【実施例】
【0013】
本発明の基本原理を明確にするため、本実施例では、レーシングカー等のリアウイングに取り付け、高速走行時のダウンフォースを増強するいわゆるガーニーフラップの機能を代替させるものとして、DBD−PAを装着した。
【0014】
まず、ガーニーフラップの基本原理を説明する。
図1は、リアウイング1にガーニーフラップ2を取り付けた場合のダウンフォース増強効果を示すものである。
【0015】
図1(a)に示すように、リアウイング1は、下面が空気流が高速な負圧面、上面が空気流が低速な正圧面となり、レーシングカーが高速走行した際、ダウンフォースを発生させ、車体の安定と、タイヤ接地圧の増強を図るものである。
ガーニーフラップ2は、
図1(b)に示すように、リアウイング1上面(正圧面)の後縁に、直立するよう取り付けられ、リアウイング1上面(正圧面)を流れる空気流がこれに衝突してリアウイングの表面に向けて巻き込まれ、リアウイング1上面(正圧面)を流れる空気流の主流に逆行するよう方向転回させる。
これにより、リアウイング1上面(正圧面)を流れる空気流の主流と衝突し、その速度を低減させ、形成された速度低下領域により、リアウイング上面に作用する圧力を増大させ、ダウンフォースを高めることができる。
【0016】
本実施例では、
図2に示すように、
図1に示すガーニーフラップを代替するものとして、DBD−PAをリアウイングの正圧面(上面)の後縁側に装着した。リアウイングは、ガラス繊維強化プラスティック等の絶縁材料で成型されたものである。
DBD−PAの裏面電極3は、リアウイング1の後縁付近に形成した凹部に埋め込み、絶縁シート4を介して、裏面電極3より後縁側に偏位して表面電極5を貼付し、リアウイングの表面が平滑面を維持するよう、フラッシュマウントを行う。
この裏面電極と表面電極に所定の周波数、電圧の交流を印加することにより、表面電極の前縁から、リアウイングの表面に沿う空気流と正対向する逆行する誘起ジェットを発生させる。
なお、リアウイング1が絶縁材料で成形されたものではない場合には、リアウイング1の後縁付近に形成した凹部に絶縁材シートを貼付するなど、裏面電極3に対する絶縁処理を行う必要がある。
【0017】
これにより、リアウイングの表面に沿う空気流が誘起ジェットと衝突し、その領域で、空気流が部分的に剥離し、電極付近に渦が発生することにより、正圧面における空気流速度が弱められ、リアウイングの表面の正圧分布が変化する。これにより、ガーニーフラップと同様にダウンフォースを高めることができる。
【0018】
本実施例の効果を検証するため、3Dプリンタで造形した翼弦長C=50mm、翼幅S=120mmのNACA0015型翼型模型の後縁部に、DBD−PAを設置し、翼周りの流れ制御を行った。
【0019】
実験設備は、
図3に示すとおりであり、NACA0015翼型模型を前縁から25%(x/c=0.25)に位置する軸を介してひずみゲージ式3軸分力計に固定し、アクリル製の風洞試験部に設置する。
3軸分力計の信号は動ひずみ測定器により1Nが1Vに変換され出力され、出力された信号はオシロスコープを用い、1kHzのサンプリングレートで10秒間記録した。
なお、風洞は出口寸法200mm×200mmの吹出型風洞を使用し、主流速度(10m/s)及び翼弦長を代表速度・長さとするレイノルズ数をRe=3.3×10
4に設定する。
【0020】
DBD−PAの表裏電極は、100μm厚のポリイミド絶縁層の両面に35μm厚の銅箔が圧延接着された積層板を両面位置合わせ、エッチングすることで形成されている。
図2(b)に示すように、主流に対して逆方向に、x/c=0.9の位置からジェットが誘起されるように配置する。その際、高周波高圧電源(PSI、PG1040F)を使用し、DBD−PAの表裏電極間にV
P-P=5.0kVの交流電圧を周波数FP=8.7kHzで印加した場合、最大流速(U
MAX)がU
MAX≒0.9mm/sのジェットが誘起された。
【0021】
この状態で、流れ場においてジェットを誘起した場合の揚力及び抗力の変化を解析する。
同様に、
図1(c)に示す高さh=1.5mm(h/c=0.03)のガーニーフラップがモデリングされたNACA0015翼型模型の空力特性との比較実験を行った。その際、双方のNACA0015翼型模型を1°から5°の刻み幅で迎角αを変化させ、揚力係数と抗力係数の計測を行った。
【0022】
図3(b)に示すDBD−PAが設置されたNACA0015における稼働時(PLASMA ON)・非稼働時(PLASMA OFF)と、
図3(c)に示すガーニーフラップ付NACA0015翼の揚抗力の計測により得られた揚力係数及び抗力係数を
図4に示す。
【0023】
図4(a)に示す揚力の比較から、DBD−PAによる制御ありの場合には、迎角αが、−10°≦α≦11°において、制御なしと比較して揚力が増加していることが確認できる。
しかし、α≧9°では迎角αの増加に伴って制御ありのときの揚力増加率は減少しており、α≧12°では、制御なしの揚力係数とほぼ同じになる。
制御ありの条件で揚力向上効果が失われる迎角はRe=3.3×10
4における翼の失速角とほぼ一致していることがPIVによる空間速度分布計測から確認されている。このため、剥離流れが生じている場合には、DBD−PAを稼働させても揚力向上効果が得られない可能性を示している。
【0024】
また、
図4(b)の結果から分かるように、DBD−PA稼働時の抗力係数は非稼働時と比較して−10°≦α≦10°で増加傾向にあるが、揚力向上効果と比較した場合にはその差は僅かであることがわかる。
さらに、DBD−PA稼働時と
図3(c)のh/c=0.03の高さを有するガーニーフラップの揚力係数を比較すると、−10°≦α≦5°では同程度の揚力向上効果を示すが、α>5°ではガーニーフラップの方が高い揚力向上効果を示している。
一方、ガーニーフラップ付NACA0024の抗力係数についてはα>5°でDBD−PA非稼働時(ガーニーフラップなしNACA0024)と比較して明らかに増加している。
したがって装着する機器の流体力学的特性に応じて、DBD−PAの稼働、非稼働、そして、印加する高周波高圧電源の電圧、周波数を、発生する空気流の速度や方向に応じて最適に制御する制御装置を設けることが好ましい。
【0025】
ガーニーフラップ付NACA0024は、翼後縁から正圧面側に垂直に曲げられたL字構造であり、ダウンフォースが必要ない場合には形状抵抗が増加するという問題がある。
これに対し、DBD−PA付NACA0015は、フラッシュマウント化しているため、車速等に応じてDBD−PAを作動を制御することで、揚力が向上しない条件では、非稼働とすることで、高迎角時の抗力増加を避けることができる。このため、風車などの実際のターボ機械への適用を想定した場合は、DBD−PAによる主流と逆方向へのジェット吹き出しがガーニーフラップより優れていることが分かる。
【0026】
図5に、PIVにより解析された各条件におけるα=8°におけるNACA0015周りの空間速度分布を示す。
本条件下では、DBD−PA稼働時及びガーニーフラップ付NACA0015の双方で揚力向上効果を確認することができる。
【0027】
一方、
図5(a)のDBD−PAと、
図5(b)のDBD−PA稼働時の空間速度分布の比較からは、DBD−PA稼働時に電極近傍で僅かに低速領域が増加していることが確認できる。
また、正圧面側に形成される渦構造の結果、仮想的な翼形状の変形から形状抵抗が増加し、その結果として抗力係数が増加したと推察される。なお、高迎角で抗力係数がDBD−PA非稼働時と同程度であるのは、迎角を増やすことで正圧面の圧力が増加し、DBD−PAから誘起されるジェットによる剥離が抑制されたものと推測することができる。
【0028】
実施例では、本発明の原理を説明するため、ガーニーフラップの機能を代替させるため、リアウイングの正圧面における圧力分布を変化させ、ダウンフォースを制御する例を示した。しかし、DBD−PA自体は、可能な限りフラッシュマウント化することで空力特性に与える影響が少なく、揚力制御が必要な場合のみ作動させることができる。
このため、一般的な自動車やトラック、航空機、風力発電等、運転状態に応じて最適な揚力を必要とする機器に広く採用することができる。
【0029】
また、実施例では、ガーニーフラップの正圧面における圧力分布が変化させ、ダウンフォースを高めること、すなわち、リアウイングを翼とみたとき、その正圧面の圧力分布が変化させ、揚力を増大させる例を示した。しかし、これに限らず、翼の負圧面においても、後縁側にも、正圧面と同様にDBD−PAを装着することで、負圧面の圧力分布を変化させ、負圧面に作用する圧力を増大させることで結果として揚力を低減することもできる。
【0030】
このため、例えば、高速走行する列車のパンタグラフの負圧面にDBD−PAを装着することで、高速走行時、パンタグラフに作用する揚力を低減し、架線に対する接触圧の異常上昇を防止することもできる。
そのほか、運転状態に応じて、揚力を増大させたり、減少させることが好ましい場合には、正圧面と負圧面の双方にDBD−PAを装着することで、運転状態に応じて揚力を最適値に制御することが可能となる。
【0031】
さらに、実施例では、リアウイングの表面に沿う空気流と正対向する誘起ジェットを発生させているが、圧力分布に対する影響は、表面形状や流速などにより異なるため、誘起ジェットを空気流と正対向させるだけなく、斜めに噴出させた方がより効果が得られる場合がある。このため、DBD−PAによる誘起ジェットは、少なくとも表面に沿う空気流に対し逆行するベクトル成分を備えていればよい。
【0032】
そのほか、DBD−PAによる誘起ジェットの流速、レイノルズ数、さらに、電極設置位置を変化させることで、翼表面近傍の流れや揚力・抗力に与える影響が変化するため、搭載する機器に発生する空気流、その運転状態に応じて、複数箇所にDBD−PAを設置し、作動させるDBD−PAを選択し、誘起ジェットの流速、レイノルズ数を制御するなど様々な態様を採用することができる。
【0033】
また、DBD−PAとして、100μm厚のポリイミド絶縁層に表裏電極を形成したものを採用しているが、表面を絶縁材料で被覆された細線からなるDBD−PAを、翼表面に形成した凹部に挿入し、フラッシュマウントしてもよい。