特許第6402761号(P6402761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6402761酸素吹込配管、及び金属材料の浸出処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402761
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】酸素吹込配管、及び金属材料の浸出処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/08 20060101AFI20181001BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C22B3/08
   C22B23/00 102
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-191953(P2016-191953)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-53322(P2018-53322A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年7月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】立原 和季
(72)【発明者】
【氏名】加藤 篤史
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−011442(JP,A)
【文献】 特開2010−105850(JP,A)
【文献】 特開2002−30008(JP,A)
【文献】 特表2004−503455(JP,A)
【文献】 特開2014−205901(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/086909(WO,A1)
【文献】 特開2004−292901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石のスラリーが装入され、高及び240℃〜260℃の温度条件下において酸素を供給しながら硫酸の添加により該ニッケル酸化鉱石に対する浸出処理が施される反応容器であって
当該反応容器は、少なくとも内部の壁面がチタンにより構成されており、
内部に酸素を供給するための酸素吹込配管が設けられ
前記酸素吹込配管は、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成されている
反応容器
【請求項2】
前記ニッケルクロムモリブデン合金は、58Ni−22Cr−13Mo−3W−3Fe、60Ni−19Cr−19Mo−2Ta、及び53Ni−45Cr−1Moの中から選択されるいずれか1種である
請求項1に記載の反応容器
【請求項3】
前記酸素吹込配管は、その酸素吐出口が、当該反応容器内の内部の壁面から離して、前記スラリーが装入される当該反応容器の気相部に位置するように配設されている
請求項1又は2に記載の反応容器
【請求項4】
反応容器内にニッケル酸化鉱石のスラリーを装入し、高温高圧下において酸素を供給しながら硫酸を添加して該ニッケル酸化鉱石に含まれる金属を浸出する浸出処理方法において、
前記反応容器は、少なくともその内部の壁面がチタンにより構成されており、
240℃〜260℃の温度条件で、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成される酸素吹込み配管を介して、前記反応容器内に酸素を供給する
ニッケル酸化鉱石の浸出処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吹込配管に関するものであり、金属原料に含まれる金属を高温高圧下で酸素を供給しながら硫酸により浸出するための反応容器に設けられ、その反応容器内に酸素を供給するための酸素吹込配管、及びその酸素吹込配管を備えた反応容器を用いた金属材料の浸出処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイト鉱等に代表される低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を回収する湿式製錬法として、硫酸等の酸を用いて高温高圧下で浸出する高温加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法が知られている。
【0003】
具体的に、HPAL法を用いて原料のニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトの混合硫化物を得る湿式製錬プロセスにおいては、例えば、原料鉱石の粒度を調整してスラリー化する前処理工程と、鉱石スラリーに硫酸を添加し高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程と、浸出スラリーから浸出液と浸出残渣とを分離する固液分離工程と、浸出液に中和処理を施して不純物を除去する中和工程と、浸出液中の亜鉛を除去する脱亜鉛工程と、脱亜鉛処理後の浸出液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を生成する硫化工程と、硫化後液を無害化する無害化工程と、が含まれる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、HPAL法に基づく浸出処理(浸出工程)では、原料の鉱石に含まれる元素のうち、ニッケルやコバルトのほかにも、マグネシウム、アルミニウム、鉄、クロムといった他の成分も、下記(1)式に従って浸出されることが知られている。
MO+HSO⇒MSO+HO ・・・(1)
(M:Ni,Co,Mg,Al,Fe,Cr)
【0005】
このうち、鉱石中にゲーサイト[FeO(OH)]として存在する鉄は、下記(2)式に従って、200℃以上の高温下では加水分解反応が進行してヘマタイト[Fe]として析出するため、ほとんど浸出されない。このように、高温高圧下での酸浸出処理では、鉱石中の鉄をヘマタイトとして固定化することで浸出液中への浸出を抑制することができ、この点で常圧浸出法による浸出処理にと比べて優れているといえる。
Fe3++3/2HO→1/2Fe+3H ・・・(2)
【0006】
このように、HPAL法は、鉄を多く含む鉱石中からニッケル及びコバルトを選択的に浸出できる優れた技術であるが、鉄の浸出を完全に抑制することは困難であり、浸出液中には数g/Lオーダーで鉄が含まれるようになる。
【0007】
浸出液中の鉄は、2価鉄及び3価鉄として存在しており、その絶対量及び存在比は浸出液中の酸化還元電位(ORP)によって支配される。例えば、ORPを540mV程度まで上昇させると鉄の存在形態は3価鉄のみとなり、プロトンを生成しながらヘマタイトとして固定され、鉄はほとんど存在しなくなる。このため、ORPを高めて浸出処理を行うことで、鉄のヘマタイトとしての固定化反応でプロトンの生成が起こることによって硫酸使用量を削減することができ、また、鉄が存在しないことによって後工程での中和剤の使用量を抑えることができる。ところが、それ以上にORPを上昇させると、3価クロムが有害な6価クロムに酸化されるようになるため、好ましくない。一方で、ORPが低すぎると、設備の金属ライニングの酸化被膜が減少して設備へのダメージが発生することがある。このように、浸出処理においては、溶液のORPを適切に調整することが望ましい。
【0008】
しかしながら、ORPは浸出処理の対象となる鉱石の組成に大きく依存する。そのため、ORPを制御しながら、鉄の浸出をより効率的に抑制できる技術が求められている。
【0009】
このような技術課題に対して、HPAL法による浸出処理において、純酸素を吹き込み添加することによって溶液のORPを制御することで、有効に鉄の浸出を抑制することができる方法が提案されている。
【0010】
ところが、例えば245℃以上の高温環境下で硫酸を用いた浸出処理において純酸素を吹き込む際に問題となるのは、酸素を吹き込む酸素吹込配管の腐食である。そのため、その酸素吹込配管は、耐腐食性を高める観点から、一般的には、優れた耐腐食材料として用いられるTi(チタン)により構成されている。しかしながら、Tiは、酸素濃度を上昇させたガスを通気すると、次第に発火点に到達する。
【0011】
配管内で発火を引き起こす酸素濃度の境界、すなわち、発火(Ignition)と非発火(No Ignition)との境界は、当該箇所の温度と酸素分圧から計算することができる。図1に示すように、温度245℃における発火/非発火の境界の酸素分圧は、1.5MPa〜1.6MPaである。一方、ガスの圧力は、オートクレーブ装置等の加圧反応容器の内圧4MPaに相当するため、このガス中の限界酸素濃度は1.5MPa〜1.6MPa÷4.0MPa=0.375〜0.4(37.5%〜40vol%)となる。
【0012】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの浸出処理で使用する酸素の濃度としては、およそ90%をターゲットとしているため、純酸素の供給に伴って発火が発生することが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高温高圧下で酸素を吹き込みながら硫酸等の酸により浸出処理を施すにあたり、酸素吹込配管の腐食や、高濃度の酸素による燃焼を効果的に抑制することができ、効率的に酸素を供給することができる酸素吹込配管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、酸素を供給しながら硫酸の添加により金属原料に対する浸出処理が施される反応容器に設けられ、その反応容器内に酸素を供給するための酸素吹込配管を、特定の材質により構成することによって、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において酸素を供給しながら硫酸の添加により該金属原料に対する浸出処理が施される反応容器に設けられ、該反応容器内に酸素を供給するための酸素吹込配管であって、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成されている、酸素吹込配管である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記ニッケルクロムモリブデン合金は、58Ni−22Cr−13Mo−3W−3Fe、60Ni−19Cr−19Mo−2Ta、及び53Ni−45Cr−1Moの中から選択されるいずれか1種である、酸素吹込配管である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は2の発明において、当該酸素吹込配管は、その酸素吐出口が、前記反応容器内の内部の壁面から離れて位置するように配設されて用いられる、酸素吹込配管である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、反応容器内に金属原料のスラリーを装入し、高温高圧下において酸素を供給しながら硫酸を添加して該金属原料に含まれる金属を浸出する浸出処理方法において、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成される酸素吹込み配管を介して、前記反応容器内に酸素を供給する、金属原料の浸出処理方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高温高圧下で酸素を吹き込みながら硫酸等の酸により浸出処理を施すにあたり、酸素吹込配管の腐食や、高濃度の酸素による燃焼を効果的に抑制することができ、効率的に酸素を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】酸素雰囲気下でのチタンの発火限界の関係を示すグラフ図である。
図2】HPAL法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示すフロー図である。
図3】酸素吹込配管を備えたオートクレーブ装置の構成の一例を示す図である。
図4】酸素吹込配管の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
≪1.概要≫
本発明に係る酸素吹込配管は、金属原料のスラリーが装入され、高温高圧下において酸素を供給しながら硫酸の添加によりその金属原料に対する浸出処理が施される反応容器に設けられるものであって、その反応容器内に酸素を供給するためのものである。例えば、金属原料のスラリーとしては、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルト等の有価金属を回収する湿式製錬プロセスにおいて用いられる鉱石スラリーを挙げることができる。そして、そのニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理に用いるオートクレーブ装置に設けられ、そのオートクレーブ装置内に酸素を供給する酸素吹込配管として、本発明に係る酸素吹込配管を適用することができる。
【0024】
具体的に、この酸素吹込配管は、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成されていることを特徴としている。
【0025】
このような酸素吹込配管によれば、高温高圧下での硫酸を用いた浸出処理において、高濃度の酸素を反応容器内に吹き込んだ場合でも、その酸素吹込配管の腐食を抑制することができるとともに、その酸素による燃焼を効果的に防ぐことができる。これにより、安全性高く操業を進行させることが可能となり、また、効率的に酸素を供給することができて金属原料の浸出処理を有効に進行させることができる。
【0026】
以下では、HPAL法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理の反応容器として使用するオートクレーブ装置に、本発明に係る酸素吹込配管を適用する場合を一例として挙げて、より具体的に説明する。
【0027】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス≫
図2は、HPAL法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示すフロー図である。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石をスラリー化する鉱石スラリー化工程S11と、スラリーを高温高圧下で硫酸により浸出して浸出スラリーを得る浸出工程S12と、浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程S13と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S14と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S15とを有する。
【0028】
(1)鉱石スラリー化工程
鉱石スラリー化工程S11では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に対して、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石粒子に水を添加して粗鉱石スラリーとする。
【0029】
原料のニッケル酸化鉱石は、ニッケルやコバルトを含有する鉱石であり、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が用いられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般的には0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0030】
ニッケル酸化鉱石の分級方法としては、所望とする粒径に基づいて鉱石を分級できれば特に限定されず、例えば、グリズリーや振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。また、その分級点についても、特に限定されず、所望とする粒径値以下の鉱石粒子からなる鉱石スラリーを得るための分級点を適宜設定することができる。
【0031】
(2)浸出工程
浸出工程S12では、高温加圧反応容器(オートクレーブ装置等)を用いて、例えば240℃〜260℃の高温条件で、高圧蒸気を供給して加圧しながら、鉱石スラリーに硫酸を添加して鉱石に含まれるニッケル及びコバルトを浸出する浸出処理を施す。この浸出処理により、ニッケル及びコバルトを含有する浸出液と、ヘマタイトを含む浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0032】
ここで、詳しくは後述するが、浸出工程S12における浸出処理では、スラリーに対して酸素を供給しながら硫酸により金属を浸出させる。具体的には、オートクレーブ装置に、高濃度の酸素を供給する酸素吹込配管を備えるようにし、例えば、鉱石スラリーが装入されたオートクレーブ装置内の気相部に酸素を供給する。このように高濃度の酸素を供給しながら浸出処理を行うことで、スラリーの酸化還元電位(ORP)を制御することができ、鉱石に含まれる鉄の浸出を抑制し、ニッケルやコバルトの浸出率を向上させることができる。
【0033】
(3)固液分離工程
固液分離工程S13では、浸出工程S12で生成した浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とを固液分離する。
【0034】
固液分離工程S13では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いる。
【0035】
(4)中和工程
中和工程S14では、浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る。このような中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0036】
中和処理に用いる中和剤としては、公知のもの使用することができる。例えば、石灰石、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、中和処理においては、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、pHを1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、ニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0037】
(5)硫化工程
硫化工程S15では、中和工程S14における中和処理で得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物と、硫化後液とを得る。このような硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となって回収され、スカンジウム等のその他の元素は硫化後液に残留することになる。
【0038】
具体的に、硫化工程S15では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加し、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル等の濃度を低い水準で安定させた硫化後液(貧液)とを生成させる。
【0039】
硫化工程S15における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて分離処理し、その混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。
【0040】
なお、硫化処理に供する中和後液に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケル及びコバルトを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0041】
≪3.浸出処理に用いる反応容器(オートクレーブ装置)≫
図3は、上述した湿式製錬プロセスにおける浸出工程S12での浸出処理に用いる、酸素吹込配管を備えたオートクレーブ装置の構成を示す図であり、オートクレーブ装置を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。
【0042】
(オートクレーブ装置の構成)
オートクレーブ装置1は、金属原料である鉱石スラリーが装入され、高温高圧下において硫酸の供給によりその鉱石中に含まれる金属を浸出する浸出処理が施される反応容器である。このオートクレーブ装置1は、鉱石スラリーMが装入されて浸出反応の場となる本体部11と、鉱石スラリーを撹拌する撹拌機12とを備える。また、オートクレーブ装置1には、鉱石スラリーに対して酸素を吹き込む酸素吹込配管13が設けられている。
【0043】
(本体部)
本体部11は、上述したように、その内部に鉱石スラリーMが装入されて、硫酸による浸出反応が生じる反応場となる。本体部11は、図示しないが、例えば隔壁によって複数の区画室に区画されており、各区画室で浸出反応が生じるようになっており、上流の区画室から下流の区画室へとスラリーがオーバーフローして移送される。
【0044】
本体部11の内部(各区画室の内部)には、例えばその上部から垂下されるようにして、浸出処理に用いる硫酸溶液を供給する硫酸供給配管や、処理対象となる鉱石スラリーを最上流の区画室に装入するためのスラリー装入配管、さらには高圧蒸気等を供給するための蒸気供給配管等の種々の供給配管が付設されている。
【0045】
ここで、オートクレーブ装置1の本体部11においては、特に限定されないが、Ti(チタン)を含む材質で構成されていること好ましい。本体部11内では、上述したように高温高圧下で硫酸による浸出反応を生じさせることから、耐腐食性を有する材質により構成されていることが好ましく、特にTiにより構成することで、その耐腐食性を高めることができ。
【0046】
(撹拌機)
撹拌機12は、本体部11の内部に設置され、例えば本体部11の内部が隔壁により複数の区画室に区画されている場合にはそれぞれの区画室に設置されている。撹拌機12は、本体部11の内部に装入されたスラリーを撹拌する。
【0047】
撹拌機12としては、例えば図2に模式的に示すように、モータ21に連結された撹拌軸22と、その撹拌軸の端部に設けられた撹拌羽根23とを備えたプロペラ形状のものを用いることができる。撹拌機12は、本体部11の上部天井から垂下されて、オートクレーブ装置1を上部から視たとき、反応空間の中央部分に撹拌軸22が位置するように設けることができる。
【0048】
撹拌機12は、モータ21の駆動により例えば時計回りに所定速度で撹拌軸22を回転させ、撹拌羽根23によってスラリーを撹拌する。図2に示すように、撹拌羽根23(23a,23b)は、撹拌軸22の端部における上下方向に複数設けることができる。
【0049】
(酸素吹込配管)
酸素吹込配管13は、鉱石スラリーに対して高濃度の酸素を吹き込み供給するための配管である。酸素吹込配管13は、例えば、本体部11の上部天井から垂下されるようにして設けられている。具体的には、酸素吹込配管13は、本体部11の上部に設けられたフランジ14に固定されて設けられている。
【0050】
この酸素吹込配管13は、酸素発生設備2に接続されており、酸素発生設備2にて発生した酸素が酸素吹込配管13を介して本体部11内に供給される。このように、酸素吹込配管13を介して酸素を供給することにより、スラリーのORPを所望の範囲に適切に制御することができる。
【0051】
図4は、酸素吹込配管13の構成の一例を示す断面図である。図4に示すように、酸素吹込配管13は、例えばノズル形状の配管であり、配管部31と、酸素吹込配管13を本体部11上部のフランジ14に取り付けて固定する取付用フランジ32と、酸素発生設備2に接続するための接続用フランジ33とを備える。なお、取付用フランジ32や接続用フランジ33は、相手フランジ(本体部11上部のフランジ14、酸素発生設備2に設けられたフランジ(図示しない))とボルト締めや溶接等により接続される。
【0052】
酸素吹込配管13においては、配管部31の先端(酸素発生設備2との接続端部とは反対の端部)に酸素吐出口31Aが存在しており、その酸素吐出口31Aから酸素が吐出される。具体的に、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出処理では、およそ90%の高濃度の酸素が、酸素吹込配管13を介して酸素吐出口31Aから吹き出される。
【0053】
ここで、酸素吹込配管13においては、特定の材質から構成されており、具体的には、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成されていることを特徴としている。上述したように、浸出処理では、例えば245℃以上の高温でかつ高圧の環境下で、酸素を供給しながら硫酸を添加して処理を行っている。そのため、酸素吹込配管13としては、高温環境下で硫酸を添加することによる腐食を効果的に抑制するとともに、高濃度の酸素による配管内等での燃焼を防ぐことが重要となる。
【0054】
このとき、ニッケルクロムモリブデン合金(Ni−Cr−Mo合金)により構成される酸素吹込配管13を用いることによって、腐食や、高濃度の酸素による燃焼を効果的に抑制することができる。これにより、安全性高く操業を行うことができ、効率的に酸素を供給して、浸出効率の低下等を抑えることができる。
【0055】
Ni−Cr−Mo合金は、マンガン、シリコン、コバルト、タングステン、タンタル、鉄等を随意に含むものであることが知られており、特に限定されないが、58Ni−22Cr−13Mo−3W−3Fe、60Ni−19Cr−19Mo−2Ta、及び53Ni−45Cr−1Moの中から選択されるいずれか1種を用いることが好ましい。なお、58Ni−22Cr−13Mo−3W―3Feは、商品名ハステロイC−22として市販されており、60Ni−19Cr−19Mo−2Taは、商品名MAT21として市販されており、53Ni−45Cr−1Moは、商品名MCアロイとして市販されている。
【0056】
酸素吹込配管13は、その酸素吐出口31Aが、スラリーが装入されたオートクレーブ装置1の本体部11内における気相部(図2中の符号「11G」で示す空間)に位置するように配設されることが好ましい。つまり、酸素吐出口31Aがスラリーの液面に触れない状態で配設されており、気相部11Gに位置させた酸素吐出口31Aから、本体部11内のスラリーの液面に向かって酸素が吹き込まれる。
【0057】
このように、酸素吹込配管13の酸素吐出口31Aが気相部11Gに位置されるように設けられているため、酸素吹込配管における酸素吐出口を液相に挿入してその液相に直接酸素を吹き込む場合と比べて、硫酸等を含むスラリーが配管内を逆流するといった問題が起こらず、ニッケルやコバルトの浸出率の低下を抑制することができる。
【0058】
さて、オートクレーブ装置1においては、例えば245℃以上の高温下で硫酸を用い、さらに酸素吹込配管13を介して酸素を吹き込みながら浸出処理を行うため、オートクレーブ装置1自体においてその内部に腐食が発生する可能性が考えられる。そのため、このような浸出処理を行うオートクレーブ装置1としては、上述したように、耐腐食性を高める観点からTiを含む材質により構成することが好ましい。
【0059】
しかしながら、酸素濃度を上昇させたガスがオートクレーブ装置1に通気されると、Tiの発火点に到達してそのオートクレーブ装置1の内部においても燃焼が起こる可能性が考えられる。そのことから、オートクレーブ装置1においてTiにより装置内壁等を構成する場合には、酸素吹込配管13から本体部11の内部に吹き込まれる酸素が、そのTiにより構成された内壁に触れることのないように供給することが好ましい。
【0060】
このことから、オートクレーブ装置1においては、酸素吹込配管13の酸素吐出口31Aが、オートクレーブ装置1の本体部11の内部の壁面から離れて位置するように配置することが好ましい。具体的には、図3に示すように、オートクレーブ装置1の高さ方向(図3中の矢印H方向)の位置として、本体部11内の壁面11sとスラリーの液面Msとの略中間点に酸素吐出口31Aが配置されるようにすることが好ましい。
【0061】
オートクレーブ装置1の本体部11における気相部11Gは、蒸気とオーバープレッシャー分の不活性ガス(N、O、生成CO等)との混合ガスで構成されているが、その大部分は蒸気であり、平均分子量はおよそ20程度であると推測される。一方で、酸素吹込配管13を介して供給する酸素は比重が大きく冷たいため、本体部11の内部の気相部11Gにスラリーの液面に向かって酸素を供給すると、そのまま液面の方向に酸素が流れていく。そのため、供給される酸素は、オートクレーブ装置1の内部の壁面、すなわちTiにより構成される壁面には直接触れることはない。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
HPAL法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける浸出工程にて、図3に示すようなオートクレーブ装置1を用いて硫酸による浸出処理を行った。
【0064】
すなわち、図3に示すように、オートクレーブ装置(缶内寸法:直径5m×長さ25m)1として、本体部11と、撹拌機12と、酸素吹込配管13とを備えるものを用いた。オートクレーブ装置1の本体部11の内壁をTiで構成し、また、その外部上方にフランジ14を設けてそのフランジ14に酸素吹込配管13を固定して取り付けた。このようなオートクレーブ装置1の本体部11内に鉱石スラリーを装入し、スラリーの液面高さが4200mmとなるようにした。
【0065】
酸素吹込配管13としては、図4に示したような形状、構成を備え、58Ni−22Cr−13Mo−3W−3FeからなるNi−Cr−Mo合金により構成されるものを用いた。なお、酸素吹込配管13の配管部31の長さは1170mmとした。また、酸素吹込配管13は、その先端部に位置する酸素吐出口31Aが、本体部11の上部壁面から290mmの高さ位置に配置されるように設けた。このとき、スラリーの液面から酸素吐出口31Aまでの距離は170mmとなり、したがって、酸素吐出口31Aが本体部11内の気相部11Gに酸素が吹き出されるようにした。
【0066】
このようなオートクレーブ装置1を用いて、酸素をスラリーの液面に向かって供給しながら、硫酸による浸出処理を行った。なお、浸出処理に際して条件を以下に示す。
(酸素供給条件)
ガス流量:90Nm/h/train
酸素濃度:90%
(硫酸浸出の操業条件)
A/C温度:259degC(蒸気圧:4,620kPaA)
A/C圧力:5,200kPaA(超過圧力:400〜500kPa)
【0067】
5か月間の操業を行った結果、酸素吹込配管13において燃焼や破損は確認されなかった。すなわち、操業開始時と何ら変わらない状態を維持することができた。なお、従来では、酸素吹込配管としてTiにより構成されたものを用いた場合には、酸素の供給により配管の内部に燃焼痕が確認され、操業の停止を余儀なくされることがあった。
【符号の説明】
【0068】
1 オートクレーブ装置
11 本体部
12 撹拌機
13 酸素吹込配管
14 フランジ
31 (酸素吹込配管における)配管部
31A 酸素吐出口
図1
図2
図3
図4