(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールは、数少ない結晶性の水溶性高分子である。その優れた水溶性、皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性など)を活用して、ポリビニルアルコールは、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルムなどに広く用いられている。特殊な場合を除き、ポリビニルアルコールは使用に際して水溶液の状態を経るが、その際の取り扱い性に難点を有することがある。例えば、水溶液を調整する際、長時間高温で加熱しなければ未溶解分として残る場合がある。
【0003】
ポリビニルアルコールの水への溶解性を改善する方法として、ポリビニルアルコールにイオン性基を導入する方法が知られている。しかし、イオン性基を導入する方法では、形成した皮膜が吸湿しやすく強度が低くなることがあった。
【0004】
特許文献1には、炭素数2〜20のヒドロキシアルキル基を側鎖に有する変性ポリビニルアルコールが開示されている。当該変性ポリビニルアルコールは、高い界面活性を有しているにもかかわらず、その水溶液の泡立ちが少ないとされている。しかしながら、当該変性ポリビニルアルコールを用いた場合、水への溶解性は改善されるものの皮膜の強度やガスバリア性が不十分であり、更なる向上が求められている。
【0005】
特許文献2には、下記式(3)で示される単量体単位を含有する変性ポリビニルアルコールを分散剤に用いた水性エマルジョンを含む組成物が開示されていて、当該組成物が接着剤に用いられることが記載されている。当該組成物中で用いられる変性ポリビニルアルコールは、乳化重合時の分散剤として用いられているだけであり、それ自体の物性については何ら記載されていない。また、特許文献2の実施例で用いられている変性ポリビニルアルコールは、3−メチル−3−ブテン−1−オール単位を含み、その主鎖に2−ヒドロキシエチル基が結合する構造を有するもののみである。
【0006】
【化1】
【0007】
特許文献3には、側鎖に1,2−グリコール成分を含有することを特徴とする変性ポリビニルアルコールが開示されていて、当該変性ポリビニルアルコールの水溶液は粘度安定性に優れているとされている。しかしながら、当該変性ポリビニルアルコールを用いた場合、吸湿の影響により高湿度下では皮膜の強度やガスバリア性が低下する問題があった。
【0008】
特許文献4には、通常よりも高温で重合することにより、主鎖の1,2−グリコール結合量を増加させたポリビニルアルコールが記載されている。当該ポリビニルアルコールの水溶液は低温粘度安定性に優れているとされている。しかしながら、当該ポリビニルアルコールを用いた場合、吸湿の影響により高湿度下では皮膜の強度やガスバリア性が低下するという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の変性ポリビニルアルコールは、下記式(1)で示される単量体単位を有する。
【0022】
[式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示す。]
【0023】
本発明の変性ポリビニルアルコールは、上記式(1)で示される単量体単位を有することにより、ポリビニルアルコールの結晶性を低下させ、水への溶解性を向上させることができる。また、本発明の変性ポリビニルアルコールを含む皮膜は、高い水素結合力により、結晶性の低下に起因する強度の低下を軽減することができるとともに、高湿度下でも強靭性及びガスバリア性を維持することができる。本発明の変性ポリビニルアルコールは、水への溶解性に優れながらも、高湿度下での皮膜物性が良好であるという、相反する特長を有するものである。
【0024】
式(1)中のR
1は、水素原子又はメチル基である。R
1はメチル基であることが好ましい。R
1がメチル基であることによって高湿度下での耐水性が向上するので、高湿度下においても高強度を有する皮膜が得られる。
【0025】
本発明の変性ポリビニルアルコールにおける、式(1)で示される単量体単位の含有率は、0.1〜10モル%である。この含有率(モル%)は、当該変性ポリビニルアルコールに含まれる全単量体単位(100モル%)中の、式(1)で示される単量体単位の含有率である。式(1)で示される単量体単位の含有率が0.1モル%未満であると、水に対する溶解性が不十分になる。含有率は、好適には0.2モル%以上であり、より好適には0.3モル%以上である。一方、式(1)で示される単量体単位の含有率が10モル%を超えると、変性ポリビニルアルコールの結晶性が極度に低下し、高湿度下での皮膜の強靭性やガスバリア性を維持できなくなる。含有率は、好適には9モル%以下であり、より好適には8モル%以下であり、さらに好適には4モル%以下である。
【0026】
本発明の変性ポリビニルアルコールの重合度は2000を超えることが必要である。重合度が2000以下の場合には形成される皮膜の強度が低下する。重合度は、好適には2100以上であり、より好適には2200以上である。また、重合度は通常6000以下である。ここで、本発明における重合度は、JIS K6726(1994)に準拠して測定した粘度平均重合度のことをいう。
【0027】
本発明の変性ポリビニルアルコールのけん化度は特に限定されないが、高湿度下での皮膜強度の観点から、好ましくは80〜99.9モル%である。けん化度が80モル%未満になると、形成される皮膜が十分な強度やガスバリア性を有さないことがある。けん化度は、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。一方、けん化度が99.9モル%を超える変性ポリビニルアルコールは、一般に製造が難しい。けん化度は、より好ましくは99.5モル%以下である。ここで、けん化度とは、変性ポリビニルアルコールにおける水酸基とエステル基との合計に対する水酸基のモル分率のことをいう。
【0028】
本発明の変性ポリビニルアルコールは、主鎖中の1,2−グリコール結合量が1.5モル%以下であることが好ましい。主鎖中の1,2−グリコール結合量が少ないことによって、変性ポリビニルアルコールを含む皮膜が、高湿度下においても高強度及び高ガスバリア性を有することができる。主鎖中の1,2−グリコール結合量は、より好ましくは1.48モル%以下である。主鎖中の1,2−グリコール結合量は、通常1.3モル%以上である。1,2−グリコール結合量はビニルエステルの種類、溶媒、重合温度、ビニレンカーボネートの共重合等の様々な方法で制御することができる。工業的な制御法としては本発明では重合温度による制御が好ましい。
【0029】
本発明の変性ポリビニルアルコールの製造方法は特に限定されない。例えば、ビニルエステル単量体と、それと共重合可能でありかつ式(1)で示される単量体単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合し、得られた共重合体のビニルエステル単位をけん化してビニルアルコール単位に変換する方法が挙げられる。このとき、式(1)で表される単量体単位に変換可能な不飽和単量体としては下記式(2)で示される化合物が好適なものとして挙げられる。ここで、式(2)で示される化合物に由来する単量体単位は、共重合体をけん化する際に、ビニルエステル単位と同時に加水分解されて水酸基を形成することができる。また、当該不飽和単量体として2−プロペン−1−オール(アリルアルコール)や、2−メチル−2−プロペン−1−オール(β−メタリルアルコール)を用いて共重合することもできる。
【0031】
[式(2)中、R
1は式(1)と同じであり、R
2は炭素数1〜10のアルキル基を示す。]
【0032】
式(2)において、R
2は炭素数1〜10のアルキル基を示す。R
2の構造は特に限定されず、分岐構造や環状構造を有していてもよい。また、アルキル基の水素原子の一部が他の官能基で置換されていてもよく、当該官能基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。R
2は好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐を有するアルキル基が好適なものとして挙げられる。
【0033】
式(2)で示される不飽和単量体の具体例としては、2−プロペニルアセテート、2−メチル−2−プロペニルアセテートなどが挙げられる。中でも、2−メチル−2−プロペニルアセテートが安全性及び製造容易性の点で好ましく用いられる。
【0034】
本発明の変性ポリビニルアルコールの製造に用いられるビニルエステル単量体は特に限定されない。具体的には、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カルリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルが例示される。経済的観点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0035】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル単量体とを共重合する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよく、重合方法としては塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を適用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度のビニルエステル共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。溶液重合法で用いられる溶媒は特に限定されないが、アルコールが好ましい。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールが好適である。溶液重合法における溶媒の使用量は、得られる重合体の重合度に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよい。例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と全単量体との質量比[(溶媒)/(全単量体)]が0.01〜10である範囲、好ましくは0.05〜3である範囲から選択される。
【0036】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル単量体との共重合に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が例示される。過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネートなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートが例示される。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて重合開始剤としてもよい。レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤が例示される。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて選択される。例えば重合開始剤にアゾビスイソブチロニトリルあるいは過酸化アセチルなどの過酸化物系開始剤を用いる場合、ビニルエステル単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。
【0037】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル単量体とを共重合する際の重合温度は、室温以上150℃以下が好ましく、室温以上使用する溶媒の沸点以下がより好ましく、30〜60℃が特に好ましい。このとき、主鎖中の1,2−グリコール結合量を抑制するためには、55℃以下にすることがさらに好ましい。
【0038】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル単量体との共重合は、本発明の効果が損なわれないのであれば、連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などが例示される。なかでもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。重合反応液への連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0039】
式(2)で示される不飽和単量体とビニルエステル単量体との共重合により得られたビニルエステル共重合体をけん化して、本発明の変性ポリビニルアルコールを得ることができる。該ビニルエステル共重合体をけん化することによって、共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(2)で示される不飽和単量体に由来する単量体単位のエステル結合も同時に加水分解され、式(1)で示される単量体単位に変換される。したがって、本発明の変性ポリビニルアルコールは、けん化後にさらに加水分解等の反応を行わなくても製造することができる。
【0040】
ビニルエステル共重合体のけん化は、公知の方法を適用できる。例えばアルコール又は含水アルコールに当該共重合体が溶解した状態で行うことができる。このとき使用するアルコールは、例えばメタノール、エタノールなどの低級アルコールであり、好ましくはメタノールである。けん化に使用するアルコールは、40質量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの溶媒を含んでもよい。けん化に使用する触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。けん化を行う温度は限定されないが、20〜60℃の範囲が好適である。けん化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、変性ポリビニルアルコールを得ることができる。
【0041】
本発明の変性ポリビニルアルコールは、本発明の効果が得られる限り、式(1)で示される単量体単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位をさらに含むことができる。当該他の単量体単位は、ビニルエステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位である。当該エチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニルが例示される。また、式(2)で示される不飽和単量体に由来する単量体単位であって、けん化されなかったものも、前記他の単量体単位に含まれる。他の単量体単位の含有量は、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明の変性ポリビニルアルコールにおける式(1)で示される単量体単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位及び他の単量体単位の配列順序には特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互などのいずれであってもよい。
【0043】
本発明の変性ポリビニルアルコールには、さらに、充填剤、銅化合物などの加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤を、必要に応じて適宜配合することができる。
【0044】
本発明の変性ポリビニルアルコールは、その特性を利用して単独で又は他の成分を添加した組成物、特に水性組成物として、成形、紡糸、エマルジョン化等の公知方法に従い、ポリビニルアルコールが通常用いられる各種の用途に使用可能である。例えば各種用途の界面活性剤、各種のコーティング剤、紙用内添剤及び顔料バインダー、塗料、経糸糊剤、繊維加工剤、ポリエステルなどの疎水性繊維の糊剤、各種フィルム、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜などに使用できる。
【0045】
本発明の変性ポリビニルアルコールを成形する方法は特に限定されない。成形方法は、例えば当該重合体の溶媒である水又はジメチルスルホキシドなどに溶解した溶液の状態から成形する方法(例えばキャスト成形法);加熱により当該重合体を可塑化して成形する方法(例えば押出成形法、射出成形法、インフレ成形法、プレス成形法、ブロー成形法)である。これらの成形方法により、フィルム、シート、チューブ、ボトルなどの任意の形状を有する成形体が得られる。
【0046】
本発明の変性ポリビニルアルコールは、高湿度下における皮膜の強度及びガスバリア性に優れるため、特に紙用内添剤や各種水性コーティング剤としての用途に好適である。また、これらの用途での使用には、ポリビニルアルコールの水に対する溶解性がプロセスの簡略化に影響するため、本発明の変性ポリビニルアルコールが有する高い水溶性が有利に働き、有用である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下、変性ポリビニルアルコールを含め、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある。なお、実施例、比較例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を表す。
【0048】
PVAの一次構造については、
1H−NMRにより定量した。PVAの重合度を以下に示す方法で測定し、水への溶解性、発泡・消泡性、及び高湿度下での皮膜強度を以下に示す方法で評価した。
【0049】
[1,2−グリコール結合量]
PVAの主鎖中の1,2−グリコール結合量はNMRのピークから求めることができる。けん化度99.9モル%以上にけん化後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃減圧乾燥を2日間行ったPVAをDMSO−d
6に溶解し、トリフルオロ酢酸を数滴加えた試料を500MHzの
1H−NMR(JEOL GX−500)を用いて80℃で測定した。ビニルアルコール単位のメチン由来のピークは3.2〜4.0ppm(積分値A)、1,2−グリコール結合の1つのメチン由来のピークは3.25ppm(積分値B)に帰属され、次式で1,2−グリコール結合含有量を算出できる。
1,2−グリコール結合量(モル%)=(B/A)×100
【0050】
[重合度]
けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)から次式により求めた粘度平均重合度(P)で表す。
P=([η]×10
4/8.29)
(1/0.62)【0051】
[PVAの水への溶解性]
水浴中に設置した300mlの攪拌機付セパラブルフラスコに15℃の水を95g入れ、300rpmで攪拌した。16メッシュの金網を通過した粒度のPVA5gを水に投入し80℃に昇温した。30分後に水溶液を200メッシュの金網でろ過し、未溶解分の有無を目視で評価した。
A:溶け残りがない
B:ややとけ残りがある
C:不溶解分が多い
【0052】
[4%水溶液の発泡性]
PVAの20℃、4%水溶液を調製し、垂直に立てたガラス管(内径4.5cm、高さ150cm)に深さ20cmになるように仕込み、1.5リットル/分の速度で、15分間のポンプ循環(ガラス管の下部から水溶液を抜き取りガラス管の最上部へ返液)を行った後、ポンプ循環を停止した時の、発生した泡の高さを測定した。その結果を下記の記号で示す。
A:発生した泡の高さ 49cm以下
B:発生した泡の高さ 50〜74cm
C:発生した泡の高さ 75cm以上
【0053】
[高湿度下での皮膜の強度]
濃度4%のPVA水溶液を調製し、それをPETフィルム上に流延した後20℃で1週間乾燥させ、厚み約40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を10mm×80mmの短冊状にカットし、20℃、湿度80%にて一週間調湿した後、株式会社島津製作所製「AG−IS」を用いて、チャック間距離50mm、引張り速度500mm/分の条件で強伸度測定を行い、応力−ひずみ曲線から靭性を求めた。なお、測定は各サンプル5回測定し、その平均値を求め、以下の評価基準で評価した。
A:300kgf/mm以上
B:280kgf/mm以上300kgf/mm未満
C:240kgf/mm以上280kgf/mm未満
D:240kgf/mm未満
【0054】
[高湿度下での酸素バリア性]
PVA100gを蒸留水400gに溶解して、濃度20wt%のPVA水溶液を作成した。次に、厚み20μmのOPP基材フィルムの片面に、上記塗工液を乾燥後のガスバリアー層の厚みが50μmとなるように塗工し、100℃で乾燥を行った後にOPP基材フィルムから剥がして試料フィルムを得た。試料フィルムの一部を切り出し20℃、85%RHで5日間調湿した後に、MOCON OX−TRAN2/20型(MODERN CONTROLS INC.製)を用いて20℃、85%RHの条件でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に準じて酸素透過度(cc/m
2・day・atm)を測定し、別途測定したバリアー層の厚みを用いてバリアー層の厚み20μmに換算した酸素透過度(cc/m
2・day・atm)を求めた。
【0055】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル1969質量部、メタノール231質量部、コモノマーとして2−メチル−2−プロペニルアセテート(MAAc)26.8質量部を仕込み、アルゴンバブリングをしながら30分間系内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2gを添加し重合を開始した。60℃で220分重合した後、冷却して重合を停止した。MAAcは、式(2)で示される化合物において、R
1、R
2ともにメチル基であるものである。重合停止時の重合率は27%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、酢酸ビニル/2−メチル−2−プロペニルアセテート共重合体(変性PVAc)のメタノール溶液(濃度33.5%)を得た。次に、このメタノール溶液149質量部(溶液中の変性PVAc50質量部)にメタノール95.8質量部を加え、さらに、4.72gの水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度13.3%)を添加して、40℃でけん化を行った。けん化溶液の変性PVAc濃度は20%であり、変性PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比は0.03であった。水酸化ナトリウムメタノール溶液を添加した後約7分でゲル化物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で53分間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル200質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール500gを加えて1時間加熱還流した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱水して得られた白色固体を真空乾燥機にて、40℃で24時間乾燥させ、一般式(1)で示される単量体単位(R
1がメチル基)を含む変性PVAを得た。合成条件を表1に示す。重合度は2400、けん化度は98.5モル%、変性量(変性PVAにおける式(1)で示される単量体単位の含有率)は1.0モル%、1,2−グリコール結合量は1.6モル%であった。式(1)で示される単量体単位の含有率は、
1H−NMRスペクトルにおいて、R
1のメチル基の水素原子に由来するピークの積分値と、ビニルアルコール単位由来の水素原子のピークの積分値とを対比することによって求めた。
1H−NMRスペクトルを
図1に示す。得られた変性PVAの分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0056】
[実施例2〜4、比較例1]
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するコモノマーの添加量、重合温度、重合率、けん化条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により変性PVAを製造した。得られた変性PVAの分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0057】
[比較例2]
攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル1804質量部、メタノール396質量部を仕込み、アルゴンバブリングをしながら30分間系内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、AIBN0.3gを添加し重合を開始した。60℃で180分重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の重合率は32%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。次に、これにメタノールを加えて調製したPVAcのメタノール溶液497質量部(溶液中のPVAc100質量部)に、14.0質量部の水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度10.0%)を添加して、40℃でけん化を行った。けん化溶液のPVAc濃度は20%であり、PVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比は0.03であった。水酸化ナトリウムメタノール溶液を添加した後約1分でゲル化物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で59分間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2000gを加えて1時間加熱還流した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱水して得られた白色固体を真空乾燥機にて、40℃で24時間乾燥させ無変性のポリビニルアルコール(PVA)を得た。合成条件を表1に示す。重合度は2400、けん化度は98.5モル%、1,2−グリコール結合量は1.6モル%であった。得られた変性PVAの分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0058】
[実施例5、比較例3、4]
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するコモノマーの種類及び添加量、重合温度、重合率、けん化条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により変性PVAを製造した。実施例5では、コモノマーとしてアリルアセテート(AAc)を用いた。これは、式(2)で示される化合物において、R
1が水素原子でR
2がメチル基であるものである。比較例3では、コモノマーとしてイソプロペニルアセテート(IPAc)を用いた。これは、PVAの主鎖に水酸基が直接結合する構造を形成するものである。比較例4では、コモノマーとして3−メチル−3−ブテン−1−オール(IPEA)を用いた。これは、PVAの主鎖に2−ヒドロキシエチル基が結合する構造を形成するものである。得られた変性PVAの分析結果及び評価結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1〜5から明らかなように、本発明の変性ポリビニルアルコールは、水への溶解性が改善されており、工業的に使用する際に有用である。さらに本発明の変性ポリビニルアルコールの皮膜は、高湿度下でも高い強度を保持するとともに、ガスバリア性にも優れていることがわかる。一方、重合度が低い場合(比較例1)には、十分な皮膜強度を示さなかった。変性を施していない場合(比較例2)には、水溶液状態における取り扱い性が悪かった。他のコモノマーを用いた場合(比較例3、4)には、高湿度下で十分な皮膜強度を示さず、ガスバリア性も低下した。