(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る振動センサは、電波を用いたドップラーセンサである。すなわち、対象物に電波を照射し、反射した電波の周波数の変化を検出する。
しかし、対象物がアンテナに近い場合、対象物の位置や動きで、アンテナの共振周波数は容易に変動する。
本発明の実施形態に係る振動センサは、この変動する共振周波数の変動範囲を包含するバンドパスフィルタを用いて、複数の周波数の電波を抽出して、低周波振動の検出に利用する。
【0011】
[第一の実施形態:振動センサ101の全体構成]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る、振動センサ101のブロック図である。
振動センサ101は、以下に記す二つの要素に分けられる。
第一の要素は、対象物に進行波である電波を送信し、対象物から反射される反射波を受信して抽出する要素である。この第一の要素には、パルス波生成部102、バンドパスフィルタ(以下「BPF」と略)103、第一RF増幅器104、方向性結合器105及びヘリカルアンテナ106が含まれる。
第二の要素は、進行波と反射波から周波数差信号を生成し、更に振動信号を抽出する要素である。この第二の要素としては、第二RF増幅器108、第三RF増幅器109、第一ミキサ110、第二ミキサ112、第一ローパスフィルタ(以下「LPF」と略)114、第二LPF115、差動増幅器116及び第三LPF117が含まれる。
【0012】
信号生成部ともいえるパルス波生成部102は、比較的低い周波数のパルス信号を生成する。このパルス生成器102で生成されるパルス信号の周波数は、例えば1MHzである。
BPF103は、パルス波生成部102が生成したパルス信号から高調波成分を取り出す。BPF103の中心周波数と帯域幅は、例えば60MHz±3MHzである。BPF103は例えばLC共振回路を多段接続した回路構成が利用可能である。
第一RF増幅器104は、BPF103を通過したパルス信号の高調波成分の信号を増幅する。
【0013】
第一RF増幅器104によって増幅されたパルス信号の高調波成分の信号は、方向性結合器105の入力端子(
図1中「IN」)に入力される。そして、このパルス信号の高調波成分の信号は方向性結合器105の出力端子(
図1中「OUT」)に接続されたヘリカルアンテナ106に供給される。
方向性結合器105は、コイル、コンデンサ及び抵抗で形成され、VSWR計(電圧定在波比:Voltage Standing Wave Ratio)等に用いられる、周知の回路素子である。方向性結合器105は、第一の伝送路に含まれる進行波と反射波に基づいて、進行波に比例した出力信号と、反射波に比例した出力信号とをそれぞれ出力することができる。
【0014】
ヘリカルアンテナ106は、パルス信号の高調波成分の信号に基づく、複数の周波数の電波を発する。そして、対象物によって反射された電波は、ヘリカルアンテナ106によって受信され、方向性結合器105の内部で定在波を生じる。
方向性結合器105の分離端子(
図1中「Isolated」)には、ヘリカルアンテナ106を通じて出力端子から入力される電波の信号(反射波)に比例した信号が出力される。
方向性結合器105の結合端子(
図1中「Coupled」)には、入力端子に入力されるパルス信号の高調波成分の信号(進行波)に比例した信号が出力される。
結合端子は、抵抗R107を介して接地ノードに接続されている。抵抗R107の抵抗値は、方向性結合器105及びヘリカルアンテナ106のインピーダンスに等しい抵抗値が設定される。多くの場合、方向性結合器105及びヘリカルアンテナ106のインピーダンスは50Ωか75Ωである。
【0015】
第二RF増幅器108は、BPF103を通過した高調波成分の信号(進行波)を増幅する。
第三RF増幅器109は、方向性結合器105の分離端子から出力される、ヘリカルアンテナ106を通じて出力端子から入力される電波の信号(反射波)を増幅する。
第二RF増幅器108の出力信号は、第一ミキサ110に供給されると共に、反転増幅器111を介して第二ミキサ112に供給される。
第三RF増幅器109の出力信号は、第二ミキサ112に供給されると共に、バッファ113を介して第一ミキサ110に供給される。なお、第二RF増幅器108の出力信号と第三RF増幅器109の出力信号とは、位相が異なっていても所望の信号を第一ミキサ110及び第二ミキサ112から得られる。したがって、反転増幅器111の代わりにバッファ(非反転増幅器)を用いてもよい。
こうして、第一ミキサ110と第二ミキサ112は、それぞれ進行波と反射波の乗算信号を出力する。ここで、
第一ミキサ110と
第二ミキサ112としては、例えばデュアルゲートFET等が利用可能である。
【0016】
第一ミキサ110の出力信号は、第一LPF114に供給される。第一LPF114は、第一ミキサ110から出力される進行波と反射波の乗算信号のうち、進行波と反射波の、それぞれの周波数の差の信号を出力する。
同様に、第二ミキサ112の出力信号は、第二LPF115に供給される。第二LPF115は、第二ミキサ112から出力される進行波と反射波の乗算信号のうち、進行波と反射波の周波数の差の信号を出力する。
第一LPF114の出力信号と、第二LPF115の出力信号は、それぞれ差動増幅器116に入力される。オペアンプよりなる差動増幅器116は、第一LPF114の出力信号と、第二LPF115の出力信号からノイズ成分を除去した信号を出力する。
差動増幅器116の出力信号は、第三LPF117に供給される。第三LPF117は、差動増幅器116の出力信号から比較的高い周波数の交流成分を除去して、人体の脈拍を示す低周波信号を通過させる。
【0017】
[第二の実施形態:振動センサ201の全体構成]
図2は、本発明の第二の実施形態に係る、振動センサ201のブロック図である。
図2に示す振動センサ201の、
図1に示す振動センサ101との相違点は、第二RF増幅器108の入力端子が方向性結合器105の分離端子に、第三RF増幅器109の入力端子が方向性結合器105の結合端子に、それぞれ接続されている点と、第二RF増幅器108と第二ミキサ112との間に、反転増幅器111の代わりにバッファ202が接続されている点である。なお、第二RF増幅器108の出力信号と第三RF増幅器109の出力信号とは、位相が異なっていても所望の信号を第一ミキサ110及び第二ミキサ112から得られる。したがって、バッファ202の代わりに反転増幅器を用いてもよい。
すなわち、本発明の第二の実施形態に係る振動センサ201において、第二RF増幅器108は反射波を増幅し、第三RF増幅器109は進行波を増幅する。
【0018】
[パルス波生成部102の具体例]
第一の実施形態及び第二の実施形態に共通するパルス波生成部102は、後述する
図4Aに示すようなパルス信号を発生する。このようなパルス信号を発生する方法としては様々な回路や装置が数多く考えられるが、
図3にその一例を示す。
図3A及び
図3Bは、それぞれパルス波生成部102の回路例である。
図3Aは、マイコン301のブロック図である。CPU302とROM303とRAM304とシリアルインターフェース305がバス306に接続されている。今日、安価で使い勝手の良いワンチップマイコンが容易に入手可能である。このようなワンチップマイコンは内蔵するフラッシュメモリであるROM303にプログラムを書き込むことで、容易に
図4Aに示すようなパルス信号を生成できる。
図3Bは、水晶発振器を用いた発振回路とモノマルチを用いた波形整形回路の回路図である。
NOTゲート311の入力端子には、水晶発振器312の一端と抵抗R313の一端とコンデンサC314の一端が接続されている。
抵抗R313の他端はNOTゲート311の出力端子に接続されている。
NOTゲート311の出力端子には、抵抗R315の一端とモノマルチ316の入力端子が接続されている。
抵抗R315の他端には、水晶発振器312の他端とコンデンサC317の一端が接続されている。
コンデンサC314の他端とコンデンサC317の他端はそれぞれ接地ノードに接続されている。
すなわち、NOTゲート311と水晶発振器312によって構成される発振回路が生成した信号は、水晶発振器312によって周波数が制御され、モノマルチ316でデューティ比を調整したパルス信号に波形整形される。
【0019】
[振動センサ101の動作]
これより、
図4A、
図4B、
図4C、
図4D、
図5A及び
図5Bを参照して、振動センサ101の動作を説明する。
図4Aは、パルス波生成部102が出力するパルス信号の波形図である。波形図の横軸は時間であり、縦軸は電圧である。
図4Aに示すように、デューティ比が小さくインパルスに近い波形は高調波を多く含むので、本実施形態の振動センサ101にはこのような波形が望ましい。
図4Bは、パルス波生成部102が出力する、
図4Aに示すパルス信号をフーリエ変換した、周波数領域におけるスペクトル図である。スペクトル図の横軸は周波数であり、縦軸は電圧である。
図4Bに示すように、パルス信号には、基本波に対し、整数倍の周波数の高調波が複数含まれる。
【0020】
図4Cは、BPF103の周波数特性図である。
図4Cのスケールは
図4Bに合わせてあるので、周波数特性図の横軸は周波数であり、縦軸は電圧である。
図4Dは、BPF103を通過した信号の周波数分布図である。
図4Dのスケールも
図4Cに合わせてあるので、周波数特性図の横軸は周波数であり、縦軸は電圧である。
図4Cに示すように、BPF103は、パルス信号に含まれる高調波成分のうち、特定の周波数の成分を通過させる。すると、
図4Dの周波数分布図に示すように、BPF103を通過したパルス信号の高調波成分は、パルス信号から基本波を含むカットオフ周波数以下の周波数成分等が除去される。
【0021】
図5Aは、
図4Dの周波数分布図の周波数軸(横軸)を拡大して示したものであり、BPF103を通過したパルス信号の高調波成分を示すスペクトル図である。
図5Bは、方向性結合器105から出力される反射波を示すスペクトル図である。
今、
図5Aに示すように、BPF103を通過したパルス信号の高調波成分が、60MHzを中心とした五つの信号であるものとする。五つの信号は周波数が低い順から、f1=58MHz、f2=59MHz、f3=60MHz、f4=61MHz、f5=62MHzである。これら五つの信号は、第一RF増幅器104によって増幅され、方向性結合器105を介してヘリカルアンテナ106から電波として発される。
但し、ヘリカルアンテナ106の周波数特性(帯域幅)は狭いので、f1〜f5の信号のうち、どれか一つあるいは二つ程度がヘリカルアンテナ106から電波として発射される。
【0022】
そして、ヘリカルアンテナ106から発された電波は、対象物に反射して、ヘリカルアンテナ106を通じて方向性結合器105に入力される。これら反射波の信号が、例えば
図5Bに示すように、周波数が低い順から、f1’=58.1MHz、f2’=59.1MHz、f3’=60.1MHz、f4’=61.1MHz、f5’=62.1MHzの何れかである。この例では、ドップラー効果によって反射波の周波数が進行波から100kHzシフトしたものとする。
【0023】
第一ミキサ110及び第二ミキサ112には、f1〜f5と、f1’〜f5’の何れかが入力され、乗算される。すると、第一ミキサ110及び第二ミキサ112は、各々の周波数を加算した信号と、各々の周波数を減算した信号が出力される。
周波数を加算した信号は、例えば反射波がf1’であった場合、f1+f1’,f2+f1’…f5+f1’となる。
反射波がf2’であった場合、f1+f2’,f2+f2’…f5+f2’となる。
以下同様に、反射波がf3’であった場合、…反射波がf4’であった場合、…と続き、反射波がf5’であった場合、f1+f5’,f2+f5’…f5+f5’となる。
【0024】
周波数を減算した信号は、例えば反射波がf1’であった場合、|f1−f1’|,|f2−f1’|…|f5−f1’|となる。
反射波がf2’であった場合、|f1−f2’|,|f2−f2’|…|f5−f2’|となる。
以下同様に、反射波がf3’であった場合、…反射波がf4’であった場合、…と続き、反射波がf5’であった場合、|f1−f5’|,|f2−f5’|…|f5−f5’|となる。
【0025】
第一ミキサ110及び第二ミキサ112から出力されるこれら信号のうち、最も低い周波数は、|f1−f1’|,|f2−f2’|,|f3−f3’|,|f4−f4’|及び|f5−f5’|である。
図5A及び
図5Bの場合、これら信号の周波数は全て100kHzである。これらの信号はドップラー効果によって周波数がシフトした成分のみであり、全て等しい周波数になる。
【0026】
アンテナに対象物が近い場合、対象物の位置や動作で、アンテナの共振周波数は容易に変動する。すると、単一の周波数の信号でアンテナから電波を発しても、その信号がアンテナの共振周波数とミスマッチを生じてしまい、正しく反射波を受信できない。
そこで、本発明の実施形態に係る振動センサは、この共振周波数の変動を包含するバンドパスフィルタを用いて、複数の周波数の電波を利用する。こうすることで、アンテナの共振周波数が変動しても、複数の周波数の信号のうちどれか一つあるいは二つ程度はアンテナの帯域幅に合致し、反射波を受信できる。
反射波を受信できれば、ドップラー効果によって生じた、反射波と進行波の周波数差を、ミキサを用いて取り出すことで、対象物の存在及び/又は変動状態を検出できる。
なお、60MHzは人体の血流に最もマッチングし易いと言われている周波数である。
【0027】
本発明の第一の実施形態に係る振動センサ101、及び第二の実施形態に係る振動センサ201は、共に差動増幅器116を用いて、信号に含まれる同相成分のノイズを除去している。更に第三LPF117を通すことで、高周波成分のノイズも除去している。これらノイズ除去を経て、本実施形態の振動センサ101及び振動センサ201は、対象物の振動によって電波に乗じている微弱な変動から、高速フーリエ変換等の高価な装置を用いることなく、振動を検出できる。
【0028】
以上説明した実施形態には、以下に記す応用例が可能である。
(1)上述の実施形態では、ヘリカルアンテナ106を使用したが、アンテナの種類はこれに限られない。ダイポールアンテナ、グランドプレーンアンテナ、メアンダラインアンテナ等、開放端を有するアンテナであれば何でも良い。また、開放端を有さないループアンテナでも、ゲインは下がるが利用可能である。
(2)パルス波生成部102の代わりに、ホワイトノイズを生成する回路を用いてもよい。
(3)本実施形態の振動センサ101及び201は、非接触にて物体の低周波振動を検出する。検出対象は、アンテナに近接することによってアンテナの分布定数に変化を及ぼすことが可能な物体であれば、特定の対象物に限られない。従って、脈拍センサとしても利用可能である。
【0029】
(4)本実施形態に係る振動センサ101及び201は、様々なアプリケーションに適用が可能である。例えば、脈拍センサを乗用車の運転席に設置して、運転手の居眠りを検出する居眠り防止装置としての応用が期待できる。また、脈拍センサをゲーム機に設置して、遊技者の脈拍を検出し、興奮の度合いを類推することで、ゲーム展開に変化を持たせることも可能である。更に、人感センサと併用して、部屋の一角に机と椅子を設け、椅子に人が座ったことを検出したら直ちに脈拍を検出する、脈拍検出装置を実現することも可能である。この脈拍検出装置は、従来の血圧計よりも簡易に且つ短時間で脈拍を検出可能である。
【0030】
上述の実施形態では、複数の周波数の信号を用いてアンテナから電波(進行波)を発し、対象物である人体から反射された電波(反射波)を方向性結合器105で取り出し、ミキサで進行波と反射波との周波数差信号を取り出す、振動センサ101について説明した。
パルス波生成部102に接続されているBPF103は、ヘリカルアンテナ106の共振周波数の変動幅を包含する帯域幅を有している。このため、ヘリカルアンテナ106に対象物が近接することによって、ヘリカルアンテナ106の共振周波数が変動しても、BPF103を通過した複数の周波数の信号のうち、どれか一つあるいは幾つかはヘリカルアンテナ106の帯域幅を通過できる。このようにして、低い周波数の電波を用いたドップラーセンサである振動センサを実現できる。
【0031】
本実施形態の振動センサ101及び201は、従来のドップラーセンサに比べて、扱う信号の周波数が凡そ数十〜数百MHz程度と低い。このため、回路素子の価格が安価である。また、周波数が低いので、BPF103や方向性結合器105を含めて回路の実装が容易である。加えて、扱う信号の周波数が低いので、電力消費が少なく済む。
更に、本実施形態の振動センサ101は、従来のドップラーセンサに比べて、回路規模が極めて小さい。
第一RF増幅器104、第二RF増幅器108及び第三RF増幅器109、バッファ113、反転増幅器111はそれぞれトランジスタ一個で済む。
第一ミキサ110及び第二ミキサ112もそれぞれデュアルゲートFET一個で済む。
パルス波生成部102は安価なワンチップマイコン一個で済む。
特許文献1に開示される技術とは異なり、本実施形態の振動センサ101及び201はフーリエ変換や複雑なデータ処理も不要である。
このように本実施形態の振動センサ101及び201は、能動素子である半導体素子が合計十個に満たない数で、実装できる。したがって、安価に製造できると共に、量産も容易である。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細且つ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることは可能であり、更にはある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行するためのソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の揮発性あるいは不揮発性のストレージ、または、ICカード、光ディスク等の記録媒体に保持することができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。