特許第6402938号(P6402938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402938
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】コバルト価数の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2273 20180101AFI20181001BHJP
【FI】
   G01N23/2273
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-174213(P2015-174213)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2017-49189(P2017-49189A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−056809(JP,A)
【文献】 特開昭62−188024(JP,A)
【文献】 特開昭62−275316(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00198472(EP,A1)
【文献】 特開2001−201470(JP,A)
【文献】 特開平10−111262(JP,A)
【文献】 特開2012−240873(JP,A)
【文献】 特開2015−004604(JP,A)
【文献】 Investigating the Oxidation of a Cobalt-based Catalyst Using X-ray Photoelectron Spectroscopy,Thermo Scientific Application Note,Thermo Scientific,2012年,No.52373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
C01G 25/00−25/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
APS Journals
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト化合物のコバルト価数を評価する評価方法であって、
コバルト価数が異なり、前記コバルト価数が既知である複数の基準コバルト化合物を準備する準備工程と、
前記複数の基準コバルト化合物のそれぞれについて、X線を照射し、メインピークおよびサテライトピークを有するCo2pの光電子スペクトルを取得する測定工程と、
前記複数の基準コバルト化合物の各光電子スペクトルについて、前記メインピークと前記サテライトピークの合計面積に対する前記サテライトピークの面積のピーク面積比を算出して解析する解析工程と、
前記解析工程の結果に基づいて、コバルト価数とサテライトピークのピーク面積比との関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、
評価物質としてコバルト価数が不明なコバルト化合物にX線を照射し、メインピークおよびサテライトピークを有するCo2pの光電子スペクトルを取得して、前記メインピークと前記サテライトピークの合計面積に対する前記サテライトピークの面積のピーク面積比を算出し、当該ピーク面積比を前記検量線に照らし合わせることで、前記評価物質のコバルト価数を評価する評価工程と、を有することを特徴とする、コバルト価数の評価方法。
【請求項2】
前記検量線作成工程では、前記検量線から前記コバルト価数と前記ピーク面積比との一次近似式を求め、
前記評価工程では、前記一次近似式から、前記評価物質のコバルト価数を算出して評価することを特徴とする、請求項1に記載のコバルト価数の評価方法。
【請求項3】
前記準備工程では、前記複数の基準コバルト化合物として、CoO、CoおよびCoO(OH)を用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコバルト価数の評価方法。
【請求項4】
前記評価工程では、前記評価物質の前記コバルト価数から、2価のコバルトと3価のコバルトの混在する比率を評価することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のコバルト価数の評価方法。
【請求項5】
前記解析工程および前記評価工程では、前記光電子スペクトルから前記メインピークを取り除き、前記サテライトピークを波形分離して抽出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のコバルト価数の評価方法。
【請求項6】
前記解析工程および前記評価工程では、前記サテライトピークを少なくとも2つに波形分離することを特徴とする、請求項5に記載のコバルト価数の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト価数の評価方法に関し、特に、リチウムイオン二次電池の正極材料や磁性材料、触媒などに用いられるコバルト化合物のコバルト価数を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体機器の電源や電力貯蔵に用いられる二次電池としては、高いエネルギー密度や優れた充放電サイクル特性を有することから、リチウムイオン二次電池が着目されている。リチウムイオン二次電池にはいくつかの種類があるが、近年、リチウムとコバルト(Co)などの遷移金属を含むコバルト化合物を正極材料として用いたものが広く利用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極材料にリチウムイオンを出入りさせて遷移金属の価数を変化させることで、充放電することができる。充放電が遷移金属の価数変化によることから、正極材料に含まれる遷移金属の価数を把握することは、正極材料の設計において重要となる。つまり、コバルト化合物におけるコバルト価数の変化は特に重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、正極材料に含まれる遷移金属の価数を評価するために、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:以下、EELSともいう)を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−92468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すように、正極材料に含まれる遷移金属の価数を評価する場合、以下のような問題がある。すなわち、EELSは通常、透過型電子顕微鏡(以下、TEMともいう)に付属する分析方法であり、価数評価の際に、試料である正極材料に収束イオンビームを用いた断面加工を施す必要がある。そのため、断面加工により工程が複雑となるばかりか、断面加工時に試料の状態が変化するおそれがあり、価数を精度よく評価できない。
【0007】
また、正極材料に含まれる遷移金属の価数を評価するために、従来公知のX線吸収微細構造解析(X-ray absorption fine structure:以下、XAFSともいう)やX線光電子分光法(X-Ray Photoelectron Spectroscopy:以下、XPSともいう)を適用することも考えられるが、それぞれ以下のような問題を有している。
【0008】
XAFSの場合、正極材料をバルク全体として測定するため、正極材料全体としての価数しか評価できず、材料特性を検討するうえで重要な正極材料の表面における情報を選択的に得ることができない。
【0009】
一方、XPSによれば、EELSのように断面加工を施す必要がなく、またXAFSとは違って正極材料表面における情報を選択的に得ることができる。しかしながら、本発明者の検討によると、XPSの場合、遷移金属でも後周期の金属元素、例えばコバルトについて、価数を精度よく評価することができないことが分かった。一般的な元素の場合、価数が異なると、XPSにより得られる光電子スペクトルの形状が異なるので、そのメインピークの結合エネルギーから価数を特定することができる。これに対して、遷移金属の場合、メインピークに価数による違いが少なく、メインピークの結合エネルギーから価数を特定することが困難である。遷移金属の中でもコバルトは、特に困難となる。
【0010】
そこで、本発明は、X線光電子分光法によりコバルト化合物におけるコバルト価数を精度よく評価するコバルト価数の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
コバルト化合物のコバルト価数を評価する評価方法であって、
コバルト価数が異なり、前記コバルト価数が既知である複数の基準コバルト化合物を準備する準備工程と、
前記複数の基準コバルト化合物のそれぞれについて、X線を照射し、メインピークおよびサテライトピークを有するCo2pの光電子スペクトルを取得する測定工程と、
前記複数の基準コバルト化合物の各光電子スペクトルについて、前記メインピークと前記サテライトピークの合計面積に対する前記サテライトピークの面積のピーク面積比を算出して解析する解析工程と、
前記解析工程の結果に基づいて、コバルト価数とサテライトピークのピーク面積比との関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、
評価物質としてコバルト価数が不明なコバルト化合物にX線を照射し、メインピークおよびサテライトピークを有するCo2pの光電子スペクトルを取得して、前記メインピークと前記サテライトピークの合計面積に対する前記サテライトピークの面積のピーク面積比を算出し、当該ピーク面積比を前記検量線に照らし合わせることで、前記評価物質のコバルト価数を評価する評価工程と、を有することを特徴とする、コバルト価数の評価方法が提供される。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のコバルト価数の評価方法において、
前記検量線作成工程では、前記検量線から前記コバルト価数と前記ピーク面積比との一次近似式を求め、
前記評価工程では、前記一次近似式から、前記評価物質のコバルト価数を算出して評価する。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載のコバルト価数の評価方法において、
前記準備工程では、前記複数の基準コバルト化合物として、CoO、CoおよびCoO(OH)を用いる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかに記載のコバルト価数の評価方法において、
前記評価工程では、前記評価物質の前記コバルト価数から、2価のコバルトと3価のコバルトの混在する比率を評価する。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれかに記載のコバルト価数の評価方法において、
前記解析工程および前記評価工程では、前記光電子スペクトルから前記メインピークを取り除き、前記サテライトピークを波形分離して抽出する。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1〜第4の態様のいずれかに記載のコバルト価数の評価方法において、
前記解析工程および前記評価工程では、前記サテライトピークを少なくとも2つに波形分離する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、X線光電子分光法によりコバルト化合物におけるコバルト価数を精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態にかかるコバルト価数の評価方法を説明するための工程図である。
図2】価数が異なる複数のコバルト化合物について光電子スペクトルの違いを説明するための図である。
図3】CoOの光電子スペクトルを示す図である。
図4】Coの光電子スペクトルを示す図である。
図5】CoO(OH)の光電子スペクトルを示す図である。
図6】コバルト価数とサテライトピークの面積比との相関を示す検量線である。
図7】実施例1で用いた、価数が不明なコバルト化合物の光電子スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(本発明者の知見)
本発明の実施形態の説明に先立ち、X線光電子分光法の測定原理と本発明者が得た知見について説明する。
【0020】
X線光電子分光法(XPS)は、試料にX線を入射し、光電効果によって励起された光電子の運動エネルギーを解析する分析法である。式で表すと、下記式(1)のように示され、光電子の運動エネルギーから各原子の内殻軌道の電子の結合(束縛)エネルギーを算出できる。
(式中、Eは電子の結合(束縛)エネルギーを、hνは入射X線のエネルギーを、Eは光電子の運動エネルギーを、φは試料の仕事関数を、それぞれ示す。)
【0021】
電子の結合(束縛)エネルギー(E)は原子ごとに異なるため、その値から、試料に含まれている元素を特定することができる。また、原子における電子の結合(束縛)エネルギーの値は、その原子の化学結合状態(結合している原子の種類、価数、結晶構造)を反映して変化する。エネルギーの変化量(化学シフト)を解析することにより、試料に含まれる各原子の化学結合状態を解析することができる。
また、XPSは、試料表面(表面から数nmの深さ領域)の元素情報及びその化学状態の情報を選択的に取得できるという特徴も持つ。これは、試料中で発生した光電子は試料中の原子によって非弾性散乱を受け、エネルギーを損失しやすく、非弾性散乱を受けずに無事に試料外部へ放出される光電子が試料表面のごく浅い領域表面から数nmの深さ領域)に限られるためである。
XPSによれば、Li〜Uまでの幅広い原子を解析でき、相対感度係数を用いることで半定量的な組成分析も行うことができる。
【0022】
XPSにより価数を評価する場合、一般的な元素であれば、価数の増加に伴って電子の結合(束縛)エネルギー(E)が増加し、光電子スペクトルのメインピークが高結合エネルギー側にシフトするため、メインピークのピークトップの結合エネルギー値から価数を特定することができる。しかし、コバルトでは、価数の増加に伴う内殻電子の結合エネルギーの変化が小さいため、メインピークのピークトップのエネルギー値の違いから価数を特定することが困難となっている。具体的には、図2に示すように、コバルト化合物としてCoO、CoおよびCoO(OH)の光電子スペクトルは、価数がそれぞれ2価、2価+3価(混在)、3価と異なるにもかかわらず、結合エネルギー780eV付近に生じるメインピークのピークトップのエネルギー値に大きな違いがないことが分かる。つまり、コバルト化合物では、メインピークの結合エネルギーから価数を評価することが困難である。なお、図2は、各コバルト化合物について、2p3/2軌道に存在する内殻電子の光電子スペクトルを示しており、横軸は結合エネルギー[eV]であり、縦軸は規格化された強度[%]である。
【0023】
本発明者は、図2の各コバルト化合物の光電子スペクトルを比べたときに、メインピークではピーク形状に違いがないが、メインピークとは異なる、結合エネルギー784〜790eVの範囲で発生するサテライトピークではピーク形状に違いがあることに着目した。そこで、サテライトピークと価数との関係についてさらに検討を行った。
【0024】
一般に、サテライトピークは、非弾性散乱や多重項分裂、光電子放出過程でのプラズマ振動励起などに起因して発生するが、本発明者の検討によると、コバルトのような後周期の3d遷移金属と陰イオンとが結合した化合物では、電荷移動により発生することが確認された。
【0025】
コバルトなどの後周期の3d遷移金属の化合物において、サテライトピークが発生するメカニズムは以下のように推測される。
例えば、3d遷移金属の酸化物では、金属3d軌道と酸素2p軌道は、フェルミ準位付近の、エネルギー的に近い位置に存在し、結合を形成している。この結合に寄与している電子はエネルギー的に低い酸素2p軌道に局在している。そのため、結合はイオン結合的であるが、金属3d軌道のエネルギー準位が下がるなどして、酸素2p軌道と近くなると電子の酸素2p軌道における局在性が下がり、電子は金属3d軌道と酸素2p軌道に共有されやすくなり、結合は共有結合的になる。3d遷移金属においては原子番号が大きいものほど金属3d軌道のエネルギー準位が下がるため、コバルト、ニッケルのような原子番号が大きい3d遷移金属の酸化物は、金属3d軌道と酸素2p軌道の共有結合性が高くなる。
このような酸化物をXPSにて分析した場合、X線の入射によって光電子が放出され、遷移金属の内殻軌道(2p)に正孔が発生すると、内殻正孔を遮蔽するように酸素2p軌道から金属3d軌道へ電子が移動する(電荷移動が生じる)場合と、生じない場合の二つの終状態が発生する。電荷移動が生じる場合、酸素2p軌道から金属3d軌道へ移動した電荷によって内殻正孔は強く遮蔽され、遷移金属の内殻軌道(2p)のエネルギー準位が上がる。つまり、内殻電子の原子核による束縛エネルギー(結合エネルギー)が低くなる。一方、電荷移動が生じない場合、遷移金属の内殻正孔の3d軌道電子による遮蔽が弱くなり、遷移金属の内殻軌道(2p)電子は原子核によって強く束縛され、結合エネルギーは、電荷移動が生じる場合よりも高くなる。結果として、遷移金属の内殻軌道(2p)の光電子スペクトルには2つのピークが現れ、酸素2p軌道から金属3d軌道へ電荷移動が起きた場合がメインピーク、電荷移動が起きなかった場合がサテライトピークとして現れることになる。
【0026】
そして、図2に示すように、サテライトピークは、コバルト価数の増加とともに強度が低くなる傾向にあることが分かる。このメカニズムは、以下のように考えられる。
サテライトピークの発生確率は、遷移金属3d軌道と酸素2p軌道のエネルギー関係と相関がある。具体的には、遷移金属3d軌道と酸素2p軌道のエネルギー準位が近くなり、結合が共有結合的になるほど、酸素2p軌道から遷移金属3d軌道への電荷移動が起きやすくなり、サテライトピークの発生確率が低くなる。コバルト化合物の場合、コバルト価数が高くなるほど、Co3d軌道は原子核に強く束縛され、そのエネルギー準位は低くなるため、Co3d軌道とO2p軌道とのエネルギー差が小さくなり、重なりが大きくなって共有結合性が大きくなる。そのため、コバルト化合物では、コバルト価数が高くなるほど、サテライトピークの発生確率が低くなり、強度が低くなる。
【0027】
このように、コバルト化合物の光電子スペクトルにおいてサテライトピークに着目することで、メインピークでは判別することができなかったコバルト価数を精度よく評価できることが見出された。
【0028】
さらに、コバルト価数が既知のコバルト化合物を用いて、価数とサテライトピークのピーク面積比との検量線を作成したところ、これらが所定の相関を有することを見出した。この検量線によれば、コバルト価数が不明な評価物質について、サテライトピークのピーク面積からコバルト価数を算出して評価することができる。
【0029】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
ここでは、以下のように項分けをして説明を行う。
1.評価物質
2.コバルト価数の評価方法
2−1.準備工程
2−2.測定工程
2−3.解析工程
2−4.検量線作成工程
2−5.評価工程
3.本実施形態の効果
【0031】
<1.評価物質>
本実施形態のコバルト価数の評価方法において、評価対象となる化合物、つまり評価物質は、リチウムイオン二次電池の正極材料や磁性材料、触媒などに用いられるコバルト化合物である。コバルト化合物としては、例えば、コバルトやリチウム以外に、マンガン、ニッケルを含む三元系正極材料などが挙げられる。評価物質の形状は、特に限定されず、例えば、板状、箔状とすることができる。
【0032】
<2.コバルト価数の評価方法>
本発明の一実施形態にかかるコバルト価数の評価方法について、図1のフロチャートを参照して説明する。
本実施形態では、まず、コバルト価数(以下、Co価数ともいう)が既知のコバルト化合物を用いて、Co価数とサテライトピークのピーク面積比との関係を示す検量線を作成する。その後、価数が不明なコバルト化合物について、サテライトピークのピーク面積比を求め、検量線と照らし合わせることで、Co価数を評価する。
具体的には、本実施形態の評価方法は、基準コバルト化合物を準備する準備工程S10と、基準コバルト化合物を測定する測定工程S20と、測定工程S20の測定結果を解析する解析工程S30と、解析工程S30の結果に基づいて検量線を作成する検量線作成工程S40と、評価物質を評価する評価工程S50と、を有する。以下、各工程について詳述する。
【0033】
<2−1.準備工程S10>
まず、準備工程S10にて、Co価数が既知であって互いに異なる複数の基準コバルト化合物を準備する。基準コバルト化合物とは、後述する検量線を作成するために用いるCo価数が明らかなコバルト化合物のことである。本実施形態では、検量線を作成するために、基準コバルト化合物を少なくとも3つ準備することが好ましい。基準コバルト化合物としては、Co価数が明らかなものであれば特に限定されない。入手のしやすさから、CoO、CoおよびCoO(OH)が好ましい。これらのCo価数は、それぞれ2価、2.67価、3価である。
【0034】
<2−2.測定工程S20>
続いて、測定工程S20にて、複数の基準コバルト化合物をX線光電子分光法により測定し、それぞれの光電子スペクトルを取得する。具体的には、コバルトの2p3/2軌道に存在する内殻電子からの光電子を測定し、そのスペクトルを取得する。これにより、例えば図3〜5に示すような内殻電子の光電子スペクトルを得る。図3は、CoOの光電子スペクトルを示し、図4は、Coの光電子スペクトルを示し、図5は、CoO(OH)の光電子スペクトルを示す。図3〜5に示すように、コバルト化合物は、Co価数によらず、いずれも、結合エネルギー780eV近傍にメインピークを有し、結合エネルギー784〜790eVの範囲にサテライトピークを有する。なお、図3〜5はいずれも、2p3/2軌道に存在する内殻電子の光電子スペクトルを示しており、縦軸は光電子の強度を表すカウント数であり、横軸は結合エネルギーである。
【0035】
なお、本実施形態では、測定工程S20にて、2p3/2軌道に存在する内殻電子の光電子スペクトルを取得しているが、2p1/2軌道に存在する内殻電子の光電子スペクトルを取得するように測定してもよい。
【0036】
<2−3.解析工程S30>
続いて、解析工程S30にて、各基準コバルト化合物の光電子スペクトルについて解析を行う。解析工程S30には、測定工程S20で得られた各光電子スペクトルのそれぞれについて、サテライトピークを抽出する抽出工程S31と、抽出したサテライトピークのピーク面積比を算出する算出工程S32と、が含まれる。
【0037】
(抽出工程S31)
抽出工程S31では、基準コバルト化合物のそれぞれについて、光電子スペクトルを波形分離し、サテライトピークの波形成分を分離して抽出する。この波形分離の方法は種々あるが、例えば、以下のように行う。具体的には、まず、光電子スペクトルから、Shirley法によりバックグラウンド成分を差し引く。続いて、ガウス関数やローレンツ関数、もしくはその混合関数を用いて、ピーク位置やピーク強度、半値幅などを可変パラメータとして適宜変更しながら、メインピークの波形成分を抽出する。図3〜5では、メインピークの波形成分を2つに波形分離している。その後、メインピークの波形成分を差し引くことにより、目的とするサテライトピークの波形成分を抽出する。その後、さらにサテライトピークを2つに波形分離している。このように、メインピークから順次波形分離することにより、サテライトピークを波形分離して抽出する。
【0038】
抽出工程S31において、抽出する精度を高める観点からは、サテライトピークを少なくとも2つ以上に波形分離することが好ましい。同様に、メインピークも少なくとも2つ以上に波形分離することが好ましい。
【0039】
(算出工程S32)
続いて、算出工程S32にて、各基準コバルト化合物について、抽出工程S31で抽出されたサテライトピークのピーク面積比を算出する。このピーク面積比とは、メインピークとサテライトピークの合計面積に対するサテライトピークのピーク面積の比率を示す。例えば、図3〜5に示すように、メインピークを2つに、サテライトピークを2つに、それぞれ波形分離した場合、サテライトピーク1および2の合計面積を、メインピーク1および2とサテライトピーク1および2の合計面積で除することにより、サテライトピークのピーク面積比を算出する。
【0040】
<2−4.検量線作成工程S40>
続いて、検量線作成工程S40として、解析工程S30での結果に基づいて、検量線を作成する。具体的には、各基準コバルト化合物について、各コバルト価数に対して、各サテライトピークのピーク面積比をプロットすることにより、例えば図6に示すような検量線を作成する。図6は、コバルト価数とサテライトピークのピーク面積比との相関を示す検量線であり、コバルト価数を横軸に、サテライトピークのピーク面積比(%)を縦軸としたものである。
【0041】
図6の検量線に示すように、コバルト化合物においては、Co価数をx、サテライトピークのピーク面積比をyとすると、xおよびyは一次近似式で表されることになる。具体的には、Co価数の増加に伴って、サテライトピークのピーク面積比が減少する。一次近似式によれば、Co価数が不明なコバルト化合物のサテライトピークの面積比から、Co価数を定量的に算出することが可能となる。
【0042】
<2−5.評価工程S50>
続いて、評価工程S50にて、上記で作成した検量線を用いて、評価対象であるCo価数が不明なコバルト化合物のCo価数を評価する。評価工程S50には、評価物質の測定工程S51、評価物質の解析工程S52およびCo価数の算出工程S53が含まれる。
【0043】
(評価物質の測定工程S51)
まず、上述した基準コバルト化合物の測定工程S20と同様にして、評価物質にX線を照射してCo2pの光電子スペクトルを得る。
【0044】
(評価物質の解析工程S52)
続いて、上述した基準コバルト化合物の解析工程S30と同様にして、評価物質の光電子スペクトルを解析する。例えば、評価物質の光電子スペクトルからメインピークの波形成分を抽出し、それを差し引くことにより、サテライトピークの波形成分を波形分離して抽出する。このときの抽出精度を高める観点からは、サテライトピークを少なくとも2つ以上に波形分離することが好ましい。続いて、抽出したサテライトピークのピーク面積比を算出する。
【0045】
(Co価数の算出工程S53)
算出した評価物質のピーク面積比を検量線と照らし合わせることにより、評価物質のCo価数を評価する。好ましくは、検量線の一次近似式を用いて、評価物質のピーク面積比から、評価物質のCo価数を算出する。これにより、評価物質のCo価数を定量的に算出して評価することができる。また、算出されたCo価数によれば、コバルト化合物において、2価とコバルトと3価のコバルトが混在する比率を概算することができる。
【0046】
<3.本実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0047】
上述したように、コバルト化合物は、Co価数の違いが光電子スペクトルのメインピークに表れないため、X線光電子分光法によりCo価数を評価することが困難である。しかし、本実施形態によれば、図2に示すように、Co価数の違いが、光電子スペクトルのサテライトピークに表れており、サテライトピークを用いることにより、メインピークでは判別することが困難であるコバルト化合物のCo価数を評価することができる。具体的には、サテライトピークのピーク面積比が少ないほど、コバルト化合物のCo価数が高くなるので、Co価数の不明なコバルト化合物について、そのピーク面積比から、Co価数を評価することができる。
【0048】
また、本実施形態では、評価工程S50にて、Co価数に対するサテライトピークのピーク面積比を示す検量線の一次近似式を用いることにより、評価物質のサテライトピークのピーク面積比から、その不明なCo価数を定量的に算出して評価することができる。
【0049】
また、本実施形態では、基準コバルト化合物として、2価のCoO、2.67価のCo、および3価のCoO(OH)を用いることにより、評価物質の価数を2〜3価の範囲で評価することができる。
【0050】
また、本実施形態では、定量的に算出したCo価数から、2価のコバルトと3価のコバルトが混在する比率を半定量的に評価することができる。
【0051】
本実施形態では、解析工程S30にて、コバルト化合物の光電子スペクトルからメインピークを抽出して取り除いた後に、残存するピークをサテライトピークとして抽出している。しかも、サテライトピークの波形成分を2つに波形分離している。これにより、サテライトピークを精度よく抽出することができ、そのピーク面積比からCo価数を精度よく算出することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0053】
(1)検量線の作成
まず、Co価数とサテライトピークのピーク面積比との相関を示す検量線を作成した。本実施例では、基準コバルト化合物として、2価のCoO(日本高純度科学株式会社製)、2.67価のCo(日本高純度科学株式会社製)、および3価のCoO(OH)(日本高純度科学株式会社製)の3種類を準備した。
【0054】
準備した3種類の基準コバルト化合物をそれぞれ、X線光電子分光装置のホルダーに固定し、X線を照射することにより、Co2p3/2の光電子スペクトルを取得した。なお、X線光電子分光装置としては、アルバック・ファイ株式会社製「Versa Probe II」を用いた。また、光電子スペクトルの取得条件としては、X線条件:100μm 25W、測定領域:500μm×500μm、Tilt Angle:45°、測定室真空度:1.0×10−7Pa、Pass Energy:23.5eV、Energy Step:0.1eV、Time per Step:20ms、Sweep:20回とした。
【0055】
続いて、2価のCoOの光電子スペクトルを、図3に示すように、2つのメインピークと2つのサテライトピークに波形分離した。具体的には、まず、光電子スペクトルからShirley法によりバックグラウンド成分を差し引いた。続いて、ガウス関数やローレンツ関数、もしくはその混合関数を用いてピーク位置やピーク強度、半値幅などを可変パラメータとして適宜変更することにより、バックグラウンド成分を差し引いた光電子スペクトルにフィッティングするようなメインピークを抽出した。本実施例では、図3に示すように、光電子スペクトルから、2つのメインピークに波形分離した。続いて、光電子スペクトルからメインピークの波形成分を差し引くことにより、目的とするサテライトピークの波形成分を抽出した。本実施例では、図3に示すように、フィッティングするように、2つのサテライトピークに波形分離した。そして、2つに波形分離したサテライトピークのピーク面積の合計値を、光電子スペクトル全体の面積値で除することにより、2価のCoOのサテライトピークのピーク面積比(%)を算出した。
同様に、2.67価のCo、および3価のCoO(OH)についても、それぞれ図4および図5に示すように波形分離し、各ピーク面積比(%)を算出した。
なお、光電子スペクトルにおける上記波形分離の解析には、アルバック・ファイ株式会社製のスペクトル解析ソフト(MultiPak)を使用した。
【0056】
続いて、各基準コバルト化合物についてのCo価数とサテライトピークのピーク面積比に基づき、各コバルト価数に対して、各ピーク面積比をプロットすることにより、図6に示す検量線を作成した。図6の検量線に示すように、ピーク面積比は、Co価数の変化に対して直線的に減少することが確認された。つまり、検量線は、Co価数をx、サテライトピークのピーク面積比をy(%)としたところ、下記で表される一次近似式となることが確認された。
y=−13.275x+46.865
【0057】
(2)評価物質のCo価数の評価
本実施例では、評価物質として、大気中で加熱処理されたコバルトを含む金属板試料を準備した。この金属板試料をX線光電子分光装置に導入し、基準コバルト化合物の測定と同様の条件で測定することにより、評価物質の光電子スペクトルを取得した。その光電子スペクトルを図7に示す。図7によると、評価物質のサテライトピークのピーク面積は、図3に示す2価のCoOよりも小さく、図4に示す2.67価のCoよりも大きいことが分かる。このことから、評価物質のCo価数は、2〜2.67の間にあると評価することができる。
【0058】
また、図7に示す評価物質の光電子スペクトルについて、基準コバルト化合物と同様に、サテライトピークの波形成分を波形分離し、そのピーク面積比を算出したところ、15%であった。このピーク面積比の数値を、検量線の一次近似式にあてはめたところ、評価物質のCo価数が2.4価であると算出された。このことから、評価物質は、2価のコバルトと3価のコバルトが混在した状態であり、2価のコバルトの割合が相対的に高いことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7