特許第6404144号(P6404144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6404144可視光応答性組成物とこれを用いた光電極、光触媒、光センサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404144
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】可視光応答性組成物とこれを用いた光電極、光触媒、光センサー
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20181001BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20181001BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20181001BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20181001BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20181001BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J23/78 M
   C01B3/04 A
   H01G9/20 111A
   H01G9/20 101
   H01G9/20 317
   C01G53/00 A
   H01G9/20 111C
   C09K3/00 U
   C09K3/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-36947(P2015-36947)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-159183(P2016-159183A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】草間 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】ワン ニイニイ
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103372436(CN,A)
【文献】 特開平09−248465(JP,A)
【文献】 特開昭62−074452(JP,A)
【文献】 特開2010−046604(JP,A)
【文献】 特開2000−273436(JP,A)
【文献】 特開2007−273463(JP,A)
【文献】 特開2010−274187(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0155218(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca、Fe、Ni、酸素からなる組成物であって、Ca、Fe、Niの合計を100%としたときの元素含有比(モル比)が、Ca:10〜40%、Fe:10〜20%、Ni:50〜80%の範囲内にあることを特徴とする可視光応答性組成物。
【請求項2】
Ca、Fe、Ni、酸素からなる組成物であって、Ca、Fe、Niの合計を100%としたときの元素含有比(モル比)が、Ca:10〜50%、Fe:10〜20%、Ni:40〜80%の範囲内にある可視光応答性組成物をもって構成されていることを特徴とする光電極。
【請求項3】
Ca、Fe、Ni、酸素からなる組成物であって、Ca、Fe、Niの合計を100%としたときの元素含有比(モル比)が、Ca:10〜50%、Fe:10〜20%、Ni:40〜80%の範囲内にある可視光応答性組成物をもって構成されていることを特徴とする光触媒。
【請求項4】
Ca、Fe、Ni、酸素からなる組成物であって、Ca、Fe、Niの合計を100%としたときの元素含有比(モル比)が、Ca:10〜50%、Fe:10〜20%、Ni:40〜80%の範囲内にある可視光応答性組成物をもって構成されていることを特徴とする光センサー。
【請求項5】
請求項2に記載の光電極を用いる太陽電池。
【請求項6】
請求項2に記載の光電極及び/又は請求項3に記載の光触媒による水分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答性の組成物とこれを用いた光電極・光触媒・光センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光エネルギーを利用するための光電極、これを用いる太陽電池(例えば、非特許文献1)、太陽光により環境汚染物質を分解除去する光触媒、両者を用いる水の分解反応による水素製造、及び光を定量的に測定するための光電変換素子型の光センサーが注目されており、それらの材料として様々な半導体の研究開発が行われている。酸化チタンは、その代表的なものであり、実用的に最も多く用いられている。
しかし、この酸化チタンはバンドギャップが大きいため、太陽光の大部分を占める可視光領域に吸収性がなく、太陽光を有効に利用することができない。また、酸化チタンは吸収性のある紫外光領域が極めて弱い室内光や自動車の車内光では機能しない。
このための対策として、新たに利用可能な可視光応答性組成物を開発するため、酸化チタン等の既存の組成物に他の元素を微量ドープするなどの改良研究や全く新規な可視光応答性組成物を探索する研究が行われている(例えば、非特許文献2、3)。
しかしながら、様々な元素を異なった割合で含む組成物の組み合わせの数は膨大なため、新規な組成物を合成しその可視光応答性を評価するには多くの時間と労力が必要であり、その研究開発は、これまであまり進展していなかった。
そこで、本発明者らは、多種類の元素を様々な比率で含む組成物の薄膜自動合成装置と、その薄膜の光照射に対する光電流応答性の自動評価装置を新たに開発し、可視光応答性を有し、光電極や光触媒、及び光センサー材料として有望な新規な組成物の高速探索研究を進めてきている(特許文献1)。本発明者らは、その過程でFe−Zr系やFe−Ti系の組成について着目し、研究開発を進め、Feが20%から80%、Zrが20%から50%、Tiが0%から30%の範囲にある可視光応答性複合酸化物(特許文献2)、Feが50%から85%、Zrが8%から48%、M(Al、Zn、In、Sn、Ta)が0.01%から29%の範囲にある可視光応答性複合酸化物(特許文献3)、Feが87%から90%、Tiが9%から10%、M(Si、Ba、Y)が0.1%から3%の範囲にある可視光応答性複合酸化物(特許文献4)、Feが85%から97%、Tiが1%から10%、M(La、Sr)が0.1%から7%の範囲にある可視光応答性複合酸化物(特許文献5)、Feが81%から90%、Tiが9%から10%、M(Ca、Bi)が0.1%から10%の範囲にある可視光応答性複合酸化物(特許文献6)、Feが89%から92%、Tiが1%から10%、Znが0.1%から10%の範囲にある可視光応答性複合酸化物(特許文献7)を見いだした。
しかしながら、Fe−Zr系やFe−Ti系以外の組成のものについては、未だ研究開発はあまり進展していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−300812号公報
【特許文献2】特開2009−73708号公報
【特許文献3】特開2010−264351号公報
【特許文献4】特開2010−277823号公報
【特許文献5】特開2010−274186号公報
【特許文献6】特開2010−274187号公報
【特許文献7】特開2010−275145号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature Photonics、第9巻、1号、61〜67頁 (2015)
【非特許文献2】「光触媒標準研究法」、東京図書、2005年1月
【非特許文献3】Chemistry of Materials、第20巻、12号、3803〜3805頁 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような背景から、本発明は、発明者らによるこれまでの検討をさらに発展させて、従来全く検討されてこなかった系の組成物についても幅広く検討を進め、可視光照射に対して光電流応答性を有し、光電極材料・光触媒材料・光センサー材料となり得る新規な組成物と、これにより構成される新しい光電極・光触媒・光センサー、この光電極を用いた新しい太陽電池、及び、これら光電極・光触媒による新しい水分解方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、上記した特許文献1に記載の装置を用いて新規な可視光応答性組成物を探索研究した結果、可視光照射に対しても光電流応答性を示す、光電極・光触媒・光センサーの材料となる新規な組成物を知見し、本発明を完成するに至った。酸素以外の3種類以上元素の特定の比率において非常に効果が大きいことを見いだしたものであり、手動での探索では、ほぼ見つからなかった特殊な組成物である。
【0007】
すなわち、この本発明は以下のことを特徴としている。
(1)Ca、Fe、Ni、酸素からなる組成物であって、Ca、Fe、Niの合計を100%としたときの元素含有比(モル比)が、Ca:10〜50%、Fe:10〜20%、Ni:40〜80%の範囲内にあることを特徴とする可視光応答性組成物。
(2)上記(1)に記載の可視光応答性組成物をもって構成されている光電極。
(3)上記(1)に記載の可視光応答性組成物をもって構成されている光触媒。
(4)上記(1)に記載の可視光応答性組成物をもって構成されている光センサー。
(5)上記(2)に記載の光電極を用いる太陽電池。
(6)上記(2)に記載の光電極及び/又は上記(3)に記載の光触媒による水分解方法。
【0008】
本発明は、次のような態様とすることもできる。
(7)元素含有比(モル比)が、Ca:10〜40%、Fe:10〜20%、Ni:50〜80%である上記(1)に記載の可視光応答性組成物。
(8)粒状体、薄膜、焼結体、又は、積層体である上記(1)又は(7)に記載の可視光応答性組成物。
(9)基板上又は基材上に形成されたものである上記(1)、(7)、又は、(8)に記載の可視光応答性組成物。
(10)熱分解法、焼結法、又は、気相成膜法により形成されたものである上記(1)、(7)〜(9)のいずれか1項に記載の可視光応答性組成物。
(11)上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の可視光応答性組成物をもって構成されている光電極。
(12)上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の可視光応答性組成物をもって構成されている光触媒。
(13)上記(7)〜(10)のいずれか1項に記載の可視光応答性組成物をもって構成されている光センサー。
(14)上記(11)に記載の光電極を用いた太陽電池。
(15)上記(11)に記載の光電極及び/又は上記(12)に記載の光触媒による水分解方法。
【発明の効果】
【0009】
光電流は光電極材料として用いたときの性能を示すものであり、また光触媒が機能するための電荷分離の度合を示している。本発明の組成物は可視光照射によって電荷分離を生じて光電流を発生させることから、可視光応答性光電極や可視光応答性光触媒の材料として用いることができる。これらを用いて水を還元し水素を発生させ、光エネルギーを水素に変換することができる。また、特定の波長域のみの光センサーとして、可視光域にのみ分光感度を有する光センサーの材料を提供することができる。さらに、この可視光応答性光電極を用いて、可視光領域で高感度な太陽電池を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の可視光応答性組成物は、Ca、Fe、Ni、酸素の4元素を必須のものとして含むものである。ここで、Ca、Fe、Niの合計を100%としたときの元素含有比(モル比)が、Ca:10〜50%、Fe:10〜20%、Ni:40〜80%の範囲内にある。好ましくは、Ca:10〜40%、Fe:10〜20%、Ni:50〜80%である。本発明の可視光応答性組成物は、基本的には、上記4元素からなるが、可視光応答性を大幅に低下させない限度において、他の元素の含有を排除しようとするものではない。また、他の元素を含有している場合でも、他の元素は、含有比からは除外し、合計に加算しない。
【0011】
本発明の組成物を用いて光電極を構成すると、上記した元素の含有比(モル比)の範囲において、可視光照射によって電荷分離を生じて大きな光電流が発生する。
【0012】
本発明の組成物は、熱分解法や混合粉末の焼結法、電着法あるいはスパッタリング等のような気相成膜法等の各種の方法により製造可能とされるが、なかでも、熱分解法で作製することが好ましい。例えば、薄膜形状に作製する場合(塗布熱分解法)については詳細を実施例において説明する。この熱分解法では、それぞれの元素を含む溶液(場合によってはコロイド溶液や懸濁液など)を良く混合して原料液を調製し、それを焼成することで組成物を作製する。熱分解法には、元素含有比(モル比)の正確な制御ができる、溶液で混合するので均一な組成物を作製できる、薄膜形状にする場合(塗布熱分解法)は塗布と焼成を繰り返して積層することで精密なものが作製できる等の利点がある。本発明に用いる熱分解法は、それぞれの元素を含む液を混合して焼成する方法ならばよく、ゾルゲル法、錯体重合法、有機金属分解法等も挙げることができる。溶液粘度や薄膜の多孔性を制御するためにポリエチレングリコールやエチルセルロース等ポリマーや有機物を溶液に添加しても良い。
【0013】
本発明の組成物は、均一組成の複合酸化物でも良いし、ドーピング化合物でも良い。また、複数の化合物が混合した状態で存在していても良い。
酸素や空気中で焼成して本組成物を合成すれば、通常は最も安定な組成の酸化物になるが、雰囲気ガスを制御して酸化物以外の組成物を合成しても良い。例えば、NH3やH2S、CH4ガスを流しながら合成すれば、N、S、Cを一部含んだ組成物を合成できる。
光電極や光センサーとして利用する場合は、本発明の組成物を導電性基板上に固定する。例えば、導電性ガラスや金属等の耐熱性の導電性基板上に各元素を含んだ溶液を塗布して熱分解法で成膜する。
【0014】
本組成物は、光電極として用いる場合は、基板に強く接合し且つ多孔質であることが望ましい。また、光触媒として用いる場合は比較的高い表面積で且つ結晶性が高いことが望ましい。
【0015】
そして、本発明によれば、上記の組成物を用いての光電極、光触媒及び光センサーが提供されることになる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0017】
(実施例1〜6、比較例1〜10)
組成物薄膜の自動合成装置(特許文献1)を用いて塗布熱分解法によりCa−Fe−Niの3元系薄膜ライブラリーを合成した。この薄膜ライブラリーは、それぞれの元素の含有比が異なった組成物の薄膜を一枚の導電性ガラス基板上に間隔を置いて作製したものである。元素の含有量は表1のように変化させた。
【0018】
塗布する原料溶液は、シンメトリックス社製のCa、Fe、Niの有機錯体溶液をモル濃度が0.2Mとなるように酢酸ブチルで希釈し、それらの体積比を変えて混合することによりそれぞれの含有量のモル比を調整した。それらの溶液には増粘剤として10重量%のエチルセルロースの酢酸ブチル溶液を体積比で等量加えて混合した。
導電性ガラス基板にそれぞれの溶液を所定の位置に塗布し焼成することを4回繰り返して積層膜を合成した。焼成は空気中550℃で0.5時間、その後昇温し700℃にて0.5時間行った。これらを「実施例1〜6、比較例1〜10」とした。
【0019】
組成物の可視光応答性は光電流を測定して評価した。光電流は組成物の電荷分離能力や可視光反応性を示す尺度であり、大きいほど性能が高い。作製した組成物の薄膜ライブラリーを、水酸化ナトリウムでpH7.0に調整した0.1Mのリン酸二水素ナトリウム溶液中に入れ、420nmより短波長をカットするフィルターを装着した300WのXeランプを直径1mmのホールスリットを通して3.2mWで照射しながら、−0.1V(vs.Ag/AgCl)おいて光電流を測定した。対極には白金を用いており、その上では電流値に対応した水素が発生する。表1に光電流の測定結果を示した。
なお、酸化チタンについても、本発明の実施例と同様に薄膜ライブラリーを合成して光電流を測定したが、光電流はほとんど生じなかった(0μA)。
【0020】
【表1】
【0021】
表1から明らかなように、Ca、Feと、第3の成分としてNiとを選択し、その組成をCa:10〜50%、Fe:10〜20%、Ni:40〜80%とした場合は、比較例に比べ顕著に大きな光電流の値を示し、その全ての例において、酸化チタンをはるかに上回る可視光応答性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の組成物により、光電極を構成すると可視光の吸収利用が促進され、太陽電池や水の分解による水素製造のような光電極による太陽光のより効率的な利用が可能になる。また、建物の室内や自動車内のように紫外光が弱い場所においても、本発明の組成物により構成する光触媒によって室内光や車内光を用いて環境汚染物質の除去や消臭、抗菌、抗ウィルス、抗カビ、防汚、防曇等を可能にする。さらに、可視光域の光にのみ反応する光センサーの材料を提供することが出来る。