特許第6403100号(P6403100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403100
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】エピタキシャル成長装置及び保持部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20181001BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20181001BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20181001BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/44 F
   C23C16/458
   H01L21/68 N
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-11472(P2016-11472)
(22)【出願日】2016年1月25日
(65)【公開番号】特開2017-135147(P2017-135147A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161975
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】小林 武史
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−220427(JP,A)
【文献】 米国特許第7204888(US,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0247822(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0156987(US,A1)
【文献】 特開2009−135258(JP,A)
【文献】 特開2001−313329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205、21/31、21/365、21/469、
21/67−21/683、21/86、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏を貫通する貫通孔を有して軸線回りに回転可能なサセプタと、
前記貫通孔に挿入されるリフトピンと、
前記軸線回りに位置するリング部と、前記リング部に接続する接続部を含み前記接続部から前記リング部に沿って延びて前記接続部を基点に前記リング部に向けて付勢する弾性部材とを有する保持部材と、
前記保持部材は、前記リング部と前記弾性部材の間に前記リフトピンを挟んで保持することを特徴とするエピタキシャル成長装置。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記軸線回りに複数形成され、
複数の前記貫通孔には、前記リフトピンがそれぞれ挿入される請求項1に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項3】
前記貫通孔は、第1貫通孔であり、
前記サセプタに接続して前記第1貫通孔の下を横切るアーム部を有して前記サセプタを支持する支持部を備え、
前記アーム部は、前記第1貫通孔に挿入される前記リフトピンが貫通する第2貫通孔を有し、
前記第2貫通孔は、前記サセプタの半径方向に延びる長穴である請求項1又は2に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項4】
前記アーム部は、前記サセプタの下方に位置する一端部と、前記サセプタに接続する他端部を有し、
前記支持部は、前記軸線方向に延びて上端部が前記一端部に接続する支柱部を備え、
前記保持部材は、前記支柱部回りに位置する請求項3に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項5】
前記リフトピンは、前記第1貫通孔に引っ掛かることが可能な上部を有し、
前記リフトピンは、前記上部が前記第1貫通孔に引っ掛かることにより前記サセプタに保持される請求項3又は4に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項6】
前記上部は、前記第1貫通孔を塞ぐように前記サセプタに引っ掛かることが可能であり、
前記リフトピンは、前記上部が前記第1貫通孔に引っ掛かることにより前記第1貫通孔を塞いだ状態で前記サセプタに保持される請求項5に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項7】
前記サセプタは、黒鉛製又は炭化珪素製若しくは炭化珪素でコーティングされた黒鉛製であり、
前記保持部材は、炭化珪素製である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項8】
前記弾性部材は、前記接続部を含む板状部材である請求項1ないし7のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項9】
前記リング部は、円状又は略円状に形成される請求項1ないし8のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項10】
前記保持部材は、前記リング部と前記弾性部材の間に前記リフトピンの下端部を挟んで前記リフトピンを保持する請求項1ないし9のいずれか1項に記載のエピタキシャル成長装置。
【請求項11】
表裏を貫通する貫通孔を有して軸線回りに回転可能なサセプタの前記貫通孔に挿入されるリフトピンを保持する保持部材であって、
前記軸線回りに位置するリング部と、
前記リング部に接続する接続部を含み前記接続部から前記リング部に沿って延びて前記接続部を基点に前記リング部に向けて付勢する弾性部材と、
を備え、
前記リング部と前記弾性部材の間に前記リフトピンを挟んで保持することを特徴とする保持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長装置及び保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な枚葉式のエピタキシャル成長装置は、例えば、炭化珪素によりコーティングされた黒鉛製、かつ、円盤状のサセプタと、そのサセプタを支持する石英製のサポートシャフトが内部に配置される反応炉を備える。反応炉内のサセプタは、基板が載置されるポケット部と、そのポケット部の表面と裏面を貫通する貫通孔を有する。また、サポートシャフトには、サセプタの下方からサセプタの裏面に向けて延びる支柱部と、その支柱部の上端部から延びてサセプタの貫通孔の下を横切るようにしてサセプタの裏面に接続するアーム部が備わる。このアーム部には、サセプタの貫通孔の下に、そのサセプタの貫通孔と同じ方向にアーム部を貫通する貫通孔が形成される。サセプタとアーム部に形成される貫通孔には、サセプタとの間で基板を受け渡す際に昇降動作するリフトピンが挿入され、これらの2つの貫通孔により昇降するリフトピンの傾きが定められる。
【0003】
ここで、リフトピンの傾きを定める貫通孔を有するサセプタ(黒鉛製)とサポートシャフト(石英製)は、熱膨張率が大きく異なる。そのため、基板を反応炉に搬入すると、室温下の基板が高温の反応炉内に搬入されることにより反応炉内の温度が不安定となり、サセプタの貫通孔とサポートシャフトの貫通孔の位置関係が変化する。すると、これら2つの貫通孔が定めるリフトピンの傾きが不安定になり、リフトピンによりポケット部に載置される基板の位置にばらつきが生じる。そのため、ポケット部に載置された基板の周方向に形成される隙間(基板とポケット部との間の隙間)が基板の周方向で不均一となる。そして、このようにして載置された基板にエピタキシャル層を成長すると、基板の外周部においてエピタキシャル層の膜厚分布が悪化する。
【0004】
そこで、ポケット部に載置される基板の位置を測定し、その測定結果からポケット部に載置される基板の位置のばらつきを抑制する方法がある。この方法では、基板をリフトピンに渡すためにサセプタの上方に基板を搬送するロボットがサセプタの上方に停止する位置を、ポケット部に前回載置された基板の位置に基づいて調節する。しかし、ポケット部に載置される基板は、基板1枚毎にポケット部に載置される位置が大きく変化する。よって、前回載置された基板の位置に基づいてロボットの位置を調節してもポケット部に載置される基板の位置のばらつきを十分に抑制することができない。
【0005】
また、特許文献1には、石英製のサポートシャフトと黒鉛製のサセプタとの熱膨張率の差に基づくアーム部(サポートシャフト)とサセプタの貫通孔の位置関係の変化を抑制する方法が開示されている。特許文献1では、ポケット部に基板を搬送するために円弧状の板部材であるリフトリングが使用され、リフトリングの上下動はリフトピンを介して行われる。リフトピンは、自身の先端をリフトリングの下面に嵌合させるとともに、サセプタとアームの貫通孔に挿入され、リフトピンが上下動する際のぐらつきを抑える。更にサセプタの貫通孔をサセプタの半径方向に延びる長穴にし、黒鉛製のサセプタと石英製のアーム部の熱膨張率の差の影響でリフトピンが貫通孔に強く押し付けられるのを防いでいる。しかし、黒鉛製のリフトリングを用いると、結局は石英製のアーム部との熱膨張率の差の影響を解消できず、リフトピンの傾きが不安定化し、リフトリングに石英を用いると、黒鉛製のサセプタと吸光度が異なるためリフトリングの温度がサセプタより低くなり、基板の温度分布が不安定化する問題があった。加えて、基板をサセプタに載置する度にサセプタとリフトリングが接触して発塵が生じる結果、基板の大量のパーティクルが付着してしまう問題もあった。
【0006】
そこで、特許文献2では、昇降するリフトピンのぐらつき(リフトピンの傾き)を安定させるために複数本のリフトピンを補助部材で互いに接続する方法が開示されている。特許文献2では、リフトピンの側面にねじ山を形成する一方で、補助部材にリフトピンを挿入する貫通孔を形成するとともに、その貫通孔の内周面にねじ溝を形成する。そして、補助部材の貫通孔に挿入したリフトピンを補助部材に対して相対的に回転させてリフトピンと補助部材を結合することで、複数本のリフトピンを補助部材で互いに接続し、リフトピンのぐらつきを安定させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−313329号公報
【特許文献2】特開2014−220427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2の方法では、反応炉内の温度変化によりリフトピンと補助部材が熱膨張・熱収縮を繰り返すと、ねじによるリフトピンと補助部材の結合が緩み、リフトピンの高さが変化してしまうため、ポケット部への基板の載置位置が変化する問題があった。また、リフトピンをサセプタとサポートシャフトのアーム部の貫通孔に貫通させる構造は従来と同じであるため、黒鉛製のサセプタと石英製のサポートシャフトのアーム部との熱膨張率の差の影響を解消することができず、ポケット部に載置される基板の位置のばらつきを十分に抑制することができなかった。
【0009】
本発明の課題は、リフトピンとの位置関係を維持してリフトピンを保持することが可能な保持部材を有するエピタキシャル成長装置及びその保持部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明のエピタキシャル成長装置は、
表裏を貫通する貫通孔を有して軸線回りに回転可能なサセプタと、
貫通孔に挿入されるリフトピンと、
軸線回りに位置するリング部と、リング部に接続する接続部を含み接続部からリング部に沿って延びて接続部を基点にリング部に向けて付勢する弾性部材とを有する保持部材と、
を備え、
保持部材は、リング部と弾性部材の間にリフトピンを挟んで保持することを特徴とする。
【0011】
本発明のエピタキシャル成長装置では、弾性部材の付勢力によりリフトピンが弾性部材とリング部の間に挟まれて保持される。弾性部材の付勢力を利用してリフトピンが保持されるため、リフトピンを保持する保持部材(リング部と弾性部材)及びリフトピンが熱膨張・熱収縮を繰り返しても保持部材がリフトピンを保持する力が大きく緩むことがない。そのため、保持部材は、リフトピンを保持する位置を長期間維持したままリフトピンを保持することができる。
【0012】
本発明の実施態様では、貫通孔は、軸線回りに複数形成され、複数の貫通孔には、リフトピンがそれぞれ挿入され、保持部材により複数のリフトピンが保持される。
【0013】
これによれば、保持部材により複数のリフトピンを保持することができ、リフトピンがぐらつくのを抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の実施態様では、サセプタの貫通孔は、第1貫通孔であり、サセプタに接続して第1貫通孔の下を横切るアーム部を有してサセプタを支持する支持部を備え、アーム部は、第1貫通孔に挿入されるリフトピンが貫通する第2貫通孔を有し、第2貫通孔は、サセプタの半径方向に延びる長穴である。
【0015】
これによれば、黒鉛製のサセプタと石英製のアーム部の熱膨張率の差の影響により、サセプタの第1貫通孔とリフトピンがアーム部の第2貫通孔の位置関係が変化しても、サセプタの半径方向へのリフトピンの傾きが不安定になるのを抑制できるとともに、サセプタの円周方向へのリフトピンの傾きを安定化させることができる。そのため、ポケット部に載置される基板の位置にばらつきが生じるのを抑制できる。
【0016】
本発明の実施態様では、アーム部は、サセプタの下方に位置する一端部と、サセプタに接続する他端部を有し、支持部は、軸線方向に延びて上端部が一端部に接続する支柱部を備え、保持部材は、支柱部回りに位置する。
【0017】
これによれば、保持部材は、アーム部よりも全体的に下方に位置する。そのため、保持部材とサセプタとの間隔を広げることができ、保持部材がサセプタに載置される基板の温度分布に悪影響を及ぼすのを軽減できる。
【0018】
本発明の実施態様では、リフトピンは、第1貫通孔に引っ掛かることが可能な上部を有し、リフトピンは、上部が第1貫通孔に引っ掛かることによりサセプタに保持される。
【0019】
具体的には、上部は、第1貫通孔を塞ぐようにサセプタに引っ掛かることが可能であり、リフトピンは、上部が第1貫通孔に引っ掛かることにより第1貫通孔を塞いだ状態でサセプタに保持される。
【0020】
これによれば、サセプタに載置した基板を加熱する際に基板を加熱する光が第1貫通孔から基板の裏面に漏れるのを防止し、基板が局所的に加熱されるのを防止できる。また、そのような基板にエピタキシャル層を成長させるガス等が第1貫通孔から基板の裏面に流れ込むのを防止し、基板の裏面に局所的なデポジションが生じるのを防止できる。
【0021】
本発明の実施態様では、サセプタは、黒鉛製又は炭化珪素製若しくは炭化珪素によりコーティングされた黒鉛製であり、保持部材は、炭化珪素製である。
【0022】
これによれば、リフトピンが挿入される第1貫通孔を有するサセプタと、その第1貫通孔に挿入されるリフトピンを保持する保持部材の熱膨張率の差を小さく又は熱膨張率を同じにできる。よって、第1貫通孔と保持部材の位置関係が大きく変化することでリフトピンの傾きが不安定になるのを抑制できる。
【0023】
本発明の実施態様では、弾性部材は、接続部を含む板状部材である。
【0024】
これによれば、簡易な構造でリフトピンを保持することができる。
【0025】
本発明の実施態様では、リング部は、円状又は略円状に形成される。
【0026】
また、本発明の実施態様では、保持部材は、リング部と弾性部材の間にリフトピンの下端部を挟んでリフトピンを保持する。
【0027】
これによれば、リフトピンの上部が引っ掛かるサセプタの第1貫通孔とリフトピンを保持する保持部材により、リフトピンがリフトピンの両端部で保持され、リフトピンの傾きを安定させることが可能となる。
【0028】
また、本発明の保持部材は、
表裏を貫通する貫通孔を有して軸線回りに回転可能なサセプタの貫通孔に挿入されるリフトピンを保持する保持部材であって、
軸線回りに位置するリング部と、
リング部に接続する接続部を含み接続部からリング部に沿って延びて接続部を基点にリング部に向けて付勢する弾性部材と、
を備え、
リング部と弾性部材の間にリフトピンを挟んで保持することを特徴とする。
【0029】
本発明は、保持部材として構成したものである。上述のエピタキシャル成長装置の保持部材と同様にリフトピンを保持する位置を長期間維持したままリフトピンを保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一例の気相成長装置の模式断面図。
図2図1のサセプタの模式平面図。
図3図1のサセプタとサポートシャフトの模式平面図(ただし、サセプタとサポートシャフトの位置関係を説明するためにサセプタを破線で示した図)。
図4A図1のサポートリングの模式斜視図。
図4B図4Aのサポートリングの模式底面図。
図5A図1のサセプタ、サポートシャフト及びサポートリングの模式底面図。
図5B図5Aの部分拡大図。
図6】比較例で使用した気相成長装置の模式断面図。
図7図6のサポートシャフトの模式平面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には、本発明のエピタキシャル成長装置の一例である枚葉式の気相成長装置1が示される。気相成長装置1により基板Wにエピタキシャル層が気相成長され、エピタキシャルウェーハが製造される。
【0032】
気相成長装置1は反応炉2を備える。反応炉2の内部には、サセプタ3と、サセプタ3を支持するサポートシャフト4と、サセプタ3とサポートシャフト4を貫通するリフトピン5と、リフトピン5を保持するサポートリング6と、リフトピン5を支持するリフトピン支持部7が備わる。
【0033】
サセプタ3は、炭化珪素によりコーティングされた黒鉛製かつ円盤状の部材である。図2に示すようにサセプタ3は、サセプタ3の表面が円盤状に窪むポケット部3aと、ポケット部3aの表面からサセプタ3の裏面に向けてサセプタ3を貫通する複数の貫通孔3bを有する。ポケット部3aは、基板Wの直径より数ミリ程度大きく、基板Wの厚みと同程度の深さにサセプタ3の上面が円盤状にくり貫かれた凹状である。ポケット部3aの内側には基板Wが載置される。図1に戻って、貫通孔3bは、漏斗状の孔である。貫通孔3bは、上部Uと上部Uの下端に接続する下部Dを備える。上部Uは、上端から下端に向けて内径が縮径するテーパー状の孔である。下部Dは、上部Uの下端の内径に接続し、かつ、その内径と同一の円筒状の孔である。貫通孔3bは、図2に示すように平面視におけるポケット部3aの中心C回りに等角度間隔に複数(3つ)形成される。図1では2つの貫通孔3bが図示され、サセプタ3は、ポケット部3aに基板Wが載置された状態で鉛直方向に延びる軸線O回りに回転可能なように反応炉2内に配置される。
【0034】
サポートシャフト4は、サセプタ3を支持する石英製の支持部材である。サポートシャフト4は、サセプタ3の裏面側からサセプタ3を水平又は略水平に支持するように反応炉2内に配置される。サポートシャフト4は、サセプタ3の下方から軸線Oに沿うようにしてサセプタ3の裏面に向けて延びる支柱部4aと、支柱部4aから延びてサセプタ3の裏面に接続する複数(3つ)のアーム部4bを備える(図3参照)。支柱部4aは、図1に示すように鉛直方向に延びる円柱状に形成され、上端部にアーム部4bが接続する。アーム部4bは、支柱部4aの上端部に接続する一端部E1と、サセプタ3の裏面の外周部に接続する他端部E2と、一端部E1から延びてサセプタ3の貫通孔3bの下を横切るようにして他端部E2に接続する接続部E3を有する。接続部E3は、サセプタ3の貫通孔3bの下に対応する部分に軸線Oに沿うようにして接続部E3を貫通する貫通孔Hを備える。サポートシャフト4の平面視である図3に示すように貫通孔Hは、サセプタ3の半径方向が長径となる楕円状又は長穴状に形成される。また、貫通孔Hの大きさは、貫通孔Hの内側に貫通孔3bが収まる大きさとなる。
【0035】
図1に戻って、サポートシャフト4の貫通孔Hと、サセプタ3の貫通孔3bにはリフトピン5が挿入される。リフトピン5は、サセプタ3との間で基板Wの受け渡しをする部材である。リフトピン5は、丸棒状の本体部5aと、本体部5aの上端に接続する頭部5bを備える。本体部5aは、円柱状であり、その円柱状の直径は貫通孔3bの下部Dの内径より小さい。頭部5bは、本体部5aの上端に接続する下端から上方に向けて拡径するテーパー状である。頭部5bは、貫通孔3bの上部Uに引っ掛かるようにして上部Uの内側に収まる。よって、リフトピン5は、頭部5bが貫通孔3bに保持されてサセプタ3に装着される。リフトピン5をサセプタ3に装着する場合には、例えば、サセプタ3の上方にリフトピン5を用意し、本体部5a側から貫通孔3bにリフトピン5を挿入し、貫通孔3bを通過して本体部5aを貫通孔Hに挿入する。このようにリフトピン5を貫通孔3b、Hに挿入させていくと、貫通孔3bの上部Uにリフトピン5の頭部5bが引っ掛かり、リフトピン5は貫通孔3bにぶら下がり、貫通孔3bの上部Uがリフトピン5の頭部5bで塞がれる。その一方で、貫通孔Hと貫通孔Hに挿入されるリフトピン5の間には、サセプタ3の半径方向に広い隙間が形成され、黒鉛製のサセプタ3と石英製のアーム部4bの熱膨張率の差により貫通孔3bと貫通孔Hの位置関係が大きく変化しても、貫通孔Hによってサセプタ3の半径方向へのリフトピン5の位置は拘束されないようになっている。それに対し、貫通孔Hとリフトピン5との間のサセプタ3の円周方向の隙間については、貫通孔3bとリフトピン5との隙間と同じ又は略同じにして、サセプタ3の円周方向へのリフトピン5の傾きのばらつきを抑制できるようになっている。このようにして本実施態様では複数(3つ)のリフトピン5がサセプタ3に保持される。
【0036】
リフトピン5は、頭部5bがサセプタ3の貫通孔3bにより保持される一方で、リフトピン5の下端部は、サポートリング6により保持される。サポートリング6は、3つのリフトピン5をそれぞれ挟んで保持する炭化珪素製かつリング状の部材である。図4Aに示すようにサポートリング6は、軸線O回りに位置するリング部6aと、リング部6aに接続する弾性変形可能な板状部材6bを有する。リング部6aは、軸線Oを中心とする円状又は略円状に形成され、リング部6aの内周面に板状部材6bが接続する。図4Bに示すように板状部材6bは、リング部6aに接続する接続部6b1と、接続部6b1からリング部6aに沿って延びる本体部6b2を有する。接続部6b1は、リング部6aの内周面を基点に、その内周面から離れるようにリング部6aの内側に向けて延びる板状に形成される。本体部6b2は、接続部6b1に接続してリング部6aの内周面に沿って延びる板状に形成される。板状部材6bは、接続部6b1での弾性変形に基づき本体部6b2がリング部6aの内周面に接近する方向に付勢される。サポートリング6は、リング部6aの内周面と本体部6b2の間にリフトピン5の側面を挟んで保持するようにリフトピン5に装着される。図5Aには、サポートリング6により複数のリフトピン5が、それぞれリング部6aと板状部材6bに挟まれて保持される状態が示される。図5Bに示すようにリフトピン5は、リング部6aの内周面に接近する方向に付勢される板状部材6bとリング部6aに挟まれて保持される。図1に示すようにリフトピン5は、下端部がサポートリング6により保持される。サポートリング6と貫通孔3bにより、リフトピン5の傾き(姿勢)が支持される。
【0037】
リフトピン5は、サセプタ3との間で基板Wの受け渡しをする際には、リフトピン支持部7により支持される。リフトピン支持部7は、リフトピン5の下端を支持してリフトピン5を昇降させる。リフトピン支持部7は、支柱部4aを囲む筒状部7aと、筒状部7aの上端部から放射状に延びてリフトピン5の下端の近傍に位置する複数のアーム7bと、アーム7bの上端に接続してリフトピン5の下端を支持するための支持台7cを有する。
【0038】
筒状部7a及び支柱部4aの下端部にはそれぞれ駆動部8が接続される。駆動部8は、支柱部4aと筒状部7aを独立して作動させる駆動手段(例えば、モーターやアクチュエーター)として構成される。駆動部8は、支柱部4aを軸線O回りに回転可能であり、軸線Oに沿うように支柱部4aと筒状部7aをそれぞれ独立して上下方向に移動可能である。例えば、図1のポケット部3aに基板Wが載置されていない状態で駆動部8が筒状部7aを上昇させると、筒状部7aとともに支持台7cが上昇する。すると、支持台7cがリフトピン5の下端を支持してリフトピン5を上昇させ、リフトピン5が貫通孔3bから突出する。貫通孔3bから突出したリフトピン5を下降させる場合には、駆動部8が筒状部7aを下降させることで、リフトピン5が貫通孔3bにぶら下がる。
【0039】
図1に示すように反応炉2の外側には反応炉2の左右にガス供給管9とガス排出管10が配置される。また、反応炉2の上下に複数のランプ11が配置される。
【0040】
ガス供給管9は、反応炉2の水平方向の一端側(図1左側)に位置し、反応炉2内に各種のガスを略水平に供給する。ガス供給管9は、例えば、気相成長時には反応炉2内に気相成長ガスを供給する。気相成長ガスは、例えば、シリコン単結晶膜の原料となる原料ガスと、原料ガスを希釈するキャリアガスと、単結晶膜に導電型を付与するドーパントガスを有する。
【0041】
ガス排出管10は、反応炉2の水平方向の他端側(図示右側)に位置し、反応炉2内のガスを反応炉2外に排出する。ガス排出管10は、基板Wを通過した気相成長ガス等を排出する。
【0042】
ランプ11は、反応炉2の上下に複数配置され、気相成長時に反応炉2内を加熱して反応炉2内に位置する基板W等の温度を調節する熱源となる。
【0043】
以上、気相成長装置1の主要な各部を説明した。次に、図示しない搬送ロボットにより反応炉2内に搬送された基板Wをサセプタ3のポケット部3aに載置させる工程を説明する。基板Wは、図示しない搬送ロボットによりサセプタ3の上方に搬送され、サセプタ3の上方に搬送された基板Wは、例えば、次のようにしてポケット部3aに載置される。
【0044】
搬送ロボットによりサセプタ3の上方に基板Wが搬送されると、駆動部8が筒状部7aを上昇させ、貫通孔3bから突出するようにリフトピン5を持ち上げる。リフトピン5は、頭部5bの上端面が基板Wの裏面に到達するまで上昇し、その上端面で基板Wの裏面を支持して基板Wを受け取る。リフトピン5が基板Wを受け取ると、駆動部8は筒状部7aを下降させてリフトピン5を下降させる。すると、リフトピン5に支持された基板Wが下降し、基板Wがポケット部3aに載置される。リフトピン5が降下して基板Wがポケット部3aに載置されると、リフトピン5の頭部5bが基板Wの裏面から離れるように下降する。すると、リフトピン5は、頭部5bが貫通孔3bに引っ掛かるように貫通孔3bにぶら下がり、リフトピン5の下端を支持した支持台7cがリフトピン5から離れる(図1参照)。
【0045】
以上のようにして基板Wがサセプタ3のポケット部3aに搬送される。その後、駆動部8が支柱部4aを軸線O回りに回転させる。これにより、サセプタ3及びサセプタ3に載置された基板Wを軸線O回りに回転させ、回転する基板Wの表面に気相成長ガスを供給して基板Wにエピタキシャル層を成長し、エピタキシャルウェーハが製造される。
【0046】
このようにして製造されるエピタキシャルウェーハは、ポケット部3aに載置される基板Wの位置により基板Wに供給される気相成長ガスの流れが変化し、基板Wに成長させるエピタキシャル層の膜厚に影響が生じる。ポケット部3aに載置された基板Wの周方向に形成される隙間(基板Wとポケット部3aの隙間)が基板Wの周方向で不均一となった状態で基板Wにエピタキシャル層を成長すると、基板Wの外周部でエピタキシャル層の膜厚分布が悪化する。
【0047】
よって、ポケット部3aとの隙間が基板Wの周方向で均一となるように基板Wがポケット部3aに載置されることが望ましい。ここで、ポケット部3aに載置される基板Wは、基板Wの裏面がリフトピン5で支持された状態でポケット部3aに搬送される。そのため、基板Wがポケット部3aに載置される位置は、基板Wをポケット部3aに搬送するリフトピン5の影響を受ける。例えば、リフトピン5により基板Wを支持する場合には、基板Wの荷重によりリフトピン5がぐらつくことでポケット部3aに載置される基板Wの位置にばらつきが生じるおそれがある。
【0048】
そこで、図5A及び図5Bに示すようにリフトピン5の姿勢が安定するようにリング部6aと板状部材6bでリフトピン5の下端部を挟むことでリフトピン5のぐらつきを抑制する。ここで、板状部材6bは、図5Bの接続部6b1を基点に本体部6b2がリング部6aに向けて付勢し、この付勢力を利用してリフトピン5が本体部6b2とリング部6aに挟まれて保持される。よって、室温下の基板Wが高温の反応炉2内に搬入される等により反応炉2内の温度が不安定になり、リフトピン5を保持するリング部6aと板状部材6bが熱膨張・熱収縮を繰り返しても、それらがリフトピン5を保持する力は大きく緩まない。そのため、リング部6aと板状部材6bがリフトピン5を保持する位置を維持したままリフトピン5を保持することができる。
【0049】
また、リフトピン5が挿入されるアーム部4bの貫通孔Hとリフトピン5の間にはサセプタ3の半径方向に延びる長穴が形成され、貫通孔Hによってサセプタ3の半径方向へのリフトピン5の位置は拘束されないようになっている。それに対し、貫通孔Hとリフトピン5との間のサセプタ3の円周方向の隙間については、貫通孔3bとリフトピン5との隙間と同じ又は略同じにして、サセプタ3の円周方向へのリフトピン5の傾きのばらつきを抑制できるようにする。よって、黒鉛製のサセプタ3と石英製のアーム部4bの熱膨張率の差により貫通孔3bと貫通孔Hの位置関係が大きく変化して、リフトピン5の姿勢(傾き)が不安定になるのを抑制できる。そして、リフトピン5が挿入される貫通孔3bを有するサセプタ3が黒鉛製であり、貫通孔3bに挿入されるリフトピン5を保持するサポートリング6が炭化珪素製である。それ故、サセプタ3とサポートリング6の熱膨張率の差を小さくすることができ、反応炉2内の温度変化などにより貫通孔3bとサポートリング6の位置関係が大きく変化するのを抑制できる。その結果、リフトピン5の傾きが不安定になるのを抑制できる。なお、黒鉛製のサセプタ3に代えて炭化珪素製のサセプタを用いると、より効果的である。
【0050】
以上から、本発明の実施態様では、リフトピン5の傾きが不安定になるのが抑制され、サセプタ3のポケット部3aに載置される基板Wの位置がばらつくのを抑制することができる。
【実施例】
【0051】
本発明の効果を確認するために以下に示す実験を行った。以下において、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0052】
(実施例)
直径300mmのシリコン単結晶基板である基板Wと気相成長装置1を用意し、用意した基板Wと気相成長装置1を用いて気相成長装置1のサセプタ3のポケット部3aに基板Wを載置し、載置した基板Wにエピタキシャル層を成長してエピタキシャルウェーハを製造した。そして、製造されたエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層の外周部の膜厚分布に基づいて、そのエピタキシャルウェーハの基板Wの中心がポケット部3aの中心Cからずれた距離を載置ズレ量として測定した。このようにして100枚のエピタキシャルウェーハを製造し、製造したエピタキシャルウェーハから載置ズレ量を取得し、載置ズレ量の平均値及び標準偏差を算出した。なお、載置ズレ量の具体的な測定方法としては、特開2014−127595号公報に開示される方法を使用した。
【0053】
(比較例)
比較例では、次に示す構成以外は気相成長装置1と同様の気相成長装置101(図6図7参照)を用いてエピタキシャルウェーハを製造した。以下、気相成長装置101の説明をするが、気相成長装置1と同じ構成は同じ符号を付して説明を省略し、特有の構成のみを説明する。気相成長装置101は、気相成長装置1からサポートリング6を取り外し、サポートシャフト4の代わりにサポートシャフト104を取り付けたものである。サポートシャフト104は、サポートシャフト4の貫通孔Hの形状を長穴から長穴より小さい円筒状の貫通孔H1に代えたものであり、貫通孔3b、H1に挿入されたリフトピン5は、貫通孔3b、H1によりリフトピン5の傾きが定められる。このような気相成長装置101を使用する以外は、実施例と同様の条件にして100枚のエピタキシャルウェーハを製造し、載置ズレ量の平均値及び標準偏差を算出した。
【0054】
実施例及び比較例で得られた測定結果は次のようになった。実施例では、載置ズレ量の平均値が52μm、載置ズレ量の標準偏差が26μmであるのに対して、比較例では、載置ズレ量の平均値が148μm、載置ズレ量の標準偏差が79μmである。そのため、実施例では、ポケット部3aに載置される基板Wの位置がばらつくのを比較例より低減することができた。
【0055】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその具体的な記載に限定されることなく、例示した構成等を技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせて実施することも可能であるし、またある要素、処理を周知の形態に置き換えて実施することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 気相成長装置 2 反応炉
3 サセプタ 3b 貫通孔(第1貫通孔)
4 サポートシャフト(支持部) 4a 支柱部
4b アーム部 H 貫通孔(第2貫通孔)
5 リフトピン 6 サポートリング(保持部材)
6a リング部 6b 板状部材(弾性部材)
7 リフトピン支持部 W 基板
O 軸線
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7