(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記断面観察用粉体試料が、直径が4mm〜10mm、厚さが1mm〜5mmの円盤状である場合において、該断面観察用粉体試料に対する前記液状樹脂の滴下量を0.05ml〜0.20mlとする、請求項1に記載の断面観察用粉体試料の作製方法。
前記硬化工程において、前記液状樹脂含浸ペレットの上面に、平滑な板状部材を載置した上で、該液状樹脂を硬化させる、請求項1または2に記載の断面観察用粉体試料の作製方法。
前記含浸工程において、前記液状樹脂を滴下した後、前記ペレットを前記液状樹脂の硬化温度未満まで加熱し所定時間保持した後、該ペレットを減圧室内に投入する、請求項4または5に記載の断面観察用粉体試料の作製方法。
前記電子顕微鏡画像を2値化処理することにより、白色部からなる粒子部と黒色部からなる空隙部に分離した後、前記空隙率を算出する、請求項8に記載の空隙率の測定方法。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金により、金属粉末あるいはセラミックス粉末などを粉体成形することによって得られた成形体を焼結した焼結体は、たとえば、機械構成部品に適用される場合に、部品相当の材料強度が得られ、かつ、寸法精度が高いため、さまざまな産業分野で利用されている。また、このような焼結体は、薄膜形成のためのスパッタリングターゲットの材料もしくは真空蒸着用タブレットの材料としても広範に利用されている。
【0003】
このような粉体材料では、その材料の物理的特性の一つとして空隙率が重要な指標となる。たとえば、圧縮充填後の空隙率は、その粉体の圧縮充填性を測る重要な指標となる。また、粉体成形後の成形体を構成する粉体の空隙率は、焼結後の焼結体の強度にも大きく影響するため、その成形体および粉体としての適性を測る指標となる。
【0004】
このような圧縮充填後の粉体や加圧成形後の粉体における空隙の割合(空隙率)を測定する方法として、従来、ポ
ロシメータによる測定方法(水銀圧入法)やガス吸着法などが利用されている。しかしながら、これらの測定方法は、測定時間が長く、試料の調製に手間がかかるという問題がある。このため、簡便かつ短時間で、空隙率を測定可能な方法の開発が望まれている。
【0005】
たとえば、特開2008−275637号公報には、セメント系硬化体を対象とするものであるが、その断面を多数のピクセルに区画し、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、CaOやSiO
2などの元素のマッピング分析から得られる半定量値を用いて空隙率を算出する方法が開示されている。また、特開2013−134100号公報にも、セメント系硬化体を対象として、セメント硬化体の表面に開口する空隙内に炭素含有充填剤を充填し、硬化させ、さらにセメント硬化体の表面を研磨した上で、その断面を多数のピクセルに区画し、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて、炭素のマッピング分析から得られる半定量値を用いて空隙率を算出する方法が開示されている。
【0006】
これらの方法は、空隙率を精度よく測定することを可能とするものであり、粉体試料の空隙率の分析にも適用することが可能である。
【0007】
しかしながら、いずれの方法も、EPMAによるマッピングデータの取得、および、このマッピングデータからピクセルごとのデータを抽出し、それぞれの半定量値を算出するというデータ処理に時間がかかり、迅速な空隙率の測定という面では、十分な効果が得られていない。また、EPMAの分解能は、1μm〜3μm程度で限定され、加圧成形後や圧縮充填後の粉体(粉体を構成する粉末自体もしくは粉末間)に存在する1μm以下の空隙を対象とする場合には、EPMAを用いた手段では、空隙率の測定精度が十分に得られないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電子顕微鏡を用いて、加圧成形後や圧縮充填後の粉体試料の空隙率について高精度で測定することを可能とする断面観察用粉体試料を、簡便かつ短時間で作製する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、断面観察によって得られた電子顕微鏡画像により、断面観察用粉体試料の空隙率を、簡便かつ短時間で測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の断面観察用粉体試料の作製方法は、
原料粉末を加圧成形することでペレット(成形体)を得る、成形工程と、
100Pa以下の減圧雰囲気下において、前記ペレットに液状樹脂を含浸させて、液状樹脂含浸ペレットを得る、含浸工程と、
前記液状樹脂含浸ペレットにエネルギを加えて、前記液状樹脂を硬化させることで樹脂硬化ペレットを得る、硬化工程と、
前記樹脂硬化ペレットの上面に機械研磨による粗研磨を施した後、該上面にイオン研磨を施す、研磨工程と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
前記断面観察用粉体試料が、直径が4mm〜10mm、厚さが1mm〜5mmの円盤状である場合において、該断面観察用粉体試料に対する前記液状樹脂の滴下量を0.05ml〜0.20mlとすることが好ましい。
【0012】
前記硬化工程において、前記液状樹脂含浸ペレットの上面に、平滑な板状部材を載置した上で、前記液状樹脂を硬化させることが好ましい。なお、前記液状樹脂含浸ペレットの両面を、平滑な板状部材により挟持して、前記液状樹脂を硬化させることがより好ましい。
【0013】
前記液状樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましく、熱硬化性エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0014】
前記含浸工程において、前記液状樹脂
を滴下した後、前記ペレットを前記液状樹脂の硬化温度未満まで加熱し所定時間保持した後において、該ペレットを前記減圧室内に投入することが好ましい。
【0015】
本発明の断面観察方法は、前記断面観察用粉体試料を、電子顕微鏡を用いて観察することを特徴とする。これにより、前記断面観察用粉体試料の電子顕微鏡画像(二次電子像)が簡易に得られる。
【0016】
また、本発明の空隙率の測定方法は、前記断面観察方法により電子顕微鏡画像(二次電子像)を得て、該電子顕微鏡画像を用いて前記断面観察用粉体試料の空隙率を測定するものである。
【0017】
より具体的には、前記電子顕微鏡画像を2値化処理することにより、白色部からなる粒子部と黒色部からなる空隙部に分離した後、前記空隙率を算出することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電子顕微鏡を用いて観察可能で、かつ、その断面空隙率を高精度で測定可能な断面観察用粉体試料を、簡便かつ短時間で作製することができる。さらに、本発明によれば、この断面観察用粉体試料の断面観察によって得られた電子顕微鏡画像により、その空隙率を、簡便かつ短時間で測定する方法を提供することができる。すなわち、本発明により、粉体試料の特性の重要な指標の一つである空隙率について、簡易かつ迅速に測定が可能となる。このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、上述の課題に鑑みて研究を重ねた結果、観察面となるペレット(成形体)の上面に液状樹脂(顕微鏡観察用のサンプル埋め込み用樹脂)を滴下し、これを硬化させた後、機械研磨を施すことにより、粉体試料を作製し、この粉体試料について電子顕微鏡を用いて断面観察することを試みた。しかしながら、このような方法では、粉体試料内の空隙に樹脂を十分に浸透させることができず、ボイド(気泡)が形成されたり、機械研磨の際に、ペレットを構成する粒子が脱落したりするため、空隙率を測定するのに適した電子顕微鏡画像を得ることはきわめて困難であった。
【0021】
本発明者らは、この点についてさらに研究を重ねた結果、ペレットの上面に液状樹脂を滴下した後、減圧雰囲気下で液状樹脂を含浸させるとともに、この液状樹脂の硬化後において、その上面に機械研磨による粗研磨を施した後、イオン研磨を施すことにより、ボイドの形成や粒子の脱落を効果的に防止し、断面観察に最適な観察面を得ることができるとの知見を得た。また、このようにして作製した断面観察用粉体試料の断面状態を電子顕微鏡で観察し、かつ、電子顕微鏡画像を得た場合には、簡便かつ短時間で、精度よく空隙率を測定可能であるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0022】
以下、本発明について、「1.断面観察用粉体試料の作製方法」、「2.断面観察用粉体試料の断面観察方法」および「3.断面観察用粉体試料の空隙率の測定方法」に分けて、詳細に説明する。
【0023】
1.断面観察用粉体試料の作製方法
本発明の断面観察用粉体試料の作製方法は、
(1)原料粉末を加圧成形することでペレット(成形体)を得る、成形工程と、
(2)100Pa以下の減圧雰囲気下で前記ペレットに液状樹脂を含浸させて、液状樹脂含浸ペレットを得る、含浸工程と、
(3)前記液状樹脂含浸ペレットにエネルギを加えて、前記液状樹脂を硬化させることで樹脂硬化ペレットを得る、硬化工程と、
(4)前記樹脂硬化ペレットの上面に機械研磨による粗研磨を施した後、イオン研磨を施す、研磨工程と、
を備えることを特徴とする。
【0024】
このような断面観察用粉体試料の作製方法によれば、ペレットに直接的に液状樹脂を含浸できるため、ボイドの形成や粒子の脱落を効果的に防止することができる。また、ペレットに滴下する樹脂も、多くても5滴程度で済むため、短時間で硬化させることができる。さらに、研磨量がごくわずかで済むため、熟練を要さず、簡便かつ短時間で試料を作製し、その断面観察および空隙率を測定することが可能となる。
【0025】
(1)成形工程
成形工程は、原料粉末を成型器(ダイス)に投入して加圧成形することにより、所定形状のペレット(成形体)を得る工程である。
【0026】
a)原料粉末
原料粉末としては、特に制限されることなく、たとえば、金属粉末、セラミック粉末、および樹脂粉末などが、適用可能である。特に、本発明は、粉末冶金に用いられる金属粉末およびセラミックス粉末を対象とする場合に、好適に適用される。
【0027】
なお、一般に、原料粉末の平均粒径が小さいほど、得られる断面観察用粉体試料内の空隙は微細なものとなる。このため、平均粒径が10μm以下の原料粉末を用いた場合には、その空隙が1μm以下の大きさとなるため、従来技術によって断面観察用粉体試料の空隙率を高精度で測定することは困難となる。これに対して、本発明によれば、平均粒径が10μm以下、さらには1μm以下の原料粉末を用いた場合であっても、その粉体試料の空隙率を高精度で測定することができる。
【0028】
b)加圧成形
加圧成形によって得られるペレットの形状やサイズは、特に制限されることはないが、研磨工程における取り扱いやすさや、電子顕微鏡での観察しやすさを考慮すると、直径が4mm〜10mm、好ましくは5mm〜8mm、厚さが1mm〜5mm、好ましくは3mm〜4mmの円盤状とすることが好ましい。
【0029】
また、加圧条件は、原料粉末の平均粒径やペレットの形状やサイズなどに応じて適宜調整することが必要となるが、概ね、単位面圧力を80MPa〜200MPa、好ましくは、90MPa〜120MPa、加圧時間を1分〜30分、好ましくは、1分〜10分とすればよい。
【0030】
(2)含浸工程
含浸工程は、減圧雰囲気下でペレットに液状樹脂を含浸させて、液状樹脂含浸ペレットを得る工程である。液状樹脂のペレットへの含浸手段は任意であるが、通常は、ペレットの上面に液状樹脂を滴下した後、このペレットを減圧室内に投入し、減圧雰囲気下でペレットに液状樹脂を含浸させる。
【0031】
a)液状樹脂
本発明の含浸工程で用いる液状樹脂としては、常温では液状であるが、紫外線や熱などのエネルギ
によって容易に硬化し、硬化後の機械的強度が高く、かつ、硬化時に収縮などによる寸法変化が少ない樹脂を用いることが好ましい。このような液状樹脂であれば、常温からこの液状樹脂の硬化温度よりも低い温度までの領域で、ペレット内に容易に含浸させることができるばかりでなく、寸法の安定性を確保でき、かつ、機械研磨による粗研磨時において粒子の脱落を効果的に防止することができる。この結果、得られる断面観察用粉体試料において、高精度で空隙率を測定することが可能となる。
【0032】
このような要求を満たす樹脂としては、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂(熱間樹脂)などが挙げられる。これらの中でもエポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましく、機械研磨に耐える硬化後の強度や取り扱いやすさの観点から、熱硬化性エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0033】
なお、熱硬化性エポキシ樹脂としては、一般的な顕微鏡観察で用いられる試料埋め込み用の熱硬化性(熱間)エポキシ樹脂を好適に用いることができる。なお、一般的な顕微鏡観察で用いられる試料埋め込み用の常温硬化性(冷間)エポキシ樹脂は、その
粘性が高い製品もあることから、後述する含浸が困難となることがあるため、樹脂の粘性に留意して適切な製品を適宜選択することが必要となる。
【0034】
b)含浸
はじめに、ペレットの上面に、上述した液状樹脂を滴下する。液状樹脂の滴下量は、ペレットの大きさや材質などを考慮して、液状樹脂が十分に浸透する程度に調整することが必要となる。液状樹脂の滴下量が過剰であると、硬化に長時間を要するおそれがある。具体的には、ペレットとして、直径が4mm〜10mm、厚さが1mm〜5mmの円盤状のものを用いる場合には、液状樹脂の滴下量を0.03ml〜0.25ml(1滴〜5滴程度)とすることが好ましく、0.05ml〜0.20ml(1滴〜4滴程度)とすることがより好ましい。なお、1滴は、通常、0.03ml〜0.05ml程度である。
【0035】
次に、液状樹脂を滴下したペレットを減圧室内に投入し、減圧雰囲気下でペレットに液状樹脂を含浸させる。この際、ペレットを減圧室内に投入した後、所定の圧力まで減圧することによって液状樹脂を含浸させてもよく、あるいは、予め所定圧力に減圧した減圧室内にペレットを投入し、1分間〜5分間程度放置することによって液状樹脂を含浸させることもできる。いずれの場合も、減圧室内は、100Pa以下まで減圧することが好ましく、50Pa以下、具体的には、30Pa〜10Pa程度まで減圧することがより好ましい。これにより、ペレット内の空隙に、液状樹脂を十分に含浸させることができ、ボイドがない断面観察用粉体試料を作製することが可能となる。一方、減圧室内の圧力が100Paを超えると、空隙のサイズによっては、液状樹脂を十分に含浸させることができない場合がある。
【0036】
ここで、液状樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には、液状樹脂を滴下したペレットを、室温以上かつ液状樹脂の硬化温度未満、好ましくはより低い温度(熱硬化温度の75%程度、好ましくは70%程度までの温度)まで加熱して、その温度で一定時間保持した後、減圧室内に投入することが好ましい。たとえば、硬化温度が120℃である熱硬化性エポキシ樹脂の場合、70℃〜90℃程度まで加熱し保持する。これにより、液状樹脂の粘度が低下し、流動性が高まるため、液状樹脂をペレット内の空隙に確実に浸透させることができる。なお、加熱条件や保持時間などは、ペレットの形状や寸法、使用する液状樹脂の種類などに応じて、適宜選択される。
【0037】
なお、含浸工程は上述のような手段に限られず、液状樹脂をペレットに含浸させることができれば、他の任意の手段を採りうる。たとえば、板状部材に液状樹脂を載置し、その上からペレットを載置し、たとえば、その状態で反転させて下面側から含浸させたり、あるいは、上面側から真空引きなどにより吸引することによって、含浸させたり、あるいは、ペレットの側面に液体樹脂を塗布した状態で、減圧雰囲気下におくことなどによっても、液状樹脂含浸ペレットを得ることは可能である。
【0038】
(3)硬化工程
硬化工程は、含浸工程で得られた液状樹脂含浸ペレットに、エネルギを加えて、液状樹脂を硬化させることで、樹脂硬化ペレットを得る工程である。
【0039】
具体的には、液状樹脂として、紫外線硬化性樹脂を用いた場合には紫外線を加えればよく、熱硬化性樹脂を用いた場合には熱を加えればよい。なお、硬化条件は、使用する液状樹脂の性状や、ペレットの性状に応じて適宜選択することが必要となる。たとえば、液状樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、加熱温度は、その熱硬化性樹脂の硬化温度以上とすることが必要となる。一方、硬化温度での加熱時間は、樹脂硬化ペレットが機械加工に耐え得る強度を獲得できる程度の時間とすればよく、長くても1時間程度とすれば十分である。
【0040】
なお、硬化工程では、液状樹脂含浸ペレットの上面に平滑な板状部材を載置した状態で、液状樹脂を硬化させることが好ましく、ペレットを2枚の平滑な板状部材で挟持した状態で、液状樹脂を硬化させることがより好ましい。これにより、樹脂硬化ペレットの平滑性、特に上面の平滑性を十分に確保することができる。
【0041】
この際に使用する板状部材としては、作業上の便宜から、主に光学顕微鏡で用いるスライドガラスを好適に用いることができる。また、樹脂硬化ペレットの剥離を容易に行うために、板状部材の表面にフッ素樹脂フィルムなどを貼付してもよい。
【0042】
(4)研磨工程
研磨工程は、樹脂硬化ペレットの上面に機械研磨による粗研磨を施した後、イオン研磨を施す工程である。これにより、本発明の断面観察用粉体試料が得られる。
【0043】
a)機械研磨(粗研磨)
研磨工程では、市販の研磨試料接着ワックスなどを用いて樹脂硬化ペレットを試料台に固定した後、樹脂硬化ペレットの上面に機械研磨による粗研磨を施すことにより、目視で確認できるような凹凸を除去する。機械研磨に用いる研磨紙の粒度は、特に制限されることはなく、たとえば、#1000〜#2000程度、好ましくは#1200〜#1500程度の粒度の研磨紙を用いて行うことができる。
【0044】
b)イオン研磨(仕上げ研磨)
機械研磨による仕上げ研磨では、機械的な力を作用させることによって樹脂硬化ペレットの上面を研摩するため、これを構成する粒子の一部が脱落し、微細な凹凸が形成されてしまう可能性がある。このため、本発明では、機械研磨による粗研磨後の表面に対して、イオン研磨(仕上げ研磨)を施すことにより、機械研磨で生じた微細な凹凸を除去し、平滑性に優れる上面(観察面)を実現することとしている。
【0045】
ここで、イオン研磨とは、対象物の表面に対してイオンビームをごく浅い角度で照射したときのスパッタリング現象を利用して研磨する方法である。このようなイオン研磨によれば、樹脂硬化ペレットの上面に機械的な力が作用することがないため、これを形成する粒子を脱落させることなく、1μm以下の領域で平滑な観察面を実現することが可能となる。なお、イオン研磨としては、クロスセクションポリッシャ(登録商標)を用いた加工を好適に利用することができる。
【0046】
2.断面観察用粉体試料の断面観察方法
上述のようにして得られた断面観察用粉体試料は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの電子顕微鏡を用いて観察することができ、特に、汎用のSEMよりも分解能が0.5nm程度と高い、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて観察することが好ましい。これにより、粉体試料を構成する粉体に存在する、具体的には、粉体を構成する粉末自体もしくは粉末間に存在する、1μm以下、より具体的には100nm〜1μm程度の空隙を観察し、かつ、粉体試料の断面の鮮明な電子顕微鏡画像(二次電子像)を得ることが可能となる。
【0047】
この際、フォーカス調整、非点補正、コントラスト調整、およびブライトネス調整を適切に行うことが重要となる。観察視野の明るさが不足していたり、焦点が合っていなかったりすると、鮮明な電子顕微鏡画像(二次電子像など)を得ることができず、後述する2値化処理で不具合が生じるおそれがある。
【0048】
3.断面観察用粉体試料の空隙率の測定方法
本発明の評価方法では、上述の断面観察方法により得られた電子顕微鏡画像(二次電子像)を用いて、断面観察用粉体試料の空隙率を測定する。具体的な測定方法は、特に制限されることはないが、たとえば、以下のような方法で測定することができる。
【0049】
はじめに、二次電子像の観察視野に含まれる粒子の中から、予め粒度分布計などで測定した原料粉末の平均粒径と概ね一致する粒径を有する粒子を選択し、この粒子を含む電子顕微鏡画像を取得する。なお、電子顕微鏡画像は、256階調のグレースケールで取得することが好ましい。このような電子顕微鏡画像では、粒子部は白色ないしは薄灰色で表され、空隙部は黒色ないしは濃灰色で表されることとなる。
【0050】
次に、上述した電子顕微鏡画像を2値化処理する。たとえば、電子顕微鏡画像をグレースケールで取得した場合には、明度などの閾値を設定し、閾値以上の部分は白色に、閾値未満の部分は黒色に変換することで、白色部からなる粒子部と、黒色部からなる空隙部に分離する。なお、空隙率を正確に算出するためには、粉体の種類や粉体の形状に応じて、電子顕微鏡画像に表された粒子部および空隙部に応じて、閾値を適切に設定することが必要となる。
【0051】
なお、電子顕微鏡画像およびその2値化処理後の画像はいずれも、その有効画素数(ピクセル数)が9×10
5以上であり、好ましくは1×10
6以上であることが好ましい。
【0052】
そして、前記電子顕微鏡画像を2値化処理することにより、白色部からなる粒子部と黒色部からなる空隙部に分離した後、電子計算機などにより空隙率を算出する。
【0053】
このような空隙率の測定方法では、観察視野にボイドや粒子の脱落が含まれると、適切な電子顕微鏡画像を取得することができないため、空隙率の測定精度が低下することとなる。この点、本発明の断面観察用粉体試料にはボイドや粒子の脱落がほとんど存在しないため、高精度で空隙率を測定することができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
a)断面観察用粉体試料の作製
原料粉末として、平均粒径が0.7μm以下の金属粉末を成型器(ダイス)に充填し、室温下、100MPaで1分間加圧することにより、直径5mm、厚さ3mmの円盤状ペレットを作製した(成形工程)。
【0055】
このペレットを、フッ素樹脂フィルムを貼付したスライドガラス上に載せ、その上面に、液状のエポキシ樹脂(GATAN社製、G2、硬化温度:120℃)を0.15ml(3滴)滴下した。その後、ペレットをスライドガラスごと、80℃に加熱したホットプレート上に1分間載置し、エポキシ樹脂の流動性を高めた後、減圧室内に投入した。続いて、減圧室内を大気圧から20Pa以下となる程度まで減圧し、ペレット内にエポキシ樹脂を含浸させた(含浸工程)。
【0056】
含浸工程後、液状樹脂含浸ペレットを減圧室内から取り出し、その上面にフッ素樹脂フィルムを貼付したスライドガラスを載せた上で、120℃に加熱したホットプレート上に15分間載置し、エポキシ樹脂を完全に硬化させ、樹脂硬化ペレットを得た(硬化工程)。
【0057】
この樹脂硬化ペレットを、市販の研磨試料接着ワックス(GATAN社製、マウンティングワックス)によりモリブデン合金製の試料台に固定し、その上面に対して、#1200の研磨紙で機械研磨(粗研磨)を施した後、クロスセクションポリッシャ加工でイオン研磨(仕上げ研磨)を施すことにより、断面観察用粉体試料を得た(研磨工程)。
【0058】
b)断面観察
断面観察用粉体試料をFE−SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−4700)に設置し、フォーカス調整、非点補正、コントラスト調整、およびブライトネス調整を行った上で観察した。この結果、
図1に示す、有効画素数が12288×10
2で256階調のグレースケールの断面FE−SEM画像(二次電子像)を得た。この断面FE−SEM画像より、本実施例の断面観察用粉体試料には、ボイドや粒子の脱落が存在しないことが確認された。
【0059】
c)空隙率の測定
上述のようにして得られた断面FE−SEM画像に対して2値化処理を行って、空隙率を算出した。その結果、この粉体試料の空隙率は、39%であった。
【0060】
なお、実施例1の断面観察用粉体試料の製造条件および得られた評価結果を、表1に示す。
【0061】
(実施例2)
含浸工程において、エポキシ樹脂を滴下した後、ペレットを、80℃に加熱したホットプレート上に載置しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、断面観察用粉体試料を作製し、FE−SEMによる断面観察および空隙率の測定を行った。この観察より得られた断面FE−SEM像を
図2(a)および(b)に示す。
【0062】
なお、本実施例では、断面FE−SEM像の一部に粒子の脱落が見られたが(
図2(b)参照)、概ね良好な電子顕微鏡画像を得ることができた(
図2(a)参照)。このため、電子顕微鏡画像を2値化処理し、空隙率を算出することができた。その結果、この粉体試料の空隙率は、41%であった。
【0063】
(比較例1)
含浸工程において、エポキシ樹脂を滴下した後、ペレットを減圧室内に投入しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、断面観察用粉体試料を作製し、FE−SEMによる観察および空隙率の測定を行った。この観察により得られた断面FE−SEM像を
図3に示す。
【0064】
なお、この比較例では、断面FE−SEM像のほとんどで、粒子の脱落が生じていることが確認されたため(
図3参照)、電子顕微鏡画像を2値化処理しなかった。この比較例において、粒子の脱落が生じた原因としては、含浸工程でエポキシ樹脂を十分に含浸させなかったため、機械研磨の際に、樹脂硬化ペレットの強度を確保できなかったためと考えられる。
【0065】
(比較例2)
研磨工程において、イオン研磨を行わずに、機械研磨により粗研磨および仕上げ研磨を断面観察用粉体試料の上面に施したこと以外は、実施例1と同様にして、断面観察用粉体試料を作製した。FE−SEMによる観察を行ったところ、研磨キズが確認されたため、電子顕微鏡画像についての2値化処理は行わなかった。
【0066】
【表1】