換部32において下部接地電極36の切り欠き部37の幅が信号電極5の幅よりも小さい箇所の長さが従来よりも長くなるので、信号電極5が下部クラッド層35の凹形状の影響を受けて信号電極5と下部接地電極36との間隔にもバラツキが生じ、その結果、光変調器の特性のバラツキが大きくなるので好ましくない。
特に、長さLabが信号電極5を伝播する電気信号の波長の1/4以下の場合には、その部分のインピーダンス不整合の影響を抑制することができるので、より好ましい。
【0037】
この光変調器21では、CPW型電極部31のインピーダンスと、MSL型電極部33のインピーダンスとを略等しくしてもよい。この場合、電極変換部32における切り欠き部37の幅Wgが信号電極5の幅W2よりも広い範囲のインピーダンスを、CPW型電極部31のインピーダンス及びMSL型電極部33のインピーダンスと略同一とすることで、インピーダンスが不整合となる領域の長さ(図5中のLab)が短縮され、よってインピーダンスの不整合を抑制することができる。
【0038】
また、この光変調器21では、電極変換部32のインピーダンスを、CPW型電極部31のインピーダンス及びMSL型電極部33のインピーダンスと略等しくすることで、インピーダンスが不整合となる領域の長さ(図5中のLab)がさらに短縮され、よってインピーダンスの不整合をさらに抑制することができる。
【0039】
この光変調器21では、CPW型電極部31のインピーダンスと、MSL型電極部33のインピーダンスとが異なっていた場合には、電極変換部32における切り欠き部37の幅Wgが信号電極5の幅W2よりも広い範囲のインピーダンスを、CPW型電極部31のインピーダンスとMSL型電極部33のインピーダンスとの相乗平均と略同一とすることにより、インピーダンスの不整合を抑制することができる。特に、長さLabが信号電極5を伝播する電気信号の波長の1/4以下の場合には、その部分のインピーダンス不整合の影響を抑制することができるので好ましい。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の光変調器21によれば、CPW型電極部31側の一端における信号電極5の幅をW1、電極変換部32のMSL型電極部33側の一端における信号電極5の幅をW2、電極変換部32のCPW型電極部31側の一端における切り欠き部37の幅をWgとしたとき、Wg>W1という関係が成り立つ。
【0041】
さらに、入力用フィードスルー部22を基板2の上方から見たときに、電極変換部32にて信号電極5の一辺と下部接地電極36の切り欠き部37の一辺とが交差する点を点A、この点AからW2の延長線上に垂直に交わる点を点Bとしたときの点Aと点Bとを結ぶ線分の長さをLabとし、Wgの一端の点とW2の中点を結ぶ線分と、W1の一端とW2の一端とを結ぶ線分との交点を点C、この点CからW2の延長線上に垂直に交わる点を点Dとしたときの点Cと点Dとを結ぶ線分の長さをLcdとしたとき、Lab<Lcdという関係が成り立つ。
【0042】
そのため、光導波路を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向のインピーダンスを精度良く整合することができ、電気反射特性を改善することができる。
さらに、信号電極の形状のバラツキを抑制することができ、電気的特性のバラツキを小さくすることができる。
【0043】
なお、本実施形態の光変調器21では、電気光学効果を有する基板2上に光導波路3を形成した構成としたが、光導波路3は、必ずしも電気光学効果を有する基板2上に形成される必要はない。光変調器21の基板2に形成されたフィードスルー部の前段に配置される中継用基板等のような別基板に本発明の入力用フィードスルー部22の構成を形成してもよい。
【0044】
また、本実施形態の光変調器21においては、入力用フィードスルー部22を例にとり説明したが、本発明は入力用のフィードスルー部に限定されることはなく、出力用フィードスルー部として用いても同様の効果を得ることができる。
【0045】
また、入力用フィードスルー部22と出力用フィードスルー部23とは同じ形状を有していることとしたが、これに限らない。入力用フィードスルー部22、出力用フィードスルー部23のいずれか一方のフィードスルー部が、上述した入力用フィードスルー部22と同じ構成を有し、他方のフィードスルー部は、他の構成(例えば図7,8で示した従来の構成)を有していることとしてもよい。このような構成の光変調器においても、上述した入力用フィードスルー部22と同じ構成を有するフィードスルー部においては、インピーダンスを精度良く整合することができ、電気反射特性を改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の光デバイスは、フィードスルー部の電極変換部のコプレーナ型電極部側の一端における信号電極の幅をW1、電極変換部のMSL型電極部側の一端における信号電極の幅をW2、電極変換部のCPW型電極部側の一端における下部接地電極の切り欠き部の幅をWgとしたとき、Wg>W1であり、基板を上方から見たとき、電極変換部にて信号電極の一辺と下部接地電極の切り欠き部の一辺とが交差する点を点A、この点AからW2の延長線上に垂直に交わる点を点Bとしたときの点Aと点Bとを結ぶ線分の長さをLabとし、Wgの一端の点とW2の中点を結ぶ線分と、W1の一端とW2の一端とを結ぶ線分との交点を点C、この点CからW2の延長線上に垂直に交わる点を点Dとしたときの点Cと点Dとを結ぶ線分の長さをLcdとすると、LabはLcdよりも短いこととした。
これにより、本発明の光デバイスは、光導波路を伝搬する光波に電界を付与し変調するための変調信号が伝搬する方向のインピーダンスを精度良く整合することができ、したがって、電気反射特性を改善することができる。
さらに、信号電極の形状のバラツキを抑制することができ、電気的特性のバラツキを小さくすることができるものであるから、光伝送技術に用いられる光デバイスに対してはもちろんのこと、高周波化、高集積化が求められる光デバイスにおいても、設計の自由度を高めることができ、その工業的価値は大きい。
【符号の説明】
【0047】
21 光変調器
2 電気光学効果を有する基板
4 上部クラッド層
5 信号電極
6〜8 上部接地電極
22 入力用フィードスルー部
23 出力用フィードスルー部
31 コプレーナ(CPW)型電極部
32 電極変換部
33 マイクロストリップ(MSL)型電極部
35 下部クラッド層
36 下部接地電極
37 切り欠き部
W1 CPW型電極部側の信号電極の幅
W2 MSL型電極部側の信号電極の幅
Wg CPW型電極部側の切り欠き部の幅
A、B、C、D 点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10