(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよびバナジウムから選択される少なくとも3つの異なる遷移金属の、少なくとも1種の遷移金属混合水酸化物または遷移金属混合炭酸塩と、
(B)Ba、Al、ZrまたはTiの、少なくとも1種のフッ化物、酸化物または水酸化物と
を含む球状粒子であって、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)中の遷移金属は、主に+2酸化状態にあり、
フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)は、ドメインの形態で球状粒子の外側シェル内に少なくとも75%存在し、かつ、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)により、少なくとも90%封入されている、球状粒子。
遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)中の、1種以上の遷移金属が、少なくとも部分的に+3または+4酸化状態で存在する、請求項1に記載の球状粒子。
不均一組成であり、ニッケル、コバルトおよびマンガンの組成の平均標準偏差が、それぞれの場合において最大10モル%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の球状粒子。
フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)の割合が、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)に対して0.3質量%から5質量%の範囲内である、請求項1から8のいずれか一項に記載の球状粒子。
リチウム含有遷移金属混合酸化物を生成するための方法であって、請求項1から9のいずれか一項に記載の球状粒子を、少なくとも1種のリチウム化合物と混合する工程と、それらを500℃から1000℃の範囲内の温度で互いに反応させる工程とを含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態において、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)中の全ての遷移金属が、+2酸化状態にある。
【0026】
本発明の一実施形態において、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)中のマンガンの1〜40モル%は+4酸化状態にあり、マンガンの残りは+2酸化状態にある。
【0027】
本発明の一実施形態において、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)中のコバルトの1〜40モル%は+3酸化状態にあり、コバルトの残りは+2酸化状態にある。好ましくは、ニッケルは、+2酸化状態のみである。
【0028】
本発明の粒子は、(B)本発明に関連してフッ化物(B)、酸化物(B)または水酸化物(B)とも呼ばれる、Ba、Al、ZrまたはTiの少なくとも1種のフッ化物、酸化物または水酸化物をさらに含む。フッ化物(B)の例は、AlF
3、BaF
2、ZrF
4およびTiF
4である。酸化物(B)の例は、BaO、Al
2O
3、ZrO
2およびTiO
2、ならびにさらにBaTiO
3およびBaZrO
3である。水酸化物の例は、定義された式を有するもの、例えばBa(OH)
2だけでなく、Al
2O
3aq、TiO
2aqおよびZrO
2aq等の水含有酸化物、ならびに塩基性水酸化物、例えばAlOOHである。好ましい酸化物(B)または水酸化物(B)は、BaTiO
3、Al
2O
3およびTiO
2から選択される。
【0029】
本発明の粒子において、フッ化物(B)および/または酸化物(B)および/または水酸化物(B)は、ドメインの形態で球状粒子の外側シェル内に少なくとも75%の程度まで、好ましくは少なくとも90%の程度まで、より好ましくは完全に存在し、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)により、少なくとも90%まで封入されている。
【0030】
ドメインは、フッ化物(B)、酸化物(B)または水酸化物(B)の含量が、当該粒子の残りの部分よりも少なくとも20モル%高い、本発明の粒子の領域を意味するように理解される。本発明の特定の実施形態において、フッ化物(B)、酸化物(B)または水酸化物(B)のみが、ドメイン内に存在する。
【0031】
25%以下、好ましくは最大10%、より好ましくは測定不可能な割合のフッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)が、本発明の粒子のコア内に局在している。
【0032】
ドメインは、10nmから最大1μmの範囲内の直径を有してもよく、また球状、卵型または不規則形状を有してもよい。ドメインは、結晶または非晶質構造を有してもよい。
【0033】
ドメインに関連して、「遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)により、少なくとも90%の程度まで封入されている」は、当該フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)の少なくとも90%が、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)により封入されており、フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)の10%以下が、本発明の当該粒子の最外表面にあることを意味するように理解される。
【0034】
本発明の粒子のコアおよび外側シェルは、異なる直径を有してもよい。コアの直径は、好ましくは、本発明の当該粒子の少なくとも50%を含むべきである。本発明の好ましい実施形態において、外側シェルは、それぞれの粒子の直径に対して、1%から15%の平均厚さを有する。
【0035】
ドメイン、その組成およびその厚さは、例えば、電子顕微鏡観察、例えば走査型電子顕微鏡法により決定され得る。
【0036】
本発明の一実施形態において、フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)の割合は、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)に対して0.3質量%から5質量%の範囲内である。
【0037】
本発明の一実施形態において、遷移金属混合水酸化物(A)は、一般式(I)
Ni
aCo
bMn
cM
dO
e(OH)
f (I)
(式中、符号(変数)はそれぞれ以下のように定義され:
Mは、Mgならびに/またはFe、CrおよびVから選択される1種もしくは複数種の遷移金属であり、
aは、0.1から0.8、好ましくは0.5から0.65の範囲内であり、
bは、0.07から0.4、好ましくは0.15から0.25の範囲内であり、
cは、0.07から0.6、好ましくは0.15から0.25の範囲内であり、
dは、ゼロから0.2、好ましくは0.05までの範囲内であり、
a+b+c+d=1であり、
eは、0.05から0.5、好ましくは0.4までの範囲内であり、
fは、0.5から1.9の範囲内、好ましくは少なくとも1.2であり、
Ni、CoおよびMnの平均酸化状態は、2.1から3.2の範囲内である)に対応する。
【0038】
Ni、CoおよびMnの平均酸化状態は、本発明の当該粒子における全ての遷移金属にわたり平均化された酸化状態を意味するように理解される。
【0039】
例えば、e=0.5およびf=1.5の場合、Ni、CoおよびMnの平均酸化状態は2.5であり、e=0.5およびf=1.9の場合、Ni、CoおよびMnの平均酸化状態は2.9である。
【0040】
本発明の一実施形態において、遷移金属混合炭酸塩(A)は、一般式(II)
Ni
a’Co
b’Mn
c’M
d’O
e’(OH)
j(CO
3)
h (II)
(式中、変数はそれぞれ以下のように定義され:
Mは、Mg、ならびに/またはFe、CrおよびVから選択される1種もしくは複数種の遷移金属であり、
a’は、0.1から0.5、好ましくは0.2から0.3の範囲内であり、
b’は、ゼロから0.3、好ましくはゼロから0.15の範囲内であり、
c’は、0.1から0.75、好ましくは0.45から0.75の範囲内であり、
d’は、ゼロから0.2、好ましくはゼロから0.05の範囲内であり、
a’+b’+c’+d’=1であり、
e’は、ゼロから0.6の範囲内であり、
hは、0.4から1の範囲内であり、
jは、ゼロから0.3の範囲内である)に対応する。
【0041】
本発明の一実施形態において、本発明の粒子は、遷移金属ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、バナジウムおよび鉄に関して均一な組成のものであり、これは、当該粒子の断面にわたり、相対的組成に変化がないことを意味する。本発明の別の実施形態において、試料の本発明の粒子は、不均一組成のものであり、この場合、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、バナジウムおよび鉄の組成、好ましくはニッケル、コバルトおよびマンガンの組成の平均標準偏差は、それぞれの場合において最大10モル%である。特定の実施形態において、本発明の粒子は、不均一組成のものであり、粒子は一方で不均一組成である一次粒子からなり、この場合、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、バナジウムおよび鉄の組成、好ましくはニッケル、コバルトおよびマンガンの組成の平均標準偏差は、それぞれの場合において最大10モル%であるが、試料の様々な粒子は、本質的に同一の組成のものであってもよい。
【0042】
本発明は、さらに、本発明に関連して本発明の生成方法とも呼ばれる、本発明の粒子を生成するための方法を提供する。
【0043】
本発明の一実施形態において、手順は、以下の通りである:
(a)最初に、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)の粒子が生成され、
(b)フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)、またはBa、Al、ZrもしくはTiの塩および任意に水溶性フッ化物を含む溶液が、工程(a)による粒子と、工程(a)とは異なる時点または場所で接触され、
(c)さらなる遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が、工程(c)の間に生成され、このようにして得られる遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が、工程(b)からの粒子と組み合わされ、
工程(b)および(c)は、同時に、または連続的に実行されてもよい。
【0044】
工程(b)において、フッ化物(B)もしくは酸化物(B)もしくは水酸化物(B)から進行させることが可能であり、または、フッ化物(B)もしくは酸化物(B)もしくは水酸化物(B)はin situで生成される。
【0045】
工程(b)における接触により、フッ化物(B)または酸化物(B)または水酸化物(B)は、工程(a)による粒子に適用される。
【0046】
Ba、Al、ZrもしくはTiの水溶性塩または任意に水溶性フッ化物を含む溶液が使用される実施形態において、溶液の種類は、Ba、Al、ZrおよびTiの水酸化物、酸化物およびフッ化物から選択される水不溶性化合物が、工程(b)の反応条件下で少なくとも部分的に沈殿するように選択される。これらの水不溶性化合物は、工程(b)の反応条件下で、工程(a)による粒子上で分離する。
【0047】
本発明の粒子は、バッチ式または連続的手順で生成され得る。水溶液からの沈殿により、本発明の粒子を生成することが好ましい。
【0049】
本発明の粒子をバッチ式に生成することが望ましい場合、手順は、例えば、具体的には本発明の粒子よりも小さい平均直径を有する粒子の形態で、まず遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)を撹拌容器内で生成することであってもよい(工程(a))。このようにして形成された粒子は、一般に、懸濁液として得られる。次いで、酸化物(B)、フッ化物(B)または水酸化物(B)の粒子が、このようにして形成された懸濁液に添加され、またはチタン、ジルコニウム、バリウムもしくはアルミニウムの可溶性化合物が添加され、任意に、さらなる沈殿試薬、例えば水溶性フッ化物が添加される(工程(b))。同時に、またはその後に、例えば遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)をさらに沈殿させる、または再び沈殿させることにより、さらなる遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が生成される(工程(c))。
【0050】
具体的には、例えば以下のように進行させることが可能である。撹拌容器内で、例えばハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩としてのニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよびバナジウムから選択される少なくとも3つの異なる遷移金属の塩の水溶液が、少なくとも1種の沈殿試薬、例えば少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩または炭酸アンモニウムと組み合わされ、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が沈殿される(工程(a))。その後、フッ化物(B)、水酸化物(B)または酸化物(B)が、粒子の形態で、または懸濁液の形態で添加され(工程(b))、さらに、当該遷移金属、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよび/またはバナジウムのハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩の水溶液、ならびにさらなる沈殿試薬が添加される(工程(c))。
【0051】
別の特定の実施形態において、以下のように進行させることが可能である。撹拌容器内で、例えばハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩としてのニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよびバナジウムから選択される少なくとも3つの異なる遷移金属の塩の水溶液が、少なくとも1種の沈殿試薬、例えば少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩または炭酸アンモニウムと組み合わされ、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が沈殿される(工程(a))。その後、チタン、ジルコニウム、バリウムまたはアルミニウムの可溶性化合物が添加され、任意に、水溶性フッ化物、例えばフッ化ナトリウムまたはフッ化アンモニウムが添加される(工程(b))。同時に、またはその後、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよびバナジウムから選択される遷移金属の塩のさらなる水溶液、ならびにさらなる沈殿試薬が添加される(工程(c))。
【0052】
フッ化物(B)、水酸化物(B)または酸化物(B)を沈殿させるために可溶性バリウム化合物が使用される実施形態において、遷移金属の可溶性塩は、硫酸塩から選択されない。
【0053】
Mgとして定義されるMも含む遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)を生成することが望ましい実施形態において、少なくとも1種のマグネシウム化合物、好ましくは水溶性マグネシウム化合物、例えばMgSO
4もまた添加される。マグネシウム化合物の添加は、例えば、工程(a)もしくは工程(c)の間に、または別個の工程において達成され得る。
【0054】
別の実施形態において、本発明の粒子は、連続プロセスにより生成される。このために、手順は、具体的には、少なくとも2つの撹拌槽を有する撹拌槽カスケードを使用することであってもよい。第1の撹拌槽において、具体的には本発明の粒子よりも小さい平均直径を有する粒子の形態で、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が生成される(工程(a))。このようにして形成された粒子は、一般に、懸濁液として得られる。この懸濁液は、粒子の形態または懸濁液の形態の、フッ化物(B)、水酸化物(B)または酸化物(B)(工程(b))、さらに、当該遷移金属、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよび/またはバナジウムのハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩の水溶液、ならびにさらなる沈殿試薬(工程(c))の最初の投入物を含有する、またはそれらが計量添加された第2の撹拌槽に移される。
【0055】
別の特定の実施形態において、以下のように進行させることが可能である。少なくとも2つの撹拌槽を有する撹拌槽カスケードが使用される。第1の撹拌槽において、具体的には本発明の粒子よりも小さい平均直径を有する粒子の形態で、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が生成される(工程(a))。このようにして形成された粒子は、一般に、懸濁液として得られる。この懸濁液は、粒子の形態または懸濁液の形態の、フッ化物(B)、水酸化物(B)または酸化物(B)の最初の投入物を含有する、またはそれが計量添加された第2の撹拌槽に移される(工程(b))。このようにして得られる懸濁液は、当該遷移金属、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよび/またはバナジウムのハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩のさらなる水溶液、ならびにさらなる沈殿試薬が添加された第3の撹拌槽に移される(工程(c))。
【0056】
別の特定の実施形態において、以下のように進行させることが可能である。少なくとも2つの撹拌槽を有する撹拌槽カスケードが使用される。第1の撹拌槽において、具体的には本発明の粒子よりも小さい平均直径を有する粒子の形態で、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が生成される(工程(a))。このようにして形成された粒子は、一般に、懸濁液として得られる。この懸濁液は、チタン、ジルコニウム、バリウムまたはアルミニウムの可溶性化合物、ならびに、任意に、水溶性フッ化物、例えばフッ化ナトリウムまたはフッ化アンモニウム(工程(b))、さらに、当該遷移金属、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよび/またはバナジウムのハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩の水溶液、ならびにさらなる沈殿試薬(工程(c))が添加された第2の撹拌槽に移される。
【0057】
別の特定の実施形態において、以下のように進行させることが可能である。少なくとも2つの撹拌槽を有する撹拌槽カスケードが使用される。第1の撹拌槽において、具体的には本発明の粒子よりも小さい平均直径を有する粒子の形態で、遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)が生成される(工程(a))。このようにして形成された粒子は、一般に、懸濁液として得られる。この懸濁液は、チタン、ジルコニウム、バリウムまたはアルミニウムの可溶性化合物、および任意に、水溶性フッ化物、例えばフッ化ナトリウムまたはフッ化アンモニウムが添加された第2の撹拌槽に移される(工程(b))。このようにして得られる懸濁液は、当該遷移金属、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよび/またはバナジウムのハロゲン化物、硝酸塩、カルボン酸塩、特に酢酸塩、または最も好ましくは硫酸塩のさらなる水溶液、ならびにさらなる沈殿試薬が添加された第3の撹拌槽に移される(工程(c))。
【0058】
Mgとして定義されるMも含む遷移金属水酸化物(A)または遷移金属炭酸塩(A)を生成することが望ましい実施形態において、少なくとも1種のマグネシウム化合物、好ましくは水溶性マグネシウム化合物、例えばMgSO
4もまた添加される。マグネシウム化合物は、カスケードの任意の点で添加することができる。
【0059】
本発明の一実施形態において、本発明の方法は、10℃から85℃の範囲内の温度、好ましくは20℃から50℃の範囲内の温度で行われる。
【0060】
本発明の一実施形態において、本発明の方法は、それぞれ母液中で23℃で測定して、8から12、好ましくは10.5から12.0、より好ましくは11.3から11.9の範囲内のpHで行われる。
【0061】
本発明の一実施形態において、本発明の方法は、500mbarから20barの範囲内の圧力、好ましくは標準圧力で行われる。
【0062】
本発明の一実施形態において、遷移金属に対して過剰の沈殿剤、例えばアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩が使用される。モル過剰は、例えば、1.1:1から100:1の範囲内であってもよい。化学量論的割合の沈殿剤で処理することが好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態において、アルカリ金属水酸化物の水溶液は、1質量%から50質量%、好ましくは10質量%から25質量%の範囲内の濃度のアルカリ金属水酸化物を有する。本発明の別の実施形態において、アルカリ金属炭酸(水素)塩の水溶液は、1質量%から飽和溶液の最大値まで、NaHCO
3の場合では10質量%まで、Na
2CO
3の場合では21.5質量%までの範囲内(それぞれの場合において20℃における値、または相応により高い温度の場合それ以上)の濃度のアルカリ金属炭酸(水素)塩を有する。
【0064】
本発明の一実施形態において、遷移金属塩の水溶液の濃度は、幅広い範囲内で選択され得る。好ましくは、濃度は、それらが全体で1モルから1.8モルの遷移金属/溶液kg、より好ましくは1.5モルから1.7モルの遷移金属/溶液kgの範囲内であるように選択される。
【0065】
本発明の一実施形態において、本発明による方法は、遷移金属の少なくとも1種に対する配位子として機能し得る少なくとも1種の化合物Lの存在下で、例えば、少なくとも1種の有機アミンまたは特にアンモニアの存在下で行われる。本発明に関連して、水は、配位子としてみなされるべきではない。
【0066】
本発明の一実施形態において、0.05モル/lから1モル/l、好ましくは0.1モル/lから0.7モル/lの範囲内の、L、特にアンモニアの濃度が選択される。母液中のNi
2+の溶解度が1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下であるアンモニアの量が、特に好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態において、混合は、例えば撹拌器により、本発明の粒子の生成の間に達成される。少なくとも1W/l、好ましくは少なくとも3W/l、より好ましくは少なくとも5W/lの撹拌器出力を反応混合物に導入することが好ましい。本発明の一実施形態において、25W/l以下の撹拌器出力が、反応混合物に導入され得る。
【0068】
本発明の特定の実施形態において、手順は、バッチ式プロセスの変形例の場合、バッチ式操作の最後に向けて撹拌器出力を低下させることであってもよい。
【0069】
本発明の一実施形態において、母液は、本発明の方法の実行の間に取り除かれる。
【0070】
本発明の方法は、還元剤の存在下または非存在下で行われてもよい。好適な還元剤の例は、ヒドラジン、アスコルビン酸、グルコースおよびアルカリ金属亜硫酸塩である。いかなる還元剤も使用しないのが好ましい。
【0071】
本発明の方法は、空気下で、不活性ガス雰囲気下で、例えば希ガスもしくは窒素雰囲気下で、または還元雰囲気下で行われてもよい。還元ガスの例は、例えば、SO
2である。不活性ガス雰囲気下での処理が好ましい。
【0072】
実際の生成後、本発明の粒子は、母液から取り出される。取り出しは、例えば、濾過、遠心分離、デカンテーション、噴霧乾燥もしくは沈降により、または上述の操作の2つ以上の組合せにより達成され得る。好適な装置は、例えば、フィルタプレス、ベルトフィルタ、噴霧乾燥機、液体サイクロン、傾斜浄化機、または上述の装置の組合せである。
【0073】
母液は、水、水溶性塩、および溶液中に存在する任意のさらなる添加剤を指す。水溶性塩は、例えば、遷移金属の対イオンのアルカリ金属塩、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、特に塩化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、およびさらに追加的な塩、使用される任意の添加剤、および任意の過剰のアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属水酸化物、およびさらに配位子Lであり得る。さらに、母液は、微量の可溶性遷移金属塩を含んでもよい。
【0074】
本発明の一実施形態において、2つのセクションに分割された衝撃浄化機を使用して母液を取り除くことができ、沈殿した粒子が取り出されるだけでなく、撹拌容器内での撹拌により懸濁液に導入された気泡も除去される。
【0075】
実際の取り出し後、本発明の粒子は洗浄され得る。洗浄は、例えば、純水で、またはアルカリ金属炭酸塩もしくはアルカリ金属水酸化物の水溶液で、特に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくはアンモニアの水溶液で達成され得る。水、およびアルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
【0076】
洗浄は、例えば、上昇した圧力、または30℃から50℃等の上昇した温度の使用と共に達成されてもよい。別の変形例において、洗浄は、室温で行われる。洗浄の効率は、分析的尺度により確認され得る。例えば、洗浄水中の遷移金属の含量が分析され得る。
【0077】
アルカリ金属水酸化物の水溶液ではなく水で洗浄が達成される場合、洗浄水に対する導電性試験を利用して、水溶性物質、例えば水溶性塩がまだ洗い流され得るかどうかを確認することが可能である。
【0078】
本発明の粒子の取り出しの後に乾燥が行われてもよい。乾燥は、例えば、不活性ガスまたは空気で行われてもよい。乾燥は、例えば、30℃から150℃の範囲内の温度で行われてもよい。乾燥が空気で行われる場合、多くの場合において、いくつかの遷移金属が部分酸化され、例えばMn
2+がMn
4+に、およびCo
2+がCo
3+に酸化されるのが観察され、本発明の粒子の黒変が観察される。
【0079】
本発明の粒子は、リチウムイオン電池用のカソード材料への変換に良好な適合性を有する。したがって、本発明は、さらに、リチウム含有遷移金属混合酸化物の生成に本発明の粒子を使用する方法を提供する。本発明は、さらに、省略して本発明の方法とも呼ばれる、本発明の粒子を使用してリチウム含有遷移金属混合酸化物を生成するための方法を提供する。
【0080】
本発明の方法を行うためには、手順は、例えば、本発明の粒子を少なくとも1種のリチウム化合物と混合し、それらを500℃から1000℃の範囲内の温度で互いに反応させることであってもよい。
【0081】
選択されるリチウム化合物は、好ましくは、それぞれ無水物形態の、または存在する場合には水和物としてのリチウム塩、例えばLi
2O、LiOH、LiNO
3、Li
2SO
4、LiClまたはLi
2CO
3であってもよく、好ましくはLiOHであり、特に好ましくはLi
2CO
3である。
【0082】
本発明の粒子およびリチウム化合物の量は、カソード材料の所望の化学量論性が得られるように選択される。全遷移金属および任意のMの総計に対するリチウムのモル比が、1:1から1.4:1、好ましくは1.01:1から1.1:1の範囲内であるように、本発明の粒子およびリチウム化合物を選択することが好ましい。
【0083】
500℃から1000℃での反応は、炉内で、例えば回転式管炉内、マッフル炉内、ペンデュラム炉内、ローラハース炉内、またはプッシュスルー炉内で行われてもよい。上述の炉の2つ以上の組合せもまた可能である。
【0084】
500℃から1000℃での反応は、30分から24時間の期間にわたり行われてもよい。反応は、1つの温度で達成されてもよく、または、温度プロファイルが実行されてもよい。
【0085】
本発明の方法の実行は、同様に本発明の主題の一部を形成する、リチウム含有遷移金属混合酸化物をもたらす。
【0086】
本発明は、特に、省略して本発明の混合酸化物と呼ばれる、微粒子形態のリチウム含有遷移金属混合酸化物を提供する。本発明の混合酸化物は、
(C)省略して酸化物(C)とも呼ばれる、リチウム、ならびにニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよびバナジウムから選択される少なくとも3つの異なる遷移金属の少なくとも1種の混合酸化物と、
(D)Ba、Al、ZrまたはTiの少なくとも1種のフッ化物または酸化物と
を含み、フッ化物(D)または酸化物(D)は、ドメインの形態で粒子の外側シェル内に少なくとも75%の程度まで存在し、酸化物(C)により、少なくとも90%の程度まで封入されている。
【0087】
本発明の混合酸化物は、球状粒子の形態である。球状粒子は、本発明の粒子の場合と同様に、厳密に球状である粒子だけではなく、代表的試料の少なくとも95%(数平均)の最大および最小直径が、5%以下だけ異なる粒子も含むものとする。
【0088】
粒子内のニッケル、コバルト、マンガン、鉄、クロムおよびバナジウムのイオンから選択される遷移金属イオンの移動度は、温度に依存して、本発明の方法の間極めて低いことが観察される。一方、Ba、Al、ZrまたはTiのイオンは、本発明の方法の実行の間、移動または拡散し得る。したがって、本発明の粒子に関連するシェル、ドメインおよび組成の均一性に関してなされる記述は、本発明の混合酸化物にも相応に適用され得る。一方、処理が950℃から1000℃で12時間超達成される場合、一般に、Ba、Al、ZrまたはTiのイオンは、当該混合酸化物の粒子の断面にわたり均一に分布しているのが分かる。
【0089】
本発明の一実施形態において、本発明の混合酸化物の粒子は、一次粒子の凝集体の形態で存在する。一次粒子は、例えば、10nmから500nmの範囲内の平均直径を有してもよい。本発明の混合酸化物の粒子は、例えば光散乱により測定された、0.1μmから35μm、好ましくは2μmから30μmの範囲内のメジアン径(D50)を有してもよい。好適な計器は市販されており、例えばMalvern Mastersizerである。
【0090】
粒径分布の幅は、好ましくは狭い。本発明の一実施形態において、本発明の混合酸化物の粒子に関して、(D10)≧3μmおよび(D90)<30μmである。さらに、本発明の特定の実施形態において、3(D10)≧(D50)および(D90)≦2(D50)である。より好ましくは、2(D10)≧(D50)および(D90)≦1.5(D50)である。
【0091】
本発明は、リチウムイオン電池用のカソード材料として、またはその生成のために、本発明の混合酸化物を使用する方法をさらに提供する。
【0092】
カソード材料は、本発明の混合酸化物と同様に、電気伝導性の多形体としての、例えばカーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブまたは活性炭としての炭素を含んでもよい。
【0093】
カソード材料は、少なくとも1種の結合剤、例えばポリマー結合剤をさらに含んでもよい。
【0094】
好適な結合剤は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、すなわちホモポリマーまたはコポリマーは、例えば、アニオン、触媒またはフリーラジカル(共)重合により得られる(コ)ポリマーから、特にポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、ならびに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンから選択される、少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択され得る。ポリプロピレンもまた好適である。さらに、ポリイソプレンおよびポリアクリレートも追加的に好適である。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0095】
ポリアクリロニトリルは、本発明に関連して、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルの1,3−ブタジエンまたはスチレンとのコポリマーも意味するように理解される。ポリアクリロニトリルホモポリマーが特に好ましい。
【0096】
本発明に関連して、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合形態のエチレンおよび最大50モル%の少なくとも1種のさらなるコモノマー、例えば、プロピレン、ブチレン(1−ブテン)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ペンテンおよびさらにイソブテン等のα−オレフィン、ビニル芳香族、例えばスチレン、ならびにさらに(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸のC
1〜C
10−アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ならびにさらにマレイン酸、無水マレイン酸、および無水イタコン酸を含む、エチレンのコポリマーも意味するように理解される。ポリエチレンは、HDPEまたはLDPEであってもよい。
【0097】
本発明に関連して、ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%の共重合形態のプロピレン、および最大50モル%の少なくとも1種のさらなるコモノマー、例えばエチレン、ならびにブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンおよび1−ペンテン等のα−オレフィンを含むプロピレンのコポリマーも意味するように理解される。ポリプロピレンは、好ましくは、アイソタクチックまたは本質的にアイソタクチックのポリプロピレンである。
【0098】
本発明に関連して、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC
1〜C
10−アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に1,3−ジビニルベンゼン、1,2−ジフェニルエチレンおよびα−メチルスチレンとのコポリマーも意味するように理解される。
【0099】
別の好ましい結合剤は、ポリブタジエンである。
【0100】
他の好適な結合剤は、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミドおよびポリビニルアルコールから選択される。
【0101】
本発明の一実施形態において、結合剤は、50000g/モルから1000000g/モルまで、好ましくは500000g/モルまでの範囲内の平均分子量M
wを有する(コ)ポリマーから選択される。
【0102】
結合剤は、架橋または非架橋(コ)ポリマーであってもよい。
【0103】
本発明の特に好ましい実施形態において、結合剤は、ハロゲン化(コ)ポリマーから、特にフッ素化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化またはフッ素化(コ)ポリマーは、共重合形態において、分子当たり少なくとも1つのハロゲン原子または少なくとも1つのフッ素原子、好ましくは分子当たり少なくとも2つのハロゲン原子または少なくとも2つのフッ素原子を有する少なくとも1種の(コ)モノマーを含む(コ)ポリマーを意味するように理解される。
【0104】
その例は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、およびエチレン−クロロフルオロエチレンコポリマーである。
【0105】
好適な結合剤は、特に、ポリビニルアルコールおよびハロゲン化(コ)ポリマー、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリ塩化ビニリデン、特にフッ素化(コ)ポリマー、例えばポリフッ化ビニルおよび特にポリフッ化ビニリデン、ならびにポリテトラフルオロエチレンである。電気伝導性炭素質材料は、例えば、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンおよび上記物質の少なくとも2種の混合物から選択され得る。本発明に関連して、電気伝導性炭素質材料はまた、省略して炭素(B)と呼ぶこともできる。
【0106】
本発明の一実施形態において、電気伝導性炭素質材料は、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えばランプブラック、ファーネスブラック、フレームブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックおよびインダストリアルブラックから選択され得る。カーボンブラックは、不純物、例えば炭化水素、特に芳香族炭化水素、または酸素含有化合物もしくは酸素含有基、例えばOH基を含んでもよい。さらに、カーボンブラック中の硫黄または鉄含有不純物が可能である。
【0107】
一変形例において、電気伝導性炭素質材料は、部分酸化カーボンブラックである。
【0108】
本発明の一実施形態において、電気伝導性炭素質材料は、カーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブ(省略してCNT)、例えば単層カーボンナノチューブ(SWCNT)および好ましくは多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、それ自体知られている。それを生成するための方法およびいくつかの特性は、例えば、A.Jessらにより、Chemie Ingenieur Technik 2006、78、94〜100頁において説明されている。
【0109】
本発明の一実施形態において、カーボンナノチューブは、0.4nmから50nm、好ましくは1nmから25nmの範囲内の直径を有する。
【0110】
本発明の一実施形態において、カーボンナノチューブは、10nmから1mm、好ましくは100nmから500nmの範囲内の長さを有する。
【0111】
本発明に関連して、グラフェンは、個々のグラファイト層に類似した構造の、ほぼ理想的に、または理想的に二次元の六角網炭素結晶を意味するように理解される。
【0112】
本発明の一実施形態において、本発明の改変された遷移金属混合酸化物および電気伝導性炭素質材料の質量比は、200:1から5:1、好ましくは100:1から10:1である。
【0113】
本発明のさらなる態様は、上述のように生成された少なくとも1種の遷移金属混合酸化物、少なくとも1種の電気伝導性炭素質材料および少なくとも1種の結合剤を含むカソードである。
【0114】
本発明の混合酸化物および電気伝導性炭素質材料は、上で説明されている。
【0115】
本発明は、さらに、少なくとも1種の本発明のカソードを使用して製造された電気化学セルを提供する。本発明は、さらに、少なくとも1種の本発明のカソードを含む電気化学セルを提供する。
【0116】
本発明の一実施形態において、本発明に従って生成されたカソード材料は、
60質量%から98質量%、好ましくは70質量%から96質量%の範囲内の本発明の混合酸化物と、
1質量%から20質量%、好ましくは2質量%から15質量%の範囲内の結合剤と、
1質量%から25質量%、好ましくは2質量%から20質量%の範囲内の電気伝導性炭素質材料とを含む。
【0117】
本発明のカソードの構成は、幅広い限度内で選択され得る。本発明のカソードを薄いフィルムとして、例えば10μmから250μm、好ましくは20μmから130μmの範囲内の厚さを有するフィルムとして構成するのが好ましい。
【0118】
本発明の一実施形態において、本発明のカソードは、未処理またはシリコン処理されていてもよい箔またはフィルム、例えば金属箔、特にアルミニウム箔、またはポリマーフィルム、例えばポリエステルフィルムを含む。
【0119】
本発明は、さらに、電気化学セルにおいて本発明のカソード材料または本発明のカソードを使用する方法を提供する。本発明は、さらに、本発明のカソード材料または本発明のカソードを使用して電気化学セルを製造するための方法を提供する。本発明は、さらに、少なくとも1つの本発明のカソード材料または少なくとも1つの本発明のカソードを備える電気化学セルを提供する。
【0120】
本発明の電気化学セルは、本発明に関連して、アノードとして定義され、例えば炭素アノード、特にグラファイトアノード、リチウムアノード、ケイ素アノードまたはチタン酸リチウムアノードであってもよい対極を備える。
【0121】
本発明の電気化学セルは、例えば、電池または蓄電池であってもよい。
【0122】
本発明の電気化学セルは、アノードおよび本発明のカソードと同様に、さらなる構成要素、例えば導電性塩、非水溶媒、隔壁、例えば金属または合金で作製された出力導体、ならびにさらにケーブル接続および筐体を備えてもよい。
【0123】
本発明の一実施形態において、本発明の電気セルは、好ましくはポリマー、環式または非環式エーテル、環式および非環式アセタール、ならびに環式または非環式有機カーボネートから選択される、室温で液体または固体であってもよい少なくとも1種の非水溶媒を含む。
【0124】
好適なポリマーの例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ−C
1〜C
4−アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、20モル%までの共重合形態の1種または複数種のC
1〜C
4−アルキレングリコールを含んでもよい。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、二重にメチルまたはエチルキャッピングされたポリアルキレングリコールである。
【0125】
好適なポリアルキレングリコール、特に、好適なポリエチレングリコールの分子量M
wは、少なくとも400g/モルであってもよい。
【0126】
好適なポリアルキレングリコール、特に、好適なポリエチレングリコールの分子量M
wは、5000000g/モルまで、好ましくは2000000g/モルまでであってもよい。
【0127】
好適な非環式エーテルの例は、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンであり、1,2−ジメトキシエタンが好ましい。
【0128】
好適な環式エーテルの例は、テトラヒドロフランおよび1,4−ジオキサンである。
【0129】
好適な非環式アセタールの例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1−ジメトキシエタンおよび1,1−ジエトキシエタンである。
【0130】
好適な環式アセタールの例は、1,3−ジオキサン、および特に1,3−ジオキソランである。
【0131】
好適な非環式有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートである。
【0132】
好適な環式有機カーボネートの例は、一般式(III)および(IV)
【化1】
(式中、R
1、R
2およびR
3は、同じまたは異なっていてもよく、それぞれ、水素ならびにC
1〜C
4−アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルおよびtert−ブチルから選択され、R
2およびR
3は、好ましくは、両方ともtert−ブチルではない)の化合物である。
【0133】
特に好ましい実施形態において、R
1はメチル、R
2およびR
3はそれぞれ水素であり、または、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ水素である。
【0134】
別の好ましい環式有機カーボネートは、式(V)のビニレンカーボネートである。
【0136】
いわゆる無水状態の、すなわち、例えばKarl Fischer滴定により決定され得る1ppmから0.1質量%の範囲内の含水量を有する溶媒を使用することが好ましい。
【0137】
本発明の電気化学セルは、少なくとも1種の導電性塩をさらに備える。好適な導電性塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例は、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiC(C
nF
2n+1SO
2)
3、リチウムイミド、例えばLiN(C
nF
2n+1SO
2)
2(式中、nは、1から20の範囲内の整数である)、LiN(SO
2F)
2、Li
2SiF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、および一般式(C
nF
2n+1SO
2)
tYLi(式中、tは、以下のように定義される)の塩である。
【0138】
Yが水素および硫黄から選択される場合、t=1、
Yが窒素およびリンから選択される場合、t=2、および
Yが炭素およびケイ素から選択される場合、t=3。
【0139】
好ましい導電性塩は、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4から選択され、LiPF
6およびLiN(CF
3SO
2)
2が特に好ましい。
【0140】
本発明の一実施形態において、本発明の電気化学セルは、それにより電極が互いに機械的に分離される1つまたは複数の隔壁を備える。好適な隔壁は、金属リチウムに対して非反応性であるポリマーフィルム、特に多孔質ポリマーフィルムである。隔壁として特に好適な材料は、ポリオレフィン、特に多孔質ポリエチレンフィルムおよび多孔質ポリプロピレンフィルムである。
【0141】
特にポリエチレンまたはポリプロピレンのポリオレフィン隔壁は、35%から45%の範囲内の空隙率を有してもよい。好適な細孔径は、例えば、30nmから500nmの範囲内である。
【0142】
本発明の別の実施形態において、隔壁は、無機粒子が充填されたPET不織物から選択され得る。そのような隔壁は、40%から55%の範囲内の空隙率を有してもよい。好適な細孔径は、例えば、80nmから750nmの範囲内である。
【0143】
本発明の電気化学セルは、任意の形状、例えば立方体様または扁平円筒形状であってもよい筐体をさらに備える。一変形例において、使用される筐体は、袋として加工された金属箔である。
【0144】
本発明の電気化学セルは、高電圧を提供し、高いエネルギー密度および良好な安定性に関して優れている。本発明の電気化学セルにおいて、電解質中に低濃度のHFのみが存在することが分かる。
【0145】
本発明の電気化学セルは、例えば直列接続または並列接続で互いに組み合わされてもよい。直列接続が好ましい。
【0146】
本発明は、さらに、デバイス、特に移動型デバイスにおいて本発明の電気化学セルを使用する方法を提供する。移動型デバイスの例は、乗り物、例えば自動車、自転車、飛行機、またはボートもしくは船舶等の水上の乗り物である。移動型デバイスの他の例は、携帯可能なもの、例えばコンピュータ、特にラップトップ、電話、または例えば建築部門からの電力ツール、特にドリル、電池式スクリュードライバーもしくは電池式タッカーである。
【0147】
デバイスにおいて本発明の電気化学セルを使用する方法は、充電前のより長い動作時間の利点を提供する。本発明が、より低いエネルギー密度を有する電気化学セルで等しい実行時間を達成するとした場合、より重い質量の電気化学セルが受け入れられなければならない。
【0148】
本発明は、実施例によりさらに例示される。
【0149】
概説:リットルは、別段に指定されない限り、標準リットルを意味するように理解される。本発明に関連するパーセンテージは、別段に明示されない限り、質量%である。
【0150】
I.生成例
%での数値は、別段に明示されない限り、質量パーセントに関する。
【0151】
実施例および比較例は、8lの全容積を有する反応器システムにおいて行われ、反応器システムは、7lの容積を有する撹拌槽、および1lの容積を有する固体/液体分離装置を含んでいた。分離装置を使用して、本発明の粒子の生成の間、同時に固体を引き出すことなくポンプを用いて撹拌槽から母液を取り除くことが可能であった。
【0152】
反応器システムは、ピッチブレード撹拌器およびバッフルを装備していた。撹拌器電力は、トルク測定と共に電気モータを用い、速度およびトルクから測定した。さらに、反応器システムは、計量ポンプを有する複数の計量ユニット、ならびにpH測定用カソードおよび温度センサを有していた。
【0153】
I.1 遷移金属水酸化物TH.1の生成
最初に、反応器システムに8lの硫酸アンモニウム溶液(36gの(NH
4)
2SO
4/l)を充填し、45℃に加熱した。
【0154】
撹拌槽の内容物を継続的に混合し、内容物に対して約45ワットの機械的処理を行った。したがって、撹拌槽における特定の電力入力は、1リットル当たり約6.4ワットであった。分離装置において、撹拌器電力は導入されなかった。
【0155】
さらに、撹拌槽内には充填レベルセンサが存在し、これにより、撹拌槽内のレベルが本質的に一定を維持するように、分離装置の液体側接続における排出ポンプが制御された。固体は、分離装置から再び反応器内に再循環された。
【0156】
沈殿の実行の間、反応器システム内の約2lのガス空間は、40l/hの窒素によりパージされた。
【0158】
溶液A:溶液のkg当たり0.825モルの硫酸ニッケル、溶液のkg当たり0.33モルの硫酸コバルト、および溶液のkg当たり0.495モルの硫酸マンガン、対応する水和物錯体を水中に溶解することにより製造。
【0159】
溶液B:溶液のkg当たり5.59モルのNaOH、および溶液のkg当たり1.55モルのNH
3。25%のNaOHおよび25%のアンモニア溶液から製造。
【0160】
溶液C:溶液のkg当たり6.25モルのNaOH。
【0161】
溶液D:11.8gのアルミン酸ナトリウム(工業グレードのアルミン酸ナトリウム)としてのアルミニウム、約50℃で1.15kgの水に溶解、pH14。
【0162】
溶液AおよびBは、計量ポンプを用いて撹拌槽に量り入れられ、溶液Cは、撹拌槽内のpHが一定を維持するように量り入れられた(pH制御)。溶液Dは、蠕動ポンプにより量り入れられた。プロセス条件下での導入の間、溶液Dから超微細水酸化アルミニウム粒子が形成した。
【0163】
実験手順
反応温度(45℃)に達したら、溶液Cを添加することにより、硫酸アンモニウム溶液を、23℃で測定してpH11.82まで調整した。次いで、計量ポンプを使用して、反応器システムの撹拌槽の撹拌ブレードに近い乱流ゾーン内に、溶液AおよびBを一定の質量流量(957/521g/h)で量り入れた。制御デバイスを用いて、溶液Cの添加により、pHを11.8(23℃で測定)で一定に維持した。これにより、懸濁液が形成された。20.5時間後、懸濁液Dをさらに量り入れた(約0.18l/hでの添加)。6時間後、溶液Dを消費させた。その後、供給なしで混合物を15分間撹拌した。
【0164】
これにより、5:2:3のNi:Co:Mnモル比を有する遷移金属水酸化物の懸濁液が得られた。懸濁液を、吸引フィルタを通して濾過し、濾過ケーキを水で洗浄し、空気下で105℃で18時間の期間にわたり乾燥させた。このようにして得られる本発明の粒子は、それぞれ水酸化物の形態で31.0質量%のニッケル、12.5質量%のコバルト、および17.2質量%のマンガンの組成を有し、部分酸化形態であった。3.6kgの本発明の粒子が得られた。アルミニウム含量を原子分光学(ICP−OES)により測定すると、0.29%であった。本発明の粒子を篩い分けし(メッシュサイズ32μm;粗材料:0.1%)、重装かさ密度を測定した(1.97kg/l)。アリコートを水中に懸濁させ、光散乱(Malvern Mastersizer 2000)により粒径を測定した。メジアン粒径D50は10.6μmであり、狭い粒子サイズ分布を有していた(D10=7.8μm;D90=14.5μm)。
【0165】
本発明の粒子の外側シェルの厚さは、0.5μmから0.6μmであり、コア直径は、約9.6μmから9.8μmであった。走査型電子顕微鏡写真において、酸化アルミニウムのドメインが明らかであったが、これは、約10nmから100nmの範囲内の直径を有し、外側シェルにのみ存在していた。酸化アルミニウムのドメインは、ニッケル−コバルト−マンガン水酸化物により完全に封入されていた。
【0166】
II.1 本発明の球状粒子の生成のための方法
TH.1の例を使用した一般的方法:
TH.1を粉砕された炭酸リチウムと密に混合したが、TH.1中の遷移金属の合計に対するリチウムのモル比は、1.10であった。この混合物の一部(40g)を、マッフル炉内(空気雰囲気;最高温度:900℃;加熱速度3K/分;保持点300℃および600℃;各段階での保持時間:6時間)で、焼結アルミナで作製された長方形のるつぼ内で熱処理した。室温への冷却後、焼成材料を乳鉢内で研和し、篩い分けした(メッシュサイズ32μm;粗材料なし)。約30gの本発明の球状粒子SP.1が、事実上凝集体のない粉末として得られた。これは、本発明の電極を製造するために加工可能であった。
【0167】
II.2 アルミナ含有比較材料C−SP.2の生成
II.1に記載の方法の修正例において、市販の球状金属水酸化物(Ni:Co:Mn=5:2:3)および水酸化アルミニウム粉末(遷移金属の合計に対し2モル%のAl;D50 1.8μm;99.4%Al(OH)
3)を混合した。混合にはローラーミキサーを使用した(80rpm、1時間、30gの瑪瑙ボール−直径10mm、バッチサイズ30gの粉末)。次いで、粉砕された炭酸リチウムをII.1と同様の様式で添加し、混合物をさらに5時間混合し、その他の手順はII.1に記載の通りであった。約30gの比較粒子C−SP.2が得られた(アルミニウム含量はSP.1と同等)。
【0168】
II.3 アルミナ含有比較材料C−SP.3の生成
同様の様式で、5モル%の水酸化アルミニウムを使用して比較粒子C−SP.3が得られた。
【0169】
III.本発明の電極および本発明の電気化学セルの製造のための一般的方法
使用される材料:
結合剤(BM.1):溶液としてのフッ化ビニリデンのポリマー、NMP中10質量%、Arkema, Inc.からKynarFlex(登録商標)2801として粉末が市販されている。
【0170】
電気伝導性炭素質材料:
炭素1:カーボンブラック、約60m
2/gのBET表面積、Timcalから「Super C65」として市販されている。
【0171】
炭素2:グラファイト、Timcalから「KS6」として市販されている。
【0172】
本発明の粒子(SP.1)の例を使用した一般的方法:
0.661gの炭素1、0.661gの炭素2および13.21gの結合剤(BM.1)を、10.02gのN−メチルピロリドン(NMP)の添加と共に混合すると、ペーストが得られた。次の工程において、4.99gのこのペーストを、4.00gの本発明の粒子(SP.1)と混合した。厚さ30μmのアルミニウム箔を、上述のペーストでコーティングした(活性材料投入量約9mg/cm
2)。105℃で乾燥させた後、このようにしてコーティングされたアルミニウム箔の円形部(直径19.8mm)を打ち出した。このようにして得ることができる電極を使用して、本発明の電気化学セルEC.1を製造した。使用された電解質は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(質量部に基づいて1:1)中のLiPF
6の1モル/l溶液であった。アノードは、ガラス繊維紙で作製された隔壁によりカソードから分離されたリチウム箔からなっていた。
【0173】
その後、室温でセルを組み立て、25℃でサイクルに供した。サイクル電流は、カソードの活性材料に基づいて150A/kgであり、最初の数サイクルにおいて、レート特性もまた975A/kgまでの電流で測定した。選択された電圧範囲は、3.0ボルトから4.3ボルトであった。
【0174】
充電は、上限スイッチオフ電圧に達するまで150A/kgで行い、次いで、さらに30分間、一定電圧で充電を達成した。下限スイッチオフ電圧に達するまで、放電を常に行った。
【0175】
サイクル40および80の容量が表1に報告される。これらのデータから開始して、サイクル40からサイクル80の低下の2.5倍に相当する、100サイクルに対する容量低下を計算した。
【0177】
EC.1:セルは、本発明の材料を備える。
C−EC.2:セルは、比較材料C−SP.2を備える。
C−EC.3:セルは、比較材料C−SP.3を備える。