特許第6398977号(P6398977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6398977
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20180920BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180920BHJP
   B22F 3/00 20060101ALN20180920BHJP
   B22F 3/02 20060101ALN20180920BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20180920BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20180920BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   C22C38/00 303D
   !B22F3/00 F
   !B22F3/02 R
   !C21D9/00 S
   !B22F1/00 Y
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-531815(P2015-531815)
(86)(22)【出願日】2014年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2014071228
(87)【国際公開番号】WO2015022945
(87)【国際公開日】20150219
【審査請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-167332(P2013-167332)
(32)【優先日】2013年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】西内 武司
(72)【発明者】
【氏名】神田 喬之
(72)【発明者】
【氏名】石井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 鉄兵
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/008756(WO,A1)
【文献】 特開平10−289813(JP,A)
【文献】 特開2005−197533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
C22C 38/00
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/02
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)によって表され、

uRwBxGayCuzAlqM(100−u−w−x−y−z−q)T (1)
(Rは軽希土類元素RLと重希土類元素RHからなり、RLはNdおよび/またはPr、RHはDyおよび/またはTbであり、残部であるTはFeでありFeの10質量%以下をCoで置換でき、MはNbおよび/またはZrであり、u、w、x、y、z、qおよび100−u−w−x−y−z−qは質量%を示す)

前記RHはR−T−B系焼結磁石の5質量%以下であり、下記式(2)〜(6)を満足し、

0.4≦x≦1.0 (2)
0.07≦y≦1.0 (3)
0.05≦z≦0.5 (4)
0≦q≦0.1 (5)
0.100≦y/(x+y)≦0.3 (6)

R−T−B系焼結磁石の酸素量(質量%)をα、窒素量(質量%)をβ、炭素量(質量%)をγとしたとき、v=u−(6α+10β+8γ)であって、
v、wが、下記式(7)〜(9)を満足することを特徴とする、R−T−B系焼結磁石。

v≦32.0 (7)
0.84≦w≦0.93 (8)
−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125 (9)
【請求項2】
下記式(10)および(11)を満足することを特徴とする、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石。

0.4≦x≦0.7 (10)
0.1≦y≦0.7 (11)
【請求項3】
下記式(12)を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載のR−T−B系焼結磁石。

0.4≦x≦0.6 (12)
【請求項4】
下記式(13)を満足することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のR−T−B系焼結磁石。

v≦28.5 (13)
【請求項5】
下記式(14)を満足することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のR−T−B系焼結磁石。

0.90≦w≦0.93 (14)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R−T−B系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
14B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石(Rは軽希土類元素RLと重希土類元素RHからなり、RLはNdおよび/またはPr、RHはDyおよび/またはTb、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む)は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハイブリッド自動車用、電気自動車用や家電製品用などの各種モータ等に使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する場合がある)が低下し、不可逆熱減磁が起こる。そのため、特にハイブリッド自動車用や電気自動車用モータに使用される場合、高温下でも高いHcJを維持することが要求されている。
【0004】
従来、HcJ向上のために、R−T−B系焼結磁石に重希土類元素(主としてDy)が多量に添加されていたが、残留磁束密度B(以下、単に「B」と記載する場合がある)が低下するという問題があった。そのため、近年、R−T−B系焼結磁石の表面から内部に重希土類元素を拡散させて主相結晶粒の外殻部に重希土類元素を濃化させることでBの低下を抑制しつつ、高いHcJを得る方法が採られている。
【0005】
しかし、Dyは、もともと資源量が少ないうえに産出地が限定されている等の理由から、供給が不安定であったり、価格が変動するなどの問題を有している。そのため、Dyなどの重希土類元素をできるだけ使用せず(使用量をできるだけ少なくして)、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることが求められている。
【0006】
特許文献1には、通常のR−T−B系合金よりもB量を低くするとともに、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有させることによりR17相を生成させ、該R17相を原料として生成させた遷移金属リッチ相(R13M)の体積率を充分に確保することにより、Dyの含有量を抑制しつつ、保磁力の高いR−T−B系希土類焼結磁石が得られることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、有効希土類含有量と有効硼素含有量を規定するとともに、Co、Cu及びGaを含有した合金は従来の合金に比べて同じ残留磁化Bで高い抗磁力HcJを有することが記載されている。このとき、Gaは非磁性化合物の生成に、Coは残留磁束密度の温度係数の改善に、CuはCoの添加に伴うラーベス相による磁気特性低下の抑制に寄与することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/008756号
【特許文献2】特表2003−510467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1、2に係るR−T−B系希土類焼結磁石は、R、B、Ga、Cuの含有割合が最適でないため、高いBと高いHcJが得られていない。
【0010】
本開示は、上記問題を解決するためになされたものであり、Dyの含有量を抑制しつつ、高いBと高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、下記式(1)によって表され

uRwBxGayCuzAlqM(100−u−w−x−y−z−q)T (1)
(Rは軽希土類元素RLと重希土類元素RHからなり、RLはNdおよび/またはPr、RHはDyおよび/またはTbであり、残部であるTはFeでありFeの10質量%以下をCoで置換でき、MはNbおよび/またはZrであり、u、w、x、y、z、qおよび100−u−w−x−y−z−qは質量%を示す)

前記RHはR−T−B系焼結磁石の5質量%以下であり、下記式(2)〜(6)を満足し、

0.4≦x≦1.0 (2)
0.07≦y≦1.0 (3)
0.05≦z≦0.5 (4)
0≦q≦0.1 (5)
0.100≦y/(x+y)≦0.340 (6)

R−T−B系焼結磁石の酸素量(質量%)をα、窒素量(質量%)をβ、炭素量(質量%)をγとしたとき、v=u−(6α+10β+8γ)であって、v、wが、下記式(7)〜(9)を満足することを特徴とする、R−T−B系焼結磁石である。

v≦32.0 (7)
0.84≦w≦0.93 (8)
−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125 (9)
【0012】
本発明の態様2は、態様1において、下記式(10)および(11)を満足することを特徴とする、R−T−B系焼結磁石である。

0.4≦x≦0.7 (10)
0.1≦y≦0.7 (11)
【0013】
本発明の態様3は、態様1または態様2において、下記式(12)を満足することを特徴とするR−T−B系焼結磁石である。

0.4≦x≦0.6 (12)
【0014】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれかにおいて、下記式(13)を満足することを特徴とするR−T−B系焼結磁石である。

v≦28.5 (13)
【0015】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれかにおいて、下記式(14)を満足することを特徴とするR−T−B系焼結磁石である。

0.90≦w≦0.93 (14)
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る態様により、DyやTbの含有量を抑制しつつ、高いBと高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の1つの態様において、vとwの範囲を示す説明図である。
図2図2(a)、(b)は、第一の粒界の厚みの測定方法を説明する模式図である。
図3】本発明の1つの態様において、R−T−B系焼結磁石の断面に高加速電圧の電子線を照射したときに放出するSEによる像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、例えば、前記本発明の態様1に示すように、R、B、Ga、Cu、Al、および必要に応じてM、の含有量を最適化し、さらにGaとCuを特定の比で含有させることにより、高いBと高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石が得られることを見出した。そして、得られたR−T−B系焼結磁石を解析した結果、二つの主相間に存在する第一の粒界(以下、「二粒子粒界」と記載する場合がある)に、Rが70質量%以上で、Ga、Cuが磁石全体の組成よりも濃化した相(以下、R−Ga−Cu相と記載する場合がある)が存在することを知見し、さらに、詳細に解析した結果、Rが65質量%以下で、T、Gaを含む相(以下、R−T−Ga相と記載する場合がある)が存在しない二粒子粒界が含まれていることを知見した。
【0019】
二粒子粒界にR−Ga−Cu相が存在すること、および、R−T−Ga相が存在しない二粒子粒界が含まれていることにより高いBと高いHcJが得られるメカニズムについては、未だ不明な点もある。現在までに得られている知見を基に本発明者らが考えるメカニズムについて以下に説明する。以下のメカニズムについての説明は本発明の技術的範囲を制限することを目的とするものではないことに留意されたい。
【0020】
R−T−B系焼結磁石は、主相であるR14B型化合物の存在比率を高めることによりBを向上させることができる。R14B型化合物の存在比率を高めるためには、R量、T量、B量をR14B型化合物の化学量論比に近づければよいが、R14B型化合物を形成するためのB量が化学量論比を下回ると、粒界に軟磁性のR17相が析出しHcJが急激に低下する。しかし、磁石組成にGaが含有されていると、R17相の代わりにR−T−Ga相が生成され、HcJの低下を抑制することができると考えられていた。
【0021】
当初、R−T−Ga相の生成によりHcJの低下が抑制されるのは、HcJの急激な低下を招くR17相がなくなるとともに、生成されたR−T−Ga相が磁性を有していないかあるいは磁性が極めて弱いからであると想定していた。しかし、R−T−Ga相も磁性を有する場合が有り、粒界、特にHcJを担う二粒子粒界にR−T−Ga相が多く存在すると、HcJ向上の妨げになっていることが分かった。そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、R−T−Ga相を生成させるとともに二粒子粒界にR−Ga−Cu相を生成させることによりHcJが向上することを知見した。これは二粒子粒界にR−Ga−Cu相が生成されることにより、5nm以上の厚い二粒子粒界が形成され、かつR−Ga−Cu相は非磁性もしくは極めて磁化が弱いため、主相間の磁気的な結合を弱めるからであると考えられる。このように、二粒子粒界を介した主相間の磁気的な結合が弱まれば、結晶粒界を超えた磁化反転の伝搬が抑制され、これが、バルク磁石としてのHcJ向上に寄与していると考えられる。そこで、R−T−B系焼結磁石全体においてR−T−Ga相の生成量を抑えつつ、R−Ga−Cu相を二粒子粒界に優先的に生成することができれば、さらにHcJを向上できると想定した。
【0022】
R−T−B系焼結磁石において、R−T−Ga相の生成量を低く抑えるためには、R量とB量とを適切な範囲にすることによってR17相の生成量を低くするとともに、R量とGa量をR17相の生成量に応じた最適な範囲にする必要がある。しかし、Rの一部はR−T−B系焼結磁石の製造過程において酸素、窒素、炭素と結合し消費されてしまうため、R17相やR−T−Ga相に使われる実際のR量は製造過程で変化してしまう。従って、R17相およびR−T−Ga相の生成量を抑制することが困難であった。そこで、本発明者が鋭意検討した結果、R−T−Ga相を生成させつつ、その生成量を適切な範囲で制御するには、酸素、窒素、炭素の量で補正したR量、具体的には、R量(u)からR−T−B系焼結磁石における酸素量(質量%)をα、窒素量(質量%)をβ、炭素量(質量%)をγとしたとき6α+10β+8γを差し引いた値(v)を用いることにより、R17相やR−T−Ga相の生成量を適切な範囲で制御することが可能であることを知見した。そして、R量(u)から6α+10β+8γを差し引いた値(v)とB量とGa量とCu量とAl量を特定の割合で含有させるとともに、さらに、GaとCuを特定の比にすることにより、高いHcJが得られ、また、このとき、R量やB量を主相の存在比率を大幅に低下させない程度の量にすることができるため、高いBを得られることがわかった。これにより、R−T−B系焼結磁石全体において二粒子粒界にR−Ga−Cu相が多く存在し、さらに、R−T−Ga相がほとんど存在しない二粒子粒界が多く存在するという組織になっているものと考えられる。
【0023】
特許文献1に記載の技術ではR量に関し、酸素量、窒素量、炭素量を考慮していないため、R17相やR−T−Ga相の生成量を抑制することは困難である。そもそも、特許文献1に記載の技術はR−T−Ga相の生成を促進することによってHcJを向上させるものであり、R−T−Ga相の生成量を抑制するという技術思想はない。そのため、特許文献1は、R−T−Ga相の生成量を抑制しつつ、R−Ga−Cu相を生成させることができる最適な割合でR、B、Ga、Cu、Alを含有しておらず、これにより、高いBと高いHcJが得られていないと考えられる。また、特許文献2に記載の技術では酸素量、窒素量、炭素量の値は考慮されているものの、Gaについては、R17相の生成を抑制してGa含有相(本願のR−T−Ga相に相当すると考えられる)を生成することによりHcJを向上させることが記載されているため、特許文献1と同様に、R−T−Ga相の生成量を抑制するという技術思想はない。そのため、特許文献1と同様に最適な割合でR、B、Ga、Cu、Alを含有しておらず、そのため、高いBと高いHcJが得られていないと考えられる。
【0024】
本発明における「第一の粒界(二粒子粒界)の厚み」とは、二つの主相間に存在する第一の粒界の厚みのことであり、より詳細には、該粒界のうち厚みが最も大きい領域を測定した場合の厚みの最大値のことをいう。「第一の粒界(二粒子粒界)の厚み」は、例えば、以下の手順で評価する。
1)走査電子顕微鏡(SEM)観察で、観察断面における長さが3μm以上ある二粒子粒界を含む視野をランダムに5視野以上選択する。
2)それぞれの視野に対して、収束イオンビーム(FIB)を用いたマイクロサンプリング法により、前記二粒子粒界相を含むように試料を加工した後、さらに、厚さ方向が80nm以下となるまで薄片加工する。
3)得られた薄片試料を透過電子顕微鏡(TEM)観察し、個々の二粒子粒界における最大値を求める。当然ながら、選択した前記二粒子粒界のうち厚みが最も大きい領域を決定した後、当該領域の厚みの最大値を測定する時は、精度良く測定するためにTEMの倍率を高めてもよい。
4)1)〜3)の手順で観察したすべての二粒子粒界の最大値の平均値を求める。
図2(a)は、第一の粒界の例を模式的に示す図であり、図2(b)は、図2(a)の点線で囲んだ部分を拡大した図である。
図2(b)に示すように、第一の粒界20は厚みが大きい領域22と小さい領域24が混在している場合があるが、このような場合、厚みが大きい領域22の厚みの最大値を第一の粒界20の厚みとする。また、図2(b)に示すように、第一の粒界20と三つ以上の主相40間に存在する第二の粒界30はつながっている場合がある。この場合、「第一の粒界の厚み」とは、厚みを測定する磁石の断面において第一の粒界20から第二の粒界30にかわる境目近傍(例えば、第一の粒界20と第二の粒界30との境目35A、35Bから、0.5μm程度離れた領域)の厚みは測定しないこととする。前記境目は、第二の粒界30の厚みの影響をうけている可能性があると考えられるためである。第一の粒界20の厚みの測定範囲は、境目35A、35Bから0.5μm程度離れた領域を除いた範囲で2μm以上の長さがあることとする。ここで、図2(b)において符号20を付した中括弧が示す範囲は、第一の粒界20が延在する範囲を示すものであり、必ずしも第一の粒界20の厚みの測定範囲(すなわち、境目35A、35Bから0.5μm程度離れた領域を除いた範囲)を示すものではないことに留意されたい。
【0025】
本発明に係る一つの態様では、第一の粒界の厚みを5nm以上30nm以下とすることにより、より高いBとHcJを得ることができる。本発明に係る態様の組成を適用することにより、第一の粒界の厚みを5nm以上30nm以下とすることができる。また、第一の粒界の厚みのより好ましい範囲は10nm以上30nm以下である。
【0026】
なお、第一の粒界の厚みに関しては、後述する実施例で示すように、例えばSTEM装置に装着された高加速電圧の電子線を用いた試料断面の二次電子像を取得することで簡易的に評価することができる。
【0027】
[R−T−B系焼結磁石の組成]
本発明に係る態様では
式:uRwBxGayCuzAlqM(100−u−w−x−y−z−q)T (1)
(Rは軽希土類元素RLと重希土類元素RHからなり、RLはNdおよび/またはPr、RHはDyおよび/またはTbであり、残部であるTはFeでありFeの10質量%以下をCoで置換できる、MはNbおよび/またはZrである、および不可避的不純物を含み、u、w、x、y、z、qおよび100−u−w−x−y−z−qは質量%を示す)
によって表され、
前記RHはR−T−B系焼結磁石の5質量%以下であり、
0.4≦x≦1.0 (2)
0.07≦y≦1.0 (3)
0.05≦z≦0.5 (4)
0≦q≦0.1 (5)
0.100≦y/(x+y)≦0.340 (6)
であり、
R−T−B系焼結磁石の酸素量(質量%)をα、窒素量(質量%)をβ、炭素量(質量%)をγとしたとき、v=u−(6α+10β+8γ)であって、v、wが、
v≦32.0 (7)
0.84≦w≦0.93 (8)
−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125 (9)
を満足することを特徴とする、R−T−B系焼結磁石である。
【0028】
本発明のR−T−B系焼結磁石は不可避的不純物を含んでよい。例えば、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄、フェロボロンなどに通常含有される不可避的不純物を含有していても本発明の効果を奏することができる。不可避的不純物として例えば、La、Ce、Cr、Mn、Siなどを微量に含む。
【0029】
本発明に係る1つの態様では、R−T−B系焼結磁石を上記式で表される組成にすることにより、高いBと高いHcJが得られるという効果を奏することができる。以下に詳述する。
【0030】
本発明の1つの態様に係るR−T−B系焼結磁石におけるRは、軽希土類元素RLと重希土類元素RHからなり、RLはNdおよび/またはPr、RHはDyおよび/またはTbであり、RHはR−T−B系焼結磁石の5質量%以下である。本発明は重希土類元素を使用しなくても高いBと高いHcJを得ることができるため、より高いHcJを求められる場合でもRHの添加量を削減でき、典型的には2.5質量%以下とすることができる。TはFeであり、Feの10質量%以下、典型的には2.5質量%以下をCoで置換できる。Bはボロンである。
なお、特定の希土類元素を得ようとすると精錬等の過程で、不純物として意図しない他の種類の希土類元素が不純物として含まれてしまうことが広く知られている。従って、上述の「本発明の1つの態様に係るR−T−B系焼結磁石におけるRは、軽希土類元素RLと重希土類元素RHからなり、RLはNdおよび/またはPr、RHはDyおよび/またはTbであり、RHはR−T−B系焼結磁石の5質量%以下である。」は、Rが、Nd、Pr、DyおよびTb以外の希土類元素を含む場合を完全に排除するものではなく、Nd、Pr、DyおよびTb以外の希土類元素についても不純物レベルの量であれば含有してもよいことを意味している。
【0031】
R、B、Ga、Cuをそれぞれ本発明の1つの態様に係る範囲で組み合わせ、かつ、GaとCuを本発明の1つの態様に係る比にすることにより、高いBと高いHcJを得ることができる。上記範囲からはずれると、主相比率の大幅な低下を招いたり、R−T−Ga相の生成が抑制され過ぎて、R−T−B系焼結磁石全体において、二粒子粒界にR−Ga−Cu相が生成され難くなったり、逆にR−T−Ga相が存在しない二粒子粒界が少なくなり(R−T−Ga相が多く存在する二粒子粒界が支配的となり)、高いBと高いHcJが得られなくなる。
【0032】
なお、発明者らが詳細に検討した結果、Cuは後述する熱処理において生成した液相中に存在することで主相と液相の界面エネルギーを低下させ、その結果、二粒子粒界に効率的に液相を導入することに寄与し、Gaは二粒子粒界に導入された液相中に存在することで主相の表面近傍を溶解して厚い二粒子粒界を形成することに寄与していると考えられる。さらに、R−Ga−Cu相の形成と関与すると考えられるR−T−Ga相の形成にもGaは必要である。GaまたはCuが本発明の規定値以下、すなわち、Ga量(x)が0.4質量%未満またはCu量(y)が0.07質量%未満のときは、二粒子粒界におけるR−Ga−Cu相の形成が不十分となり、それぞれの元素の効果を十分発揮することができず、高いHcJが得られない。従って、Ga量(x)を0.4質量%以上またはCu量(y)を0.07質量%以上とする。好ましいCu量(y)は、0.1質量%以上である。
【0033】
一方、Ga量(x)が1.0質量%を超えるときまたはCu量(y)が1.0質量%を超えるときは、Ga、Cu量が過剰となり、これら非磁性元素の割合が高くなることに加え、Gaを含む液相により主相の溶解が顕著になり、主相の存在比率が低くなるため、高いBが得られない。好ましくはGa量(x)が0.7質量%以下、Cu量(y)が0.7質量%以下であり、さらに好ましくはGa量(x)が0.6質量%以下、Cu量(y)が0.4質量%以下である。
【0034】
本発明においてy/(x+y)(すなわち<Cu>/<Ga+Cu>(ここで、<Cu>は質量%で表したCu量であり、<Ga+Cu>は質量%で表したGaとCuの合計量である))を質量比で0.1以上0.34以下に設定する。前記比にすることにより、高いBと高いHcJを得ることができる。<Cu>/<Ga+Cu>が0.1未満の場合には、Ga量に対してCu量が少なすぎるため、熱処理時に二粒子粒界への液相の導入が十分に起こらずR−Ga−Cu相を適切に形成させることができない。また、二粒子粒界へのGaの導入が少なくなる分、三つ以上の主相間に存在する第二の粒界(以下、「多重点粒界」と記載する場合がある)に存在するGaを含む液相の量が多くなる。これにより、第二の粒界近傍の主相の溶解がGaを含む液相によって顕著になるため、HcJが十分向上しないだけでなく、Bの低下を招く。一方、<Cu>/<Ga+Cu>が0.34を超える場合には、液相中のGa存在比が小さすぎて、二粒子粒界に導入された液相による主相の溶解が十分起こらないために二粒子粒界が厚くならず、高いHcJが得られない。好ましくは、<Cu>/<Ga+Cu>の質量比は、0.1以上0.3以下である。
【0035】
更に、通常含有される程度のAl(0.05質量%以上0.5質量%以下)を含有する。Alを含有することにより、HcJを向上させることができる。Alは通常、製造工程で不可避的不純物として0.05質量%以上含有されるが、不可避的不純物で含有される量と意図的に添加した量の合計で0.5質量%以下含有してもよい。
【0036】
また、一般的に、R−T−B系焼結磁石において、Nbおよび/またはZrを含有させることで焼結時における結晶粒の異常粒成長が抑制されることが知られている。本発明においても、Nbおよび/またはZrを合計で0.1質量%以下含有してもよい。Nbおよび/またはZrの含有量が合計で0.1質量%を超えると不要なNbやZrが存在することにより、主相の体積比率が低下してBが低下する恐れがある。
【0037】
また、本発明に係る態様における酸素量(質量%)、窒素量(質量%)、炭素量(質量%)は、R−T−B系焼結磁石における含有量(すなわち、R−T−B系磁石全体の質量を100質量%とした場合の含有量)であり、酸素量は、ガス融解−赤外線吸収法、窒素量は、ガス融解−熱伝導法、炭素量は、燃焼−赤外線吸収法、によるガス分析装置を使用して測定することができる。本発明は、R量(u)から酸素、窒素、炭素と結合し消費された量を以下に説明する方法により差し引いた値(v)を使用する。これによりR17相やR−T−Ga相の生成量を調整することが可能となる。前記vは、酸素量(質量%)をα、窒素量(質量%)をβ、炭素量(質量%)をγとしてR量(u)から6α+10β+8γを差し引くことにより求める。6αは、不純物として主にRの酸化物が生成されるとして、酸素のおよそ6倍の質量のRが酸化物として消費されることから規定したものである。10βは、主にRNの窒化物が生成されるとして、窒素のおよそ10倍の質量のRが窒化物として消費されることから規定したものである。8γは、主にRの炭化物が生成されるとして、炭素のおよそ8倍の質量のRが炭化物として消費されることから規定したものである。
【0038】
なお、酸素量、窒素量および炭素量は、それぞれ、上述のガス分析装置による測定により得ているのに対して、式(1)に示されるR、B、Ga、Cu、AlおよびMのそれそれぞれの含有量(質量%)であるu、w、x、y、zおよびqは、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法、ICP−OES)を用いて測定してよい。式(1)に示される残部Tの含有量(質量%)である100−u−w−x−y−z−qは、ICP発光分光分析法により得られたu、w、x、y、zおよびqの測定値を用いて計算により求めてよい。
従って、式(1)は、ICP発光分光分析法により測定可能な元素の合計量が100質量%となるように規定している。一方、酸素量、窒素量および炭素量はICP発光分光分析法では測定不可能である。
このため、本発明に係る態様においては、式(1)で規定するu、w、x、y、z、q及び100−u−w−x−y−z−qと、酸素量α、窒素量βおよび炭素量γとを合計すると100質量%を超えることが許容される。
【0039】
更に、本発明の1つの態様はvとwを以下の関係とする。

v≦32.0 (7)
0.84≦w≦0.93 (8)
−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125 (9)

vが32.0質量%を超えると、主相の存在比率が低くなり高いBが得られない。より高いBを得るためには、v≦28.5が好ましい。wが0.84質量%未満であると、主相の体積比率が低下して高いBが得られず、wが0.93質量%を超えると、R−T−Ga相の生成量が少なすぎるため、R−Ga−Cu相の生成量も少なくなり、高いHcJを得ることができない。より高いBを得るためには、0.90≦w≦0.93が好ましい。そして、vとwは−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125の関係を満足する。
図1に上記式(7)〜(9)を満足するvとwの本発明の範囲を示す。図1中のvは、R量(u)から酸素量(質量%)をα、窒素量(質量%)をβ、炭素量(質量%)をγとして6α+10β+8γを差し引いた値であり、wは、B量の値である。本発明の1つの態様に係る範囲である式(9)、すなわち、−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125は直線1と直線2に挟まれた範囲である。vとwを本発明の範囲にするにすることにより、高いBと高いHcJを得ることができる。本発明の範囲からはずれた領域10(直線2から図中下の領域)は、wに対してvが少なすぎるためR−T−Ga相の生成量が少なくなり、R17相を無くすことができなかったり、R−Ga−Cu相の生成量が少なくなると考えられる。これにより高いHcJが得られない。逆に、本発明の範囲から外れた領域20(直線1から図中上の領域)は、wに対してvが多すぎるため、相対的にFe量が不足する。Fe量が不足するとRおよびBが余ることになり、その結果R−T−Ga相が十分生成されずにRFeが生成され易くなると考えられる。これによりR−Ga−Cu相の生成量も少なくなり、高いHcJが得られない。
【0040】
本発明の1つの態様において、R−T−Ga相とは、R:15質量%以上65質量%以下、T:20質量%以上80質量%以下、Ga:2質量%以上20質量%以下を含むものであって、例えばRFe13Ga化合物が挙げられる。また、R−Ga−Cu相とは、R:70質量%以上95質量%以下、Ga:5質量%以上30質量%以下、Cu:1質量%以上30質量%以下、Fe:20質量%以下(0を含む)を含むものであって、例えばR(Ga,Cu)化合物が挙げられる。なお、本発明において、R−T−Ga相には、CuやAlなどを含む場合がある。また、R−Ga−Cu相には、AlやCoを含む場合がある。ここで、Alは原料合金の溶解時に坩堝などから不可避に導入されるものを含む。また、二粒子粒界には、R−Ga−Cu相と同様に、Fe:20質量%以下(0を含む)で、微量のGaやCuを含むdhcp構造(二重六方最密構造)のNd相も存在する場合があるが、この相も非磁性もしくは極めて磁化が弱く(小さく)、かつ、厚い二粒子粒界相として存在できるため、主相間の磁気的な結合を弱めることで保磁力向上に寄与していると考えられる。
【0041】
[R−T−B系焼結磁石の製造方法]
R−T−B系焼結磁石の製造方法の一例を説明する。R−T−B系焼結磁石の製造方法は、合金粉末を得る工程、成形工程、焼結工程、熱処理工程を有する。以下、各工程について説明する。
【0042】
(1)合金粉末を得る工程
所定の組成となるようにそれぞれの元素の金属または合金を準備し、これらをストリップキャスティング法等を用いてフレーク状の合金を製造する。得られたフレーク状の合金を水素粉砕し、粗粉砕粉のサイズを例えば1.0mm以下とする。次に、粗粉砕粉をジェットミル等により微粉砕することで、例えば粒径D50(気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積基準メジアン径)が3〜7μmの微粉砕粉(合金粉末)を得る。なお、ジェットミル粉砕前の粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中およびジェットミル粉砕後の合金粉末に助剤として既知の潤滑剤を使用してもよい。
【0043】
(2)成形工程
得られた合金粉末を用いて磁界中成形を行い、成形体を得る。磁界中成形は、金型のキャビティー内に乾燥した合金粉末を挿入し、磁界を印加しながら成形する乾式成形法、金型のキャビティー内に該合金粉末を分散させたスラリーを注入し、スラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む既知の任意の磁界中成形方法を用いてよい。
【0044】
(3)焼結工程
成形体を焼結することにより焼結磁石を得る。成形体の焼結は既知の方法を用いることができる。なお、焼結時の雰囲気による酸化を防止するために、焼結は、真空雰囲気中または雰囲気ガス中で行うことが好ましい。雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0045】
(4)熱処理工程
得られた焼結磁石に対し、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行う。態様1に示すR量、B量、Ga量、Cu量およびGaとCuの特定の比にした本発明の組成では、焼結後に施される熱処理で、NdFe13Ga相に代表されるR−T−Ga相が主に多重点粒界中に形成されるとともに、R−Ga−Cu相が二粒子粒界に形成されると考えられる。熱処理温度は典型的には440℃以上540℃以下である。この温度は、Nd−Fe−Ga三元共晶温度(580℃)よりも低い温度であり、このような温度で熱処理を行うことにより、R−T−Ga相が主に多重点粒界相中に形成されるとともに、Ga、Cuの両方を含み、かつ比較的Cuに富んだ液相が生成され、前記液相が二粒子粒界に導入されることにより、R−Ga−Cu相が形成されて高いHcJが得られると考えられる。さらに、440℃以上540℃以下の熱処理を行ったR−T−B系焼結磁石では、R−Ga−Cu相が非晶質になる場合があることがわかった。このような非晶質の粒界相の存在は主相最外部の磁気異方性低下の原因となる結晶性の悪化を抑制し、結果、保磁力の向上に寄与すると考えられる。
【0046】
得られた焼結磁石に磁石寸法の調整のため、研削などの機械加工を施してもよい。その場合、熱処理は機械加工前でも機械加工後でもよい。さらに、得られた焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、既知の表面処理で良く、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗装などの表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0047】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0048】
<実験例1>
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、フェロニオブ合金、フェロジルコニウム合金および電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、所定の組成となるように配合し、それらの原料を溶解してストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2〜0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金に水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、本検討では、粉砕時の窒素ガス中の酸素濃度は50ppm以下とすることにより、最終的に得られる焼結磁石の酸素量が0.1質量%前後となるようにした。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(体積基準メジアン径)である。
【0049】
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100質量%に対して0.05質量%添加、混合した後、磁界中で成形し、成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0050】
得られた成形体を、真空中、1020℃で4時間焼結した後急冷し、焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結磁石の成分、ガス分析(O(酸素量)、N(窒素量)、C(炭素量))の結果を表1に示す。なお、表1における各成分であるNd、Pr、B、Ga、Cu、Al、Co、NbおよびZrの含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。そして、残部(100質量%から測定により得たNd、Pr、B、Ga、Cu、Al、Co、NbおよびZrの含有量を引いて得た残り)をFeの含有量とした。また、O(酸素量)は、ガス融解−赤外線吸収法、N(窒素量)ガス融解−熱伝導法、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法、によるガス分析装置を使用して測定した。また、表1において、Nd、Prの量を合計した値がR量(u)である。以下の全ての表も同様である。
【0051】
【表1】
【0052】
得られた焼結磁石を加熱し、800℃で2時間保持した後室温まで冷却し、次いで500℃で2時間保持した後室温まで冷却する熱処理を施した。熱処理後の焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、3.2MA/mのパルス磁界で着磁した後、B−Hトレーサによって各試料のB及びHcJを測定した。測定結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2におけるvは、表1におけるα、β、γを用いて得られる6α+10β+8γをuから差し引いた値である。uおよびwは、表1のRおよびB量をそのまま転記した。以下の表4、表6、表8、表10も同様である。
【0055】
また、表2における「vとwの関係(判定)」は、vとwの関係が、本発明の1つの態様に係る範囲である−12.5w+38.75≦v≦−62.5w+86.125を満足している場合は「○」、満足していない場合は「×」としている。以下の表4、表6、表8、表10も同様である。
【0056】
また、表2における「xとyの関係(判定)」は、y/(x+y)の値が本発明の1つの態様に係る範囲である0.100≦y/(x+y)≦0.34を満足しているときは「○」、満足していない時は「×」としている。以下の表4、表6、表8、表10も同様である。
【0057】
表2に示すように、酸素量0.1質量%前後の焼結磁石において、本発明の条件を満足している組成の焼結磁石(実施例)は、いずれも1.312T以上の高いB、かつ、1428kA/m以上の高いHcJを有している。これに対し、vの値が本発明の範囲から外れているサンプル(No.1−24)、wの値が本発明の範囲から外れているサンプル(例えば、No.1−23、1−25)、vとwの関係が本発明の範囲から外れているサンプル(例えば、No.1−11と1−27)、xとyの関係が本発明の範囲から外れているサンプル(例えば、No.1−4、1−9)、表1に示すGa量が本発明の範囲から外れているサンプル(例えば、No.1−26)ではいずれも高いB、高いHcJが得られなかった。また、Ga量を変えた一連のサンプル(No.1−1から1−4、1−28)の評価結果から、Ga=0.7質量%でも本発明の効果となる十分に高い磁気特性が得られるが、Ga=0.6で磁気特性が最大になり、これ以上Gaが増加すると磁気特性が低下する傾向を示した。
さらに、本発明の条件を満足している組成の焼結磁石(実施例)のうち、w(B量)が、0.90以上(0.90≦w≦0.93)のサンプル(No.1−2、1−3、1−12、1−17、1−20〜1−22、1−28)は、より高いB(1.376T以上)が得られており、vが28.5以下のサンプル(No.1−2、1−3、1−20〜22、1−28)は、さらに高いB(1.393T以上)が得られている。
【0058】
<実験例2>
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、および電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、所定の組成となるように配合し、実験例1と同様の方法で粗粉砕粉を作製した。得られた粗粉粉砕に対し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。このとき粉砕時の窒素ガス中の酸素濃度を制御することにより、最終的に得られる焼結磁石の酸素量が0.25質量%前後となるようにした。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(体積基準メジアン径)である。
【0059】
前記微粉砕粉を実験例1と同様の方法で成形、焼結し、焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結磁石の成分、ガス分析(O(酸素量)、N(窒素量)、C(炭素量))を実験例1と同様の方法で行った。その結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
得られた焼結磁石を実験例1と同様の方法で熱処理し、実験例1と同様の方法でBおよびHcJを測定した。測定結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示すように、酸素量0.25質量%前後の焼結磁石において、本発明の条件を満足している組成の焼結磁石(実施例)は、いずれも1.347T以上の高いB、かつ、1380kA/m以上の高いHcJを有している。これに対し、vとwの関係が本発明の範囲から外れているサンプルNo.2−6、xとyの関係が本発明の範囲から外れているサンプルNo.2−4、2−5の比較例では、高いB、高いHcJが得られなかった。
【0064】
<実験例3>
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、および電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、所定の組成となるように配合し、実験例1と同様の方法で粗粉砕粉を作製した。得られた粗粉粉砕に対し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。このとき粉砕時の窒素ガス中の酸素濃度を制御することにより、最終的に得られる焼結磁石の酸素量が0.4質量%前後となるようにした。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(体積基準メジアン径)である。
【0065】
前記微粉砕粉を実験例1と同様の方法で成形、焼結し、焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結磁石の成分、ガス分析(O(酸素量)、N(窒素量)、C(炭素量))を実験例1と同様の方法で行った。その結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
得られた焼結磁石を実験例1と同様の方法で熱処理し、実験例1と同様の方法でBおよびHcJを測定した。測定結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
表6に示すように、酸素量0.40質量%前後の焼結磁石において、本発明の条件を満足している組成の焼結磁石(実施例)は、いずれも1.305T以上の高いB、かつ、1340kA/m以上の高いHcJを有している。これに対し、vとwの関係が本発明の範囲から外れているサンプルNo.3−7と3−8、yおよびxとyの関係が本発明の範囲から外れているサンプルNo.3−5、xとyの関係が本発明の範囲から外れているサンプルNo3−6では高いB、高いHcJが得られなかった。
【0070】
<実験例4>
Ndメタル、Prメタル、Dyメタル、Tbメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、および電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、所定の組成となるように配合し、それらの原料を溶解してストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2〜0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金に水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。このとき粉砕時の窒素ガス中の酸素濃度を制御することにより、最終的に得られる焼結磁石の酸素量が0.4質量%前後となるようにした。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(体積基準メジアン径)である。
【0071】
前記微粉砕粉を実験例1と同様の方法で成形、焼結し、焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結磁石の成分、ガス分析(O(酸素量)、N(窒素量)、C(炭素量))を実験例1と同様の方法で行った。その結果を表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
得られた焼結磁石を実験例1と同様の方法で熱処理し、実験例1と同様の方法でBおよびHcJを測定した。測定結果を表8に示す。
【0074】
【表8】
【0075】
表8に示すように、DyやTbを含有した場合においても、実施例は、高いBと高いHcJを得ることができる。例えば、本発明の条件で行った実施例のサンプルNo.4−3と、サンプルNo.4−3とGa量が本発明の範囲と異なること以外は同じ組成である比較例のサンプルNo.4−4を比べると、サンプルNo.4−3の方が、Bは近い値であるにもかかわらず、HcJが大幅に向上している。
【0076】
<実験例5>
Ndメタル、Prメタル、Dyメタル、Tbメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、および電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、所定の組成となるように配合し実験例4と同様の方法で粗粉砕粉を作成した。得られた粗粉粉砕に対し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。このとき粉砕時の窒素ガス中の酸素濃度を制御することにより、最終的に得られる焼結磁石の酸素量が0.4質量%前後となるようにした。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(体積基準メジアン径)である。
【0077】
前記微粉砕粉を実験例1と同様の方法で成形、焼結し、焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結磁石の成分、ガス分析(O(酸素量)、N(窒素量)、C(炭素量))を実験例1と同様の方法で行った。その結果を表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
得られた焼結磁石を実験例1と同様の方法で熱処理し、実験例1と同様の方法でBおよびHcJを測定した。測定結果を表10に示す。
【0080】
【表10】
【0081】
表10に示すように、実施例であるサンプルNo.5−1は、高いBとHcJを得ることができる。一方、本発明の範囲から外れているサンプルNo.5−2は、実施例と同等の磁気特性を得るために、Dyを2質量%より多量に添加する必要があることがわかった。
【0082】
<実験例6>
実験例1で作製した本発明の実施例サンプルNo.1−20および比較例サンプルNo.1−1を機械加工により切断し、断面を研磨した後、走査電子顕微鏡(SEM)観察を行い、観察断面における長さが3μm以上ある、二つの主相間に存在する第一の粒界(二粒子粒界)をランダムにサンプルNo.1−20、No.1−1それぞれ、5視野選択して、収束イオンビーム(FIB)を用いて薄片加工し、透過型電子顕微鏡(TEM)用のサンプルを作製した。
【0083】
得られたサンプルをTEM観察し、二粒子粒界の厚みを測定した。サンプル中の二粒子粒界の長さが3μm以上であることを確認した上で、三つ以上の主相間に存在する第二の粒界との境目近傍から0.5μm程度離れた領域を除外した領域(長さは2μm以上)の粒界の厚さを評価し、その最大値をその粒界相の厚さとした。二粒子粒界の厚みが最も大きい領域を決定した後、二粒子粒界の厚みの最大値を測定する時は、精度良く厚みを測定するため、TEMの倍率を高くして測定を行った。同様の解析をサンプリングした5つすべての第一の粒界相に対して行い、その平均値を求めた。二粒子粒界は図2に模式的に示すように、厚みが大きい領域と小さい領域が混在しているケースが見られたが、このような場合は、厚みが大きい領域の厚みを二粒子粒界の厚みと規定する。また二粒子粒界は、TEMの観察視野において確認される第二の粒界から少なくとも0.5μm離れた領域を評価している。
【0084】
5つのサンプルに対するTEM観察の結果、本発明の実施例サンプルNo.1−20の二粒子粒界は5nmから30nmの厚い粒界相を有していることを確認した。これに対し、比較例サンプルNo.1−1は、1nmから3nmであった。
【0085】
さらに、TEM観察を行った第一の粒界(二粒子粒界)の一つについて、組成をエネルギー分散X線分光(EDX)で測定した結果、本発明の実施例サンプルNo.1−20は、Rが65質量%以下で、T、Gaを含むR−T−Ga相が存在せず、少なくとも二粒子粒界の一部の領域はNd:52質量%、Pr:26質量%、Ga:5質量%、Cu:4質量%、Fe:7質量%、Co:3質量%となっていたことから、本発明の磁石に特徴的にみられるR−Ga−Cu相であることを確認した。また、この領域において電子線回折を行った結果、非晶質であることがわかった。これに対し、比較例サンプルNo.1−1は、R−Ga−Cu相は確認されなかった。
【0086】
<実験例7>
Ndメタル、Prメタル、フェロボロン合金、電解Co、Alメタル、Cuメタル、Gaメタル、および電解鉄を用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、所定の組成となるように配合し実験例4と同様の方法で粗粉砕粉を作成した。得られた粗粉粉砕に対し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4.5μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。このとき粉砕時の窒素ガス中の酸素濃度を制御することにより、最終的に得られる焼結磁石の酸素量が0.08質量%前後となるようにした。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(体積基準メジアン径)である。
【0087】
前記微粉砕粉を実験例1と同様の方法で成形、焼結し、焼結磁石を得た。焼結磁石の密度は7.5Mg/m以上であった。得られた焼結磁石の成分、ガス分析(O(酸素量)、N(窒素量)、C(炭素量))を実験例1と同様の方法で行った。その結果を表11に示す。
【0088】
【表11】
【0089】
得られた焼結磁石を加熱し、800℃で2時間保持した後室温まで冷却し、次いで、480℃で1時間保持した後室温まで冷却する熱処理を施した。熱処理後の焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、3.2mA/mのパルス磁界で着磁した後、B−Hトレーサによって試料のBおよびHcJを測定した。測定結果を表12に示す。
【0090】
【表12】
【0091】
実験例7のサンプル(実施例No.6−1)を機械加工により切断し、断面を研磨した後、走査電子顕微鏡(SEM)観察を行い、SEM装置内で、60μm×30μm程度の観察面が得られるように、収束イオンビーム(FIB)によるマイクロサンプリング加工をした。得られたサンプルを走査透過電子顕微鏡(STEM)にセットし、顕微鏡に付属している二次電子検出器を用いて、加速電圧200kV(高加速電圧)の電子線を試料表面に照射したときに放出される二次電子(SE)による像(相の違いによりコントラストが得られる)を撮影した。高加速電圧の電子線で得られたSE像の一例を図3に示す。10000倍程度の倍率で厚い二粒子粒界が明瞭に確認できる。得られた像から二粒子粒界の厚さを測定した結果、10nm以上の粒界相が支配的であった。
【0092】
一方、実験例7のサンプルにおいて二粒子粒界に存在する磁化の値を測定するため、スピン偏極走査電子顕微鏡(spinSEM)による評価を行った。具体的には、1mm(配向方向)×1mm×10mm程度に機械加工した焼結磁石をspinSEM装置に導入し、文献1(”The magnetism at the grain boundaries of NdFeB sintered magnet studied by spin-polarized scanning electron microscopy (spin SEM)”,T. Kohashi, K. Motai, T. Nishiuchi and S. Hirosawa, Applied Physics Letters 104 (2014) 232408.)で報告されている手法を用いて、二粒子粒界相の磁化の大きさを測定した。具体的には、超高真空中で焼結磁石試料を破断して、表面に露出した二粒子粒界相の3d電子(主にFeに由来)起因のスピン偏極(磁化)を評価し、その後、スパッタリングで二粒子粒界相を除去して主相について同様の評価を行った。
【0093】
上記文献1で示されている一般的なNd−Fe−B系焼結磁石(HcJ=934kA/m)における二粒子粒界相の3d電子起因の磁化の値は、主相の約30%以上である。これに対し、実験例7で得られた焼結磁石サンプル(No.6−1)について、19カ所を測定した結果、すべての測定点で3d電子起因の磁化の値が主相の25%以下となり、それらの平均値は11.3%とかなり低い値になっていることがわかった。
【0094】
これらの結果から、実験例7の焼結磁石(No.6−1)は、一般的なNd−Fe−B系焼結磁石よりも低磁化でかつ、厚い二粒子粒界相が形成されていることが確認され、主相間の磁気的な結合が大幅に弱められていることが高保磁力化につながったものと考えられる。
【0095】
本出願は、出願日が2013年8月12日である日本国特許出願、特願第2013−167332号を基礎出願とする優先権主張と伴う。特願第2013−167332号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【符号の説明】
【0096】
20:第一の粒界
22:厚みが大きい領域
24:厚みが小さい領域
30:第二の粒界
35A、35B:境目
40:主相
図1
図2
図3