特許第6403705号(P6403705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧 ▶ マクス−プランク−ゲゼルシャフト、ツール、フェルデルング、デァ、ヴィセンシャフテン、イー、ファウの特許一覧

特許6403705グラフェンで金属酸化物をカプセル化する方法とこれらの材料の使用方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403705
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】グラフェンで金属酸化物をカプセル化する方法とこれらの材料の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/04 20060101AFI20181001BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20181001BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20181001BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20181001BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20181001BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20181001BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20181001BHJP
【FI】
   C01G51/04ZNM
   H01G11/24
   H01G11/32
   H01G11/46
   H01M4/36 B
   H01M4/48
   H01M4/58
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-40732(P2016-40732)
(22)【出願日】2016年3月3日
(62)【分割の表示】特願2013-509551(P2013-509551)の分割
【原出願日】2011年5月10日
(65)【公開番号】特開2016-185902(P2016-185902A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2016年3月29日
(31)【優先権主張番号】10162807.1
(32)【優先日】2010年5月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(73)【特許権者】
【識別番号】506209857
【氏名又は名称】マクス−プランク−ゲゼルシャフト、ツール、フェルデルング、デァ、ヴィセンシャフテン、イー、ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】イヴァノヴィッチ,ソリン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シューピン
(72)【発明者】
【氏名】フォン,シンラン
(72)【発明者】
【氏名】ミュレン,クラウス
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−076931(JP,A)
【文献】 特開2010−219047(JP,A)
【文献】 特開2010−219048(JP,A)
【文献】 特開2010−003675(JP,A)
【文献】 特表2003−519565(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0059449(US,A1)
【文献】 YAO J,IN SITU CHEMICAL SYNTHESIS OF SNO2-PRAPHENE NANOCOMPOSITE AS ANODE MATERIALS FOR LITHIUM-ION BATTERIES,ELECTROCHEMISTRY COMMUNICATIONS,NL,ELSEVIER,2009年10月 1日,V11 N10,P1849-1852
【文献】 Y.DING、他7名,Preparation of nano-structured LiFePO4/graphene composites by co-precipitation method,Electrochemistry Communications,2010年,vol.12,pp.10-13
【文献】 独立行政法人 産業技術総合研究所,カーボン被覆したナノメートルオーダーのLiFePO4超微粒子の作成,on line,2008年 8月27日,URL,http://www.aist.go.jp/aist_i/press_release/pr2008/pr20080827.html
【文献】 James D. WILCOX,Factors Influencing the Quality of carbon Coatings on LiFePO4,Journal of The Electrochemical Society,2007年 3月12日,Vol. 154 Issue 5,A389-A395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/04
H01G 11/24
H01G 11/32
H01G 11/46
H01M 4/36
H01M 4/48
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co34、CuO、SnO2、SnO、NiO、MoO2、TiO2、HfO2、ZrO2、ZnO、Al23、SiO2、Fe34、Fe23、MnO2、及びRuO2、並びにMn、Ni及び/又はCoのLi含有酸化物及び複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の成分Aと、少なくとも一層のグラフェン皮膜とを含み、及び
ナノ粒子の総重量に対して、60〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜40重量%の皮膜としてのグラフェンを含むナノ粒子。
【請求項2】
ナノ粒子の総重量に対して、70〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜30重量%の皮膜としてのグラフェンを含む請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
平均粒子径が1〜1000nmである請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
Co34、CuO、SnO2、SnO、NiO、MoO2、TiO2、HfO2、ZrO2、ZnO、Al23、SiO2、Fe34、Fe23、LiFePO4、MnO2、及びRuO2、並びにMn、Ni及び/又はCoのLi含有酸化物及び複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の成分Aと、少なくとも一層のグラフェン皮膜とを含むナノ粒子を製造する方法であって、
(a)懸濁媒体と少なくとも一種の成分Aを含む正の表面電荷をもつナノ粒子とを含む懸濁液を提供する工程、
(b)該懸濁液に酸化グラフェン粒子を添加して該酸化グラフェン粒子をナノ粒子上に集積させる工程、及び
(c)ナノ粒子上に集積した酸化グラフェン粒子をグラフェンに変換させる工程、を含む製造方法。
【請求項5】
上記ナノ粒子の正の表面電荷が、ナノ粒子表面の官能基での修飾及び/又は少なくとも一種のカチオン系界面活性剤のナノ粒子表面上での吸着及び/又は懸濁液のpHの調整でもたらされる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記官能基が正帯電官能基と正帯電官能基の前駆体から選ばれる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記官能基が、NR2とNR3+(式中、Rは、それぞれ独立してHとC1−C6−アルキルおよびC1−C6−ヒドロキシアルキルから選ばれ、一個以上のRが複数のNR2及び/又はNR3+基に結合していてもよい)から選ばれる請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
上記少なくとも一種のカチオン系界面活性剤が、4級アンモニウム化合物の群から選ばれる請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記懸濁液が水性の懸濁媒体を含む請求項4〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも一種の還元剤の添加により上記酸化グラフェンがグラフェンに還元される請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
不活性ガス雰囲気下で少なくとも1分間、上記酸化グラフェン被覆ナノ粒子を最高で600℃で加熱することにより上記酸化グラフェンがグラフェンに変換される請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、該ナノ粒子の総重量に対して、60〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜40重量%の皮膜としてのグラフェンを含む請求項4〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子は、平均粒子径が1〜1000nmである請求項4〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
電気化学セル中でのまたスーパーキャパシタ中での、リチウムイオン貯蔵及び/又は放出材料としての請求項1〜3のいずれか一項に記載のナノ粒子の使用方法。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のナノ粒子を含む電気化学セルまたはスーパーキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一種の金属、半金属、金属化合物及び/又は半金属化合物を含むコアと少なくとも一層のグラフェン皮膜とからなるナノ粒子に関する。これらのナノ粒子は、リチウムイオンアキュミュレータやスーパーキャパシタの電極中でリチウムイオンを貯蔵する材料として特に好適である。本発明はまた、これらのナノ粒子の製造方法、その電気化学セル中での利用、これらのナノ粒子を含む電気化学セルと二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやノートブックなどの携帯用機器用電源としての電池やアキュミュレータに対する需要が大きい。この目的のため、これらの電池やアキュミュレータが、最高のエネルギー密度と最長の寿命を持つ必要がある。アキュミュレータに求められるもう一つの要素は、まったく性能低下を起こすことなく最大回数の充放電サイクルを通過可能である必要があることである。
【0003】
全ての化学元素中でリチウムは最大の負電位をもつ。したがって、リチウム系のアノードをもつ電池やアキュミュレータは非常に高いセル電圧と非常に高い理論容量をもつ。リチウム系アキュミュレータの中で、リチウムイオンアキュミュレータは、アキュミュレータ中に存在する電解質と反応する金属性リチウムを含まず、安全上の問題を引き起こさないため、特に好適である。
【0004】
リチウムイオンアキュミュレータ中では,リチウムイオンの運動でセル電圧が生成する。リチウムイオンアキュミュレータに用いられるアノード材料は、通常リチウムイオンを貯蔵できる化合物,例えばグラファイトである。近年,容量が高いため、他の電気化学的に活性な金属や半金属、またこれらの化合物、例えばSn、Si、Ge、Co34、及びFe23が、リチウムイオンアキュミュレータのアノード活物質として考えられている(Zhang. W. M., et al、Adv. Mater. 2008,20,1160; Kim HM et al., Nano letter 2008, 8、3688; Cui G. L、et al., Adv. Mater. 2008, 20, 3079)。しかしながら、リチウムイオンを貯蔵する材料をアノード活物質として使用する場合の問題は、充放電サイクル中に起こる比容積の変化が大きいことである。これによりアノードが部分的に破壊されて、電気伝導度と可逆性能が低下する。
【0005】
この問題を回避するために、これらのアノード活物質をグラフェン中に組み込むことができる。この場合、アノード活物質はグラフェン上に、またはグラフェン層の間に分布させられる。これにより実際、改善することが可能である。グラフェンは、充放電サイクルの間の大きな体積変化を緩和させ、また電極中での高伝導度を維持させることができる。しかしながら、一定数の充放電サイクルの後で、金属、半金属またはその化合物は、実質的にグラフェン表面またはグラフェン層の間に存在しているため、凝集が起こる。同様にこれにより最終的に伝導度の低下と性能の低下が起こる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhang.W.M.,et al.,Adv.Mater. 2008,20,1160
【非特許文献2】Kim HM et al.,Nano letter. 2008,8,3688
【非特許文献3】Cui G. L.,et al.,Adv.Mater. 2008,20,3079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、リチウムイオン電池中でアノード活物質として使用可能で、充放電サイクルを何度も繰り返してもその高い容量が安定に維持される材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本目的は、本発明に従って、金属と半金属、金属化合物、半金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一成分Aと少なくとも一層のグラフェン皮膜を含むナノ粒子により達成される。
【0009】
本発明はまた、
(a)懸濁媒体と少なくとも一種の成分Aを含む正の表面電荷をもつナノ粒子とを含む懸濁液を提供する工程、
(b)該懸濁液に酸化グラフェン粒子を添加して該酸化グラフェン粒子をナノ粒子上に集積させる工程、及び
(c)ナノ粒子上に集積した酸化グラフェン粒子をグラフェンに変換させる工程、を含むこれらのナノ粒子の製造方法と、
本発明のナノ粒子の電気化学セル中でリチウムイオンを吸収及び/又は放出する材料としての使用方法、並びに本発明のナノ粒子を含む電気化学セル及びスーパーキャパシタを提供する。
【0010】
本発明のナノ粒子は、少なくとも一種の成分Aを含む(enthaltend:ドイツ語)コアと、このコアを覆うあるいはカプセル化(封入)(encapsulating)する少なくとも一層のグラフェン皮膜とから形成される。グラフェンは非常に良好な電気伝導度を持つだけでなく、高い構造的柔軟性をもつため、充放電サイクル中にナノ粒子のコア中に存在する少なくとも一種の成分A中で起こる体積変化に耐え、その構造に大きな悪影響を起こさない。
【0011】
このナノ粒子中に存在する少なくとも一種の成分Aは、他のナノ粒子中に存在する少なくとも一種の成分Aから完全にグラフェン皮膜により分離されている。本発明のナノ粒子をアノード活物質として含むアノードをもつリチウムイオンアキュミュレータを放充電させても、その間に各ナノ粒子中に存在する少なくとも一種の成分Aの凝集は実質的に起こらない。したがってこのようなアノードの高容量は非常に多数回の充放電サイクルにわたって保存される。ナノ粒子中で皮膜として存在するグラフェンはまた、全体の電極中での非常に良い伝導度を保証する。
【0012】
驚くべきことに、本発明のナノ粒子をアノード活物質として含むアノードが、少なくとも一種の成分Aのみを含むアノード、グラファイトのみを含むアノード、またはグラファイトと成分Aとして用いた物質の機械的混合物を含むアノードより、あるいは個々の成分の容量の比例的な和の場合に期待される容量より高い容量を示すことが明らかとなった。これは、成分AとしてCo34を用いる実施例に示されている。コア中にCo34を含むとともに皮膜としてグラフェンを含むアノードの容量は多数回の充放電サイクルの後でも実質的に不変であるが、Co34のみを含む、あるいはグラフェンとCo34の機械的混合物を含むアノードは、サイクル数の増加により明らかな容量低下を示す。
【0013】
本発明のナノ粒子の製造方法は、比較的安価な酸化グラフェン原料から出発する、極めて容易に実施可能な方法である。本方法では、特に高比率の成分Aと比較的低比率のグラフェン皮膜とからなるナノ粒子を製造できる。これは、リチウムイオンアキュミュレータ中のアノード材として用いられるナノ粒子の場合に好ましい。これは、ナノ粒子中のアノード活性成分Aの比率の増加が、アノードの可逆的容量の増加をもたらすためである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明において、「グラファイト」は、相互に積層した多数の平坦な層からなる、sp2−混成の炭素原子の縮合6員環からなる炭素を意味する。厳密に言うと、「グラフェン」は、グラファイト構造の単一の炭素層を、即ち六員環状に配置されたsp2−混成をもつ6個の炭素原子からなる縮合環の単一層を意味すると解されている。しかしながら本発明では、「グラフェン」はまた、最大で10層の、好ましくは多くて5層、より好ましくは多くて2層、特に1層の六角形状に配置された6個のsp2混成の炭素原子をもつ縮合環から形成される材料をいう。
【0016】
本発明において、「酸化グラファイト」は、複数の層からなる三次元構造であって、各層が部分的にカルボニル基やカルボキシル基、アルコール基、エポキシ基で官能化された縮合C6環からできているものを意味するものとする。この物質中の各層は、グラファイトのように平坦ではなく、部分的に突出したり、あるいは酸化の程度に応じてジグザク状に面から完全に突出したりしている。
【0017】
本発明によれば、「酸化グラフェン」は、最大で10層、好ましくは多くて5層、より好ましくは多くて2層、特に単層で、エポキシ、アルコール、カルボキシル及び/又はカルボニル基などの酸素官能基を有する縮合C6環からなるものを意味するものとする。
【0018】
本発明において、「アキュミュレータ」は、再充電可能な電気化学セルを意味するものであり、二次電池とも呼ばれる。
【0019】
本発明においては、「電池」は、再充電できない電気化学セルをいい、一次電池とも呼ばれる。
【0020】
「スーパーキャパシタ」(ウルトラキャパシタとも呼ばれる)は、電解質で湿潤された実質的に二つの電極からなる二重層キャパシタである。電解質のクロギング電圧より小さな電圧がかかると、極性の異なるイオンが二つの電極上に集まる。電荷キャリア層を持つこれらの二つの電極は、直列に連結された二個のキャパシタのようにふるまう。電池やアキュミュレータとは対照的に、これらはエネルギーを静電気的に貯蔵する。
【0021】
本発明において、「アノード」は、電気化学セルの負に荷電された電極をさす。アキュミュレータの充電の過程ではアノードで還元が進む。リチウムイオンアキュミュレータ中では、充電操作によりアノードでリチウムイオンが貯蔵ざれる。放電の過程ではアノードで酸化が進む。リチウムイオンアキュミュレータ中では、貯蔵されたリチウムイオンが同時に放出される。
【0022】
本発明において、「アノード活物質」または「カソード活物質」は、リチウムイオンアキュミュレータのアノードまたはカソード中で電気化学的に活性な材料/化合物/物質として使用可能な、特にリチウムイオンを貯蔵する材料/化合物/物質として使用可能な材料、化合物及び/又は物質をさす。これらは、単一の化合物や材料、物質であってもよいが、異なる材料/化合物/物質の混合物であってもよい。
【0023】
本発明のナノ粒子はコアと少なくとも一層のグラフェン皮膜から形成され、上記コアは少なくとも一種の成分Aを含んでいる。上記コアが少なくとも一種の成分Aを含み、本発明のナノ粒子が少なくとも一種の成分Aを含むコアと少なくとも一層のグラフェン皮膜とからなるようにすることが好ましい。本発明のナノ粒子はさらに、実質的に、好ましくは完全にコアを覆っている少なくとも一層のグラフェン皮膜を含む。このナノ粒子は、少なくとも一種の成分Aを含むコアとグラフェン皮膜とを含むことが好ましい。本発明のナノ粒子は、少なくとも一種の成分Aを含むコアとグラフェン皮膜とから成ることが更に好ましい。
【0024】
本発明によれば、この少なくとも一種の成分Aは、金属と半金属、金属化合物、半金属化合物からなる群から選ばれる。この少なくとも一種の成分Aは、リチウムイオンを貯蔵及び/又は放出する金属と半金属、金属化合物、半金属化合物からなる群から選ばれることが好ましく、特にアノード活性及びカソード活性を示す金属と半金属、金属化合物、半金属化合物からなる群から選ばれることが好ましい。上記の金属や半金属化合物の中では、酸化物や複合酸化物が特に好ましい。上記少なくとも一種の成分Aが、SnとGe、Si、Pb、Co34、CuO、SnO2、SnO、NiO、MoO2、TiO2、Fe34、Fe23、SiO2、HfO2、ZrO2、Al23、ZnO、LiFePO4、MnO2、RuO2、Li含有の酸化物、Mn、Ni及び/又はCoの複合酸化物(例えば、LiMnO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn0.5Ni1.54、LiMnO4)からなる群から選ばれることが特に好ましくは、少なくとも一種の成分AがSnとGe、Si、Pb、Co34、CuO、SnO2、SnO、NiO、MoO2、TiO2、Fe34、Fe23、SiO2、ZrO2、MnO2、RuO2からなる群から選ばれる本発明のナノ粒子が、電気化学セルのアノード中での使用に、特にリチウムイオンアキュミュレータのアノード中での使用に特に好適である。内蔵する少なくとも一種の成分Aが、LiFePO4とLiを含有する酸化物、Mn、Ni及び/又はCoの複合酸化物(例えば、LiMnO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn0.5Ni1.54、LiMnO4)からなる群選ばれる本発明のナノ粒子が、電気化学セルのカソード中での使用に、特にリチウムイオンアキュミュレータのカソード中での使用に特に好適である。
【0025】
本発明によれば、このナノ粒子が単一の成分Aを含んでいてもよいが、成分Aとして使用可能な上記の金属、半金属、金属化合物、半金属化合物の2つ以上の混合物がナノ粒子中に存在していてもよい。通常、本発明のナノ粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)により求めた平均粒子径は、1〜1000ナノメーターであり、好ましくは100〜600ナノメーター、より好ましくは200〜400ナノメーターである。これらの数値は、電気化学反応(例えば、リチウムイオンの貯蔵、あるいは生産時に含まれているリチウムイオンのナノ粒子から放出)を起こす前の、製造後のグラフェン被覆ナノ粒子の粒子径である。
【0026】
本発明のナノ粒子は、通常ナノ粒子の総重量に対して60〜97重量%の少なくとも一種の成分Aを含み、好ましくは70〜97重量%、より好ましくは75〜97重量%、さらに好ましくは80〜97重量%、特に好ましくは90〜95重量%の少なくとも一種の成分Aを含む。さらに、本発明のナノ粒子は、通常ナノ粒子の総重量に対して3〜40重量%のグラフェンを皮膜とし含み、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは3〜25重量%、さらに好ましくは3〜20重量%、特に好ましくは5〜10重量%のグラフェンを皮膜として含む。
【0027】
通常、本発明のナノ粒子は、ナノ粒子の総重量に対して60〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜40重量%の皮膜としてのグラフェンを含み、好ましくは70〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜30重量%の皮膜としてのグラフェンを、より好ましくは75〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜25重量%の皮膜としてのグラフェン、さらに好ましくは80〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜20重量%の皮膜としてのグラフェン、特に好ましくは90〜95重量%の少なくとも一種の成分Aと5〜10重量%の皮膜としてのグラフェンを含む。
【0028】
本発明の好ましい実施態様においては、このナノ粒子が、ナノ粒子の総重量に対して60〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜40重量%の皮膜としてのグラフェンからなり、好ましくは70〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜30重量%の皮膜としてのグラフェン、より好ましくは75〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜25重量%の皮膜としてのグラフェン、さらに好ましくは80〜97重量%の少なくとも一種の成分Aと3〜20重量%の皮膜としてのグラフェン、特に好ましくは90〜95重量%の少なくとも一種の成分Aと5〜10重量%の皮膜としてのグラフェンとからなる。
【0029】
本発明によれば、本発明のナノ粒子は、
(a)懸濁媒体と少なくとも一種の成分Aを含む正の表面電荷をもつナノ粒子とを含む懸濁液を提供する工程、
(b)該懸濁液に酸化グラフェン粒子を添加して該酸化グラフェン粒子をナノ粒子上に集積させる工程、及び
(c)ナノ粒子上に集積した酸化グラフェン粒子をグラフェンに変換させる工程、を含む方法で製造できる。
【0030】
この少なくとも一層のグラフェン皮膜をもつナノ粒子の製造方法は、実質的に、懸濁液中で正の表面電荷を持つナノ粒子を提供し、酸化グラフェン粒子を添加することからなる。酸化グラフェン粒子はもともと負電荷を帯びており、このため、静電引力により酸化グラフェン粒子が正の表面電荷をもつナノ粒子上に集積し、酸化グラフェン被覆ナノ粒子が得られる。ナノ粒子が酸化グラフェンにより被覆あるいはカプセル化される。第二の必須の工程は、続く酸化グラフェン被覆/カプセル化ナノ粒子のグラフェンへの還元である。したがって、この方法は、金属と半金属、金属化合物、半金属化合物をグラフェンでカプセル化する方法ということができる。
【0031】
工程a)では、少なくとも一種の成分Aを含む正の表面電荷をもつナノ粒子が懸濁媒体に分散された分散液が得られる。ナノ粒子の正の表面電荷は、ナノ粒子表面の官能基による修飾及び/又は少なくとも一種のカチオン系界面活性剤のナノ粒子表面への吸着及び/又は懸濁液のpHの調整によりもたらされる。
【0032】
この懸濁媒体は、原理的には酸化グラフェンを分散可能な全ての溶媒から選ばれる。特にこの懸濁媒体を高極性のプロトン性及び非プロトン性溶媒から選ぶことができる。例えば、アルコール、水、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール、酢酸エチルなどの酢酸エステル、またN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどを、あるいはこれらの混合物を使用することができる。本発明では、この懸濁液が水性懸濁媒体を含むことが好ましい。
【0033】
ナノ粒子の正の表面電荷がナノ粒子表面の官能基での修飾によりもたらされる場合、この官能基は、正荷電の官能基や正帯電官能基の前駆体から選ばれる。これらの官能基は、アミノ基とアンモニウム基から、より好ましくはNR2とNR3+(式中、各々のRは、独立して、HとC1−C6−アルキル、C1−C6−ヒドロキシアルキルから選ばれ、また一個以上のNR2及び/又はNR3+基に一個以上のRが結合していてもよい)から選ばれることが好ましい。
【0034】
ナノ粒子表面の官能基による修飾は、当業界の熟練者には既知である。修飾に、例えば、N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンやアミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノアルキルオキシシリル化合物を使用することができる。このような方法は、例えば、B. B. Lee et al., Microporous Mesoporous Mater. 122 (2009), 160 and J.S. Bridel et al., Chem. Mater. 22 (2010) 1229に記載されている。通常まず、金属粒子と半金属粒子を、空気存在下または水中で高温下(例えば100℃)で、あるいは酸素プラズマを用いて、注意してその表面を酸化して粒子上に表面酸化物層を形成する。次いで、例えば上述のアミノアルコキシシリル化合物を用いて官能化させる(Hu Y. S. et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 1645; Li J., Polymer 2006, 47, 7361)。導入アミノ基は、pH調整により正荷電したアンモニウム基に変換できる。
【0035】
正帯電官能基の前駆体は、さらなる変換によりあるいはpH調整により正帯電官能基に変換できる。pHは、例えばHClまたはアンモニアの添加で調整できる。
【0036】
いくつかのナノ粒子、特に金属酸化物は、官能化をしなくても正の表面電荷を持つことがある。これは、懸濁液内に存在する具体的な等電点とpHによる。
【0037】
等電点より小さなpHに調整することでナノ粒子上に正の表面電荷を付与することができる。これは、例えば有機酸の添加で、あるいはHClやH2SO4などの無機酸の添加で行うことができる。
【0038】
ナノ粒子表面への少なくとも一種のカチオン系界面活性剤の吸着によりナノ粒子に正の表面電荷がもたらされる場合、本発明では、この少なくとも一種のカチオン系界面活性剤が、4級アンモニウム化合物から、より好ましくはCn2n+1N(R)3 Hal(式中、n=12、14、16あるいは18、Hal=ClあるいはBr、R=CH3あるいはC25であり、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい)からなる群から選ばれる。特に好ましいのは、セチルトリメチルアンモニウムクロライドとセチルトリメチルアンモニウムブロミドとセチルトリエチルアンモニウムブロマイドである。
【0039】
金属と半金属、金属化合物、半金属化合物のナノ粒子は、当業界の熟練者には既知の方法で製造できる。例えば溶媒中でゾルゲル法により化学的に製造できる。ナノ粒子は、表面上での自己集合によりあるいは鋳型により形成される。これらは、プラズマ中で、あるいはマイクロエマルジョン法を用いて得ることができる。一つの可能な方法が、例えば、Cao A. M. et al., J. Phys. Chem. B, 2006, 110、15858に記載されている。目的のナノ粒子の化学的性質により、ある方法が良かったり、他の方法が良かったりする。本発明の方法の工程(a)での使用前に、ナノ粒子を表面改質したり、及び/又は後処理(例えば、洗浄や乾燥)及び/又は焼成したりすることができる。
【0040】
懸濁媒体と正の表面電荷をもつナノ粒子を含む懸濁液は、懸濁媒体をナノ粒子と、必要なら一種以上のカチオン系界面活性剤と混合して製造される。その際に、例えば超音波や攪拌、振盪、当業界の熟練者には既知の他の方法を使用することができる。当業界の熟練者には既知の攪拌装置、研磨装置、分散装置、例えばウルトラタラックス(R)攪拌器や超音波照射装置などを使用することができる。
【0041】
この懸濁液は、通常、少なくとも一種の成分Aを含むナノ粒子を、懸濁液の総重量に対して好ましくは0.1〜2重量%の量で、より好ましくは少なくとも一種の成分Aを含むナノ粒子を0.5〜1重量%の量で含む。
【0042】
ナノ粒子の正の表面電荷がナノ粒子表面への少なくとも一種のカチオン系界面活性剤の吸着でもたらされる場合、通常、懸濁液の総全重量に対して0.1〜1重量%の少なくとも一種のカチオン系界面活性剤が、好ましくは0.2〜0.6重量%、より好ましくは0.2〜0.4重量%の少なくとも一種のカチオン系界面活性剤が使用される。
【0043】
本発明の方法の工程(b)では、この懸濁液に酸化グラフェン粒子が添加される。
【0044】
酸化グラフェンの製造は当業界の熟練者には公知である。酸化グラフェンは、例えば酸化グラファイトから作られ、次いで破砕(粉砕)される。酸化グラファイトと酸化グラフェンは、内部に存在する酸素官能基のため負に荷電している。このため、酸化グラファイトは、極性溶媒中で酸化グラフェンに破砕できる。例えば超音波を用いてこれを促進させることができる。酸化グラファイトは親水性である。粉砕後の酸化グラフェンはよく分散した水性懸濁液を与える。
【0045】
酸化グラファイト粒子の製造は当業界の熟練者には公知である。通常、酸化グラファイトはグラファイトを酸化して製造される。この酸化で、グラファイト中に酸素原子が取り込まれる。特にアルコール基やエポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基が生成する。これらの基は、個々の層の間の距離を広げ、これらの層が容易に相互に分離できるようになる。この酸化グラファイト層は、酸素含有基のためより親水性でより水分散性が高くなる。
【0046】
酸化グラファイトは、通常グラファイトを、酸化剤と酸、特に強酸で処理して製造される。用いる酸化剤は、特に塩素酸塩と過マンガン酸塩である。用いる酸は、特に硫酸と硝酸である。
【0047】
L Staudenmaier, Ber. Dt. Chem. Ges. 31、(1898)、1481と、L. Staudenmaier, Ber. Dt. Chem. Ges. 32, (1899), 1394には、発煙硝酸と濃硫酸の存在下でのグラファイトと塩素酸カリウムの反応による酸化グラファイト(ここでは、黒鉛酸と呼ばれている)の製造が記述されている。
【0048】
W.S. Hummers, R.E.Offeman, J. Am. Chem. Soc. 80 (1958), 1339には、硫酸存在下でのグラファイトと硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウム反応による酸化グラファイトの製造が記述されている。
【0049】
発泡性グラファイトを酸化グラファイト製造用の前駆体として使用することもできる。この場合、このグラファイトは第一の工程で発泡させられる。次いで得られた生成物を、例えばボールミル中で破砕する。上述のように、最後の工程は、熱酸化によるあるいは硫酸存在下での酸化による化学修飾である。
【0050】
通常、工程(b)で酸化グラフェンを懸濁液として、好ましくは水性懸濁媒体中の懸濁液、特に水懸濁液として添加する。
【0051】
酸化グラフェン粒子を懸濁液に添加した後での酸化グラフェン粒子の濃度は、通常、工程(b)で得られた混合物の重量に対して0.01〜0.5重量%であり、好ましくは0.02〜0.4、より好ましくは0.05〜0.25重量%である。酸化グラフェン粒子はその負電荷のため、正荷電したナノ粒子上に集積する。通常、酸化グラフェン粒子がナノ粒子の表面に集積できるように、酸化グラフェン粒子の添加後に一定の待ち時間を設ける。このために、この混合物を、例えば15分間〜2時間攪拌してもよい。
【0052】
工程(c)では、ナノ粒子上に集積した酸化グラフェン粒子がグラフェンに変換される。これは、例えば工程(b)で得られた混合物に一種以上の還元剤を添加して行われる。適当な還元剤の例としては、ヒドラジンやNaBH4などの無機還元剤や、ヒドロキノン、ジメチルヒドラジンまたはN,N−ジエチルヒドロキシルアミンなどの有機還元剤があげられる。ヒドラジンを還元剤として使用することが好ましい。
【0053】
表面に集積する酸化グラフェン粒子を熱処理でグラフェンに変換することができる。このために、集積酸化グラフェン粒子をもつナノ粒子を懸濁媒体から分離し、必要なら洗浄・乾燥し、不活性ガス雰囲気中で酸化グラフェン被覆ナノ粒子を最高600℃まで少なくとも1分間加熱してグラフェンに変換する。この被覆酸化グラフェン粒子を、少なくとも30分間、より好ましくは1時間不活性ガス雰囲気下で加熱することがより好ましい。この加熱は、通常12時間以内で、好ましくは6時間以内で行われる。温度は300℃〜500℃が好ましい。
【0054】
本発明はまた、上述の方法で製造可能な少なくとも一種の成分Aと少なくとも一層のグラフェン皮膜を含む(enthaltend:ドイツ語)ナノ粒子を提供する。
【0055】
本出願はまた、本発明のナノ粒子の、リチウムイオンを貯蔵及び/又は放出する材料での使用、例えば電気化学セル、特にリチウムイオンアキュミュレータの電極中での使用と、本発明のナノ粒子のスーパーキャパシタ中での使用を提供する。本発明のナノ粒子は、リチウムイオンを貯蔵及び/又は放出する材料として、リチウムイオンアキュミュレータとスーパーキャパシタのアノードとカソードの両方で使用可能である。成分AとしてMn、Ni及び/又はCoのLi含有酸化物や複合酸化物(例えば、LiMnO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn0.5Ni1.54、LiMnO4)及び/又はLiFeP4含むナノ粒子は、リチウムイオンアキュミュレータ中のカソード活物質として特に好適である。Sn、Ge、Si、Pb、Co34、CuO、NiO、MoO2、TiO2、SnO2、SnO、Fe34、SiO2、ZrO2、Fe23、MnO2及び/又はRuO2を成分Aとして含むナノ粒子は、リチウムイオンアキュミュレータ用のアノード活物質として特に好適である。
【0056】
本発明はまた、本発明のナノ粒子を含む、特に電極中のリチウムイオンを貯蔵及び/又は放出する材料として含む電気化学セルとスーパーキャパシタを提供する。本発明のナノ粒子をアノード及び/又はカソード中に含む、特にアノード活物質及び/又はカソード活物質としてアノード及び/又はカソード中に含む電気化学セルが好ましく、本発明のナノ粒子をアノード及び/又はカソード中に含むリチウムイオンアキュミュレータが極めて好ましい。これらの電極は、他の当業界の熟練者には既知の通常使用される成分、例えばバインダーや、カーボンブラック等の他の伝導度助剤を含んでいてもよい。
【0057】
先行技術からリチウムイオンアキュミュレータは当業界の熟練者には公知である。リチウムイオンアキュミュレータ中で用いられるカソードは、スピネル型のリチウム金属酸化物、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiFePO4またはLiMn24であることが多い。また、これらのリチウムイオンアキュミュレータは、無水の電解質、通常エチルカーボネートなどの非プロトン性溶媒、これらの溶媒の混合物と、そこに溶解したLiPF6などのリチウム塩を含むことができる。また、リチウムイオンアキュミュレータは、アノードの空間とカソードの空間とを分離しリチウムイオンを透過させる分離材を含んでいてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を、実施例を参照して説明する。
【0059】
[実施例1]:グラフェン被覆Co34ナノ粒子(発明例)
酸化コバルトは、ポリビニルピロリドン(PVP)の存在下での酢酸コバルトとエチレングリコールの反応で製造した(A. M. Cao et al., J. Phys. Chem. B. 100 (2006) page 15858)。このために、2.24gのCo(CH3COO)2−4H2Oと1.5gのmMPVP(Mw=58000)を200mlのエチレングリコールに溶解して濁った溶液を得た。この混合物をマグネチックスターラーで攪拌し、アルゴン雰囲気下で170℃まで加熱した。30分後、数回の遠心分離/エタノール分散サイクルを実施して生成物を除き、500℃で2時間焼成した。
【0060】
超音波を印加しながら、得られた酸化コバルトを200mlの乾燥トルエン中に懸濁させた。30分間後、この懸濁液に20mlのアミノプロピルトリメトキシシランを加え、混合物を還流下でアルゴン保護ガス雰囲気下で12時間加熱して、NH2−官能化酸化コバルトを得た。7.5mgの酸化グラフェン粒子の水懸濁液(0.25mg/ml)を、撹拌下で30mlのNH2−官能化酸化コバルトの水懸濁液(1mg/ml)に滴下した。1時間後に酸化グラフェンをグラフェンに還元するため1mlのヒドラジン(35重量%)を添加して、グラフェン被覆酸化コバルトを得た。
【0061】
このようにして得られたグラフェン被覆Co34ナノ粒子を、エックス線散乱と熱重量測定、電子顕微鏡で評価した。エックス線散乱では、このCo34ナノ粒子が単一のグラフェン層で覆われていることが分った。熱重量測定での分析で、ナノ粒子のCo34含量が91.5%であると測定された。電子顕微鏡では、グラフェン被覆Co34ナノ粒子の直径が約300nmであった。
【0062】
[実施例2](容量の測定)
標準的なR2032ボタンセル中で電気化学的試験を行った。実施例1のグラフェン被覆Co34ナノ粒子と、Co34と、グラフェンとCo34の機械的混合物(91.5重量%のCo34と8.5重量%のグラフェン)を用いて作用電極を製造した。このために、これらの特定の活物質を、カーボンブラックとポリフッ化ビニリデン(PVDF)に、重量比で80(活物質):10(カーボンブラック):10(PVDF)の比率で混合し、銅箔上に塗布した(99.6%、グッドフェロー)。用いた対電極はリチウム箔であった。電解質は、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)(体積比:1:1;Industries Ltd)中の1MのLiPF6溶液であった。これらのセルをアルゴンで充たされたグローブボックス中で組み立てた。
【0063】
充放電容量を74mAh/gの電流密度で測定した。最初の30回の充放電サイクルの結果を表1に示す。表2は、長期試験での実施例1の本発明のナノ粒子を含む電極の容量を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
グラファイトのみの理論容量は372mAh/gである。グラフェンの「二重層」リチウム貯蔵メカニズムによると、この理論容量は744mAh/gとなる必要がある。文献(G. Wang, et al, Carbon, 2009, 47, 2049)によると、グラフェンの容量の実測値は約500mAh/gである。本発明のグラフェン皮膜をもつCo34ナノ粒子は、したがって、アノード活物質として、グラファイトやグラフェン単独、Co34単独、本発明のナノ粒子中のCo34とグラフェンと同一比率のCo34とグラフェンの機械的混合物の容量をはるかに超える可逆的容量をもつ。
【0066】
【表2】
【0067】
本発明のグラフェン皮膜をもつCo34ナノ粒子を含む電極の容量は、130回の充放電サイクルの後でもほぼ変化することなく高レベルにある。