特許第6402011号(P6402011)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402011
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】容器詰め葉野菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/00 20060101AFI20181001BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20181001BHJP
【FI】
   A23B7/00 101
   A23L19/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-241520(P2014-241520)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-101125(P2016-101125A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山川 真美
(72)【発明者】
【氏名】藤村 亮太郎
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−243989(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/073835(WO,A1)
【文献】 特開2014−103951(JP,A)
【文献】 特開2014−100101(JP,A)
【文献】 特開平03−201940(JP,A)
【文献】 特開昭58−162254(JP,A)
【文献】 特開平11−123070(JP,A)
【文献】 特開平07−053311(JP,A)
【文献】 特開平04−349847(JP,A)
【文献】 特開2004−283160(JP,A)
【文献】 特開2009−278885(JP,A)
【文献】 特開2013−176322(JP,A)
【文献】 特開2002−272434(JP,A)
【文献】 特開2002−265311(JP,A)
【文献】 特開2011−067161(JP,A)
【文献】 特開2014−108082(JP,A)
【文献】 特開2003−038146(JP,A)
【文献】 特開平09−028362(JP,A)
【文献】 特開平04−158738(JP,A)
【文献】 特開平09−140365(JP,A)
【文献】 特開2000−236808(JP,A)
【文献】 特開平06−125754(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01561382(EP,A1)
【文献】 特開平06−046812(JP,A)
【文献】 特開平11−196763(JP,A)
【文献】 特開2006−061069(JP,A)
【文献】 特表2002−500026(JP,A)
【文献】 特開2005−137262(JP,A)
【文献】 Food Microbiol.,2011年,Vol.28,pp.484-491
【文献】 農林水産省農林水産技術会議事務局研究成果,2013年 1月,No.484,pp.398-404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/
A23L 19/
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
葉野菜に対して有機酸塩溶液で接液処理を施す工程、及びアルカリ性溶液で接液処理を施す工程、
次いで、得られた接液処理済み葉野菜に対して洗浄処理を施す工程を有し、
前記有機酸溶液における有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩から選択される少なくとも一種以上であり、
前記有機酸塩溶液は、有機酸塩を0.1%以上1%以下含有し、
前記アルカリ性溶液は、卵殻焼成カルシウムを含有しpH11〜12である、
容器詰め葉野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存後においても野菜本来の風味が維持された容器詰め葉野菜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャベツやベビーリーフ等の葉野菜がポリプロピレン製袋に窒素ガスと共に密封した容器詰め葉野菜が、スーパーマーケットの生鮮野菜売り場で広く販売されている。
このような容器詰め葉野菜の工業的製造方法としては、例えば、喫食前の野菜を次亜塩素酸ソーダ溶液で洗浄し、次いで水洗いの後、酢酸溶液で洗浄する方法(特許文献1)、喫食前の野菜を亜塩素酸塩溶液で処理した後水洗せずに水切りし、そのまま保存する方法(特許文献2)、喫食前の野菜を、次亜塩素酸塩水溶液等の殺菌液に浸漬して一次殺菌処理した後、スライサーで喫食サイズにカットし、続いて、次亜塩素酸塩水溶液よりも弱い殺菌力を有する殺菌液に浸漬して二次殺菌処理し、水洗し、そして遠心分離装置で水切りする方法(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−46812号公報
【特許文献2】特開平11−196763号公報
【特許文献3】特開2006−61069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1〜3の方法で製造された容器詰め葉野菜の場合、菌数の面では良好な保存性を示すものの、野菜本来の風味が低減するといった問題があった。このため、保存後であっても野菜本来の風味を有する容器詰め葉野菜を工業的に製造することが求められていた。
【0005】
そこで、本発明は、保存後においても野菜本来の風味が維持された容器詰め葉野菜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解決するため鋭意研究を行った結果、葉野菜に対し、特定成分を含む2種類の異なる処理液を接液させた後、洗浄して容器詰めするならば、得られた葉野菜は、保存後においても野菜本来の風味が維持されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)葉野菜に対して有機酸塩溶液で接液処理を施す工程、及びアルカリ性溶液で接液処理を施す工程、
次いで、得られた接液処理済み葉野菜に対して洗浄処理を施す工程を有し、
前記有機酸塩溶液は、有機酸塩を0.01%以上5%以下含有し、
前記アルカリ性溶液は、卵殻焼成カルシウムを含有しpH9〜13である、
容器詰め葉野菜の製造方法、
(2)(1)記載の容器詰め葉野菜の製造方法において、
前記有機酸塩が、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩から選択される少なくとも一種以上である、
容器詰め葉野菜の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存後においても野菜本来の風味が維持される容器詰め葉野菜を提供することができる。したがって、特に、コンビニエンスストアやスーパーマーケット等の惣菜等として販売するために、食品工業的に大量生産される葉野菜製品の需要拡大が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の容器詰め葉野菜の製造方法を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
<容器詰め葉野菜>
本発明の容器詰め葉野菜は、必要により喫食サイズにカットされた葉野菜が容器詰めされたものであり、容器を開封するだけで葉野菜をサラダ等の料理食材として簡便に喫食できるようしたものである。
ここで、葉野菜としては、特に制限はないが、例えば、キャベツ、レタス、サラダ菜、水菜、ホウレン草、種々のベビーリーフ等が挙げられる。中でも、キャベツ、レタス等の葉野菜は、保存後においても野菜本来の風味が維持された容器詰め葉野菜を得る本発明の効果が得られやすく好ましい。
【0011】
<本発明の特徴>
本発明の容器詰め葉野菜の製造方法は、葉野菜に対して有機酸塩溶液で接液処理を施す工程、及びアルカリ性溶液で接液処理を施す工程、次いで、得られた接液処理済み葉野菜に対して洗浄処理を施す工程を有し、前記有機酸塩溶液は、有機酸塩を0.01%以上5%以下含有し、前記アルカリ性溶液は、卵殻焼成カルシウムを含有しpH9〜13であることを特徴とする。
これにより、保存後においても野菜本来の風味が維持された容器詰め葉野菜を製することができる。
【0012】
<有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液による接液処理工程>
本発明の製造方法は、葉野菜に対して有機酸塩溶液で接液処理、及びアルカリ性溶液で接液処理を施すが、これら有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液で接液処理を施す順序に特に制限はなく、これら2液により葉野菜が接液処理されればよい。
これら2液で接液処理を施さずいずれか一方のみであると、保存後においても野菜本来の風味が維持された容器詰め葉野菜を得られ難い。
葉野菜を接液処理する方法は、特に制限はなく、一般的な食品加工で採用されている方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、これらの溶液に葉野菜を浸漬して接液させる方法や、葉野菜に噴霧して接液させる方法が挙げられる。接液処理する時間は、接液処理方法によっても異なるが、葉野菜に充分に溶液を接触させる点から、3分以上とすればよく、5分以上とするとさらによい。また、接液処理する時間は、あまり長すぎると葉野菜の風味がかえって悪くなる場合があるため、60分以下とすればよく、30分以下とするとさらによい。
【0013】
<有機酸塩溶液>
本発明の有機酸塩溶液は、有機酸塩を溶解させたものであり、用いる有機酸塩としては、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩から選択される少なくとも一種以上であるとよい。
【0014】
<有機酸塩溶液の有機酸塩濃度>
前記有機酸塩溶液は、有機酸塩を0.01%以上5%以下含有する。有機酸塩溶液に含有する有機酸塩が前記範囲よりも少ない場合は、保存中に一般生菌数等が増加し、その結果、野菜本来の風味が得られないおそれがある。
一方、有機酸塩溶液に含有する有機酸塩が前記範囲よりも多い場合は、有機酸塩溶液への浸漬時に、葉野菜がダメージを受けるためか、保存後の葉野菜は、野菜本来の風味が得られないおそれがある。
【0015】
<アルカリ性溶液>
本発明のアルカリ性溶液は、pH9〜13に調整されたものである。アルカリ性溶液のpHが前記範囲よりも低い場合は、保存中に一般生菌数等が増加し、その結果、野菜本来の風味が得られないおそれがある。一方、アルカリ性溶液のpHが前記範囲よりも高い場合は、アルカリ性溶液への浸漬時に、葉野菜がダメージを受けるからか、保存後の葉野菜は、野菜本来の風味が得られないおそれがある。
【0016】
<卵殻焼成カルシウム>
本発明の前記アルカリ性溶液には、卵殻焼成カルシウムを含有する。卵殻焼成カルシウムは、鳥類一般の卵殻を割卵して卵黄と卵白を取り出し、洗浄、乾燥させて粉末状や顆粒状に加工し焼成したものであり、通常食品に用いられているものであればよい。卵殻焼成カルシウムは、天然成分由来で安全性も高く、葉野菜の風味を損なわず好ましい。
【0017】
<有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液に含まれるその他の成分>
前記有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有させることができる。このような成分としては、pH調整剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0018】
<洗浄処理工程>
本発明の容器詰め葉野菜の製造方法においては、上述の接液処理済み葉野菜に対して洗浄処理を施す工程を有する。洗浄の方法は常法により行えばよく、有機酸塩溶液やアルカリ性液が葉野菜表面から洗い流されるように、清水等を用いて浸漬や噴霧処理をするとよい。洗浄処理時間は、充分に洗浄する点から、3分以上とすればよく、5分以上とするとさらによい。また、洗浄処理する時間は、あまり長すぎると葉野菜の風味がかえって悪くなる場合があるため、60分以下とすればよく、30分以下とするとさらによい。
【0019】
<脱水処理工程>
本発明容器詰め葉野菜の製造方法においては、上述の洗浄処理工程の後に脱水工程を行ってもよい。脱水処理工程は常法により脱水機等を用いて行えばよい。
【0020】
<カット処理工程>
本発明の容器詰め葉野菜の製造方法においては、必要により、喫食サイズにカットするカット工程を有することができる。
カット工程は製造工程のどの段階で行ってもよく、例えば、上述した有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液による接液処理工程と洗浄工程の間に行う方法、有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液のいずれか一方の溶液の接液処理が終わった後、他方の溶液による接液処理を行う前に行う方法、あるいは、有機酸塩溶液及びアルカリ性溶液による接液処理工程と洗浄工程とが終わった後に行う方法等が挙げられる。
喫食サイズにカットする方法は特に限定されず、例えば、スライサー等を用いて千切り、短冊切り、銀杏切り、拍子切り、輪切り等のカット態様や、手による「ちぎり」などをあげることができる。大きさとしては、幅0.2〜5.0mmの千切り、又は1〜8cmの角切りとしたものが、消費者の需要に応える点、食べやすさの点でよい。
【0021】
<容器詰め工程>
上述の処理を施した葉野菜を容器詰めする方法は特に制限はなく、常法により行えばよい。容器詰めに用いる包装容器としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂で製造された袋型、カップ型、ボール型などの種々の形状の食品包装容器で、葉野菜を密封できるものが好ましい。なお、葉野菜は、上述の包装容器に窒素ガス等の不活性ガスと共に充填密封してもよい。これにより、容器詰め葉野菜の保管中の鮮度の劣化をさらに抑制できる。
【0022】
次に、本発明を実施例、比較例及び試験例に基づき、更に説明する。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
<有機酸塩溶液への浸漬>
不可食部を取り除き水洗した葉野菜(キャベツ)10kgを、有機酸塩(酢酸塩)を0.1%含有した有機酸塩水溶液に5分間浸漬した。次いで、前記有機酸塩水溶液に浸漬した葉野菜を清水で水洗し、水切りしたのち8mm巾にカットした。
【0024】
<アルカリ性溶液への浸漬>
カットした葉野菜は、次いで卵殻焼成カルシウムを含有したpH12のアルカリ性溶液に5分間浸漬した。
【0025】
<洗浄処理>
前記アルカリ性溶液に浸漬した葉野菜は、次いで清水を用いて洗浄処理した。
洗浄処理したカット葉野菜は、脱水(処理条件1100rpm、1分)し、100gを延伸ポリプロピレン製袋に窒素ガスとともに入れ、袋の開口部をヒートシールすることにより、容器詰め葉野菜を得た。
【0026】
[比較例1]
実施例1の<有機酸塩溶液への浸漬>において、有機酸塩溶液の有機酸塩含有量を7%に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を製造した。
【0027】
[比較例2]
実施例1の<アルカリ性溶液への浸漬>において、卵殻焼成カルシウム含有水溶液をpH14に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を製造した。
【0028】
[試験例1]
実施例1及び比較例1〜2により得られた容器詰め葉野菜について、10℃で3日間保存後の野菜の風味を下記の基準により評価した。結果を表1に示す。
【0029】
<葉野菜の風味の評価基準>
○:野菜本来の風味が維持されており、大変好ましい。
△:野菜本来の風味がやや低減しているが許容できる範囲であり好ましい。
×:野菜本来の風味が低減している。
【0030】
【表1】
【0031】
[表1]より、有機酸塩を0.01%以上5%以下含有する有機酸塩溶液、および、卵殻焼成カルシウムを含有するpH9〜13のアルカリ性溶液で接液処理を施す工程、次いで、得られた接液処理済葉野菜に対して洗浄処理を施す工程とする場合には、保存後においても野菜本来の風味が維持されていることがわかる。
一方、<有機酸塩溶液への浸漬>において、有機酸塩溶液の有機酸塩含有量が7%であった比較例1、<アルカリ性溶液への浸漬>において、アルカリ性溶液のpHが14であった比較例2の容器詰め葉野菜は、保存後の野菜本来の風味が低減しているものであった。
【0032】
[実施例2]
実施例1の<有機酸塩溶液への浸漬>において、有機酸塩溶液の有機酸塩含有量を1%に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を得た。
【0033】
[実施例3]
実施例1の<有機酸塩溶液への浸漬>において、有機酸塩の種類をクエン酸塩に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を得た。
【0034】
[実施例4]
実施例1の<有機酸塩溶液への浸漬>において、有機酸塩の種類をフマル酸塩に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を得た。
【0035】
[実施例5]
実施例1の<アルカリ性溶液への浸漬>において、アルカリ性溶液をpH11に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を得た。
【0036】
[実施例6]
実施例1において、葉野菜をレタスに変更し、カットサイズを4cm角に変更する以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を得た。
【0037】
[実施例7]
実施例1において、葉野菜をベビーリーフに変更し、カットを行わない以外は、実施例1と同様に容器詰め葉野菜を得た。
【0038】
実施例2〜7により得られた容器詰め葉野菜を、試験例1と同様の基準により評価したところ、いずれも保存後に野菜本来の風味が維持されているものであった。
【0039】
[実施例9]
<アルカリ性溶液への浸漬>
不可食部を取り除き水洗した葉野菜(キャベツ)10kgを、卵殻焼成カルシウムを含有したpH12のアルカリ性溶液に5分間浸漬した。次いで、前記アルカリ性溶液に浸漬した葉野菜を水洗し、脱水したのち8mm巾にカットした。
【0040】
<有機酸塩溶液への浸漬>
カットした葉野菜は、次いで有機酸塩(酢酸塩)を0.1%含有した有機酸塩溶液に5分間浸漬した。
【0041】
<洗浄処理>
前記有機酸塩溶液に浸漬した葉野菜は、次いで清水を用いて洗浄処理した。
洗浄処理したカット葉野菜は、脱水(処理条件1100rpm、1分)し、100gを延伸ポリプロピレン製袋に窒素ガスとともに入れ、袋の開口部をヒートシールすることにより、容器詰め葉野菜を得た。
【0042】
実施例9により得られた容器詰め葉野菜を、試験例1と同様の基準により評価したところ、保存後においても野菜本来の風味が維持されているものであった。