(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401445
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤および生着促進剤並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/51 20150101AFI20181001BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20181001BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
A61K35/51
A61P43/00 107
A61P43/00 121
A61P7/06
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-213024(P2013-213024)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-74639(P2015-74639A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】大 津 真
(72)【発明者】
【氏名】中 内 啓 光
(72)【発明者】
【氏名】高 橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】石 田 隆
【審査官】
伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−517975(JP,A)
【文献】
特開平10−295369(JP,A)
【文献】
特開2007−135438(JP,A)
【文献】
特表平08−500009(JP,A)
【文献】
特表2004−536139(JP,A)
【文献】
WAGNER, A.M. et al.,Transfusion,2013年 7月,Vol.53,p.1510-9
【文献】
BAKER, J.N. et al.,Blood,2005年,Vol.105,p.1343-7
【文献】
WEINREB, S. et al.,Bone Marrow Transplant,1998年,Vol.22,p.193-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤であって、
(a)レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血であって免疫細胞を含むさい帯血またはさい帯血の全血と、
(b)レシピエントとのMHC適合度が3〜6不一致のいずれかである少なくとも1人のドナーのさい帯血から得られた造血幹細胞と
の組合せを含んでなる、組合せ細胞製剤。
【請求項2】
上記少なくとも1人のドナーのさい帯血がいずれも、3〜6抗原不一致のいずれかである、請求項1に記載の組合せ細胞製剤。
【請求項3】
任意の2つのドナー間のMHC適合度が、いずれも独立して3〜6抗原不一致のいずれかである、請求項1または2に記載の組合せ細胞製剤。
【請求項4】
造血幹細胞が、さい帯血からCD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより得られる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組合せ細胞製剤。
【請求項5】
ドナーが、2〜5個体からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組合せ細胞製剤。
【請求項6】
ドナーおよびレシピエントがヒトである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組合せ細胞製剤。
【請求項7】
レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである免疫細胞を含むさい帯血またはさい帯血の全血中の造血幹細胞の生着を促進させることに用いるための細胞製剤であって、前記造血幹細胞とは同種異系の関係であり、かつレシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである個体由来のさい帯血から得られた造血幹細胞を含む、細胞製剤。
【請求項8】
免疫細胞を含むさい帯血またはさい帯血の全血と組み合わせて使用される、請求項7に記載の細胞製剤。
【請求項9】
投与対象における当該対象体内に存在している自己造血幹細胞の活性化のための、請求項7に記載の細胞製剤。
【請求項10】
再生不良性貧血の治療に用いるための、請求項9に記載の細胞製剤。
【請求項11】
更なる1以上の個体由来のさい帯血から得られた造血幹細胞を含む、請求項7〜10のいずれか一項に記載の細胞製剤。
【請求項12】
更なる1以上の個体由来のさい帯血が、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかであるさい帯血である、請求項11に記載の細胞製剤。
【請求項13】
さい帯血が、2〜5個体から由来する、請求項11または12に記載の組合せ細胞製剤。
【請求項14】
任意の2つのさい帯血間のMHC適合度が、いずれも独立して3〜6抗原不一致のいずれかである、請求項11〜13のいずれか一項に記載の細胞製剤。
【請求項15】
造血幹細胞が、さい帯血からCD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより得られる、請求項7〜14のいずれか一項に記載の細胞製剤。
【請求項16】
ヒトに投与するための、請求項7〜15のいずれか一項に記載の細胞製剤。
【請求項17】
造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法であって、
(a)複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべてのドナーのさい帯血から造血幹細胞を分画することと、
(c)1のドナーのさい帯血を、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血から選択することと{但し、前記1のドナーのさい帯血は、免疫細胞を含む}、
(d)上記(b)で得られた造血幹細胞と、上記(c)で得られたさい帯血とを組合せ細胞製剤として組み合わせることと、
を含んでなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤および生着促進剤並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血細胞移植は、白血病等の血液悪性腫瘍および先天性免疫不全症等の多くの難治疾患に対する根治療法として行われている。造血幹細胞移植の細胞源としては、長期骨髄再構築能と多分化能とを兼ね備える造血幹細胞を含む細胞源が用いられる。特にさい帯血は、非侵襲的に得られること、造血幹細胞の活性が高いこと、および急性移植片対宿主病(急性GVHD)反応が他のソースの移植と比べて弱いこと等の理由からその需要が増加している。
【0003】
さい帯血を用いた造血幹細胞移植では、患者の体重当り2×10
7〜3×10
7細胞の有核細胞を含むさい帯血が必要とされる(すなわち、70kgの体重の成人患者では一人当り約1×10
9〜2×10
9細胞)。しかしながら、1回の出産に伴い得られるさい帯血の量は限られ、平均的には、含有有核細胞数は、1さい帯血当り約7×10
8〜8×10
8細胞(すなわち、70kgの体重の成人患者では体重当り約1×10
7細胞)に過ぎない。このため、多くのさい帯血は移植に使用されずにデッドストックとなっているのが現状である。また、十分なさい帯血量を確保できる見込みが無い場合には、さい帯血を保存しないで廃棄することもある。従って、十分な有核細胞を含まないさい帯血を造血幹細胞移植に利用する方法を開発することが必要である。
【0004】
この問題を克服するために、複数のさい帯血ユニットを混合して移植する試みがなされているが、いずれのさい帯血ユニットについても、レシピエントとの間でHLA抗原を4抗原以上適合させることが必要である(非特許文献1)。そのため、依然として上記の状況を改善するには至っていない。
【0005】
また、最低限の必要細胞数(患者の体重当り2×10
7〜3×10
7細胞)を移植した場合でも、さい帯血移植後のレシピエントにおける好中球数および血小板数等の造血回復は、末梢血造血幹前駆細胞の移植と比較して遅いことが知られている。従って、造血回復を促進し致死的合併症を回避しうる方法の開発が、さい帯血移植における喫緊の課題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L.R. Fanning et al., Leukemia, 2008, 22: 1786-1790
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤および生着促進剤並びにこれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、さい帯血移植のモデルとして複数系統のマウス由来の造血幹細胞をMHC適合度に関係なく組み合わせてレシピエントに移植したところ、移植造血幹細胞は、レシピエント体内で造血回復を引き起こすことを明らかにした。また、造血回復時の血液のキメラ状態を確認したところ、驚くべきことに、レシピエントとのMHC適合度に関係なくすべての系統の造血幹細胞が造血回復に寄与していた。さらに本発明者らは、レシピエントとのMHC適合度の高いドナー由来の造血幹細胞に、複数系統のマウス由来の造血幹細胞をMHC適合度に関係なく組み合わせてレシピエントに移植したところ、ドナー由来の造血幹細胞に十分な数の有核細胞が含まれていない場合でも、レシピエント体内で造血回復を引き起こせることを明らかにした。本発明は、このような知見に基づいてなされた発明である。
【0009】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤であって、
レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、
少なくとも1人のドナーのさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血と
の組合せを含んでなる、組合せ細胞製剤。
(2)少なくとも1人のドナーのさい帯血が3〜6抗原不一致のいずれかである、上記(1)に記載の組合せ細胞製剤。
(3)いずれのドナーのさい帯血からも免疫細胞が実質的に除去された、上記(1)または(2)に記載の組合せ細胞製剤。
(4)任意の2つのドナー間のMHC適合度が、いずれも独立して3〜6抗原不一致のいずれかである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(5)免疫細胞が、さい帯血からCD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより、実質的に除去された、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(6)ドナーが、2〜5個体からなる、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
(7)ドナーおよびレシピエントがヒトである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の組合せ細胞製剤。
【0010】
(8)造血幹細胞活性化のための細胞製剤であって、さい帯血を含んでなり、該さい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去されている、細胞製剤。
(9)さい帯血が、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである、上記(8)に記載の細胞製剤。
(10)造血幹細胞移植用の細胞製剤と組み合わせて使用される、上記(8)または(9)に記載の細胞製剤。
(11)組み合わせて使用される細胞製剤が、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血を含んでなるものである、上記(10)に記載の細胞製剤。
(12)投与対象における自己造血幹細胞活性化のための、上記(8)または(9)に記載の細胞製剤。
(13)再生不良性貧血の治療に用いるための、上記(12)に記載の細胞製剤。
(14)更なる1以上の個体由来のさい帯血を含んでなり、該さい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去されている、上記(8)〜(13)のいずれかに記載の細胞製剤。
(15)更なる1以上の個体由来のさい帯血が、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかであるさい帯血である、上記(14)に記載の細胞製剤。
(16)さい帯血が、2〜5個体から由来する、上記(14)または(15)に記載の組合せ細胞製剤。
(17)任意の2つのさい帯血間のMHC適合度が、いずれも独立して3〜6抗原不一致のいずれかである、上記(14)〜(16)のいずれかに記載の細胞製剤。
(18)免疫細胞が、さい帯血からCD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより、除去される、上記(8)〜(17)のいずれかに記載の細胞製剤。
(19)ヒトに投与するための、上記(8)〜(18)のいずれかに記載の細胞製剤。
【0011】
(20)造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法であって、
(a)複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべてのドナーのさい帯血から少なくとも免疫細胞を実質的に除去することと、
(c)1のドナーのさい帯血を、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血から選択すること
を含んでなる方法。
(21)造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法であって、
(a)複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべてのドナーのさい帯血から少なくとも免疫細胞を実質的に除去すること
を含んでなる方法。
(22)免疫細胞が、CD34陽性細胞またはCD34陽性かつCD38陰性の細胞を回収することにより、除去される、上記(20)または(21)に記載の方法。
(23)さい帯血がヒトのさい帯血である、上記(20)〜(22)のいずれかに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、造血回復(生存)に必要な造血幹細胞数を決定するための移植実験のスキームを示す。
【
図2】
図2は、造血回復(生存)に必要な造血幹細胞数を求める実験の結果である。
【
図3】
図3は、造血回復(生存)に必要な全骨髄細胞数を求める実験の結果である。
【
図4】
図4は、レシピエントと異なるMHC抗原を有する造血幹細胞を移植した場合のレシピエントの造血回復(生存)の結果を示す。
【
図5】
図5は、レシピエントと異なるMHC抗原を有する造血幹細胞を複数種混合して移植した場合のレシピエントの造血回復(生存)の結果を示す。
【
図6】
図6は、レシピエントとそれぞれ異なるMHC抗原型を有する造血幹細胞を複数種混合して移植した場合のレシピエントにおける白血球細胞数および血小板数の移植後の推移を示す。
【
図7】
図7は、レシピエントで構築された造血系に対する様々なMHC抗原型を有する造血幹細胞の寄与を示す図である。
【
図8】
図8は、レシピエントと同一のMHC抗原型を有する全骨髄細胞と、レシピエントと異なるMHC抗原型を有する造血幹細胞4系統とを混合して移植した場合の、レシピエントの造血回復(生存)の結果を示す。
【
図9】
図9は、レシピエントで構築された造血系に対する様々なMHC抗原型を有する造血幹細胞の寄与を示す図である。
【0013】
本明細書では、「さい帯血」は、胎児と母体とをつなぐさい帯から得られる血およびその構成成分を意味する。「さい帯」とは、哺乳類において胎児と胎盤とを連絡する索をいう。さい帯血は、造血幹細胞を多く含むため、造血幹細胞移植の際に好ましく用いられる。しかしながら、さい帯血は、成人に投与するために十分な量得られることは少なく、さい帯血採取技術が向上した近年では成人での移植例も増加しているものの、さい帯血の移植は、一般的には、子どもを対象としてなされることが多い。
【0014】
本明細書では、「さい帯血」は、さい帯血から免疫細胞を除去する処理がなされて得られる細胞群、および、さい帯血に何らかの処理を施した結果、免疫細胞が実質的に除去された細胞群をも意味する。従って、「さい帯血」は、さい帯血から造血幹細胞が濃縮された分画を得た結果、免疫細胞が実質的に除去された細胞群、および、さい帯血から得られる造血幹細胞をも意図して用いられる。例えば、下記に説明する、CD34陽性細胞若しくはCD34陽性CD38陰性細胞またはこれらの培養物も本明細書では、「免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血」である。
【0015】
本明細書では、「さい帯血のストック」は、さい帯血バンクに保存されたさい帯血を意味する。多くの場合、さい帯血のストックは、出産の際に採取されたさい帯血が凍結保存されたものである。本発明では、さい帯血のストックには、凍害保存剤を添加してもよい。
【0016】
本明細書では、「造血幹細胞」は、血球系細胞に分化する多分化能と自己複製能を有する細胞である。ヒト造血幹細胞は、例えば、さい帯血からCD34陽性細胞として分画して得ることができる。ヒト造血幹細胞はまた、例えば、CD34陽性細胞からさらにCD38陰性の細胞(CD34
+CD38
−)として分画して得ることもできる。また、マウス造血幹細胞は、例えば、骨髄からリニエージマーカー(lineage marker)陰性、c−kit陽性、Sca−1陽性の細胞(以下、「KSL細胞」という)として分画して得られる。リニエージマーカーは、各系統(lineage)の成熟血球細胞(リンパ球、赤血球、好中球およびマクロファージなど)において特異的に発現するマーカー分子の総称である。リニエージマーカーとしては、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、TER−119およびGr−1などが挙げられる。当業者であれば、リニエージマーカーの発現に基づいてKSL細胞を分画することが容易にできる。マウス造血幹細胞はまた、CD34の発現を指標としてCD34陰性のKSL細胞またはCD34
LowのKSL細胞として分画しても得られる(Science, 1996, 12;273(5272):242-5)。そして、上記のようにして造血幹細胞を分画すると、少なくとも免疫細胞に関しては実質的に除去されることになる。上記マーカーを利用して細胞を分画する方法は、血液学の分野において周知である。
【0017】
本明細書では、「移植造血幹細胞」とは、レシピエントに移植された造血幹細胞を意味する。
【0018】
本明細書では、「造血幹細胞移植」とは、提供者(ドナー)の造血幹細胞を患者(レシピエント)に対して移植することを意味する。造血幹細胞移植としては、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、およびさい帯血移植が挙げられる。造血幹細胞移植においては、通常、骨髄抑制を引き起こす処理を移植前に行って、患者の骨髄と、場合によって悪性腫瘍の壊滅を引き起こし、その後、造血幹細胞を移植することにより行われる。骨髄抑制を引き起こす処理としては、放射線照射や抗癌剤の投与が挙げられる。さい帯血移植におけるレシピエントとしては、白血病患者、再生不良性貧血患者、先天性免疫不全症患者、およびムコ多糖症や副腎白質ジストロフィーなどの先天性代謝異常疾患患者が挙げられる。造血幹細胞移植は、哺乳類、特にヒトにおいて行われる。一般的には、移植する骨髄、末梢血またはさい帯血は、免疫細胞を含む状態で移植される。
【0019】
「さい帯血移植」は、造血幹細胞移植の一種であり、造血幹細胞の細胞源としてさい帯血を移植することを意味する。
【0020】
本明細書では、「MHC」とは、主要組織適合遺伝子複合体を意味する。MHCは、移植免疫において移植片拒絶反応を引き起こす細胞表面の抗原群であり、マウスではH−2抗原、ヒトではHLA抗原として知られている。ヒトの造血幹細胞移植の際には、HLAの遺伝子座のうち、父方および母方それぞれのA座、B座およびDR座の遺伝子によりコードされる6つのHLA抗原の型を、ドナーとレシピエントとの間で可能な限り一致させることが望ましいとされている。
【0021】
本明細書では、「MHC適合度」とは、MHCにおける抗原型が、ドナーとレシピエントとの間でいくつ不一致であるかを意味する。特にヒトの場合では、「MHC適合度」はHLA適合度を意味し、ドナーとレシピエントとの間で6つのHLA抗原のうちいくつが不一致であるかを意味する。適合度が高いとは、不一致の抗原数が少ないことを意味し、適合度が低いとは不一致の抗原数が多いことを意味する。抗原の一致とは、血清型が一致することを意味する。
【0022】
さい帯血移植では、ドナーとレシピエントが、自己の関係であるか同種同系の関係であることが好ましいが、同種異系の関係であってもよい。現在の移植実務によれば、さい帯血移植では、一般的には、ドナーとレシピエントとの間で2抗原以下の不一致が許容される。すなわち、ドナーとレシピエントとの間で、例えば、2抗原不一致(すなわち、4抗原一致)、1抗原不一致(すなわち、5抗原一致)および0抗原不一致(すなわち、6抗原一致)のいずれかであれば、移植することが可能である。そして、ドナーとレシピエントとのMHC抗原の適合度は高いほど好ましく、例えば、1抗原不一致がより好ましく、0抗原不一致が最も好ましい。逆に、ドナーとレシピエントとの間で、例えば、3抗原不一致(すなわち、3抗原一致)、4抗原不一致(すなわち、2抗原一致)、5抗原不一致(すなわち、1抗原一致)および6抗原不一致(すなわち、0抗原一致)の場合には、適合度が低くなるにつれてさい帯血移植はより困難になる。HLA一致度の意義は、基礎疾患によって異なり、再生不良性貧血や第一寛解期急性骨髄性白血病ではHLA一致度が高い方が移植成績は良いが、非寛解期急性白血病などのハイリスク症例ではHLA不一致でもGVL効果による再発抑制などにより生存率が高いとする報告もある。
【0023】
本明細書では、「免疫細胞が実質的に除去された」とは、免疫細胞が実質的に除去される処理がなされていることを意味し、別の何らかの処理に付された結果、免疫細胞が実質的に除去されたことも含む意味で用いられる。本明細書では、「免疫細胞が実質的に除去された」とは、免疫細胞数が、例えば、除去前と比較して30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、3%以下または1%以下に低減していることをいう。本明細書では、「少なくとも免疫細胞が実質的に除去された」とは、免疫細胞が実質的に除去されている限り、免疫細胞以外の細胞が除去されていてもよいことを意味する。従って、「少なくとも免疫細胞が実質的に除去された」とは、造血幹細胞を分画すること(これにより結果として免疫細胞が実質的に除去される)を含む意味で用いられる。造血幹細胞を分画する方法は上述した通りである。例えば、ヒトさい帯血から造血幹細胞および造血前駆細胞を取得する場合には、CD34陽性細胞を採取することで、免疫細胞は実質的に除去される。CD34陽性細胞の採取または分画は、当業者であれば常法に従って行うことができる。従って、「少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血」としては、例えば、さい帯血から得られる造血幹細胞を含んでなる細胞分画(例えば、ヒトCD34陽性細胞およびヒトCD34陽性CD38陰性の細胞)が好ましく用いられ得る。
【0024】
本明細書では、「組合せ」とは、2以上の物の組合せを意味する。組合せでは、組み合わせの対象物が混合された状態(例えば、混合物や組成物)であってもよいし、組み合わせの対象物が混合されずに互いに分離した形態(例えば、キット)であってもよい。
【0025】
本発明の組合せ細胞製剤は、複数のドナー由来のさい帯血の組合せを含んでなる。従って、本明細書では、「組合せ細胞製剤」とは、複数のドナー由来のさい帯血の組合せを含んでなる細胞製剤を意味する。
【0026】
本明細書では、「生着促進剤」とは、造血幹細胞移植後に移植造血幹細胞がレシピエント体内に生着することを促進させる作用剤を意味する。本明細書では、「生着」とは、移植造血幹細胞がレシピエントの体内で血液細胞を作り始めることを意味する。現在の医療実務では、生着は、好中球の回復により判断することが一般的であり、具体的には、ヒトでは、好中球数が3日連続して500個/μLを超えた場合に、500個/μLを超えた第1日目に生着したと判断することができる。本明細書では、「生着促進」とは、生着を示すレシピエントの割合を高めることに加えて、生着までの期間を短縮することをも意味する。
【0027】
現在、さい帯血移植による造血幹細胞移植が行われている。ヒトのさい帯血に含まれる有核細胞の数は、1単位あたり約7×10
8〜8×10
8細胞をピークとして分散している。成人の移植には、1×10
9〜2×10
9細胞(kg体重当り2×10
7〜3×10
7細胞程度)が推奨されているが、この細胞数を超える細胞を含むさい帯血は多くない。そして、有核細胞数がこの推奨細胞数に満たない多くのさい帯血は、利用されないままデッドストックとして保管され続けるか、または廃棄される。
【0028】
本発明によれば、移植するドナーのさい帯血に、そのドナーとは同種異系の関係である他の個体のさい帯血(但し、免疫細胞は実質的に除去されている)を混合することにより、ドナーのさい帯血が単独での移植に必要な細胞数を含んでいない場合であっても、ドナー由来の移植造血幹細胞を生着させ得ることを見出した。しかも、レシピエントとのMHC適合度にかかわらず、移植された細胞は、免疫系で排除されることなくレシピエントの造血系に寄与することができた。従って、本発明によれば、細胞数が不足しているために利用され得なかったさい帯血が、他の個体のさい帯血と混合することにより、活用されることになる。このような事情から、下記に説明するように、例えば、本発明では、早産(在胎週数が22〜36週)や低出生体重児の場合のさい帯血であっても用いることができる。また、本発明によれば、レシピエントとの関係ではMHC適合度を気にすることなく、さい帯血を選択することが可能であり、さい帯血利用の幅がさらに広がることになる。
【0029】
従って、本発明のある側面では、造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤であって、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、少なくとも1人のドナーのさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血との組合せを含んでなる、組合せ細胞製剤が提供される。ある態様では、少なくとも1人のドナーのさい帯血は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤では、一過的には、すべてのドナー由来のさい帯血がレシピエントの造血に寄与し得るが、最終的には、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血がレシピエントの造血系に寄与し得る。
【0030】
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ製剤は、該MHC適合度が4〜6抗原不一致のいずれか、または5抗原不一致若しくは6抗原不一致であるドナーのさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血を組合せとして含む。ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ製剤は、1人のドナーを除いて残りのすべてのドナーとレシピエントとのMHC適合度がそれぞれ3〜6抗原不一致のいずれかである。
【0031】
本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤が、ドナーのさい帯血を2以上含む場合には、ドナー間のMHC適合度は、3〜6抗原不一致であってもよい。従って、この態様では、ドナーのさい帯血は、ドナー同士のMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかでなければならないとの条件には拘束されずに、選択することができる。
【0032】
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤は、特に限定されないが、2〜10個体のドナー由来の細胞を含み、2〜5個体のドナー由来の細胞または3〜5個体のドナー由来の細胞を組合せとして含む。
【0033】
ある態様では、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかドナーのさい帯血からも免疫細胞が実質的に除去されている。この態様では、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血であっても長期間にわたりレシピエント内で残存し、レシピエントの造血回復に貢献することが可能であると考えられる。
【0034】
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血は、さい帯血採取時に測定した細胞数で、2×10
8〜1×10
9細胞、場合によっては2×10
8〜5×10
8細胞の有核細胞しか含まない。従って、本発明によれば、正期産に加えて、早産の産児の出産時に得られるさい帯血を用いることができる。
【0035】
従って、ある態様では、本発明の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血は、正期産または早産の産児の出産時に得られるさい帯血であり得る。「正期産」とは、妊娠37週0日〜妊娠41週6日までの出産をいう。「早産」とは、正期産以前の出産、すなわち妊娠22週0日〜妊娠36週6日までの出産をいう。
【0036】
同様に、ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血は、3000g以下の出生体重の産児または低出生体重児の出産時に得られるさい帯血である。「低出生体重児」とは、出生体重が2500g未満の産児をいう。
【0037】
本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤に用いるドナーの個体数は以下を指標に決定することができる。すなわち、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において組み合わせるさい帯血に含まれる細胞数は、さい帯血採取時点の有核細胞の総数で、好ましくは1×10
9細胞以上、より好ましくは2×10
9細胞以上、さらに好ましくは3×10
9細胞以上、さらにより好ましくは4×10
9細胞以上である。有核細胞数が増えるほど、移植細胞の生着率は向上する。
【0038】
従って、ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、ドナーのさい帯血は、さい帯血採取時に測定した有核細胞の総数で、2×10
8細胞以上、5×10
8細胞以上、1×10
9細胞以上、2×10
9細胞以上、3×10
9細胞以上、または4×10
9細胞以上の有核細胞を含む。
【0039】
本発明は、上述のように含有有核細胞数の少ないさい帯血であっても造血幹細胞移植製剤として利用する途を切り拓くものである。さい帯血の造血幹細胞移植で問題となるのは、さい帯血中に含有有核細胞数が移植に十分な量含まれていないことが多いことである。しかし、本発明では、MHC適合度に依らず複数個体のさい帯血を組み合わせて移植することにより、含有有核細胞数の少ないさい帯血を用いても造血幹細胞移植が生着し得る。
【0040】
従って、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤において、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーは、レシピエントとのMHC適合度が1抗原不一致であるドナーとすることができ、より好ましくは0抗原不一致であるドナーとすることができる。ある態様では、レシピエントとのMHC適合度が0抗原不一致または1抗原不一致であるドナー由来のさい帯血は、2×10
8〜1×10
9細胞、場合によっては2×10
8〜5×10
8細胞の有核細胞しか含まない。
【0041】
ある態様では、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤は、ヒトに投与することが意図されている。本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤は、好ましくは、ドナーおよびレシピエントが共にヒトである。
【0042】
後述の実施例によれば、複数個体由来のさい帯血由来の造血幹細胞を組み合わせて得た細胞製剤は、レシピエントとのMHC適合度には無関係にレシピエントの造血を活性化させた。従って、本発明によれば、造血幹細胞活性化のための細胞製剤が提供される。
【0043】
より具体的には、造血幹細胞活性化のための細胞製剤であって、さい帯血を含んでなり、該さい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去されている細胞製剤が提供される。ある態様では、さい帯血が由来する個体とレシピエントとのMHC適合度は3〜6抗原不一致のいずれかである。
【0044】
本明細書では、造血幹細胞の活性化とは、造血幹細胞の増殖および/または分化を活性化することを意味する。
【0045】
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、MHC適合度に関係なく投与できる点で有利である。すなわち、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、量産することができ、MHC適合度に関係なく様々な患者に投与することが可能である。
【0046】
ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、更なる1以上の個体由来のさい帯血を含んでなり、該さい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去されている。ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである複数の個体由来のさい帯血の組合せを含んでなり、該さい帯血から少なくとも免疫細胞が実質的に除去されている、組合せ細胞製剤である。ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、2〜10個体、2〜5個体、または3〜5個体のさい帯血の組合せを含む。
【0047】
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤が、さい帯血を2以上含む場合には、いずれの2個体間のMHC適合度も、3〜6抗原不一致であってもよい。
【0048】
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、移植造血幹細胞を活性化させることができる。従って、ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、造血幹細胞移植用の細胞製剤と組合せて使用される。すなわち、この態様における本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、移植増殖幹細胞の生着促進剤である。ここで、組み合わせて使用される造血幹細胞移植用の細胞製剤は、好ましくは、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血を含んでなる。本発明の移植増殖幹細胞の生着促進剤は、ドナーのさい帯血と混ぜてレシピエントに投与してもよいし、ドナーのさい帯血を移植する前に、同時に、または後にレシピエントに投与してもよい。本発明のある態様では、本発明の生着促進剤に含まれる細胞は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかであったとしても、レシピエントの造血に一時的に寄与し、ドナーのさい帯血による造血系の構築を補助するが、最終的にはドナーのさい帯血により構築された免疫系によりレシピエントの体内から消失し得る。このようにして、本発明の生着促進剤は、生着促進作用を発揮すると考えられる。
【0049】
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、投与対象における自己の造血幹細胞を活性化させることもできる。従って、ある態様では、本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、投与対象における自己造血幹細胞活性化のための細胞製剤である。この細胞製剤は、自己の生来の造血を補助し得ることから、自己造血機能低下により引き起こされる疾患の治療、例えば、再生不良性貧血の治療に好ましく用いることができる。従って,ある態様では、本発明の自己造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、造血機能低下により引き起こされる疾患の治療、例えば、再生不良貧血の治療に用いるための細胞製剤である。本発明の自己造血幹細胞活性化のための細胞製剤は、対象に対して繰り返し投与することが可能である。
【0050】
本発明の造血幹細胞活性化のための細胞製剤に含まれる細胞は、対象への投与後、対象の造血回復を促進するが、最終的には回復した対象自身の免疫系により排除され得る。
【0051】
本発明の組合せ細胞製剤および細胞製剤は、免疫抑制剤の併用を意図したものであってもよいし、免疫抑制剤の併用を意図しないものであってもよい。
【0052】
本発明の組合せ細胞製剤および細胞製剤は、1以上の薬学的に許容可能な担体を含んでいてもよい。
【0053】
本発明の組合せ細胞製剤および細胞製剤は、造血幹細胞移植を受ける対象(すなわち、レシピエント)、特に限定されないが例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、若年性骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、副腎皮質ジストロフィー、骨髄巨核球造血不全性血小板減少症、先天性赤芽球ろう、ファンコニー貧血などの再生不良性貧血、遺伝性ニューロパチー、ムコ多糖症、先天性好中球減少症、サラセミア、X染色体性リンパ増殖性症候群のレシピエントに投与することができる。
【0054】
本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤では、1個体のドナーのさい帯血はレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血とし、その他のさい帯血は、レシピエントとのMHC適合度に関係なく選択することができる。この場合、製造された組合せ細胞製剤は、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナー由来の移植造血幹細胞をレシピエントにおいて生着させ得る。
【0055】
従って、本発明のさらなる側面では、造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法が提供される。すなわち、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法では、下記(a)で選択され免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血に、下記(c)で選択されるさい帯血をさらに組み合わせることができる。
【0056】
具体的には、本発明の造血幹細胞移植用の組合せ細胞製剤の製造方法は、
(a)複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべてのドナーのさい帯血から少なくとも免疫細胞を実質的に除去することと、
(c)1個体のドナーのさい帯血を、レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血から選択すること
を含んでなる方法である。この方法で得られる組合せ細胞製剤は、(c)で選択されたさい帯血由来の造血幹細胞を生着させることができ、造血幹細胞移植用に用いられ得る。
【0057】
上記工程(a)では、選択されるさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致でなければならないとの条件には拘束されずに、複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択することができる。
【0058】
ある態様では、上記工程(a)では、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合に加えて、すべてのさい帯血間のMHC適合度が0抗原不一致、0〜1抗原不一致のいずれか、または0〜2抗原不一致のいずれかである場合が除かれる。
【0059】
本発明によれば、造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤を作製するためには、レシピエントとのMHC適合度に関係なくドナーまたはさい帯血を選択することができる。従って、すべてのさい帯血が、レシピエントとのMHC適合度も0〜2抗原不一致のいずれかでなければならないとの条件を満たす必要はない。特に、いずれのさい帯血も、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致であってもよい。
【0060】
従って、本発明のさらなる側面では、造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法であって、
(a)複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択すること(但し、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合を除く)と、
(b)(a)で選択されたすべてのドナーのさい帯血から少なくとも免疫細胞を実質的に除去すること
を含んでなる方法が提供される。
【0061】
上記工程(a)では、選択されるさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致でなければならないとの条件には拘束されずに、複数個体のドナーのさい帯血をさい帯血のストックから選択することができる。この場合、製造された組合せ細胞製剤は、MHC適合度に関係なく投与できる点で有利である。
【0062】
ある態様では、上記工程(a)では、すべてのさい帯血とレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかである場合が除かれ、かつ、すべてのさい帯血間のMHC適合度が0抗原不一致、0〜1抗原不一致のいずれか、または0〜2抗原不一致のいずれかである場合が除かれる。
【0063】
ある態様では、本発明の上記製造方法は、本発明の組合せ細胞製剤を製造するために用いることができる。
【0064】
ある態様では、本発明の製造方法は、移植造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法である。ある態様では、本発明の製造方法は、投与対象における自己造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤の製造方法である。ある態様では、投与対象は、再生不良性貧血の患者である。
【0065】
本明細書で用いられる「レシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致でなければならないとの条件には拘束されずに」とは、この条件に拘束されない限りどのような条件に拘束されてもよいことを意味する。例えば、本発明の造血幹細胞移植用または造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤は、(a)においてさい帯血のMHC抗原型を調べずにまたは知らずにさい帯血を選択してもよい。あるいは、本発明の造血幹細胞移植用または造血幹細胞活性化のための組合せ細胞製剤は、(a)において他のいかなる条件に基づいて選択してもよい。例えば、1人はレシピエントとのMHC適合度が0〜2抗原不一致とし、その他は特にMHC適合度を意識せずに選択してもよい。
【0066】
本発明のさらなる側面では、その必要のある対象に造血幹細胞を投与する方法であって、該対象とのMHC適合度が0〜2抗原不一致のいずれかであるドナーのさい帯血と、少なくとも1人のドナーのさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血との組合せを投与することを含んでなる方法が提供される。ある態様では、少なくとも1人のドナーのさい帯血は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。対象は、造血幹細胞移植を受ける対象(すなわち、レシピエント)、特に限定されないが例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、若年性骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、副腎皮質ジストロフィー、骨髄巨核球造血不全性血小板減少症、先天性赤芽球ろう、ファンコニー貧血などの再生不良性貧血、遺伝性ニューロパチー、ムコ多糖症、先天性好中球減少症、サラセミア、X染色体性リンパ増殖性症候群の患者である。対象がリンパ腫や白血病などの癌を患っている場合には、造血幹細胞を移植する前に、対象に対して外科的療法、化学療法および/または放射線療法を行うことにより癌細胞を体内から除去することができる。対象はヒトであり得る。
【0067】
ある態様では、移植造血幹細胞を活性化させる方法であって、その必要のある対象に少なくとも1人のドナーのさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血を投与することを含んでなる方法が提供される。ある態様では、少なくとも1人のドナーのさい帯血は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。対象は、造血幹細胞移植を受ける対象(すなわち、レシピエント)、特に限定されないが例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、若年性骨髄単球性白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、副腎皮質ジストロフィー、骨髄巨核球造血不全性血小板減少症、先天性赤芽球ろう、ファンコニー貧血などの再生不良性貧血、遺伝性ニューロパチー、ムコ多糖症、先天性好中球減少症、サラセミア、X染色体性リンパ増殖性症候群の患者である。対象がリンパ腫や白血病などの癌を患っている場合には、造血幹細胞を移植する前に、対象に対して外科的療法、化学療法および/または放射線療法を行うことにより癌細胞を体内から除去することができる。対象はヒトであり得る。
【0068】
ある態様では、対象における自己造血幹細胞を活性化させる方法であって、その必要のある対象に少なくとも1人のドナーのさい帯血であって、少なくとも免疫細胞が実質的に除去されたさい帯血を投与することを含んでなる方法が提供される。ある態様では、少なくとも1人のドナーのさい帯血は、レシピエントとのMHC適合度が3〜6抗原不一致のいずれかである。対象は、例えば、自己造血機能の低下により引き起こされる疾患、例えば、再生不良性貧血の患者である。対象はヒトであり得る。
【0069】
本発明のある態様では、投与するさい帯血は、本発明の細胞製剤または組合せ細胞製剤である。
【0070】
本発明のある態様では、投与するさい帯血の組合せは、別々に投与する、例えば、同時投与、逐次投与または連続投与することができる。
【実施例】
【0071】
実施例1:致死量の放射線照射マウスの生存に必要なKSL細胞および全骨髄細胞の必要細胞数の算出
4.9Gyの放射線を2回照射したマウスは、骨髄抑制を引き起こし死亡する。本実施例では、9.8Gyの放射線を照射したマウスにさい帯血移植のモデルとして造血幹細胞であるKSL細胞または全骨髄細胞をそれぞれ移植してマウスの生存に必要な細胞数を調べた。
【0072】
マウスの各系統は以下の通り入手した。C57BL/6 (B6, H2
b, CD45.2), CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2
b/d, CD45.2), DBA/2 (H2
d, CD45.2), B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2
b/k, CD45.2) 系統は、日本SLCより購入した。また、B6-CD45.1 (H2
b) 及び B6-CD45.1/45.2 (H2
b)系統は三共ラボサービスより購入し、DBA/1 (H2
q, CD45.2)系統は日本チャールズリバーより購入した。B6D1F1 (H2
b/q, CD45.2)系統は、オスDBA/1とメスB6-CD45.2との交配により作製し、BDF1 (H2
b/d, CD45.1/CD45.2)系統は、オスB6-CD45.1 とメスDBA2の交配によりそれぞれ作製した。全ての動物実験は東京大学医科学研究所動物実験委員会のガイドラインに従って作製し、実験に用いた。
【0073】
レシピエントマウスとしては、C57BL/6 (B6, H2
b, CD45.2)を用いた。レシピエントマウスには、移植日の7日前から酸性水(pH2.5)を摂取させ、移植当日に4.9Gyの放射線を2回(合計9.8Gy)照射して、その後、ドナー骨髄細胞を静脈内投与した。
【0074】
ドナー骨髄細胞としては、マウスKSL細胞または全骨髄細胞を用いた。マウスKSL細胞は、c−Kit陽性、Sca−1陽性、かつリニエージマーカー(Lineage marker)陰性の細胞であり、全骨髄細胞中に存在する。
【0075】
まず、常法により、各系統の8〜12週齢オスマウスの大腿骨、脛骨および骨盤から全骨髄細胞を得た。次に、マウスKSL細胞は、全骨髄細胞から以下の方法で回収した。MACS(商標)LSカラムとc−Kitマイクロビーズ(Miltenyi Biotech, Bergisch Gladbach, ドイツ)を用いてc−Kit陽性細胞を選択した。次いで、c−Kit陽性細胞を、リニエージマーカーとしてCD4、CD8、B220、IL−7R、Gr−1、Mac−1およびTer−119をビオチン化モノクローナル抗体カクテルを用いて染色し、PE−Sca−1、APC−c−Kit、APC−シアニン7−ストレプトアビジンでさらに染色した(Biolegend およびe-Bioscience)。死細胞をヨウ化プロピジウム染色により除去した後に、FACS AriaII(ベクトンディキンソン社製)を用いて、c−Kit陽性、Sca−1陽性、かつリニエージマーカー陰性を指標として、96穴プレート上にKSL細胞を回収した。
【0076】
まず、
図1に示すように、放射線照射したレシピエントマウスB6(CD45.2)に250個、500個、1000個または2000個のドナーマウスB6(CD45.1)由来のKSL細胞を移植してレシピエントマウスの生存率を確認した。
【0077】
その結果、500個以下のKSL細胞を移植した群のマウスはすべて死亡したが、2000個以上のKSL細胞を移植した群のマウスは100%の生存率を示した(
図2)。従って、この実験系では、マウスの生存には、2000個のKSL細胞が必要であることが明らかとなった。
【0078】
次に、放射線照射したレシピエントマウスB6(CD45.2)にドナーマウスB6(CD45.1)由来の全骨髄細胞を移植してレシピエントマウスの生存率を確認した。その結果、1×10
5個以下の細胞を移植した群のマウスはすべて死亡したが、2×10
5個の細胞を移植した群のマウスは、100%の生存率を示した(
図3)。従って、この実験系では、マウスの生存には、2×10
5個の全骨髄細胞が必要であることが明らかとなった。
【0079】
さらに、CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2
b/d, CD45.2)系統、B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2
b/k, CD45.2)系統、B6D1F1 (H2
b/q, CD45.2)系統およびBDF1 (H2
b/d, CD45.1/CD45.2)系統(これらはすべてレシピエントマウスと同種異系である)から得たそれぞれ500個のKSL細胞をレシピエントマウスに移植したところ、いずれの系統のKSL細胞を移植した群においてもすべてのマウスが死亡した(
図4)。この実験系では、ドナー細胞が由来するいずれの系統もレシピエントと同一のMHCを有するため、レシピエントに対してGVHDを起こすことがない。一方で、ドナー細胞はレシピエントが有さないMHCを有するため、レシピエントによる攻撃を受けうるため、宿主対移植片反応(HVGR)を引き起こし得る。従って、本実験系は、移植したドナー細胞の生着の観点では厳しい条件である。
【0080】
ヒトのさい帯血移植では、2×10
7〜3×10
7細胞/kg体重が必要とされている。ヒトのさい帯血から得られる細胞は、多くの場合、7×10
8細胞程度であるが、70kgの体重の成人に投与すると、1×10
7細胞/kg体重程度と計算され、さい帯血移植に必要な細胞数に満たない。すなわち、70kgの体重の成人へのさい帯血移植には、2〜3単位以上のさい帯血が必要である。
【0081】
本実施例によれば、放射線照射レシピエントマウスは、2000個以上のKSL細胞の移植により致死性を回避できた。また、500個のKSLでは、移植には十分ではなかった。
【0082】
同様に、本実施例によれば、放射線照射レシピエントマウスは、2×10
5細胞の全骨髄細胞の移植により致死性を回避できた。また、5×10
4細胞の全骨髄細胞では、移植には十分ではなかった。
【0083】
ところで、ヒトさい帯血の移植には、70kgの体重を有する成人に対して1×10
9細胞以上の有核細胞を含むさい帯血が必要とされる。しかし、多くの場合、ヒトさい帯血に含まれる有核細胞は、その1/4〜1/3程度の量である。ヒトさい帯血移植のこの状況を模倣するため、必要細胞数の1/4を一人から得られる造血幹細胞単位とみなして以降の実験を行った。すなわち、以降の実施例では、500個のKSL細胞を1単位とし、同様に5×10
4細胞の全骨髄細胞を1単位として実験を行った。
【0084】
実施例2:異なる系統のマウスに由来するKSL細胞の混合物の致死量の放射線照射マウスの生存に対する影響
実施例1では、致死量の放射線照射マウスの生存に、単一の系統に由来する4単位(2,000個)のKSL細胞が必要であることが示された。本実施例では、異なる系統のマウスに由来するKSL細胞を1単位ずつ混合して計5単位(2,500個)を致死量の放射線照射マウスに移植してその生存に対する影響を確認した。
【0085】
具体的には、本実施例では、C57BL/6 (B6, H2
b, CD45.1)系統、CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2
b/d, CD45.2)系統、B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2
b/k, CD45.2)系統、B6D1F1 (H2
b/q, CD45.2)系統およびBDF1 (H2
b/d, CD45.1/CD45.2)系統から得られたそれぞれ500個のKSL細胞を混合して、実施例1に記載の方法で得たレシピエントマウスに移植した。正の対照として、レシピエントと完全同一のMHC抗原型を有するC57BL/6 (B6, H2
b, CD45.1)系統の2,500個のKSL細胞を実施例1に記載の方法で得たレシピエントマウスに移植した。
【0086】
その結果、驚くべきことに、上記5系統由来のKSL細胞を混合して得られた5系統混合KSL細胞を移植したマウスは、正の対照と同じレベルの生存率を示した(
図5)。
【0087】
そこで、移植後のレシピエントマウスの白血球および血小板の回復を調べた。マウスの白血球数および血小板数は、常法によりマウスから得た末梢血を全自動血球係数器MEK−6450セルタックα(日本光電社製)を用いて測定することにより求めた。
【0088】
その結果、5系統由来のKSL細胞を混合して得られたKSL細胞は、白血球および血小板に関して正の対照と同じレベルの回復を見せた(
図6)。すなわち、通常は、4単位のKSL細胞が必要とされるところ、移植した同種同系のKSL細胞は1単位のみであったにも関わらず、マウスの造血回復が見られることが分かった。この造血回復は、レシピエントのMHC抗原型と完全に不一致の抗原型を有する4系統由来のKSL細胞によるものと考えられる。
【0089】
造血幹細胞移植では、一般的には、ドナーとレシピエントとでHLAの抗原型が一致していることが要求され、例えば、骨髄移植では、1抗原不一致または抗原の完全な一致が要求され、さい帯血移植では、2抗原不一致、1抗原不一致または抗原の完全な一致が要求される。しかしながら、今回の結果によれば、いずれの系統のドナーマウスも、レシピエントマウスとはMHCの抗原型のすべてが不一致(フルアロ)であったにも関わらず、レシピエントにおいて造血回復を引き起こし、移植造血幹細胞がレシピエント内で定着することが示された。
【0090】
実施例3:5系統由来のKSL細胞を混合して得られたKSL細胞のレシピエントへの寄与
実施例1で説明したように、本実験系は、宿主対移植片反応(HVGR)を引き起こし得る系であり、同種異系の細胞はレシピエントにより排除され得る。従って、レシピエントマウスに対して同種同系の1系統および同種異系の4系統に由来するKSL細胞を混合して用いた場合、同種異系の4系統に由来するKSL細胞は宿主対移植片反応(HVGR)により排除され造血系に寄与できないと考えられた。このことを確認するため、本実施例では、レシピエントで生着した移植造血幹細胞のキメラ解析を行った。
【0091】
5系統由来のKSL細胞を混合して得られたKSL細胞は、実施例4に記載の通りにレシピエント内に導入した。造血細胞への各系統の寄与を調べるために、レシピエントから末梢血を採取し、ACK溶解緩衝液(NH
4Cl 8,024mg/L、KHCO
3 1,001mg/L、EDTA二ナトリウム二水和物 3.722mg/L)で処理した後に、以下の抗体を用いて染色を行った:Brilliant Violet 570−Ly−6G/6C (Gr−1)、PE−Cyanin5−CD45R/B220、Alexa Flour 700−CD4、Alexa Flour 700−CD8a、PE−シアニン7−CD45.1、APC−cyanin7−CD45.2、Pacific Blue−H2Kd、FITC−H2Kk、PE−H2KbおよびAlexa Flour647−H2Kq(Biolegend社製)。このようにして各系統の細胞を異なる色素で染色した後に、FACS Aria II(ベクトンディキンソン社製)を用いて分析し、FlowJoソフトウェア(TreeStar, Ashland, OR,USA)を用いて各系統の造血細胞への寄与を調べた。
【0092】
その結果、予想と反して、すべての系統に由来するKSL細胞がレシピエントに寄与していることが明らかとなった(
図7)。上述の通り、本実験系は、同種異系の系統に由来するKSL細胞は宿主対移植片反応(HVGR)により排除され得ると考えられるため、すべての系統の細胞が同等にレシピエントに寄与したことは非常に驚くべきことである。
【0093】
本実施例の結果から、KSL細胞は、同種異系の系統に由来するものであっても、免疫細胞を除去し、複数の系統の混合物として移植することにより、レシピエントの造血細胞に寄与できることが明らかとなった。
【0094】
実施例4:1単位の同種同系の全骨髄と4単位の同種異系のKSL細胞を用いた造血系の回復
上記実施例では、移植した同種異系のKSL細胞がほぼ同等にレシピエントマウスの造血系に寄与することが示された。本実施例では、1系統は同種同系の全骨髄とし、他は同種異系のKSL細胞とした場合の造血系の回復を確認した。
【0095】
同種同系の全骨髄は、実施例1に記載の方法に従ってC57BL/6 (B6, H2
b, CD45.1)系統のマウスから調製した。同種異系のKSL細胞は、CBF1 (Balb/c × B6 F1, H2
b/d, CD45.2)系統、B6C3F1(B6 × C3HHe F1, H2
b/k, CD45.2)系統、B6D1F1 (H2
b/q, CD45.2)系統およびBDF1 (H2
b/d, CD45.1/CD45.2)系統から実施例1に記載の方法で調製した。得られた同種同系の1系統の全骨髄(有核細胞数:5×10
4細胞)に、得られた4系統のKSL細胞を1単位(500個)ずつ混合して、全骨髄1単位とKSL細胞4単位の混合物を得た。レシピエントマウスとしては、C57BL/6 (B6, H2
b, CD45.2)を用い、実施例1に記載の通りに照射した。
【0096】
得られた全骨髄とKSL細胞との混合物を静脈投与によりレシピエントマウスに移植して移植後のマウスの生存率を確認したところ、全骨髄5×10
4個のみを投与した群では、すべてのマウスが死亡したが、全骨髄とKSL細胞との混合物を投与した群では、すべてのマウスが生存した(
図8)。すなわち、造血幹細胞移植には、4単位の全骨髄が必要であるところ、1単位の全骨髄と、同種異系のKSL細胞との混合物で、マウスの造血回復が見られることが分かった。このことから、必要細胞数の少なくとも1/4程度の細胞を含む全骨髄が得られれば、それをKSL細胞などの造血幹細胞と混合することにより、造血幹細胞移植に用いることができることが明らかとなった。しかも、混合するKSL細胞は、レシピエントとのMHC適合度に関係なく用いることができた。
【0097】
また、生存したレシピエントマウスの末梢血を採取し、実施例3に記載の方法で各系統由来の細胞の造血系への寄与を調べた。すると、全骨髄に複数系統由来のKSL細胞を混ぜてレシピエントマウスに導入したにもかかわらず、実質的に全骨髄由来の細胞のみ(約94.7%±2.5%)が造血系に寄与していることが明らかとなった(
図9、B6(CD45.1); H2b)。また、レシピエントマウス由来の細胞はほぼ見られなかった(
図9、B6(CD45.2); H2b)。これは、移植直後には、KSL細胞はレシピエントの造血系に寄与し得るものの、レシピエント内での造血回復後は、移植した全骨髄に由来する免疫系により、KSL細胞が排除されたことによると思われた。本実施例により、KSL細胞などの造血幹細胞は、細胞生着促進作用を有することが示された。
【0098】
上記実施例は、骨髄細胞由来の造血幹細胞をモデルとして用いたが、さい帯血由来の造血幹細胞を用いた場合にも同様であることは当業者であれば十分に理解できるであろう。骨髄よりもHLA適合度が低くても移植が可能である点で、さい帯血はより効果的な造血幹細胞移植を可能とする。