特許第6404028号(P6404028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6404028多孔質ポリイミド膜の製造方法、セパレータの製造方法、及びワニス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404028
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】多孔質ポリイミド膜の製造方法、セパレータの製造方法、及びワニス
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20181001BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20181001BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20181001BHJP
   H01M 8/02 20160101ALN20181001BHJP
【FI】
   C08J9/26CFG
   H01M2/16 P
   !H01M8/10
   !H01M8/02
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-160397(P2014-160397)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-52107(P2015-52107A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2017年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-165406(P2013-165406)
(32)【優先日】2013年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 司
【審査官】 弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−107144(JP,A)
【文献】 特開2006−272839(JP,A)
【文献】 特開2012−069592(JP,A)
【文献】 特開2013−064122(JP,A)
【文献】 特開平11−021369(JP,A)
【文献】 特開2010−229345(JP,A)
【文献】 特開昭57−170936(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084368(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/074587(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
H01M 2/16
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸又はポリイミド、微粒子及び溶剤を含有するワニスを基板上に塗布後、乾燥して成膜する、未焼成複合膜の成膜工程と、
前記未焼成複合膜を基板より剥離する剥離工程と、
前記剥離工程後の未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜とする焼成工程と、
前記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、
を有し、
前記成膜工程において前記ワニスを前記基板上に塗布する前に、前記基板上に予め離型層を設ける工程を有さない、多孔質ポリイミド膜の製造方法であって、
前記溶剤が、大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤(S)であり、
前記高沸点溶剤(S1)がラクトン系極性溶剤を含む多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶剤(S)中の前記高沸点溶剤(S1)の含有量が5〜80質量%である、請求項1に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項3】
多孔質ポリイミド膜を含むセパレータの製造方法であって、請求項1又は2に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法により前記多孔質ポリイミド膜を製造することを含む、セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法に用いられる、ポリアミド酸又はポリイミド、微粒子及び溶剤を含有するワニスであって、前記溶剤が、大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤(S)であり、前記高沸点溶剤(S1)がラクトン系極性溶剤を含むワニス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリイミド膜の製造方法、多孔質ポリイミド膜、多孔質ポリイミド膜からなるセパレータ、及びワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
高容量、高電圧、及び高エネルギー密度の達成が可能な電池として、従来より、様々な有機電解液二次電池が知られている。特に、近年、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担うリチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)が広く用いられている。
【0003】
これらのリチウムイオン電池においては、炭酸エチレン等の有機溶媒及びヘキサフルオロリン酸リチウム等のリチウム塩が電解質として使用され、また、対向配置される正極と負極との間には、両極間のイオンの流通が可能な多孔性高分子からなるセパレータが配置される。ここで、セパレータに用いられる材質としては、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等の、ポリオレフィン系材料からなるフィルムが主に使用されていた。
【0004】
これらのセパレータに対しては、安全性の面から高耐熱性が、電池の軽量化及び省スペース化の観点から薄膜化が求められている。しかしながら、上記ポリオレフィン系材料からなるフィルムは、耐熱性に劣るだけではなく、必要とされる強度を保持しつつ薄膜化することが難しいという問題があった。そのため、電池中で引火等の不都合が生じるおそれがあった。
【0005】
これに対して、芳香族ポリイミドからなる多孔性フィルムは、実質的に融点を有さずに耐熱性が高いこと、ポリオレフィン系材料からなるものと比較して、剛性が高く、また薄くても十分な強度等を有するために薄膜化が可能であること等の利点から、多くの検討が行われてきた(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211136号公報
【特許文献2】特開2000−044719号公報
【特許文献3】特開2012−107144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記芳香族ポリイミドからなる多孔性フィルムは、成膜の条件によっては、シワやそりを発生する場合があった。シワを有するポリイミド膜をセパレータとして電極と積層すると、シワの部分に不必要な空間が形成されてしまう等の問題を生じる。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、シワを発生することなく、十分な強度を有する多孔質ポリイミド膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリアミド酸又はポリイミド、及び微粒子を特定の沸点を有する溶剤を含有するワニスを用いることで、多孔質ポリイミド膜の成膜性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の第一の態様は、ポリアミド酸又はポリイミド、微粒子及び溶剤を含有するワニスを基板上に塗布後、乾燥して成膜する、未焼成複合膜の成膜工程と、上記未焼成複合膜を基板より剥離する剥離工程と、上記剥離工程後の未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜とする焼成工程と、上記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を有する多孔質ポリイミド膜の製造方法であって、上記溶剤が、大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤(S)であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の方法で製造される多孔質ポリイミド膜である。
【0012】
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様の多孔質ポリイミド膜からなるセパレータである。
【0013】
本発明の第四の態様は、本発明の第一の態様の方法に用いられる、ポリアミド酸又はポリイミド、微粒子及び溶剤を含有するワニスであって、上記溶剤の大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤(S)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、シワを発生することなく、十分な強度を有する多孔質ポリイミド膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の多孔質ポリイミド膜の膜強度に対するワニス溶剤の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
本発明の多孔質ポリイミド膜の製造方法は、ポリアミド酸又はポリイミド、微粒子及び溶剤を含有するワニスを基板上に塗布後、乾燥して成膜する、未焼成複合膜の成膜工程と、上記未焼成複合膜を基板より剥離する剥離工程と、上記剥離工程後の未焼成複合膜を焼成してポリイミド−微粒子複合膜とする焼成工程と、上記ポリイミド−微粒子複合膜から微粒子を取り除く微粒子除去工程と、を有する多孔質ポリイミド膜の製造方法であって、上記溶剤が、大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤(S)であることを特徴とする。
【0018】
[ワニスの製造]
ワニスの製造は、予め微粒子が分散した溶剤とポリアミド酸又はポリイミドを任意の比率で混合するか、微粒子を予め分散した溶剤中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、更にイミド化してポリイミドとすることでおこなう。最終的に、その粘度を300〜1500cPとすることが好ましく、400〜700cPの範囲がより好ましい。ワニスの粘度がこの範囲内であれば、均一に成膜をすることが可能である。
【0019】
上記ワニスには、微粒子を、焼成してポリイミド−微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミドの比率が1〜3.5(質量比)となるように樹脂微粒子とポリアミド酸又はポリイミドとを混合でき、微粒子/ポリイミドの比率は1.2〜3(質量比)であることが好ましい。ポリイミド−微粒子複合膜とした際に微粒子/ポリイミドの体積比率が1.5〜4.5となるように、微粒子とポリアミド酸又はポリイミドとを混合するとよい。また、微粒子/ポリイミドの比率を1.8〜3(体積比)とすることが更に好ましい。微粒子/ポリイミドの質量比又は体積比が下限値以上であれば、セパレータとして適切な密度の孔を得ることができ、上限値以下であれば、粘度の増加や膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜をすることができる。なお、本明細書において、体積%及び体積比は、25℃における値である。
【0020】
<溶剤>
本発明の多孔質ポリイミド膜の製造方法で使用する溶剤は、大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)及びその他の溶媒を含有する混合溶剤(S)である。
【0021】
高沸点溶剤(S1)としては、大気圧における沸点が190℃以上である以外に、ポリアミド酸又はポリイミドを溶解するものであれば、特に限定されることなく公知のものが使用できる。
【0022】
上記高沸点溶剤(S1)の沸点は190℃以上が好ましく、沸点が200℃以上であることが更に好ましい。また、高沸点溶剤(S1)の沸点は250℃以下が好ましく、その沸点が230℃以下であることが更に好ましい。高沸点溶剤(S1)の沸点が190℃以上であれば、成膜した未焼成複合膜にシワがよらず問題がない。また、上記高沸点溶剤(S1)の沸点が250℃以下であれば、未焼成複合膜のプリベークの条件を作業性の良い範囲で設定可能となる。
【0023】
このような高沸点溶剤(S1)の例としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン等の含窒素極性溶剤;γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、δ―バレロラクトン、γ―カプロラクトン、ε―カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ピロリドンフェノール、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノール、カテコール等のフェノール系溶媒;ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒を挙げることができる。これらのうち1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
これらのうちでも、含窒素極性溶剤及び/又はラクトン系極性溶剤を用いることが好ましく、これらのうちの1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の混合溶剤(S)には、上記の高沸点溶剤(S1)に加え、沸点が190℃未満の溶剤(S2)を含有する。ここで用いられる溶剤としては、大気圧における沸点が190℃未満である以外に、高沸点溶剤(S1)と相溶しポリアミド酸又はポリイミドを溶解するものであれば、特に限定されることなく公知のものが使用できる。
【0026】
上記溶剤(S2)の沸点は190℃未満が好ましく、沸点が170℃未満であることが更に好ましい。また、溶剤(S2)の沸点は60℃以上が好ましく、その沸点が80℃以上であることが更に好ましい。上記溶剤(S2)の沸点が190℃未満であれば、未焼成複合膜のプリベークの条件を作業性の良い範囲で設定可能となる。また、溶剤(S2)の沸点が60℃以上であれば、ワニス中の溶剤の揮発が抑えられて作業環境上の問題を改善できる。
【0027】
このような溶剤(S2)の例としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア、N−ビニル−2−ピロリドン等の含窒素極性溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類を挙げることができる。これらのうち1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
混合溶剤(S)における高沸点溶剤(S1)と沸点が190℃未満の溶剤(S2)の含有比率は特に限定されず、広い範囲のものを使用することができる。混合溶剤(S)中、高沸点溶剤(S1)を5〜80質量%とすることが好ましい。7〜70質量%とすることが更に好ましく、高沸点溶剤(S1)を10〜60質量%とすることが最も好ましい。高沸点溶剤(S1)が5質量%以上で含有されれば、多孔質ポリイミド膜の成膜性や膜物性に問題がなく、S1が80質量%以下であれば支障なく塗工及びプリベーク工程を行うことができる。
【0029】
ワニス中の全成分のうち、混合溶剤(S)の含有量は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜85質量%となる量である。ワニスにおける固形分濃度が好ましくは5〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%となる量である。
【0030】
<微粒子>
本発明で用いられる微粒子の材質は、ワニスに使用する上記の有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものなら、特に限定されること無く使用することができる。例えば、無機材料としては、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)等の金属酸化物、有機材料としては、高分子量オレフィン(ポリプロピレン,ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル等の有機高分子微粒子(樹脂微粒子)が挙げられる。
【0031】
多孔質ポリイミド膜の製造の際使用することが好ましいのは、無機材料ではコロイダルシリカ等のシリカを挙げることができる。なかでも単分散球状シリカ粒子を選択することが、均一で微小な孔を形成するためには好ましい。
【0032】
本発明で用いられる樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーから、目的に応じ特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーであり、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。いずれも、加熱時に、単量体、低分子量体、あるいは、COまで分解することによって、ポリイミド膜から除去可能である。使用される樹脂微粒子の分解温度は200〜320℃であることが好ましく、230〜260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミドの焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃未満であれば、ポリイミドに熱的なダメージを与えることなく樹脂微粒子のみを消失させることができる。
【0033】
これら解重合性ポリマーのうち、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)、あるいはこれを主成分とする共重合ポリマーが孔形成時の取り扱い上好ましい。
【0034】
本発明で用いられる微粒子は、真球率が高く、また、粒径分布指数の小さいものが好ましい。これらの条件を備えた微粒子は、ワニス中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態で使用することができる。使用する微粒子の粒径(平均直径)としては、例えば、100〜2000nmのものを用いることができる。これらの条件を満たすことで、微粒子を取り除いて得られる多孔質膜の孔径を揃えることができるため、特にセパレータとして使用した場合に、印加される電界を均一化でき好ましい。
【0035】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスに用いる微粒子(B1)と第二のワニスに用いる微粒子(B2)とは、同じものを用いてもよいし、互いに異なったものを用いてもよい。基材に接する側の孔をより稠密にするには、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。また、(B1)の微粒子は、(B2)の微粒子よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、(B1)が100〜1000nm(より好ましくは100〜600nm)、(B2)が500〜2000nm(より好ましくは700〜2000nm)のものを用いることが好ましい。(B1)の微粒子の粒径に(B2)より小さいものを用いることで、得られる多孔質ポリイミド膜表面の孔の開口割合を高く均一にすることができ、且つ、多孔質ポリイミド膜全体を(B1)の微粒子の粒径とした場合よりも膜の強度を高めることができる。
【0036】
<ポリアミド酸>
本発明に用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50〜1.50モル用いるのが好ましく、0.60〜1.30モル用いるのがより好ましく、0.70〜1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0037】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0038】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは二種以上混合して用いることもできる。
【0039】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。このジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0040】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2〜10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0041】
フェニレンジアミンはm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等である。
【0042】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0043】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1〜6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0044】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ぺンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0045】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0046】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0047】
ジアミノナフタレンの例としては、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0048】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンを挙げることができる。
【0049】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0050】
カルド型フルオレンジアミン誘導体の例としては、9,9−ビスアニリンフルオレン等を挙げることができる。
【0051】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2〜15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0053】
本発明で使用されるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0054】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤を用いることが好ましい。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5〜50質量%とするのが望ましい。
【0055】
重合温度は一般的には−10〜120℃、好ましくは5〜30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3〜24Hr(時間)である。また、このような条件下で得られるポリアミド酸溶液の固有粘度は、好ましくは1000〜100000cP(センチポアズ)、より一層好ましくは5000〜70000cPの範囲である。
【0056】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、本発明のワニスに使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0057】
有機溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2−メチルー1,4−フェニレンジアミン、o−トリジン、m−トリジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−オキシジフタル酸無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、有機溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0058】
本発明で用いられる、有機溶剤に溶解可能なポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させ、有機溶剤に溶解させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミドを溶媒に溶解したものでよい。式中Arはアリール基を示す。
【化1】
【化2】
【0059】
また、後述の製造方法において、未焼成複合膜を2層状の未焼成複合膜として形成する場合、第一のワニスにおけるポリアミド酸又はポリイミド(A1)と微粒子(B1)との体積比を19:81〜45:65とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に65以上であれば、粒子が均一に分散し、また、81以内であれば粒子同士が凝集することもなく分散するため、ポリイミド膜の基板側面に孔を均一に形成することができる。また、第二のワニスにおける、ポリアミド酸又はポリイミド(A2)と微粒子(B2)との体積比を20:80〜50:50とすることが好ましい。微粒子体積が全体を100とした場合に50以上であれば、粒子単体が均一に分散し、また、80以内であれば粒子同士が凝集することもなく、また、表面にひび割れ等が生じることもないため、安定して電気特性の良好な多孔質ポリイミド膜を形成することができる。
【0060】
上記の体積比については、第二のワニスは、上記第一のワニスよりも微粒子含有比率の低いものであることが好ましく、上記条件を満たすことにより、微粒子がポリアミド酸又はポリイミド中に高度に充填されていても、未焼成複合膜、ポリイミド−微粒子複合膜、及び多孔質ポリイミド膜の強度や柔軟性を担保することができる。また、微粒子含有比率の低い層を設けることで、膜製造コストの低減を図ることができる。
【0061】
上記した成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化等を目的とし、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤等、適宜、公知の成分を、適宜必要に応じてワニスに含有させることができる。
【0062】
また、ワニス中の微粒子を均一に分散することを目的に、上記微粒子とともに更に分散剤を添加してもよい。分散剤を添加することにより、ポリアミド酸又はポリイミドと微粒子とを一層均一に混合できるため、表裏面を効率よく連通させることが可能となり、多孔ポリイミド膜又はその多孔質ポリイミド膜からなるセパレータの透気度が向上する。
【0063】
本発明で用いられる分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを使用することができる。例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキサイド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテル等、ポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテルのノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド等のその他のポリオキアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0064】
[未焼成複合膜の製造]
・未焼成複合膜の成膜工程
ポリアミド酸又はポリイミドと微粒子とを含有する未焼成複合膜の成膜は、基板上へ上記のワニスを塗布し、常圧又は真空下で50〜100℃で行う。これをプリベークという。なお、基板上には必要に応じて離型層を設けてもよい。プリベークの条件は、好ましくは常圧下60〜95℃、より好ましくは常圧下65〜90℃で行う。プリベークの温度条件が50℃以上であれば、溶剤が30分以内で蒸発するために作業性に支障がなく、100℃以下であれば最終製品の膜強度が十分となるので好ましい。
【0065】
また、2層状の未焼成複合膜として形成する場合、まず、ガラス基板等の基板上にそのまま、上記第一のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0〜100℃(好ましくは0〜90℃)、より好ましくは常圧10〜100℃(更に好ましくは10〜90℃)で乾燥して、膜厚1〜5μmの第一未焼成複合膜の形成を行う。
【0066】
続いて、形成した第一未焼成複合膜上に、上記第二のワニスを塗布し、同様にして、0〜80℃(好ましくは0〜50℃)、より好ましくは常圧10〜80℃(更に好ましくは10〜30℃)で乾燥を行い、膜厚5〜30μmの第二未焼成複合膜の形成を行い、2層状の未焼成複合膜を得る。
【0067】
・未焼成複合膜を基板より剥離する剥離工程
未焼成複合膜を成膜した後、未焼成複合膜を基板より剥離する。剥離方法は、特に限定されず、マニピュレータ等を用いて自動的に行ってもよいし、手作業によってもよい。
【0068】
本発明に係るワニスは大気圧における沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤(S)を含み、未焼成複合膜(又は2層状の未焼成複合膜、以下同様)の成膜性、性に優れるため、基板上予め離型層を設ける工程や離型剤を用いた場合の離型剤洗浄工程を省くことができ、シワの発生も抑制できる。
【0069】
[ポリイミド−微粒子複合膜の製造(ポストべーク工程)]
上記成膜・剥離工程後の未焼成複合膜に加熱による後処理(ポストべーク)を行ってポリイミドと微粒子とからなる複合膜(ポリイミド−微粒子複合膜)とすることができる。このポストベーク工程においてはイミド化を完結させることが好ましい。
【0070】
ポストベーク温度は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミドの構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120〜375℃が好ましく、更に好ましくは150〜350℃である。
【0071】
焼成を行うには、例えば、375℃で焼成を行う場合、室温〜375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な乾燥−熱イミド化法を用いることもできる。特に段階的な昇温によってポストベークを行うことが、膜強度を向上するうえでより好ましい。また、ポストベークの際、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐ方法を採ってもよい。
【0072】
できあがったポリイミド−微粒子複合膜の膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。どのような平均膜厚が好ましいかは、ポリイミド−微粒子複合膜又は多孔質ポリイミド膜の用途によって異なるが、例えば、セパレータ等に使用する場合は、5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることが更に好ましい。
【0073】
[微粒子除去工程(ポリイミド−微粒子複合膜の多孔化)]
ポリイミド−微粒子複合膜から、微粒子を適切な方法を選択して除去することにより、微細孔を有する多孔質ポリイミド膜を再現性よく製造することができる。例えば、微粒子として、シリカを採用した場合、ポリイミド−微粒子複合膜を低濃度のフッ化水素水(HF)等によりシリカを溶解除去することで、多孔質とすることが可能である。また、微粒子が樹脂微粒子の場合は、上述のような樹脂微粒子の熱分解温度以上で、ポリイミドの熱分解温度未満の温度に加熱し、樹脂微粒子を分解させてこれを取り除くことができる。
【0074】
[多孔質ポリイミド膜の用途]
本発明の製造方法で作製した多孔質ポリイミド膜は、リチウムイオン電池のセパレータのほか、燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として使用することが可能である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例1及び2は参考例と読み替えるものとする。
【0076】
実施例及び比較例では、以下に示すポリアミド酸、有機溶剤、及び微粒子を用いた。実施例・比較例に用いたワニス中における全有機溶剤の割合は特に記載がなければすべて70質量%となるように調整した。
・ポリアミド酸:テトラカルボン酸二無水物としてのピロメリット酸二無水物と、ジアミンとしての4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの反応物
・有機溶剤:N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc:沸点166℃)
N,N,N’,N’−テトラメチルウレア(TMU:沸点177℃)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP:沸点202℃)
γ―ブチロラクトン(GBL:沸点204℃)
・微粒子 :シリカ(1):700nmシリカ
シリカ(2):200nmシリカ
・分散剤 :ポリオキシエチレン二級アルキルエーテル系分散剤
【0077】
<実施例1>
[ワニスの調製]
ポリアミド酸13.25gと混合溶剤とを調整しポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液に、微粒子(シリカ(1))を、53g添加し撹拌してワニスを調製した。
【0078】
ここで、高沸点溶剤(S1)としてNMPを、その他の溶剤(S2)としてDMAcをそれぞれ選択し、DMAc:NMP=60:40で混合して混合溶剤とした。
【0079】
<実施例2>
ワニス調製の際、高沸点溶剤(S1)としてGBLを使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2とした。
【0080】
<比較例1>
ワニス調製の際、混合溶剤を使用せず、DMAcのみを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例1とした。
【0081】
<比較例2>
ワニス調製の際、混合溶剤として、DMAc:TMU=60:40で混合したものを使用した以外は、実施例1と同様にして比較例2とした。
【0082】
[未焼成複合膜の成膜及び剥離性の評価]
上記各ワニスを、離型剤を塗布したガラス板にアプリケーターを用いて成膜した。表1に示す条件でプリベークして、膜厚25μmの未焼成複合膜を製造した。基材から未焼成複合膜を剥離して乾燥を行った。またこのときの剥離性を以下の基準で評価し、表1に示した。なお比較例2は
◎・・・自然に基材から剥がれる
○・・・基材から引っ張ると剥がれる
△・・・基材から剥がす際一部が切れる
【0083】
[未焼成複合膜の成膜性の評価]
上記で得た未焼成複合膜のプリベーク条件と特性を表1に示す。乾燥した未焼成複合膜の概観を以下の評価基準で評価し、表1に示した。
◎・・・全くシワが見られない、
○・・・端部にわずかなヨレがあるがシワはない
△・・・少数のシワがみられる
×・・・シワが多数見られる
【0084】
【表1】
【0085】
表1から明らかなように、沸点が190℃以上の高沸点溶剤を含有する混合溶剤をワニスに用いて成膜した場合は、シワ等の発生がみられず均一で良好な膜を得ることができた。また実施例1、2は剥離性も良好であった。
【0086】
[未焼成複合膜のイミド化]
70℃でプリベークを行った、上記実施例1、2及び比較例1、2の未焼成複合膜に対し更に320℃で15分間加熱処理(ポストべーク)を施し、イミド化を完結させた。
【0087】
[多孔質ポリイミド膜の形成]
上記で得たポリイミド−微粒子複合膜を、10%HF溶液中に10分間浸漬することで、膜中に含まれる微粒子を除去した後水洗及び乾燥を行い、多孔質ポリイミド膜を得た。
【0088】
[多孔質ポリイミド膜の強度評価]
上で得た多孔質ポリイミド膜から、10mm×50mmである短冊状の試験片を切り出し、引張試験機((株)A&D製)を用い、引張速度2mm/分、チャック間距離20mmの条件で引張強度を測定した。図1にその結果を示す。
【0089】
図1から、沸点が190℃以上の高沸点溶剤(S1)を含有する混合溶剤を用いて製造した実施例1、2の多孔質ポリイミド膜の膜強度は、高沸点溶剤(S1)を用いない従来の製造方法で成膜した比較例1、2と比べても劣ることのないことを確認した。
【0090】
<2層の多孔質ポリイミド膜の評価>
[ワニスの調製−1]
前記[ワニスの調製]にて、使用する混合溶媒の混合比率を表2の質量比とした他、シリカ(1)のかわりにシリカ(2)を75gとして、各ワニス(第一のワニス)を調整した。なお、前記ポリアミド酸溶液におけるポリアミド酸とシリカ(2)との体積比は22:78(質量比は15:85)である。
【0091】
[ワニスの調製−2]
前記[ワニスの調製]にて、使用する混合溶媒の混合比率を表2の質量比として各ワニス(第二のワニス)を調整した。なお、前記ポリアミド酸溶液におけるポリアミド酸とシリカ(1)との体積比は28:72(質量比は20:80)である。
【0092】
[ポリイミド−微粒子複合膜の成膜]
上記の第一のワニスを、ガラス板にアプリケーターを用いて成膜した後、70度1分間でベーク処理をし、膜厚約2μmの第一の未焼成膜を得た。なお、1層目は薄く基板への収縮応力が弱いので、自然と剥離することはない。
【0093】
続いて、第二のワニスを、前記第一の未焼成膜上にアプリケーターを用いて成膜した後、70℃で5分間プリベークして、全体の膜厚が約25μmの2層状の未焼成複合膜を形成した。得られた2層状の未焼成複合膜について、前記と同様の基準で剥離性及び成膜性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2から明らかなように、沸点が190℃以上の高沸点溶剤を含有する混合溶剤をワニスに用いて成膜した場合は、2層状の未焼成複合膜とした場合も、シワ等の発生がみられず均一で良好な膜を得ることができた。また実施例4〜9は剥離性も良好であった。
【0096】
<分散剤含有多孔質ポリイミド膜の評価>
<実施例10>
実施例5における第二のワニスを使用し、PETフィルム上にアプリケーターを用いて成膜した以外は、実施例1と同様にして単層の多孔質ポリイミド膜を得た。
<実施例11>
更に、含有されるシリカに対し、0.5質量%の分散剤をワニスに添加した以外は、実施例10と同様にして単層の多孔質ポリイミド膜を得た。
【0097】
実施例10及び11の成膜性、剥離性及び下記ガーレー透気度の評価をおこなった。その結果を表3に示す。
<透気度の評価>
・[ガーレー透気度]
実施例10及び11の多孔質ポリイミド膜に対して、厚さ約25μmのサンプルを、5cm角に切り出した。ガーレー式デンソメーター(東洋精機製)を用いて、JIS P 8117に準じて、100mlの空気が上記サンプルを通過する時間を測定した。
【0098】
【表3】
【0099】
実施例10及び実施例11のポリイミド−微粒子複合膜は、いずれも、成膜性や剥離性について良好であり、分散剤の有無による違いは見られなかった。他方、両多孔質ポリイミド膜の透気度は、実施例11の多孔質ポリイミド膜の方が実施例10の多孔質ポリイミド膜よりも小さい値を示した。これは、ワニス中のシリカ微粒子が、分散剤の働きにより高度に分散されたために、そのワニスを使用して成膜したポリイミド−微粒子複合膜中のシリカが均一に分散し、最終的に得られる多孔質ポリイミド膜の表裏両面の連通性を向上したことを示している。
図1