【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス http://web.kyoto−inet.or.jp/people/vsojkn/zenkokutaikai/gakusei_yusyu_syo/65gakusei_yusyu.html アドレス掲載日:平成25年6月12日以降
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名:第16回 Vitamin E update Forum 開催日:平成25年8月19日(場所:如水会館)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名:第16回 Vitamin E update Forum 要旨集発行日:平成25年8月19日
【文献】
PLoS One, 2013. Sep., Vol.8, Issue 9, e75299
【文献】
Biochimica et Biophysica Acta, 2005, Vol.1706, No.3, p.195-203
【文献】
Database GenBank [online], Accession No. BAF04581.1<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/113532198>2012.08.09, [検索日2017.07.27]Definition: Os01g0265000 [Oryza sativa Japonica Group]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.はじめに
血管新生は、それまで血管が存在しなかった部位に、新たに血管が生じる現象であり、多くの疾病において起こる。代表的な例としては、罹患者数が非常に多い、がんや糖尿病が挙げられる。がんにおいては、腫瘍が成長する際、腫瘍の塊の中に栄養を引き込む血管が新生しなければ、内部の細胞が壊死してしまうため、血管新生はがん細胞の成長には必須の現象である。もし血管新生を抑えることができれば、腫瘍の成長を抑えることが可能になる。動物試験においては、T3は強力な血管新生抑制効果を発揮し、がんの増殖を抑制することが、多くのグループで確認されている。
【0027】
また、糖尿病においては、眼の網膜に血管が新生する症状を呈する、糖尿病網膜症を高確率で併発し、日本人の中途失明原因の第2 位となっている。糖尿病にはI型(膵臓β細胞不活性型)とII型(インスリン抵抗性またはインスリン分泌減少型)の2 種類が存在するが、発症後20 年で、1 型の100%、2 型の60%の患者に網膜症が発症する。そのため網膜における血管新生を抑制する効果のある薬剤の開発も期待されている。
【0028】
がんや糖尿病網膜症以外にも、非常に罹患者数が多い疾患(加齢性黄斑症、リウマチ様関節炎、慢性気管支炎、乾癬、等々50種類にも及ぶ疾病)が、血管新生依存性疾患として確認されている。こうした疾病においてT3が将来的に血管新生抑制作用の効能を発揮することが期待されている
【0029】
2.ビタミンEの一般的合成経路について:
2−1.ビタミンE生合成の概略(
図1)
メバロン酸経路又は非メバロン酸経路により、ファルネシル二リン酸(FPP)が合成される。
【0030】
ファルネシル二リン酸(FPP)はファルネソールと平衡関係にあり、ファルネシル二リン酸(FPP)からは、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)が合成される。
【0031】
そして、(イ)ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)は、ホモゲンチジン酸ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(HGGT)の働きでホモゲンチジン酸(HGA)と結合し、T3が生産される。また、(ロ)ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)から、ゲラニルゲラニルリダクターゼ(GGR)により、クロロフィルを経、又はクロロフィルを経ることなくフィチニル二リン酸(PPP)が合成され、フィチル二リン酸から、VTE2により、トロフェロール(Toc)が生産される。
【0032】
2−2.メバロン酸経路又は非メバロン酸経路による、ファルネシル二リン酸(FPP)の生成
真菌類(酵母など)、植物及び動物には、メバロン酸経路がある。この経路ではアセチルCoAが最初の前駆体となる。アセチルCoAからアセトアセチルCoAが生成され、さらに、HMGCoAシンターゼによりヒドロキシメチルグルタリル−CoAが生成し、HMG CoAリダクターゼによりメバロン酸が生成する。メバロン酸から、メバロン酸キナーゼにより5-ホスホメバンロン酸とADPが生成し、更に、ホスホメバンロン酸キナーゼにより、5−ジホスホメバンロン酸が生成する。ホスホメバンロン酸デカルボキシラーゼにより、イソペンテニル二リン酸が生じ、イソメラーゼにより、ジメチルアリル二リン酸が生じる。ジメチルアリル二リン酸とIPPからゲラニル二リン酸が生成し、FPPシンターゼによりFPPが生じる。
【0033】
他方、細菌及び高等植物には非メバロン酸経路がある。ピルビン酸及びグリセルアルデヒド3−リン酸から開始される[Lois et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 2105-2110 (1998); Rohmer et al., J. Am. Chem. Soc. 118, 2564-256 (12) 特表2002−5193976 (1996); Arigoni, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10600-10605 (1997); Lange et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 2100-2104 (1998)]。
【0034】
植物ではメバロン酸経路及び非メバロン酸経路の両方が存在し、前者は細胞質に、後者は色素体に存在することが示されている[Arigoni, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10600-10605 (1997); Lange et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 2100-2104 (1998)] 。非メバロン酸経路の複数の段階が明らかにされている。最初の段階はD−1−デオキシキシルロース5−リン酸シンターゼによって触媒され、ピルビン酸とグリセルアルデヒド3−リン酸からD−1デオキシキシルロース5−リン酸を生成する。第2及び第3の段階は、D−1−デオキシキシルロース5−リン酸リダクトイソメラーゼによって触媒され、D−1デオキシキシルロース5−リン酸の2−C−メチルDエリトリトール−4−P(MEP)への転換が触媒される。そして、MEPからイソメラーゼにより、ジメチルアリール二リン酸が生じる。以下、メバロン酸経路と同様に、ジメチルアリル二リン酸とIPPからゲラニル二リン酸が生成し、FPPシンターゼによりFPPが生じる[Lois et al., Proc. Natl . Acad. Sci. USA, 95, 2105-2110 (1998); Takahashi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 2100-2104 (1998); Duvold etal. Tetrahedron Letters, 38, 4769-4772 (1997)]。
【0035】
そして、ファルネシル二リン酸(FPP)はファルネソールと平衡関係にあり、ファルネシル二リン酸(FPP)からは、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)が合成される。
【0036】
2−3.トコトリエノール
ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)とホモゲンチジン酸(HGA)から、ホモゲンチジン酸ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ(HGGT)により、トコトリエノールが生成される。HGGTは、パーム、大麦、小麦、稲、トウモロコシ、ソルガム等には存在するが、大豆、菜種、ヒマワリ、ごま等には存在しない。したがって、現在のところ、トコトリエノールが存在する植物種は限定されている。
【0037】
2−4.トコフェロール
Tocの合成経路としては、上述のように、クロロフィルを経る経路とクロロフィルを経ない経路が存在するが、いずれにせよ、フィチニル二リン酸(FPP)を経、VTE2(ビタミンE合成酵素2)により、トロフェロール(Toc)が生産される。
【0038】
3.トコトリエノールを主として含有し、実質的にトコフェロールを含有しない植物体の製造
本願発明者らは、T3の合成経路を詳細に検討し、Tocの合成系を阻害することにより、T3を含むが、Tocを含まない植物体の作出ができないかをまず検討した。
【0039】
Tocの生産が生じないようにするためには、Toc上流側であって、T3の上流とならない経路を阻害することが考えられ、
図1から見て、GGRを阻害することが考えられる。
【0040】
3−1.GGR遺伝子の発現阻害又はGGR遺伝子の破壊
トコフェロールの産生には、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)からゲラニルゲラニルリダクターゼ(GGR)が関与して、フィチニル二リン酸が産生されることが必要である。本願発明者らは、まず、ゲラニルゲラニルリダクターゼ(GGR)をコードするGGR遺伝子を植物体内で抑制することにより、T3の産生量、含量を増加させることを狙った。従来から、イネで、GGR遺伝子に関連する配列としては、Os02g0744900が知られている。
【0041】
そこで、Os02g0744900に(GGR領域)にトランスポゾン挿入変異があり、GGRを産生しないイネGGR欠損変異株として、日本晴Tos 17 mutant株NE1041系統があり、日本晴Tos 17 mutant株は農業生物資源研究所のリソースセンターから種子分譲を受けることができる(低温科学第67巻第43−52ページ)。日本晴Tos 17 mutant株NE1041系統で確認したところ、クロロフィル産生が抑制されアルビノ変異しており、ビタミンEの量は減少していたものの、Tocに対するT3の割合は増加していた、カルスで確認した場合、Toc生産量はあまり抑制されなかったが、T3の生産量は増加傾向にあった(
図3右欄参照)。
【0042】
従来、実験植物の標準であるシロイヌナズナでは、GGRをコードする可能性のある遺伝子として知られているものは、1種類(AT1G74470)のみである。また、GGRは、種々の反応を触媒することが知られている(例えば、Eur. J. Biochem. 251, 413-417(1998))。そのため、イネにおいても、シロイヌナズナと相同性の高い一種の遺伝子(配列番号1)によりコードされるGGRがクロロフィルを経る経路および経ない経路いずれのフィチニル二リン酸産生にも関与していると広く信じられていた。
【0043】
他方、上述のように配列番号1で表されるGGR遺伝子の発現を抑制してもToc生産を抑えることはできなかった。そこで、
図1は記載のない新たな経路の存在を仮定し、あるいは、GGRをコードする遺伝子は従来イネには一種しかないと信じられているが、GGRをコードする遺伝子にホモログが存在するかもしれないという可能性を検討することとした。
【0044】
そうしたところ、イネから、配列番号2に記載の配列もGGRをコードすることがわかった。本願発明者らは、新たに発見したGGRをコードする遺伝子をGGR2遺伝子と名付け、シロイヌナズナのGGRと相同性の高い従来から知られているイネGGRをGGR1遺伝子と名付け、区別することとした。さらに、GGR1遺伝子について、3’非翻訳領域、5’非翻訳領域を含めた配列を配列番号3に示す。また、GGR2遺伝子について、5’非翻訳領域を含めた配列を配列番号4に示す。
【0045】
上記で検討したトランスポゾンによるGGR欠損変異株について、新たに発見されたGGR2の発現を確認したところ、GGR2遺伝子が発現していることが確認された(
図2)。また当該GGR欠損変異株はアルビノであること(
図3)から、Tocの産生の前段階である、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)からゲラニルゲラニルリダクターゼ(GGR)によるフィチニル二リン酸の産生には、GGR2が関与しているものと思われる。したがって、GGR1遺伝子のみならず、GGR2遺伝子の発現を抑制すれば、Tocの産生を抑えることができ、Tocを実質的に含有しない高品位のT3を製造できると考えられる。
【0046】
3−2.植物体中でGGR遺伝子を実質的に機能させないことによる、Tocの生産を抑制し、T3を高品位で生産する植物体の開発
植物体において、GGR遺伝子を実質的に機能しないようすることで、Tocの生産を抑制し、T3を高品位で生産する植物体の開発することができる。より具体的には、植物体中のGGR遺伝子を欠損する、又はGGR遺伝子の発現を抑制又は阻止することにより、Tocの生産を抑制し、T3を高品位で生産する植物体の開発することができる。
【0047】
好適には、天然でトコトリエノールを産生する植物について、植物体中のGGR遺伝子を欠損させる、又はGGR遺伝子の発現を抑制又は阻止することにより、Tocの生産を抑制し、T3を高品位で生産する植物体を開発することができる。
【0048】
植物体におけるGGR遺伝子を欠失させ、またはGGR遺伝子の発現を抑制又は阻止する方法としては、GGR遺伝子の発現を阻害若しくは抑制、又はGGR遺伝子の機能を抑制若しくはGGR遺伝子の機能に障害を与え、あるいはGGR遺伝子を破壊する方法等を用いることができる。より具体的には、以下の例示には限られないが、例えば、RNAサイレンシング法、RNAiによる方法、アンチセンスRNAを用いる方法、リボザイムを用いる方法、人工核酸を用いる方法、あるいは遺伝子をノックアウトするトランスポゾン法、エチルメタンスルホン酸による変異法、ZFN法、TALEN法などを挙げることができる。
【0049】
植物にGGR遺伝子が複数存在する場合は、そのすべてのGGR遺伝子について、GGR遺伝子の発現を阻害若しくは抑制、又はGGR遺伝子の機能を抑制若しくはGGR遺伝子の機能に障害を与え、あるいはGGR遺伝子を破壊する。たとえば、イネを例にとれば、GGR1遺伝子およびGGR2遺伝子の両者について、両者の遺伝子が実質的に機能しないようにすればよい。具体的には、GGR1遺伝子およびGGR2遺伝子の両者について、遺伝子を欠失させ若しくは破壊してもよいし、両者の遺伝子の発現を阻害若しくは抑制してもよいし、あるいは一方の遺伝子を破壊若しくは欠失させ、他方の遺伝子の発現を阻害若しくは抑制することにより、GGR1遺伝子およびGGR2遺伝子の両者遺伝子を実質的に機能しないようにすることができる。複数のGGR遺伝子が存在する植物については、同様である。
【0050】
以下まずイネを例にとり、RNAi法を用いる場合について主に説明するが、T3を産生し、GGRがTocの産生に寄与している植物であればいずれの植物でもよく、例えば、コムギ、オオムギ、オートムギ、パーム、トウモロコシ、ソルガム、ココナツなどがあげられる。イネ以外のT3を産生しGGRがTocの産生に寄与している植物についても、言うまでもなく、RNAi法に限られず、上記した遺伝子発現を阻害若しくは抑制又はノックアウトする方法等を用いて、Tocの生産を抑制し、T3を高品位で生産する植物体の開発することができる。小麦、及び大麦について、それぞれのGGR遺伝子の配列を配列番号12、及び配列番号13に記載する。さらに、パームのGGR遺伝子配列の一部配列を、配列番号14に記載する。加えて、トウモロコシ、及びソルガムについて、それぞれのGGR遺伝子の配列を配列番号15、及び配列番号16に記載する。
【0051】
3-2-1. RNAi
(1)RNAiの標的配列
RNAiにより、イネにおける発現を抑制する標的遺伝子としては、配列番号1に示すGGR1及び配列番号2に示すGGR2、並びにそれらの天然の変異体を挙げることができる。
【0052】
なお、特定のイネ品種または個体ついては、まず、ゲノムDNAを抽出し、上記配列番号1又は2から選ばれる領域をプローブとして利用して、当該イネのGGR1又はGGR2の遺伝子を抽出し、配列決定することにより、当該イネ品種又は個体における標的配列となるGGR1またはGGR2の核酸配列を調べることができる。
【0053】
(2)標的配列の発現を阻害するための配列の設計
標的遺伝子をRNAiにより、発現阻害するためには、GGR1又はGGR2をコードする核酸配列、例えば、配列番号1若しくは3又は配列番号2若しくは4の適宜の領域を選ぶことができる。また好適には、3’非翻訳領域や、翻訳領域の3’側をターゲットとするとより遺伝子の機能を抑制する効果が高いと考えられる。またこのような領域の選択には、ソフトウエア、を利用することもできる[Ui-Tei K et al., J Biomed. Biotechnol., Article ID 65052 (2006)]。
【0054】
なお、イネゲノム配列のデータベース検索を行い、選んだ配列がGGR1およびGGR2以外のイネ遺伝子と高い相同性を示さない領域を選択することがより望ましい。
【0055】
また、場合によっては、標的配列に対して95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列を標的配列に代えて、当該標的配列の発現を阻害するための配列を設計することもできる。
【0056】
更に具体的には、GGR遺伝子の発現を阻害するためのRNAi用配列として、例えば、配列番号5の領域を選ぶことができる。
【0057】
(3)RNAiのためのベクターの構築
RNAiのためのベクターとしては、例えば、上記(2)で選択された配列(センス鎖)を、スペーサー領域を挟んで当該領域の相補領域(アンチセンス鎖)と結合した配列を含むベクターがあげられる。前記スペーサーとしては、イントロン、や他のスペーサー配列を用いることができ、前記ベクターに組み込むプロモーターとしては、形質転換する対象植物で転写できるプロモーターであれば、いずれでもよいが、例えば、カリフラーワーモザイクウイルスの35Sプロモーターや、トウモロコシのユビキチン遺伝子のプロモーターなどを用いることができる。
【0058】
すでに、このような構成のベクターは種々供給されており、周知のものを利用することができる。例えば、Gateway(R)技術を導入したベクター(Plant J. 27, 581(2001)、イネで効率的なRNAiを誘導するバイナリ−ベクターとしては、pANDAなどがある(Plant Cell Physiol., 45,490(2004)。
【0059】
(4)上記RNAi用発現ベクターを導入する対象としてのカルスの調製
カルスは、種子をカルス誘導培地で培養することにより、調整することができる。あるいは、イネ種子から胚移植片を採取し、カルス誘導培地で培養して、カルスを誘導することができる。カルス誘導培地としては、オーキシン等植物ホルモン等のカルス誘導剤を含む。
【0060】
あるいは、イネの完熟種子胚を浸透培養することにより、遊離小カルスを誘導することができる。
【0061】
(5)GGR1遺伝子およびGGR2遺伝子の発現が阻害された植物体の調製のための形質転換方法
上記調製されたベクターは、アグロバクテリウム法、カルスを用いたパーティクルガン法、プロトプラストを用いたエレクトロポレーション法やポリエチレングリコール法などがあげられる。
【0062】
より具体的には、例えば、上述のpANDAバイナリ−ベクターやGateway(R)バイナリ−ベクターであれば、アグロバクテリウム法を用いることができる。アグロバクテリウムとしては、例えば、EHA101株又はEHA105株を用いることができる。
なお、本願発明の植物体は、再生した植物体には限定されず、カルス、更には植物培養物も包含される。
【0063】
4.T3のカルスからの製造
形質転換されたカルスは、植物体に再分化分させなくとも、すでにカルス中にT3を蓄積するようになる。
そこで、カルスから、周知の方法を用いてT3を製造することができる。
【0064】
例えば、カルスを圧搾、及び/又は破砕し、適宜の溶媒で抽出物を調製することができる。必要であれば、更に、該抽出物に水を加えて分離し、油層分をカラムクロマトグラフィーで分離精製してトコフェロール類を全く含まないか、または痕跡程度に含むトコトリエノールを調製することができる。各トコトリエノール同族体の比率及び含量は、常法に従って、例えば、液体クロマトグラフィーと質量分析器を連結した、HPLC-MS/MSなどにて測定することができる。
【0065】
又は、常法により、抽出濃縮したトコトリエノールを更にカラムクロマトグラフィーに付し、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール及びδ−トコトリエノールの各成分に単離精製することができる。
【0066】
なお、必要であれば、適宜の再分化培地を用いてカルスから植物個体へ再分化させ、カルスからと同様に、植物個体からT3を同様に産生することもできる。
【実施例】
【0067】
[実施例1]
RNAi遺伝子抑制技術を用いた、新規遺伝子の発現を抑制することによる、トコフェロールフリーのトコトリエノール生産イネ細胞の作出法
(1)カスルの用意
農業生物資源研究所から入手した日本晴Tos 17 mutant ラインNE1041系統の籾を取り除いた種子を、アンチホルミン水溶液で滅菌し、その後70%エタノールに浸してさらに滅菌を行った。
【0068】
カルス誘導固形培地(1リットル当たり:CHU [N6] Basal salt buffer 4 g、グリシン2mg、塩酸チアミン1mg、ニコチン酸0.5mg、塩酸ピリドキシン0.5mg、ミオイノシトール100mg、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸2 mg、ゲルライト4g)上に、上記の滅菌したNE1041の種子を置いた。発芽3週間程度でカルスが形成してくるので、カルスの部分だけを種子から分離し、新しいカルス誘導培地に植え継いだ。
【0069】
上記のTos 17 mutant ラインには、GGR1遺伝子の部分に、Tos 17トランスポゾンがホモで入っているもの、ヘテロで入っているもの、そしてTos 17トランスポゾンが入っていないものの、3種類が存在する。その中からTos 17トランスポゾンがホモで入っているものを選抜するために、ゲノムPCRをかけて、遺伝子型の検定を行った。プライマーペア1(フォワードプライマーGGCGTGTGAACAACTAGTGCと、リバースプライマーGTTTTCAGACACGATCTGGC)、プライマーペア2(フォワードプライマーGGCGTGTGAACAACTAGTGCとリバースプライマーTCCACCTTGAGTTTGAAGGG)という2通りのプライマーペアを用いて、PCRを行った。PCR条件は、94℃ 3分 → (98℃ 10秒→ 58℃ 30秒 → 72℃ 1分20秒)× 35サイクル。Tos 17トランスポゾンがホモで入っている目的のカルスは、プライマーペア1では増幅が起こらず、プライマーペア2で増幅が起こる。この条件に適うカルスを以下の実験に用いた。
【0070】
同様にして、野生型(WT)のイネについてもカルス誘導培地を用いて、カルスを用意した。
【0071】
(2)遺伝子発現抑制ベクターの作製
イネ種子のぬか部分から、キアゲンのRNeasy Plant Mini Kitを用いて、total RNA を抽出した。そのRNAを鋳型にして、キアゲンのQuantiTect Reverse Transcription Kit を用いてcDNAを合成した。
【0072】
さらにそのcDNAを鋳型にして、GGR2遺伝子の5’ 非翻訳領域と翻訳領域の一部を、PCR法を用いて増幅した。フォワードプライマーとリバースプライマーの配列はそれぞれ、CACCAATTTGAGCTGTGGCGCCATCTC、GGGTTGCGCTCGAGGAGGAAC。PCR条件は、94℃ 2分 → (98℃ 10秒→ 68℃ 30秒)× 35サイクル。
【0073】
得られたPCRの増幅産物を、InvitorogenのDirectional TOPO cloning システムを用いて、クローニングベクターであるpENTRベクターに導入した。
【0074】
上記のpENTRベクターにクローニングされた遺伝子の一部を、invitorogenのGatewayシステムで用いられているLR反応を用いて、pENTRベクターから遺伝子発現抑制ベクターであるpANDAベクターに組み換えを行った。
【0075】
(3)カルスのトランスフォーメーション
上記の遺伝子が導入されたpANDAベクターを、エレクトロポレーション法を用いてアグロバクテリウムEHA101株にトランスフォーメーションした。トランスフォーメーションが成功したEHA101株は、カナマイシンとハイグロマイシンが入った選択培地上に生育してくるので、LB培地(1リットル当たり:Bacto peptone 10 g、Bacto yeast extract 5 g、塩化ナトリウム 10 g、アガー15g、カナマイシン20mg、ハイグロマイシン50mg)上に、トランスフォーメーション後のEHA101株を塗布し、薬剤抵抗性を指標に選抜をかけた。選抜したコロニーについては、目的の遺伝子が導入されていることをPCRで確認し、カナマイシンとハイグロマイシンを含むLB液体培地で培養した。
【0076】
上記(1)「カルスの用意」にしたがい用意されたカルスが十分に増殖した時点で、上記の形質転換されたEHA101株を、カナマイシン20mg/Lとハイグロマイシン50mg/Lを含むLB固形培地上に塗布し、28℃で増殖させた。
【0077】
菌体が増殖した後、形質転換されたEHA101株をプレートから掻き取り、共存液体培地(1リットル当たり:CHU [N6] Basal salt buffer 4 g、グリシン2mg、塩酸チアミン1 mg、ニコチン酸 0.5mg、塩酸ピリドキシン 0.5 mg、ミオイノシトール100 mg、スクロース30 g、グルコース 10 g、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸2 mg、アセトシリンゴン40mg)に完全に懸濁させた。
【0078】
増殖したカルスの中から、小さめのカルスを集め、上記のアグロバクテリウムが懸濁された溶液に30分間浸した。その後、カルスをろ紙上に置き、十分に水分を除いた。
【0079】
共存固形培地(1リットル当たり:CHU [N6] Basal salt buffer 4 g、グリシン2mg、塩酸チアミン1 mg、ニコチン酸 0.5mg、塩酸ピリドキシン 0.5 mg、ミオイノシトール100 mg、スクロース30 g、グルコース 10 g、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸2 mg、アセトシリンゴン40mg、ゲルライト4g)上にカルスをピンセットで配置し、20℃遮光条件下で、3日間培養した。
【0080】
上記共存液体培地で、カルスを3回洗い、ろ紙上で水分を除去した。
【0081】
選択培地(1リットル当たり:CHU [N6] Basal salt buffer 4 g、グリシン2mg、塩酸チアミン1 mg、ニコチン酸 0.5mg、塩酸ピリドキシン 0.5 mg、ミオイノシトール100 mg、スクロース30 g、カザミノ酸 1 g、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸2 mg、カナマイシン20mg、ハイグロマイシン50mg、ゲルライト4g)上にカルスを移した。カルスを2週間ごとに選択培地に植継いでいると、アグロバクテリウムにより形質転換がおこった細胞からは、カルスが成長してくる。遺伝子導入が起こったカルスを選択培地上で増殖させた。
【0082】
日本晴Tos 17 mutant ラインNE1041系統由来のカルスをトランスフォーメーション増殖させたカルスの様子を
図4に示す。
【0083】
(4)ビタミンEの含量分析
HPLC-MS/MS分析でカルス中のトコフェロールとトコトリエノールの定量を次のように行った。
【0084】
カルスを凍結乾燥し、粉砕し、粉末化したカルス50mgに3mLの0.025%(w/v)BHTを含む2-プロパノールを加え10分間超音波処理することでトコフェロールとトコトリエノールを抽出した。抽出液を3200rpmで10分間遠心し上清を回収し、0.45μm PTFEフィルターで濾過した。得られた濾液200μLに800μLのヘキサンを加え混合し、20μLをHPLC分析に供した。HPLC分析は、カラム:シリカゲルカラム(Inertsil SIL 100A-3, 4.6 x 250 mm, GLサイエンス)、カラム温度:40℃、移動相:hexane/1,4-dioxane/2-propanol (1000/40/5, v/v/v)、流速:1.0 mL/minで分離を行い、MS-MS 分析は、AB SCIEX 4000QTRAP (APCI, Positive)を用いて、MRM値α-Toc 430.7, 165.1、β-Toc 416.7, 151.2、γ-Toc 416.7, 151.0、δ-Toc 402.7, 137.2、α-T3 424.7, 165.3、β-T3 410.7, 151.1、γ-T3 410.7, 151.0、δ-T3 396.7, 137.1で行った。試料中のトコフェロールおよびトコトリエノール量は各々のスタンダードを用いた定量曲線により定量した。
【0085】
WTをトランスフォーメーションした結果について
図5に、また、GGR1欠損株である日本晴Tos 17 mutant ラインNE1041系統由来のカルスをトランスフォーメーションした結果について
図6に、さらに、トランスフォーメーションをしていないWTの結果について
図7に示す。
図8には、WT(
図7で測定した個体の平均値)と、GGR1欠損株をトランスフォーメーションしたカルスの結果と、両者のHPLC-MS/MSのデータを示す。
図5−7及び
図8の上部は、いずれも縦軸は凍結乾燥カルス100gあたりのビタミンE量で、TocとT3に分けて示している。
【0086】
別途、上記と同様の手法で、WTおよびTos17について行った結果を
図2上段に示す。また、日本晴Tos 17 mutant ラインNE1041系統の種子を栽培して得た幼苗の葉について、同様にビタミンEの含量分析した結果を、
図3に示す。