(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402709
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】バンドソー切断装置及びシリコン結晶の切断方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20181001BHJP
B23D 55/06 20060101ALI20181001BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20181001BHJP
B28D 5/04 20060101ALN20181001BHJP
B28D 1/08 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23D55/06
B24B27/06 Z
!B28D5/04 A
!B28D1/08
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-253894(P2015-253894)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-118010(P2017-118010A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】西野 英彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良治
(72)【発明者】
【氏名】齋田 晃
【審査官】
中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/156650(WO,A1)
【文献】
実開昭56−002326(JP,U)
【文献】
米国特許第01711374(US,A)
【文献】
特開2002−273724(JP,A)
【文献】
特開2006−198788(JP,A)
【文献】
実開昭56−137916(JP,U)
【文献】
特開昭48−067896(JP,A)
【文献】
特開昭50−154899(JP,A)
【文献】
特開2010−074002(JP,A)
【文献】
特開2012−240313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23D 55/06
B24B 27/06
B28D 1/08
B28D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に樹脂層を備える二軸のバンドソープーリーと、該バンドソープーリーにより周回駆動するバンドソーとを有するバンドソー切断装置であって、
前記バンドソープーリーは、該バンドソープーリーと前記バンドソーとが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で前記樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部を備えるものであることを特徴とするバンドソー切断装置。
【請求項2】
前記バンドソープーリーは外周面に、幅が6mm以上10mm以下、深さが100μm以上800μm以下のブレード砥粒逃げ段差を備えるものであることを特徴とする請求項1に記載のバンドソー切断装置。
【請求項3】
前記バンドソープーリーの回転軸を垂直方向から外側又は内側に傾ける機構を有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバンドソー切断装置。
【請求項4】
周回駆動中の前記バンドソーの形状が、前記バンドソープーリーと前記バンドソーとの接触面に対して外側に凸形状のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバンドソー切断装置。
【請求項5】
外周面に樹脂層を備える二軸のバンドソープーリーと、該バンドソープーリーにより周回駆動するバンドソーとを有するバンドソー切断装置によるシリコン結晶の切断方法であって、
前記バンドソープーリーと前記バンドソーとが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で前記樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部を形成した前記バンドソープーリーを用いて、前記シリコン結晶を切断することを特徴とするシリコン結晶の切断方法。
【請求項6】
前記バンドソープーリーの外周面に、幅が6mm以上10mm以下、深さが100μm以上800μm以下のブレード砥粒逃げ段差を形成して前記シリコン結晶を切断することを特徴とする請求項5に記載のシリコン結晶の切断方法。
【請求項7】
前記バンドソープーリーの回転軸を垂直方向から外側又は内側に傾けることにより、前記バンドソーの刃部の先端部と前記バンドソープーリーの底面の最下部の位置を一致させるように調整することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシリコン結晶の切断方法。
【請求項8】
前記シリコン結晶を切断中の前記バンドソーの形状が、前記バンドソープーリーと前記バンドソーとの接触面に対して外側に凸形状になるように、前記形成された溝部の幅に依存して前記バンドソーへのテンション圧を調整することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のシリコン結晶の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドソー切断装置及びシリコン結晶の切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー(CZ)法等によって製造されたシリコン結晶(インゴット)のコーン状の端部(トップ部及びテイル部)を切断しブロックとする場合、あるいは、そのブロックからウェーハのサンプルを採取する場合などの切断加工にバンドソー切断装置などが使用されている。
【0003】
ここで、
図10に従来の一般的なバンドソー切断装置の一例の概要を示す。
図10に示すように、バンドソー切断装置101は、薄い台金106の端部にダイヤモンドの砥粒を糊着してなるブレード砥粒部105で構成されるエンドレスベルト状のバンドソー(ブレード)102がバンドソープーリー103、103’間に張設されている。バンドソー102はバンドソープーリー103、103’の回転により周回駆動され、バンドソー102のブレード砥粒部105でインゴット108を切断する。また、通常、バンドソープーリー103、103’の両端部に、バンドソーの走行方向をガイドする機構(静圧パッド104、104’)が設けられている。
【0004】
特許文献1には、ベルトドライブ、特にバンドソーのプーリーにおいては、走行を安定して行うために、プーリーの外周面に沿って、バンドソーの走行方向に平行な周回溝が複数設けられることが記載されている。また、この周回溝は、走行方向を安定させるのにはある程度有効であるが、バンドソーなどのように外力を受け、この外力によりベルト等がプーリーの軸方向に偏向するのに対しては十分に有効ではないと記載されている。さらには、この周回溝の幅や深さなどの形状や大きさを規定する条件については一切記載されていない。
【0005】
また、バンドソー切断装置において、良好な切れ味と高い切断精度を得るためには、インゴット切断時の台金の振れを抑える必要がある。そのために、特許文献2では、台金の二つの表面のうち、一方の表面には凹パターンが設けられ、他方の表面にはこの凹パターンに対応する位置に凸パターンが設けられた台金を用いている。この凹凸パターンによって、台金は優れた剛性を有し、振れが低減されるとしている。特許文献2において凹凸の深さ及び高さは共に5〜500μm程度とされている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に示されているように、静圧パッドとバンドソーとの間隔は、10〜50μmで調整されることから、台金に数十〜数百μmにも及ぶ凹凸があると静圧パッドとバンドソーの隙間を調整しにくい。このため、静圧パッドの調整が十分にできず、シリコン結晶切断時に安定した直進性を得ることが困難である。ここで、直進性とは、シリコン結晶等の被削物の切断時にバンドソーの進行方向が保たれる性質であり、直進性が良好だと高い切断精度が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−82691号公報
【特許文献2】特開2006−320983号公報
【特許文献3】特開2009−154346号公報
【特許文献4】特許2681106号公報
【特許文献5】特開2004−160579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バンドソー(電着バンドソー)はSUS等の薄い帯鋼に対して、腰入れ、背盛り等を行った後、所定長さに切断して、端部をプラズマ溶接等で接合し無端のバンド状にしている。さらには、バンドソー長手方向に曲率を与える等している。腰入れは、台金の歪みを取る為に実施しているが、2000mm〜6000mmの全周がある台金を平均的に安定させるのは困難である。このため、従来の電着バンドソーによる加工は、小形の被削物の切断に用いられており、大形被削物では、切断精度が得られないという問題があった(特許文献4、5参照)。
【0009】
そこで、大形被削物への適用を目的として、切断精度とバンドソーの形状の関係を調査した。まず、未使用のバンドソー102をバンドソー切断装置101にセットし、バンドソー102の台金106の形状を、静圧パッド104、104’を設けない状態で、ピックゲージなどの測定器具(測定子)により台金に添って上下に測定した(静圧パッドの影響を受けない状態での測定)。静圧パッドを設けていない状態のバンドソー切断装置を
図11に、バンドソー102の上下方向の形状測定個所を
図12に示す。静圧パッドを設けない状態でのバンドソーの台金形状の測定後、さらに、静圧パッド104、104’をセットしインゴット108の切断を行い、切断時のバンドソー102の変位を測定した。
【0010】
静圧パッドを設けていない状況で、バンドソー102の台金106の形状を測定する際の測定面は、
図12に示されているように、バンドソー102の輪の外側である。測定の結果、バンドソー102の台金106の形状は
図13及び14に示されるように、大きく2種類の形状になることが分かった。静圧パッドの後面115を基準として、
図13に示す形状を凹形状(凹面)、
図14に示す形状を凸形状(凸面)とする。
【0011】
バンドソー102の台金106の形状が凹形状の場合と、凸形状の場合のそれぞれについて、バンドソー切断装置101に静圧パッド104、104’取り付けて、静圧パッドとバンドソー102の隙間を調整した。さらに、
図15に示すように、ブレードセンサー(変位センサー)30を取り付けて、バンドソー102とブレードセンサー30の位置決めを実施し、インゴット108切断時のバンドソー102とブレードセンサー30の間隔Lをブレードセンサー30で測定した。そして、位置決めを行った状態の間隔を変位=0とし、インゴット切断中の間隔の増減をブレード変位として表した。
【0012】
まず、バンドソー102の台金106の形状が凹形状である場合の、インゴット108の切断回数とブレード変位の関係の概要を
図16に示す。
図16〜20において、一つの山又は谷は、切断1回の間のブレード変位を表している。また、
図17に、バンドソー102のライフ(寿命)の各段階におけるブレード変位を模式的に示す。
図17に示されるように、ライフ初期にはブレード変位は比較的小さく、刃先ドレッシングを行うことでブレード変位の方向(正負)を修正することも可能であるが、変位量は徐々に大きくなり、ライフ末期にはブレード変位が大きくなり、切断精度が悪化するとともに、やがてバンドソーの破断に至る。
【0013】
次に、バンドソー102の台金106の形状が凸形状である場合の、インゴット108の切断回数とブレード変位の関係の概要を
図18に示す。また、
図19に、バンドソー102のライフの各段階におけるブレード変位を模式的に示した。
図18に示されるように、バンドソー102の台金106の形状が凸形状である場合には、凹形状の場合に比べて、ブレード変位が比較的小さくなることが分かった。さらに、
図19に示したように、ライフの全段階においてブレード変位がマイナス方向になる場合がないわけではないが、ブレード変位はほぼプラスに維持される。
【0014】
しかしながら、バンドソー102の台金106の形状が初期には凸形状であった場合でも、ライフの途中で、凹形状になりやすく、一旦凹形状になると、その後、凹形状が維持されやすい。この様子を、
図20に示す。
図20のb3において台金106が凹形状となり、その結果、ブレード変位もマイナスになりやすい。
【0015】
そして、凹形状と凸形状の場合を比較すると、凸形状の方が、インゴット切断時の直進性が良く、バンドソー102の寿命も延びることが分かった。一方、凹形状では、インゴット切断時の直進性が悪く、切断されたサンプルが厚くなる傾向がある。また、初期に凸形状のバンドソー102でも切断回数が増加すると凹形状になりやすく、インゴット切断時の直進性も悪化することが分かった。
【0016】
これらのことを模式的に示したのが
図21(凹形状の場合)、及び
図22(凸形状の場合)である。
図22に示した凸形状の場合は、静圧パッド104の前面114と後面115の間隔を適切に調整すると、バンドソー102の形状は、
図22(a)及び(b)に示すように凸形状から略直線状態になり、刃先も変位零の方向を向き(
図22(c))、高い切断精度でインゴットを切断できる。また、バンドソーの寿命も長くなる。
【0017】
これに対して、
図21に示した凹形状の場合は、
図21(a)、(b)及び(c)に示すように、静圧パッドを適切に調整しても、刃先がマイナス変位方向を向いてしまい、インゴットの切断が不安定になりやすく、切断精度が低くなり、バンドソーの寿命も短くなる。
【0018】
これらのことから、バンドソー102をバンドソープーリー103、103’にセットした状態で、バンドソーの形状を凸形状にコントロールする手段が必要なことが分かった。尚、本明細書において、バンドソーの形状と台金の形状は同意である。
【0019】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、シリコン結晶などの被削物を切断する際の切断精度に優れ、バンドソーの寿命を長くすることができるバンドソー切断装置、及びそのようなバンドソー切断装置を用いたシリコン結晶の切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明は、外周面に樹脂層を備える二軸のバンドソープーリーと、該バンドソープーリーにより周回駆動するバンドソーとを有するバンドソー切断装置であって、
前記バンドソープーリーは、該バンドソープーリーと前記バンドソーとが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で前記樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部を備えるものであることを特徴とするバンドソー切断装置を提供する。
【0021】
このような溝部が設けられたバンドソープーリーにより、バンドソーを外側に凸形状にすることで、シリコン結晶等を切断する際の切断精度が向上し、バンドソーの寿命を長くすることができる。
【0022】
このとき、前記バンドソープーリーは外周面に、幅が6mm以上10mm以下、深さが100μm以上800μm以下のブレード砥粒逃げ段差を備えるものであることが好ましい。
【0023】
このような形状のブレード砥粒逃げ段差を備えることにより、バンドソーの上下の振れを抑制することができ、切断精度及びバンドソーの寿命をより向上させることができる。
【0024】
このとき、前記バンドソープーリーの回転軸を垂直方向から外側又は内側に傾ける機構を有するものであることが好ましい。
【0025】
このような機構を備えることにより、バンドソーの刃部の先端部とバンドソープーリーの底面の最下部を一致させる調整を容易に行うことができる。それにより、バンドソーの上下の振れを抑制し、バンドソーの寿命をより長くすることができ、切断精度もより向上する。
【0026】
このとき、周回駆動中の前記バンドソーの形状が、前記バンドソープーリーと前記バンドソーとの接触面に対して外側に凸形状のものであることが好ましい。
【0027】
このように、バンドソーの形状が外側に凸形状であれば、ブレード変位が安定し、切断の直進性が良くなるため、切断精度がより向上し、バンドソーの寿命もより長くなる。
【0028】
また、上記目的を達成するために、本発明は、外周面に樹脂層を備える二軸のバンドソープーリーと、該バンドソープーリーにより周回駆動するバンドソーとを有するバンドソー切断装置によるシリコン結晶の切断方法であって、
前記バンドソープーリーと前記バンドソーとが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で前記樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部を形成した前記バンドソープーリーを用いて、前記シリコン結晶を切断することを特徴とするシリコン結晶の切断方法を提供する。
【0029】
このような溝部が設けられたバンドソープーリーを用いて、バンドソーを外側に凸形状にすることで、シリコン結晶を切断する際の切断精度が向上し、バンドソーの寿命を長くすることができる。
【0030】
このとき、前記バンドソープーリーの外周面に、幅が6mm以上10mm以下、深さが100μm以上800μm以下のブレード砥粒逃げ段差を形成して前記シリコン結晶を切断することが好ましい。
【0031】
このようなブレード砥粒逃げ段差を形成することにより、バンドソーの上下の振れを抑制することができ、切断精度及びバンドソーの寿命をより向上させることができる。
【0032】
このとき、前記バンドソープーリーの回転軸を垂直方向から外側又は内側に傾けることにより、前記バンドソーの刃部の先端部と前記バンドソープーリーの底面の最下部の位置を一致させるように調整することができる。
【0033】
このように、バンドソーの刃部の先端部とバンドソープーリーの底面の最下部を一致させるように調整することにより、バンドソーの上下の振れが抑制され、バンドソーの寿命をより長くすることができ、切断精度もより向上する。
【0034】
このとき、前記シリコン結晶を切断中の前記バンドソーの形状が、前記バンドソープーリーと前記バンドソーとの接触面に対して外側に凸形状になるように、前記形成された溝部の幅に依存して前記バンドソーへのテンション圧を調整することが好ましい。
【0035】
このように、バンドソーの形状が外側に凸形状となるように調整すれば、ブレード変位が安定し、切断の直進性が良くなるため、切断精度がより向上し、バンドソーの寿命もより長くなる。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明のバンドソー切断装置及びシリコン結晶の切断方法によれば、バンドソープーリーの外周面に溝部を備え、バンドソーを外周方向に凸形状に変形させる構成とすることにより、バンドソーの切断時の変位が安定し切断精度が向上するとともに、バンドソーの寿命を長くすることができる。さらには、バンドソーの切断時の変位が安定することにより、従来よりも薄刃を使用することができるようになり、1カット当たりのサンプルのロスを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明のバンドソー切断装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明のバンドソー切断装置のバンドソープーリーの外周部を示す断面概略図である。
【
図3】本発明による溝部のバンドソーの形状を示す模式図である。
【
図4】溝部の形状(幅、深さ)と改善効果の関係を示すグラフである。
【
図7】外側に傾けたバンドソープーリーを示す概略図である。
【
図8】バンドソーを凸形状に調整することを示す模式図である。
【
図9】溝部の幅とテンション圧の関係を示すグラフである。
【
図10】従来のバンドソー切断装置の一例を示す概略図である。
【
図11】静圧パッドを設けていないバンドソー切断装置を示す概略図である。
【
図12】バンドソーの形状測定個所を示す図である。
【
図13】測定された台金の形状(凹形状)を示す概略図である。
【
図14】測定された台金の形状(凸形状)を示す概略図である。
【
図15】ブレードセンサーと静圧パッド後面の関係を示す模式図である。
【
図16】台金が凹形状の場合の、インゴットの切断回数とブレード変位の関係を示す図である。
【
図17】台金が凹形状の場合の、ライフの各段階におけるブレード変位を示す図である。
【
図18】台金が凸形状の場合の、インゴットの切断回数とブレード変位の関係を示す図である。
【
図19】台金が凸形状の場合の、ライフの各段階におけるブレード変位を示す図である。
【
図20】台金が凸形状から凹形状に変化した場合を含む、ライフの各段階におけるブレード変位を示す図である。
【
図21】台金が凹形状の場合の切断方向を示す模式図である。
【
図22】台金が凸形状の場合の切断方向を示す模式図である。
【
図23】従来のバンドソー切断装置のバンドソープーリーの外周部を示す断面概略図である。
【
図24】従来技術によるバンドソーの形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
上述のように、バンドソー切断装置において、バンドソーの寿命が長く、切断精度の良い装置が求められている。
【0039】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、外周面に樹脂層を備える二軸のバンドソープーリーと、該バンドソープーリーにより周回駆動するバンドソーとを有するバンドソー切断装置であって、
前記バンドソープーリーは、該バンドソープーリーと前記バンドソーとが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で前記樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部を備えるものであることを特徴とするバンドソー切断装置により、バンドソーの形状を確実に外側に凸形状とすることができ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0040】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
まず、本発明のバンドソー切断装置について、
図1から
図8を参照して説明する。
【0042】
図1は本発明のバンドソー切断装置の一例を示す概略図である。
図1に示すように、本発明のバンドソー切断装置1は、薄い台金6の端部にダイヤモンドの砥粒を糊着してなるブレード砥粒部5で構成されるエンドレスベルト状のバンドソー2が、外周面に樹脂層を備えるバンドソープーリー3、3’間に張設されている。バンドソー2はバンドソープーリー3、3’の回転により周回駆動され、バンドソー2のブレード砥粒部5でインゴット8を切断する。また、バンドソープーリー3、3’の端部に、バンドソーの走行方向をガイドする静圧パッド4、4’が設けられている。以上は、従来のバンドソー切断装置と略同様である。本発明のバンドソー切断装置1のバンドソープーリー3、3’では、バンドソープーリー3、3’とバンドソー2とが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部16、16’を備えている。
【0043】
バンドソープーリー3、3’の直径は、例えば、500mm〜700mmとすることができる。また、バンドソープーリー3、3’は、バンドソー切断装置1を設置する床面に対して平行に設置されてよい。バンドソー2の台金6の厚さは、0.2mm〜0.5mm、バンドソー2の幅は50mm〜80mm、ブレード砥粒部5の厚さは0.50mm〜1.20mmとすることができる。
【0044】
バンドソープーリー3、3’に設けられる溝部について説明する。
図2は、本発明のバンドソー切断装置に用いられる、溝部16が設けられたバンドソープーリー3の外周部の断面図である。バンドソープーリー3は、外周面に樹脂層(プーリーゴム)12を備え、樹脂層12には、溝部16が形成されている。溝部16は、バンドソープーリー3とバンドソー2とが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域に設けられている。尚、樹脂層12には、特許文献1に記載されているように、溝部16と比較して幅の狭い複数の周回溝20が形成されていてもよい。
【0045】
この溝部16により、バンドソー2が外側に凸形状になることについて説明する。
図3は、
図2に示したバンドソープーリー3を使用してバンドソー2を周回駆動させた場合の、
図2のB部分(溝部に相当)でのバンドソー2の形状を示す模式図である。B部分においては、バンドソー2とバンドソープーリー3が接触しないため、回転時にA部分及びC部分が支点となりB部分が浮き上がり凸形状になる。
【0046】
比較のために、従来のバンドソー切断装置で用いられる一般的なバンドソープーリー103の外周部の断面図を
図23に示す。
図23に示すように、バンドソープーリー103の外周部には樹脂層112が設けられ、そこに複数の周回溝120が設けられているが、上述の溝部16は形成されていない。また、
図24は、
図23に示したバンドソープーリー103を使用してバンドソー102を周回駆動させた場合の、
図23のB部分でのバンドソー102の形状を示す模式図である。基本的に、
図23のB部分においてバンドソー102の形状は、バンドソー102の個体差により凸形状にも、凹形状にもなり得るが、バンドソー102がB部分に強く接触すると凹形状になる。
【0047】
ここで、バンドソープーリー3に設けられた溝部16の幅及び深さと、バンドソー2の寿命や(ブレード)振れなどの改善効果の関係について説明する。
図4は、横軸に溝部の深さ、縦軸に溝部の幅をとり、改善効果が大きかった条件を黒丸印で、改善効果が小さかった条件を黒三角印でプロットしたグラフである。樹脂層12の厚さは、7mmであり、その厚さの70%は約5mmとなる。バンドソープーリー3の直径は700mm、樹脂層12の材料はウレタンゴム、台金6の厚さは0.3mm、バンドソー2に加えるテンション圧(張力)は1.0t/cm
2として、多数のシリコン結晶(インゴット)を切断した。
【0048】
図4に示すように、溝部16の幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上5mm(樹脂層の厚さの70%に相当)以下では、バンドソー2の寿命が長くなり、かつ、バンドソー2の振れも特には観察されなかった。具体的には、
図4の黒丸印をプロットした条件では、従来のバンドソー切断装置に比べてバンドソーの寿命が1.8倍以上に改善された。また、
図4において黒三角印をプロットした条件でも、従来のバンドソー切断装置に比べてバンドソーの寿命は若干改善されていた。
【0049】
これに対して、溝部16の幅が4mm未満ではバンドソー2が凸形状にならず、幅が10mmを超えるとバンドソー2に振れが発生し、バンドソーの寿命はあまり延びなかった。また、溝部16の深さが3mm未満だとバンドソー2は凸形状にならず、樹脂層の厚さに対して70%を超えると溝部16の樹脂層が薄くなり過ぎバンドソープーリーの本体から剥離しやすくなる。
【0050】
次に、バンドソープーリー3に設けられる溝部16の位置について説明する。直径700mm、幅が80mmのバンドソープーリーに、幅5mm、深さ4mmの溝部の位置を3通り変えたものを作製した。
図5は、溝部16の位置を示す模式図である。溝部16の幅の中心が、バンドソー2の上端より15mm下にある場合をD位置、バンドソー2の幅の中心と一致する場合をE位置、バンドソー2の下端より15mm上にある場合をF位置として表した。また、バンドソー2として、幅が60mmのものを用い、作製した3種類のバンドソープーリーについて、バンドソー2を掛けて回転させ刃先の振れを評価した。
【0051】
溝部をE位置に形成したバンドソープーリーを用いた場合は、バンドソー2の刃先の振れは全く発生していなかった。これに対して、D位置及びF位置に溝部を形成したバンドソープーリーを用いた場合は、バンドソー2の刃先の振れが確認された。
【0052】
そこで、幅5mm、深さ4mmの溝部16の位置を、バンドソー2の幅の中心位置から上下方向に変化させたバンドソープーリーを作製し、バンドソー2の刃先の振れの評価を行った。その結果、溝部16の幅の中心位置が、バンドソー2の幅の中心位置から上下に5mm(すなわち、幅10mm)の範囲内にある場合では、少なくとも刃先の振れは発生していなかった。このため、本発明のバンドソー切断装置1においては、溝部16は、バンドソープーリー3とバンドソー2が接触する領域の幅方向の略中心位置に設けられる必要があり、溝部16の位置はバンドソープーリーとバンドソーとが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域とされる。
【0053】
また、バンドソープーリー3は外周面に、幅が6mm以上10mm以下、深さが100μm以上800μm以下のブレード砥粒逃げ段差を備えることが好ましい。
図6に、バンドソープーリー3に形成されたブレード砥粒逃げ段差の概略図を示す。ブレード砥粒逃げ段差18は、一般的に、刃先(砥粒部)の逃げのために形成される。そして、前述のような形状(大きさ)とすることで、バンドソー2を通常運転速度まで上げて回転させても、上下に振れが発生することがない。このため、切断精度とバンドソー2の寿命が向上する。尚、砥粒部の厚さを厚くすると、薄刃化する意味がなくなるので、ブレード砥粒逃げ段差18の深さは、800μm以下とするのが好ましい。
【0054】
また、バンドソー切断装置1は、バンドソープーリー3、3’の回転軸を垂直方向から外側又は内側に傾ける機構を具備してよい。このように、バンドソープーリー3、3’の回転軸を傾ける機構を備えることにより、バンドソー2の刃部(ブレード砥粒部5)の先端部とバンドソープーリー3、3’の底面の最下部を一致させるように調整を行うことができる。
図7はこのことを示す、外側に傾けたバンドソープーリーを示す概略図である。
図7の下図に示す、バンドソープーリー3、3’の底面の最下部を結んだ線の位置と、バンドソー2の刃部の先端部が一致するように調整を行うことができる。このように調整することで、バンドソーを走行させた時の上下振れを抑制することができる。
【0055】
また、周回駆動中のバンドソー2の形状が、バンドソープーリー3、3’とバンドソー2との接触面に対して外側に凸形状のものであることが好ましい。バンドソープーリー3、3’に上述のような溝部を設けることで、バンドソー2を凸形状にするとともに、静圧パッドの後面を基準にして、凸部の高い部位において、20〜50μmバンドソー2を浮かせるように調整することがより好ましい。
図8は、バンドソー2を凸形状に調整することを示す模式図である。
図8において、浮かせる高さを静圧パッドの後面25に対して、20〜50μmにすることが好ましい。
【0056】
次に、本発明のバンドソー切断装置を用いたシリコン結晶の切断方法について、図を参照して説明する。
【0057】
本発明のシリコン結晶の切断方法では、
図1及び
図2に示すように、バンドソープーリーとバンドソー2とが接触する領域の幅方向の中心位置を含む領域において、幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で樹脂層の厚さに対して70%以下である溝部16を形成したバンドソープーリー3、3’を用いて、シリコン結晶を切断する。このような切断方法とすることで、シリコン結晶8を切断する際の切断精度が向上し、バンドソー2の寿命を長くすることができる。
【0058】
また、バンドソープーリー3、3’の外周面に、幅が6mm以上10mm以下、深さが100μm以上800μm以下のブレード砥粒逃げ段差18を形成してシリコン結晶8を切断することができる。このようなブレード砥粒逃げ段差18を形成することにより、切断精度とバンドソーの寿命がより向上する。
【0059】
また、バンドソープーリー3、3’の回転軸を垂直方向から外側又は内側に傾けることにより、バンドソーの刃部(ブレード砥粒部5)の先端部とバンドソープーリー3、3’の底面の最下部の位置を一致させるように調整することができる。このように調整することで、バンドソー2の上下振れが抑制され、切断精度とバンドソーの寿命がより向上する。
【0060】
さらに、シリコン結晶8を切断中のバンドソー2の形状が、バンドソープーリー3、3’とバンドソー2との接触面に対して外側に凸形状になるように、溝部16の幅に依存してバンドソー2へのテンション圧を調整することができる。
【0061】
図9にバンドソープーリーの溝部16の幅と最適なバンドソーのテンション圧との関係を示す。溝部16の幅が大きくなるにつれて、最適なテンション圧も大きくなる傾向がある。斜線で示した部分が特に良好に凸形状を形成できる領域であるが、この範囲に入っていなくても、溝部16の幅が4mm以上10mm以下、深さが3mm以上で樹脂層の厚さに値して70%以下であれば、バンドソー2に凸形状を形成でき、バンドソーの寿命の改善効果が得られる。また、テンション圧は、0.8〜4.0t/cm
2であることが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
上述した本発明のバンドソー切断装置1を用いて、CZ法で製造した直径約300mmのシリコンインゴットを多数切断し、バンドソー2の寿命と切断直進性を調べた。ここで、切断直進性は切断精度を表している。バンドソープーリー3、3’の直径は700mm、外周部にウレタンゴム製の樹脂層12を備え、溝部16の幅を3〜11mm、深さを2〜6mmの間で変えたものを用いた。台金6の厚さは、0.3mmとした。樹脂層12の厚さは7mmであり、その70%は約5mmである。テンション圧はいずれも、1t/cm
2とした。結果を表1(条件1〜5)及び表2(条件6〜10)に示す。尚、以下の表においては、バンドソーの寿命は、従来のバンドソー切断装置での寿命を1.0として、相対値で示してある。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1及び表2において、本発明のバンドソー切断装置1を使用した条件(条件2〜4及び条件7〜9)では、いずれもバンドソーの寿命が1.8と従来のバンドソー切断装置を用いた場合に比べ大幅に延び、また、切断直進性は良好であり、バンドソー2の振れも観察されなかった。これに対して、参考として記載した条件1、5、6では、バンドソー2の寿命の延びはわずかにとどまり、バンドソー2に振れが発生していた。尚、条件10では振れは発生していなかったが、樹脂層12の剥離の懸念がある。
【0067】
(実施例2)
次に、ブレード砥粒逃げ段差18の形状を変えて、本発明のバンドソー切断装置1により、CZ法で製造した直径約300mmのシリコンインゴットを多数切断し、バンドソー2の寿命と切断直進性を調べた。ブレード砥粒逃げ段差18の幅を5〜12mmまで変え、深さはいずれも200μmとした。バンドソープーリー3、3’の直径は700mm、外周部にウレタンゴム製の樹脂層12を備え、溝部16の幅を5mm、深さを4mmとした。台金6の厚さは、0.3mm、樹脂層12の厚さは7mmとした。結果を表3(条件11〜15)に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
条件11〜15のいずれにおいても、ブレード砥粒逃げ段差18を備えたバンドソープーリー3、3’を用いた本発明のバンドソー切断装置1により、バンドソーの寿命と切断直進性が改善した。特に、ブレード砥粒逃げ段差18の幅が6mm以上10mm以下の水準(条件12、13、14)では、バンドソーの寿命は1.8と大幅に向上し、切断直進性も極めて良好であった。
【0070】
(実施例3)
本発明の溝部を備えるバンドソー切断装置1及び従来のバンドソー切断装置101を用いて、シリコン結晶8を切断し、バンドソー2の凹凸形状と、バンドソー2の寿命及びバンドソー2の振れの関係を評価した。その結果を表4(条件16〜22)に示した。表4において、バンドソー凹凸形状の欄の数値がプラスの場合は凸形状であり、マイナスの場合は凹形状であることを表している。また、数値は凸部の高さ、又は凹部の深さを表している。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示すように、周回駆動中のバンドソー2の形状が外側に凸の場合は、バンドソーの寿命が延び、バンドソーの振れも発生していないか、又は発生してもごくわずかであった。これに対し、バンドソー2が凹形状の場合は、バンドソーの寿命は延びず、振れも発生していた。
【0073】
以上で説明したように、本発明のバンドソー切断装置を用いてシリコン結晶を切断することにより、従来のバンドソー切断装置を用いた場合に比べて、バンドソーの寿命と切断直進性を改善することができた。また、ブレード変位が安定し、切断直進性が良くなり、切断精度が改善したことで、サンプル切断時のサンプルロスが改善された。さらには、従来よりも薄刃を使用することができるようになり、薄刃でない従来のバンドソーを使用した場合に比べ、1カット当たりのシリコン結晶の切断ロスを24%削減することもできた。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0075】
1…本発明のバンドソー切断装置、 2…バンドソー、
3、3’…溝部を備えるバンドソープーリー、 4、4’…静圧パッド、
5…ブレード砥粒部、 6…台金、 8…インゴット(シリコン結晶)、
12…樹脂層(プーリーゴム)、 16、16’…溝部、
18…ブレード砥粒逃げ段差、 20…周回溝、 25…静圧パッドの後面、
30…ブレードセンサー、 101…従来のバンドソー切断装置、
102…バンドソー、 103、103’…バンドソープーリー、
104、104’…静圧パッド、 105…ブレード砥粒部、 106…台金、
108…インゴット(シリコン結晶)、 112…樹脂層、
114…静圧パッドの前面、 115…静圧パッドの後面、 120…周回溝、
L…バンドソーとブレードセンサーの間隔。