特許第6403963号(P6403963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAエレクトロニクス株式会社の特許一覧

特許6403963太陽電池電極用焼成型ペースト、太陽電池および銀粉
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403963
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】太陽電池電極用焼成型ペースト、太陽電池および銀粉
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20181001BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20181001BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   H01L31/04 264
   H01B1/22 A
   H01B5/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-51580(P2014-51580)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-199926(P2014-199926A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2017年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-54251(P2013-54251)
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】長原 愛子
(72)【発明者】
【氏名】野上 徳昭
(72)【発明者】
【氏名】藤野 剛聡
【審査官】 佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/046719(WO,A1)
【文献】 特開2011−100573(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/020128(WO,A1)
【文献】 特開2007−284497(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/124463(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/140197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−10/40、30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉と、ガラスフリットと、樹脂バインダーと、溶剤と、を含む太陽電池電極用焼成型ペーストにおいて、
前記太陽電池電極用焼成型ペーストに含有されるナトリウムの質量%が80ppm以上500ppm未満であり、
750℃ないし950℃での焼成用ペーストであり、
前記ガラスフリットは500℃以上の軟化点を有し、
前記銀粉に含有されるナトリウムの含有量が10ppm以上460ppm以下であることを特徴とする太陽電池電極用焼成型ペースト。
【請求項2】
800℃ないし950℃での焼成用ペーストであることを特徴とする請求項に記載の太陽電池電極用焼成型ペースト。
【請求項3】
請求項1または2に記載の太陽電池電極用焼成型ペーストの焼成物を、電極として用いていることを特徴とする太陽電池。
【請求項4】
カバーガラスと太陽電池セルとの間に、エチレンビニルアセテート樹脂製の封止材を用いていることを特徴とする請求項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の電極形成に用いられる焼成型ペースト、太陽電池および銀粉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池の大容量化のために、多数の太陽電池セルが直列に接続された太陽電池モジュール(以降、単に「モジュール」と言う。)が製造されるようになっている。このときモジュール内において直列に接続されるセルの中でも、モジュールの端に位置するセルにおいては、セル表面とモジュールのアルミフレームとの間に数百ボルトの大きな電位差が生じる。この為、当該大容量の太陽電池セルにおいては、早期劣化の問題が見られるようになった。
【0003】
上記モジュールの端に位置するセルの早期劣化の原因としては、以下のものが考えられている。
まず、セル−アルミフレーム間のリーク電流が原因として考えられる。
また、別の原因として、カバーガラス(一般的にソーダライム)とセルとの間にある封止剤であるエチレンビニルアセテート樹脂(本発明において「EVA」と記載する場合がある。)製のフィルム等が劣化し、劣化に伴う反応によってセルが劣損し、セル受光面の銀電極のマイグレーションが促進されるものとも考えられている。
また、別の原因として、10年以上の経年劣化により封止剤が剥離する現象も原因の一つではないかと推定される。
【0004】
ここで、太陽電池の電極の形成に関する技術において、上記の原因の基の一つである封止剤に着目した技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。具体的に言うと、以下の通りである。すなわち、太陽電池として一般的である結晶Si型太陽電池の電極の形成に用いられる太陽電池電極用焼成型ペースト(単に「ペースト」と記載する場合がある。)は、銀粒子などの導電性金属、ガラスフリット、樹脂バインダー、溶剤、および必要に応じて添加剤を含むものである。そして、太陽電池の製造工程において、当該ペーストを、反射防止層上に塗布し、ピーク温度800℃付近で焼成する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−238857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、太陽電池の早期劣化を抑制出来る太陽電池電極用焼成型のペースト、太陽電池および銀粉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決する手法について鋭意検討した。その結果、本発明者らは、太陽電池の早期劣化にはナトリウムの存在が影響していると考えた。この知見に基づき、ペースト中のナトリウムの存在を制御することで、劣化の抑制を図ることを見出した。
【0008】
その一方で、ペースト総体として考えればナトリウムの含有量が少ない方が好ましいと考えるのが通常の発想であった。たとえば特開2005―294254号公報が知られている。なお、当該文献には単なる導電性ペーストが記載されているのみであり、太陽電池電極用に特化したものではない。
【0009】
特開2005―294254号公報においては、150℃の低温で加熱して硬化する導電性銀ペーストにおいて、銀粉を被覆する有機物にNaは含まないことが好ましいとされている(当該公報の[0011][0031]参照)。
このように、通常の導電性ペーストにおいては、ナトリウムは少ないほど好ましいと考えられてきた。
【0010】
一方、太陽電池は通常の導電性ペーストの使用環境よりも過酷な環境下に置かれる。そして、そのような環境下でも発電量(出力)が減りにくいことが望まれる。そのような状況下で、本発明者らは、太陽電池電極用焼成型のペーストに焦点を当てて鋭意検討を行った。その結果、通常の導電性ペーストとは異なる知見を本発明者らは得た。その知見については、以下の通りである。
【0011】
太陽電池電極用焼成型のペーストに含まれる導電性金属粒子、特に銀粒子に関しては、単純にナトリウムの含有量が少ない方が好ましいわけではないという知見を得た。つまり、当該導電性金属粉(銀粉)に含まれるナトリウムの含有量には好ましい範囲があることを知見した。つまり、ペースト総体に含まれるナトリウムの含有量に関して、「導電性金属粉表面や、ガラスフリットや、樹脂バインダーや、溶剤に存在するナトリウム量(総量)」と「導電性金属粉に含有されるナトリウム量」において、好ましい範囲があることを知見したものである。
そして、上述の知見に基づいて、本発明者らが研究を行った結果、太陽電池電極用焼成型のペーストにおいては、750℃ないし950℃で焼成するのに適した焼成型ペーストを使用した上で、極めて好ましくは導電性金属粒子を銀粉とした上で、ナトリウムが特定の範囲の量で存在したほうが好ましいことを本発明者らは想到し、その結果、本発明を為したものである。
【0012】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
銀粉と、ガラスフリットと、樹脂バインダーと、溶剤と、を含み、
前記銀粉に含有されるナトリウムの含有量が1ppm以上500ppm以下であり、
750℃ないし950℃での焼成用ペーストであることを特徴とする太陽電池電極用焼成型ペーストである。
第2の発明は、
銀粉と、ガラスフリットと、樹脂バインダーと、溶剤と、を含む太陽電池電極用焼成型ペーストにおいて、
前記太陽電池電極用焼成型ペーストに含有されるナトリウムの質量%が43ppm以上500ppm未満であり、
750℃ないし950℃での焼成用ペーストであることを特徴とする太陽電池電極用焼成型ペーストである。
第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記ガラスフリットは500℃以上の軟化点を有することを特徴とする。
第4の発明は、第1または第2の発明において、
前記銀粉に含有されるナトリウムの含有量が10ppm以上460ppm以下であることを特徴とする。
第5の発明は、第1または第2の発明において、
800℃ないし950℃での焼成用ペーストであることを特徴とする。
第6の発明は、
第1から第5の発明の太陽電池電極用焼成型ペーストの焼成物を、電極として用いていることを特徴とする太陽電池である。
第7の発明は、第6の発明において、
カバーガラスと太陽電池セルとの間に、エチレンビニルアセテート樹脂製の封止材を用いていることを特徴とする。
第8の発明は、
第2の発明に記載の太陽電池電極焼成型ペースト用の銀粉であって、当該銀粉に含有されるナトリウムの質量%が10ppm以上460ppm以下であることを特徴とする銀粉である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、太陽電池の早期劣化を抑制することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、導電性金属粉と、ガラスフリットと、樹脂バインダーと、溶剤と、所望により添加剤とを含むペーストにおいて、ペースト総体としてのナトリウム濃度を低くする一方、ペースト中に含まれる金属粉(好ましくは銀粉)において、全溶解法で測定した当該金属粉に含まれるナトリウム量、すなわち、銀粉に対する、当該銀粉に含有されるナトリウムの質量%が1ppm以上500ppm以下である。また、本実施形態に係るペーストとしては、750℃ないし950℃での焼成用ペースト、より好ましくは800℃ないし950℃で焼成するのに適した焼成型ペーストを用いる。なお、本実施形態に係るペーストは、太陽電池セルの表面および裏面電極の形成に用いられる。そして、太陽電池電極用焼成型ペーストに含有されるナトリウムの質量%が43ppm以上500ppm未満であることが好ましい。高温多湿条件下での発電量の変化を少なくすることができるためである。なお、下限値として、50ppm以上が好ましく、60ppm以上であることがより好ましく、80ppm以上であることがさらに好ましい。高温多湿条件下に加えて弱酸性条件下での発電量の変化が少なく、劣化をさらに抑制できるためである。
【0015】
以下、本実施形態に係るペーストの各成分について説明する。
(1)導電性金属粉
本実施形態に係るペーストに用いられる導電性金属粉としては、電気抵抗値の観点等から銀粉が好ましいが、銀被覆銅粉や、銀被覆金属粉なども使用でき、これらを混合して使用する場合もある。以降、導電性金属粉として銀粉を用いる場合に焦点を当てる。
そして銀粉におけるナトリウム含有量は、1ppm以上500ppm以下であることが望ましく、10ppm以上460ppm以下がより好ましく、20ppm以上460ppm以下がより望ましい。
導電性金属粉(銀粉)のナトリウム含有量が1ppm以上500ppm以下であると、高温多湿条件下での発電量の変化を少なくすることができ、太陽電池セルに電圧がかかった際、銀電極のマイグレーションが起こり難く、セル性能ひいてはモジュール全体としての発電量劣化が起こり難い。そして、銀粉におけるナトリウム含有量が10ppm以上460ppm以下であると、高温多湿条件下に加えて弱酸性条件下でも発電量の変化が少なく、より太陽電池セルに電圧がかかった際の銀電極のマイグレーションが起こり難くすることができる。なお、下限値としては、20ppm以上がより望ましく、40ppm以上がさらに好ましい。弱酸性条件下での発電量の変化が少なく、劣化をさらに抑制できるためである。
【0016】
本実施形態に係る銀粉を構成する粒子の形状は、鱗片状、フレーク状、不定形状またはこれらを混合したものでもよく、特定のものに限定されないが、内部にナトリウムを含めた不純物を取り込まない製造方式で製造されたものが望ましい。内部にナトリウムを含めた不純物が取り込まれ銀粉のナトリウム含有量が500ppmを超えると、当該銀粉を含むペーストを高温焼成して電極を形成する際に、これら不純物が銀粉から外部に出てきて、太陽電池における電極の抵抗値や信頼性に悪影響を与えるからである。なお、460ppm以下ならば、弱酸性条件下での信頼性を維持することが可能となる。
【0017】
本実施形態に係るペーストにおける銀粉の配合量は、ペースト全体に対して65質量%以上95質量%以下であるのが望ましい。ペーストにおける銀粉の配合量が65質量%以上あれば、銀粉の配合量は十分にあり、焼成して得られる受光面電極の固有抵抗が上昇することが無い。一方、ペーストにおける銀粉の配合量が95質量%以下であれば、ペーストとしての印刷性が保たれ、物理的な接着強度が十分に得られるからである。
【0018】
(2)ガラスフリット
本実施形態に係るペーストは、太陽電池電極用に特化した焼成型ペーストである。太陽電池電極用とすべく、本実施形態に係るペーストを構成するものとして、ガラスフリットが用いられる。本実施形態に係るガラスフリットとしては、太陽電池に適した電極を形成すべく、上記の数値範囲の量のナトリウムが銀粉に含有されているペーストが750℃ないし950℃という比較的高温で焼成された時に、反射防止層を適度に侵食し適切に半導体基板への接着が行われ、太陽電池としての性能を確固たるものにできるガラスフリットを用いる。それに加え、モジュール化後においてもシリコン基板への元素拡散やファイヤースルーの進行などが起きないよう、500℃以上の軟化点を有するガラスフリットを用いるのが好ましい。軟化点が500℃以上あれば、モジュール化後の電極劣化が抑制され、発明の効果を十分に得ることができる。
【0019】
ガラスフリットの形状は限定されず、球状でも、不定球状でもよい。
また、本実施形態に係るペーストへのガラスフリットの配合量は、ペースト全体に対して0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。0.1質量%以上あれば十分な接着強度を得ることが出来る。10質量%以下であれば、ガラスの浮きや後工程での半田付け不良を回避出来る。なお、平均粒径D50は2μm以下が好ましい。印刷性を担保するためである。
勿論、ガラスフリットのナトリウム含量は少ないほど良く、例えば1ppm以上100ppm以下の範囲が好ましく、ペースト全体のナトリウム含量として43ppm以上500ppm未満となるように選択することが好ましい。その一方、先に挙げた「銀粉におけるナトリウム含有量の数値範囲」、および、それがもたらす効果について考慮すると、ペースト全体のナトリウム含量として80ppm以上となるように選択することがより好ましい。
【0020】
(3)樹脂バインダー
本実施形態に係るペーストに用いられる樹脂バインダーは、特に、限定されるものではないが、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、脂肪族系石油樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、キシレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリイソブチル系樹脂等を、好ましく用いることができる。
当該樹脂バインダーの配合量は、ペースト全体に対して0.1質量%以上30質量%以下であるのが好ましい。0.1質量%以上あれば、十分な接着強度を確保することができる。一方、30質量%以下であれば、ペーストの粘度が上昇し過ぎず印刷性が担保される。
勿論、樹脂バインダーのナトリウム含量は、少ないほど良く、例えば1ppm以上100ppm以下の範囲が好ましく、ペースト全体のナトリウム含量として43ppm以上500ppm未満となるように選択することが好ましい。その一方、先に挙げた「銀粉におけるナトリウム含有量の数値範囲」、および、それがもたらす効果について考慮すると、ペースト全体のナトリウム含量として80ppm以上となるように選択することがより好ましい。
【0021】
(4)溶剤
本実施形態に係るペーストに用いられる溶剤は、特に、限定されるものではないが、ヘキサン、トルエン、エチルセロソルブ、シクロヘキサノン、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、ターピネオール、メチルエチルケトン、ベンジルアルコール等を挙げることができる。
当該溶剤の配合量はペースト全体に対して1質量%以上40質量%以下であるのが好ましい。当該範囲内であると、ペーストの印刷性が担保出来るからである。
勿論、溶剤のナトリウム含量は少ないほど良く、ペースト全体のナトリウム含量として43ppm以上500ppm未満となるように選択することが好ましい。
【0022】
(5)分散剤
本実施形態に係るペーストに用いられる分散剤としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸などを配合することができる。なお、分散剤は一般的なものであれば有機酸に限定されるものではない。これら分散剤の配合量はペースト全体に対して0.05質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。0.05質量%以上であるとペーストの分散性が担保される。10質量%以下であれば受光面電極の固有抵抗値の上昇を抑制できる。
勿論、分散剤のナトリウム含量は少ないほど良く、例えば1ppm以上100ppm以下の範囲が好ましく、ペースト全体のナトリウム含量として43ppm以上500ppm未満となるように選択することが好ましい。
【0023】
(6)その他の添加剤
本実施形態に係るペーストには、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、消泡剤、粘度調整剤などの各種添加剤を、本実施形態の効果を妨げない範囲において配合することができる。
勿論、これら各種添加剤のナトリウム含量は少ないほど良く、例えば1ppm以上100ppm以下の範囲が好ましく、ペースト全体のナトリウム含量として43ppm以上500ppm未満となるように選択することが好ましい。その一方、先に挙げた「銀粉におけるナトリウム含有量の数値範囲」、および、それがもたらす効果について考慮すると、ペースト全体のナトリウム含量として80ppm以上となるように選択することがより好ましい。
【0024】
(7)焼成温度
本実施形態に係る太陽電池用電極を形成する際に本発明のペーストを焼成する焼成温度は、750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、950℃以下であることが好ましい。焼成温度が750℃以上ならば太陽電池の発電効率の劣化を起こり難くすることができ、950℃以下ならばアルミニウム粉を用いた裏面の電極層が高抵抗化するといった悪影響を抑制可能となるためである。その一方、太陽電池の変換効率が、焼成温度が750℃から800℃にかけて上昇し、800℃以上で飽和する傾向を示すことから、800℃以上とすることがより好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更や修正が可能である。
以下、実施例および比較例を挙げる。
実施例は、上記の数値範囲を含め、上記の実施形態で列挙した内容を反映させた例である。なお、先の出願の実施例番号をそのまま使用している。
比較例は、上記の実施形態で挙げた規定から逸脱した例である。
【0026】
(実施例1)
(1)導電性金属粉の調製
本実施例では、導電性金属粉として銀粉を選択した。
銀を1.1kg含む硝酸銀水溶液87.5kgに、25質量%のアンモニア水3.4kgと、33質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.1kgとを添加し、銀アンミン錯塩水溶液を得た。
この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とし、ここへ2.5質量%の含水ヒドラジン水溶液7.8kgを加えて銀粒子を析出させ、銀含有スラリーを得た。
含水ヒドラジン水溶液の添加終了後、銀の量に対して1質量%のベンゾトリアゾールを銀含有スラリー中に添加した。このようにして得られた銀含有スラリーを濾過、水洗して銀粉ケーキを得た。
当該銀粉ケーキへ、純水2kgに水酸化ナトリウムを1.3g添加した水溶液を添加した。そして、撹拌を続けた後、濾過し、濾液の電気伝導度が0.5mS/mになるまで、25℃の純水で銀粉ケーキの洗浄を行った。
当該洗浄完了後に、銀粉ケーキを乾燥し、さらに解砕して実施例1に係る球状銀粉を得た。
【0027】
(2)銀粉の評価
得られた実施例1に係る球状銀粉に含有されるナトリウムの含有量(以降、「ナトリウム濃度」とも言う。)、平均粒径、比表面積、タップ密度を測定した。当該測定結果を表1(後述)に示す。各種測定結果は、後述の表1にまとめて記載する。
ここで、球状銀粉のナトリウム濃度は全溶解法により測定した。従来技術に係る抽出法では銀粉表面のみのナトリウム量が検出される為、銀粉内部に含まれるナトリウムについては測定されない。そこで、本実施例では全溶解法によりナトリウム濃度測定を行うこととしたものである。
全溶解法は、本実施例においては、銀粉に硝酸を加えて加熱溶解し、原子吸光光度計(日立 Z−8100)により、定量分析を行った。
レーザー回折法による平均粒径は、銀粉0.3gをイソプロピルアルコール50mLに入れ、50W超音波洗浄器にて5分間分散処理後、マイクロトラック9320−X100(ハネウエル−日機装製)により測定した際のD50(累積50質量%粒径)の値である。
比表面積は、カウンタクローム社製モノソーブによりBET法で測定した。
タップ密度は、タップ密度測定装置(柴山科学製カサ比重測定装置SS−DA−2)を使用し、銀粉試料15gを計量して、容器(20mL試験管)に入れ、落差20mmで1000回タッピングし、タップ密度=試料重量(15g)/タッピング後の試料体積から算出した。
【0028】
(3)ペーストの調製
〈a〉BSF層(Back Surface Field層)と裏面集電電極形成用のペースト
アルミニウム粉末と、エチルセルロース(樹脂バインダ)と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(溶剤)と、Bi−B−ZnO系ガラスフリットとを三本ロールミルで混合することによりペースト状にしたBSF層と裏面集電電極形成用のペースト(市販品)を用いた。
【0029】
〈b〉裏面バスバー電極形成用のペースト
銀粉末と、アルミニウム粉末と、エチルセルロース(有機バインダ)と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(溶剤)と、Bi−B系ガラスフリットとを三本ロールミルで混合することによりペースト状にした裏面バスバー電極形成用のペースト(市販品)を用いた。
【0030】
〈c〉表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用のペースト
実施例に係る球状銀粉86重量部と、軟化点が530℃のBa系ガラスフリット1重量部と、エチルセルロース1重量部(樹脂バインダー)と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート11重量部(溶剤)と、ステアリン酸0.5重量部(分散剤)と、ステアリン酸マグネシウム1重量部と、二酸化テルル2重量部とを配合したものを三本ロールミルで混合することによりペースト状にし、さらに、後記するスクリーン印刷時のペースト粘度が約300Pa・sとなるように、上記有機溶剤を適宜添加して調整した。
【0031】
(4)ペーストの印刷
外形が156mm×156mmの大きさで、表面にn型拡散層が形成され、さらに、n型拡散層の上にSiNxの反射防止層が形成されたp型多結晶シリコンウエハを準備した。
当該シリコンウエハの裏面全面に、上記(2)〈a〉のペーストをスクリーン印刷により塗布し、その塗布されたペーストの上に、(2)〈b〉のペーストをスクリーン印刷により塗布し、150℃で5分間乾燥を行った後、自然放冷により室温まで冷却した。
次に、冷却後の半導体ウエハの表面側に、(2)〈c〉で調製したペーストをスクリーン印刷により塗布し、150℃で5分間乾燥を行った後、自然放冷により室温まで冷却した。
そして、実施例1に係るペースト中のナトリウム濃度を測定した。
【0032】
(5)セルの焼成
以上のように作製した半導体ウエハを高速焼成炉に挿入して、800℃の焼成温度で1分間焼成した。
【0033】
(6)配線およびバスバー付け
以上のように焼成した太陽電池セルの表面電極と銅配線とをはんだ付け接続した。次に、リードタブの付いたセルを直線配置し、リードタブと隣接セルの裏面電極とを、はんだ付けにより直列接続した。さらに、複数のセル列を併設し、バスバーによりストリング配線をはんだ付け接続し、配線およびバスバーが付けられたセル列を製造した。
【0034】
(7)ラミネートおよび端子ボックス、アルミ枠取付け
バックカバー、配線およびバスバーが付けられたセル列、セル列を挟む2枚のエチレンビニルアセテート樹脂(EVA)フィルム、ガラスを重ね合わせ、真空脱気しながら加熱し、EVAを溶融させ、基材をラミネートした後、端子ボックスおよびアルミ枠を取付け、太陽電池モジュールを作製した。
【0035】
(8)第1の特性評価
作製した太陽電池モジュールを、85℃、Rh85%条件の恒温恒湿槽内に装填し、1000Vを印加した状態で360時間保持した。そして、当該保持前後における太陽電池出力に対する出力保持率を測定した。
【0036】
(9)ペースト中のNa含有量の評価
ペースト1gを硝酸10mlで加熱溶解し、溶けなかった固形物(ガラスフリット)がある場合はこれを濾別し、溶液に対して原子吸光光度計によりNaの定量分析を行う。濾別後の固形物は別途、フッ化水素酸など適切な試薬を用いて溶解し、原子吸光光度計によりNaの定量分析を行い、溶液のNa含有量と固形物のNa含有量から、ペーストのNa含有量を求めれば良い。
【0037】
(実施例2)
実施例1で説明した「(1)導電性金属粉の調製」において、25℃の純水による銀粉ケーキの洗浄を、濾液の電気伝導度が133mS/mになるまで行った以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る銀粉を得た。
得られた実施例2に係る球状銀粉のナトリウム濃度、平均粒径、比表面積、タップ密度を実施例1と同様に測定した。
さらに実施例2に係る銀粉を用いて、実施例1と同様に実施例2に係るペーストを調製した。そして、実施例1に係るペースト中のナトリウム濃度を測定した。当該測定値を表1に示す。
次に、実施例1と同様に、実施例2に係るペーストを用いて太陽電池モジュールを作製し、特性評価を行った。
【0038】
(実施例3)
実施例1で説明した「(1)導電性金属粉の調製」において、25℃の純水による銀粉ケーキの洗浄を、濾液の電気伝導度が318mS/mになるまで行った以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る銀粉を得た。
得られた実施例3に係る球状銀粉のナトリウム濃度、平均粒径、比表面積、タップ密度を実施例1と同様に測定した。当該測定結果を表1に示す。
さらに実施例3に係る銀粉を用いて、実施例1と同様に実施例3に係るペーストを調製した。そして、実施例3に係るペースト中のナトリウム濃度を測定した。当該測定値を表1に示す。
次に、実施例1と同様に、実施例3に係るペーストを用いて太陽電池モジュールを作製し、特性評価を行った。
【0039】
上記の各種測定結果および各実施例における評価結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
(比較例1)
市販の太陽電池電極用焼成型ペーストを準備し、比較例1に係るペーストとした。「ペースト総体におけるナトリウム濃度」は、実施例1より少ない40ppmであった。銀粉にはナトリウムがほとんど含まれていない可能性がある。
次に、実施例1と同様に、比較例1に係るペーストを用いて太陽電池モジュールを作製し、特性評価を行ったところ出力を失っていた。
【0041】
表1より、特性試験後における太陽電池モジュールの出力保持率は、実施例において保たれ、実施例2〜3に係るペーストを用いて作製した太陽電池モジュールにおいて、高く保たれていることが判明した。さらに、市販のペーストを用いて作製した比較例1に係る太陽電池モジュールでは、特性試験後において出力を失っていたことを考えると、実施例に係るペーストは太陽電池の早期劣化を十分に抑制出来る太陽電池電極用焼成型のペーストであると考えられる。
【0042】
以下においては、本実施例の有効性をさらに示すべく、比較例2〜3を行った。
【0043】
(比較例2)
実施例1で説明した「(1)導電性金属粉の調製」において、25℃の純水による銀粉ケーキの洗浄を、濾液の電気伝導度が2360mS/mになるまで行った以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る銀粉を得た。
得られた比較例2に係る球状銀粉のナトリウム濃度、平均粒径、比表面積、タップ密度を実施例1と同様に測定した。当該測定結果を表2(後述)に示す。比較例2および3に関する各種測定結果は、後述の表2にまとめて記載する。
さらに比較例2に係る銀粉を用いて、実施例1と同様に比較例2に係るペーストを調製した。そして、比較例2に係るペースト中のナトリウム濃度を測定した。
次に、実施例1と同様に、比較例2に係るペーストを用いて太陽電池モジュールを作製し、特性評価を行った。
【0044】
(比較例3)
実施例1において、軟化点が530℃のBa系ガラスフリットを、軟化点が340℃のガラスフリットに変えた以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るペーストを用いて太陽電池モジュールを作製し、特性評価を行った。
【0045】
(9)第2の特性評価
上記の比較例2〜3に加え、先に行った実施例1および実施例2〜3において作製した太陽電池モジュールを、4%酢酸水溶液に浸漬し、1000Vを印加した状態で360時間保持した。そして、17時間後と、67時間後における当該初期出力に対する出力保持率を測定した。比較例2〜3の結果と、第2の特性評価も含めた特性評価の結果を表2に示す。なお、この弱酸性条件下の耐久試験では、実施例1は参考例とする。
【0046】
【表2】
【0047】
表2より、特性試験後における太陽電池モジュールの出力変化率は、実施例2〜3に係るペーストを用いて作製した太陽電池モジュールにおいて、参考例および比較例2〜3よりも高く保たれていることが判明した。