特許第6402620号(P6402620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402620
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】重合体組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20181001BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20181001BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20181001BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20181001BHJP
   H01Q 1/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C08L65/00
   C08K3/40
   C08K3/22
   C08K3/34
   H01Q1/00
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-261776(P2014-261776)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-163682(P2015-163682A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-15837(P2014-15837)
(32)【優先日】2014年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 慎介
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/033076(WO,A1)
【文献】 特開2013−256596(JP,A)
【文献】 特表2013−515118(JP,A)
【文献】 特表2016−539224(JP,A)
【文献】 特表2016−536795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00−65/04
C08K 3/00−3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有する結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対し(B)ガラスフィラー5〜100重量部と(C)金属酸化物5〜20重量部とを含んでなり、
金属酸化物が、スピネル構造を有する、銅含有金属酸化物及び/又はマンガン含有金属酸化物である重合体組成物。
【請求項2】
金属酸化物が、スピネル構造を有するCuCrである請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
さらに(D)タルクを1〜20部含むものである請求項1又は2に記載の重合体組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の重合体組成物を用いてなる成形体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の重合体組成物を用いてなる高周波用誘電体アンテナの機能を有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体回路形成技術(LDS;Laser−Direct−Structuring)法によるめっき形成に好適な、電気絶縁特性に優れ、強度が高く、高温多湿環境下でも優れためっき密着性を有する基板を与えることのできる脂環構造含有重合体を含んでなる重合体組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環構造含有重合体は、その誘電正接の低さから、電気絶縁材料に好適に用いられている。
近年実用化されつつある、より微細な回路を簡便に形成できる、立体回路形成技術(LDS;Laser−Direct−Structuring)法によるめっき形成は、電磁線照射により単体金属核を形成しうる金属酸化物を含む、ポリブチレンテレフタレートなどの合成樹脂からなる基板材料が好適に用いられる(特許文献1)。
また、LDS法に用いる基板材料に合成樹脂としてポリカーボネートを用いた場合、金属化合物によりポリカーボネートが分解され、溶融安定性が低下し、加工が困難になる問題を解決するため、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)などのゴム状重合体を配合することが提案されている(特許文献2)。ここには、めっきの堆積量や密着強度を増大させるため、ポリカーボネートに二酸化チタンを配合することが望ましいと記載されている。
ところで、特許文献3には、ノルボルネン系樹脂にスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン・ブロック共重合体ゴムを配合することで、耐衝撃性と電気特性の両方に優れた樹脂成形材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−534408号公報
【特許文献2】特表2010−536947号公報
【特許文献3】特開平8−325440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献3記載のノルボルネン系樹脂にスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン・ブロック共重合体ゴムとの重合体組成物に、特許文献1や2に記載された磁線照射により単体金属核を形成しうる金属酸化物を配合し、LDS法によりめっきを形成したところ、十分なめっきの密着性を得ることができないことを確認した。そこで、特許文献2において、特に好ましい無機充填剤として提案された二酸化チタンを配合したところ、めっき密着性は若干の向上が見られたものの、不十分なものであった。
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、LDS法によるめっき形成の基板材料として、3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有する結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いて、良好な電気特性(低誘電正接)とめっき密着性、さらにリフロー耐熱性をかなえることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、重合体組成物において、無機充填剤としてのガラスフィラー及び特定の金属酸化物を用いると、良好な、電気特性(低誘電正接)、めっき密着性、及びリフロー耐熱性が得られるほか、高温高湿条件にさらされても、強度を維持できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、(A)3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有する結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対し(B)ガラスフィラー5〜100重量部、及び(C)金属酸化物5〜20部を含有する重合体組成物が提供される。
前記金属酸化物は、スピネル構造を有するCuCrであるのが好ましい。
さらに(D)タルクを1〜20部を含むものであるのが好ましい。
また、本発明によれば、前記本発明の重合体組成物を用いてなる成形体、及び高周波用誘電体アンテナの機能を有する成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本発明を、1)重合体組成物、及び、2)成形体、に項分けして詳細に説明する。
重合体組成物
本発明の重合体組成物は、(A)3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有する結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物(以下、単に「結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物」ということがある。)100重量部に対し(B)ガラスフィラー5〜100重量部、及び(C)金属酸化物5〜20部を含有するものである。
【0007】
(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物
本発明に用いる(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物は、3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体(以下、単に「多環式ノルボルネン系単量体」ということがある)を少なくとも含有する単量体を開環重合し、得られた開環重合体の主鎖炭素−炭素二重結合を水素化することにより得られるものであって、かつ、結晶性を有するものである。
【0008】
前記(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を得る方法は、特に限定されるものではないが、例えば特開2006−52333号公報に記載される方法が挙げられる。すなわち、この方法は、周期表第6族遷移金属化合物を重合触媒として用いて、3環以上の環を有するノルボルネン系単量体を溶液重合して開環重合体を得る工程により、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得て、該開環重合体の主鎖炭素−炭素二重結合を水素化することで、目的とする(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を効率よく得ることができるというものである。
【0009】
本発明に用いる結晶性環状オレフィン開環重合体は、3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体を少なくとも単量体の一部として用いて得ることができる。
【0010】
3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体は、分子内に、ノルボルネン骨格と、そのノルボルネン骨格に縮合した1つ以上の環構造を有するノルボルネン系化合物であればよい。すなわち、3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環に縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン系単量体である。重合体組成物からなる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、多環式ノルボルネン系単量体として、下記式(1)又は(2)で表される化合物が特に好ましい。
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
【0013】
式(1)、(2)中、R、R、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表す。また、RとR、RとRはそれぞれ結合して環を形成していてもよい。
【0014】
、R、R〜Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル(プロパルギル)基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等のアルキニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;等が挙げられる。
【0015】
これらの置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0016】
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。
の、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基の、二価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基;ビニレン基等のアルケニレン基;エチニレン基等のアルキニレン基;フェニレン基等のアリーレン基;これらの組み合わせ;等が挙げられる。その置換基としては、R、R、R〜Rの炭化水素基の置換基として例示したのと同様のものが挙げられる。
mは1又は2である。
【0017】
式(1)で表される多環式ノルボルネン系単量体の具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)が挙げられる。
【0018】
また、式(2)で表される多環式ノルボルネン系単量体としては、式(2)のmが1である場合のテトラシクロドデセン類と、式(2)のmが2である場合のヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
【0019】
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;が挙げられる。
【0020】
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセン等の無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセン等の環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセン等の芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;が挙げられる。
【0021】
これらの多環式ノルボルネン系単量体は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
なかでも、環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶性を高め、得られる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、多環式ノルボルネン系単量体全体に対して50重量%以上のジシクロペンタジエンを含むものを用いることが好ましく、ジシクロペンタジエンを単独で用いることが特に好ましい。
【0023】
また、多環式ノルボルネン系単量体には、エンド体及びエキソ体の立体異性体が存在するが、そのどちらも単量体として用いることが可能であり、一方の異性体を単独で用いてもよいし、エンド体及びエキソ体が任意の割合で存在する異性体混合物を用いることもできる。但し、環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶性を高め、得られる重合体組成物の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、一方の立体異性体の割合を高くすることが好ましく、例えば、エンド体又はエキソ体の割合が、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。なお、割合を高くする立体異性体は、合成容易性の観点から、エンド体であることが好ましい。
【0024】
環状オレフィン開環重合体を得るにあたっては、結晶性を有する重合体を与える範囲において、多環式ノルボルネン系単量体に、多環式ノルボルネン系単量体以外の単量体を共重合させてもよい。多環式ノルボルネン系単量体と共重合できる単量体としては、ノルボルネン骨格に縮合した環構造を有しない2環のノルボルネン系化合物、モノ環状オレフィン、及び環状ジエン、並びにこれらの誘導体が挙げられる。
【0025】
ノルボルネン骨格に縮合した環構造を有しない2環のノルボルネン系化合物の具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネン等の無置換又はアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネン等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;が挙げられる。
【0026】
モノ環状オレフィンの具体例としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンが挙げられる。
また、環状ジエンの具体例としては、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンが挙げられる。
【0027】
なかでも、環状オレフィン開環重合体水素添加物の結晶性を高め、得られる成形体の耐熱性を特に良好なものとする観点からは、水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体を得るための単量体として、用いる単量体全体に対して80重量%以上の多環式ノルボルネン系単量体を含むことが好ましく、用いる単量体が実質的に多環式ノルボルネン系単量体のみで構成されることが特に好ましい。
【0028】
シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体水素添加物を得るためには、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を水素化反応に供する必要がある。
【0029】
したがって、多環式ノルボルネン系単量体を開環重合するにあたっては、環状オレフィン開環重合体にシンジオタクチック立体規則性を与えることができる開環重合触媒を用いる必要がある。このような開環重合触媒としては、環状オレフィン開環重合体にシンジオタクチック立体規則性を与えることができるものであれば特に限定されないが、下記式(3)で表される金属化合物(以下、「金属化合物(3)」ということがある。)を含んでなる開環重合触媒が好適である。
【0030】
【化3】
【0031】
式中、Mは周期律表第6族の遷移金属原子から選択される金属原子であり、Rは3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又はCH10で表される基であり、Rは置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基であり、Xはハロゲン原子、アルキル基、アリール基及びアルキルシリル基から選択される基であり、Lは電子供与性の中性配位子であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数である。R10は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基である。
【0032】
金属化合物(3)を構成する金属原子(M)は、周期律表第6族の遷移金属原子(クロム、モリブデン、タングステン)から選択される。なかでも、モリブデン又はタングステンが好適に用いられ、タングステンが特に好適に用いられる。
金属化合物(3)は、金属イミド結合を含んでなるものである。Rは、金属イミド結合を構成する窒素原子上の置換基である。
【0033】
3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基が有しうる置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられ、さらに、3,4,5位の少なくとも2つの位置に存在する置換基が互いに結合したものであってもよい。
【0034】
3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の具体例としては、フェニル基;4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−メトキシフェニル基等の一置換フェニル基;3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基等の二置換フェニル基;3,4,5−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリクロロフェニル基等の三置換フェニル基;2−ナフチル基、3−メチル−2−ナフチル基、4−メチル−2−ナフチル基等の置換基を有していてもよい2−ナフチル基;が挙げられる。
【0035】
金属化合物(3)において、窒素原子上の置換基(式(3)中のR)として用いられ得る、−CH10で表される基におけるR10の、置換基を有していてもよいアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、通常1〜20、好ましくは1〜10である。また、このアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。このアルキル基が有し得る置換基は、特に限定されないが、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;が挙げられる。
【0036】
10の、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。このアリール基の置換基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;等が挙げられる。
【0037】
10としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等の炭素数が1〜20のアルキル基が好ましい。
【0038】
金属化合物(3)は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基及びアルキルシリル基から選択される基を3個又は4個有してなる。すなわち、式(3)において、Xは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基及びアルキルシリル基から選択される基を表す。なお、金属化合物(3)においてXで表される基が2以上あるとき、それらの基は互いに結合していてもよい。
【0039】
Xで表される基となり得るハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ベンジル基、ネオフィル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0040】
金属化合物(3)は、1個の金属アルコキシド結合又は1個の金属アリールオキシド結合を有するものであってもよい。この金属アルコキシド結合又は金属アリールオキシド結合を構成する酸素原子上の置換基(式(3)中のR)は、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基である。このRで表される基となり得る、置換基を有していてもよいアルキル基や置換基を有していてもよいアリール基としては、前述のR10で表される基におけるものと同様のものを用いることができる。
【0041】
金属化合物(3)は、1個又は2個の電子供与性の中性配位子を有するものであってもよい。この電子供与性の中性配位子(式(3)中のL)としては、例えば、周期律表第14族又は第15族の原子を含有する電子供与性化合物が挙げられる。その具体例としては、トリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ルチジン等のアミン類;が挙げられる。これらの中でも、エーテル類が特に好適に用いられる。
【0042】
シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得るための開環重合触媒として、特に好適に用いられる金属化合物(3)としては、フェニルイミド基を有するタングステン化合物(式(3)中、Mがタングステン原子で、かつ、Rがフェニル基である化合物)を挙げることができ、その中でも、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)が特に好適である。
【0043】
金属化合物(3)は、第6族遷移金属のオキシハロゲン化物と、3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニルイソシアナート類、又は一置換メチルイソシアナート類と、電子供与性の中性配位子(L)、及び必要に応じてアルコール類、金属アルコキシド、金属アリールオキシドを混合すること等(例えば、特開平5−345817号公報に記載された方法)により合成することができる。合成された金属化合物(3)は、結晶化等により精製・単離したものを用いてもよいし、精製することなく、触媒合成溶液をそのまま開環重合触媒として使用することもできる。
【0044】
開環重合触媒として用いる金属化合物(3)の使用量は、(金属化合物(3):用いる単量体全体)のモル比で、通常1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:500〜1:1,000,000、より好ましくは1:1,000〜1:500,000となる量である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となるおそれがあり、少なすぎると十分な重合活性が得られない場合がある。
【0045】
金属化合物(3)を開環重合触媒として用いるにあたっては、金属化合物(3)を単独で使用することもできるが、重合活性を高くする観点から、金属化合物(3)に有機金属還元剤を併用することが好ましい。
【0046】
用いる有機金属還元剤としては、炭素数1〜20の炭化水素基を有する周期律表第1、2、12、13、14族が挙げられる。なかでも、有機リチウム、有機マグネシウム、有機亜鉛、有機アルミニウム、又は有機スズが好ましく用いられ、有機アルミニウム又は有機スズが特に好ましく用いられる。
【0047】
有機リチウムとしては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド等が挙げられる。有機亜鉛としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等が挙げられる。有機アルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジイソブトキシド等が挙げられる。有機スズとしては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズ等が挙げられる。
【0048】
有機金属還元剤の使用量は、金属化合物(3)に対して、0.1〜100モル倍が好ましく、0.2〜50モル倍がより好ましく、0.5〜20モル倍が特に好ましい。使用量が少なすぎると重合活性が向上しない場合があり、多すぎると副反応が起こりやすくなるおそれがある。
【0049】
結晶性環状オレフィン開環重合体を得るための重合反応は、通常、有機溶媒中で行う。用いる有機溶媒は、目的とする開環重合体やその水素添加物が所定の条件で溶解もしくは分散させることが可能であり、重合反応や水素化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。
【0050】
有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類;又はこれらの混合溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類が好ましく用いられる。
【0051】
開環重合反応は、単量体と、金属化合物(3)と、必要に応じて有機金属還元剤とを混合することにより開始させることができる。これらの成分を添加する順序は、特に限定されない。例えば、単量体に金属化合物(3)と有機金属還元剤との混合物を添加して混合してもよいし、有機金属還元剤に単量体と金属化合物(3)との混合物を添加して混合してもよく、また、単量体と有機金属還元剤との混合物に金属化合物(3)を添加して混合してもよい。
【0052】
各成分を混合するにあたっては、それぞれの成分の全量を一度に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよく、比較的に長い時間(例えば1分間以上)にわたって連続的に添加することもできる。なかでも、重合温度や得られる開環重合体の分子量を制御して、特に成形性に優れた重合体組成物を得る観点からは、単量体又は金属化合物(3)を、複数回に分けて、又は連続的に、添加することが好ましく、単量体を、複数回に分けて、又は連続的に、添加することが特に好ましい。
【0053】
有機溶媒中の重合反応時における単量体の濃度は、特に限定されないが、1〜50重量%であることが好ましく、2〜45重量%であることがより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。単量体の濃度が低すぎると重合体の生産性が悪くなるおそれがあり、高すぎる場合は重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となる場合がある。
【0054】
重合反応系には、活性調整剤を添加してもよい。活性調整剤は、開環重合触媒の安定化、重合反応の速度及び重合体の分子量分布を調整する目的で使用することができる。活性調整剤は、官能基を有する有機化合物であれば特に制限されないが、含酸素、含窒素、含りん有機化合物が好ましい。具体的には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、フラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトンベンゾフェノン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルアセテート等のエステル類;アセトニトリルベンゾニトリル等のニトリル類;トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、キヌクリジン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類;ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、2−t−ブチルピリジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のホスフィン類;トリメチルホスフェ−ト、トリフェニルホスフェ−ト等のホスフェート類;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;等が挙げられる。これらの活性調整剤は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。添加する活性調整剤の量は、特に限定されないが、通常、開環重合触媒として用いる金属化合物に対して0.01〜100モル%の間で選択すればよい。
【0055】
また、重合反応系には、開環重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を添加してもよい。分子量調整剤としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート等の酸素含有ビニル化合物;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン;が挙げられる。
【0056】
添加する分子量調整剤の量は目的とする分子量に応じて決定すればよいが、通常、用いる単量体に対して、0.1〜50モル%の範囲で選択すればよい。
【0057】
重合温度は特に制限はないが、通常−78℃〜+200℃の範囲であり、好ましくは−30℃〜+180℃の範囲である。重合時間は、特に制限はなく、反応規模にも依存するが、通常1分間から1000時間の範囲である。
【0058】
上述したような金属化合物(3)を含む開環重合触媒を用いて、上述したような条件で多環式ノルボルネン系単量体を含む単量体の開環重合反応を行うことにより、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得ることができる。
【0059】
水素化反応に供する環状オレフィン開環重合体におけるラセモ・ダイアッドの割合は、特に限定されないが、通常60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70〜99%である。結晶性環状オレフィン開環重合体のラセモ・ダイアッドの割合(シンジオタクチック立体規則性の度合い)は、開環重合触媒の種類を選択すること等により、調節することが可能である。
【0060】
水素化反応に供する結晶性環状オレフィン開環重合体のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、ポリスチレン換算で10,000〜100,000であることが好ましく、15,000〜80,000であることがより好ましい。このような重量平均分子量を有する結晶性環状オレフィン開環重合体から得られる(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いると、成形性に優れ、得られた成形体の耐熱性に優れる点で好ましい。結晶性環状オレフィン開環重合体の重量平均分子量は、重合時に用いる分子量調整剤の添加量等を調節することにより、調節することができる。
【0061】
水素化反応に供する結晶性環状オレフィン開環重合体の分子量分布〔ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量と重量平均分子量との比(Mw/Mn)〕は、特に限定されないが、通常1.5〜4.0であり、好ましくは1.6〜3.5である。このような分子量分布を有する結晶性環状オレフィン開環重合体から得られる(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いると、成形性に優れる点で好ましい。
【0062】
(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物の分子量分布は、開環重合反応時における単量体の添加方法や単量体の濃度により、調節することができる。
【0063】
(A)結晶性環状オレフィン開環重合体の水素化反応(主鎖炭素−炭素二重結合の水素化)は、水素化触媒の存在下で、反応系内に水素を供給することにより行うことができる。水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば使用可能であり、特に制限されないが、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0064】
均一系触媒としては、遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の組み合わせが挙げられる。さらに、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒が挙げられる。
【0065】
不均一触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の触媒系が挙げられる。
【0066】
水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で行う。このような不活性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。不活性有機溶媒は、通常は、重合反応に用いる溶媒と同じでよく、重合反応液にそのまま水素化触媒を添加して反応させればよい。
【0067】
水素化反応は、使用する水素化触媒系によっても適する条件範囲が異なるが、反応温度は通常−20℃〜+250℃、好ましくは−10℃〜+220℃、より好ましくは0℃〜200℃である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、高すぎると副反応が起こる場合がある。水素圧力は、通常0.01〜20MPa、好ましくは0.05〜15MPa、より好ましくは0.1〜10MPaである。水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなりすぎる場合があり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となる点において装置上の制約が生じる。反応時間は所望の水素化率とできれば特に限定されないが、通常0.1〜10時間である。
【0068】
結晶性環状オレフィン開環重合体の水素化反応における水素化率(水素化された主鎖炭素−炭素二重結合の割合)は、特に限定されないが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは99%以上である。水素化率が高くなるほど、(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物の耐熱性が良好なものとなる。
【0069】
以上のようにして得られる、(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物は、下記の式(4)又は式(5)で表されるような3環以上の環を有する多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有するものである。
【0070】
【化4】
【0071】
(式中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表す。R、Rは結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0072】
【化5】
【0073】
(式(4)、(5)中、R〜R及びmは、前記と同じ意味を表す。)
また、以上のようにして得られる(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物では、水素化反応に供した開環重合体が有するシンジオタクチック立体規則性が維持される。したがって、得られる(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物は、シンジオタクチック立体規則性を有する。(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物におけるラセモ・ダイアッドの割合は、その水素添加物が結晶性を有する限りにおいて特に限定されないが、通常60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70〜99%である。
【0074】
水素化反応で重合体のタクチシチーが変化することはないので、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を水素化反応に供することにより、シンジオタクチック立体規則性を有することに基づいて結晶性を有する(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を得ることができる。
【0075】
このようなシンジオタクチック立体規則性を有する(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いることにより、得られる重合体組成物が、熱の影響により変形が特に起こり難い成形体を与えることができるものとなる。なお、(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水添加物のラセモ・ダイアッドの割合は、水素化反応に供する結晶性環状オレフィン開環重合体のラセモ・ダイアッドの割合に依存する。
【0076】
(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物のラセモ・ダイアッドの割合は、13C−NMRスペクトルを測定し、該スペクトルデータに基づいて定量することができる。定量の方法は、重合体によっても異なるが、例えばジシクロペンタジエンの開環重合体水素添加物の場合、1,3,5−トリクロロベンゼン−d3/オルトジクロロベンゼン−d4の混合溶媒(体積比:2/1)を溶媒として、200℃で13C−NMR測定を行い、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比からラセモ・ダイアッドの割合を決定できる。
【0077】
本発明に用いられる(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物は、結晶性を有するものである限りにおいて、その融点は特に限定されないが、200℃以上の融点を有することが好ましく、230〜290℃の融点を有することがより好ましい。このような融点を有する結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物を用いることによって、特に成形性と耐熱性とのバランスに優れた重合体組成物を得ることができる。(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物の融点は、そのシンジオタクチック立体規則性の度合い(ラセモ・ダイアッドの割合)を調節したり、用いる単量体の種類を選択したりすること等により、調節することができる。
【0078】
(B)ガラスフィラー
本発明において使用する(B)ガラスフィラーとしては公知のものを用いることができ、その形状において限定されない。例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスバルーン等が挙げられる。これらの中でも、成形品の機械強度の高さからガラス繊維を用いることが好ましい。本発明に使用されるガラス繊維の形状や形態は特に限定されない。具体的にはミルドファイバー、カットファイバー、チョップドストランド、ロービング等が挙げられるが、成形品の機械強度の高さ及び取り扱いの簡便さから、特にチョップドストランドが好ましい。
また、本発明に使用されるガラス繊維の長さは、3mm〜40mmであることが好ましく、5〜30mmであることがより好ましい。長さが短いと成形品の機械強度が低く、長いと混練時の取り扱いに問題がある。本発明に使用されるガラス繊維の断面形状は円形、楕円形、扁平形状、矩形など任意であり、これらのガラス繊維を任意の比率で用い得る。また、本発明に使用されるガラスフィラーはシラン系化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物等で表面処理されていてもよい。
【0079】
本発明における(B)ガラスフィラーの配合量は、前記(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対して、5〜100重量部、好ましくは10〜60重量部である。ガラスフィラーの配合量が少な過ぎるとリフロー時の耐熱性や成形品の強度に劣り、ガラスフィラーの配合量が多過ぎると誘電正接の上昇を招くうえ、成形性に劣るため好ましくない。
【0080】
(C)金属酸化物
本発明において、(C)金属酸化物は、電磁線照射により単体金属核を形成しうる金属酸化物であり、電磁線を吸収した結果として化学反応において金属を単体形態で遊離させる金属含有(無機又は有機)化合物である。電磁線を金属含有化合物に直接吸収させずに、吸収したエネルギーをその後金属含有化合物に伝達することによって単体金属を遊離させる他の物質に吸収させることも可能である。電磁線は、重金属核の放出をするためにはレーザー光の電磁線が好ましく、その波長は特表2004−534408号公報段落0017にあるような各種の波長から選択することができる。
【0081】
(C)金属酸化物としては、水性の酸性又はアルカリ性メタライズ浴に不溶かつ安定なものが好ましく、入射光の波長の光の大部分を吸収するものであるのがより好ましく、遷移金属酸化物が特に好ましい。特に好ましい遷移金属酸化物の中でも、少なくとも2種の異なる陽イオンを含み、スピネル構造又はスピネル類似構造を有する化学式AB又はB(AB)Oで表される、特表2010−536947号公報段落0019に詳述されたものが好ましい。式のA成分は2価の金属陽イオンであり、カドミウム、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。式のB成分は3価の金属陽イオンであり、カドミウム、マンガン、ニッケル、亜鉛、銅、コバルト、マグネシウム、スズ、チタン、鉄、アルミニウム、クロム、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。具体的には、CuCr等のスピネル型の銅含有金属酸化物が最も好ましい。スピネル型銅含有金属酸化物は市販されている。その他の好ましいスピネル酸化物は、スピネル型マンガン含有金属酸化物である。スピネル構造を有する金属酸化物は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、スピネル構造又はスピネル類似構造を有する化学式AB又はB(AB)Oで表される遷移金属酸化物は、5重量%以下の範囲で他の金属を含有していることがある。
【0082】
本発明の重合体組成物中、(C)金属酸化物は、前記(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対して、5〜20重量部、好ましくは6〜10重量部である。この範囲であれば、めっき形成性が高く十分な厚みのめっき層を得るのに好適である。
【0083】
(D)タルク
本発明の重合体組成物には、前記(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物、(B)ガラスフィルター、及び(C)金属酸化物の他、(D)タルクを添加してもよい。
タルクは、一般的な樹脂の配合に用いられるタルクから選択することができ、粒径が細かいものが好ましい。
タルクの添加量は、前記(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物100重量部に対して、通常1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。この範囲であれば、めっき密着と強度が高度にバランスし好適である。
【0084】
本発明の重合体組成物は、さらに、その他の配合剤を含有していてもよい。その他の配合剤としては、熱可塑性樹脂材料で通常用いられているものであれば格別な制限はなく、例えば、熱可塑性エラストマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料などの着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、ガラスフィラー及びタルク以外の無機充填剤などの配合剤が挙げられる。好ましくは、熱可塑性エラストマーを配合することにより、強度の向上が図られる。
【0085】
(A)結晶性環状オレフィン開環重合体水素添加物と、(B)ガラスフィラー、(C)金属酸化物、その他必要に応じて用いられる配合剤との混合方法は、重合体中に配合剤が十分に分散する方法であれば、特に限定されない。また、配合の順番に格別な制限はない。配合方法としては、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、ブラベンダー、押出機などで樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させて凝固法、キャスト法、又は直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
二軸混練機を用いる場合、混練後は、通常は溶融状態で棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化して用いられることが多い。
【0086】
2)成形体
本発明の成形体は、本発明の重合体組成物を用いてなるものである。本発明の成形体としては、高周波用誘電体アンテナの機能を有するものであるのが好ましい。
本発明の成形体は、本発明の重合体組成物を、周知の熱可塑性樹脂の成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形法、圧縮成形法、回転成形法、カレンダー成形法、圧延成形法、切削成形法等によって成形加工し、製造することができる。
なかでも、寸法精度に優れ、非球面形状などが成形可能な射出成形法又はプレス成形法が好ましく、特に射出成形法が好適である。
このようにして成形される成形体の表面に、任意のパターンの導電トラックが形成されるように電磁線を照射し、金属酸化物から単体金属核を形成させ、次いで無電解めっきすることにより、導電パターンを形成することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明する。本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下、部及び%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0088】
実施例及び比較例において、各種物性の測定法は、次のとおりである。
(1)環状オレフィン開環重合体の分子量(重量平均分子量及び数平均分子量)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システムHLC−8220(東ソー社製)で、Hタイプカラム(東ソー社製)を用い、テトラヒドロフランを溶媒として40℃で測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
(2)環状オレフィン開環重合体水素添加物における水素化率
H−NMR測定により求めた。
(3)環状オレフィン開環重合体水素添加物の融点
示差走査熱量計を用いて、10℃/分で昇温して測定した。
(4)環状オレフィン開環重合体水素添加物のラセモ・ダイアッドの割合
1,3,5−トリクロロベンゼン−d3/オルトジクロロベンゼン−d4の混合溶媒(体積比:2/1)を溶媒として、200℃で13C−NMR測定を行い、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比に基づいて決定した。
(5)誘電正接
試験片1について、ネットワークアナライザ(製品名「N5230A」、アジレント社製)を用いて、円筒空洞共振器法によりASTM D2520に準じて誘電正接を測定した。測定時の周波数は1GHzとした。ここで、誘電正接が0.002よりも小さいと電気特性が良好と判断した。
(6)リフロー耐熱性
試験片2について、オーブンを用いた260℃×10秒間の熱処理を3回行った後、試験片を目視観察することによりリフロー耐熱性を評価した。ここで、試験片が熱処理の前後で変形、溶融することなく形状を保持していたものを○、変形、溶融が見られたものを×とした。
(7)耐湿性
試験片2について、恒温恒湿槽を用いた85℃×85%RH(相対湿度)での環境試験を500hr行った後、オートグラフ(製品名「AGS−5kNJ・TCR2」、島津製作所社製)を用いて、JIS K 7171に準じて試験速度2mm/minで曲げ試験を行い、曲げ強度を測定した。環境試験前後での強度変化が10%よりも小さい場合には、耐湿性が高いと判断した。
(8)めっき特性
めっき特性は、試験片3にレーザー照射機(製品名「MicroLine 3D160」、LPKF社製)を使用して活性化を行い、その後、無電界銅めっき槽(製品名「MID copper 100B1」、McDermid社製)により、めっき条件55℃/1hrにてめっきを付与した。得られためっき層の厚みをXRFにて測定した。ここで、厚みが5μmより厚い場合には、めっき特性が良好と判断した。
【0089】
〔合成例1〕
内部を充分に乾燥した後、窒素置換したガラス製耐圧反応容器に、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の75%シクロヘキサン溶液40部(ジシクロペンタジエンの量として30部)を仕込み、さらに、シクロヘキサン738部及び1−ヘキセン2.0部を加え、50℃に加温した。一方、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体1.1部を56部のトルエンに溶解した溶液に、19重量%のジエチルアルミニウムエトキシド/n−ヘキサン溶液4.6部を加えて、10分間攪拌し、触媒溶液を調製した。この触媒溶液を反応器に加えて開環重合反応を開始させた。その後、50℃を保ちながら、5分毎に75%ジシクロペンタジエン/シクロヘキサン溶液40部を9回添加した後、2時間反応を継続した。ついで、少量のイソプロパノールを加えて、重合反応を停止させた後、重合反応溶液を多量のイソプロパノール中に注ぎ込み、重合体を凝固させた。凝固した重合体をろ過して溶液より分離して、重合体を回収した。
得られた開環重合体を、減圧下40℃で20時間乾燥した。重合体の収量は296部(収率=99%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、10,100及び17,200であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.70であった。続いて、得られた重合体60部とシクロヘキサン261部を耐圧反応容器に加えて攪拌し、重合体をシクロヘキサンに溶解させた後、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.039部をトルエン40部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧4MPa、160℃で5時間水素化反応を行った。得られた水素化反応液を多量のイソプロピルアルコールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、60℃で24時間減圧乾燥し、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物Aを得た。
環状オレフィン開環重合体水素添加物Aの水素化率は99%以上、ラセモ・ダイアッドの割合は85%であり、融点は265℃であった。得られた開環重合体の数平均分子量(Mn)は14,200、重量平均分子量(Mw)は27,000及び分子量分布(Mw/Mn)は1.90であった。
【0090】
〔合成例2〕
内部を十分に乾燥した後、窒素置換した攪拌機付き反応容器内に、脱水シクロヘキサン300部、1−へキセン0.5部、ジブチルエーテル0.15部、トリイソブチルアルミニウム10重量%シクロヘキサン溶液1.5部を添加し、温度40℃に加温した。同温度を保ち、反応液を攪拌しながら、テトラシクロドデセン70部及びジシクロペンタジエン30部の混合物と、六塩化タングステン0.6重量%シクロヘキサン溶液11部をそれぞれ同時に連続的に添加して、重合反応を行った。重合反応終了後、ブチルグリシジルエーテル0.5部とイソプロピルアルコール0.2部を添加して重合反応を停止させた。
上記重合反応液400部を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移し替え、それにケイソウ土担持型ニッケル触媒(製品名「T8400RL」、ズードケミー触媒社製、ニッケル担持率57%)4部を添加し混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて5時間水素化反応を行った。
【0091】
水素化反応終了後、反応溶液をろ過して水素化触媒を除去した後、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.1部を添加し、溶解させ、薄膜蒸発機(製品名「フィルムトルーダー」、Buss社製)を用いて、温度260℃(533°K)、圧力1kPa以下、滞留時間1.2時間の条件で揮発分を蒸発させ、テトラシクロドデセン−ジシクロペンタジエンの開環共重合体水素添加物Bを得た。
開環共重合体水素添加物Bのガラス転移温度は、142℃であった。テトラシクロドデセン−ジシクロペンタジエンの開環共重合体水素添加物Bの数平均分子量(Mn)は18300、重量平均分子量(Mw)は42000及び分子量分布(Mw/Mn)は2.3、得られた開環重合体水素添加物の水素化率99%以上であった。
【0092】
〔合成例3〕
アジピン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を攪拌しながら、パラキシリレンジアミン(三菱瓦斯化学社製)とメタキシリレンジアミン(三菱瓦斯化学社製)のモル比が3:7の混合ジアミンを、加圧(0.35Mpa)下で、ジアミンとアジピン酸(ローディア社製)とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を270℃まで上昇させた。滴下終了後、0.06MPaまで減圧し10分間反応を続け、分子量1,000以下の成分量を調整し、ポリアミド樹脂を得た。融点は255℃であった。
【0093】
<実施例1>
環状オレフィン開環重合体水素添加物A100部、ガラス繊維(製品名「CSG 3PA−830」、日東紡社製)30部、製品名「イルガノックス(登録商標)1010」、BASFジャパン社製)0.8部、金属酸化物(製品名「ブラック3702」、旭産業製)を6部と充填剤(製品名「SG−95」、日本タルク製)10部をブレンダーで混合した。次いで、二軸混練機(東芝機械社製 TEM−35B)により、290℃、100rpmの条件で2分間混練してペレット化した。
その後、小型射出成形機(Micro InjectionMoulding Machine 10cc、DSM Xplore社製)で成形温度290℃、射出圧力0.7MPa、金型温度150℃、金型内保持時間10秒の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの試験片1、縦100mm、横1mm、厚さ1mmの試験片2、縦60mm、横60mm、厚さ2mmの試験片3を成形した。組成物の組成とそれぞれの評価結果は、表1にまとめて示した。
【0094】
<実施例2〜4及び比較例1〜6>
組成物の配合を表1に示す通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、成形体を得て、その評価を行った。それぞれの評価結果は、表1にまとめて示した。
【0095】
【表1】
【0096】
表1から分かるように、本発明の重合体組成物(実施例1〜4)は、良好な電気特性及びめっき性かつリフロー耐性を備え、吸湿による強度変化も少ないものであった。一方、ガラスフィラー量が少ないとリフロー試験時に変形が見られ(比較例1)、ガラスフィラー量が多いと電気特性が悪化する(比較例2)。金属酸化物、充填剤が多いと電気特性が悪化し、少ないとめっき特性が悪化する(比較例3、4)。また、結晶性の環状オレフィン開環重合体水素添加物ではない脂環構造含有重合体水素添加物を使用すると、リフロー耐性を有さないことがわかった(比較例5)。さらにポリアミド樹脂を使用すると、電気特性が悪化し吸湿による強度変化が大きいことがわかった(比較例6)。