(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インジウム及び銀を含有し、かつ、前記インジウム及び銀の合計質量に対する前記インジウムの含有率が0.01質量%〜0.1質量%である銀電極を備えることを特徴とする太陽電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に係る発明は、シリコン半導体層と銀電極との界面における接触抵抗の低減を目的として開発されたものではなく、銀電極が水分の存在下で太陽光を受けると徐々に崩壊していく問題、すなわち太陽光によって起電力が生じたカドミウム系半導体層に銀電極中の銀がイオン化して入り込んでいく問題を解決するために開発されたものである。そのため、特許文献1に係る発明では、導電性ペーストにおける銀粉とインジウム粉との混合割合が質量比で銀粉/インジウム粉=1〜4であり、インジウム粉の混合割合が極めて高い。銀の電気抵抗率は15.87nΩ・m(20℃)であり、インジウムの電気抵抗率は83.7nΩ・m(20℃)であるから、特許文献1に係る銀インジウム混合電極の内部抵抗値は、インジウムを含有しない銀電極の内部抵抗値と比較して単純計算で2倍以上の値になる。つまり、特許文献1に係る発明によれば、銀インジウム混合電極とカドミウム系半導体層との界面における接触抵抗の低減は期待できるものの、この電極のインジウム含有率が高いため、この電極の内部抵抗値はインジウムを含有しない銀電極と比較して著しく高くなるという問題が生じる。
【0007】
また、特許文献1に係る発明において、導電性ペーストを加熱する際の温度は、インジウムの溶融温度以上、かつ、銀の溶融温度未満である。導電性ペーストを加熱することによって導電性ペーストに含まれる銀粉同士は焼結するが、インジウム粉は溶融して銀粉同士の隙間から流出してしまう。そのため、焼結後の銀インジウム混合電極では、多くの内部空隙が形成されて、銀粉同士の接触面積が小さくなっている。したがって、特許文献1に係る発明では、インジウムの溶融温度の低さに起因して銀インジウム混合電極の内部空隙が増加することにより、その内部抵抗値が上昇する問題も生じる。
【0008】
本発明は、これらの課題に着目して完成されたものである。その目的とするところは、太陽電池の構成素子を互いに連結する銀電極の材料である導電性ペーストに含有されることにより、内部抵抗値を上昇させずに銀電極と半導体層との界面における接触抵抗を低減させ、太陽電池素子の効率を高くすることができるインジウム被覆銀粉を提供することにある。さらには、このインジウム被覆銀粉の製造方法、インジウム被覆銀粉を含有する導電性ペースト、及びこの導電性ペーストを焼成して形成した銀電極を備える太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明は、以下に示すインジウム被膜銀粉、インジウム被膜銀粉の製造方法、導電性ペースト、及び太陽電池である。すなわち、インジウムが銀粉に付着したインジウム被覆銀粉であって、前記インジウム被覆銀粉におけるインジウム含有率が0.01質量%〜10質量%であることを特徴とするインジウム被覆銀粉である。
【0010】
インジウムが銀粉に付着したインジウム被覆銀粉の製造方法であって、前記銀粉とインジウムイオンを含有する溶液を混合したスラリーに還元剤を投入して、インジウムを前記銀粉に、前記インジウム被覆銀粉の質量に対して0.01質量%〜10質量%付着させる還元処理工程と、前記インジウムが付着した銀粉を前記スラリーから分離する固液分離工程と、分離採集した固体を洗浄乾燥し解粒する乾燥解粒工程と、を有することを特徴とするインジウム被覆銀粉の製造方法である。
【0011】
前記インジウム被覆銀粉におけるインジウム含有率が0.01質量%〜0.1質量%であるインジウム被覆銀粉を含有した導電性ペーストである。さらに、前記インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉との混合粉を含有する導電性ペーストであって、前記混合粉におけるインジウムの含有率が0.01質量%〜0.1質量%であることを特徴とする導電性ペーストである。
【0012】
そして、上記の導電性ペーストを基板上で焼成した銀電極を有する太陽電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インジウムの含有率が0.1質量%〜10質量%であるインジウム被覆銀粉を含有する導電性ペーストを半導体層上で焼成することにより銀電極を形成することから、この焼成によって銀粒子同士が焼結する際に、銀粒子の表面に付着したインジウムが溶融して流出するが、溶融インジウムの流出後には芯材としての銀粒子が残存するため、焼結後の銀電極において内部空隙が増加することはない。インジウム粉を用いる場合に比べて、銀粒子の表面のインジウム流出により生じる隣接する銀粒子同士の間の空隙は、空隙を挟む銀粒子同士の焼結を促すほどに十分薄いためと考えることができる。また、本発明によれば、銀粉にインジウムが付着しているため、焼成後には銀粉と半導体層との接点にインジウムが介在することになるから、銀電極と半導体層との界面における接触抵抗を低減することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、導電性ペーストにおいて、インジウム及び銀粉の合計質量に対する前記インジウムの含有率は0.01質量%〜0.1質量%と極めて低いことから、インジウムの電気抵抗率は銀の電気抵抗率の5倍以上であるけれども、銀電極の内部抵抗値を低く抑えることができる。
【0015】
そして、これらの本発明の効果が奏されることにより、本発明に係る太陽電池は、その内部抵抗が低く抑えられるため、高い開放電圧及び高い光電変換効率を実現することができる。
【0016】
また、本発明に係るインジウム被覆銀粉の製造方法によれば、従来の技術では製造が困難であったインジウムで均一に被覆した銀粉を簡便な手段により容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、「銀粒子」とは、個々の銀粒子に着目した場合の表現であり、一方で「銀粉」とは、多数の銀粒子を集合体として扱う場合の表現である。
【0019】
(インジウム被覆銀粉)
本発明に係るインジウム被覆銀粉は、インジウムが銀粉に付着したものであって、インジウム含有率が0.1質量%〜10質量%のものである。インジウム含有率が0.01質量%未満の場合は、銀粒子の表面露出部分が多くなり、銀粉と半導体層との界面にインジウムが介在し難くなる。一方で、インジウム含有率が10質量%を超えた場合は、銀粒子の表面に形成されるインジウム被覆膜が厚くなりすぎる。インジウム被覆銀粉におけるインジウム含有率は、より好ましくは2〜10質量%であり、さらには3〜9質量%が最適である。
【0020】
インジウム被覆銀粉における個々の銀粒子の形状は、球形、楕円体形、フレーク状、又は不定形状でよい。インジウム被覆銀粉の平均粒径D50は、0.5μm以上50μm以下が好ましく、さらには20μm以下が好適である。なお,平均粒径D50(μm)とは,マイクロトラックによる粒度分布測定結果を、横軸に粒径D(μm)をとり、粒径Dμm以下の粒子が存在する容積%(Q%)を縦軸とした累積粒度曲線で表したときに、Q=50%に対応する粒径D(μm)の値を言う。なお、インジウム被覆膜は、銀粒子の表面を完全に覆うことが好ましいが、銀粒子の表面の一部が露出していてもよい。
【0021】
インジウム被覆銀粉に含まれるインジウムと銀以外の還元剤由来の金属元素の濃度は、インジウム含有率の1/10未満であることが好ましく、1/100未満であることがより好ましい。本発明に係るインジウム被覆銀粉の製造方法では、湿式法により銀粉にインジウム被覆膜を形成するため、溶液中のインジウムイオンを還元するためにこの溶液に添加される還元剤の金属元素が微量ながらインジウム被覆銀粉中に取り込まれてしまう。その含有率がインジウム含有率の1/10未満であれば、銀電極の抵抗が増加しにくい。しかし、インジウム被覆銀粉のインジウム含有率が10質量%を超える場合は、還元反応の進行に必要な還元剤の量が多くなり、金属元素がインジウム被覆膜中へ混入する割合も多くなるため、銀電極の抵抗の増加を無視できなくなる。
【0022】
(インジウム被覆銀粉の製造方法)
本発明に係るインジウム被覆銀粉は、化学還元法や電解法等の湿式法で製造できる。湿式法では、原料として使用する銀粉の表面の酸化膜を除去する酸洗工程、インジウムイオンを含む溶液中に銀粉を懸濁させたスラリーに還元剤を投入する還元処理工程、得られたインジウム被覆銀粉を溶液から分離する固液分離工程、及び分離採集した固体を洗浄乾燥し、解粒する乾燥解粒工程を順に経る。原料として使用する銀粉の表面に脂肪酸等油分がある場合は、酸洗工程の前にアルコール等の溶媒による洗浄を行なっても良い。
【0023】
酸洗工程では,原料として使用する銀粒子表面の酸化膜を酸洗液で除去する。この酸洗液としてインジウムイオンを含有する酸性液を使用することができ、この場合には酸洗処理のあと、次の還元処理工程にそのまま移行できるので便利である。銀粒子の表面に酸化膜が形成されていない原料を用いる場合には、例えば湿式還元法等によって製造された銀粉をそのまま用いる場合には、酸洗工程は基本的に不要である。
【0024】
次いで、インジウムイオンの湿式還元処理を実施する。この還元処理工程では、インジウムイオン含有溶液に銀粉を懸濁させ、スラリーとした後に還元剤を投入する。この還元剤の投入により、インジウムイオンを金属インジウムに還元すると同時に、この金属インジウムを銀粒子表面に析出させることができる。酸洗工程においてインジウム塩溶液を用いる場合は、連続して還元処理工程を行うことができる。
【0025】
還元処理工程におけるインジウムイオン含有溶液は、インジウム塩を水に溶解させたものが好ましい。インジウム塩としては、非酸化性の塩、代表的には塩酸塩又は硫酸塩が例示され、好ましくはpHが0.5〜2の範囲のものである。pHが0.5より低い場合は、溶液中へのインジウムの溶解度が増してしまい、銀粉に付着しないインジウム量が増えてしまう。また、pHが2より高い場合には、水酸化インジウムや酸化インジウムが生成してしまい、インジウム被覆膜の不純物含有率が高くなりすぎるおそれがある。
【0026】
還元剤としては、置換還元反応の反応性の高さから、インジウムよりもイオン化傾向の大きい(卑な)金属、例えばアルミニウム又は亜鉛が好ましい。また、還元剤は、反応性の高さから粉状又は箔状のものが望ましい。還元剤の投入量は、インジウムイオンを金属インジウムに還元する価数変化の当量程度であればよく、好ましくはインジウムイオン含有量に対して0.8から1.5当量である。
【0027】
インジウムイオンと還元剤との置換還元反応を進行させるために、還元剤を入れたスラリーの温度を室温(20℃)から95℃までの範囲に維持することが望ましい。より好ましくは、70〜90℃である。インジウムが析出し始めた時のスラリーの液温が70℃であったことから、70℃未満では置換還元反応が進行しにくく、90℃を超えると水の蒸発が多くなるからである。
【0028】
また、還元処理工程では、銀粉がインジウムイオン含有溶液中に均一に分散し、置換還元反応が停滞しないように、スラリーを常時撹拌し続けることが好ましい。この撹拌を継続することにより、銀粉にインジウムが均一に付着するようになる共に、銀粉が沈殿して凝集してしまうことを防止できる。
【0029】
また、還元処理工程では、大気中からインジウムイオン含有溶液への酸素の混入を防止するため、不活性ガス(窒素ガスやアルゴンガス)でパージした雰囲気下で、置換還元反応を進行させることが好ましい。
【0030】
また、還元処理工程では、置換還元反応終了後に、インジウム被覆銀粉の粒子同士の凝集を防止するため、有機高分子からなる分散剤(凝集防止剤又は界面活性剤と呼ばれることもある)をスラリーに添加することが好ましい。この分散剤の添加により、乾燥解粒工程における解粒作業が容易になると共に、この解粒作業によって銀粉に付着したインジウムが剥離することを回避できる。また、分散剤が有機高分子であれば、太陽電池の製造工程で導電性ペーストが焼成される際に、分散剤は気化消失するため、分散剤の添加によって本発明に係る太陽電池の銀電極の性能が低下することはない。有機高分子分散剤としては、例えばステアリン酸などの脂肪酸が使用できる。
【0031】
還元処理工程における置換還元反応の終了時には、還元剤である卑な金属が全て溶解した状態であることが好ましい。この状態であれば、置換還元終了後に直ちに固液分離を行っても、インジウム被覆銀粉だけを分離できる。スラリー中に卑な金属の粒子が未反応の固形分として残存している場合は、卑な金属を全て溶解させてから固液分離することが好ましい。例えば、還元処理工程後で固液分離工程前に、インジウム被覆銀粉を熟成させる工程を挿入すると、未反応の還元剤がスラリーに溶解する。この熟成は、置換還元反応終了後に、スラリーの置換還元反応時(例えば70〜90℃)の温度を例えば10〜120分程度保持するだけでよい。この熟成工程により、還元剤を確実に溶解できることから、インジウム被覆膜中への不純物となる未反応の還元剤の混入を最小限に抑えることができる。なお、スラリー中に卑な金属の固形分が残存している場合は、置換還元反応終了後に固体を固液分離した後に、採取した固体から卑な金属の粒子のみを分離してもよい。
【0032】
次いで、固液分離工程では、還元処理工程で得られたインジウム被覆銀粉を公知の手段によって固液分離する。次いで、乾燥解粒工程では、固液分離したインジウム被覆銀粉を水洗した後に真空乾燥する。真空乾燥後のインジウム被覆銀粉は、銀白色の凝集体である。真空乾燥は、80℃以下で10時間以上行うことが好ましい。得られた乾燥物は、解砕機で解粒することでインジウム被覆銀粉が得られる。
【0033】
(導電性ペースト)
本発明に係る導電性ペーストは、インジウムの含有率が0.01質量%〜10質量%であるインジウム被覆銀粉を含有し、インジウム被覆銀粉及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率が0.01質量%〜0.1質量%のものである。また、本発明に係る導電性ペーストは、必要に応じて、ガラスフリット、樹脂バインダー、溶剤、分散剤、及びインジウムが付着していない銀粉を含有する。
【0034】
以下に、導電性ペーストの構成材料である(1)インジウム被覆銀粉及びインジウムが付着していない銀粉、(2)ガラスフリット、(3)樹脂バインダー、(4)溶剤、(5)分散剤、及び(6)その他の添加剤について説明する。
【0035】
(1)インジウム被覆銀粉及びインジウムが付着していない銀粉(混合粉)
インジウム被覆銀粉を用いた導電性ペーストでは、混合粉におけるインジウムの含有率が0.01質量%〜0.1質量%となるように、インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉とが組み合わせて使用される。また、混合粉におけるインジウム含有率は、0.035質量%〜0.07質量%となるように、インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉とが組み合わせて使用されることがより好ましい。なお、本明細書において、インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉とを混合したものを混合粉と記載しているが、焼成前のペースト内で混合が生じているならば、どのようなタイミングで混合が行なわれても良い。下記の実施例では粉の状態で混合し、その後にペースト化しているが、それに限定されず、インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉のそれぞれをペースト化した後に混合して塗布しても、焼成前に混合状態であれば混合粉であるとする。
【0036】
本発明者らは、インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉との配合率を変えた導電性ペーストを複数作成し、これらの導電性ペーストを用いて太陽電池の銀電極を成形した。そして、本発明者らは、これらの太陽電池の特性を調査したところ、銀電極におけるインジウム含有率が特許文献1で規定された範囲よりも極めて低い範囲において、太陽電池に特異的な特性が現れることを見出した。具体的には、本発明者らは、導電性ペーストにおける混合粉中のインジウムの含有率が0.01質量%〜0.1質量%の範囲に限り、その導電性ペーストを用いて製造した太陽電池の開放電圧と光電変換効率とが高まることを見出した。このように特許文献1に規定された範囲よりも極めて低いインジウム含有率において太陽電池の開放電圧と光電変換効率が向上した要因は必ずしも明確ではないが、本願発明者らは、次の現象が銀電極の内部で生じていることがその一因であると推測している。すなわち、インジウムは溶融温度が銀よりも極めて低いことから、導電性ペーストの焼成時に、半導体層との界面付近に存在しているインジウム被覆銀粉から流出した溶融インジウムが半導体層の表面に集まり半導体と反応してインジウム合金を形成する。そして、このインジウム合金の形成により、銀電極と半導体層との界面における接触抵抗が低減して、銀電極と半導体層との接触抵抗値が低下すると共に、太陽電池の開放電圧と光電変換効率が向上する。また、もう一つの現象としては、銀電極内部の半導体層から離れた位置に存在するインジウム被覆銀粉から流出した溶融インジウムが、銀電極内部に新たな空隙を形成することなく、隣接する銀粒子同士の接触面近傍に集まる。そして、この溶融インジウムの集合により、隣接する銀粒子同士の接触面積が増大して、銀電極の内部抵抗値が低下すると共に、太陽電池の開放電圧と光電変換効率が向上する。
【0037】
なお、インジウム被覆銀粉におけるインジウム含有率が0.01〜0.1質量%の場合は、混合粉としなくても導電性ペーストにおけるインジウムの含有率が0.01〜0.1質量%となるため、インジウムが付着していない銀粉が導電性ペーストに含まれていなくてもよい。
【0038】
インジウム被覆銀粉が半導体層との界面に存在する場合は、その銀粒子の表面上のインジウムが半導体層との界面における接触抵抗を低減させる。しかし、インジウム被覆銀粉が半導体層から離れた位置に存在している場合は、インジウムが半導体層との界面に到達しにくい。したがって、銀電極の一つの理想的な構成は、半導体層との界面側にはインジウム被覆銀粉の存在率が高く、半導体層から離れた位置にはインジウム被覆銀粉の存在率が低い構成である。この理想的な構成を実現するために、先ずインジウム被覆銀粉を含む導電性ペーストを半導体層にスクリーン印刷等によって塗布し、次いでインジウムが付着していない銀粉だけの導電性ペーストをそのスクリーン印刷面上に再度塗布することが考えられる。その他、インジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉のそれぞれのペーストを、混合率を変えながら塗布することも考えられる。
【0039】
導電性ペーストにおけるインジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉との合計含有率は、65質量%〜95質量%が好ましい。この合計含有率が65質量%以上であれば、銀電極の電気抵抗率が低く抑えられる。一方で、この合計含有率が95質量%以下であれば、導電性ペーストの印刷性が担保されると共に、銀電極が半導体層に十分な強度で接着できる。
【0040】
(2)ガラスフリット
本発明に係る導電性ペーストに含まれるガラスフリットは、導電性ペーストが750℃から950℃で焼成された時に、太陽電池の半導体層上に形成された反射防止層を適度に侵食すると共に、導電性ペーストの焼成物すなわち銀電極を半導体層に接着するものである。そのため、ガラスフリットは、300℃以上、550℃以下の軟化点を有するものが好ましい。ガラスフリットの軟化点が300℃以上であれば反射防止層への過度の侵食が発生せず、一方で軟化点が550℃以下であれば反射防止層への侵食は必要十分に起こる。
【0041】
ガラスフリットの形状は特に限定されず、球状でも、不定球状でもよい。導電性ペーストにおけるガラスフリットの含有率は、0.1質量%〜10質量%が好ましい。この含有率が0.1質量%以上であれば、銀電極が半導体層に十分な強度で接着できる。一方で、この含有率が10質量%以下であれば、導電性ペーストにおけるガラスの浮きや後工程での半田付け不良等の問題が生じない。
【0042】
(3)樹脂バインダー
本発明に係る導電性ペーストに含まれる樹脂バインダーは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、脂肪族系石油樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、キシレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、又はポリイソブチル系樹脂等が好ましい。
【0043】
導電性ペーストにおける樹脂バインダーの含有率は、0.1質量%〜10質量%が好ましい。この含有率が0.1質量%以上あれば、銀電極が半導体層に十分な強度で接着できる。一方で、この含有率が10質量%以下であれば、導電性ペーストの粘度上昇が回避されるため、導電性ペーストの印刷性が担保される。
【0044】
(4)溶剤
本発明に係る導電性ペーストに含まれる溶剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサン、トルエン、エチルセロソルブ、シクロヘキサノン、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、ターピネオール、メチルエチルケトン、又はベンジルアルコール等が好ましい。導電性ペーストにおける溶剤の含有率は、1質量%〜40質量%が好ましい。この含有率が1質量%〜40質量%であれば、導電性ペーストの印刷性が担保される。
【0045】
(5)分散剤
本発明に係る導電性ペーストに含まれる分散剤は、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、又はラウリン酸等が好ましい。なお、分散剤は、一般的なものであれば、有機酸に限定されるものではない。導電性ペーストにおける分散剤の含有率は、0.05質量%〜10質量%が好ましい。この含有率が0.05質量%以上であれば、導電性ペースト中のインジウム被覆銀粉やガラスフリットの分散性が担保される。一方で、この含有率が10質量%以下であれば、銀電極の電気抵抗率の上昇を回避できる。
【0046】
(6)その他の添加剤
本発明に係る導電性ペーストには、本発明の効果を妨げない範囲で、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、消泡剤、及び粘度調整剤等の各種添加剤を適宜添加してもよい。ただし、これらの添加剤は、導電性ペーストの全質量におけるナトリウム含有率が100ppm未満となるように選択されることが好ましい。
【0047】
(太陽電池)
本発明に係る太陽電池は、本発明に係る導電性ペーストを用いて銀電極を成形したものであり、この銀電極におけるインジウム及び銀の合計質量に対するインジウムの含有率が0.01質量%〜0.1質量%のものである。また、銀電極におけるインジウム及び銀の合計質量に対するインジウムの含有率は、0.035質量%〜0.07質量%であることがより好ましい。一般的な太陽電池の構造では、光電変換素子である半導体層を挟むように、隣接する光電変換素子を直列に連結する銀電極が設けられる。半導体層を挟むように対向して設置されるどちらの側の銀電極でも、本発明にかかる導電性ペーストを焼成して成形することができる。銀電極を成形するための導電性ペーストの塗布方法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷、又はジェット印刷等が好ましい。また、Si系のバックコンタクト用の電極にも、本発明に係る導電性ペーストを使用できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0049】
(実施例1)
<インジウム被覆銀粉の製造>
インジウムインゴッドを塩酸で溶解して、インジウム濃度14.8g/Lの塩化インジウム(III)(InCl
3)溶液を作成した。この溶液のpHは1.0であった。この塩化インジウム溶液150mLをビーカーに採り、ここにインジウムが付着していない銀粉(DOWAエレクトロニクス社製、型番AG−4−71、球形粒子、平均粒径D50:2.2μm)20gを投入して液温50℃で10分間攪拌後、この懸濁液(スラリー)に還元剤としてアルミニウム粉(ヒカリ素材工業社製、Al−3N)0.52gを30分間かけて添加した。
【0050】
還元剤の添加後、ビーカーをホットプレートに載せて懸濁液を加熱すると共に、攪拌機を用いて懸濁液を撹拌した。加熱開始時点の懸濁液の液温は27℃であった。懸濁液の加熱及び撹拌を開始してから10分程度経過後に懸濁液中のインジウムイオンが還元されて金属インジウムとして析出し始めた。インジウムが析出して懸濁液の色が変わり始めた時の温度は、70℃であった。加熱撹拌開始時から15分経過後の懸濁液の液温は85℃であり、その後、懸濁液の液温が90℃を超えないようにホットプレートへの給電量を調整した。加熱撹拌開始時から45分経過後に、ホットプレート及び攪拌機への通電を停止し、液温が50℃になるまで懸濁液を放冷した。
【0051】
次いで、懸濁液から固形分をろ別して水洗した後、75℃で10時間真空乾燥させた。この乾燥品を解砕機で解粒することにより、インジウム被覆銀粉を得た。
【0052】
<インジウム被覆銀粉の評価>
得られたインジウム被覆銀粉について、重量法(質量法)と発光分光分析(ICP)とを用いて組成分析を行なった。インジウム被膜銀粉を硝酸で溶解した後、塩酸を加えて塩化銀を沈殿させてろ過し、塩化銀の質量を測定して銀の含有量を算出した。インジウムが溶解しているろ液にアンモニア水を加えて水酸化インジウムを沈殿させてろ過し、水酸化インジウムを焼成して酸化インジウムとしてから質量を測定してインジウムの含有量を算出した。また、インジウム被覆銀粉を硝酸で溶解した溶液についてICPを用いることにより、不純物の量を測定した。その結果、インジウム被覆銀粉の組成は、インジウムの含有率が7質量%、アルミニウムの含有率が0.05質量%未満、残りが銀であることが判明した。銀粉自体にはインジウムが含まれていないことから、このインジウム被覆銀粉では、インジウムが銀粉に7質量%付着していることになる。
【0053】
また、このインジウム被覆銀粉0.3gをイソプロピルアルコール50mLに入れ、50W超音波洗浄器にて5分間分散処理後、マイクロトラック9320−X100(ハネウエル−日機装製)を用いて、インジウム被覆銀粉の粒径D10、D50、及びD90を測定した。その結果、インジウム被覆銀粉のD10は1.4μm、D50は3.0μm、及びD90は7.8μmであった。インジウム被膜前の銀粉のD50が2.2μmであるのに対して、被膜後の平均粒子径D50が大きいのは凝集の影響と考えられる。また、このインジウム被覆銀粉の比表面積は、BET値で0.478m
2/gであった。インジウム被覆銀粉におけるインジウム含有率は7質量%であるから、インジウム被覆銀粉の比表面積から計算されるインジウム被覆膜の平均厚さは、0.02μmとなる。
【0054】
<導電性ペーストの製造>
得られたインジウム被覆銀粉とインジウムが付着していない銀粉(DOWAエレクトロニクス社製、型番AG−4−8F、平均粒径D50:2.2μm、球形)とを、インジウム被覆銀粉:AG−4−8F=1:99の質量比で混合して混合粉を製造した。この混合粉:86質量部、ガラスフリット(旭硝子株式会社製、ASF−1898B):1質量部、樹脂バインダー(エチルセルロース10cps):1質量部、添加剤(二酸化テルル(TeO
2):2質量部、ステアリン酸マグネシウム:1質量部、ステアリン酸:0.5質量部)、及び溶剤(2−2−4トリメチルペンタンジオールモノイソ酪酸エステル):11質量部を、三本ロールミルで混合することによりペースト状にした。さらに、スクリーン印刷時の粘度が約400Pa・sとなるように、上記溶剤を導電性ペーストに適宜添加した。
【0055】
<太陽電池素子の製造>
外形が156mm×156mmの大きさで、表面にn型拡散層が形成され、さらにn型拡散層の上にSiN
xの反射防止層が形成されたp型単結晶シリコンウエハを準備した。裏面電極形成用のアルミニウムペーストを、このシリコンウエハの裏面全面にスクリーン印刷により塗布し、200℃で20分間乾燥を行った後、自然放冷により室温まで冷却した。
【0056】
そして、このシリコンウエハの表面側に、実施例1で製造した導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布し、200℃で20分間乾燥を行った後、自然放冷により室温まで冷却した。この表面側のスクリーン印刷に使用したスクリーン版は、印刷面寸法が6インチ(□154mm)のPV電極パターン(70μm幅、81フィンガー、3バスバー)であった。
【0057】
導電性ペーストがスクリーン印刷されたシリコンウエハを高速連続焼成炉(日本ガイシ社製)に投入し、最大温度820℃まで加熱焼成することにより、実施例1に係る太陽電池素子を製造した。この高速連続焼成炉は加熱室が4室連結された構造を有しており、各加熱室は個々に温度調整可能である。投入されたシリコンウエハは、これらの加熱室内を所定の速度で搬送されて、最終の第4加熱室を通過した後に、外気に曝されて放冷される。搬送開始から30秒後にはシリコンウエハの表面温度が700℃を超え、第3加熱室にて最大温度820℃に到達した後、第4加熱室を通過し、搬送開始から50秒後には200℃以下まで冷却されるように各加熱室の温度と搬送に要する時間を設定した。高速連続焼成炉内でのシリコンウエハの正確な表面温度を測定するために、導電性ペーストがスクリーン印刷されたシリコンウエハの表面側の一端に熱電対を接着して高速連続焼成炉内に投入した。この熱電対の温度データを縦軸に、経過時間を横軸に採ったグラフを「
図1」に示す。
【0058】
また、実施例1で製造した太陽電池素子の表面側に形成された銀電極をレーザーマイクロスコープで撮影し、その画像に基づいて銀電極の厚さと幅とを測定した。その結果、銀電極の厚さは14.2μmであり、その幅は86μmであった。したがって、実施例1で形成した銀電極のアスペクト比(銀電極の厚さ/その幅)は0.16となる。
【0059】
<太陽電池素子の特性>
実施例1に係る太陽電池素子をソーラーシミュレータ((株)ワコム電創製、WXS−156S−10,AM1.5G)に装填し、太陽電池素子の特性を測定した。この測定結果を「表1」に記載する。表1における「インジウム/混合粉」は、「インジウム及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率」と同義である。実施例1に係る太陽電池素子の開放電圧は0.621Vであり、その光電変換効率は17.5%であり、その抵抗値は0.0070Ωであった。
【0060】
【表1】
【0061】
(実施例2)
導電性ペーストの製造において、インジウム被覆銀粉とAG−4−8Fとをインジウム被覆銀粉:AG−4−8F=0.5:99.5の質量比で混合して混合粉を製造した以外は実施例1と同様にして、太陽電池素子を製造し、その特性を測定した。その測定結果を表1に示す。実施例2におけるインジウム/混合粉(インジウム及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率)の値は、0.035質量%である。実施例2に係る太陽電池素子の開放電圧は0.620Vであり、その光電変換効率は17.3%であり、その抵抗値は0.0070Ωであった。
【0062】
また、実施例2で製造した太陽電池素子の表面側に形成された銀電極をレーザーマイクロスコープで撮影し、その画像に基づいて銀電極の厚さと幅とを測定した。その結果、銀電極の厚さは13.0μmであり、その幅は87μmであった。したがって、実施例2で形成した銀電極のアスペクト比(銀電極の厚さ/その幅)は0.15となる。
【0063】
(比較例1)
導電性ペーストの製造において、インジウム被覆銀粉を使用せず、AG−4−8Fのみを使用した以外は実施例1と同様にして、太陽電池素子を製造し、その特性を測定した。その測定結果を表1に示す。比較例1におけるインジウム/混合粉(インジウム及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率)の値は、0質量%である。比較例1に係る太陽電池素子の開放電圧は0.617Vであり、その光電変換効率は17.2%であり、その抵抗値は0.0071Ωであった。
【0064】
また、実施例1と同様にして、レーザーマイクロスコープ画像に基づいて銀電極の厚さと幅とを測定した。その結果、銀電極の厚さは14.5μmであり、その幅は82μmであった。したがって、比較例1で成形した銀電極のアスペクト比(銀電極の厚さ/その幅)は0.18となる。
【0065】
(比較例2)
導電性ペーストの製造において、インジウム被覆銀粉とAG−4−8Fとをインジウム被覆銀粉:AG−4−8F=1.5:98.5の質量比で混合して混合粉を製造した以外は実施例1と同様にして、太陽電池素子を製造し、その特性を測定した。その測定結果を表1に示す。比較例2におけるインジウム/混合粉(インジウム及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率)の値は、0.105質量%である。比較例2に係る太陽電池素子の開放電圧は0.619Vであり、その光電変換効率は17.1%であり、その抵抗値は0.0072Ωであった。
【0066】
また、実施例1と同様にして、レーザーマイクロスコープ画像に基づいて銀電極の厚さと幅とを測定した。その結果、銀電極の厚さは14.4μmであり、その幅は93μmであった。したがって、比較例2で成形した銀電極のアスペクト比(銀電極の厚さ/その幅)は0.15となる。
【0067】
(実施例1、2及び比較例1、2で製造した太陽電池素子の特性の比較検討)
実施例1、2及び比較例1、2で製造した太陽電池素子の開放電圧を縦軸にとり、それらのインジウム/混合粉(インジウム及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率)の値を横軸に採ったグラフを「
図2」に示す。同様に、実施例1、2及び比較例1、2で製造した太陽電池素子の光電変換効率を縦軸にとり、それらのインジウム/混合粉の値を横軸に採ったグラフを「
図3」に示す。同様に、実施例1、2及び比較例1、2で製造した太陽電池素子の抵抗値を縦軸にとり、それらのインジウム/混合粉の値を横軸に採ったグラフを「
図4」に示す。
【0068】
図2〜
図4のグラフから、インジウム/混合粉(インジウム及び銀粉の合計質量に対するインジウムの含有率)の値が0質量%から0.070質量%の範囲では、混合粉中のインジウム含有率が上昇するに従って、太陽電池素子の開放電圧及び光電変換効率は上昇し、一方で太陽電池素子の抵抗値は小さくなることが分かる。したがって、この範囲では、インジウム含有率の上昇による接触抵抗の低減効果の方が、インジウムの電気抵抗率の高さによる銀電極の内部抵抗値の上昇という負の効果を上回っていることが分かる。そして、インジウム/混合粉の値が0.070質量%から0.105質量%の範囲では、混合粉中のインジウム含有率が上昇するに従って、太陽電池素子の開放電圧及び光電変換効率は低下し、一方で太陽電池素子の抵抗値は大きくなる。したがって、この範囲では、インジウム含有率の上昇による接触抵抗の低減効果は、インジウムの電気抵抗率の高さによる銀電極の内部抵抗値の上昇という負の効果によって全て打ち消されると考えられる。つまり、インジウム/混合粉の値が0.070質量%から0.105質量%の範囲には、混合粉中のインジウム含有率の上昇に由来する正の効果と負の効果との影響力が逆転する臨界点があると言える。