特許第6398756号(P6398756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6398756炭酸ジフェニルの製造方法およびポリカーボネートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398756
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】炭酸ジフェニルの製造方法およびポリカーボネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/00 20060101AFI20180920BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20180920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180920BHJP
【FI】
   C07C68/00 Z
   C07C69/96 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-18692(P2015-18692)
(22)【出願日】2015年2月2日
(65)【公開番号】特開2016-141651(P2016-141651A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古賀 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】浦川 智
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−246487(JP,A)
【文献】 特開平11−152252(JP,A)
【文献】 特開平10−158222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 68/00
C07C 69/96
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニル
の製造方法であって、該脱カルボニル反応に不活性な気体を、脱カルボニル反応器の下部
から空塔線速0.00001m・s−1以上0.01m・s−1以下で供給し、前記気体
と共にフェノールを同伴気化しながら脱カルボニル反応を行い、脱カルボニル反応後の反
応液を精製して炭酸ジフェニルを得ることを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記気体が一酸化炭素であるこ
とを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記気体が、前記脱カル
ボニル反応で副生した一酸化炭素を含むことを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、脱カルボニ
ル反応を連続多段反応で行い、その少なくとも1つの反応を、該脱カルボニル反応に不活
性な気体を、脱カルボニル反応器の下部から空塔線速0.00001m・s−1以上0.
01m・s−1以下で供給し、前記気体と共にフェノールを同伴気化しながら脱カルボニ
ル反応を行い、脱カルボニル反応後の反応液を精製して炭酸ジフェニルを得ることを特徴
とする炭酸ジフェニルの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、以下の第1
〜2工程をこの順に有することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
第1工程:シュウ酸ジフェニルを反応器内で脱カルボニル反応させることにより炭酸ジフ
ェニルを製造すると共に、前記反応器から不活性な気体を含む留分を取得する工程、
第2工程:第1工程で取得された不活性な気体を含む留分の少なくとも一部を第1工程の
反応器に供給する工程
【請求項6】
請求項5に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、更に以下の第3〜4工程をこの
順に有することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
第3工程:前記反応器内の反応液から触媒液を取得する工程、
第4工程:前記触媒液の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ジフェニルの製造方法に関する発明である。詳しくは、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、より簡略化された反応装置やプロセスにより、炭酸ジフェニルを効率良く、工業的に連続製造する方法についての発明である。
【背景技術】
【0002】
炭酸ジエステルは、種々の化学反応における原料化合物として知られており、特に、炭酸ジフェニルは二価ヒドロキシ芳香族化合物との重縮合反応によりポリカーボネートを製造できることが知られている。
炭酸ジエステルの製造方法としては、ホスゲンと芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ存在下で反応させる方法が知られている。しかしながら、ホスゲン自体が毒性の強い化合物である上に多量のアルカリが必要であるため、シュウ酸ジエステルをテトラフェニルホスホニウムクロライドなどの触媒の存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジエステルの製造方法も提案されている(特許文献1参照)。また、芳香族ヒドロキシ化合物やシュウ酸アルキルアリールなどの含有量が少ないシュウ酸ジエステルを原料として用いた、炭酸ジエステルの製造方法も開示されている(特許文献2参照)。
【0003】
シュウ酸ジエステルの脱カルボニル反応は、酸素や水分の存在下で行なうとフリース転移などの副反応を起こすことがあるため、反応器に窒素ガスを吹き込みながら行うことがある。このように、容器に大気が入らないようにするためにガスを吹き込む場合、日本工業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)の石油製品及び潤滑油の中和価試験法において、滴定ビーカー上部から、試料とp−ナフトールベゼイン溶液の混合液の上の空間に窒素を供給しているように、一般的に、ガスは容器上部から反応液上の空間に供給される(非特許文献1参照)。また、生成したジアリールカーボネートを反応器から気体状態で抜き出すことにより、反応液のジアリールカーボネートによる希釈を防ぐと共に、触媒の析出を抑える方法が提案されている。この方法では、反応液中に一酸化炭素を導入することによりジアリールカーボネートを一酸化炭素に同伴気化させ、又は反応器を減圧に維持することによりジアリールカーボネートを減圧気化させている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−333307号公報
【特許文献2】特開平11−152252号公報
【特許文献3】特開平11−246487号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS K2501−2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シュウ酸ジエステルの脱カルボニル反応は吸熱反応であることから、工業的に連続製造するためには、反応器に大型の撹拌翼が必要になると考えられ、反応装置やプロセスの簡略化が求められていた。そこで、本発明は、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、より簡略化された反応装置やプロセスにより、炭酸ジフェニルを効率良く、工業的に連続製造する
方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、脱カルボニル反応器の下部より、脱カルボニル反応に不活性な気体を少量供給しながら脱カルボニル反応を行うことにより、反応液が撹拌されると共に、脱カルボニル反応時に副生されるフェノールなどの不純物が除去されることにより、炭酸ジフェニルを効率良く製造することができ、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の第1の要旨は、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法であって、該脱カルボニル反応に不活性な気体を、脱カルボニル反応器の下部から空塔線速0.00001m・s−1以上0.01m・s−1以下で供給しながら脱カルボニル反応を行うことを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第2の要旨は、第1の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記気体が一酸化炭素であることを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第3の要旨は、第1又は第2の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記気体が、前記脱カルボニル反応で副生した一酸化炭素を含むことを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第4の要旨は、第1乃至3の何れか1つの要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、脱カルボニル反応を連続多段反応で行い、その少なくとも1つの反応を、該脱カルボニル反応に不活性な気体を、脱カルボニル反応器の下部から空塔線速0.00001m・s−1以上0.01m・s−1以下で供給しながら行うことを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。
【0009】
そして、本発明の第5の要旨は、第1乃至4の何れか1つの要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、以下の第1〜2工程をこの順に有することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。シュウ酸ジフェニルを反応器内で脱カルボニル反応させることにより炭酸ジフェニルを製造すると共に、前記反応器から不活性な気体を含む留分を取得する工程(第1工程)、第1工程で取得された不活性な気体を含む留分の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する工程(第2工程)。
【0010】
また、本発明の第6の要旨は、第5の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、更に以下の第3〜4工程をこの順に有することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。
前記反応器内の反応液から触媒液を取得する工程(第3工程)、前記触媒液の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する工程(第4工程)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、より簡略化された反応装置やプロセスにより、炭酸ジフェニルを効率良く、工業的に連続製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の炭酸ジフェニルの製造方法では、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることにより炭酸ジフェニルを製造する。
シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応は、以下に示す反応式(1)に従って行われる。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Phはフェニル基を示す。)
[シュウ酸ジフェニル]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において、シュウ酸ジフェニル(以下、「本発明に係るシュウ酸ジフェニル」又は単に「シュウ酸ジフェニル」と言う場合がある)は、炭酸ジフェニル(以下、「本発明に係る炭酸ジフェニル」又は単に「炭酸ジフェニル」と言う場合がある)の原料である。
【0015】
シュウ酸ジフェニルは、下記反応式(2)で示すようにシュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応で製造したものなどを用いることができる。ここで、原料となるシュウ酸ジアルキルは、下記反応式(3)で示すように、一酸化炭素、酸素及び脂肪族アルコールを原料とする酸化カルボニル化反応で製造したものなどを用いることができる。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、Rはアルキル基を示し、Phはフェニル基を示す。)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、Rはアルキル基を示す。)
[触媒]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法は、触媒存在下で行われる。脱カルボニル反応に用いる触媒としては、有機リン化合物、特にリン原子の原子価が5価であって、少なくとも1個の炭素―リン結合を有する有機リン化合物が好適に用いられる。このような有機リン化合物としては、一般式(4)で表されるテトラアリールホスホニウム塩が好ましい。
【0020】
【化4】
【0021】
(式中、Ar1〜Ar4は、各々独立に置換基を有していても良い芳香環基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)
Ar〜Arの置換基を有していても良い芳香環基における芳香環基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基及びチエニル基、フリル基、ピリジル基等のイオウ原子、酸素原子又は窒素原子を含有する炭素数4〜16の芳香族複素環基などが挙げられる。これらのうち安価に触媒を製造できることから芳香族炭化水素基が好ましく、フェニル基が更に好ましい。
【0022】
Ar〜Arは、各種異性体を含み、置換基を1つ以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜12)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、チオアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、アラルキルオキシ基(好ましくは炭素数7〜13)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜16)、チオアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜16)、アシル基(好ましくは炭素数1〜12)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜16)、カルボキシル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基(好ましくは炭素数2〜16)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)等が挙げられる。また、これらの置換基は、更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、芳香環基やハロゲン原子などが挙げられる。これらのうち、熱的に安定であることからアルキル基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜8の分岐したアルキル基が更に好ましい。また、該置換基は、一般式(4)で表されるテトラアリールホスホニウム塩が熱的に安定となり、脱カルボニル反応用触媒として用いた場合に分解し難いことから、ベンジルプロトンを有さないことが好ましい。すなわち、該置換基は、炭素数3〜8のベンジルプロトンを有さないアルキル基が特に好ましく、t−ブチル基が最も好ましい。
【0023】
なお、Ar〜Arが置換基を有する芳香環基である場合には、各種異性体が存在するが、Ar〜Arはその何れであっても良い。これらの異性体としては、例えば、Ar〜Arが置換基を有するフェニル基である場合、2−(又は3−、4−)メチルフェニル基、2−(又は3−、4−)エチルフェニル基、2,3−(又は3,4−)ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基又はハロゲン化アルキル基がフェニル基に結合しているアルキルフェニル基;3−メトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基がフェニル基に結合しているアルコキシフェニル基;2−(又は3−、4−)ニトロフェニル基;3−(又は4−)クロロフェニル基、3−フルオロフェニル基等のハロゲン原子がフェニル基に結合しているハロフェニル基などが挙げられる。
【0024】
Ar〜Arは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良い。
一般式(4)のハロゲン原子Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子である。これらのうち、脱カルボニル反応において、高活性な触媒として作用しやすいことから塩素原子が好ましい。
また、一般式(4)で表されるテトラアリールホスホニウム塩におけるアリール基は、置換基を有していても良いフェニル基であることが好ましい。そして、ベンジルプロトンを有さないテトラアリールホスホニウムクロライドが更に好ましく、ベンジルプロトンを
有さないテトラアリールホスホニウムクロライドが特に好ましい。
【0025】
触媒の好ましい具体的としては、次のような化合物が挙げられる。即ち、Ar〜Arが同じ芳香族炭化水素基であるテトラアリールホスホニウムクロライドとしては、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラ(p−t−ブチルフェニル)ホスホニウムクロライド、テトラ(m−t−ブチルフェニル)ホスホニウムクロライド、テトラ(o−t−ブチルフェニル)ホスホニウムクロライド、テトラ(m、m−ジ−t−ブチルフェニル
)ホスホニウムクロライド、テトラ(o、p−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホニウムク
ロライド、テトラナフチルホスホニウムクロライド、テトラ(p−フェニルフェニル)ホスホニウムクロライドなどが挙げられる。
【0026】
また、Ar〜Arの少なくとも何れか1つが異なる芳香族炭化水素基としては、Ar〜Arが何れも無置換の芳香族炭化水素基としては、p−ビフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、1−ナフチルトリフェニルホスホニウムクロライド、2−ナフチルトリフェニルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。Ar〜Arが無置換の芳香族炭化水素基又は置換基を有する芳香族炭化水素基である有機ホスホニウムクロライドとしては、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、m−トリフルオロメチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のベンジルプロトンを有さずアルキル基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;p−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のハロゲン原子を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;m−メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のアルコキシ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;p−アミノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のアミノ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;m−シアノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−シアノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のシアノ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物及びp−ニトロフェニル−トリ−p−トリルホスホニウムクロライド等のニトロ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物などが挙げられる。これらのうち、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドが特に好ましい。なお、一般式(4)で表されるテトラアリールホスホニウム塩には、ハロゲン化水素が配位していても良い。
【0027】
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法により炭酸ジフェニルを製造するに際して用いる触媒の量は、反応速度が速くなりやすい点では多いことが好ましいが、炭酸ジフェニルの精製過程で触媒が析出し難い点では少ないことが好ましい。そこで、具体的には、反応器内に、合計で1.0重量%以上であることが好ましく、2.0重量%以上であることが更に好ましく、3.0重量%以上であることが特に好ましく、また、一方で、15.0重量%以下であることが好ましく、10.0重量%以下であることが更に好ましく、8.0重量%以下であることが更に好ましい。なお、触媒は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の比率及び組み合わせで用いても良く、複数種用いる場合における上記の好ましい使用量は、その合計量を表す。
【0028】
[ハロゲン化合物]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル反応を高選択率で維持しやすいことから、触媒と共にハロゲン化合物(以下「本発明に係るハロゲン化合物」と言う場合がある)を用いることが好ましい。
本発明に係るハロゲン化合物としては、下記の無機ハロゲン化合物及び/又は有機ハロゲン化合物などが挙げられる。これらのハロゲン化合物の中では、塩素化合物が好ましい。ハロゲン化合物は、触媒に対してモル比(ハロゲン化合物/触媒)が通常0.01〜300、好ましくは0.1〜100であるように用いられるのが良い。なお、ハロゲン化合物は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の比率及び組み合わせで用いても良く、複
数種用いる場合における上記の好ましい使用量は、その合計量を表す。
【0029】
無機ハロゲン化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のアルミニウムのハロゲン化物;塩化白金、塩化白金酸、塩化ルテニウム、塩化パラジウム等の白金族金属のハロゲン化物;三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、三臭化リン、五臭化リン、オキシ臭化リン等のリンのハロゲン化物;塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;塩化チオニル、塩化スルフリル、二塩化イオウ、二塩化二イオウ等のイオウのハロゲン化物;塩素、臭素等のハロゲン単体などが挙げられる。
【0030】
有機ハロゲン化合物としては、炭素原子と、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子と、水素原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種の原子とから構成される化合物などが挙げられる。このような有機ハロゲン化合物としては、例えば、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造(C−Hal)、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造(−CO−Hal)、ケイ素原子にハロゲン原子が結合している構造(−C−Si−Hal)、又はイオウ原子にハロゲン原子が結合している構造(CSO2−Hal)を有する有機ハロゲン化合物が好適に用いられる。但し、H
alは塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表す。これらの構造は、例えば、一般式(a)、(b)、(c)、(d)としてそれぞれ表される。
【0031】
【化5】
【0032】
(式中、Halは塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表し、n1は1〜4の整数、n2は1〜3の整数を表す。)
有機ハロゲン化合物としては、例えば、以下のような化合物が具体的に挙げられる。
一般式(a)で表されるような、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、塩化ブチル、塩化ドデシル等のハロゲン化アルキルや、塩化ベンジル、ベンゾトリクロリド、塩化トリフェニルメチル、α−ブロモ−o−キシレン等のハロゲン化アラルキルや、β−クロロプロピオニトリル、γ−クロロブチロニトリル等のハロゲン置換脂肪族ニトリルや、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロプロピオン酸等のハロゲン置換脂肪族カルボン酸などが挙げられる。
【0033】
一般式(b)で表されるような、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、塩化アセチル、塩化オキサリル、塩化プロピオニル、塩化ステアロイル、塩化ベンゾイル、2−ナフタレンカルボン酸クロライド、2−チオンフェンカルボン酸クロライド等の酸ハロゲン化物や、クロログリオキシル酸フェニル等のハロゲノグリオキシル酸アリールや、クロロギ酸フェニル等のハロゲノギ酸アリールなどが挙げられる。
【0034】
一般式(c)で表されるような、ケイ素原子にハロゲン原子が結合している構造を少なくとも1個有する有機ハロゲン化合物としては、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン等のハロゲン化シランなどが挙げられる。
一般式(d)で表されるような、イオウ原子にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ナフタレンス
ルホン酸クロライド等のハロゲン化スルホニルなどが挙げられる。
【0035】
これらのうち、ハロゲン化合物由来の副生成物を抑制しやすいことから、無機ハロゲン化合物が好ましく、ハロゲン化水素が更に好ましく、塩化水素が特に好ましい。また、反応系内に存在するハロゲン原子の種類が増えると、副生物の種類が増えて反応系が煩雑になりやすいことから、触媒がハロゲン原子を含む場合、本発明に係るハロゲン化合物のハロゲンは、この触媒が含むハロゲンと同じハロゲンであることが好ましい。すなわち、触媒がテトラアリールホスホニウムクロライドであり、本発明に係るハロゲン化合物が塩化水素であることが特に好ましい。
【0036】
[脱カルボニル反応]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法における脱カルボニル反応(以下、「本発明に係る脱カルボニル反応」又は単に「脱カルボニル反応」と言う場合がある)は、液相反応で行う。脱カルボニル反応の反応温度は、反応速度の点では高温であることが好ましいが、炭酸ジフェニルの純度の点では低温であることが好ましい。そこで、常圧の場合、反応温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。反応時の圧力は、プロセス上の要件から決めればよい。具体的には、1MPaA以下が好ましく、常圧付近が更に好ましい。
【0037】
脱カルボニル反応は、バッチ反応でも連続反応でもよいが、工業的には、連続反応が好ましい。連続反応の一般的な方法については、特開平10−109962号公報、特開平10−109963号公報及び特開2006−89416号公報等などに記載の方法などを用いることができる。
脱カルボニル反応は、反応に用いる物質の融点以上の温度で反応を行う場合は、溶媒を用いる必要はないが、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン等の非プロトン性極性溶媒、炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等を適宜使用することもできる。
【0038】
反応器の材質と形式は、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応により炭酸ジフェニルを生成させることができれば特に制限はないが、耐酸性材質の金属製容器やグラスライニング製容器が好ましい。このような反応器としては、例えば1槽または多槽式の完全混合型反応器(攪拌槽)、塔型反応器などを用いることができる。
本発明に係る脱カルボニル反応は、脱カルボニル反応に不活性な気体(以下、「本発明に係る不活性な気体」又は単に「本発明に係る気体」と言う場合がある)を、脱カルボニル反応器の下部から空塔線速0.00001m・s−1以上0.01m・s−1以下で供給しながら行う。
【0039】
不活性な気体は、アルゴンなどの不活性気体、窒素、一酸化炭素などを用いることができる。本発明に係る脱カルボニル反応で副生される一酸化炭素は、反応原料であるシュウ酸ジフェニルの製造原料などとすることができるが、不活性な気体として一酸化炭素以外の気体を用いた場合、一酸化炭素の再利用前に一酸化炭素と分離させておくことが好ましい。そこで、不活性な気体は、一酸化炭素を用いることが好ましく、本発明に係る脱カルボニル反応で副生される一酸化炭素を用いることが更に好ましい。また、脱カルボニル反応を多槽式の連続反応器を用いて行う場合には、前段の反応器で発生した一酸化炭素を反応液と共に後段の反応器に供給しても良い。ここで、反応液を気液分離することにより得られる一酸化炭素に、フェノール、二酸化炭素、ハロゲン化水素などの不純物が含まれる場合は、吸収塔やスクラバーなどを用いて精製してから用いることが好ましい。また、不活性な気体は、ブロワ―等を用いて循環使用することが更に効率的であり好ましい。
【0040】
本発明に係る脱カルボニル反応は、吸熱反応であることから反応器内が速く且つ均一に加熱されるよう撹拌しながら行うことが好ましい。そこで、本発明に係る脱カルボニル反応は、気体を脱カルボニル反応器の下部から供給することにより、気体と反応液との接触時間が長くなり、効率的に撹拌を行うと共に、脱カルボニル反応時に副生したフェノールを気化させて除くことができる。すなわち、不活性な気体を反応器の下部より供給することにより撹拌することにより、撹拌翼を無くし、又はより小さい撹拌翼で反応器内を撹拌することが可能になる。また、原料シュウ酸ジアリールに含まれるフェノールなどの芳香族ヒドロキシ化合物が1重量%以下であると高転化率及び高選択率で炭酸ジアリールを製造することができることが知られていることから(特許文献2)、副生フェノール除去により、脱カルボニル反応の反応速度及び転化率を向上させることができると考えられる。なお、反応器下部は、通常、反応器内の反応液の高さ方向における中心部より下方を言う。そして、反応器下部からの気体の供給は、反応器下部の中心部に近い位置から供給することが好ましい。反応原料の供給もまた、反応器下部の中心部に近い位置から供給することが好ましい。反応原料の供給口付近で局所的に高くなっている原料シュウ酸ジアリール濃度を副生一酸化炭素により効率的に撹拌できるからである。また、反応器下部への気体の供給口には、液が漏れ難いよう逆止弁などを付けることが好ましい。
【0041】
供給される気体の量は、反応液が撹拌されると共に、反応液中のフェノールが同伴気化され易い点では、多いことが好ましい。また、本発明者らは、本発明に係る脱カルボニル反応において、一般式(4)で表されるテトラアリールホスホニウム塩に含まれるハロゲン化水素が揮発してしまう場合があること、脱カルボニル反応を減圧下で行うとこの揮発量が増えること、及び、ハロゲンの量が少ないと脱カルボニル反応におけるシュウ酸ジフェニルの転化率が減少することを見出していることから、塩化水素などの揮発性が高いハロゲン化合物を用いる場合は、これが同伴気化され難い点では少ないことが好ましい。
そこで、空塔線速0.00001m・s−1以上0.01m・s−1以下で供給する。供給量は、0.0001m・s−1以上であることが好ましく、0.005m・s−1以下であることが好ましい。なお、特開平11−246487号におけるガス循環量(生成する一酸化炭素の3〜30容量倍及び実施例1における280NL/hr)は、空塔線速に換算すると、装置の内容積が1リットルスケールであり、内径100mm前後と推定されることから、0.018m・s−1程度と推定される。
【0042】
シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることにより炭酸ジフェニルを製造する場合、通常、反応原料であるシュウ酸ジフェニルは、特開平10−158222号の図1〜3のように反応器の上部から供給される。しかしながら、本発明に係る脱カルボニル反応では、不活性な気体を反応原料と共に反応器下部から供給するとより効率的である。また、供給された気体や製造された炭酸ジフェニルは、反応器上部から抜き出すことが好ましい。
気体の気泡径は、効率良く撹拌やフェノールの気化を行いやすい点では、小さいことが好ましく、具体的には、50mm以下であることが好ましく、10mm以下であることが更に好ましい。気泡径の制御は、ガススパージャーやミキサーなどを用いて行うことできる。この場合の孔径は、10mm以下が好ましく、5mm以下が更に好ましい。
【0043】
[炭酸ジフェニルの精製]
脱カルボニル反応後の反応液には、炭酸ジフェニル、触媒及び未反応シュウ酸ジフェニルが含まれている。また、これらの他に、シュウ酸ジフェニル、炭酸ジフェニル、触媒等の転位、分解、反応等により生じた副生物なども含まれている可能性がある。副生物としては、例えば、フェノールなどの芳香族モノヒドロキシ化合物などが挙げられる。そこで、上記カルボニル化反応により得られた炭酸ジフェニルは、用途に応じた純度や形態とするために適宜精製される。但し、本発明の脱カルボニル反応では、不活性な気体と共にフェノールなどが同伴気化されているため、反応液に含まれるフェノールの量は少ないと考
えられる。特に、触媒が一般式(4)であるテトラアリールホスホニウム塩である場合、副生フェノールとの反応によるテトラアリールホスホニウムフェノラートの生成などによる脱カルボニル反応の阻害が起こり難いため、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、簡便な方法で効率良く、炭酸ジフェニルを得ることができる。
【0044】
[連続反応]
本発明の炭酸ジフェニルの製造は、工業的には連続反応により行うことが好ましく、高転化率としやすいことから連続多段反応で行うことが更に好ましく、その少なくとも1つの反応を上記のように不活性な気体を供給しながら行うことが特に好ましい。
特に、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法は、以下の第1〜2工程をこの順に有することが好ましく、更に以下の第3〜4工程をこの順に有することが更に好ましい。
【0045】
第1工程:シュウ酸ジフェニルを反応器内で脱カルボニル反応させることにより炭酸ジフェニルを製造すると共に、前記反応器から不活性な気体を含む留分を取得する工程、
第2工程:第1工程で取得された不活性な気体を含む留分の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する工程
第3工程:前記反応器内の反応液から触媒液を取得する工程、
第4工程:前記触媒液の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する工程
【0046】
第1工程の脱カルボニル反応は、上記の本発明に係る脱カルボニル反応を行う。反応液中におけるシュウ酸ジフェニルの濃度は、不活性なガスによるフェノールの同伴気化が起こり易い点では低いことが好ましい。そこで、具体的には、反応液中のシュウ酸ジフェニルの濃度は30重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることが更に好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。また、反応液中のフェノールの濃度は、脱カルボニル反応の阻害が起こり難いことから低いことが好ましく、具体的には、触媒に対するモル比(フェノール/触媒)が2以下であることが好ましく、1以下であることが更に好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。また、第1工程においては、反応器から不活性な気体を含む留分を取得する。この不活性な気体を含む留分の取得は、例えば、反応器上部から気体を抜き出すことなどにより簡便に行うことができる。
【0047】
第2工程では、第1工程で取得された不活性な気体を含む留分の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する。これによって、第1工程で用いた不活性な気体を再利用すると共に、脱カルボニル反応で生成した一酸化炭素を有効利用することができる。ここで、第1工程で取得された不活性な気体を含む留分は、そのまま第1工程の反応器に供給しても良いが、その一部を第1工程の反応器に供給することが好ましい。第1工程で取得された不活性な気体を含む留分の一部を第1工程の反応器に供給する場合は、第1工程で取得された不活性な気体を含む留分に含まれるフェノールなどの不活性な気体以外の成分を蒸留などにより除去してから供給することが好ましい。
【0048】
第3工程では、反応器から触媒を含む触媒液を取得する。第3工程における分離は、蒸留、抽出、晶析などの公知の方法で行うことができる。本発明に係る脱カルボニル反応に用いる触媒は、通常高沸点であるので、第3工程における分離は、蒸留によって行うことが簡便で好ましい。すなわち、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル反応後の反応液から、脱カルボニル反応により製造された炭酸ジフェニルを含む留分を蒸発させて取り出すことにより、残液として触媒を含む触媒液を取得することが好ましい。
【0049】
蒸留分離は、脱カルボニル反応終了後に同一の反応器内で行っても良いし、反応液を蒸発装置に移して行っても良い。蒸発装置(蒸発方法)については、上記の目的を達成することができれば特に限定されることはない。蒸発装置としては、例えば、流下膜式蒸発器
、薄膜式蒸発器などを用いて行うことが短時間に分離しやすいことから好ましい。また、反応器内で蒸発させる場合は、突沸が起こり難いように攪拌しながら、徐々に減圧しながら蒸発させることが好ましい。分離に要する時間は、伝熱効率や分離容器の形状にも影響されるが、不純物の副生が起こり難い点から短時間で行うことが好ましく、20時間以下が好ましく、15時間以下が更に好ましく、10時間以下が特に好ましい。蒸発は、不純物の副生が起こり難い点から低温で低圧力で行うことが好ましく、圧力は、減圧下で蒸発させることが好ましく、温度は、脱カルボニル反応における反応温度以下で行うことが好ましい。具体的には、圧力は、0.1kPaA以上が好ましく、0.2kPaA以上が更に好ましく、一方、50kPaA以下が好ましく、20kPaA以下が更に好ましい。そして、温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。
【0050】
上記の好ましい条件で蒸留を行った場合、蒸発させた留分には、炭酸ジフェニルが通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含まれている。また、同上限は、通常100重量%である。この留分にシュウ酸ジフェニルを含む場合は、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上であり、また、一方で、通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下である。これら以外の成分としては、フェノールなどの芳香族モノヒドロキシ化合物などが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下である。
【0051】
第3工程において、蒸発により炭酸ジフェニルを含む留分を取り出した場合、この炭酸ジフェニルを含む留分をそのままポリカーボネート製造等の用途に用いても良いが、必要な純度などに応じて、更に精製を行っても良い。更に精製する場合は、蒸留や吸着などにより行うことができる。具体的には、5〜50段の理論段を有する棚段塔あるいは充填塔などの蒸発装置を用いて蒸留精製することが好ましい。
【0052】
[触媒の回収]
第3工程で得られた触媒液は、再利用することが好ましい。すなわち、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法は、第3工程で取得された触媒液の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する工程(第4工程)を有することが好ましい。
第4工程では、反応系内における高沸点化合物の蓄積を防ぐ観点より、第3工程で取得された触媒液から炭酸ジフェニルより高沸点である化合物を除去した液を第1工程に供給することが好ましい。この工程により除去される成分としては、シュウ酸ジフェニル(1気圧における沸点334℃)や4−ヒドロキシ安息香酸フェニル(1気圧においてシュウ酸ジフェニルより高沸点)などの高沸点物質が挙げられる。高沸点化合物の除去は、蒸留、抽出、晶析など公知の方法でできる。具体的には、例えば、特開2002−45704号公報に記載の方法などで分離することができる。
【0053】
また、この高沸点化合物の除去に伴い触媒も除去された場合などは、触媒の量が上述の好ましい範囲となるよう触媒を追加することが好ましい。追加する触媒は、第3工程で得られた触媒液から高沸点化合物を除いた液と共に第1工程の反応器に供給することが好ましい。
【0054】
[炭酸ジフェニル]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル反応において、不活性な気体と共にフェノールなどが同伴気化されるため、反応液に残留するフェノールの量は少ないと考えられる。特に、触媒が一般式(4)であるテトラアリールホスホニウム塩である場合、副生フェノールによる脱カルボニル反応の阻害が起こり難いため、簡便な方法で効率良く、炭酸ジフェニルを得ることができる。そこで、上述の本発明の炭酸ジフェニル
の製造方法により得られる炭酸ジフェニルの純度は、通常99.0重量%以上、好ましく
は99.3重量%以上、更に好ましくは99.5重量%以上である。不純物が含まれる場合は、イオン性の塩素などが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常1重量ppm以下、好ましくは0.1重量ppm以下、更に好ましくは0.01重量ppm以下である。
【0055】
[ポリカーボネートの製造方法]
本発明で製造される炭酸ジフェニルの主要な用途であるポリカーボネートは、上述の方法により製造された炭酸ジフェニルと、ビスフェノールAに代表される芳香族ジヒドロキシ化合物とを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることで製造できる。炭酸ジフェニルとエステル交換させるジヒドロキシ化合物は、芳香族ジヒドロキシ化合物でも脂肪族ジヒドロキシ化合物でも良いが、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に炭酸ジフェニルとビスフェノールAを原料とした一例を説明する。
【0056】
上記のポリカーボネートの製造方法において、炭酸ジフェニルは、ビスフェノールAに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールAに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネートに末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネートを製造し易い点では少ないことが好ましい。具体的には、例えば、ビスフェノールA1モルに対して、通常1.001モル以上、好ましくは1.02モル以上、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下用いることが好ましい。
【0057】
原料の供給方法としては、ビスフェノールAおよび炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方または両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールAとのエステル交換反応でポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネートの製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物が望ましい。
【0058】
触媒は、ビスフェノールAまたは炭酸ジフェニル1モルに対して、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上、また一方で、通常5μモル以下、好ましくは4μモル以下、さらに好ましくは2μモル以下の範囲で用いられる。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成型時の流動性に優れたポリカーボネートを得やすい。
【0059】
アルカリ金属化合物としては、セシウム化合物が好ましい。好ましいセシウム化合物は、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
上記方法によりポリカーボネートを製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
【0060】
エステル交換法によるポリカーボネートの製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[原料]
シュウ酸ジフェニルは、三菱化学株式会社製のシュウ酸ジフェニルを単蒸留により精製したものを使用した。この蒸留して得られたシュウ酸ジフェニルの組成は、水50重量ppm、フェノール200重量ppm、シュウ酸メチルフェニル10重量ppmであった。
【0062】
[合成例1]
以下の方法により、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩化水素塩を合成した。先ず、特開2013−82695号公報に記載された方法により、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドを合成した。このブロマイド体を特開平11−217393号公報に記載された方法により、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド(クロライド体)に変換した。
【0063】
セパラブルフラスコにp−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、メチルイソブチルケトン及び塩酸を入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱して均一溶液にした。その後、セパラブルフラスコを室温に冷却することによりスラリーを得た。このスラリーを濾過して得られた固体を乾燥させることにより固体を得た。この固体を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩化水素塩であった。
【0064】
[分析]
組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
装置:島津製作所社製LC−2010A、Imtakt Cadenza 3mm CD−C18 250mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度30℃。溶離液組成:A液 アセトニトリル:水=7.2:1.0重量%/重量%、B液0.5重量%リン
酸二水素ナトリウム水溶液。分析時間0分〜12分。A液:B液=65:35(体積比、以下同様。)。分析時間12〜35分は溶離液組成をA液:B液=92:8へ徐々に変化させ、分析時間35〜40分はA液:B液=92:8に維持、流速1ミリリットル/分)にて分析した。
【0065】
[実施例1]
温度計、攪拌機、留出管、受器および直径2mmのガラス管を備えたフルジャケット式500cmのセパラブルフラスコに、シュウ酸ジフェニル185.8g、炭酸ジフェニル74.0g及び合成例1で合成したp−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩化水素塩13.9gを入れた後、撹拌翼による撹拌を開始した。セパラブルフラスコ内を150℃に昇温することにより、合成例1で合成したp−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩化水素塩を溶解させた。
【0066】
この液の一部を抜き出し、塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドのモル比を算出したところ、1.225(0.03660モル/0.02988モル)であった。なお、塩素原子の量は、硝酸銀を用いて電位差滴定装置(京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」)により測定した。また、p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0067】
ガラス管の先端の位置がセパラブルフラスコの下部(液上面から下に60mm、フラスコ底の上から20mm)でフラスコ底面の中央側になるように調整し、更に昇温し、セパラブルフラスコ内が230℃に達したら、このガラス管より窒素ガスを毎分0.08cm
で吹き込み、バブリングを開始した。ここで、セパラブルフラスコに対する窒素ガスの空塔線速は0.00046m・s−1で、窒素ガスの気泡径は、約7mmであった。セパラブルフラスコの下部から吹き込んだ窒素ガスなどの気体を反応器上部から除去しながら230℃に保った状態で反応を続けた。1時間反応させた液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、フェノールを0.33重量%、シュウ酸ジフェニルを13.57重量%含有する炭酸ジフェニルが得られた。なお、この1時間反応させた液における塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドのモル比は、1.051であった。
【0068】
この状態のまま更に反応を継続させ、反応開始から3時間後に、再度、反応液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、シュウ酸ジフェニル濃度は0.77重量%であり、フェノール濃度は0.30重量%に減少していた。なお、この3時間反応させた液の塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドのモル比は1.034に減少していた。また、反応開始1〜3時間後の間のシュウ酸ジフェニルの転化率は、94.4%であった。
【0069】
この状態のまま更に反応を継続させ、反応開始から5時間後に、反応液の一部を抜き出
し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、シュウ酸ジフェニル濃
度は0.0153重量%であり、フェノール濃度は更に0.29重量%に減少していた。
なお、この3時間反応させた液の塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホ
ニウムクロライドのモル比は1.028に減少していた。また、反応開始3〜5時間後の
間のシュウ酸ジフェニルの転化率は98.0%であり、反応開始1〜3時間後より向上し
ていた。なお、反応開始1〜5時間後の間のシュウ酸ジフェニルの転化率は99.89%
であった。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、窒素ガスの吹き込み量を毎分0.3cm(セパラブルフラスコに対する窒素ガスの空塔線速は0.00170m・s−1で、窒素ガスの気泡径は約7mm)に増やした以外は、実施例1と同様に炭酸ジフェニルの製造を行い、その反応後の液の組成分析を行った。
【0071】
反応後の炭酸ジフェニルに含まれるフェノールの量は、1時間反応後が0.30重量%、3時間反応後が0.25重量%、5時間反応後がフェノール0.22重量%と減少していた。なお、反応後の液の塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドのモル比は、1時間反応後が1.031で、3時間反応後が1.019で、5時間反応後が1.009であり、徐々に減少していた。反応後の炭酸ジフェニルに含まれるシュウ酸ジフェニルの量は、1時間反応後が16.54重量%、3時間反応後が1.05重量%、5時間反応後が0.001重量%であった。シュウ酸ジフェニルの転化率は、反応開始1〜3時間後の間が93.7%で、反応開始3〜5時間後の間が98.0%であり、反応開始1〜3時間後より向上していた。なお、反応開始1〜5時間後の間のシュウ酸ジフェニルの転化率は99.99%であった。
【0072】
[比較例1]
実施例1において、窒素ガスを吹き込まなかった以外は、実施例1と同様に炭酸ジフェニルの製造を行い、その反応後の液の組成分析を行った。
反応後の炭酸ジフェニルに含まれるフェノールの量は、1時間反応後が0.39重量%、3時間反応後が0.36重量%、5時間反応後がフェノール0.37重量%とあまり減少していなかった。また、反応後の液の塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドのモル比は、5時間反応後が1.250であり、徐々に減少していた。反応後の炭酸ジフェニルに含まれるシュウ酸ジフェニルの量は、1時間反応後が1
7.04重量%、3時間反応後が0.71重量%、5時間反応後が0.042重量%であった。シュウ酸ジフェニルの転化率は、反応開始1〜3時間後の間が95.9%で、反応開始3〜5時間後の間が94.1%であり、反応開始1〜3時間後より低下していた。なお、反応開始1〜5時間後の間のシュウ酸ジフェニルの転化率は99.76%であり、実施例1及び2より低かった。
【0073】
実施例1、2及び比較例1における窒素ガスの空塔線速、フェノール濃度、反応転化率及び及び塩素原子/p−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドのモル比を表1に纏める。
【0074】
【表1】
【0075】
表1より、窒素を反応器下部から特定量供給することにより、反応液中のフェノール量が減少し、炭酸ジフェニルを効率良く、安定的に製造できることが裏付けられた。また、窒素ガスの供給量が多いほど触媒に含まれる塩素が揮発し易いことが裏付けられた。