(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物及び開始剤を含む。以下、本発明の樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
【0025】
[2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物]
本発明の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、以下の式(I):
【化2】
で表される構造単位を含む化合物である。
2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を1つ又は2つ以上含む。ある態様においては、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を2つ又は3つ、好ましくは2つ含む。
【0026】
上記の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を含むことから、典型的には、塩基触媒の存在下で、マイケル付加により重合するため、一液型接着剤の主成分として使用可能である。上記の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、上記式(I)の構造単位を2つ以上含む場合(多官能)、硬化時に架橋が生じ、硬化物の高温での機械特性が向上する等の、物性の改善が見込まれる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物を1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上含んでいても良い。本発明の樹脂組成物に含まれる2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物のうち、少なくとも1種は、分子量が180〜10000であり、より好ましくは、180〜5000、さらに好ましくは、180〜2000、特に好ましくは、200〜1000、最も好ましくは、240〜500である。2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の分子量が180未満の場合は、揮発性が高くなり作業環境が悪化する。一方、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の分子量が10000を超えると、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下するほか、充填剤の添加量が制限されるなどの弊害を生じる。
【0028】
本発明に係る2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、硬化物の耐熱性の観点から、多官能成分を含むことが好ましい。ここで、多官能とは、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物が、上記式(I)の構造単位を2つ以上含むことを指す。2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物に含まれる上記式(I)の構造単位の数を、当該2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の「官能基数」とよぶ。2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物のうち、官能基数が1のものを「単官能」、官能基数が2のものを「2官能」、官能基数が3のものを「3官能」と呼ぶ。
また、本発明に係る2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、反応性の観点から、エステル構造を含むことが好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、上記式(I)で表される構造単位を2つ以上含む2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物を少なくとも1種含むことができる。
【0030】
本発明の樹脂組成物に含まれる2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の、樹脂組成物全体に対する重量割合は、0.05〜0.999、より好ましくは、0.15〜0.999、さらに好ましくは、0.50〜0.999である。本発明の樹脂組成物に含まれる2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の、樹脂組成物全体に対する重量割合が0.05未満であると、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物が樹脂組成物全体に行き渡らず硬化が不均一となる懸念がある。
【0031】
ある態様において、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、下記式(II):
【化3】
(式中、
X
1及びX
2は、各々独立に、単結合、O又はNR
3(式中、R
3は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(III):
【化4】
(式中、
X
3及びX
4は、各々独立に、単結合、O又はNR
5(式中、R
5は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
Wは、スペーサーを表し、
R
4は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0032】
ある態様において、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、下記式(IV):
【化5】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素、1価の炭化水素基又は下記式(V):
【化6】
(式中、
Wは、スペーサーを表し、
R
4は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表す)
で表される。
【0033】
別の態様において、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、下記式(VI):
【化7】
(式中、
R
11は、下記式(VII):
【化8】
で表される1,1−ジカルボニルエチレン単位を表し、
それぞれのR
12は、各々独立に、スペーサーを表し、
R
13及びR
14は、各々独立に、水素又は1価の炭化水素基を表し、
X
11並びにそれぞれのX
12及びX
13は、各々独立に、単結合、O又はNR
15(式中、R
15は、水素又は1価の炭化水素基を表す)を表し、
それぞれのmは、各々独立に、0又は1を表し、
nは、1以上20以下の整数を表す)
で表されるジカルボニルエチレン誘導体である。
【0034】
本明細書において、1価の炭化水素基とは、炭化水素の炭素原子から水素原子が1つ外れた基を指す。該1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基が挙げられ、これらの一部にN、O、S、P及びSi等のヘテロ原子が含まれていても良い。
【0035】
上記1価の炭化水素基は、それぞれ、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、アリル、アルコキシ、アルキルチオ、ヒドロキシル、ニトロ、アミド、アジド、シアノ、アシロキシ、カルボキシ、スルホキシ、アクリロキシ、シロキシ、エポキシ、またはエステルで置換されても良い。
上記1価の炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、アリール基又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基であり、さらに好ましくは、アルキル基又はシクロアルキル基で置換されているアルキル基であり、特に好ましくは、アルキル基である。
【0036】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1〜12、好ましくは2〜10、更に好ましくは3〜8、より好ましくは4〜7、特に好ましくは5〜6である。また、上記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2〜12、好ましくは2〜10、更に好ましくは3〜8、より好ましくは3〜7、特に好ましくは3〜6である。上記アルキル基等が環状構造の場合、上記アルキル基等の炭素数は、通常4〜12、好ましくは4〜10、更に好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8である。
【0037】
上記アルキル基等の構造には特に限定はない。上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。上記アルキル基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アルキル基等は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1つ又は2つ以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、及び珪素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0038】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0039】
本明細書において、スペーサーとは、2価の炭化水素基を指し、より具体的には、環状、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキレンである。上記アルキレンの炭素数には特に限定はない。上記アルキレン基の炭素数は、通常1〜12、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜8、さらに好ましくは4〜7である。ここで、上記アルキレンは、所望に応じて、N、O、S、P、およびSiから選択されるヘテロ原子を含有する基を途中に含んでいてよい。また、上記アルキレンは、不飽和結合を有していても良い。ある態様においては、スペーサーは炭素数4〜7の非置換アルキレンである。
【0040】
上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物がスペーサーを有する場合、末端の一価の炭化水素基の炭素数は3以下であることが好ましい。すなわち、上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物が、上記式(II)又は(IV)で表される場合、上記式(III)又は(V)におけるR
4は炭素数1〜3のアルキルであることが好ましく、ただし、R
1及びR
2の一方が上記式(III)又は式(V)で表される場合は、R
1及びR
2の他方は炭素数1〜3のアルキルであることが好ましい。この場合、上記式(II)又は(IV)において、R
1及びR
2の両方が上記式(III)又は式(V)で表されてもよいが、好ましくは、R
1及びR
2の一方だけが上記式(III)又は式(V)で表される。好ましくは、上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、上記式(IV)で表される。
上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物が、分子量180を超える場合には、上記式(IV)におけるR
1及びR
2の少なくとも一方は炭素数3以下であることが、硬化性の観点から好ましく、炭素数2以下であることが同様の観点から更に好ましい。
【0041】
2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、米国オハイオ州SIRRUS Inc.から入手可能であり、その合成方法は、WO2012/054616、WO2012/054633及びWO2016/040261等の公開特許公報に公開されている。2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物に含まれる上記式(I)で表される構造単位の両端が酸素原子に結合している場合は、特表2015−518503に開示されているジオール又はポリオールとのエステル交換等の公知の方法を用いることによって、上記式(I)で表される構造単位がエステル結合及び上記スペーサーを介して複数結合している、より大きな分子量の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物を製造することができる。このようにして製造された2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、上記式(II)又は上記式(IV)中のR
1及びR
2、上記式(III)又は上記式(V)中のR
4、並びに上記式(VI)中のR
14及びR
13が、ヒドロキシ基を含み得る。
【0042】
[開始剤]
本発明の樹脂組成物は、開始剤を含む。開始剤は、樹脂組成物がマイケル付加反応によって硬化する際の重合開始反応に寄与することが期待される。本発明に用いる開始剤は、塩基性物質を含む。
【0043】
本発明で用いられる塩基性物質は、典型的には、有機塩基、無機塩基、または有機金属材料からなる。
有機塩基としては、後述するアミン化合物等が挙げられる。無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。有機金属材料としては、ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム、トリフェニルメチルナトリウム、エチルナトリウム等の有機アルカリ金属化合物;メチルマグネシウムブロミド、ジメチルマグネシウム、フェニルマグネシウムクロリド、フェニルカルシウムブロミド、ビス(ジシクロペンタジエン)カルシウム等の有機アルカリ土類金属化合物;及びナトリウムメトキシド、t−ブチルメトキシド等のアルコキサイド、ナトリウムベンゾエイト等のカルボキサイド等が挙げられる。
【0044】
本発明の樹脂組成物を電子材料用途に用いる場合、樹脂組成物が無機塩基や有機金属材料を含むと周辺電気・電子回路における意図しない電気的特性への影響が懸念される。このため、本発明に用いる塩基性物質は、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属元素、又はハロゲン元素を含まないものである。別の態様においては、本発明に用いる塩基性物質は、非イオン性である。
【0045】
本発明で用いられる塩基性物質は、好ましくは、有機塩基、さらに好ましくは、アミン化合物である。前記アミン化合物とは、少なくとも第1級アミノ基、第2級アミノ基、又は第3級アミノ基のいずれかを分子内に1つ以上有する有機化合物であり、これら級の異なるアミノ基を同一分子内に2種以上同時に有していてもよい。
【0046】
第1級アミノ基を有する化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、アニリン、トルイジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0047】
第2級アミノ基を有する化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン、ピペリドン、ジフェニルアミン、フェニルメチルアミン、フェニルエチルアミン等が挙げられる。
【0048】
第3級アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリアリルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、トリフェニルアミン、4−メチルトリフェニルアミン、4,4−ジメチルトリフェニルアミン、ジフェニルエチルアミン、ジフェニルベンジルアミン、N、N-ジフェニル-p-アニシジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン、ジアザビシクロオクタン、2,6,10−トリメチル−2,6,10−トリアザウンデカン、1−ベンジルピペリジン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−エチル−N−メチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン等が挙げられる。
【0049】
また、異なるアミノ基を同一分子内に2種以上同時に有していている化合物としては、特に限定されないが、例えば、本実施の形態の原料として用いられるグアニジン化合物やイミダゾール化合物等が挙げられる。グアニジン化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、メチルグアニジン、エチルグアニジン、プロピルグアニジン、ブチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、フェニルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トルイルグアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン等が挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2−メチルイミダゾリル−(1))−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2′−メチルイミダゾリル−(1)′)−エチル−S−トリアジン・イソシアヌール酸付加物、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール−トリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール−トリメリテイト、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)−尿素、および、N,N′−(2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル)−アジポイルジアミドが挙げられる。ただし、上記イミダゾール化合物は、これら化合物に限定されるものではない。
【0050】
上記アミン化合物は、好ましくは第2級又は第3級アミノ基を含む。アミン化合物に含まれるアミノ基が第1級の場合には、アミノ基から生じる活性化水素が重合反応を抑制する可能性が高まる。上記アミン化合物は、より好ましくは、第3級アミノ基を含む。
上記アミン化合物は、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、および遷移金属元素ならびに、ハロゲン元素を含まないものである。
上記アミン化合物は、好ましくはアルコール性ヒドロキシル基を含まないものである。
【0051】
本発明においては、樹脂組成物の硬化時に塩基性物質が固体状であると、塩基性物質表面において反応が進行し、反応が樹脂組成物全体に行き渡らないため、硬化が不均一となる。このため、塩基性物質は80℃で液状であることが好ましく、25℃で液状であることが更に好ましい。
【0052】
一般に、塩基性物質の塩基性度は、中性の塩基性物質とその共役酸の間の酸解離定数であるKaの逆数の常用対数値−logKaである酸解離指数pKaによって評価できる(見積もられる)。本明細書においては、塩基性物質又は塩基性基の共役酸のpKaのことを、単に、当該塩基性物質又は塩基性基のpKaと呼ぶことがある。
本発明で用いられる塩基性物質のpKaは、好ましくは8以上、より好ましくは9以上、更に好ましくは10以上、最も好ましくは11以上である。本発明の樹脂組成物は、分子量が180以上の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物を含むが、塩基性物質のpKaが8未満であると、樹脂組成物が所定の時間で硬化しない。これは、本発明の樹脂組成物は、分子量180以上の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物を含むため、官能基近傍の立体障害が大きく、塩基性物質のpKaが一定値未満であると重合開始反応が起こりづらいからだと考えられる。
【0053】
上記中性の塩基性物質とその共役酸との間の酸解離指数(pKa)は、電気化学的方法、分光学的方法等の当業者に公知の方法で適宜決定する事ができる。本明細書において、「pKa」は、特に断りがない限り、ChemAxon社製のソフトウェアMarvinSketch 17.22.0を用いて、温度:298K、Mode:macro、Acid/base prefix:staticの設定にて、化学構造を元に溶媒を水とした場合に推算されるpKaの値を指す。ただし、1分子中に複数の塩基性部位(アミノ基等)を含む塩基性物質を対象とする場合には、最も大きなpKaの値を該塩基性物質のpKaとして採用する。ここで、最大pKaを示す塩基性部位が分子構造上等価である位置に複数ある場合、この等価な最大pKaを示す塩基性部位の数をNと定義する。
【0054】
上記アミン化合物のアミン官能基当量は、好ましくは180未満、より好ましくは170未満、さらに好ましくは140未満、特に好ましくは120未満である。アミン官能基当量が180未満であると硬化性が高く、140未満であると硬化性がさらに高い。なお、本明細書において、「アミン官能基当量」とは、アミン化合物1分子の分子量を、該アミン化合物中に含まれるアミノ基のうちその共役酸のpKaが最大のものの数Nで割った数を意味する。例えば、後述するDABCOには分子内にアミノ基が2つあり、これらのアミノ基は分子構造上等価であるため、N=2である。また、後述するTMTAUには分子内にアミノ基が3つあり、これら3つのアミノ基のうち、最大pKaを示すアミノ基は両末端の第3級アミノ基であり、これら2つのアミノ基は分子構造上等価であるため、N=2である。さらに、後述するTMGの場合、分子内にアミノ基が3つあり、これらのうち、最大pKaを示すアミノ基は第2級アミノ基であるので、N=1である。また、後述するBDMAPAには分子内にアミノ基が3つあり、これら3つのアミノ基のうち、最大pKaを示すアミノ基は両末端の第3級アミノ基であり、これら2つのアミノ基は分子構造上等価であるため、N=2である。
【0055】
上記アミン化合物の分子量は、好ましくは100〜1000であり、より好ましくは100〜500であり、さらに好ましくは110〜300である。アミン化合物の分子量が100未満である場合には揮発性が高く、周辺部材への影響ならびに硬化物物性の変動等が懸念される。アミン化合物の分子量が1000を超える場合には、アミン化合物の粘度増加や、樹脂組成物中への分散性低下等が懸念される。
【0056】
本発明の開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本発明の開始剤は、分離又は潜在化によって不活性となっていて、任意の熱、光、機械的剪断等の刺激によって活性化するものでもよい。より具体的には、開始剤は、マイクロカプセル、イオン乖離型、包接型などの潜在性硬化触媒であってもよく、熱、光、電磁波、超音波、物理的せん断によって塩基を発生する形態であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、二液型の接着剤として使用することもできる。
【0058】
本発明において、塩基性物質の含有量は、樹脂組成物中の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の全量(100mol%)に対して、好ましくは0.01mol%〜30mol%、より好ましくは、0.01mol%〜10mol%である。塩基性物質の含有量が0.01mol%未満であると、硬化が不安定になる。逆に、塩基性物質の含有量が30mol%よりも多いときは、硬化物中に樹脂マトリックスと化学結合を形成していない塩基性物質が大量に残留し、硬化物物性の低下やブリード等を引き起こす。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物及び上記開始剤以外に、以下に述べる成分を必要に応じて含有してもよい。
【0060】
[(A)成分:無機充填剤]
本発明の樹脂組成物は、(A)成分の無機充填剤を含むことができる。(A)成分の無機充填剤としては、コロイダルシリカ、疎水性シリカ、微細シリカ、ナノシリカ等のシリカフィラー、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛等の金属酸化物、ニッケル、銅、銀等の金属、アクリルビーズ、ガラスビーズ、ウレタンビーズ、ベントナイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも、シリカフィラーが、充填量を高くできることから好ましい。(A)成分の無機充填剤は、シランカップリング剤等で表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施されたフィラーを使用した場合、フィラーの凝集を防止する効果が期待される。(A)成分の無機充填剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0061】
また、(A)成分の無機充填剤の平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、0.01〜50μmであることが、樹脂組成物中に充填剤を均一に分散させるうえで好ましく、また、樹脂組成物を接着剤やアンダーフィル等の液状封止材として使用した際の注入性に優れる等の理由から好ましい。0.01μm未満であると、樹脂組成物の粘度が上昇して、接着剤やアンダーフィル等の液状封止材として使用した際に注入性が悪化するおそれがある。50μm超であると、樹脂組成物中に充填剤を均一に分散させることが困難になるおそれがある。また、硬化後の樹脂組成物の熱ストレスから、銅製ワイヤーを保護する観点から、(A)成分の平均粒径は、0.6〜10μmであると、より好ましい。市販品としては、アドマテックス製高純度合成球状シリカ(品名:SE5200SEE、平均粒径:2μm;品名:SO−E5、平均粒径:2μm;品名:SO−E2、平均粒径:0.6μm)、龍森製シリカ(品名:FB7SDX、平均粒径:10μm)、マイクロン製シリカ(品名:TS−10−034P、平均粒径:20μm)等が挙げられる。ここで、無機充填剤の平均粒径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計により測定する。
【0062】
(A)成分の無機充填剤は、絶縁性であってもよく、導電性であっても良い。(A)成分の無機充填剤の含有量は、無機充填剤が絶縁性の場合には、樹脂組成物の全成分の合計100重量部に対して、0〜95重量部であることが好ましく、より好ましくは0〜85重量部、さらに好ましくは、0〜50重量部である。0〜50重量部であると、樹脂組成物をアンダーフィル等の液状封止材として使用する場合に、樹脂組成物の注入性の悪化をさけることができる。10〜95重量部であると、樹脂組成物の線膨張係数を下げることができる。また、(A)成分の無機充填剤の含有量は、無機充填剤が導電性の場合には、導電性ペーストとして用いられるように、50〜95重量部であることが電気伝導性の観点から好ましい。
【0063】
[(B)成分:安定化剤]
本発明の樹脂組成物は、(B)安定化剤を含んでもよい。
(B)安定化剤は、樹脂組成物の保存時の安定性を高めるためのものであり、意図しないラジカルや塩基性成分による重合反応の発生を抑制するために添加される。2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、低い確率で自分からラジカルを発生することがあり、そのラジカルを基点として意図しないラジカル重合反応が発生する場合がある。また、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、非常に微量の塩基性成分の混入によってアニオン重合反応が発生する場合がある。(B)安定化剤を添加することによって、このような意図しないラジカルや塩基性成分による重合反応の発生を抑制することができる。
【0064】
(B)安定化剤は公知のものを使用可能であり、例えば、強酸やラジカル捕捉剤を用いることができる。具体的な(B)安定化剤の例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、ジフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、リン酸、ジクロロ酢酸、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム、トリフェニルホスフィン、4−メトキシフェノール、及びハイドロキノンを挙げることができる。この中で、好ましい(B)安定化剤は、マレイン酸、メタンスルホン酸、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム及び4−メトキシフェノールから選ばれる少なくとも1つである。また、(B)安定化剤は、特開2010−117545号公報、特開2008−184514号公報などに開示された公知のものを用いることもできる。
(B)安定化剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0065】
[(C)成分:界面処理剤]
本発明の樹脂組成物は、(C)界面処理剤を含んでもよい。
(C)界面処理剤は、特に限定されないが、典型的には、カップリング剤を用いることができる。カップリング剤は、分子中に2つ以上の異なった官能基を有しており、その一つは、無機質材料と化学結合する官能基であり、他の一つは、有機質材料と化学結合する官能基である。接着剤がカップリング剤を含有することによって、接着剤の基板等への密着性が向上する。
【0066】
カップリング剤の例として、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられるが、これらに限定されない。カップリング剤は、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
シランカップリング剤が有する官能基の例として、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、等を挙げることができる。
[(D)成分:顔料]
本発明の樹脂組成物は、(D)顔料を含んでいても良い。
(D)顔料を含むことで、本発明の樹脂組成物の色度を調整することができる。(D)顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、チタン窒化物等のチタンブラック、黒色有機顔料、混色有機顔料、および無機顔料等を用いることができる。黒色有機顔料としては、ペリレンブラック、アニリンブラック等が、混色有機顔料としては、赤、青、緑、紫、黄色、マゼンダ、シアン等から選ばれる少なくとも2種類以上の顔料を混合して疑似黒色化されたものが、無機顔料としては、グラファイト、およびチタン、銅、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銀等の金属微粒子、金属酸化物、複合酸化物、金属硫化物、金属窒化物等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。(D)顔料は、好ましくは、カーボンブラック又はチタンブラックである。
【0068】
[(E)成分:可塑剤]
本発明の樹脂組成物は、(E)可塑剤を含んでいても良い。
(E)可塑剤としては、公知の任意の可塑剤を配合することが出来る。(E)可塑剤により、成形性を向上させたり、ガラス転移温度を調整したりすることができる。(E)可塑剤は、相溶性が良好で、ブリ−ドし難いものを用いることができる。
(E)可塑剤の例としては、ジn−ブチルフタレート、ジn−オクチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジn−デシルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジn−オクチルアジペート等のアジピン酸エステル類;ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ジn−ブチルセバケート等のセバシン酸エステル類;ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート等のアゼライン酸エステル類;塩素化パラフィン等のパラフィン類;ポリプロピレングリコール等のグリコール類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ変性植物油類;トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類;アジピン酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル化物等のエステルオリゴマー類;低分子量ポリブテン、低分子量ポリイソブチレン、低分子量ポリイソプレン等の低分子量重合体;プロセスオイル、ナフテン系オイル等のオイル類等が挙げられる。
(E)可塑剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物及び上記開始剤以外に、及び、必要に応じて(A)〜(E)成分を含有する。本発明の樹脂組成物は、これらの成分を混合して調製することができる。混合には、公知の装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサーやロールミルなどの公知の装置によって混合することができる。これらの成分は、同時に混合してもよく、一部を先に混合し、残りを後から混合してもよい。
【0070】
[蒸気圧]
本発明の樹脂組成物に含まれる2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、25℃における蒸気圧が0.05mmHg以下であることが好ましく、0.01mmHg以下であることが更に好ましく、0.001mmHg以下であることが特に好ましい。
【0071】
本発明において、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物等の化合物の蒸気圧は、市販されているソフトウェアであるHSPiP(4th Edition 4.1.05)のデータベース登録値及びY−MB法による推算値に基づくことができる。
また本発明において、アミン化合物の蒸気圧も、同様の方法で推算することができる。本発明の樹脂組成物に含まれるアミン化合物は、25℃における蒸気圧が100mmHg以下であることが好ましく、10mmHg以下であることが更に好ましく、1mmHg以下であることが特に好ましい。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物及び(A)〜(E)以外の成分、例えば、難燃剤、イオントラップ剤、消泡剤、レベリング剤、破泡剤等を含有してもよい。
【0073】
本発明の樹脂組成物は、接着剤又は封止材として使用することができる。具体的には、本発明の樹脂組成物は、電子部品用の接着及び封止に好適である。より具体的には、本発明の樹脂組成物は、カメラモジュール用部品、接着及び封止に用いることができ、特に、イメージセンサモジュールの接着に好適である。これは、本発明の樹脂組成物は、周囲を汚染する揮発成分が極めて少ないため、付着物(固形物)が発生しにくいことによる。
【0074】
例えば、
図1に示すように、本発明の樹脂組成物は、IRカットフィルタ20とプリント配線基板24との接着に用いることができる。本発明の樹脂組成物は、撮像素子22とプリント配線基板24との接着に用いることができる。本発明の樹脂組成物は、支持体18とプリント配線基板24との接着に用いることができる。樹脂組成物の被接着面への供給には、ジェットディスペンサー、エアーディスペンサー等を使用することができる。本発明の樹脂組成物は、加熱をせず常温で硬化させることができる。本発明の樹脂組成物は、また、例えば、25〜80℃の温度で加熱することで硬化させることができる。加熱温度は、好ましくは、50〜80℃である。加熱時間は、例えば、0.5〜4時間である。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、カメラモジュール以外のイメージセンサモジュールに使用することもできる。例えば、指紋認証装置、顔認証装置、スキャナ、医療機器等に組み込まれることのあるイメージセンサモジュールの部品の接着及び封止に用いることができる。
【0076】
また、本発明の樹脂組成物は、フィルム又はプリプレグの構成材料として使用することもできる。特に、本発明の樹脂組成物は、配線パターンを保護するカバーレイ用フィルムや、多層配線基板の層間接着フィルム、プリプレグの構成材料に好適である。これは、本発明の樹脂組成物は、揮発成分が極めて少ないため、ボイドが発生しにくいことによる。また、本発明の樹脂組成物を含んだフィルム又はプリプレグは、好ましくは、電子部品用に使用することができる。
【0077】
本発明の樹脂組成物を含むプリプレグは、公知の方法、例えばホットメルト法及びソルベント法などにより製造することができる。ホットメルト法を用いる場合、本発明の樹脂組成物を有機溶剤に溶解することなく、樹脂組成物と剥離性の良い離型紙に一旦コーティングし、それをシート状繊維基材にラミネートする、あるいはダイコータにより直接塗工することなどにより、プリプレグを製造できる。また、ソルベント法を用いる場合、まず、本発明の樹脂組成物を有機溶剤に溶解した樹脂組成物ワニスにシート状繊維基材を浸漬することにより、樹脂組成物ワニスをシート状繊維基材に含浸させ、その後に、シート状繊維基材を乾燥させることで、プリプレグを製造できる。
【0078】
本発明の樹脂組成物を含むフィルムは、本発明の樹脂組成物から公知の方法により得ることができる。例えば、本発明の樹脂組成物を溶剤で希釈してワニスとし、これを支持体の少なくとも片面に塗布し、乾燥させた後、支持体付のフィルム、または、支持体から剥離したフィルムとして提供することができる。
【0079】
本発明においては、本発明の樹脂組成物を硬化して得られる硬化物も提供される。また、本発明においては、本発明の樹脂組成物を含む接着剤又は封止材を硬化して得られる硬化物、及び本発明の樹脂組成物を含むフィルム又はプリプレグを硬化させて得られる硬化物も提供される。
さらには、本発明においては、本発明の硬化物、本発明の接着剤若しくは封止材の硬化物、又は本発明のフィルム若しくはプリプレグの硬化物を含む半導体装置も提供される。
【0080】
本発明では、本発明の樹脂組成物を、電子部品を構成する部材に塗布し、前記電子部品を構成する別の部材に接着する、電子部品を構成する部材の接着方法も提供される。前記電子部品は、好ましくは、カメラモジュール用部品であり、より好ましくは、イメージセンサモジュールである。また、本発明の樹脂組成物を塗布または注入し、電子部品や半導体素子を基板上に接着または封止する方法も提供される。さらに、本発明の樹脂組成物を基板上に形成された電子回路上に塗布することによって、前記電子回路を封止する方法も提供される。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明は、以下の実施例及び比較例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、接着剤に含まれる成分の割合は、重量部で示している。
【0082】
[蒸気圧の推算]
本発明に用いる2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物のうち幾つかの態様について、各温度における蒸気圧を、HSPiP(4th Edition 4.1.05 Y-MB法)を用いて推算を行った。表1に、ジメチルメチレンマロネート(DMMM)、ジエチルメチレンマロネート(DEMM)、エチルプロピルメチレンマロネート(EPMM)、ジプロピルメチレンマロネート(DPMM)、エチルフェニル−エチルメチレンマロネート(EPEMM)、2−エチルヘキシル−エチルメチレンマロネート(2EHEMM)、エチルオクチルメチレンマロネート(EOMM)、ジヘキシルメチレンマロネート(DHMM)、及びジシクロヘキシルメチレンマロネート(DCHMM)についての各温度における蒸気圧(単位:mmHg)を示す。
【0083】
【表1】
表1より、分子量が180以上の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は蒸気圧が低く、とくに25℃における蒸気圧が0.05mmHg以下であることがわかる。25℃における蒸気圧が0.05mmHg以下の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、室温での硬化時に揮発が少なく、周囲部材への汚染が少ない。
【0084】
本発明に用いるアミン化合物のうち幾つかの態様についても同様に蒸気圧を推算した。表2に、トリメチルアミン(TMA)、ジエチルメチルアミン(DEMA)、トリエチルアミン(TEA)、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン(TMG)、N,N−ジメチルベンジルアミン(DMBA)、N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン(PMAN)、1−ベンジルピペリジン(BPDi)、1−ベンジル−4−ピペリドン(BPDo)、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン(DCHMA)、2,6,10−トリメチル−2,6,10−トリアザウンデカン(TMTAU)、及びビス(4−ジメチルアミノフェニル)アミン(BDMAPA)の各温度における蒸気圧(単位:mmHg)を示す。
【0085】
【表2】
表2より、アミン化合物の分子量が100未満の場合には、蒸気圧が著しく高く、とくに25℃における蒸気圧がほぼ100mmHgを超えることがわかる。
【0086】
[接着剤の調整]
以下の実施例及び比較例において使用した接着剤の原料は、以下のとおりである。
【0087】
2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物:
EPEMM (SIRRUS社製)
2EHEMM (SIRRUS社製)
EOMM (SIRRUS社製)
DHMM (SIRRUS社製)
DCHMM (SIRRUS社製)
上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の具体的構造式は以下の表3中の化学式のとおりである。
【表3】
【0088】
開始剤:
TMG 1,1,3,3−テトラメチルグアニジン(和光純薬工業株式会社)
DCHMA N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン(東京化成工業株式会社)
TEA トリエチルアミン(和光純薬工業株式会社)
DABCO ジアザビシクロオクタン(和光純薬工業株式会社)
TMTAU 2,6,10−トリメチル−2,6,10−トリアザウンデカン(東京化成工業株式会社)
BPDi 1−ベンジルピペリジン(和光純薬工業株式会社)
DMBA N,N−ジメチルベンジルアミン(和光純薬工業株式会社)
BPDo 1−ベンジル−4−ピペリドン(和光純薬工業株式会社)
BDMAPA ビス(4−ジメチルアミノフェニル)アミン(東京化成工業株式会社)
PMAN N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン(東京化成工業株式会社)
【0089】
上記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物及び開始剤を、表4及び5に示す配合量(単位:g)で、ホウ珪酸ガラス製のスクリュー管瓶に秤量した。これを3分間激しく振盪したのち、配合物の室温(25℃)におけるゲルタイムを株式会社サイバー製 自動硬化時間測定装置 MADOKA (型番:MDK4G−02SP)、攪拌棒(型番:3JC−5060W)を用いて、サンプル量0.3ml、自転120rpm、公転50rpm、ギャップ0.3mmの条件で測定することで硬化特性評価を行った。各実施例及び比較例の測定されたゲルタイム(上記の3分間激しく振盪する工程の後、自動ゲル化時間測定装置で測定を開始してから、トルク10%を検知するまでの時間)も表4及び5に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
(結果の考察)
pKaの値が高いTMGを2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物に対して10mol%加えた場合には、いずれの樹脂組成物もごく短時間でゲル化した(実施例1〜5)。
これは、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物を2種類用いた場合も同様で、DHMM及びDCHMMの等モル混合物に対して、TMGを10mol%加えた場合も、樹脂組成物はごく短時間でゲル化した(実施例6)
【0093】
TMGを、分子量の比較的大きいDHMMに対して1mol%の濃度で加えた場合においても、樹脂組成物はごく短時間でゲル化した(実施例7)。
【0094】
pKaが9.4〜10.2の塩基性物質である、TEA、DABCO、TMTAU及びBPDiをEPEMM(分子量:248.27)に対して10mol%の濃度で加えた場合においても、樹脂組成物はすべて短時間でゲル化した(実施例8〜11)。
【0095】
分子量が比較的小さいEPEMMを用いた場合であっても、塩基性物質のpKaが6.8の場合は、167分(9999秒)以内にゲル化しなかった(比較例1)。
【0096】
pKaが8.9〜11.2の塩基性物質である、DCHMA、TEA、DABCO、TMTAU、BPDi、DMBAをDHMM(分子量:284.39)に対して10mol%の濃度で加えた場合においても、樹脂組成物はすべて、167分以内にゲル化した(実施例12〜16及び19)。
【0097】
実施例8と13、実施例11と16をそれぞれ比較すると、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物の分子量が180を超える場合には、上記式(IV)におけるR
1及びR
2の少なくとも一方は炭素数3以下であることが、硬化性の観点から好ましいことがわかる。
【0098】
実施例17及び18では、BPDiの添加量を実施例16に比して増加させた結果、これに応じてゲルタイムがやや短縮した。塩基性物質の添加量を2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物に対して30mol%にした実施例18では、ブリードの発生が見られた。
【0099】
実施例13〜16、19は、同一の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物(DHMM)に対して、同程度の最大pKaを有する塩基性物質を10mol%の濃度で加えた例である。実施例16に示されるように、ゲル化のためには、アミン官能基当量が180未満であることが好ましいことがわかる。また、実施例19に示されるように、アミン官能基当量が140未満であると、さらにゲルタイムが短く硬化特性に優れることがわかる。さらに、実施例13と15から、アミン官能基当量が同程度の場合、N(アミン化合物中に含まれる最大pKaを示すアミノ基の数)が複数である方が、よりゲルタイムが短く硬化特性に優れることがわかる。
【0100】
用いた塩基性物質のpKaが8未満の場合は、樹脂組成物は全て、所定時間以内にゲル化しなかった(比較例2〜5)。特に、塩基性物質の添加量を2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物に対して30mol%にした場合でも、所定時間以内にゲル化しなかった(比較例3)。
【0101】
実施例11と同様に、EPEMM及びBPDiを用いて、塩基性物質の添加量をそれぞれ5mol%、1mol%、0.01mol%変化させた場合でも、樹脂組成物は所定時間以内にゲル化した(実施例20〜22)。
【0102】
以上より、分子量が180未満の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、作業環境における蒸気圧が高く、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に用いる一液型接着剤として好適でないことがわかった。分子量が180以上の2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、立体障害の影響で硬化反応が進行しにくいが、pKaが8以上である塩基性物質を含む開始剤を用いた場合は、所定時間以内に樹脂組成物が硬化することがわかった。
【課題】本発明は、室温程度の低温において比較的短時間(数時間以内)に硬化可能で、樹脂揮発による周囲への汚染が起こりにくい、イメージセンサモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な硬化性樹脂組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物及び開始剤を含む。前記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、分子量が180〜10000であり、前記開始剤は、pKaが8以上である塩基性物質を含む。また、前記2−メチレン1,3−ジカルボニル化合物は、以下の式(I):