(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリイミドフィルムの表面に接着剤を介することなくニッケル合金からなる下地金属層と、前記下地金属層の表面に銅層を設けた積層構造の2層フレキシブル配線用基板において、
前記銅層が、前記下地金属層の表面に備わる銅薄膜層と前記銅薄膜層の表面に備わる銅電気めっき層から構成され、且つ、
JIS C−5016−1994に規定される耐折れ性試験の実施前後において得られる前記銅層の結晶配向比[(200)/(111)]の差d[(200)/(111)]が、0.03以上であることと、前記銅層の(111)面における結晶配向度指数が、1.2以上で、結晶子径が300nm以上であることを特徴とする2層フレキシブル配線用基板。
ポリイミドフィルムの表面に接着剤を介することなくニッケル合金からなる下地金属層と、前記下地金属層の表面に銅層を備える積層構造の配線が設けられるフレキシブル配線板において、
前記銅層が、前記下地金属層の表面に備わる銅薄膜層と前記銅薄膜層の表面に備わる銅電気めっき層から構成され、且つ、
JIS−P−8115に規定される耐折れ性試験の実施前後において得られる前記銅層の結晶配向比[(200)/(111)]の差d[(200)/(111)]が、0.03以上であることと、前記銅層の(111)面における結晶配向度指数が、1.2以上で結晶子径が300nm以上であることを特徴とするフレキシブル配線板。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板は、その屈曲性を活かしてハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなど電子機器の屈折ないし屈曲を要する部分や、液晶ディスプレイ内の屈折配線などに広く用いられている。
かかるフレキシブル配線板の製造には、銅層と樹脂層を積層したフレキシブル配線用基板(銅張積層板、FCCL:Flexible Copper Clad Laminationとも称す。)を、サブトラクティブ法等を用いて配線加工する方法が用いられている。
【0003】
このサブトラクティブ法とは、フレキシブル配線用基板の銅層を化学エッチング処理して不要部分を除去する方法である。即ち、フレキシブル配線用基板の銅層のうち導体配線として残したい部分の表面にレジストを設け、銅に対応するエッチング液による化学エッチング処理と水洗を経て、銅層の不要部分を選択的に除去して導体配線を形成するものである。
【0004】
ところで、フレキシブル配線用基板(FCCL)は、3層FCCL板(以下、3層FCCLと称す。)と2層FCCL板(2層FCCLと称す。)に分類することができる。
3層FCCLは、電解銅箔や圧延銅箔をベース(絶縁層)の樹脂フィルムに接着した構造(銅箔/接着剤層/樹脂フィルム)となっている。一方、2層FCCLは、銅層若しくは銅箔と樹脂フィルム基材とが積層された構造(銅層若しくは銅箔/樹脂フィルム)となっている。
【0005】
また、上記2層FCCLには大別して3種のものがある。
即ち、樹脂フィルムの表面に下地金属層と銅層を順次めっきして形成したFCCL(通称メタライジング基板)、銅箔に樹脂フィルムのワニスを塗って絶縁層を形成したFCCL(通称キャスト基板)、及び銅箔に樹脂フィルムをラミネートしたFCCL(通称ラミネート基板)である。
【0006】
上記メタライジング基板、即ち樹脂フィルムの表面に下地金属層と銅層を順次めっきして形成したFCCLは、銅層の薄膜化が可能で、且つポリイミドフィルムと銅層界面の平滑性が高いため、キャスト基板やラミネート基板あるいは3層FCCLと比較して、配線のファインパターン化に適している。
例えば、メタライジング基板の銅層は、乾式めっき法及び電気めっき法により層厚を自由に制御できるのに対し、キャスト基板やラミネート基板あるいは3層FCCLは使用する銅箔によって、その厚みなどは制約されてしまう。
【0007】
また、フレキシブル配線板の配線に用いられる銅箔については、例えば、銅箔に熱処理を施す方法(特許文献1参照。)や、圧延加工を行う方法(特許文献2参照。)により、耐折れ性の向上が図られている。
しかし、これらの方法は、3層FCCLの圧延銅箔や電解銅箔、2層FCCLのうちのキャスト基板とラミネート基板に用いられる銅箔自体の処理に関するものである。
【0008】
なお、銅箔の耐折れ性評価は、「JIS C−5016−1994」等や「ASTM D2176」で規格されるMIT耐屈折度試験(Folding Endurance Test)が工業的に使用されている。
この試験では、試験片に形成した回路パターンが断線するまでの屈折回数をもって評価し、この屈折回数が大きいほど耐折れ性が良いとされている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)2層フレキシブル配線用基板
まず、本発明の2層フレキシブル配線用基板について説明する。
本発明の2層フレキシブル配線用基板は、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に接着剤を介さずに下地金属層と銅層が逐次的に積層された積層構造を採り、その銅層は、銅薄膜層と銅電気めっき層により構成されている。
【0022】
図1は、メタラインジング法で作製された2層フレキシブル配線用基板6の断面を示した模式図である。
樹脂フィルム基板1にポリイミドフィルムを用い、そのポリイミドフィルムの少なくとも一方の面には、ポリイミドフィルム側から下地金属層2、銅薄膜層3、銅電気めっき層4の順に成膜、積層されている。銅薄膜層3と銅電気めっき層4から銅層5が構成される。
【0023】
使用する樹脂フィルム基板としては、ポリイミドフィルムのほかに、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、液晶ポリマーフィルムなどを用いることができる。
特に、機械的強度や耐熱性や電気絶縁性の観点から、ポリイミドフィルムが好ましい。
さらに、フィルムの厚みが12.5〜75μmの上記樹脂フィルム基板が好ましく使用できる。
【0024】
下地金属層2は、樹脂フィルム基板と銅などの金属層との密着性や耐熱性などの信頼性を確保するものである。従って、下地金属層の材質は、ニッケル、クロム又はこれらの合金の中から選ばれる何れか1種とするが、密着強度や配線作製時のエッチングしやすさを考慮すると、ニッケル・クロム合金が適している。
【0025】
そのニッケル・クロム合金の組成は、クロム15重量%以上、22重量%以下が望ましく、耐食性や耐マイグレーション性の向上が望める。
このうち20重量%クロムのニッケル・クロム合金は、ニクロム合金として流通し、マグネトロンスパッタリング法のスパッタリングターゲットとして容易に入手可能である。また、ニッケルを含む合金には、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト等を添加しても良い。
さらに、クロム濃度の異なる複数のニッケル・クロム合金の薄膜を積層して、ニッケル・クロム合金の濃度勾配を設けた下地金属層を構成しても良い。
【0026】
下地金属層2の膜厚は、3nm〜50nmが望ましい。
下地金属層の膜厚が3nm未満では、ポリイミドフィルムと銅層の密着性を保てず、耐食性や耐マイグレーション性で劣る。一方、下地金属層の膜厚が50nmを越えると、サブトラクティブ法で配線加工する際に、下地金属層の十分な除去が困難な場合が生じる。その下地金属層の除去が不十分な場合は、配線間のマイグレーション等の不具合が懸念される。
【0027】
銅薄膜層3は、主に銅で構成され、その膜厚は、10nm〜1μmが望ましい。
銅薄膜層の膜厚が10nm未満では、銅薄膜層上に銅電気めっき層を電気めっき法で成膜する際の導電性が確保できず、電気めっきの際の外観不良に繋がる。銅薄膜層の膜厚が1μmを越えても2層フレキシブル配線用基板の品質上の問題は生じないが、生産性が劣る問題がある。
【0028】
(2)下地金属層と銅薄膜層の成膜方法
下地金属層および銅薄膜層は、乾式めっき法で形成することが好ましい。
乾式めっき法には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等が挙げられるが、下地金属層の組成制御等の観点から、スパッタリング法が望ましい。
樹脂フィルム基板へのスパッタリング成膜には、公知のスパッタリング装置で成膜することができ、長尺の樹脂フィルム基板への成膜には、公知のロール・ツー・ロール方式スパッタリング装置で行うことができる。このロール・ツー・ロールスパッタリング装置を用いれば、長尺のポリイミドフィルムの表面に、下地金属層および銅薄膜層を連続して成膜することができる。
【0029】
図2はロール・ツー・ロールスパッタリング装置の一例である。
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置10は、その構成部品のほとんどを収納した直方体状の筐体12を備えている。
筐体12は円筒状でも良く、その形状は問わないが、10
−4Pa〜1Paの範囲に減圧された状態を保持できれば良い。
この筐体12内には、長尺の樹脂フィルム基板であるポリイミドフィルムFを、供給する巻出ロール13、キャンロール14、スパッタリングカソード15a、15b、15c、15d、前フィードロール16a、後フィードロール16b、テンションロール17a、テンションロール17b、巻取ロール18を有する。
【0030】
巻出ロール13、キャンロール14、前フィードロール16a、巻取ロール18にはサーボモータによる動力を備える。巻出ロール13、巻取ロール18は、パウダークラッチ等によるトルク制御によってポリイミドフィルムFの張力バランスが保たれるようになっている。
テンションロール17a、17bは、表面が硬質クロムめっきで仕上げられ張力センサーが備えられている。
スパッタリングカソード15a〜15dは、マグネトロンカソード式でキャンロール14に対向して配置される。スパッタリングカソード15a〜15dのポリイミドフィルムFの巾方向の寸法は、ポリイミドフィルムFの巾より広ければよい。
【0031】
ポリイミドフィルムFは、ロール・ツー・ロール真空成膜装置であるロール・ツー・ロールスパッタリング装置10内を搬送されて、キャンロール14に対向するスパッタリングカソード15a〜15dで成膜され、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2に加工される。
キャンロール14は、その表面が硬質クロムめっきで仕上げられ、その内部には筐体12の外部から供給される冷媒や温媒が循環し、略一定の温度に調整される。
【0032】
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置10を用いて下地金属層と銅薄膜層を成膜する場合、下地金属層の組成を有するターゲットをスパッタリングカソード15aに、銅ターゲットをスパッタリングカソード15b〜15dにそれぞれ装着し、ポリイミドフィルムを巻出ロール13にセットした装置内を真空排気した後、アルゴン等のスパッタリングガスを導入して装置内を1.3Pa程度に保持する。
また、下地金属層をスパッタリングで成膜した後に、銅薄膜層を蒸着法で成膜しても良い。
【0033】
(3)銅電気めっき層とその成膜方法
銅電気めっき層は、電気めっき法により成膜される。その銅電気めっき層の膜厚は、1μm〜20μmが望ましい。
ここで、使用する電気めっき法は、鉄イオンを含む硫酸銅のめっき浴中にて、不溶性アノードを用いて電気めっきを行うもので、使用する銅めっき浴の組成は、通常用いられるプリント配線板用のハイスロー硫酸銅めっき浴でも良い。
【0034】
図3は、本発明に係る2層フレキシブル配線用基板の製造に用いることができるロール・ツー・ロール連続電気めっき装置(以下めっき装置20という)の一例である。
下地金属層と銅薄膜層を成膜して得られた銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、巻出ロール22から巻き出され、電気めっき槽21内のめっき液28への浸漬を繰り返しながら連続的に搬送される。なお、28aはめっき液の液面を指している。
銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、めっき液28に浸漬されている間に電気めっきにより金属薄膜の表面に銅層が成膜され、所定の膜厚の銅層が形成された後、金属化樹脂フィルム基板である2層フレキシブル配線用基板Sとして、巻取ロール29に巻き取れられる。なお、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2の搬送速度は、数m〜数十m/分の範囲が好ましい。
【0035】
具体的に説明すると、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、巻出ロール22から巻き出され、給電ロール26aを経て、電気めっき槽21内のめっき液28に浸漬される。電気めっき槽21内に入った銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、反転ロール23を経て搬送方向が反転され、給電ロール26bにより電気めっき槽21外へ引き出される。
このように、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2が、めっき液への浸漬を複数回(
図3では10回)繰り返す間に、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2の金属薄膜上に銅層を形成するものである。
【0036】
給電ロール26aとアノード24aの間には電源(図示せず)が接続されている。
給電ロール26a、アノード24a、めっき液、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2および電源により、電気めっき回路が構成される。
また、アノードは不溶性アノードが好ましい。不溶性アノードは、特別なものを必要とせず、導電性セラミックで表面をコーティングした公知のアノードでよい。なお、電気めっき槽21の外部に、めっき液28に銅イオンを供給する機構を備える。
【0037】
めっき液28への銅イオンの供給は、酸化銅水溶液、水酸化銅水溶液、炭酸銅水溶液等で供給する。もしくはめっき液中に微量の鉄イオンを添加して、無酸素銅ボールを溶解して銅イオンを供給する方法もある。銅の供給方法は上記のいずれかの方法を用いることができる。
【0038】
めっき中における電流密度は、アノード24aから搬送方向下流に進むにつれて電流密度を段階的に上昇させ、アノード24oから24tで最大の電流密度となるようにする。
このように電流密度を上昇させることで、銅層の変色を防ぐことができる。特に銅層の膜厚が薄い場合に電流密度が高いと銅層の変色が起こりやすいために、めっき中の電流密度は、後述するPeriodic Reverse電流の反転電流を除き0.1A/dm
2〜8A/dm
2が望ましい。電流密度が高くなると銅電気めっき層の外観不良が発生する。
【0039】
本発明に係る2層フレキシブル配線用基板を製造するためには銅電気めっき層の膜厚の表面から10%以上の範囲でPR電流を用いて形成する。
Periodic Reverse電流(以下PR電流ということがある。)を使用する場合、反転電流は正電流の1〜9倍の電流を加えると良い。
反転電流時間割合としては1〜10%程度が望ましい。
また、PR電流の次の反転電流が流れる周期は、10m秒以上が望ましく、より望ましくは20m秒〜300m秒である。
図4はPR電流の時間と電流密度を模式的に示したものである。
なお、めっき電圧は、上述の電流密度が実現できるように適宜調整すればよい。
【0040】
本発明に係る2層フレキシブル配線用基板を、ロール・ツー・ロール連続電気めっき装置(以下めっき装置20という)で製造するには、搬送経路の下流側から1つ以上のアノードでPR電流を流せばよく、PR電流を流すアノード数は、銅電気めっき層の表面からポリイミドフィルム側にPR電流で成膜する範囲の割合をどのようにするかで決まる。すなわち、少なくともアノード24tはPR電流が流れ、必要に応じてアノード24s、アノード24r、アノード24qにPR電流が流れることとなる。
なお、全アノードにPR電流を流してもよいが、PR電流用の整流器が高価な為、製造コストが増加する。そこで、本発明に係る2層フレキシブル配線用基板では、銅電気めっき層の表面からポリイミド方向に膜厚の10%をPR電流で成膜すれば、耐折れ性試験(JIS C−5016−1994)の実施前後で、銅層の結晶配向比[(200)/(111)]の差d[(200)/(111)]が0.03以上となるので、結果的に耐折れ性試験(MIT試験)の向上が望める。
【0041】
PR電流を使用した銅電気めっきが望ましい理由は、電流を反転させると、銅電気めっき層の銅の結晶子径は300nm程度以上とすることができ、結晶粒界を少なくできるので、粒界で発生するクラックの起点を少なくすることができるためである。
【0042】
さらに銅めっき液に鉄イオンを添加することで、溶けやすい(111)以外の配向が優先的に溶解し、(111)配向の結晶を成長することができる。
銅めっき液中に含まれる鉄イオンの濃度は、2価と3価のイオンの合計で0.1g〜20g/リットルが好ましい。
鉄イオンは、銅めっきの過程で、3価から2価へそして2価から3価へ価数が循環して変化する。そこで、鉄イオンの濃度が20g/リットルを越えると鉄のイオンの消費が増加し経済的ではないことと、銅めっき層が溶解しやすくなる悪影響を与える。一方、鉄イオン濃度が0.1g/リットル未満では(111)配向の結晶の優先的な成長が期待できない。
【0043】
一般に電気めっき法では、めっき析出する銅は、銅めっきされる基材表面の影響を受けるが、銅電気めっき層の表面から膜厚の10%以上をPR電流で成膜すれば、結晶粒界を制御できる。従って、2層フレキシブル配線用基板の銅電気めっき層の表面から膜厚の10%以上が、耐折れ性に合致した結晶になっていれば、銅電気めっき層の耐折れ性に対する効果が得られ、本発明の課題を達成することができる。
なお、得られた2層フレキシブル配線用基板の銅層の厚みを化学研磨などで調整する場合は、研磨後の銅層の表面から膜厚の10%以上のPR電流で成膜された層が残留すれば、本発明の効果が発揮できる。
【0044】
(4)銅電気めっき層の特徴
本発明の2層フレキシブル配線用基板における銅層の特徴は、1.2以上の銅の(111)結晶配向度指数を示すことである。この状態では、MIT耐折れ試験(JIS C−5016−1994)において、結晶が滑りやすくなる。なお、本発明のフレキシブル配線用基板の銅層には(111)配向のほかに(200)、(220)、(311)配向も含むが、そのうち(111)配向が殆どを占め、その結晶配向度指数が1.20以上を示すということである。
【0045】
さらなる特徴は、MIT耐折れ性試験(JIS C−5016−1994)前後における結晶の配向比[(200)/(111)]の差が0.03以上の状態となることにある。この状態は、MIT耐折れ試験をすることで結晶が滑り、再結晶が起こったと考えられる。
表面の光沢性は、表面の凹凸が切り欠きの要因とならないよう光沢膜が好ましい。
【0046】
また、結晶子径の大きさは、大きいほど良いが、フレキシブル配線用基板をサブトラクティブ法でフレキシブル配線板に配線加工する際の銅層のエッチングにも影響するので留意する必要がある。
サブトラクティブ法での銅層のエッチングに塩化第二鉄水溶液を用いる場合には、銅層の結晶子径は影響しないこともあるが、銅層の結晶粒子の粒界をエッチングする場合には、結晶子径が配線の形状にも影響するのである。結晶子径としては、200nm〜400nm程度が望ましい。200nm以下であると結晶粒界が多く、破断の起点となるクラックが入りやすくなり、400nm以下とするのは、金属表面の平滑性を保つためである。
【0047】
また、本発明のフレキシブル配線用基板の銅層は、上記銅層の成膜方法で得られ、MIT耐折れ試験前後における結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.03以上であるという特性と、結晶子径が300nm以上という特性等を有する銅層となる。なお、銅電気めっき層の結晶配向と結晶子径はX線回折装置から知ることができる。
【0048】
さらに、上記方法で得られた銅層の銅結晶は、屈折時に常温下での動的再結晶効果を有する。耐折れ性試験後の平均結晶子径は再結晶で100nm〜200nm程度となる傾向である。
一般に、銅の電気めっき膜は、常温下で動的再結晶しないと考えられてきた。しかし、本発明のフレキシブル配線用基板は、常温下で動的再結晶するので、結果的に、MIT試験のような屈折試験を行うと試料が切れ難い。銅層の平均結晶粒径と常温下での動的再結晶は、断面SIM像での観察することができる。
【0049】
ついで、算術表面粗さRaは0.2μm以下が望ましい。
表面粗さRaが、0.2μmを超えると、MIT耐折れ試験前後の結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.03以上であっても耐折れ性の改善効果は少ない。そのため、MIT耐折れ試験前後の結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.03以上、かつ、算術表面粗さRaは、0.2μm以下が望ましいのである。
当然、銅層の表面を化学研磨等で研磨する場合は、化学研磨後の銅層の表面の算術表面粗さRaが0.2μm以下ならば良い。
【0050】
(5)フレキシブル配線板
本発明に係るフレキシブル配線板は、本発明に係る2層フレキシブル配線用基板をサブトラクティブ法で配線加工して製造する。
銅電気めっき層などを配線に加工するエッチング加工に用いるエッチング液は、特別な配合の塩化第二鉄と塩化第二銅と硫酸銅とを含む水溶液や特殊な薬液には限定されず、一般的な比重1.30〜1.45の塩化第二鉄水溶液や比重1.30〜1.45の塩化第二銅水溶液を含む市販のエッチング液を用いることができる。
【0051】
配線の表面には、錫めっき、ニッケルめっき、金めっきなどを必要に応じて、必要な箇所に施し、公知のソルダーレジストなどで表面が覆われる。そして、半導体素子などの電子部品が実装されて電子装置を形成する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をより説明する。
銅薄膜層付ポリイミドフィルムは、ロール・ツー・ロールスパッタリング装置10を用いて製造した。
下地金属層を成膜する為のニッケル−20重量%クロム合金ターゲットをスパッタリングカソード15aに、銅ターゲットをスパッタリングカソード15b〜15dにそれぞれ装着し、厚み38μmのポリイミドフィルム(カプトン 登録商標 東レ・デュポン株式会社製)をセットした装置内を真空排気した後、アルゴンガスを導入して装置内を1.3Paに保持して銅薄膜層付ポリイミドフィルムを製造した。下地金属層(ニッケル−クロム合金)の膜厚は20nm、銅薄膜層の膜厚は200nmであった。
【0053】
得られた銅薄膜層付ポリイミドフィルムに、めっき装置20を用いて銅電気めっきを行い、銅電気めっき層を成膜した。めっき液はpH1以下の硫酸銅水溶液を用い、アノード24oから24tは特に断らない限り最大の電流密度(PR電流の反転電流を除く)となるようにし、最終的に銅電気めっき層の膜厚が8.5μmとなるように電流密度を調整した。
【0054】
耐折れ性試験は、塩化第二鉄をエッチング液にもちいてサブトラクティブ法でJIS−C−5016−1994のテストパターンを形成し、同規格に従い評価した。
耐折れ性試験前後の銅電気めっき層の結晶配向はX線回折でWilsonの配向度指数を用い測定した。
【実施例1】
【0055】
銅電気めっき層の表面から10%の膜厚範囲までPR電流を用いて電気めっきを行う為に、アノード24tにPR電流を流して、実施例1の2層フレキシブル配線用基板を作製した。鉄イオン濃度を5g/リットルとした。
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層の(111)結晶配向度指数が1.34で、MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.04、結晶子径383nm、算術表面粗さRaが0.06μmの実施例1のサンプルは、MIT耐折れ性試験で349回という良好な結果を得た。
【実施例2】
【0056】
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層の結晶配向は(111)結晶配向度指数が1.36で、銅電気めっき層の表面から40%の膜厚範囲までPR電流を用いて電気めっきを行う為、アノード24r〜24tにPR電流を流した以外は、実施例1と同様に行い、実施例2の2層フレキシブル配線用基板を作製した。
MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.05、結晶子径363nm、算術表面粗さRaが0.18μmの実施例2のサンプルは、MIT耐折れ性試験で247回という良好な結果を得た。
【実施例3】
【0057】
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層の結晶配向は、(111)結晶配向度指数が、1.37で、銅電気めっき層の表面から40%の膜厚範囲までPR電流を用いて電気めっきを行う為、アノード24r〜24tにPR電流を流し、鉄イオン濃度を0.1g/リットルとした以外は、実施例1と同様に行い、実施例3の2層フレキシブル配線用基板を作製した。
MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.05、結晶子径327nm、算術表面粗さRaが0.20μmの実施例3のサンプルは、MIT耐折れ性試験で180回という結果を得た。
【0058】
(比較例1)
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層の結晶配向は(111)結晶配向度指数が、0.98で、銅電気めっき層の表面から8%の膜厚範囲までPR電流を用いて電気めっきを行う為、アノード24tにPR電流を流し、そのアノードの電流密度を実施例1の80%とした以外は、実施例1と同様に行い、比較例1の2層フレキシブル配線用基板を作製した。
MIT体折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.02、結晶子径280nm、算術表面粗さRaが0.15μmの比較例1のサンプルは、MIT耐折れ性試験で135回という改善効果が見られない結果であった。
【0059】
(比較例2)
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層の結晶配向は(111)結晶配向度指数が、0.85で、銅電気めっき層の表面から5%の膜厚範囲までPR電流で電気めっきを行う為、アノード24tにPR電流を流し、そのアノードの電流密度を実施例1の50%とした以外は、実施例1と同様に行い、比較例2の2層フレキシブル配線用基板を作製した。
MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.01、結晶子径195nm、算術表面粗さRaが0.16μmの比較例2のサンプルは、MIT耐折れ性試験で83回という改善効果が見られない結果であった。
【0060】
(比較例3)
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層の結晶配向は(111)結晶配向度指数が、1.06で、銅電気めっき層の表面から9%の膜厚範囲までPR電流を用いて電気めっきを行う為、アノード24tにPR電流を流し、そのアノードの電流密度を実施例1の90%とした以外は、実施例1と同様に行い、比較例3の2層フレキシブル配線用基板を作製した。
MIT体折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.02、結晶子径190nm、算術表面粗さRaが0.11μmの比較例3のサンプルは、MIT耐折れ性試験で141回という改善効果が見られない結果であった。