(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0034】
図1及び
図2は、一実施形態に係るプラズマ処理装置を概略的に示す図であり、鉛直方向に延びる軸線PXを含む一平面において処理容器を破断して、当該プラズマ処理装置を示している。なお、
図1においては、後述する支持構造体が傾斜していない状態のプラズマ処理装置が示されており、
図2においては、支持構造体が傾斜している状態のプラズマ処理装置が示されている。
【0035】
図1及び
図2に示すプラズマ処理装置10は、処理容器12、ガス供給系14、プラズマ源16、支持構造体18、排気系20、バイアス電力供給部22、及び制御部Cntを備えている。処理容器12は、略円筒形状を有している。一実施形態では、処理容器12の中心軸線は、軸線PXと一致している。この処理容器12は、被処理体(以下、「ウエハW」ということがある)に対してプラズマ処理を行うための空間Sを提供している。
【0036】
一実施形態では、処理容器12は、その高さ方向の中間部分12a、即ち支持構造体18を収容する部分において略一定の幅を有している。また、処理容器12は、当該中間部分の下端から底部に向かうにつれて徐々に幅が狭くなるテーパー状をなしている。また、処理容器12の底部は、排気口12eを提供しており、当該排気口12eは軸線PXに対して軸対称に形成されている。
【0037】
ガス供給系14は、処理容器12内にガスを供給するよう構成されている。ガス供給系14は、第1のガス供給部14a、及び第2のガス供給部14bを有している。第1のガス供給部14aは、第1の処理ガスを処理容器12内に供給するよう構成されている。第2のガス供給部14bは、第2の処理ガスを処理容器12内に供給するよう構成されている。なお、ガス供給系14の詳細については、後述する。
【0038】
プラズマ源16は、処理容器12内に供給されたガスを励起させるよう構成されている。一実施形態では、プラズマ源16は、処理容器12の天部に設けられている。また、一実施形態では、プラズマ源16の中心軸線は、軸線PXと一致している。なお、プラズマ源16の一例に関する詳細については後述する。
【0039】
支持構造体18は、処理容器12内においてウエハWを保持するように構成されている。この支持構造体18は、軸線PXに直交する第1軸線AX1中心に回転可能であるよう構成されている。支持構造体18は、第1軸線AX1中心の回転により、軸線PXに対して傾斜することが可能である。支持構造体18を傾斜させるために、プラズマ処理装置10は、駆動装置24を有している。駆動装置24は、処理容器12の外部に設けられており、第1軸線AX1中心の支持構造体18の回転のための駆動力を発生する。また、支持構造体18は、第1軸線AX1に直交する第2軸線AX2中心にウエハWを回転させるよう構成されている。なお、支持構造体18が傾斜していない状態では、
図1に示すように、第2軸線AX2は軸線PXに一致する。一方、支持構造体18が傾斜している状態では、第2軸線AX2は軸線PXに対して傾斜する。この支持構造体18の詳細については後述する。
【0040】
排気系20は、処理容器12内の空間を減圧するよう構成されている。一実施形態では、排気系20は、自動圧力制御器20a、ターボ分子ポンプ20b、及び、ドライポンプ20cを有している。ターボ分子ポンプ20bは、自動圧力制御器20aの下流に設けられている。ドライポンプ20cは、バルブ20dを介して処理容器12内の空間に直結されている。また、ドライポンプ20cは、バルブ20eを介してターボ分子ポンプ20bの下流に設けられている。
【0041】
自動圧力制御器20a及びターボ分子ポンプ20bを含む排気系は、処理容器12の底部に取り付けられている。また、自動圧力制御器20a及びターボ分子ポンプ20bを含む排気系は、支持構造体18の直下に設けられている。したがって、このプラズマ処理装置10では、支持構造体18の周囲から排気系20までの均一な排気の流れを形成することができる。これにより、効率の良い排気が達成され得る。また、処理容器12内で生成されるプラズマを均一に拡散させることが可能である。
【0042】
一実施形態において、処理容器12内には、整流部材26が設けられていてもよい。整流部材26は、下端において閉じられた略筒形状を有している。この整流部材26は、支持構造体18を側方及び下方から囲むように、処理容器12の内壁面に沿って延在している。一例において、整流部材26は、上部26a及び下部26bを有している。上部26aは、一定の幅
の円筒形状を有しており、処理容器12の中間部分12aの内壁面に沿って延在している。また、下部26bは、上部26aの下方において当該上部26aに連続している。下部26bは、処理容器12の内壁面に沿って徐々に幅が狭くなるテーパー形状を有しており、その下端において平板状をなしている。この下部26bには、多数の開口(貫通孔)が形成されている。この整流部材26によれば、当該整流部材26の内側、即ちウエハWが収容される空間と、当該整流部材26の外側、即ち排気側の空間との間に圧力差を形成することができ、ウエハWが収容される空間におけるガスの滞留時間を調整することが可能となる。また、均等な排気が実現され得る。
【0043】
バイアス電力供給部22は、ウエハWにイオンを引き込むためのバイアス電圧及び高周波バイアス電力を選択的に支持構造体18に印加するよう構成されている。一実施形態では、バイアス電力供給部22は、第1電源22a及び第2電源22bを有している。第1電源22aは、支持構造体18に印加するバイアス電圧として、パルス変調された直流電圧(以下、「変調直流電圧」という)を発生する。
図3は、パルス変調された直流電圧を示す図である。
図3に示すように、変調直流電圧は、電圧値が高レベルをとる期間T
Hと低レベルをとる期間T
Lが交互に繰り返す電圧である。変調直流電圧は、例えば、0V〜1200Vの範囲内の電圧値に設定され得る。変調直流電圧の高レベルの電圧値は、当該電圧値の範囲内において設定される電圧値であり、変調直流電圧の
低レベルの電圧値は、当該高レベルの電圧値よりも低い電圧値である。
図3に示すように、期間T
Hと当該期間T
Hに連続する期間T
Lとの合計が1周期T
Cを構成する。また、変調直流電圧のパルス変調の周波数は、1/T
Cである。パルス変調の周波数は、任意に設定され得るが、イオンの加速を可能とするシースを形成することが可能な周波数であり、例えば、400kHzである。また、オン・デューティ比、即ち、1周期T
Cにおいて期間T
Hが占める比率は、10%〜90%の範囲内の比率である。
【0044】
第2電源22bは、ウエハWにイオンを引き込むための高周波バイアス電力を支持構造体18に供給するよう構成されている。この高周波バイアス電力の周波数は、イオンをウエハWに引き込むのに適した任意の周波数であり、例えば、400kHzである。プラズマ処理装置10では、第1電源22aからの変調直流電圧と第2電源22bからの高周波バイアス電力を選択的に支持構造体18に供給することができる。変調直流電圧と高周波バイアス電力の選択的な供給は、制御部Cntによって制御され得る。
【0045】
制御部Cntは、例えば、プロセッサ、記憶部、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータである。制御部Cntは、入力されたレシピに基づくプログラムに従って動作し、制御信号を送出する。プラズマ処理装置10の各部は、制御部Cntからの制御信号により制御される。
【0046】
以下、ガス供給系14、プラズマ源16、支持構造体18のそれぞれについて詳細に説明する。
【0048】
ガス供給系14は、上述したように第1のガス供給部14a、及び第2のガス供給部14bを有している。第1のガス供給部14aは、一以上のガス吐出孔14eを介して処理容器12内
に第1の処理ガスを供給する。また、第2のガス供給部14bは、一以上のガス吐出孔14fを介して処理容器12内
に第2の処理ガスを供給する。ガス吐出孔14eは、ガス吐出孔14fよりも、プラズマ源16に近い位置に設けられている。したがって、第1の処理ガスは第2の処理ガスよりもプラズマ源16に近い位置に供給される。なお、
図1及び
図2においては、ガス吐出孔14e及びガス吐出孔14fそれぞれの個数は、「1」であるが、複数のガス吐出孔14e、及び複数のガス吐出孔14fが設けられていてもよい。複数のガス吐出孔14eは、軸線PXに対して周方向に均等に配列されていてもよい。また、複数のガス吐出孔14fも、軸線PXに対して周方向に均等に配列されていてもよい。
【0049】
一実施形態では、ガス吐出孔14eによってガスが吐出される領域とガス吐出孔14fによってガスが吐出される領域との間に、仕切板、所謂イオントラップが設けられていてもよい。これにより、第1の処理ガスのプラズマからウエハWに向かうイオンの量を調整することが可能となる。
【0050】
第1のガス供給部14aは、一以上のガスソース、一以上の流量制御器、一以上のバルブを有し得る。したがって、第1のガス供給部14aの一以上のガスソースからの第1の処理ガスの流量は調整可能となっている。また、第2のガス供給部14bは、一以上のガスソース、一以上の流量制御器、一以上のバルブを有し得る。したがって、第2のガス供給部14bの一以上のガスソースからの第2の処理ガスの流量は調整可能となっている。第1のガス供給部14aからの第1の処理ガスの流量及び当該第1の処理ガスの供給のタイミング、並びに、第2のガス供給部14bからの第2の処理ガスの流量及び当該第2の処理ガスの供給のタイミングは、制御部Cntによって個別に調整される。
【0051】
以下、第1の処理ガス及び第2の処理ガスについて、三つの例を説明する。これら三つの例に係る第1の処理ガス及び第2の処理ガスの利用態様を説明するために、まず、被処理体の例について、
図4を参照しつつ説明する。
図4は、被処理体の一例を示す断面図である。
図4に示すウエハWは、当該ウエハWからMTJ構造を有するMRAM素子を作成することができる被処理体であり、MRAM素子を構成する多層膜を含んでいる。具体的に、ウエハWは、下地層L1、下部磁性層L2、絶縁層L3、上部磁性層L4、及びマスクMSKを有している。
【0052】
下地層L1は、下部電極層L11、反強磁性層L12、強磁性層L13、及び、非磁性層L14を含んでいる。下部電極層L11は、例えば、Taから構成され得る。反強磁性層L12は、下部電極層L11上に設けられており、例えば、PtMnから構成され得る。即ち、下地層L1は、PtMn層を含み得る。強磁性層L13は、反強磁性層L12上に設けられており、例えば、CoFeから構成され得る。また、非磁性層L14は、強磁性層L13上に設けられており、例えば、Ruから構成され得る。
【0053】
下部磁性層L2、絶縁層L3、及び上部磁性層L4は、MTJ構造を形成する多層膜である。下部磁性層L2は、非磁性層L14上に設けられており、例えば、CoFeBから構成され得る。なお、強磁性層L13、非磁性層L14、及び下部磁性層L2は、磁化固定層を構成する。絶縁層L3は、下部磁性層L2と上部磁性層L4との間に設けられており、例えば、酸化マグネシウム(MgO)から構成され得る。また、上部磁性層L4は、絶縁層L3上に設けられており、例えば、CoFeBから構成され得る。
【0054】
マスクMSKは、上部磁性層L4上に設けられている。マスクMSKは、第1層L21及び第2層L22を含み得る。第1層L21は、上部磁性層L4上に設けられており、例えば、Taから構成され得る。第2層L22は、第1層L21上に設けられており、例えば、TiNから構成され得る。このウエハWは、マスクMSKに覆われていない領域において上部磁性層L4から反強磁性層L12までの多層膜がエッチングされる。以下、かかるウエハWを例にとって、第1の処理ガス及び第2の処理ガスの
二つの例について説明する。
【0055】
第1例において、第1の処理ガスは、希ガスであり得る。希ガスは、Heガス、Neガス、Arガス、Krガス、又はXeガスである。また、第1の処理ガスは、Heガス、Neガス、Arガス、Krガス、及びXeガスのうちから選択されるガスであり得る。例えば、プラズマ処理装置10を用いて
図4に示したウエハWの多層膜をエッチングする際には、各層のエッチングに適した希ガスが選択される。
【0056】
また、第1例において、第2の処理ガスは、水素含有ガスであり得る。水素含有ガスとしては、CH
4ガス、又はNH
3ガスが例示される。このような第2の処理ガスに由来する水素の活性種は、多層膜中に含まれる物質、即ち金属を還元作用によってエッチングし易い状態に改質する。また、CH
4ガスに含まれる炭素、又はNH
3ガスに含まれる窒素は、マスクMSKを構成する材料と結合して金属化合物を形成する。これにより、マスクMSKが強固になって、多層膜のエッチングレートに対して当該マスクMSKのエッチングレートが小さくなる。その結果、ウエハWにおけるマスクMSK以外の多層膜を構成する層のエッチングの選択性を向上させることが可能となる。
【0057】
かかる第1例においては、第1の処理ガス及び第2の処理ガスは、プラズマ源16によって励起され得る。この第1例では、制御部Cntによる制御により、プラズマ生成時の第1の処理ガス及び第2の処理ガスの供給量が個別に制御される。
【0058】
第2例では、第1の処理ガスは、プラズマ源16によって発生させたプラズマによって解離しラジカルを生成する分解性のガスであり得る。第1の処理ガスに由来するラジカルは、還元反応、酸化反応、塩化反応又はフッ化反応を起こすラジカルであってもよい。第1の処理ガスは、水素元素、酸素元素、塩素元素又はフッ素元素を含有するガスであってもよい。具体的には、第1の処理ガスは、Ar、N
2、O
2、H
2、He、BCl
3、Cl
2、CF
4、NF
3、CH
4、又はSF
6等であってもよい。還元反応のラジカルを生成する第1の処理ガスとしては、H
2等が例示される。酸化反応のラジカルを生成する第1の処理ガスとしては、O
2等が例示される。塩化反応のラジカルを生成する第1の処理ガスとしては、BCl
3、Cl
2等が例示される。フッ化反応のラジカルを生成する第1の処理ガスとしては、CF
4、NF
3、SF
6等が例示される。
【0059】
また、第2例では、第2の処理ガスは、プラズマに晒すことなくエッチング対象の物質と反応するガスであり得る。この第2処理ガスとしては、例えば、エッチング対象の物質との反応が支持構造体18の温度に依存するガスを含んでもよい。具体的に、このような第2の処理ガスには、HF、Cl
2、HCl、H
2O、PF
3、F
2、ClF
3、COF
2、シクロペンタジエン又はAmidinato等が用いられる。また、第2処理ガスは、電子供与性ガスを含み得る。電子供与性ガスとは、一般的には、電気陰性度又はイオン化ポテンシャルが大きく異なる原子で構成されるガス、或いは、孤立電子対を持つ原子を含むガスをいう。電子供与性ガスは、他の化合物に電子を与えやすい性質を有する。例えば、電子供与性ガスは、金属化合物等と配位子として結合し蒸発する性質を有する。電子供与性ガスとしては、SF
6、PH
3、PF
3、PCl
3、PBr
3、PI
3、CF
4、AsH
3、SbH
3、SO
3、SO
2、H
2S、SeH
2、TeH
2、Cl
3F、H
2O、H
2O
2等、又は、カルボニル基を含有するガスが例示される。
【0060】
この第2例の第1の処理ガス及び第2の処理ガスは、
図4に示したウエハWの多層膜のエッチングによって発生する堆積物の除去に利用することができる。具体的には、当該堆積物を第1の処理ガスに由来するラジカルによって改質し、次いで、改質された堆積物と第2の処理ガスとの反応を生じさせる。これにより、堆積物を容易に排気することが可能となる。かかる第2例では、第1の処理ガス及び第2の処理ガスは、交互に供給され得る。第1の処理ガスの供給時にはプラズマ源16によってプラズマが生成され、第2の
処理ガスの供給時にはプラズマ源16によるプラズマの生成が停止される。このような第1の処理ガス及び第2の処理ガスの供給は制御部Cntによって制御される。即ち、第2例においては、プラズマ生成時及びプラズマ消滅時のプラズマ状態に応じた第1の処理ガスの供給量及び第2の処理ガスの供給量は、制御部Cntによる第1のガス供給部14a及び第2のガス供給部14bの制御によって実現され得る。
【0062】
図5は、一実施形態のプラズマ源を示す図であり、
図1のY方向から視たプラズマ源を示す図である。また、
図6は、一実施形態のプラズマ源を示す図であり、鉛直方向から視たプラズマ源を示している。
図1及び
図5に示すように、処理容器12の天部には開口が設けられており、当該開口は、誘電体板194によって閉じられている。誘電体板194は、板状体であり、石英ガラス、又はセラミックから構成されている。プラズマ源16は、この誘電体板194上に設けられている。
【0063】
より具体的には、
図5及び
図6に示すように、プラズマ源16は、高周波アンテナ140、及びシールド部材160を有している。高周波アンテナ140は、シールド部材160によって覆われている。一実施形態では、高周波アンテナ140は、内側アンテナ素子142A、及び外側アンテナ素子142Bを含んでいる。内側アンテナ素子142Aは、外側アンテナ素子142Bよりも軸線PXの近くに設けられている。換言すると、外側アンテナ素子142Bは、内側アンテナ素子142Aを囲むように、当該内側アンテナ素子142Aの外側に設けられている。内側アンテナ素子142A及び外側アンテナ素子142Bの各々は、例えば銅、アルミニウム、ステンレス等の導体から構成されており、軸線PXを中心に螺旋状に延在している。
【0064】
内側アンテナ素子142A及び外側アンテナ素子142Bは共に、複数の挟持体144に挟持されて一体となっている。複数の挟持体144は、例えば、棒状の部材であり、軸線PXに対して放射状に配置されている。
【0065】
シールド部材160は、内側シールド壁162A及び外側シールド壁162Bを有している。内側シールド壁162Aは、鉛直方向に延在する筒形状を有しており、内側アンテナ素子142Aと外側アンテナ素子142Bの間に設けられている。この内側シールド壁162Aは、内側アンテナ素子142Aを囲んでいる。また、外側シールド壁162Bは、鉛直方向に延在する筒形状を有しており、外側アンテナ素子142Bを囲むように設けられている。
【0066】
内側アンテナ素子142A上には、内側シールド板164Aが設けられている。内側シールド板164Aは、円盤形状を有しており、内側シールド壁162Aの開口を塞ぐように設けられている。また、外側アンテナ素子142B上には、外側シールド板164Bが設けられている。外側シールド板164Bは、環状板であり、内側シールド壁162Aと外側シールド壁162Bとの間の開口を塞ぐように設けられている。
【0067】
内側アンテナ素子142A、外側アンテナ素子142Bにはそれぞれ、高周波電源150A、高周波電源150Bが接続されている。高周波電源150A及び高周波電源150Bは、プラズマ生成用の高周波電源である。高周波電源150A及び高周波電源150Bは、内側アンテナ素子142A及び外側アンテナ素子142Bのそれぞれに、同じ周波数又は異なる周波数の高周波電力を供給する。例えば、内側アンテナ素子142Aに高周波電源150Aから所定の周波数(例えば40MHz)の高周波電力を所定のパワーで供給すると、処理容器12内に形成された誘導磁界によって、処理容器12内に導入された処理ガスが励起され、ウエハW上の中央部にドーナツ型のプラズマが生成される。また、外側アンテナ素子142Bに高周波電源150Bから所定の周波数(例えば60MHz)の高周波を所定のパワーで供給すると、処理容器12内に形成された誘導磁界によって、処理容器12内に導入された処理ガスが励起され、ウエハW上の周縁部に別のドーナツ型のプラズマが生成される。これらのプラズマによって、処理ガスからラジカルが生成される。
【0068】
なお、高周波電源150A及び高周波電源150Bから出力される高周波電力の周波数は、上述した周波数に限られるものではない。例えば、高周波電源150A及び高周波電源150Bから出力される高周波電力の周波数は、13.56MHz、27MHz、40MHz、60MHzといった様々な周波数であってもよい。但し、高周波電源150A及び高周波電源150Bから出力される高周波に応じて内側アンテナ素子142A及び外側アンテナ素子142Bの電気的長さを調整する必要がある。
【0069】
このプラズマ源16は、1mTorr(0.1333Pa)の圧力の環境下においても処理ガスのプラズマを着火することが可能である。低圧環境下では、プラズマ中のイオンの平均自由行程が大きくなる。したがって、希ガス原子のイオンのスパッタリングによるエッチングが可能となる。また、低圧環境下では、エッチングされた物質がウエハWに再付着することを抑制しつつ、当該物質を排気することが可能である。
【0071】
図7及び
図8は、一実施形態に係る支持構造体を示す断面図である。
図7には、Y方向(
図1参照)から視た支持構造体の断面図が示されており、
図8には、X方向(
図1参照)から視た支持構造体の断面図が示されている。
図7及び
図8に示すように、支持構造体18は、保持部30、容器部40、及び傾斜軸部50を有している。
【0072】
保持部30は、ウエハWを保持し、第2軸線AX2中心に回転することによって、ウエハWを回転させる機構である。なお、上述したように、第2軸線AX2は、支持構造体18が傾斜していない状態では、軸線PXと一致する。この保持部30は、静電チャック32、下部電極34、回転軸部36、及び絶縁部材35を有している。
【0073】
静電チャック32は、その上面においてウエハWを保持するように構成されている。静電チャック32は、第2軸線AX2をその中心軸線とする略円盤形状を有しており、絶縁膜の内層として設けられた電極膜を有している。静電チャック32は、電極膜に電圧が印加されることにより、静電力を発生する。この静電力により、静電チャック32は、その上面に載置されたウエハWを吸着する。この静電チャック32とウエハWとの間には、Heガスといった伝熱ガスが供給されるようになっている。また、静電チャック32内には、ウエハWを加熱するためのヒータが内蔵されていてもよい。かかる静電チャック32は、下部電極34上に設けられている。
【0074】
下部電極34は、第2軸線AX2をその中心軸線とする略円盤形状を有している。一実施形態では、下部電極34は、第1部分34a及び第2部分34bを有している。第1部分34aは、第2軸線AX2に沿って延在する下部電極34の中央側の部分であり、第2部分34bは、第1部分34aよりも第2軸線AX2から離れて、即ち、第1部分34aよりも外側で延在する部分である。第1部分34aの上面及び第2部分34bの上面は連続しており、第1部分34aの上面及び第2部分34bの上面によって下部電極34の略平坦な上面が構成されている。この下部電極34の上面には、静電チャック32が接している。また、第1部分34aは、第2部分34bよりも下方に突出して、円柱状をなしている。即ち、第1部分34aの下面は、第2部分34bの下面よりも下方において延在している。この下部電極34は、アルミニウムといった導体から構成されている。下部電極34は、上述したバイアス電力供給部22と電気的に接続される。即ち、下部電極34には、第1電源22aからの変調直流電圧、及び第2電源22bからの高周波バイアス電力が選択的に供給可能となっている。また、下部電極34には、冷媒流路34fが設けられている。この冷媒流路34fに冷媒が供給されることにより、ウエハWの温度が制御されるようになっている。この下部電極34は、絶縁部材35上に設けられている。
【0075】
絶縁部材35は、石英、アルミナといった絶縁体から構成されており、中央において開口した略円盤形状を有している。一実施形態では、絶縁部材35は、第1部分35a及び第2部分35bを有している。第1部分35aは、絶縁部材35の中央側の部分であり、第2部分35bは、第1部分35aよりも第2軸線AX2から離れて、即ち、第1部分35aよりも外側で延在する部分である。第1部分35aの上面は、第2部分35bの上面よりも下方で延在しており、また、第1部分35aの下面も第2部分35bの下面よりも下方で延在している。絶縁部材35の第2部分35bの上面は、下部電極34の第2部分34bの下面に接している。一方、絶縁部材35の第1部分35aの上面は、下部電極34の下面から離間している。
【0076】
回転軸部36は、略円柱形状を有しており、下部電極34の下面に結合されている。具体的には、下部電極34の第1部分34aの下面に結合されている。回転軸部36の中心軸線は、第2軸線AX2と一致している。この回転軸部36に対して回転力が与えられることにより、保持部30が回転するようになっている。
【0077】
このような種々の要素によって構成される保持部30は、容器部40と共に支持構造体18の内部空間として中空の空間を形成している。容器部40は、上側容器部42、及び外側容器部44を含んでいる。上側容器部42は、略円盤形状を有している。上側容器部42の中央には、回転軸部36が通る貫通孔が形成されている。この上側容器部42は、絶縁部材35の第2部分35bの下方において、当該第2部分35bに対して僅かな間隙を提供するように設けられている。また、上側容器部42の下面周縁には、外側容器部44の上端が結合している。外側容器部44は、下端において閉塞された略円筒形状を有している。
【0078】
容器部40と回転軸部36との間には、磁性流体シール部52が設けられている。磁性流体シール部52は、内輪部52a及び外輪部52bを有している。内輪部52aは、回転軸部36と同軸に延在する略円筒形状を有しており、回転軸部36に対して固定されている。また、内輪部52aの上端部は、絶縁部材35の第1部分35aの下面に結合している。この内輪部52aは、回転軸部36と共に第2軸線AX2中心に回転するようになっている。外輪部52bは、略円筒形状を有しており、内輪部52aの外側において当該内輪部52aと同軸に設けられている。外輪部52bの上端部は、上側容器部42の中央側部分の下面に結合している。これら内輪部52aと外輪部52bとの間には、磁性流体52cが介在している。また、磁性流体52cの下方において、内輪部52aと外輪部52bとの間には、軸受53が設けられている。この磁性流体シール部52は、支持構造体18の内部空間を気密に封止する封止構造を提供している。この磁性流体シール部52により、支持構造体18の内部空間は、プラズマ処理装置10の空間Sから分離される。なお、プラズマ処理装置10では、支持構造体18の内部空間は大気圧に維持される。
【0079】
一実施形態では、磁性流体シール部52と回転軸部36との間に、第1部材37及び第2部材38が設けられている。第1部材37は、回転軸部36の外周面の一部分、即ち、後述する第3筒状部36dの上側部分の外周面及び下部電極34の第1部分34aの外周面に沿って延在する略円筒形状を有している。また、第1部材37の上端は、下部電極34の第2部分34bの下面に沿って延在する環状板形状を有している。この第1部材37は、第3筒状部36dの上側部分の外周面、並びに、下部電極34の第1部分34aの外周面及び第2部分34bの下面に接している。
【0080】
第2部材38は、回転軸部36の外周面、即ち、第3筒状部36dの外周面、及び第1部材37の外周面に沿って延在する略円筒形状を有している。第2部材38の上端は、絶縁部材35の第1部分35aの上面に沿って延在する環状板形状を有している。第2部材38は、第3筒状部36dの外周面、第1部材37の外周面、絶縁部材35の第1部分35aの上面、及び、磁性流体シール部52の内輪部52aの内周面に接している。この第2部材38と絶縁部材35の第1部分35aの上面との間には、Oリングといった封止部材39aが介在している。また、第2部材38と磁性流体シール部52の内輪部52aの内周面との間には、Oリングといった封止部材39b及び39cが介在している。かかる構造により、回転軸部36と磁性流体シール部52の内輪部52aとの間が封止される。これにより、回転軸部36と磁性流体シール部52との間に間隙が存在していても、支持構造体18の内部空間が、プラズマ処理装置10の空間Sから分離される。
【0081】
外側容器部44には、第1軸線AX1に沿って開口が形成されている。外側容器部44に形成された開口には、傾斜軸部50の内側端部が嵌め込まれている。この傾斜軸部50は、略円筒形状を有しており、その中心軸線は第1軸線AX1と一致している。傾斜軸部50は、
図1に示すように、処理容器12の外側まで延在している。傾斜軸部50の一方の外側端部には、上述した駆動装置24が結合されている。この駆動装置24は、傾斜軸部50の一方の外側端部を軸支している。この駆動装置24によって傾斜軸部50が回転されることにより、支持構造体18が第1軸線AX1中心に回転し、その結果、支持構造体18が軸線PXに対して傾斜するようになっている。例えば、支持構造体18は、軸線PXに対して第2軸線AX2が0度〜60度以内の範囲の角度をなすように傾斜され得る。
【0082】
一実施形態では、第1軸線AX1は、第2軸線AX2方向における支持構造体18の中心位置を含んでいる。この実施形態では、傾斜軸部50は、支持構造体18の当該中心を通る第1軸線AX1上で延在している。この実施形態では、支持構造体18が傾斜している時に、当該支持構造体18の上縁と処理容器12(又は整流部材26)との間の最短距離WU(
図2参照)と、支持構造体18の下縁と処理容器12(又は整流部材26)との間の最短距離WL(
図2参照)のうち最小距離を大きくすることが可能である。即ち、支持構造体18の外郭と処理容器12(又は整流部材26)との間の最小距離を最大化することができる。したがって、処理容器12の水平方向の幅を小さくすることが可能となる。
【0083】
別の実施形態では、第1軸線AX1は、第2軸線AX2方向における支持構造体18の中心と保持部30の上面との間の位置を含んでいる。即ち、この実施形態では、傾斜軸部50は、支持構造体18の中心よりも保持部30側に偏った位置で延在している。この実施形態によれば、支持構造体18の傾斜時に、プラズマ源16からウエハWの各位置までの距離差を低減することができる。したがって、エッチングの面内均一性が更に向上される。なお、支持構造体18は60度以内の角度で傾斜可能であってもよい。
【0084】
更に別の実施形態では、第1軸線AX1は、支持構造体18の重心を含んでいる。この実施形態では、傾斜軸部50は、当該重心を含む第1軸線AX1上で延在している。この実施形態によれば、駆動装置24に要求されるトルクが小さくなり、当該駆動装置24の制御が容易となる。
【0085】
図7及び
図8に戻り、傾斜軸部50の内孔には、種々の電気系統用の配線、伝熱ガス用の配管、及び、冷媒用の配管が通されている。これらの配線及び配管は、回転軸部36に連結されている。
【0086】
回転軸部36は、柱状部36a、第1筒状部36b、第2筒状部36c、及び第3筒状部36dを有している。柱状部36aは、略円柱形状を有しており、第2軸線AX2上で延在している。柱状部36aは、静電チャック32の電極膜に電圧を印加するための配線である。柱状部36aは、スリップリングといったロータリーコネクタ54を介して配線60に接続されている。配線60は、支持構造体18の内部空間から傾斜軸部50の内孔を通って、処理容器12の外部まで延びている。この配線60は、処理容器12の外部においてスイッチを介して電源62(
図1参照)に接続されている。
【0087】
第1筒状部36bは、柱状部36aの外側において当該柱状部36aと同軸に設けられている。第1筒状部36bは、下部電極34に変調直流電圧及び高周波バイアス電力を供給するための配線である。第1筒状部36bは、ロータリーコネクタ54を介して配線64に接続されている。配線64は、支持構造体18の内部空間から傾斜軸部50の内孔を通って、処理容器12の外部まで延びている。この配線64は、処理容器12の外部においてバイアス電力供給部22の第1電源22a及び第2電源22bに接続されている。なお、第2電源22bと配線64との間には、インピーダンスマッチング用の整合器が設けられ得る。
【0088】
第2筒状部36cは、第1筒状部36bの外側において当該第1筒状部36bと同軸に設けられている。一実施形態では、上述のロータリーコネクタ54内には軸受55が設けられており。当該軸受55は第2筒状部36cの外周面に沿って延在している。この軸受55は、第2筒状部36cを介して回転軸部36を支持している。上述した軸受53は回転軸部36の上側部分を支持しているのに対して、軸受55は回転軸部36の下側部分を支持している。このように二つの軸受53及び軸受55によって、回転軸部36がその上側部分及び下側部分の双方において支持されるので、回転軸部36を第2軸線AX2中心に安定して回転させることが可能である。
【0089】
第2筒状部36cには、伝熱ガス供給用のガスラインが形成されている。このガスラインは、スイベルジョイントといった回転継手を介して配管66に接続されている。配管66は、支持構造体18の内部空間から傾斜軸部50の内孔を通って、処理容器12の外部まで延びている。この配管66は、処理容器12の外部において伝熱ガスのソース68(
図1参照)に接続されている。
【0090】
第3筒状部36dは、第2筒状部36cの外側において当該第2筒状部36cと同軸に設けられている。この第3筒状部36dには、冷媒流路34fに冷媒を供給する得ための冷媒供給ライン、及び冷媒流路34fに供給された冷媒を回収する冷媒回収ラインが形成されている。冷媒供給ラインは、スイベルジョイントといった回転継手70を介して配管72に接続されている。また、冷媒回収ラインは回転継手70を介して配管74に接続されている。配管72及び配管74は、支持構造体18の内部空間から傾斜軸部50の内孔を通って、処理容器12の外部まで延びている。そして、配管72及び配管74は、処理容器12の外部においてチラーユニット76(
図1参照)に接続されている。
【0091】
また、
図8に示すように、支持構造体18の内部空間には、回転モータ78が設けられている。回転モータ78は、回転軸部36を回転させるための駆動力を発生する。一実施形態では、回転モータ78は、回転軸部36の側方に設けられている。この回転モータ78は、回転軸部36に取り付けられたプーリ80に伝導ベルト82を介して連結されている。これにより、回転モータ78の回転駆動力が回転軸部36に伝達され、保持部30が第2軸線AX2中心に回転する。保持部30の回転数は、例えば、48rpm以下の範囲内にある。例えば、保持部30は、プロセス中に20
rpmの回転数で回転される。なお、回転モータ78に電力を供給するための配線は、傾斜軸部50の内孔を通って処理容器12の外部まで引き出され、処理容器12の外部に設けられたモータ用電源に接続される。
【0092】
このように、支持構造体18は、大気圧に維持可能な内部空間に多様な機構を設けることが可能である。また、支持構造体18は、その内部空間に収めた機構と処理容器12の外部に設けた電源、ガスソース、チラーユニット等の装置とを接続するための配線又は配管を処理容器12の外部まで引き出すことが可能であるように構成されている。なお、上述した配線及び配管に加えて、処理容器12の外部に設けられたヒータ電源と静電チャック32に設けられたヒータとを接続する配線が、支持構造体18の内部空間から処理容器12の外部まで傾斜軸部50の内孔を介して引き出されていてもよい。
【0093】
ここで、プラズマ処理装置10におけるイオンエネルギーの実測結果について説明する。
図9は、
図1に示したプラズマ処理装置におけるイオンエネルギーを、イオンエネルギーアナライザを用いて実測した結果を示すグラフである。
図9に示すイオンエネルギーは、以下に示す条件でプラズマを生成し、イオンエネルギーアナライザを用いて実測したものである。
<条件>
処理ガス:Krガス、50sccm
処理容器12内の圧力:5mTorr(0.1333Pa)
高周波電源150A及び高周波電源150Bの電力:50W
変調直流電圧の電圧値:200V
変調直流電圧の変調周波数:400kHz
変調直流電圧のオン・デューティ比:50%
【0094】
図9において、横軸はイオンエネルギーを示しており、左側の縦軸はイオン電流を示しており、右側の縦軸はIEDF(Ion Energy Distribution Function)、即ち、イオンのカウント数を示している。
図9に示すように、上記の条件の下でイオンエネルギーを実測したところ、約153.4eVを中心とする狭いエネルギー帯域のイオンが生成されていた。したがって、プラズマ処理装置10において希ガスのプラズマを発生させ、イオン引き込みのために変調直流電圧を用いることにより、狭いエネルギー帯域を有し、且つ、比較的低いエネルギーをもったイオンをウエハWに入射させることが可能であることが確認される。
【0095】
一方、変調直流電圧ではなく、第2電源22bの高周波バイアス電力を支持構造体18に供給する場合には、高周波バイアス電力の大きさを調整しても、イオンエネルギーは600eVより大きくなる。
【0096】
次に、プラズマ処理装置10におけるイオンエネルギーの制御性について、実測結果と共に説明する。
図10は、
図1に示したプラズマ処理装置におけるイオンエネルギーとパルス変調された直流電圧の電圧値との関係を示すグラフである。
図11は、
図1に示したプラズマ処理装置におけるイオンエネルギーとパルス変調された直流電圧の変調周波数との関係を示すグラフである。
図12は、
図1に示したプラズマ処理装置におけるイオンエネルギーとパルス変調された直流電圧のオン・デューティ比との関係を示すグラフである。
図10、
図11、
図12に示すイオンエネルギーは、下記の条件の下でプラズマを生成し、イオンエネルギーアナライザを用いて実測したものである。なお、
図10に示すイオンエネルギーは、変調直流電圧の電圧値(横軸)を種々の異なる電圧値に設定して取得したものである。また、
図11に示すイオンエネルギーは、変調直流電圧の変調周波数(横軸)を種々の異なる
周波数に設定して取得したものである。また、
図12に示すイオンエネルギーの取得においては、変調直流電圧のオン・デューティ比(横軸)を種々の異なる
比に設定して取得したものである。また、
図10〜
図12に示すイオンエネルギー(縦軸)は、IEDFがピークであるイオンエネルギーを示している。
【0097】
図10に示すように、支持構造体18(即ち、下部電極34)に印加する変調直流電圧の電圧値を変化させると、イオンエネルギーを大きく且つ線形的に変化させることが可能であることが確認される。また、
図11及び
図12に示すように、支持構造体18(即ち、下部電極34)に印加する(即ち、下部電極34)の変調周波数又はオンデューティ比を変化させると、小さい変動ではあるものの、イオンエネルギーを線形的に変化させることが可能である。このことから、プラズマ処理装置10によれば、イオンエネルギーの制御性に優れることが確認される。
【0098】
ここで、
図4に示した多層膜の各層を構成する物質には、当該物質を選択的にエッチングするのに適したイオンエネルギーが存在する。したがって、プラズマ処理装置10によれば、(即ち、下部電極34)を用いることにより、その電圧値、変調周波数、及び、オン・デューティ比のうち一以上を多層膜中の各層に応じて調整することで、マスクMSK及び下地に対してエッチング対象の層を選択的にエッチングすることが可能となる。
【0099】
また、
図4に示した多層膜の各層のエッチング中には、エッチングによって削られた物質(即ち、金属)が排気されずに、エッチングによって形成された形状の表面、特に側面に付着する。プラズマ処理装置10によれば、このように側面に形成された堆積物を除去する際に、支持構造体18を傾斜させ、且つ、ウエハWを保持した保持部30を第2軸線AX2中心に回転させることができる。これにより、エッチングによって形成された形状の側面の全領域に向けてイオンを入射させることができ、ウエハWに対するイオンの入射の面内均一性を向上させることが可能である。その結果、エッチングによって形成された形状の側面の全領域において、当該側面に付着した堆積物を除去することが可能となり、当該形状の垂直性を高めることが可能である。また、堆積物の除去をウエハWの面内で均一に行うことが可能であり、エッチングによって形成される形状の面内均一性が向上される。
【0100】
以下、
図4に示したウエハWの多層膜をエッチングする方法の一実施形態について説明する。
図13は、一実施形態に係る多層膜をエッチングする方法を示す流れ図である。
図13に示す方法MTは、
図1等に示したプラズマ処理装置10を用いて実施することが可能である。この方法は、
図4に示した多層膜中の各層を、そのエッチングに適したエネルギーをもつイオンを利用してエッチングするものである。ここでは、方法MTの説明に先立ち、希ガスの種類及びイオンエネルギーと、種々の金属又は金属化合物のスパッタイールドSYとの関係を説明する。
【0101】
図14は、1000eVのイオンエネルギーをもつ希ガス原子のイオンによる各種金属又は金属化合物のスパッタイールドSYを示す図である。
図15は、300eVのイオンエネルギーをもつ希ガス原子のイオンによる各種金属又は金属化合物のスパッタイールドSYを示す図である。
図14及び
図15において、横軸は、金属又は金属化合物の種別を示しており、縦軸は、スパッタイールドSYを示してる。なお、スパッタイールドSYは、一つのイオンがエッチング対象の層に入射したときに、当該層から放出される構成原子の個数である。なお、1000eVといった比較的高いイオンエネルギーは、高周波バイアス電力又は比較的高い電圧値の変調直流電圧を用いることにより得られる。一方、300eVといった比較的低いイオンエネルギーは、比較的低い電圧値の変調直流電圧を用いることにより得られる。
【0102】
図14に示すように、1000eVのKrイオンは、Co及びFeに対して約2のスパッタイールドSYを有し、Ta、Ti、及びMgOに対して1に近いスパッタイールドSYを有する。したがって、1000eVのKrイオンをウエハWに照射する条件では、上部磁性層L4をエッチングし、且つ、上部磁性層L4のエッチングによって発生する堆積物の除去を行うことはできる。しかしながら、上部磁性層L4及び当該上部磁性層L4から発生した堆積物の除去よりはレートが低いものの、マスクMSK及び下地の絶縁層L3もがエッチングされる。
【0103】
一方、
図15に示すように、300eVのKrイオンは、Co及びFeに対して1に近いスパッタイールドSYを有し、Ta、Ti、及びMgOに対して約0.4以下のスパッタイールドSYを有する。したがって、300eVのKrイオンをウエハWに照射する条件では、上部磁性層L4をエッチングし、且つ、上部磁性層L4のエッチングによって発生する堆積物の除去を行うことができ、しかも、マスクMSK及び下地の絶縁層L3を略エッチングしないことが可能となる。即ち、比較的低いイオンエネルギーを有するイオン照射することが可能な変調直流電圧を用いることにより、上部磁性層L4及び当該上部磁性層L4から発生した堆積物の除去を、マスクMSK及び下地の絶縁層L3に対して選択的に行うことが可能である。
【0104】
また、
図15に示すように300eVのKrイオンはMgOに対して約0.4のスパッタイールドSYを有しており、一方、
図14に示すように、1000eVのKrイオンは、MgOに対して1に近いスパッタイールドを有している。したがって、比較的高いイオンエネルギーを有するイオンを照射することが可能な変調直流電圧又は高周波バイアス電力を用いることにより、絶縁層L3をエッチングすることが可能である。
【0105】
また、希ガスだけを用いた場合の絶縁層L3のスパッタイールドは比較的低いが、希ガスに加えて、還元作用を発揮する水素含有ガスを用いることにより、絶縁層L3のMgOを、高いスパッタイールドSYが得られるMgに改質することができる(
図14参照のMgのスパッタイールドSYを参照)。これにより、絶縁層L3を高いエッチングレートでエッチングすることが可能である。
【0106】
同様に、絶縁層L3よりも下層の下部磁性層L2及び下地層L1も、絶縁層L3のエッチングと同様の条件を用いてエッチングすることができる。但し、
図14に関連して上述したように、1000eVのKrイオンは、マスクMSKをもエッチングし得る。このため、特に下地層L1のエッチングにおいては、KrガスとNeガスとを交互に用いてもよい。1000eVのKrイオンは、下地層L1を構成するCo、Fe、Ru、Pt、Mn等に対して高いスパッタイールドSYを有している。即ち、Krガスといった第1の希ガスを含む処理ガスのプラズマを生成し、比較的高いエネルギーを有するKrイオンを照射することが可能な変調直流電圧又は高周波バイアス電力を用いることにより、垂直性の高い形状を形成することが可能となり、堆積物を多く除去することが可能となる。
【0107】
一方、1000eVのNeイオンは、下地層L1を構成するCo、Fe、Ru、Pt、Mn等に対して低いものの1に近いスパッタイールドSYを有している。また、1000eVのNeイオンは、マスクMSKを構成し得るTi又はTaに対して、1よりも小さなスパッタイールドSYを有している。即ち、Neガスといった第2の希ガスを含む処理ガスのプラズマを生成し、比較的高いエネルギーを有するNeイオンを照射することが可能な変調直流電圧又は高周波バイアス電力を用いることにより、マスクMSKを実質的にエッチングしないように、下地層L1をエッチングすることが可能となる。したがって、比較的高いイオンエネルギーのイオンがウエハWに照射される条件であっても、第1の希ガス及び第2の希ガスを交互に用いることで、下地層L1を選択的にエッチングすることが可能となる、また、下地層L1に形成される形状の垂直性を高めることが可能となり、エッチングによって発生する堆積物を除去することも可能となる。
【0108】
再び
図13を参照する。
図13に示す方法MTは、
図14及び
図15を参照して説明した上記の特性を少なくとも部分的に利用する。以下、
図13と共に、
図16〜
図20を参照しつつ、方法MTについて詳細に説明する。
図16〜
図20は、方法MTの各工程中又は各工程後の被処理体の状態を示す断面図である。なお、以下の説明においては、プラズマ処理装置10が方法MTの実施に用いられるものとする。しかしながら、支持構造体を傾斜させ且つウエハWを保持する保持部を回転させることができ、バイアス電力供給部から変調直流電圧を支持構造体に印加させることができるプラズマ処理装置であれば、任意のプラズマ処理装置を方法MTの実施に用いることが可能である。
【0109】
方法MTでは、まず、工程ST1において、
図4に示したウエハWが準備され、プラズマ処理装置10の処理容器12内に収容される。そして、保持部30の静電チャック32によってウエハWが保持される。
【0110】
続く工程ST2では、上部磁性層L4がエッチングされる。工程ST2では、処理容器12内に、希ガス及び水素含有ガスが供給される。一実施形態において、希ガスは、アルゴンの原子番号よりも大きい原子番号を有する希ガスであり、例えば、Krガスである。また、水素含有ガスは、例えば、CH
4ガス又はNH
3ガスである。
【0111】
また、工程ST2では、排気系20により、処理容器12内の空間Sの圧力が所定の圧力に減圧される。例えば、処理容器12内の空間Sの圧力は、0.4mTorr(0.5Pa)〜20mTorr(2.666Pa)の範囲内の圧力に設定される。また、工程ST2では、プラズマ源16によって希ガス及び水素含有ガスが励起される。このため、プラズマ源16の高周波電源150A及び高周波電源150Bは内側アンテナ素子142A及び外側アンテナ素子142Bに、例えば、27.12MHz又は40.68MHzの周波数、且つ、10W〜3000Wの範囲内の電力値の高周波電力を供給する。また、工程ST2では、変調直流電圧が支持構造体18(下部電極34)に印加される。この直流電圧の電圧値は、マスクMSK及び絶縁層L3のエッチングを抑制するために、比較的低い電圧値に設定される。例えば、この直流電圧の電圧値は、300V以下の電圧値、例えば200Vに設定される。また、この直流電圧の変調周波数は、例えば、400kHzに設定される。さらに、この直流電圧のパルス変調のオン・デューティ比は、10%〜90%の範囲の比に設定される。
【0112】
さらに、工程ST2では、支持構造体18は非傾斜状態に設定され得る。即ち、工程ST2では、支持構造体18は、軸線PXに第2軸線AX2が一致するように配置される。なお、工程ST2の全期間中、又は、一部期間中に、支持構造体18が傾斜状態に設定されてもよい。即ち、工程ST2の全期間中、又は一部期間中に、軸線PXに対して第2軸線AX2が傾斜するように支持構造体18が配置されてもよい。例えば、支持構造体18は、工程ST2の期間中に、交互に非傾斜状態と傾斜
状態に設定されてもよい。
【0113】
工程ST2では、上述した条件で生成されたイオンが、変調直流電圧によって発生するシースにより加速されて上部磁性層L4に入射する。このイオンのエネルギーは、Co及びFeから構成される上部磁性層L4をエッチングするものの、Ta及びTiNから構成されるマスクMSK、並びに、MgOから構成される絶縁層L3を実質的にはエッチングしない。したがって、工程ST2では、上部磁性層L4を、マスクMSK及び絶縁層L3に対して選択的にエッチングすることができる。また、工程ST2では、水素含有ガスに由来する水素の活性種が上部磁性層L4の表面を改質する。これにより、上部磁性層L4のエッチングが促進される。さらに、工程ST2では、水素含有ガス中の窒素又は炭素とマスクMSKとの反応により金属化合物が形成される。これにより、マスクMSKが強固となり、マスクMSKのエッチングが抑制される。
【0114】
このような工程ST2の実行により、
図16の(a)に示すように上部磁性層L4はエッチングされるが、上部磁性層L4の構成物質、例えば、Co及びFeが排気されずにウエハWの表面に付着し得る。当該構成物質は、例えば、マスクMSKの側面、上部磁性層L4の側面、及び、絶縁層L3の上面に付着する。その結果、
図16の(a)に示すように堆積物DP1が形成される。
【0115】
続く工程ST3では、堆積物DP1が除去される。工程ST3では、マスクMSKの側面及び上部磁性層L4の側面に付着した堆積物DP1を除去するために、支持構造体18が傾斜状態に設定される。即ち、第2軸線AX2が軸線PXに対して傾斜するように支持構造体18の傾斜が設定される。この傾斜の角度、即ち第2軸線AX2が軸線PXに対してなす角度は、任意に設定され得るが、例えば、0度より大きく60度以下の角度である。また、工程ST3では、保持部30が第2軸線AX2中心に回転される。この回転の回転数は、任意に設定され得るが、例えば、20rpmである。その他の工程ST3における条件は、工程ST2の条件と同様であってもよい。即ち、工程ST3では、処理容器12内にアルゴンの原子番号よりも大きい原子番号を有する希ガス、例えばKrガスと、水素含有ガスが供給される。また、プラズマ源16によって希ガス及び水素
含有ガスが励起される。また、工程ST3では、支持構造体18(下部電極34)に変調直流電圧が印加される。
【0116】
この工程ST3では、
図16の(b)に示すように、イオン(図中、円形で示す)の引き込み方向(図中、下向きの矢印で示す)に交差するように、堆積物DP1が配置される。即ち、イオンが上部磁性層L4の側面及びマスクMSKの側面に向けて入射するよう、ウエハWが配置される。また、工程ST3では、保持部30が回転されるので、イオンが上部磁性層L4の側面の全領域及びマスクMSKの側面の全領域に向けて入射する。また、イオンは、ウエハWの面内において略均一に入射することになる。したがって、
図16の(c)に示すように、上部磁性層L4の側面の全領域及びマスクMSKの側面の全領域において、堆積物DP1を除去することが可能となり、上部磁性層L4に形成される形状の垂直性を高めることが可能となる。また、上部磁性層L4に形成される形状の面内均一性を向上させることが可能となる。また、工程ST3では、水素含有ガスに由来する水素の活性種が堆積物DP1を改質する。これにより、堆積物DP1の除去が促進される。
【0117】
なお、工程ST2及び工程ST3は、交互に複数回実行されてもよい。これにより、堆積物DP1が多量に形成される前に、当該堆積物DP1を除去しつつ上部磁性層L4をエッチングすることが可能となる。
【0118】
続く工程ST4では、絶縁膜ILが形成される。この絶縁膜ILは、下部磁性層L2と上部磁性層L4との導通を防止するために形成される。具体的に、工程ST4では、成膜装置にウエハWが搬送され、当該成膜装置内において
図17の(a)に示すようにウエハWの表面上に絶縁膜ILが形成される。この絶縁膜ILは、例えば、窒化シリコン又は酸化シリコンから構成され得る。次いで、マスクMSKの上面に沿った領域、及び、絶縁層L3の上面に沿った領域において絶縁膜ILがエッチングされる。このエッチングには任意のプラズマ処理装置を利用することができる。例えば、当該エッチングには、プラズマ処理装置10を用いることができる。また、このエッチングには、ハイドロフルオロカーボンガス又はフルオロカーボンガスを含む処理ガスを用いることができる。このエッチングの結果、
図17の(b)に示すように、マスクMSKの側面及び上部磁性層L4の側面に沿って絶縁膜ILが残される。
【0119】
続く工程ST5では、絶縁層L3がエッチングされる。工程ST5では、処理容器12内に、希ガス及び水素含有ガスが供給される。希ガスは、アルゴンの原子番号よりも大きい原子番号を有する希ガスであり、例えば、Krガスである。また、水素含有ガスは、例えば、CH
4ガス又はNH
3ガスである。また、工程ST5では、排気系20により、処理容器12内の空間Sの圧力が所定の圧力に減圧される。例えば、処理容器12内の空間Sの圧力は、0.4mTorr(0.5Pa)〜20mTorr(2.666Pa)の範囲内の圧力に設定される。また、工程ST5では、プラズマ源16によって希ガス及び水素含有ガスが励起される。このため、プラズマ源16の高周波電源150A及び高周波電源150Bは内側アンテナ素子142A及び外側アンテナ素子142Bに、例えば、27.12MHz又は40.68MHzの周波数、且つ、10W〜3000Wの範囲内の電力値の高周波電力を供給する。
【0120】
上述したように、絶縁層L3のエッチングでは、比較的高いイオンエネルギーのイオンをウエハWに入射させる必要がある。このため、工程ST5では、工程ST2において支持構造体18(下部電極34)に印加される変調直流電圧よりも高い電圧値の変調直流電圧、又は、高周波バイアス電力が、支持構造体(下部電極34)に供給される。変調直流電圧が用いられる場合には、当該変調直流電圧のパルス変調のオン・デューティ比及び変調周波数は工程ST2における直流電圧のパルス変調のオン・デューティ比及び変調周波数と同様であってもよいが、当該直流電圧の電圧値は300Vよりも大きい電圧値に設定される。一方、高周波バイアス電力が用いられる場合には、当該高周波バイアス電力は、100W〜1500Wに設定され、その周波数は400kHzに設定され得る。さらに、工程ST5では、支持構造体18は
非傾斜状態に設定され得る。即ち、工程ST5では、支持構造体18は、軸線PXに第2軸線AX2が一致するように配置される。なお、工程ST5の全期間中、又は、一部期間中に、支持構造体18が傾斜状態に設定されてもよい。即ち、工程ST5の全期間中、又は、一部期間中に、軸線PXに対して第2軸線AX2が傾斜するように支持構造体18が配置されてもよい。例えば、支持構造体18は、工程ST5の期間中に、交互に非傾斜状態と傾斜
状態に設定されてもよい。
【0121】
工程ST5では、上述した条件で生成されたイオンが絶縁層L3に入射する。このイオンは、絶縁層L3をエッチングし得るエネルギーを有し得る。また、工程ST5で用いられる水素含有ガスに由来する水素の活性種により絶縁層L3の構成物質が還元される。例えば、MgOが還元される。これにより、
図14を参照して説明したように、絶縁層L3は、高いスパッタイールドSYが得られるように改質される。その結果、絶縁層L3のエッチングレートが高められる。かかる工程ST5により、
図18の(a)に示すように、絶縁層L3がエッチングされる。この工程ST5では、絶縁層L3の構成物質が排気されずにウエハWの表面に付着し得る。例えば、当該構成物質は、マスクMSKの側面、上部磁性層L4の側面、絶縁層L3の側面、及び下部磁性層L2の表面に付着する。その結果、堆積物DP2が形成される。
【0122】
続く工程ST6では、堆積物DP2が除去される。工程ST6では、堆積物DP2を除去するために、支持構造体18が傾斜状態に設定される。即ち、第2軸線AX2が軸線PXに対して傾斜するように支持構造体18の傾斜が設定される。この傾斜の角度、即ち第2軸線AX2が軸線PXに対してなす角度は、任意に設定され得るが、例えば、0度より大きく60度以下の角度である。また、工程ST
6では、保持部30が第2軸線AX2中心に回転される。この回転の回転数は、任意に設定され得るが、例えば、20rpmである。その他の工程ST6における条件は、工程ST5の条件と同様である。かかる工程ST6によれば、イオンを効率良く堆積物DP2に入射させることができるので、
図18の(b)に示すように、堆積物DP2を除去することが可能となる。また、水素含有ガスを用いることにより、堆積物DP2を改質して、当該堆積物DP2の除去を促進することが可能となる。
【0123】
なお、工程ST5と工程ST6とは、交互に複数回数実行されてもよい。これにより、堆積物DP2が多量に形成される前に、当該堆積物DP2を除去しつつ絶縁層L3をエッチングすることが可能となる。
【0124】
続く工程ST7では、
図19の(a)に示すように、下部磁性層L2がエッチングされ、続く工程ST8では、工程ST
7のエッチングによって発生する堆積物DP3が、
図19の(b)に示すように、除去される。下部磁性層L2は上部磁性層L4と同様の物質から構成されているので、一実施形態では、工程ST7の条件は工程ST2と同様の条件であってもよい。また、工程ST8の条件は工程ST3と同様の条件であってもよい。また、工程ST7と工程ST8とは交互に複数回実行されてもよい。即ち、工程ST7及び工程ST8の双方において、希ガス(例えば、Krガス)及び水素含有ガスのプラズマが生成され、支持構造体18の下部電極34に変調直流電圧が印加される。変調直流電圧の電圧値は、300V以下、例えば、200Vである。また、工程ST8では、支持構造体18が傾斜状態に設定され、保持部30が回転される。なお、工程ST7の全期間中の一部において、支持構造体18が傾斜状態に設定され、保持部30が回転されてもよい。
【0125】
或いは、別の実施形態では、工程ST7の条件は工程ST5と同様であってもよく、工程ST8の条件は工程ST6と同様であってもよい。即ち、工程ST7及び工程ST8の双方において、希ガス(例えば、Krガス)及び水素含有ガスのプラズマが生成され、支持構造体18の下部電極34に比較的高い電圧値、例えば、300Vよりも大きい変調直流電圧、又は、高周波バイアス電力が供給される。また、工程ST8では、支持構造体18が傾斜状態に設定され、保持部30が回転される。なお、工程ST7の全期間中の一部において、支持構造体18が傾斜状態に設定され、保持部30が回転されてもよい。この実施形態では、絶縁層L3と下部磁性層L2とを同様の条件で一括してエッチングすることが可能となる。
【0126】
続く工程ST9では、下地層L1がエッチングされる。一実施形態では、下地層L1の非磁性層L14から反強磁性層L12が下部電極層L11の表面(上面)までエッチングされる。
【0127】
図21は、工程ST9の一実施形態を示す流れ図である。
図21に示すように、一実施形態の工程ST9では、まず、工程ST91において処理容器12内でプラズマが生成される。工程ST91においてプラズマを生成するための条件は、工程ST5の条件と同様である。即ち、この実施形態では、工程ST5の条件を用いて、絶縁層L3、下部磁性層L2、及び、非磁性層L14から反強磁性層L12
までの層を一括してエッチングし得る。また、工程ST9では、工程ST91において設定されたプラズマ生成の条件を維持しつつ、工程ST92及び工程ST93が実行される。工程ST92では、支持構造体18が第1状態、即ち非傾斜状態に設定される。続く工程ST93では、支持構造体18が第2状態、即ち傾斜
状態に維持され、保持部30が回転される。支持構造体18の傾斜角度は、例えば、0度より大きく60度以下の角度である。また、保持部30の回転数は、例えば、20rpmである。
【0128】
図21に示す実施形態によれば、工程ST92において、
図20の(a)に示すように、非磁性層L14から反強磁性層L12までの各層がエッチングされ、このエッチングによって発生した堆積物DP4が、工程ST93において除去される。これにより、ウエハWにエッチングによって形成される形状の側面に付着した堆積物が、当該形状の側面の全領域から除去され、且つ、ウエハWの面内においても均一に除去される。したがって、ウエハWにエッチングによって形成される形状の垂直性が高められる。
【0129】
図22は、工程ST9の別の実施形態を示す図である。
図22に示す工程ST9は、工程ST95及び工程ST96を含んでいる。工程ST95では、アルゴンの原子番号よりも大きい原子番号を有する第1の希ガスを含む処理ガスのプラズマが生成される。第1の希ガスは、例えば、Krガスである。工程ST96では、アルゴンの原子番号よりも小さい原子番号を有する第2の希ガスを含む処理ガスのプラズマが生成される。第2の希ガスは、例えば、Neガスである。また、この実施形態では、工程ST95及び工程ST96の双方において、高周波バイアス電力が支持構造体18(下部電極34)に供給され得る。また、工程ST95及び工程ST96の少なくとも一方の全期間又は一部期間において、支持構造体18が傾斜され、保持部30が回転される。
【0130】
上述したように、比較的高いエネルギーのKrイオンは、下地層L1を構成するCo、Fe、Ru、Pt、Mn等に対して高いスパッタイールドSYを有している。したがって、Krガスといった第1の希ガスを含む処理ガスは、下地層L1に垂直性の高い形状を形成することを可能とし、エッチングによって発生する堆積物を効率的に除去することが可能とする。一方、比較的高いエネルギーのNeイオンは、下地層L1を構成するCo、Fe、Ru、Pt、Mn等に対して低いものの1に近いスパッタイールドSYを有している。また、比較的高いエネルギーのNeイオンは、マスクMSKを構成し得るTi又はTaに対して、1よりも小さなスパッタイールドSYを有している。したがって、Neといった第2の希ガスを含む処理ガスは、マスクMSKを実質的にエッチングしないが、下地層L1をエッチングすることができる。このような第1の希ガス及び第2の希ガスを交互に用いることで、下地層L1をマスクMSKに対して選択的にエッチングすることが可能となり、下地層L1に形成される形状の垂直性を高めることが可能となり、また、エッチングによって発生する堆積物の除去も可能となる。
【0131】
以上、種々の実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、
図21に示した実施形態では、工程ST92において高周波バイアス電力が支持構造体18(即ち、下部電極34)に供給され、工程ST93では、変調直流電圧が支持構造体18(即ち、下部電極34)に印加されてもよい。即ち、工程ST92では非磁性層L14から反強磁性層L12までのメインエッチングに高周波バイアス電力を用い、当該メインエッチングで生じた堆積物の除去、即ち、オーバーエッチングにおいて変調直流電圧を用いてもよい。