【文献】
日清製粉グループ NEWS RELEASE,[online],2017年2月7日、[2018年3月15日検索]、インターネット<URL:http://www.nisshin.com/uploads/170207_dry.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粒径2.36mm以上の画分の割合が8〜21質量%且つ粒径1.18mm以下の画分の割合が45質量%以下の粒度分布を有し、嵩密度が270〜600ml/100gであり、平均粒径が100μm〜7mmであるパン粉。
請求項1に記載のパン粉又は請求項2に記載のパン粉ミックスと、該パン粉又は該パン粉ミックスを含む振出し用パン粉類を収容し、該パン粉類を外部に振り出すための振出し孔を有する振出し容器とを具備し、該振出し孔の最大差し渡し長さが10〜55mmである、振出し用パン粉類の収容体。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のパン粉は、粒度分布及び嵩密度がそれぞれ下記の特定範囲にあることによって特徴付けられる。本発明者らの知見によれば、パン粉の粒度分布及び嵩密度は、パン粉の食品素材に対する付着性、延いてはこれを用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品の外観及び食感に大きな影響を及ぼし、粒度分布及び嵩密度の双方が下記の特定範囲にあって初めて、外観及び食感が良好な高品質のパン粉付加熱調理済み食品を容易に製造することが可能となる。ここでいう、「容易に製造」とは、具体的には例えば、高品質のパン粉付加熱調理済み食品を得る上で適切な量のパン粉を食品素材に付着させる手間がかからないことを意味する。即ち、食品素材にパン粉を付着させる方法としては、従来、パン粉をトレイに広げてその上食品素材を載せ且つ該パン粉上で該食品素材の配置を適宜変更して、該食品素材の全面にパン粉を付着させる方法が一般的であるが、本発明のパン粉は、このような一般的なパン粉付け方法の他に、振出し容器を用いたパン粉付け方法にも適用することが可能であり、この振り出して使用する形態であれば、一般的なパン粉付け方法よりもはるかに簡単に適量のパン粉を食品素材に付着させることができ、パン粉付加熱調理済み食品の製造時の作業性が飛躍的に向上し得る。本発明のパン粉が、このような振出し用パン粉として使用可能であるのは、粒度分布及び嵩密度がそれぞれ特定範囲にあることと密接に関連する。本発明のパン粉の振出し用途については後で詳述する。
【0015】
本発明のパン粉の粒度分布は、粒径2.36mm以上の画分の割合が8〜21質量%であり、且つ粒径1.18mm以下の画分の割合が45質量%以下である。換言すれば、本発明のパン粉の粒度分布は、JIS篩の7.5メッシュを通過しない(即ち篩のメッシュ上に残る)画分が8〜21質量%であり、且つJIS篩の14メッシュを通過する(即ち篩のメッシュ上に残らない)画分が45質量%以下である。パン粉において粒径2.36mm以上の画分の割合が8〜21質量%の範囲外であると、パン粉の食品素材に対する付着性が低下する結果、これを用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品が外観及び食感に劣るものとなるおそれがある。また、パン粉において粒径1.18mm以下の画分の割合が45質量%を超えると、これを用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品の特に衣の外観に関して、衣の均一付着性、剣立ちが不十分で、いわゆるフライらしい好ましい外観が得られないおそれがある。パン粉のより好ましい粒度分布は、粒径2.36mm以上の画分の割合が10〜18質量%であり、且つ粒径1.18mm以下の画分の割合が22〜43質量%である。パン粉の粒度分布は下記方法により測定される。
【0016】
<粒度分布の測定方法>
市販の振動篩(例えば、ヴァーダーサイエンティフィック製 ASコントロール)に上から7.5メッシュ(目開き2.36mm)の篩(メッシュの直径200mm)と14メッシュ(目開き1.18mm)の篩(メッシュの直径200mm)を上下2段にセットし、上段の篩のメッシュ(7.5メッシュ)上に測定対象のパン粉50gを載せて、振動幅2.0mm、振動時間2分間、インターバルタイム15秒(15秒間ずつ振動して止まるを繰り返す)の条件で篩をかける。斯かる振動動作の終了後に7.5メッシュの篩上に残ったパン粉を「粒径2.36mm以上の画分」とし、該画分のパン粉全体に占める質量割合を算出する。また同時に、下段の篩のメッシュ(14メッシュ)の篩を通過したパン粉を「粒径1.18mm以下の画分」とし、該画分のパン粉全体に占める質量割合を算出する。
【0017】
尚、本発明のパン粉の平均粒径は、粒度分布が前記特定範囲にあることを前提として、特に限定されないが、好ましくは100μm〜7mm、より好ましくは200μm〜5mmである。ここでいう平均粒径とは、段階的に篩にかけて分画し、算出した平均径をいう。
【0018】
また、本発明のパン粉の嵩密度は270〜600ml/100gである。これは、下記の嵩密度の測定方法から明らかなように、パン粉100gを容量1000mLのメスシリンダーに無荷重で充填した状態における該パン粉の体積が、270〜600mlであることを意味する。パン粉の嵩密度が270ml/100g未満であると、パン粉の食品素材に対する付着性が低下し、且つ、パン粉の食感が硬くなりすぎ、また、パン粉の嵩密度が600ml/100gを超えると、パン粉が食品素材に付着した後に剥がれやすくなり、且つ、パン粉の食感がソフトになりすぎる。いずれの場合でも、これを用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品が外観及び食感に劣るものとなるおそれがあり、特に衣の外観に関して、衣の均一付着性、剣立ちが不十分で、いわゆるフライらしい好ましい外観が得られないおそれがある。パン粉の嵩密度は、好ましくは350〜590ml/100g、さらに好ましくは450〜580ml/100gである。
【0019】
<嵩密度の測定方法>
上部が開口した市販の容量1000mLのメスシリンダー(例えば、日本計量器工業製)を水平に静置し、該メスシリンダーの上部開口から100gのパン粉の全量を静かに投入した後、該メスシリンダーの上部開口をフタで閉塞し、その状態で該メスシリンダーを静かに2回上下反転させてから静置し、該メスシリンダー内に多数のパン粉が積み重なった「パン粉の山」を形成する。測定値に影響を与えないように注意しながら、形成されたパン粉の山の頂部を軽くならして目視レベルで水平にし、その水平なパン粉の山の頂部の位置をメスシリンダーの目盛りで読み取り、その読み取った目盛りの値からパン粉の山の体積を求め、当該パン粉の嵩密度を算出する。尚、パン粉の山に外力を加えると、パン粉が崩れて嵩密度の測定値に影響が出るおそれがあるため、パン粉の山には極力外力を加えないように注意する。
【0020】
本発明のパン粉は、基本的には、直捏生地法や中種生地法などの公知の乾燥パン粉の製造方法に準じて製造することができる。即ち、常法に従って製造された乾燥パン粉を、常法に従って複数の画分に篩分けし、それら複数の画分を適宜混合して、その混合物の粒度分布及び嵩密度がそれぞれ前記特定範囲になるように調整することで、本発明のパン粉を製造することができる。
【0021】
本発明に適用可能な乾燥パン粉の製造方法は、典型的には、パンの原料の混合物に加水し混捏して調製した生地に対し、一次発酵、(分割)、(丸め)、二次発酵、成形、(型詰め)、(最終発酵)、焼成の各工程を行ってパンを得、該パンを冷却、粉砕して得た生パン粉を乾燥する工程を有する(前記のカッコ書きの工程は省略される場合もある)。斯かる製造方法において、一次発酵、二次発酵などの発酵工程は省略することも可能であり、生地の状態又は、焼成の段階において膨張剤を用いて膨化させる工程に置き換えることもできる、また、生地の焼成方法には焙焼式、電極式などがあるが、本発明においてはいずれの方式のパン粉も使用可能であり、各方式で得られたパン粉を任意の割合で混合した混合パン粉でもよい。また、本発明において前記パンの原料即ちパン粉の原料としては、基本的には、この種のパン粉で使用可能なものを特に制限なく用いることができる。典型的なパン粉の原料は、薄力小麦粉、中力小麦粉、準強力小麦粉、強力小麦粉、デュラム小麦粉などの小麦粉を主体とし、さらにイースト、イーストフード、糖、澱粉、食塩、グルテン、大豆粉、乳化剤、増粘剤、ショートニング、色素、pH調節剤などを含む。
【0022】
本発明のパン粉は、食品素材に対する付着性と該パン粉を用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品の食感とのバランスの観点から、水分値が6〜14%、特に7〜13%であることが好ましい。パン粉の水分値が低すぎると、パン粉付加熱調理済み食品の食感が硬くなるおそれがあり、パン粉の水分値が高すぎると、パン粉の食品素材に対する付着性が低下するおそれがある。パン粉の水分値は、例えば、前記の乾燥パン粉の製造方法において生パン粉の乾燥条件を適宜調整することによって調整できる。
【0023】
本発明において「水分値」は、規定の条件の下に、試料(パン粉又はパン粉ミックス)を加熱乾燥したときに生じる、該試料の質量減少率を意味する。例えば、試料3gを105℃で3時間加熱乾燥したときに、その減量分の重量の、乾燥前の試料重量(3g)に対する百分率として測定できる。
【0024】
本発明には、前述した本発明のパン粉(以下、「特定パン粉」ともいう)を含むパン粉ミックスが包含される。この本発明のパン粉ミックスは、特定パン粉に加えてさらに、蛋白質素材及び増粘剤からなる群から選択される1種以上を含むものである。特定パン粉は、それ単独でも食品素材に対して高い付着性を有し、打ち粉あるいは食品素材の液卵、バッター液への浸漬などの予備操作を行わずとも、食品素材に直接まぶすだけの簡便な操作だけで、油ちょうなどの加熱調理の前後において食品素材から剥がれにくく、外観及び食感が良好な高品質のパン粉付加熱調理済み食品を容易に製造することができるものであるが、本発明のパン粉ミックスは、食品素材に対する付着性が特定パン粉よりも一層向上している。以下、本発明のパン粉ミックスについて説明する。
【0025】
本発明のパン粉ミックスにおける特定パン粉の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは70〜99質量%、さらに好ましくは75〜95質量%である。パン粉ミックスにおいて特定パン粉の含有量が少なすぎると、特定パン粉を使用する意義に乏しく、特定パン粉の含有量が多すぎると、相対的に蛋白質素材や増粘剤などの他の成分の含有量が低下するため、特定パン粉の単独使用と実質的に変わらないこととなるおそれがある。
【0026】
本発明のパン粉ミックスで用いる蛋白質素材としては、例えば、グルテン、グリアジン、グルテニン等の小麦蛋白;全卵、卵白、卵黄等の卵蛋白;脱脂粉乳、ホエー蛋白等の乳蛋白;大豆蛋白、ゼラチン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの蛋白質素材の中でも、特に小麦蛋白及び卵蛋白が好ましく、とりわけグルテン及び乾燥卵白が好ましい。
【0027】
本発明のパン粉ミックスで用いる増粘剤としては、例えば、α化澱粉、加工澱粉、グルコマンナン、寒天、カードラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、ゼラチン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの増粘剤の中でも、特にα化澱粉及びグルコマンナンが好ましい。
【0028】
本発明のパン粉ミックスにおける蛋白質素材及び増粘剤の含有量は、それぞれ、該ミックスの全質量に対して、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは5〜25質量%である。パン粉ミックスにおいて蛋白質素材、増粘剤の含有量が少なすぎると、これらを使用する意義に乏しく、該含有量が多すぎると、パン粉ミックスを用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品の食感が硬くなるおそれがある。蛋白質素材及び増粘剤の双方を併用する場合、両者の含有質量比は、蛋白質素材:増粘剤として、好ましくは90:1〜1:3、さらに好ましくは20:1〜1:2である。
【0029】
本発明のパン粉ミックスは、これを用いて得られるパン粉付加熱調理済み食品の外観や食感を害さない範囲で、前記成分(特定パン粉、蛋白質素材、増粘剤)以外の他の成分を含有していてもよく、例えば、調味料、乳化剤、油脂、甘味料、食塩、香辛料、色素、酵素、香料等が挙げられ、製造目的物たるパン粉付加熱調理済み食品の種類などに応じてこれらの1種以上を適宜選択すればよい。これらの他の成分の含有量は、パン粉ミックスの全質量に対して20質量%以下が好ましい。本発明のパン粉ミックスは、特定パン粉などの各種原料を混合することで製造でき、常温常圧下で粉末状である。
【0030】
本発明のパン粉ミックスは、水分値が6〜14%、特に7〜13%であることが好ましい。パン粉ミックスの水分値は、基本的にはこれに含まれるパン粉の水分値と略同じであるので、パン粉ミックスの水分値6〜14%を達成するためには通常、水分値が6〜14%のパン粉を使用すればよい。
【0031】
本発明のパン粉及びパン粉ミックスはいずれも、生の食品素材に対して打ち粉、液卵、バッター液などを用いた公知の予備操作を行った後に、該食品素材に付着させて加熱調理する調理法に使用することもできるが、このような予備操作無しで生の食品素材に直接付着させて加熱調理する、より簡便な調理法に使用することもできる。また、これらの調理法において加熱調理する際の油量の多少は問わず、本発明のパン粉及びパン粉ミックスはいずれも、比較的少量の油を使用する焼き調理及び比較的大量の油を使用する揚げ調理の双方に使用することができ、さらに、オーブン等を使用したノンフライ調理に使用することもできる。
【0032】
少量の油での焼き調理は、例えば、本発明のパン粉又はパン粉ミックスを生の食品素材に直接付着させた後、これを少量の油、具体的には食品素材100gに対して好ましくは50ml以下、さらに好ましくは30ml以下の油と共に、鍋、フライパン、鉄板、オーブン等の調理器具を用いて常法に従って加熱調理することで実施できる。具体的には例えば、調理器具に少量の油を薄く引き延ばし、その油の上で、本発明のパン粉又はパン粉ミックスが付着した食品素材を加熱調理する。また、大量の油での揚げ調理は、例えば、本発明のパン粉又はパン粉ミックスを生の食品素材に直接付着させた後、これを大量の油、具体的には食品素材100gに対して好ましくは深さ2cm以上、さらに好ましくは深さ2〜6cmの油が入った油槽(揚げ鍋など)に投入し、常法に従って加熱調理することで実施できる。
【0033】
本発明のパン粉及びパン粉ミックスが適用可能な食品素材は特に限定されず、例えば、鶏、豚、牛、羊、ヤギなどの畜肉類、イカ、エビ、アジなどの魚介類、野菜類などの種々のものを使用することができる。また、油ちょうで使用する油は、一般的な食用油であれば特に制限はなく、例えば、菜種油、大豆白鮫油、米油、ゴマ油等の植物性油脂;ラード等の動物性油脂が挙げられる。
【0034】
本発明には、食品素材の表面に前述した本発明のパン粉又はパン粉ミックスが付着した、パン粉付食品が包含されるところ、この本発明のパン粉付食品は、冷蔵又は冷凍されていてもよい。本発明のパン粉付食品を焼くあるいは油ちょうするなどして加熱調理することにより、パン粉付加熱調理済み食品が得られる。
【0035】
前述したように、本発明のパン粉は、粒度分布及び嵩密度がそれぞれ前記特定範囲にあることに起因して、振出し容器の振出し孔から振り出して食品素材に直接付着させる使用形態に特に好適であり、該パン粉を含む本発明のパン粉ミックスについても同様である。即ち本発明のパン粉及びパン粉ミックスは、「振出し用パン粉類」と総称し得るものである。本発明には、この本発明のパン粉又はパン粉ミックスの振出し用パン粉類としての特性を活かした発明として、本発明のパン粉又はパン粉ミックスと、該パン粉又は該パン粉ミックスを含む振出し用パン粉類を収容し、該パン粉類を外部に振り出すための振出し孔を有する振出し容器とを具備する、振出し用パン粉類の収容体が包含される。ここでいう「振出し」とは、パン粉又はパン粉ミックス(パン粉類)が振出し孔を有する振出し容器に収容された状態から、該容器を振って該振出し孔から該パン粉類を外部に出すことを意味し、具体的には例えば、振出し容器における振出し孔の設置部が該容器の上部である場合において、その容器上部を真下あるいは斜め下方に向け、必要に応じ該容器を持ち手などで振動させて、該振出し孔から内容物たるパン粉類を少量ずつ出す方法が挙げられる。
【0036】
以下、本発明の振出し用パン粉類の収容体をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。
図1には、本発明の振出し用パン粉類の収容体の一実施形態である収容体1が示されている。収容体1は、
図1(a)に示すように、振出し用パン粉類2と、該パン粉類2を収容する振出し容器3とを含んで構成されている。振出し容器3の内容物たるパン粉類2は、前述した本発明のパン粉又はパン粉ミックスを含む。パン粉類2の全質量に占める本発明のパン粉又はパン粉ミックスの割合は特に制限されないが、収容体1に期待される効果をより確実に奏させるようにする観点からは斯かる割合が多いほど好ましく、100質量%即ちパン粉類2の全部が本発明のパン粉又はパン粉ミックスであることが最も好ましい。
【0037】
振出し容器3は、
図1(a)に示すように、上部開口を有する円筒状の自立可能な容器本体4と、該上部開口を閉塞する蓋体5とを含んで構成されている。容器本体4の上部側の外周面には、容器本体4の周方向に延びるねじ溝を有する雄ねじ部が形成されており、該雄ねじ部に蓋体5の内周面の雌ねじ部が螺合されることで、蓋体5が容器本体4に着脱自在に固定される。容器本体4は内部に仕切りの無い単一の空間部を有し、該空間部に振出し用パン粉類2が収容されている。
【0038】
蓋体5は、容器本体4の上部開口を覆う水平な天板部50を有し、天板部50に、パン粉類2を外部に振り出すための振出し孔51が1個穿設されている。収容体1における振出し孔51は、
図1(b)に示す如き平面視において楕円形状(長楕円形状)をなし、その長手方向に延びる外側縁51a及び内側縁51bの双方が互いに平行な直線である。
【0039】
また、収容体1における天板部50には、振出し孔51に加えてさらにスプーン挿入孔52が1個穿設されている。スプーン挿入孔52は、
図1(b)に示す如き平面視において半円状をなし、天板部50の周方向に沿って延びる円弧状の外側縁52aと、直線状の内側縁52bとを有している。
図1(b)に示す如き平面視において、天板部50の径方向の一方側に振出し孔51、他方側にスプーン挿入孔52がそれぞれ配されており、より具体的には、天板部50の中心50c及び振出し孔51の中心51cを通る直線L1と、中心50c及びスプーン挿入孔52の中心52cを通る直線L2とのなす角度(中心角)θが180度になされている。
【0040】
蓋体5の天板部50には、振出し孔51を閉塞する開平蓋53と、スプーン挿入孔52を閉塞する開平蓋54とが設けられている。より具体的には、天板部50における振出し孔51とスプーン挿入孔52との間には、開閉機能を有さず、容器本体4の上部開口を常時閉塞する非開閉部55が配されており、両開平蓋53,54それぞれは、その天板部50の径方向の内方端側が非開閉部55に固定され、その非開閉部55との固定部を中心として振出し孔51又はスプーン挿入孔52の上方を回動可能に設置されている。両開平蓋53,54の回動機構は特に制限されず、この種の振出し容器において蓋体の開平に採用されている機構を特に制限なく用いることができる。収容体1がこのような開平蓋53,54を有することで、内容物たるパン粉類2が吸湿する、容器本体4内に異物が混入するなどの不都合が防止される。
【0041】
収容体1からパン粉類2を振り出して食品素材に付着させる場合には、振出し孔51を閉塞している開平蓋53の、天板部50の径方向の外方端側(非開閉部55との固定部側とは反対側)を引き上げて振出し孔51を露出させ、その状態で収容体1を手指で把持して振出し孔51を収容体1の下方に配された食品素材に向けるようにし、必要に応じ収容体1を軽く振ればよい。そうすることによって
図2に示すように、振出し孔51から内容物たるパン粉類2が振り出され、食品素材(図示せず)の表面に落下して付着する。
【0042】
また、収容体1においては、容器本体4内のパン粉類2の取り出し方法として、
図2に示す如き振出し孔51から振り出す方法の他に、スプーンを用いて取り出す方法を採ることもできる。後者の取り出し方法は、柄の先端に掬い部が設けられたスプーン(図示せず)を用い、そのスプーンの掬い部をスプーン挿入孔52に挿入し、容器本体4内のパン粉類2を該掬い部で掬って取り出すことで実施される。この場合、容器本体4内においてスプーンの掬い部にパン粉類2を山盛りに載せ、その状態で該掬い部をスプーン挿入孔52に向けて引き上げ、該掬い部がスプーン挿入孔52を通過する際に、該掬い部のパン粉類2の載置面側の周縁部をスプーン挿入孔52の内側縁52bに当接させることで、該掬い部に載せられたパン粉類2の一部(山盛りのパン粉類の上部)を掻き取ることができる。従って、掬い部の容量が所定量に設定された計量スプーンを用いれば、所定量のパン粉類2を正確かつ容易に取り出すことができる。
【0043】
収容体1の主たる特徴の1つとして、振出し孔51の最大差し渡し長さW1(
図1(b)参照)が10〜55mm、好ましくは18〜40mmである点が挙げられる。ここでいう「振出し孔の最大差し渡し長さ」とは、
図1(b)に示す如き平面視(収容体1の上面視)において振出し孔51の差し渡し長さが最大となる部分の長さを意味し、換言すれば、該平面視において振出し孔51を通って任意の方向に延びる仮想直線を1本引いた場合に、その1本の仮想直線における振出し孔51との重複部分の最大長さが、振出し孔51の最大差し渡し長さW1である。振出し孔51の最大差し渡し長さW1が前記特定範囲にあることで、内容物たるパン粉類2に粒度分布及び嵩密度が特定範囲にある本発明のパン粉又はパン粉ミックスが含まれていることと相俟って、振出し孔51から適量のパン粉類2がスムーズに振り出され、且つその振り出されたパン粉類2が食品素材の周辺に飛散する不都合が効果的に抑制され、適量のパン粉類2を食品素材に効率よく付着させることができる。振出し孔51の最大差し渡し長さW1が10mm未満では、パン粉類2の振出し量が過少になる、振出し孔51がパン粉類2で詰まりやすいなどの不都合が生じるおそれがあり、最大差し渡し長さW1が55mmを超えると、収容体1を軽く振っただけで過剰量のパン粉類2が振り出されるおそれがあり、不経済であるだけでなく、多量のパン粉類2が食品素材の周辺に飛散して汚れるおそれがある。
【0044】
収容体1の振出し操作、即ち、収容体1を手指で把持して、上部側即ち振出し孔51が設けられた天板部50側が相対的に下方、下部側が相対的に上方に位置するように収容体1を傾ける操作を、1回だけを行った場合に、振出し孔51から振り出されるパン粉類2の量が、外観及び食感が良好な高品質のパン粉付加熱調理済み食品を得る上で過不足のない「適量」であると、食品素材へのパン粉付け作業の負担が軽減され、パン粉付加熱調理済み食品を効率よく製造することができる。ここでいう「適量のパン粉類」は、食品素材の形状や大きさ、製造目的物たるパン粉付加熱調理済み食品の種類などによって異なるが、例えば、食品素材の表面積が50〜500cm
2程度の場合には約2〜30gのパン粉量が適量である。また、パン粉付け作業の簡便性の観点から、適量のパン粉類(例えば約2〜30gのパン粉類)は、収容体1の振出し操作を3〜10回程度行うことで達成されることが好ましい。従って、収容体1においては、1回の振出し操作で振出し孔51から振り出されるパン粉類2の量が約0.5〜10gとなるように、振出し孔51の最大差し渡し長さW1が調整されることが好ましい。
【0045】
本発明において、振出し孔51の平面視形状は
図1(b)に示す如き楕円形状に限定されず任意に設定可能であり、例えば、円形、三角形、四角形、五角形以上の多角形とすることができる。また、
図1(b)に示す楕円形状の振出し孔51は、その長手方向に延びる外側縁51a及び内側縁51bがいずれも直線であるが、両側縁51a,51bの双方が、円形状の天板部50の周方向に沿って延びる曲線であり、天板部50の径方向外方に向けて凸に湾曲していてもよい。また、収容体1が有する振出し孔51の数は1個に限定されずに複数でもよく、好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個である。振出し孔51が複数設けられている場合は、その複数の振出し孔51それぞれから振り出されたパン粉類2の総量が、前記のように約2〜8gの範囲にあることが好ましい。
【0046】
また本発明において、収容体1(容器本体4)の形状は図示の如き円筒状に限定されず任意に設定可能であり、例えば、上部開口が平面視において楕円形、三角形、四角形又は五角形以上の多角形をなしている自立可能な筒状体でもよく、あるいは自立可能な袋状(いわゆるスタンディングパウチ)でもよい。また、収容体1(容器本体4)の大きさは片手で把持できる程度が好ましく、具体的には例えば
図1(a)を参照して、高さHが100〜400mm、幅(高さ方向と直交する方向の長さ。例えば、直径又は一辺の長さ。)W2が50〜300mmである。また、容器本体4の内部空間の容積は、例えば80〜500g程度のパン粉類を収容できる大きさとして、200〜3000mL程度とすることができる。また、容器本体4及び蓋体5の素材としては、パン粉類の変質を起こしにくい素材であって且つ振出し操作の際に変形しにくい素材であれば特に限定されず、例えばプラスチック、金属、紙が挙げられる。
【0047】
また、
図1(b)に示す形態においては、振出し孔51とスプーン挿入孔52とは中心角θにして180度ずれていたが、両孔51,52の配置は中心角θにして90〜180度の範囲で任意に設定可能であり、また、スプーン挿入孔52は無くてもよい。また、両孔51,52の開平機構は特に限定されず、例えば、嵌合蓋やねじ込みキャップのような形態でもよく、片手で簡便に開閉可能なスライド蓋やフラップ蓋のような形態でもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〜17及び比較例1〜5〕
主原料として、小麦粉、イースト、イーストフード及び澱粉を用い、これらを所定の比率で混合し、その混合物に所定量の水を加え混捏して生地を得、該生地を用いて常法に従って一次発酵、二次発酵、成形、焼成により製パンした。得られたパンを粉砕し乾燥させて、水分値10%のパン粉を得た。得られたパン粉を、篩を用いて複数の粒径の画分に取り分けた後、それら複数の画分を再混合して、下記表1〜2に示す粒度分布及び嵩密度を有するパン粉を製造した。
【0050】
(試験例1)
試験対象のパン粉をトレイに広げ、そのパン粉の上に生の食品素材としての豚ロース肉(厚さ約1.2cm、約100g×1枚)を載せ、豚ロース肉を複数回上下反転させてその全面にパン粉を直接付着させた。こうしてパン粉が付着した豚ロース肉を170℃に熱した油槽に投入して3分間油ちょう調理してとんかつ(パン粉付加熱調理済み食品)を製造した。10名のパネラーに、製造直後のとんかつの外観を下記評価基準で評価してもらうと共に、該とんかつを食してもらいその際の食感を下記評価基準で評価してもらった。その結果を10名のパネラーの評価点(5点満点)の平均点として下記表1〜2に示す。
【0051】
(外観の評価基準)
5点:衣(パン粉)が全体に均一に付着し、剣立ちもよく、極めて良好である。
4点:衣(パン粉)が全体に付着し、良好である。
3点:衣(パン粉)が部分的に薄い箇所があるが、やや良好である。
2点:衣(パン粉)が部分的に薄い箇所があり、不良である。
1点:衣(パン粉)が部分的に薄いか剥がれた箇所があり、極めて不良である。
(食感の評価基準)
5点:衣のサクミが十分にあり、極めて良好である。
4点:衣のサクミがあり、良好である。
3点:衣のサクミがやや弱いが、食感としてはやや良好である。
2点:衣のサクミが弱いか硬く、不良である。
1点:衣のサクミに欠けるか硬すぎ、極めて不良である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示す通り、各実施例のパン粉は各比較例のパン粉に比して、とんかつの外観及び食感の両方に優れていた。比較例1及び2は、粒径2.36mm以上の画分の割合が8〜21質量%の範囲外であるため、比較例3は、粒径1.18mm以下の画分の割合が45質量%を超えるため、各実施例に比してとんかつの外観及び食感に劣る結果になったと推察される。また、表1の実施例の中では実施例5が最も低評価であったことから、粒径1.18mm以下の画分の割合は、実施例6〜9の範囲内である20〜45質量%程度、特に実施例7〜8の範囲内である22〜43質量%程度が好ましいことがわかる。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示す結果から、パン粉の嵩密度は、実施例10〜17の範囲内である270〜600ml/100gが好ましく、特に、実施例12〜16の範囲内である370〜590ml/100g程度が好ましく、とりわけ、実施例13〜14の範囲内である450〜570ml/100g程度が好ましいことがわかる。
【0056】
〔実施例18〜29〕
実施例3のパン粉(特定パン粉)に他の原料を適宜混合して、パン粉又はパン粉ミックスからなる衣材を製造した。使用した他の原料は下記の通りである。
・小麦グルテン(グリコ栄養食品製「A−グルG」)
・乾燥卵白(キユーピー製「乾燥卵白」)
・α化澱粉(松谷化学工業製「マツノリン」)
・グルコマンナン(株式会社荻野商店製「スーパーマンナン」)
各実施例の衣材を用い、前記試験例1と同様にとんかつ(パン粉付加熱調理済み食品)を製造し、そのとんかつの外観及び食感を評価した。その結果を10名のパネラーの評価点(5点満点)の平均点として下記表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3において、実施例3と他の実施例との対比から、特定パン粉に加えてさらに蛋白質素材及び/又は増粘剤を配合することが、パン粉付加熱調理済み食品の外観及び食感を向上させる上で有効であることが明白である。
また、衣材たるパン粉ミックスにおける蛋白質素材の含有量は、実施例19〜21の範囲内である15〜30質量%程度が特に好ましいことがわかる。パン粉ミックスにおける増粘剤の含有量については同様であると推察される。また、実施例26〜27が最も高評価であったことから、蛋白質素材及び増粘剤の併用が特に有効であることがわかる。
【0059】
〔実施例30〜37及び比較例6〜7〕
図1に示す振出し容器3と同様の基本構成を有するプラスチック製の振出し容器を作製し、該容器に振出し用パン粉類として、実施例26の衣材(パン粉ミックス)を120g充填して、振出し用パン粉類の収容体を作製した。各収容体における振出し容器は、
図1に示す振出し容器3と同様に円筒状をなし、高さH(
図1(a)参照)が150mm、幅W2(
図1(a)参照)が80mmであった。
【0060】
(試験例2)
水平、硬質且つ平滑な試験台の上面に印をつけ、試験対象の収容体を手指で把持して、該印の真上で該印から10cm離れた位置に、振出し孔が設けられた天板部を上にして支持する。こうして収容体が手によって空中に支持された状態から、該収容体の上下を素早く反転させて天板部をその真下の印に対向させる操作(振出し操作)を1回行い、その1回の振出し操作によって振出し孔から振り出された内容物たる衣材(パン粉ミックス)の重量を測定して「振出し量」とし、1つの試験対象(振出し用パン粉類の収容体)につき、前記の一連の操作を10回行い、それらの平均値を当該試験対象の振出し量とした。またさらに、試験対象の収容体の「振り出しやすさ」を、収容体から振り出された衣材の前記試験台上での位置及び量に基づき官能試験により評価した。前記の「振出し量」及び「振出しやすさ」は、それぞれ下記評価基準で評価した。その結果を下記表4に示す。
【0061】
(振出し量の評価基準)
A(最高評価):振出し量が1.5g〜5.5g
B:振出し量が0.5g以上1.5g未満又は5.5g超10.0g以下
C(最低評価):振出し量が0.5g未満又は10.0g超
(振出しやすさの評価基準)
A(最高評価):狙った場所へ、無駄なく適切に振り出せ、非常に使い易い。
B:狙った場所へ、振り出せて、使い易い。
C(最低評価):狙った場所へ振り出せるが、振り出し回数を多くする必要があり、手間がかかり使いにくい、もしくは、狙った場所以外にもパン粉が飛散してしまい、使いにくい。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示す通り、各実施例の収容体は各比較例の収容体に比して、内容物たる衣材(パン粉ミックス)の振出し量が適切な範囲にあり、また、振出しやすさの結果が良好であった。従って各実施例の収容体は、食品素材の表面に衣材を適量均一にまとまりよく付着させることができ、いわゆるパン粉付け作業を簡単に行えるものであることがわかる。比較例6及び7は、振出し孔の最大差し渡し長さが10〜55mmの範囲外であるため、各実施例に比してパン粉付け作業の容易性に劣る結果になったと推察される。
本発明のパン粉は、粒径2.36mm以上の画分の割合が8〜21質量%且つ粒径1.18mm以下の画分の割合が45質量%以下の粒度分布を有し、嵩密度が270〜600ml/100gである。本発明の振出し用パン粉類の収容体(1)は、本発明のパン粉又はこれを含むパン粉ミックスと、該パン粉又は該パン粉ミックスを含む振出し用パン粉類(2)を収容し、パン粉類(2)を外部に振り出すための振出し孔(51)を有する振出し容器(3)とを具備する。振出し孔(51)の最大差し渡し長さ(W1)が10〜55mmである。本発明のパン粉及びパン粉ミックスによれば、畜肉や魚介等の食品素材に直接まぶして油ちょうするだけの簡便な操作で、油ちょうの際の油量の多少を問わず、適度にサクミのあるクリスピーな食感の衣が十分な量で全体に均一に付着し且つ具材の風味が高度に保たれた高品質のパン粉付加熱調理済み食品が得られる。