特許第6400926号(P6400926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400926
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】蓄熱システム
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20180920BHJP
   F28F 3/06 20060101ALI20180920BHJP
   C09K 5/16 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   F28D20/00 G
   F28F3/06 A
   C09K5/16
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-56508(P2014-56508)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178927(P2015-178927A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591117516
【氏名又は名称】近江鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】望月 美代
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇志
(72)【発明者】
【氏名】板原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】藤村 崇恒
【審査官】 小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−117724(JP,A)
【文献】 特開平09−026224(JP,A)
【文献】 特開2003−074801(JP,A)
【文献】 米国特許第04161211(US,A)
【文献】 特開2009−121710(JP,A)
【文献】 特開2012−211713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00 − 20/02
F25B 17/08
F28F 23/00
C09K 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相の反応媒体が内部に供給される容器と、
前記容器の内部に配置され、気相の前記反応媒体と結合して発熱及び前記反応媒体が脱離して蓄熱する蓄熱材を有する蓄熱部と、
液相の反応媒体を蒸発させて気相の反応媒体を前記容器に供給する蒸発部と、
前記蒸発部から前記容器に供給される前記反応媒体が流れ、少なくとも一部が、前記容器の内部に配置された供給管と、
前記供給管において前記容器の内部に配置された部分の内周壁及び外周壁の少なくとも一方に、気相の前記反応媒体が流れる流路の全部を塞ぐことなく取り付けられ、前記容器の内部で凝縮した液相の反応媒体を保持する保持部材と、
を備える蓄熱システム。
【請求項2】
前記供給管において前記容器の内部に配置された部分の少なくとも一部は、重力方向に延び、
前記保持部材は、前記供給管において重力方向に延びた部分の少なくとも前記内周壁に取り付けられる請求項1に記載の蓄熱システム。
【請求項3】
前記保持部材は、多孔質体である請求項1又は2に記載の蓄熱システム。
【請求項4】
前記保持部材は、液相の反応媒体を重力方向の下方から支持する支持体である請求項1又は2に記載の蓄熱システム。
【請求項5】
前記保持部材が保持した液相の反応媒体を蒸発させる伝熱構造を有する請求項1〜4の何れか1項に記載の蓄熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の蓄熱反応器では、反応媒体が流れる主管部(流路部)と、反応媒体と結合して発熱及び反応媒体が脱離して蓄熱する蓄熱材(蓄熱部)と、蓄熱材に対する熱供給及び熱回収を行う熱媒流路(熱交換部)と、が積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−211713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の構成では、気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、容器が未だ暖められていないため、気相の反応媒体が凝縮して液化してしまうことがある。これにより、気相の反応媒体が蓄熱材と結合する結合効率が低下してしまうことがあった。
【0005】
本発明の課題は、気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、反応媒体が凝縮して液化することで、気相の反応媒体が蓄熱材と結合する結合効率が低下してしまうことを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る蓄熱システムは、気相の反応媒体が内部に供給される容器と、前記容器の内部に配置され、気相の前記反応媒体と結合して発熱及び前記反応媒体が脱離して蓄熱する蓄熱材を有する蓄熱部と、液相の反応媒体を蒸発させて気相の反応媒体を前記容器に供給する蒸発部と、前記蒸発部から前記容器に供給される前記反応媒体が流れ、少なくとも一部が、前記容器の内部に配置された供給管と、前記供給管において前記容器の内部に配置された部分の内周壁及び外周壁の少なくとも一方に、気相の前記反応媒体が流れる流路の全部を塞ぐことなく取り付けられ、前記容器の内部で凝縮した液相の反応媒体を保持する保持部材とを備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、蒸発部が液相の反応媒体を蒸発させて気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、気相の反応媒体は、少なくとも一部が容器の内部に配置された供給管を流れて容器の内部に供給される。
【0008】
気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、容器が未だ暖められていないため、供給管を流れる気相の反応媒体の一部、及び供給管を流れて容器の内部に供給された気相の反応媒体の一部は、凝縮して液相の反応媒体となる場合がある。そして、液相の反応媒体は、供給管において容器の内部に配置された部分の内周壁及び外周壁の少なくとも一方に取り付けられた保持部によって保持される。
【0009】
一方、凝縮しなかった反応媒体は蓄熱材と結合し、蓄熱材が発熱する。これにより、容器の内部の温度が上昇し、保持部によって保持された液相の反応媒体が蒸発して気相の反応媒体となる。この気相の反応媒体は蓄熱材と結合し、蓄熱材が発熱する。
【0010】
このように、液相となった反応媒体が再度気相の反応媒体となる。このため、気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、反応媒体が凝縮して液化することで、気相の反応媒体が蓄熱材と結合する結合効率が低下してしまうことを抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る蓄熱システムは、請求項1に記載の蓄熱システムにおいて、前記供給管において前記容器の内部に配置された部分の少なくとも一部は、重力方向に延び、前記保持部材は、前記供給管において重力方向に延びた部分の少なくとも前記内周壁に取り付けられることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、保持部材は、供給管において重力方向に延びた部分の少なくとも内周壁に取り付けられている。
【0013】
供給管の内部を重力方向の上方へ移動して容器の内部に供給される気相の反応媒体が、供給管の内部で凝縮して液化した場合に、供給管の内周壁に配置された保持部材が、凝縮して液相となった反応媒体を保持する。
【0014】
液相となった反応媒体を重力方向の下方へ落下させることなく保持部が保持する。保持部によって保持された液相の反応媒体は、再度気相の反応媒体となる。これにより、気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、反応媒体が凝縮して液化することで、気相の反応媒体が蓄熱材と結合する結合効率が低下してしまうことを抑制することができる。
【0015】
請求項3に係る蓄熱システムは、請求項1又は2に記載の蓄熱システムにおいて、前記保持部材は、多孔質体であることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、保持部材は、液相の反応媒体を保持する多孔質体である。このため、多孔質体は、毛細管現象(毛管力)により、液相の反応媒体を保持することができる。
【0017】
請求項4に係る蓄熱システムは、請求項1又は2に記載の蓄熱システムにおいて、前記保持部材は、液相の反応媒体を重力方向の下方から支持する支持体である。
【0018】
上記構成によれば、保持部材は、液相の反応媒体を重力方向の下方から支持することで、液相の反応媒体を保持することができる。
【0019】
請求項5に係る蓄熱システムは、請求項1〜4の何れか1項に記載の蓄熱システムにおいて、前記保持部材が保持した液相の反応媒体を蒸発させる伝熱構造を有することを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、伝熱構造が、保持部材が保持した液相の反応媒体を蒸発させるため、容器の内部で凝縮した液相が効果的に蒸発する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、気相の反応媒体を容器に供給し始める場合に、反応媒体が凝縮して液化することで、気相の反応媒体が蓄熱材と結合する結合効率が低下してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係る蓄熱システムに備えられた供給管等を示した断面図である。
図2】第1実施形態に係る蓄熱システムを示した概略構成図である。
図3】(A)(B)第1実施形態に係る蓄熱システムにおいて水和反応によるエンジンオイルの加熱状態を示す説明図、及びエンジンオイルによる加熱で脱水反応を行うときの凝縮状態を示す説明図である。
図4】第1実施形態に係る蓄熱システムの蓄熱反応器に備えられる流路部を示した平面図及び断面図である。
図5】第1実施形態に係る蓄熱システムの蓄熱反応器に備えられる蓄熱部を示した斜視図である。
図6】(A)(B)第1実施形態に係る蓄熱システムの蓄熱反応器に備えられる熱交換部及び規制部材を示した分解斜視図、及び断面図である。
図7】第1実施形態に係る蓄熱システムの蓄熱反応器に備えられる拘束部を示した斜視図である。
図8】第1実施形態に係る蓄熱システムにおける蓄熱材の反応平衡線及び水の気液平衡線を温度と平衡圧との関係で示す線図である。
図9】第2実施形態に係る蓄熱システムに備えられた供給管等を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
≪第1実施形態≫
本発明の第1実施形態に係る蓄熱システムの一例について図1図8を用いて説明する。
【0024】
(全体構成)
図2には、第1実施形態の一例としての蓄熱システム10の概略構成が示されている。蓄熱システム10は、蒸発部の一例としての蒸発凝縮器12を備えている。蒸発凝縮器12では、反応媒体の一例としての水Wa(HO)の凝縮が行われ、さらに、水Wa(HO)の蒸発が行われるようになっている。
【0025】
反応器20では、後述する蓄熱材44(図5参照)の水和反応(結合)又は脱水反応(離脱)が行われる。さらに、蓄熱システム10は、蒸発凝縮器12及び反応器20に接続され、これらの内部を連通させる水蒸気流路14を有している。
【0026】
〔水蒸気流路〕
水蒸気流路14は、蒸発凝縮器12から反応器20を構成する容器22に向かって延び、途中の分岐部24で分岐している。そして、分岐部24から分岐した一方の端部15Aが容器22を構成する底壁22A(詳細は後述する)に接続され、分岐した他方の端部15Bが容器22の底板22Aから容器22の内部に進入して容器22の内部に配置されている。
【0027】
また、分岐部24には、蒸発凝縮器12と水蒸気流路14の一方の端部15Aを連通させるか、蒸発凝縮器12と水蒸気流路14の他方の端部15Bを連通させるか、又は非連通の状態とするか、を選択可能する選択部材26が備えられている。選択部材26は、所謂三方弁である。なお、水蒸気流路14については、詳細を後述する。
【0028】
〔蒸発凝縮器〕
蒸発凝縮器12は、貯留した水Waを蒸発させて反応器20に水蒸気Wbを供給する(水蒸気を生成する)蒸発部、反応器20から導入された水蒸気を凝縮する凝縮部、及び水蒸気が凝縮された水Waを貯留する貯留部としての各機能を兼ね備えている。
【0029】
また、蒸発凝縮器12は、内部に水Waを貯留した貯留容器16を有している。貯留容器16内には、水蒸気Wbの凝縮用の冷媒が流れる冷媒流路17及び水Waの蒸発用のヒータ18が設けられている。冷媒流路17は、貯留容器16内における少なくとも気相部16Aを含む部分で熱交換を行うように設けられている。ヒータ18は、貯留容器16内における少なくとも液相部(貯留部)16Bを含む部分で通電により加熱を行うように設けられている。
【0030】
さらに、貯留容器16、容器22、水蒸気流路14、及び選択部材26は、互いの接続部位が気密に構成されており、これらの内部空間が予め真空脱気されている。
【0031】
〔反応器〕
反応器20は、図2に示されるように、水蒸気Wbが内部に供給される容器22と、容器22の内部に封入された単位ユニットの一例としての蓄熱ユニット30、32と、を有している。即ち、本実施形態では、一例として、反応器20が2つの単位ユニットを有している。さらに、反応器20は、蓄熱ユニット30、32を拘束する拘束部62を有している。
【0032】
なお、以後の説明では、反応器20を正面視して、水平方向であって反応器20の幅方向を容器幅方向(矢印X方向)とし、鉛直方向(重力方向)であって反応器20の上下方を容器上下方向(矢印Y方向)とする。さらに、反応器20を正面視して、水平方向であって容器幅方向及び容器上下方向に直交する反応器20の奥行方向を容器奥行方向(矢印Z方向)とする。
【0033】
<容器>
容器22は、全体が円筒状に形成されており、容器上下方向から見て矩形の底壁22Aと、底壁22Aから容器上下方向の上側に延びる側壁22Bと、容器上下方向に見て円形であり側壁22Bの上端を覆う天井壁22Cと、を有している(図2参照)。
【0034】
また、容器22は、2つの部材に分割されており、蓄熱ユニット30、32を内部に配置した後、2つの部材の接合部(図示省略)で接合(溶接)されることで、蓄熱ユニット30、32が容器22の内部に封入されるようになっている。また、後述する配管57A、及び配管57Bは、天井壁22Cを容器上下方向に貫通するようになっている。
【0035】
<蓄熱ユニット>
蓄熱ユニット30、32は、図2に示されるように、容器22の内部で容器上下方向に重ねられている。なお、蓄熱ユニット30、32は、同じ構成となっている。このため、蓄熱ユニット30の構成について説明し、蓄熱ユニット32の構成については、蓄熱ユニット30と同じ符号を付与して説明を省略する。また、本実施形態では、一例として、蓄熱ユニット30、32が、容器22の内部において後述する配管57A、57Bによって吊り下げられた状態となっており、容器22の内面とは非接触状態とされている。
【0036】
蓄熱ユニット30は、水蒸気Wbが流れる流路部36と、フィルタ39と、蓄熱部42と、蓄熱部42に対する熱供給及び熱回収の少なくとも一方を行う熱交換部52と、備えている。
【0037】
[流路部]
流路部36は、図4(A)に示されるように、容器上下方向から見て矩形状の天板37と、天板37に固定される流路部材38と、を有している。流路部材38は、水蒸気Wbが流れる容器奥行方向に延び、容器幅方向に複数並んでいる。
【0038】
流路部材38は、図4(B)に示されるように、天板37に対して下方に配置され、一例として、容器奥行方向から見て蓄熱部42(図2参照)側が開放された逆U字状とされている。具体的には、流路部材38は、板面が容器幅方向を向いた一対の側壁38Aと、一対の側壁38Aの上端部を繋ぐ上壁38Bとを有している。この流路部材38は、一例としてステンレス鋼板をプレス加工することで形成される。
【0039】
そして、上壁38Bが天板37の下面に溶接されている。これにより、流路部材38の内側、及び隣り合う流路部材38の間が、全て水蒸気Wb(図2参照)が蓄熱部42に面して流れる拡散流路C1となっている。そして、複数の側壁38Aは、フィルタ39(図2参照)の上面に載せられるようになっている。
【0040】
[フィルタ]
フィルタ39(図2参照)は、板面が容器上下方向を向いた一枚の板状に形成された単体の金属箔で構成され、一例として、ステンレス箔が用いられている。このフィルタ39は、容器上下方向から見て矩形状され、容器上下方向から見て、流路部36の天板37と同様の形状とされている。
【0041】
また、フィルタ39には、容器上下方向を軸方向として貫通した断面円形の複数の貫通孔(図示省略)が形成されている。この複数の貫通孔の直径は、一例として、後述する蓄熱材44(図5参照)を構成する蓄熱粒子(図示省略)の平均粒子径の5倍以下で設定されている。
【0042】
[蓄熱部]
蓄熱部42は、容器上下方向から見て矩形状とされ、図5に示されるように、蓄熱材44と、蓄熱材44を拘束する枠部材46とを有している。
【0043】
蓄熱材44は、一例として、容器幅方向及び容器奥行方向に広がる扁平な直方体(ブロック)状に形成されている。
【0044】
また、蓄熱材44は、一例として、アルカリ土類金属の酸化物の1つである酸化カルシウム(CaO)の成形体が用いられている。この成形体は、例えば、酸化カルシウム粉体をバインダ(例えば粘土鉱物等)と混練し、焼成することで形成されている。さらに、蓄熱材44は、フィルタ39(図2参照)に密着した状態で配置されている。
【0045】
さらに、蓄熱材44は、図2に示す反応器20において、水蒸気Wbと結合する水和に伴って発熱(放熱)し、水蒸気Wbが脱離する脱水に伴って蓄熱(吸熱)するものである。そして、反応器20の内部では、以下に示す反応で放熱、蓄熱を可逆的に繰り返し得る構成とされている。
【0046】
CaO + HO ⇔ Ca(OH)
この式に蓄熱量Q、発熱量Qを併せて示すと、
CaO + HO → Ca(OH) + Q
Ca(OH) + Q → CaO + H
となる。なお、蓄熱材44の1kg当たりの蓄熱容量は、一例として、1.86[MJ/kg]とされている。
【0047】
この蓄熱材44は、発熱の際の水和により膨張し、蓄熱の際の脱水により収縮することで、膨張、収縮を繰り返すようになっている。
【0048】
また、枠部材46は、容器上下方向が開放された枠状に形成され、蓄熱材44の容器幅方向、及び容器奥行方向の側面を囲んでいる。これにより、蓄熱材44における容器幅方向、及び容器奥行方向の膨張が拘束されるようになっている。
【0049】
[熱交換部]
熱交換部52は、容器上下方向から見て矩形状とされ、図6(A)に示されるように、容器幅方向及び容器奥行方向に広がる扁平な直方体状の熱媒容器54と、熱媒容器54の内部に収容(固定)された伝熱壁である熱媒流路部材58と、を有している。さらに、熱媒容器54は、容器上下方向の上方が開放されており、熱交換部52は、熱媒容器54の開放口を覆う蓋部材80を有している。
【0050】
この熱交換部52には、内部に熱媒体が流れる配管57A、57Bを介して、熱媒体が流れるようになっている。熱媒体は、蓄熱材44(図2参照)から得た熱を加熱対象に輸送するためのものであり、本実施形態では、一例として、自動車(図示省略)のエンジンオイルを用いている。なお、熱媒体の他の例として、水等の流体を用いてもよい。
【0051】
熱媒容器54は、底板54Aと、底板54Aの縁部で容器上下方向の上方に立ち上がる側板54B、54C、54D、54Eとを有している。側板54Bと側板54Dとは、容器奥行方向で対向配置され、側板54Cと側板54Eとは、容器幅方向で対向配置されている。
【0052】
また、側板54Bの容器幅方向の端部側(図中左側)には、容器奥行方向に貫通された貫通孔59Aが形成されている。さらに、側板54Dの容器幅方向の端部側(図中右側)には、容器奥行方向に貫通された貫通孔59Bが形成されている。貫通孔59Aには、配管57Aの一端が接続され、貫通孔59Bには、配管57Bの一端が接続されている。これにより、配管57Aから貫通孔59Aを通って熱媒容器54の内部に流入したエンジンオイル(図示省略)が、熱媒流路部材58の後述する熱媒流路C2及び貫通孔59Bを通って配管57Bへ流出するようになっている。
【0053】
熱媒流路部材58は、図6(B)に示されるように、容器奥行方向から見て凹凸を繰り返す矩形波状とされ、一例として、ステンレス鋼板をプレス加工することで形成されている。
【0054】
具体的には、熱媒流路部材58は、容器幅方向に間隔をあけて直立配置された複数の側壁58Aを有している。さに、熱媒流路部材58は、容器幅方向で1つおきに2つの側壁58Aの上端を繋ぐ上壁58Bと、上壁58Bとずらして容器幅方向で1つおきに2つの側壁58Aの下端を繋ぐ下壁58Cとを有している。
【0055】
このように、熱媒流路部材58は、エンジンオイルが流れる容器奥行方向に沿うと共に、複数の側壁58Aが容器幅方向で並んでいる。そして、熱媒流路部材58では、複数の側壁58Aの間が、エンジンオイルが流れる熱媒流路C2となっている。
【0056】
そして、蓄熱ユニット30では、熱交換部52、蓄熱部42、フィルタ39、及び流路部36が、容器上下方向においてこの順番で下方から上方へ積層されている(重ねられている)。即ち、本実施形態では、容器上下方向が、これらの積層方向となっている。
【0057】
<拘束部>
拘束部62は、図7に示されるように、容器上下方向において蓄熱ユニット30、32の上側、下側に配置された拘束部材63、64と、拘束部材63、64を連結するボルト68及びナット69とを有する。なお、拘束部材63と拘束部材64は、一例として、同じ構成であるため、拘束部材63について説明し、拘束部材64の説明を省略する。また、図7では、ボルト68及びナット69を1組のみ示しており、残りの3組のボルト68及びナット69の図示を省略している。
【0058】
拘束部材63は、容器幅方向を長手方向とし容器奥行方向に間隔をあけて並んだ複数の角筒材65と、容器奥行方向に沿って複数の角筒材65に溶接され複数の角筒材65を連結する複数の角筒材66とを有している。さらに、拘束部材63は、角筒材66と同軸で夫々の角筒材65から容器奥行方向の外側へ突出した複数の角筒材67を有している。
【0059】
複数の角筒材65、66、67は、容器上下方向の高さがそろえられている。即ち、複数の角筒材65、66、67は、容器上下方向の面がほぼ同一面上に配置されている。
【0060】
また、角筒材67には、容器上下方向に貫通された貫通孔67Aが形成されている。貫通孔67Aは、ボルト68を挿通可能な大きさとなっている。ここで、拘束部材63、64が蓄熱ユニット30、32を挟んだ状態で、拘束部材63の貫通孔67Aと拘束部材64の貫通孔67Aとにボルト68を挿通させ、ナット69を締結することで、蓄熱ユニット30、32が拘束部62に拘束される。即ち、拘束部62は、蓄熱ユニット30、32を容器上下方向(積層方向)で拘束するようになっている。なお、ボルト68は、蓄熱ユニット30、32に対して容器奥行方向の手前側と奥側に配置されている。
【0061】
(全体構成の作用)
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0062】
蓄熱システム10において反応器20に蓄熱された熱を放熱する際には、図3(A)に示されるように、選択部材26が蒸発凝縮器12と水蒸気流路14の他方の端部15Bを連通させる。さらに、蒸発凝縮器12のヒータ18が液相部16Bの水Waを蒸発させる。そして、生成された水蒸気Wbが、水蒸気流路14を矢印B方向に移動して反応器20内に供給される。
【0063】
続いて、図2に示されるように、反応器20内では、供給された水蒸気Wbが、蓄熱ユニット30の流路部36内、及び蓄熱ユニット32の流路部36内を流れる。そして、各流路部36内の水蒸気Wbが、フィルタ39を通って各蓄熱材44(図5参照)と接触することにより、蓄熱材44は、水和反応を生じつつ放熱する。この熱は、熱交換部52内を流れるエンジンオイルによって、加熱対象に輸送される。
【0064】
一方、図3(B)に示されるように、蓄熱システム10において反応器20の蓄熱材44(図5参照)に蓄熱する際には、選択部材26が蒸発凝縮器12と水蒸気流路14の一方の端部15Aを連通させる。さらに、配管57A、熱交換部52、及び配管57B内に熱源(図示省略)によって加熱されたエンジンオイルが流通する。このエンジンオイルによって加熱されることで、蓄熱材44が脱水反応を生じ、この熱が蓄熱材44に蓄熱される。このとき、蓄熱材44から脱水された水蒸気Wbは、流路部36から水蒸気流路14を矢印A方向に流れて蒸発凝縮器12内に導入される。そして、蒸発凝縮器12の気相部16Aにおいて、冷媒流路17を流通する冷媒によって水蒸気Wbが冷却され、凝縮された水Waが貯留容器16の液相部16Bに貯留される。
【0065】
以上説明した蓄熱材44の蓄熱、放熱について、蓄熱システム10のサイクル(一例)を参照しつつ補足する。図8には、PT線図に示された圧力平衡点における蓄熱システム10(図2参照)のサイクルが示されている。図8において、上側の等圧線が脱水(吸熱)反応を示し、下側の等圧線が水和(発熱)反応を示している。なお、蓄熱システム10の構成については、図2を参照する。
【0066】
このサイクルでは、例えば、蓄熱材44の温度が410[℃]で蓄熱された場合、水蒸気Wbは50[℃]が平衡温度となる。そして、蓄熱システム10では、水蒸気Wbは蒸発凝縮器12において冷媒流路17の冷媒との熱交換によって50[℃]以下に冷却され、凝縮されて水Waになる。
【0067】
一方、ヒータ18により加熱を行うことで、該ヒータ18の温度に応じた蒸気圧の水蒸気が発生する。例えば、図8のサイクルにおいて、5[℃]で水蒸気を発生させる場合、蓄熱材44は、315[℃]で放熱することが解る。このように、内部が真空脱気されている蓄熱システム10では、5[℃]付近の低温熱源から熱を汲み上げて、315[[℃]もの高温を得ることができる。
【0068】
(要部構成)
次に、水蒸気流路14等について説明する。
【0069】
図2に示されるように、水蒸気流路14において、分岐部24から分岐した一方の端部15Aが容器22の底壁22Aに接続され、分岐部24から分岐した他方の端部15Bが容器22の内部に配置されている。
【0070】
具体的には、分岐部24で、水蒸気流路14が第一水蒸気流路14Aと第二水蒸気流路14Bとに分岐し、第一水蒸気流路14Aの端部15Aが容器22の底壁22Aに接続されている。また、第二水蒸気流路14Bが容器22の底板22Aから容器22の内部に進入し、第二水蒸気流路14Bの端部15Bは容器22の内部に配置されている。
【0071】
第二水蒸気流路14Bを構成する供給管82は、容器上下方向(重力方向)の下方から上方に延びて途中で容器22の底板22Aから容器22の内部に進入している。そして、供給管82において容器22の内部に進入した部分は、上方に延びて天井壁22Cの手前で屈曲している。このように供給管82が屈曲することで、端部15Bは、容器幅方向に向けられている。
【0072】
さらに、図1に示されるように、容器22の内部で、供給管82において容器上下方向に延びている部分の内周壁82Aには、水Waを保持する保持部材の一例としての多孔質体86が取り付けられている。多孔質体86は、金属の焼結体を筒状に形成した部材であって、内周壁82Aの壁面に図示せぬ接着剤等を用いて取り付けられている。
【0073】
また、供給管82において容器上下方向に延びている部分の外周壁82Bには、水Waを保持する保持部材の一例としての多孔質体88が取り付けられている。多孔質体88は、金属の焼結体を筒状に形成した部材であって、外周壁82Bの壁面に図示せぬ接着剤等を用いて取り付けられている。
【0074】
多孔質体86、88として、本実施形態では、一例として、鉄‐ニッケル(Fe−Ni)の焼結体が用いられ、焼結密度は30%以上95%以下とされている。
【0075】
なお、容器22に進入した供給管82、及び多孔質体88は、容器22の側壁22B及び天井壁22Cとは離間して配置されている。
【0076】
(要部構成の作用)
次に、要部構成の作用について説明する。
【0077】
蓄熱システム10において反応器20に蓄熱された熱を放熱する際には、図3(A)に示されるように、選択部材26を用いることで、蒸発凝縮器12と水蒸気流路14の他方の端部15Bが連通する。これにより、蒸発凝縮器12によって生成された水蒸気Wbが、第二水蒸気流路14Bを流れる(矢印B参照)。
【0078】
ここで、水蒸気Wbを容器22に供給し始める場合に、容器22が未だ暖められておらず、容器22の内部は、例えば、20[℃]となっている。また、水蒸気Wbの平衡温度は、一例として50[℃] とされている。このため、第二水蒸気流路14Bを流れる水蒸気Wbの一部、及び第二水蒸気流路14Bを流れて容器22の内部に供給された水蒸気Wbの一部は、凝縮して液化し、水Waとなる。
【0079】
供給管82の内部で液化した水Waは、内周壁82Aに取り付けられた多孔質体86に毛管力により吸収されて保持される。一方、供給管82から容器22の内部へ供給されて供給管82の周囲で凝縮して液化した水Waは、外周壁82Bに取り付けられた多孔質体88に毛管力により吸収されて保持される(図1参照)。そして、供給管82は、水蒸気Wbが液化することで生じた凝縮潜熱によって加熱される。
【0080】
また、液化しなかった水蒸気Wbは、流路部36を流れてフィルタ39を通って蓄熱材44と接触する。そして、蓄熱材44は、水和反応を生じつつ放熱する(図2参照)。この放熱により、容器22の内部は、例えば、60[℃]となる。
【0081】
容器22の内部が、60[℃]となることで、容器22の内部に配置された供給管82、及び多孔質体86、88も60[℃]となる。これにより、多孔質体86、88に保持される水Waは、蒸発し水蒸気Wbとなって、容器22の内部に供給される。この水蒸気Wbは、流路部36を流れてフィルタ39を通って蓄熱材44と接触する。そして、蓄熱材44は、水和反応を生じつつ放熱する(図3(A)参照)。
【0082】
なお、多孔質体86、88に保持される水Waを蒸発させる熱エネルギーは、蓄熱材44の水和反応によって生じる熱エネルギーよりも小さい。
【0083】
(要部構成のまとめ)
このように、水蒸気Wbを容器22に供給し始める場合に、容器22の内部で液化した水Waを、多孔質体86、88が保持する。さらに、多孔質体86、88に保持された水Waが、蓄熱材44の水和反応による放熱によって、蒸発し水蒸気Wbとなる。この水蒸気Wbは、蓄熱材44と水和反応する。これにより、水蒸気Wbを容器22に供給し始める場合に、水蒸気Wbが凝縮して液化することで、水蒸気Wbが蓄熱材44と結合する結合効率が低下してしまうことを抑制することができる。
【0084】
また、水Waを保持する保持部材として多孔質体86、88が用いられている。多孔質体86、88は、毛細管現象(毛管力)により、水Waを保持することができる。
【0085】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の第2実施形態に係る蓄熱システムの一例について図9に従って説明する。なお、第1実施形態と同一部材については、同一符号を付してその説明を省略し、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0086】
図9に示されるように、容器22の内部で、供給管82において容器上下方向に延びている部分の内周壁82Aには、水Waを保持する保持部材の一例としての支持体96が取り付けられている。
【0087】
支持体96は、容器上下方向に間隔を空けて複数取り付けられている。そして、支持体96は、断面L字状とされ、内周壁82Aとの間で水Waを重力方向の下方から保持するように、内周壁82Aの周方向に沿って内周壁82Aに取り付けられている。
【0088】
同様に、供給管82において容器上下方向に延びている部分の外周壁82Bには、水Waを保持する保持部材の一例としての支持体98が取り付けられている。支持体98は、容器上下方向に間隔を空けて複数取り付けられている。そして、支持体98は、断面L字状とされ、外周壁82Bとの間で水Waを重力方向の下方から保持するように、外周壁82Bの周方向に沿って外周壁82Bに取り付けられている。
【0089】
このように、支持体96、98が、水Waを重力方向の下方から支持することで、支持体96、98が水Waを保持することができる。
【0090】
他の第2実施形態の作用については、多孔質体86、88によって奏する作用以外の第1実施形態の作用と同様である。
【0091】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、供給管82の内周壁82A及び外周壁82Bに、多孔質体86、88、又は支持体96、98を取り付けたが、内周壁82Aだけに多孔質体86又は支持体96を取り付けてもよい。容器上下方向に延びる供給管82の内周壁82Aに多孔質体86又は支持体96を取り付けることで、水Waを重力方向の下方へ落下させることなく多孔質体86又は支持体96が水Waを保持する。これにより、水蒸気Wbが凝縮して液化することで、水蒸気Wbが蓄熱材と結合する結合効率が低下してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0092】
また、上記実施形態では、特に説明しなかったが、蓄熱材として、ゼオライト、活性炭、メソポーラスシリカを含む多孔吸着材を用いてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、特に説明しなかったが、多孔質体86、88、又は支持体96、98が保持した水Waを蒸発される伝熱構造を備えてもよい。この伝熱構造は、容器22の内部に水蒸気Wbを供給した後(暖気完了後)に、前述の水Waを蒸発させる構造である。伝熱構造としては、例えば、高温の水蒸気Wb(気相の反応媒体)が通った供給管82に蓄熱された熱によって水Waを蒸発される構造(熱交換)であったり、高温の水蒸気Wb(気相の反応媒体)が通った供給管82に蓄熱された熱によって多孔質体86、88を加熱して水Waを蒸発される構造(熱交換)であったりする。
【符号の説明】
【0094】
10 蓄熱システム
12 蒸発凝縮器(蒸発部の一例)
42 蓄熱部
44 蓄熱材
82 供給管
82A 内周壁
82B 外周壁
86 多孔質体(保持部材の一例)
88 多孔質体(保持部材の一例)
96 支持体(保持部材の一例)
98 支持体(保持部材の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9