特許第6404352号(P6404352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6404352複合体触媒、複合体触媒の製造方法、低級オレフィンの製造方法および複合体触媒の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404352
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】複合体触媒、複合体触媒の製造方法、低級オレフィンの製造方法および複合体触媒の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/46 20060101AFI20181001BHJP
   B01J 29/90 20060101ALI20181001BHJP
   B01J 38/12 20060101ALI20181001BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20181001BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20181001BHJP
   B01J 37/30 20060101ALI20181001BHJP
   C07C 4/06 20060101ALI20181001BHJP
   C07C 11/02 20060101ALI20181001BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20181001BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20181001BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181001BHJP
   C10G 11/05 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   B01J29/46 Z
   B01J29/90 Z
   B01J38/12 B
   B01J37/04 102
   B01J37/10
   B01J37/30
   C07C4/06
   C07C11/02
   C07C11/04
   C07C11/06
   !C07B61/00 300
   !C10G11/05
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-538461(P2016-538461)
(86)(22)【出願日】2015年7月31日
(86)【国際出願番号】JP2015071761
(87)【国際公開番号】WO2016017794
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2016年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-157518(P2014-157518)
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(72)【発明者】
【氏名】程島 真哉
(72)【発明者】
【氏名】八木 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】本宮 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】若松 周平
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/101121(WO,A1)
【文献】 特開2014−024005(JP,A)
【文献】 特開2008−222598(JP,A)
【文献】 特開平08−217531(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/017181(WO,A1)
【文献】 特表2005−520874(JP,A)
【文献】 特開昭61−153143(JP,A)
【文献】 特開昭61−291041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 4/06
C07C 11/02
C07C 11/04
C07C 11/06
C07B 61/00
C10G 11/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素原料(但し、エチレンを除く)からエチレンおよびプロピレンを含む低級オレフィンを製造するための複合体触媒であって、
ガリウムおよび鉄を含むとともに員環数が8〜12の骨格構造を有する結晶性アルミノシリケートであるゼオライト、またはガリウムを含まず鉄を含むとともに員環数が8〜12の骨格構造を有する結晶性アルミノシリケートであるゼオライトと、結合剤としての二酸化珪素と、を含み、
前記ゼオライトは、鉄およびガリウムを含む結晶性アルミノシリケートであり、
かつ、鉄、ガリウムおよびアルミニウムのモル数の和に対する珪素のモル数の組成比としての酸密度が75.0〜200.0であり、鉄、ガリウムおよびアルミニウムのモル数の和に対するガリウムのモル数の組成比が0.1〜0.4であり、鉄、ガリウムおよびアルミニウムのモル数の和に対する鉄のモル数の組成比が0.2〜0.6であるか、または
前記ゼオライトは、鉄を含む結晶性アルミノシリケートであり、
かつ、鉄およびアルミニウムのモル数の和に対する珪素のモル数の組成比としての酸密度が75.0〜200.0であり、鉄およびアルミニウムのモル数の和に対する鉄のモル数の組成比が0.4〜0.7であることを特徴とする複合体触媒。
【請求項2】
前記二酸化珪素の含有濃度が、5〜50wt%であることを特徴とする請求項に記載の複合体触媒。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の複合体触媒の製造方法であって、
水熱合成工程、成形化工程、イオン交換工程を含むことを特徴とする複合体触媒の製造方法。
【請求項4】
前記成形化工程で、ゼオライトと二酸化珪素の混合物を成形する際に、でんぷんを含むアルカリ性水溶液を用いることを特徴とする請求項に記載の複合体触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項に記載の複合体触媒を用いて炭化水素原料(但し、エチレンを除く)からエチレンおよびプロピレンを含む低級オレフィンを製造する低級オレフィンの製造方法であって、
前記複合体触媒に、前記炭化水素原料を15wt%以上含む気体として供給し、前記炭化水素原料から前記低級オレフィンを生成する反応を530℃〜650℃の温度領域で進行させることを特徴とする低級オレフィンの製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項に記載の複合体触媒を用いて炭化水素原料(但し、エチレンを除く)からエチレンおよびプロピレンを含む低級オレフィンを製造する低級オレフィンの製造方法であって、
前記複合体触媒に、前記炭化水素原料を15wt%以上含む気体として供給し、前記炭化水素原料の前記複合体触媒との接触時間が0.08〜1.0hであることを特徴とする低級オレフィンの製造方法。
【請求項7】
請求項または請求項に記載のオレフィンの製造方法で用いられた複合体触媒から析出炭素を燃焼除去する複合体触媒の再生方法であって、
前記複合体触媒に不活性ガスで希釈された空気を供給し、かつ、450℃〜600℃の温度領域で、析出炭素を燃焼除去することを特徴とする複合体触媒の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素原料から低級オレフィンを製造する際に用いられる低級オレフィン製造用の複合体触媒、この複合体触媒の製造方法、この複合体触媒を用いた低級オレフィンの製造方法およびこの低級オレフィンの製造方法における複合体触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学における重要な基礎原料である低級オレフィン(エチレンやプロピレン)は今後とも堅調なペースで需要が伸びていくと予想されている。現在は、プロピレンの60%がナフサ等のスチ−ムクラッキング法(スチームクラッカー)により製造されている。しかしながら、この技術は無触媒であるために分解には800〜900℃の高温を要し、かつ過剰のスチームを投入するエネルギー多消費型のプロセスである。
【0003】
また、上記技術の主生成物はエチレンであり、プロピレンは副生成物として生産されていることから、ナフサを原料とした場合に、生成比率はエチレン/プロピレン=2/1で略固定されている。将来のプロピレンの需要拡大に対して供給が追いつかない状況となる可能性がある。以上の観点から、ナフサ原料から極力少ないエネルギー消費でプロピレンを効率良く生成する代替プロセスが強く望まれている。
【0004】
現在、スチームクラッカーの代替法としてゼオライト系触媒を用いる固定床型のナフサ接触分解法を適用する省エネ型のプロピレン製造方法の研究開発が行われている。
例えば、鉄または鉄およびガリウムを含むMFI型構造を有する結晶性アルミノシリケートをライトナフサ等の低沸点炭化水素原料から低級オレフィンを生成する際の触媒として利用することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
これら特許文献1〜3に記載されたゼオライト触媒によれば、比較的低い反応温度で、エチレンに対してプロピレンの生成量を多くすることが可能となるとともに、触媒寿命の延長が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−24005号公報
【特許文献2】特開2014−24006号公報
【特許文献3】特開2014−24007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造の実用化に際しては、流動床方式より設備費用の低い固定床方式を用いることが望まれる。この場合に固定的に配置されたゼオライト触媒を用いて、安定的に長期に渡って連続して低級オレフィンを製造できることが好ましく、ゼオライト触媒のさらなる長寿命化が求められている。
【0007】
ここで、ゼオライト触媒の寿命を縮める要因としては、炭素析出すなわちコーク生成(コーキング)に伴う細孔閉塞などが挙げられる。このコークの生成は、ゼオライト触媒の触媒作用により副産物として生成される芳香族炭化水素が大きな要因となる。ここで、ゼオライト触媒は、固体酸として酸点を有し、この酸点で原料となる炭化水素分子を分解するとともに脱水素して低級オレフィンが生成されるが、生成されたオレフィンが酸点から離れずに、酸点に留まったままだと、触媒作用によりさらに反応が進行し、環化、脱水素反応により芳香族炭化水素が生成する。この芳香族炭化水素からコークが生成され、上述のようにゼオライト触媒の触媒能力を低下させてしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造において、触媒をさらに長寿命化することが可能な複合体触媒、この複合体触媒の製造方法、この複合体触媒を用いた低級オレフィンの製造方法およびこの低級オレフィンの製造方法における複合体触媒の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の複合体触媒は、炭化水素原料から低級オレフィンを製造するための複合体触媒であって、
ガリウムおよび鉄または鉄を含むとともに員環数が8〜12の骨格構造を有する結晶性アルミノシリケートであるゼオライトと、二酸化珪素とを含むことを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、鉄または鉄およびガリウムを含む結晶性アルミノシリケートであるゼオライトと二酸化珪素とからなる複合体触媒においては、触媒作用を有するゼオライトと結合剤(バインダー)としての二酸化珪素を複合化することにより、エチレンおよびプロピレンの生成量の減少を抑制しつつ、芳香族炭化水素の生成を抑制することでコークの生成量を減少させ、複合体触媒をさらに長寿命化することが可能になる。
なお、特許文献1〜3では、酸化アルミニウム(アルミナ粉末)を結合剤として用いているが、結合剤として二酸化珪素(シリカ)を用いることにより、明らかに触媒寿命が延びることを見出した。すなわち、二酸化珪素を上述のゼオライトに混在させることにより触媒寿命を延ばすことを見出した。これは、ゼオライトの外表面に存在する酸点の少なくとも一部に共存する二酸化珪素が影響し、例えば、酸点の酸強度の低下により、ゼオライトの外表面で低級オレフィンから芳香族炭化水素が生成するのを抑制し、コークの生成を阻害していると思われる。これにより、十分に効率的に長期に渡って低級オレフィンの製造を行うことが可能であり、固定床方式での炭化水素原料から低級オレフィンの製造が実現可能となる。
【0011】
本発明の前記構成において、前記ゼオライトは、
鉄およびガリウムを含む結晶性アルミノシリケートであり、
かつ、鉄、ガリウムおよびアルミニウムのモル数の和に対する珪素のモル数の組成比としての酸密度が75.0〜200.0であり、鉄、ガリウムおよびアルミニウムのモル数の和に対するガリウムのモル数の組成比が0.1〜0.4であり、鉄、ガリウムおよびアルミニウムのモル数の和に対する鉄のモル数の組成比が0.2〜0.6であることが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、酸密度、鉄(Fe)のモル組成比、ガリウム(Ga)のモル組成比を上述の範囲とすることにより、エチレンに対してよりプロピレンの生成量を増加させることができるとともに、結合剤である二酸化珪素の共存下において、より芳香族炭化水素の生成の抑制を図ることができる。ここで、鉄には、ゼオライトの酸点の酸強度を抑える機能があり、ガリウムには、アルカンの脱水素反応を促進する機能がある。
【0013】
また、本発明の前記構成において、前記ゼオライトは、鉄を含む結晶性アルミノシリケートであり、
鉄およびアルミニウムのモル数の和に対する珪素のモル数の組成比としての酸密度が75.0〜200.0であり、鉄およびアルミニウムのモル数の和に対する鉄のモル数の組成比が0.4〜0.7であることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、酸密度、鉄のモル組成比、ガリウムのモル組成比を上述の範囲とすることにより、エチレンに対してよりプロピレンの生成量を増加させることができるとともに、結合剤である二酸化珪素の共存下において、芳香族炭化水素の生成の抑制効果をより高めることができる。
【0015】
また、本発明の前記構成において、前記二酸化珪素の含有濃度が、5〜50wt%であることが好ましく、さらに、5〜40wt%であることがより好ましい。
【0016】
このような構成によれば、プロピレンの生成量の低下を抑制しつつ、芳香族炭化水素の生成量をより効率的に減少させることができる。これにより、より効果的に複合体触媒のゼオライトにおける触媒機能の延命を図ることができる。
【0017】
本発明の前記複合体触媒の製造方法であって、
水熱合成工程、成形化工程、イオン交換工程を含むことを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、高温高圧の水の存在下にて行われる水熱合成工程において、原料としてのシリカ源、アルミナ源、鉄源または鉄源およびガリウム源、鉱化剤、水から鉄または鉄およびガリウムを含む結晶性アルミノシリケートである本発明の複合体触媒におけるゼオライト成分を合成する。
【0019】
また、成形化工程において、水熱合成工程で合成されたゼオライトに結合剤としての二酸化珪素を加えて混錬、成形、乾燥、焼成等により所定形状の複合体触媒を製造する。この際に用いられる結合剤としての二酸化珪素により、上述のように芳香族炭化水素の生成を抑制することができる。また、イオン交換工程で、酸性のOH基を導入することにより、ゼオライトに固体酸としての性質を発現させる。
【0020】
また、複合体触媒の製造における工程順は、例えば、イオン交換工程の後に、成形化工程を行うことも可能であるが、水熱合成工程、成形化工程、イオン交換工程の順で行われることが好ましい。水熱合成工程で得られた粉末状のゼオライトにイオン交換工程を行うよりも、所定形状に成形された複合体触媒にイオン交換工程を行う方が、作業性が向上する。また、二酸化珪素を結合剤として複合体触媒を成形した後に、イオン交換工程により酸点を発現させた方が、芳香族炭化水素の生成を抑制できる可能性がある。
【0021】
本発明の前記構成において、前記成形化工程で、ゼオライトと二酸化珪素の混合物を成形する際に、成形助剤としてのでんぷんを含むアルカリ性水溶液を用いることが好ましい。
【0022】
このような構成によれば、成形化工程で、ゼオライトと二酸化珪素を混錬する際に、でんぷんを含むアルカリ性水溶液を加えて増粘性を持たせることで、塊状の混合物にするのが容易になる。
【0023】
本発明の前記構成の複合体触媒を用いて炭化水素原料から低級オレフィンを製造する低級オレフィンの製造方法であって、
前記複合体触媒に、前記炭化水素原料を15wt%以上、さらに好ましくは、50wt%以上含む気体として供給し、前記炭化水素原料から前記低級オレフィンを生成する反応を530℃〜650℃の温度領域で、さらに好ましくは550℃〜640℃の温度領域で進行させることを特徴とする。
【0024】
このような構成によれば、スチームクラッキング法に比較して、反応温度が低温であり、エネルギー効率に優れ、コストの低減を図ることができる。また、比較的低温で低級オレフィンを生成することで、芳香族炭化水素の発生を抑制して、複合体触媒の長寿命化を図ることができる。
【0025】
また、530℃〜650℃の温度範囲で温度を調整しながら反応を行うことができる。本発明では、複合体触媒を長期的に用いることが可能であるが、時間経過に伴う触媒の劣化による低級オレフィンの生成量の緩やかな低下が生じる。そこで、例えば、時間経過に伴い反応温度を徐々に上昇させることにより、低級オレフィンの生産量を長期に渡って安定させることができ、かつ、複合体触媒の交換時期や再生時期を先延ばしすることが可能になる。
【0026】
また、本発明の前記構成の複合体触媒を用いて炭化水素原料から低級オレフィンを製造する低級オレフィンの製造方法であって、
前記複合体触媒に、前記炭化水素原料を15wt%以上、さらに好ましくは、50wt%以上含む気体として供給し、前記炭化水素原料の前記複合体触媒との接触時間が0.08〜1.0h、さらに好ましくは、0.08〜0.4hであることが好ましい。
【0027】
このような構成によれば、複合体触媒と、炭化水素原料との接触時間を0.08〜1.0h、さらに好ましくは、0.08〜0.4hの範囲とすることにより、より効率的に低級オレフィンを生成できるとともに芳香族炭化水素の生成量を抑制して複合体触媒の寿命をより長くすることができる。すなわち、接触時間が短くなると、低級オレフィンの生成量が低下するが、芳香族炭化水素の生成量も低下し、複合体触媒の寿命が長くなり、接触時間が長くなると、低級オレフィンの生成量が多くなるが、芳香族炭化水素の生成量も多くなり、複合体触媒の寿命が短くなる。従って、低級オレフィンの生成量と複合体触媒の寿命とを考慮して接触時間を設定することが好ましい。
【0028】
また、本発明では、複合体触媒を長期的に用いることが可能であるが、時間経過に伴う触媒の劣化による低級オレフィンの生成量の緩やかな低下が生じる。そこで、例えば、時間経過に伴い原料と複合体触媒との接触時間を徐々に長くすることにより、低級オレフィンの生産量を長期に渡って安定させることができ、かつ、複合体触媒の交換時期や再生時期を先延ばしすることが可能になる。
【0029】
本発明の前記構成のオレフィンの製造方法で用いられた複合体触媒から析出炭素を燃焼除去する複合体触媒の再生方法であって、
前記複合体触媒に不活性ガスで希釈された空気を供給し、450℃〜600℃の温度領域で、さらに好ましくは、500℃〜550℃の温度領域で析出炭素を燃焼除去することを特徴とする。
【0030】
このような構成によれば、複合体触媒を交換することなく再生して用いることが可能であり、複合体触媒の使用期間をさらに延長することができるので、コストの低減を図ることができる。また、析出炭素を燃焼除去する温度が低級オレフィンの生成時の反応温度より低いか反応温度と同等のレベルなので、低級オレフィンの生成設備で問題なく使用可能な温度となり、再生のために耐熱性の向上や加熱設備の増強等を必要とせず、設備コストを増加させることなく、再生が可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、鉄または鉄およびガリウムを含む結晶性アルミノシリケートであるゼオライトに結合剤としての二酸化珪素を混合して成形することにより、触媒を用いた低級オレフィンの製造において、ゼオライトの触媒機能の劣化を抑制して触媒寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明における実施例1、実施例2、比較例1の各複合体触媒の組成を説明するための図である。
図2】実施例1、実施例2、比較例1の各複合体触媒の性能比較を説明するための図である。
図3】実施例1、実施例3、実施例4の各複合体触媒の二酸化珪素の含有量が異なる組成を説明するための図である。
図4】実施例1、実施例3、実施例4の各複合体触媒の性能比較を説明するための図である。
図5】実施例1、実施例4、比較例1の各複合体触媒を用いた反応試験における低級オレフィンの収率の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例4と同様の複合体触媒を用いて、それぞれ原料と複合体触媒との接触時間を異なるものとした反応試験としての実施例4、実施例5、実施例6、比較例3における接触時間と、複合体触媒の初期性能との関係を示す図である。
図7】実施例4と同様の複合体触媒を用いて、それぞれ反応温度を異なるものとした反応試験としての実施例5、実施例7、実施例8における反応温度と、複合体触媒の初期性能との関係を示す図である。
図8】実施例4と同様の複合体触媒を用いた実施例9としての長期反応試験の結果を示すグラフである。
図9】実施例9としての長期反応試験の結果を示すグラフである。
図10】実施例10としての複合体触媒の再生試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
この実施の形態においては、プロピレン等の低級オレフィンを長期に渡って効率的に製造するための複合体触媒と、この複合体触媒の製造方法と、この複合体触媒を用いた低級オレフィンの製造方法と、低級オレフィンの製造におけるこの複合体触媒の再生方法を説明する。
【0034】
本実施の形態の複合体触媒は、ガリウムおよび鉄または鉄を含むとともに員環数が8〜12の骨格構造を有する結晶性アルミノシリケートであるゼオライトと、成形のための結合剤として機能する二酸化珪素とを含む複合体である。
【0035】
ここで、結晶性アルミノシリケートであるゼオライトは、員環数が8〜12の骨格構造を有するものである。ゼオライトの骨格構造は、国際ゼオライト学会によりデータベース化されており、アルファベット大文字3個からなる構造コードが与えられている。この構造コードは骨格の幾何構造のみを指定するものである。
【0036】
例えば、8員環の骨格構造の構造コードとしてはLTA等があり、10員環の骨格構造の構造コードとしては、FER、MWW、MFI等があり、12員環の骨格構造の構造コードとしては、MOR、LTL、FAU、BEA等がある。なお、ここでは、各員環数を有するゼオライトの一部の構造コードだけを示した。ゼオライトの細孔の径は、骨格構造の員環数に影響を受けるものであり、員環数が8〜12であることにより細孔の径がある程度規定される。例えば、ゼオライト全般では、孔径が0.2〜1.0nm程度であり、員環数が8〜12の代表的骨格構造のゼオライトの場合に孔径が0.40nm〜0.75nm程度である。本実施の形態では、ゼオライトの細孔の大きさは、炭化水素原料として例えばC4〜C8の低級オレフィンを用い、ゼオライトの触媒機能を利用してプロピレン(エチレン)を製造する際に好適に用いられるものであることが好ましく、例えば、上述の0.40nm〜0.75nm程度であることが好ましいが、この範囲に限られるものではない。
【0037】
この場合に、ゼオライトの骨格構造の員環数が上述のように8〜12であることが好ましく、さらに員環数が10〜12であることが好ましい。なお、例えば、10員環構造を有するMFI型のゼオライトとしては、ZSM−5(Zeolite Socony Mobil−5)が知られており、12員環構造を有するBEA型のゼオライトとしては、ベータ型ゼオライトが知られている。本実施の形態のゼオライトは、上述のように員環数が8〜12であるゼオライトとして、MFI型ゼオライトや、ベータ型ゼオライトを好適に用いることができる。特に、MFI型のゼオライトを好適に用いることができる。
【0038】
また、本実施の形態では、ゼオライトとして、例えば、鉄(Fe)元素およびガリウム(Ga)元素または鉄元素を含む結晶性アルミノシリケ−ト用いるものとする。なお、Feには、ゼオライトの酸点の酸強度を抑える機能がる。また、Gaには、アルカンの脱水素反応を促進する機能がある。本実施の形態のゼオライト触媒は、結合剤(バインダー)を加えての成形および焼成により得られる複合体触媒であり、バインダーとして二酸化珪素が用いられている。
【0039】
鉄元素を含む(ガリウム元素を含まない)MFI型の結晶性アルミノシリケ−トであるゼオライトにおいて、鉄元素の元素モル組成比(鉄元素/(鉄元素+アルミニウム元素(Al)))が0.4〜0.7であることが好ましく、さらに、0.4〜0.6であることがより好ましい。
【0040】
また、鉄元素を含む(ガリウム元素を含まない)MFI型の結晶性アルミノシリケ−トであるゼオライトにおいて、酸密度(珪素元素(Si)/(鉄元素+アルミニウム元素)元素比)は、75.0〜200.0であることが好ましく、さらに、80.0〜200.0であることがより好ましい。なお、元素比とは、上述の各元素のモル数による組成比である。
【0041】
また、鉄元素およびガリウム元素を含むMFI型の結晶性アルミノシリケ−トであるゼオライトにおいて、鉄元素の元素モル組成比(鉄元素/(鉄元素+ガリウム元素+アルミニウム元素))は、0.2〜0.6であることが好ましく、さらに、0.3〜0.5であることがより好ましい。
【0042】
また、鉄元素およびガリウム元素を含むMFI型の結晶性アルミノシリケ−トであるゼオライトにおいて、ガリウム元素の元素モル組成比(ガリウム元素/(鉄元素+ガリウム元素+アルミニウム元素))は、0.1〜0.4であることが好ましく、さらに0.2〜0.4であることがより好ましい。
【0043】
また、鉄元素およびガリウム元素を含むMFI型のゼオライト触媒において、酸密度(珪素元素/(鉄元素+ガリウム元素+アルミニウム元素)元素比)は、75.0〜200.0であることが好ましく、さらに、80.0〜200.0であることがより好ましい。
【0044】
上述のように、鉄元素を含むMFI型の結晶性アルミノシリケ−トであるこの実施の形態のゼオライトを用いることにより、鉄元素の含有量と酸密度とから酸強度を調整することができ、さらに、ガリウム元素を加えることにより、アルカンの脱水素の促進作用を向上することができる。ゼオライトの酸点において、アルカンが分断されるとともに脱炭素反応により炭素の二重結合が生じ、低級オレフィンが生成されるが、例えば、酸点の酸強度が強すぎると、低級オレフィンとなった後も酸点から離脱せずに、さらに反応が進み、環化、脱水素されて芳香族炭化水素が生じ、芳香族炭化水素の生成量が多くなることで、コークの析出量が多くなり、複合体触媒の寿命を短くする原因となる。従って、コークの析出量を減らす上で、酸強度の調整が重要である。
【0045】
鉄元素のモル数の組成比、ガリウム元素のモル数の組成比、酸密度を上述の範囲とすることにより、プロピレンの収率をより向上できるとともに、コ−ク生成の原因になる芳香族炭素の生成をより抑制できる。
【0046】
また、複合体触媒における結合剤としての二酸化珪素(シリカ)は、複合体触媒における含有量が5〜50wt%(重量%)であることが好ましく、さらに、5〜40wt%であることがより好ましい。低級オレフィンの収率を高める上では、二酸化珪素の含有量を減らしてゼオライトの含有量を高くすることが好ましく、芳香族炭化水素の生成を抑制する上では、二酸化珪素の含有量を多くすることが好ましい。さらに、結合剤としての二酸化珪素には、ゼオライトの外表面にある酸点を被覆・不活性化する作用が結合剤としての酸化アルミニウム(アルミナ)より強いと推測される。
【0047】
これにより、ゼオライトの外表面の酸点を被覆・不活性化することにより、ゼオライトの外表面の酸点での芳香族炭化水素の生成を抑制するとともに、ゼオライト外表面での炭素析出が抑制され、ゼオライトの細孔内部におけるアルカンから低級オレフィンへの転化の触媒能力を長期に維持することが可能となっていると思われる。このような作用機構は、アルカンから低級オレフィンを生成する反応に対して、明確な触媒作用があるゼオライト、例えば、ガリウムおよび鉄または鉄を含むとともに員環数が8〜12の骨格構造を有する結晶性アルミノシリケートであるとともに炭化水素原料から低級オレフィンを製造するための触媒として機能するゼオライトに有効に作用することになる。
【0048】
このような固体酸触媒(ゼオライト触媒)としてのゼオライトは、大別して、1.水熱合成工程、2.成形化工程、3.イオン交換工程の3工程を経て製造される。
【0049】
1.水熱合成工程
「水熱合成法」とは、高温高圧の水の存在下にて行われる物質の合成法の総称であり、結晶性アルミノシリケ−トとしての多くのゼオライトはこの水熱合成法にて合成される。合成する際に使用する原料としては、シリカ源(珪酸ナトリウム、コロイダルシリカ、ヒュ−ムドシリカなど)、アルミナ源(水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなど)、構造規定剤(アミン等)、鉱化剤(アルカリ金属の水酸化物など)、水などが一般的である。
【0050】
この実施の形態のゼオライトでは、原料に鉄源(例えば、硝酸鉄、酸化鉄、硫酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、金属鉄(鉄粉)、有機酸鉄等)が加えられる。さらにガリウム源(例えば、硝酸ガリウム、酸化ガリウム、硫酸ガリウム、リン酸ガリウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、水酸化ガリウム等)を加えることが好ましい。これらを混合して反応性の高い非晶質のヒドロゲル(母ゲル)を調製し、耐圧性反応器であるオートクレーブに充填して150℃程度で所定時間加熱することでゼオライトが合成される。水熱合成反応後は、生成物の分離、水洗浄、乾燥、焼成(構造規定剤を分解除去するために行う)等のステップを経て粉末状のゼオライトを得る。
【0051】
ゼオライトの製造方法をより詳細に説明すると、珪素源である微細なシリカとして粒子サイズが8〜11nmのコロイダルシリカとpH調整用の水酸化ナトリウム(NaOH)とからなる母液ゲルAと、アルミニウム源としてのAl(SO)−nHO、ガリウム源としてのGa(NO−nHO,鉄源としてのFe(NO−nHOと、構造規定剤としての臭化テトラプロピルアンモニウム(TPrABr)を含む母液ゲルBとを作成する。なお、構造規定剤としてのTPrABrの添加量を低減することが好ましい。
【0052】
次に、これら母液ゲルAと母液ゲルBとを撹拌混合する(例えば、15分)。これにより、反応性の高い非晶質のヒドロゲルが調製される。次に、混合撹拌された母液ゲルを熟成する(例えば、60℃で一晩)。次に上述の水熱合成として、120℃〜150℃で、かつ、150rpm〜300rpmの回転速度で撹拌する(例えば、オートクレーブ内の自己圧力下で、水熱合成を行う)。すなわち、高温高圧下での結晶化を行う。但し、反応温度としては、比較的低温であり、低温で核成長させることにより、粗大粒子の生成を抑制している。また、撹拌速度としては、比較的高速であり、核発生量を多くしている。この条件で例えば24時間撹拌して結晶を得る。得られた結晶は水洗浄を行い、脱水は遠心分離により行う。その後、結晶を例えば120℃で3時間乾燥するとともに、550℃で3時間焼成してTPrABrを除去する。なお、ガリウムを含まない場合には、母液ゲルBにガリウム源を添加しない。
【0053】
2.成形化工程
一般的にゼオライトを触媒として工業的に使用する場合、機械的性質の向上や圧力損失の低減といった観点から、円筒状などに成形加工して使用されることが多い。本工程は、主として上述のように合成されたゼオライトと、結合剤(バインダー)である二酸化珪素との混練、成形化、乾燥、焼成などのステップを含む。なお、成形化においては、例えば、押し出し成形法などが用いられる。
【0054】
例えば、上述の水熱合成工程(または、イオン交換工程)を経て得られた粉末状ゼオライトに、シリカ粉末と、成形助剤としてのでんぷんとを混合し、水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性水溶液)を加えて混錬して、塊状の混合物を得る。なお、成形助剤は、でんぷんに限られるものでなく、例えば、水を加えると粘度が高くなるものであって、ゼオライト粉末とシリカ粉末を水とともに混錬した際に、この混合物を塊状とすることができ、かつ、焼成時に例えば略全てが水と二酸化炭素になって成形体からなくなるものであればよく、例えば、PVP(ポリビニルピロリドン)等を用いてもよい。
この混合物を例えば押出成形により円筒状に加工し、120℃で3時間程度乾燥する。次に、空気流通下において、550℃での3時間の焼成を経て、本実施の形態の複合体触媒を得ることができる。
なお、イオン交換工程後に成形化工程を行っても、成形化工程後にイオン交換工程を行ってもよいが、成形化工程後にイオン交換工程を行うことが好ましい。
【0055】
3.イオン交換工程
ゼオライトを触媒として利用する化学反応の多くは、固体酸としての性質を利用したものであり、この酸としての性質はゼオライトに酸性のOH基(ブレンステッド酸点)を導入することで発現する。
【0056】
この酸性質を発現させるため、一般的にイオン交換反応が適用される。通常、水熱合成法により得られたゼオライトは、電荷のバランスを保つためにナトリウムカチオン(Na)を含有しているが、これをイオン交換させることでプロトン(H)に置換えている。なお、一旦、NHNO溶液によりアンモニウムイオン(NH)でイオン交換し、さらに乾燥、焼成してアンモニアを除去することでプロトン(H)に変換する方法をとることもある。例えば、沸騰還流下での硝酸アンモニウム水溶液によるイオン交換とそれに続く水洗浄を4回繰り返した後、120℃での3時間乾燥、空気流通下における550℃での3時間焼成を経て、プロトン型の複合体触媒を得ることができる。
【0057】
成形化工程後にイオン交換工程を行った場合に、このゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造において、コ−ク生成の原因になる芳香族炭化水素の生成を抑制できる可能性がある。また、水熱合成工程の粉末状の結晶性アルミノシリケ−トより成形化工程後の成形されたゼオライト触媒の方が、取り扱いが容易であり、イオン交換工程の作業性を向上できる。
【0058】
このような複合体触媒を用いて、例えばライトナフサから低級オレフィンを製造する製造方法としては、ライトナフサ等の原料ガスを窒素等の不活性ガスや水蒸気等の希釈剤で希釈せずに反応器に供給する。すなわち、炭化水素原料を複合体触媒に接触させて反応させる。なお、原料ガスに希釈剤が含まれてもよく、この場合に複合体触媒に供給されるガスには、ライトナフサ等の炭化水素材料が15wt%以上含まれていることが好ましく、さらに、50wt%以上含まれていることがより好ましい。上述の複合体触媒を反応器内に固定床として配置し、反応器内に供給される原料ガスを、複合体触媒に接触させながら通過させる方法が用いられる。この際に、530℃〜650℃、より好ましくは550℃〜640℃の穏和な温度領域で反応を進行させ、エチレンおよびプロピレンを生成する。
【0059】
また、低級オレフィンの炭化水素原料は、例えば、ライトナフサ等の低沸点炭化水素原料であるが、ナフサ(フルレンジナフサ)とは、原油を常圧蒸留装置によって蒸留分離して得られる製品のうち沸点範囲がおおむね30〜200℃程度のものである。このナフサのうち沸点範囲が30〜100℃程度のものをライト(軽質)ナフサといい、沸点範囲が100〜200℃程度のものをヘビー(重質)ナフサという。また、ライトナフサは、炭素数5のペンタンおよび炭素数6のヘキサンを主成分とする留分に相当する。
【0060】
また、低沸点炭化水素原料は、基本的にはライトナフサであるが、例えば、一部ヘビーナフサを含んでいたり、フルレンジナフサであったりしてもよい。また、低沸点炭化水素原料は、ナフサ以外であってもよく、例えば、石油以外の天然ガスやその他の炭化水素原料で、基本的にライトナフサ相当の留分のものを用いることができる。また、石油や天然ガスから各種製品を製造する際の副産物等も炭化水素原料として利用可能であり、基本的に沸点があまり高くない炭化水素を原料として用いることができる。また、本実施の形態において、低級オレフィンは、炭素数の少ないオレフィンとして、例えば、エチレン、プロピレン、ブテンや、それ以上の炭素数(例えば炭素数5から炭素数8等)のオレフィンを含むように定義される場合があるが、ここでは、低級オレフィンとは、少なくとも炭素数2のエチレンと、炭素数3のプロピレンを含むものである。
【0061】
また、低級オレフィンを生成する反応に際しては、本実施の形態の複合体触媒における原料炭化水素のLHSV(Liquid Hourly Space Velocity:液空間速度)の逆数としての接触時間を0.08〜1.0hとすることが好ましく、さらに、0.08〜0.4hとすることがより好ましい。LHSVとしては、1.0〜12.5h−1とすることが好ましく、さらに、2.5〜12.5h−1とすることがより好ましい。ここでのLHSVとは、複合体触媒に原料炭化水素が液体として供給される際の速度であり、接触時間とは、複合体触媒を原料炭化水素が液体として通過する時間である(複合体触媒に原料が供給される際に、上述のように原料は液体からガス化した状態であるが、ここでは、反応容器に供給されるガス化前の液体としての原料の空間速度を用いている)。なお、空間速度として原料ガス(gas)の空間速度(GHSV)を用いても良いし、重量(weight)の空間速度(WHSV)を用いてもよい。
【0062】
低級オレフィンの製造では、反応温度を高くするほど、炭化水素原料の転化率が高くなり、低級オレフィンの生成量が多くなるとともに、芳香族炭化水素の生成量が多くなるので、加熱の際のエネルギー効率と、低級オレフィンの生産量と、芳香族炭化水素の増加による複合体触媒の寿命との兼ね合いで反応温度を決定する必要があり、上述の範囲とすることにより、複合体触媒の長い寿命を確保するとともに低級オレフィンの安定した生産を確保することができる。
【0063】
また、低級オレフィンの製造では、接触時間を長くするほど、炭化水素原料の転化率が高くなり、低級オレフィンの生成量が多くなるとともに、芳香族炭化水素の生成量が多くなるので、低級オレフィンの生産量と、芳香族炭化水素の増加による複合体触媒の寿命との兼ね合いで接触時間を決定する必要があり、上述の範囲とすることにより、複合体触媒の長い寿命を確保するとともに低級オレフィンの安定した生産を確保することができる。
【0064】
ここで、本実施の形態の複合体触媒を連続使用する場合に、従来に比較して芳香族炭化水素の生成量が少なく、それにより析出炭素の量も少ないことから複合体触媒の寿命が長くなる。長時間の低級オレフィンの生産においては、例えば、低級オレフィンの収率が設定された下限となる値まで低下した場合に、複合体触媒の交換や再生を行うものとすると、低級オレフィンの収率は、時間経過に伴い徐々に低下することになる。そこで、時間経過に対応して、反応温度を高くしたり、接触時間を長くしたり(LHSV(空間速度)を遅くしたり)することにより、低級オレフィンの収率の低下を抑制して、低級オレフィンの収率を長期に渡って安定させることができる。
【0065】
この場合に、反応温度の上昇や空間速度の低下により、芳香族炭化水素の生成量が多くなる虞があるが、芳香側炭化水素の生成量も時間経過に伴って減少しており、反応温度の上昇や空間速度の低下により、芳香族炭化水素の生成量の時間経過に伴う減少傾向を大きく変えることがなく、芳香族炭化水素が増加する可能性が低い。なお、時間の経過に伴う反応温度の上昇と、原料の空間速度の減速(接触時間の増加)とは、それぞれ単独で行っても良いし、反応温度の上昇と空間速度の減速を組合せて行っても良い。また、反応温度の上昇と空間速度の減速を組合せる場合には、それぞれ同じ時期に反応温度の上昇と、空間速度の減速を行ってもよいし、異なる時期に行ってもよい。例えば、連続する製造において、初期は、空間速度の減速を行い、後期は反応温度の上昇を行ったり、その逆としたりしてもよい。また、反応温度の上昇と、空間速度の減速を交互に行ったり、例えば、反応温度の上昇を3回行ったら、空間速度の減速を1回行うなどのように異なる頻度で反応温度の上昇と、空間速度の減速を行ってもよい。
【0066】
次に、本実施の形態の複合体触媒の再生方法を説明する。本実施の形態においては、例えば、アルミナをバインダーとして用いた場合に比較して、少なくとも触媒寿命を3倍から5倍以上に伸ばすことが可能であり、さらに、上述のように反応温度や空間速度(接触時間)を調整することにより、触媒寿命を10倍以上に延ばすことが可能である。しかし、例えば、低級オレフィンの収率が設定された値まで低下した場合に、複合体触媒を交換する必要が生じる。この場合に、複合体触媒の劣化が主にコークの生成による場合に、炭素であるコークを燃焼除去して複合体触媒を再生することが可能である。コークの燃焼除去に際しては、原料ガスに代えて、例えば、不活性ガスとしての窒素で希釈した空気を供給することにより析出した炭素であるコークを燃焼させて二酸化炭素として除去することができる。
【0067】
この場合に、コークが酸素と接触した際に燃焼する温度となっている必要があり、例えば、反応容器の温度を450℃〜600℃とすることが好ましく、さらに、500℃〜550℃とすることがより好ましい。この温度範囲は、上述の反応温度の範囲と重なるが、反応温度の温度範囲より少し低い温度範囲であり、燃焼による発熱があっても、上述のように空気を窒素で希釈して燃焼を抑制することにより、反応容器や複合体触媒に問題が生じないレベルの温度範囲である。複合体触媒の劣化が、主に炭素の析出にあることから、炭素を燃焼除去することで、使用前の初期状態に近い状態に複合体触媒を再生することが可能である。
【0068】
このような本実施の形態の複合体触媒、この複合体触媒の製造方法および低級オレフィンの製造方法にあっては、粉状のゼオライトを成形するために用いられるバインダーをシリカとすることにより、コーク生成を抑制することができる。従って、複合体触媒を用いた低級オレフィンの製造において、530〜650℃程度の温和な温度域(低級オレフィンの製造においては低温域)で、効率良く、かつ、1000時間以上の長期に渡って連続的に低級オレフィンを製造することが可能になる。また、本実施の形態の複合体触媒の再生方法によれば、上述のように長期に渡って使用した複合体触媒を再生して、さらに長期的に複合体触媒を使用することが可能になる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
まず、実施例1のGa、Alを含有するNa型のMFIゼオライト(FeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3))の合成方法を説明する。
コロイダルシリカ58.9g(SiO 30.6wt%、NaO 0.4wt%、HO 69.0wt%)水酸化ナトリウム1.69gからなる溶液をA液、硫酸アルミニウム・n水和物0.19g、硝酸ガリウム・n水和物0.11g、硝酸鉄・9水和物0.24g、臭化テトラプロピルアンモニウム3.10g、精製水187.8gからなる溶液をB液とした。A液とB液を室温で撹拌しながら徐々に混合した後、さらにミキサー中で15分間激しく撹拌した。
【0070】
この混合溶液を60℃に保温して一晩静置した後、オートクレーブ中にて自己圧力下、150℃、72時間、300rpmの条件下で水熱合成反応を行った。冷却後、精製水により十分に洗浄した。その後、120℃で3時間乾燥、空気気流中にて550℃で3時間焼成することで、FeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3(酸密度)、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた(図1参照)。
【0071】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比74wt%/26wt%)の調製方法を説明する。
上記の手順に沿って合成した粉末状のNa型FeGaAl−MFIゼオライト、バインダーとしてのシリカ粉末(エボニックデグサGmbH(有限会社)、製品名:アエロジル200)、成形助剤としてのでんぷんを所定量混合した後、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH濃度4.5wt%)を適量加えながら混練し、塊状のゼオライト/シリカ混合物を得た。その後、押し出し成形器にて円筒状(1.0mmφ)に加工し、120℃での3時間乾燥、空気流通下における550℃での3時間焼成を経て、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を得た。
【0072】
この複合体に、沸騰還流下での2.2mol/L硝酸アンモニウム水溶液によるイオン交換とそれに続く水洗浄を4回施した後(1回当りのイオン交換は2時間とし、毎回新しい2.2mol/L硝酸アンモニウム水溶液と入れ替えた)、120℃での3時間乾燥、空気流通下における550℃での3時間焼成を経て、プロトン型のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒とした。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=74wt%/26wt%となった(図1参照)。
【0073】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比74wt%/26wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を、長さが1.0〜2.0mmの範囲内に収まるように整粒し、性能評価用の触媒試料とした。反応試験はn−ヘキサンの接触分解反応を固定床流通式反応装置にて行った。触媒2.0mL(充填重量としては1.32gとなる。)を内径12.6mmのステンレス反応管(SUS316製)に触媒層の層高が約20mmとなるように充填し、触媒層の前後にガラスウールを、さらにその前後にアルミナビーズを充填した。
【0074】
反応条件は、反応温度565℃、全圧0.1MPa、n−ヘキサンのLHSV(Liquid Hourly Space Velocity)を4.5h−1(n−ヘキサンの供給流量9.0mL/h)として、n−ヘキサン接触分解反応を約340時間行った。反応を開始してから約30時間後に気相および液相生成物を採取してガスクロマトグラフィー分析を行い、原料転化率(wt%)および低級オレフィン(エチレン、プロピレン)と芳香族炭化水素の収率(wt%)を求め、反応初期の触媒性能の指標とした。また、一定時間毎に生成物の採取およびガスクロマトグラフィー分析を行って、触媒性能の経時変化を求めた。さらに、LECO・Carbon分析法(燃焼・非分散型赤外線吸収法による炭素定量分析装置、LECOジャパン製を用いた分析法)により、反応試験後の触媒上への炭素析出量を測定した。本試料の触媒性能のまとめを図2に、触媒性能の経時変化を図5にそれぞれ示す。
【0075】
(実施例2)
次に、実施例2のFeAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Al)=120.3)の合成方法を説明する。
コロイダルシリカ58.9g(SiO 30.6wt%、NaO 0.4wt%、HO 69.0wt%)、水酸化ナトリウム1.69gからなる溶液をA液、硫酸アルミニウム・n水和物 0.29g、硝酸鉄・9水和物0.24g、臭化テトラプロピルアンモニウム3.10g、精製水187.8gからなる溶液をB液とした以外は実施例1と同様にして、Na型のFeAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Al)=120.3、Fe/(Fe+Al)=0.5、Al/(Fe+Al)=0.5と求められた(図1参照)。
【0076】
次に、FeAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比75wt%/25wt%)の調製方法を説明する。
上記の手順に沿って合成した粉末状のNa型FeAl−MFIゼオライト、シリカ粉末、でんぷんを用いて、実施例1と同様の方法によって成形化・イオン交換し、円筒状のプロトン型FeAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒とした。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=75wt%/25wt%となった(図1参照)。
【0077】
次に、FeAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比75wt%/25wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、反応時間を約330時間とした以外は実施例1と同様の方法で性能評価試験を実施した。また、LECO−Carbon分析法により、反応試験後の触媒上への炭素析出量を測定した。本試料の触媒性能のまとめを図2に示す。
【0078】
(比較例1)
次に、比較例1のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた(図1参照)。
【0079】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/アルミナ複合体触媒(Zeolite/Al混合比77wt%/23wt%)の調製方法を説明する。
上記の手順に沿って合成した、粉末状のNa型FeGaAl−MFIゼオライトとアルミナ粉末(日揮触媒化成(株)、カタロイドAP−1、Al含有率71.7wt%)に精製水を適量加えながら混練し、塊状のゼオライト/アルミナ混合物を得た。その後、押し出し成形器にて円筒状(1.0mmφ)に加工し、120℃での3時間乾燥、空気流通下における550℃での3時間焼成を経て、FeGaAl−MFIゼオライト/アルミナ複合体を得た。この複合体に、沸騰還流下での2.2mol/L硝酸アンモニウム水溶液によるイオン交換とそれに続く水洗浄を4回施した後(1回当りのイオン交換は2時間とし、毎回新しい2.2mol/L硝酸アンモニウム水溶液と入れ替えた)、120℃での3時間乾燥、空気流通下における550℃での3時間焼成を経て、プロトン型のFeGaAl−MFIゼオライト/アルミナ複合体触媒とした。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/アルミナ=77wt%/23wt%となった(図1参照)。
【0080】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/アルミナ複合体触媒(Zeolite/Al混合比77wt%/23wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/アルミナ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、n−ヘキサンのLHSVを5.0h−1(n−ヘキサンの供給流量10.0mL/h)、反応時間を約100時間とした以外は実施例1と同様の方法で反応試験を実施した。また、LECO−Carbon分析法により、反応試験後の触媒上への炭素析出量を測定した。本試料の触媒性能のまとめを図2に、触媒性能の経時変化を図5にそれぞれ示す。
【0081】
FeGaAl−MFIゼオライトとアルミナバインダーで成形複合化した試料では(比較例1)、初期プロピレン収率は約18wt%という高い値を示したが、図5の経時変化からわかるように、80時間を経過した頃から収率の低下が見られ、100時間経過時においては明白な触媒性能の低下が確認された。一方、バインダーにシリカを用い、比較例1の試料と略同じ混合比にて成形複合化した試料では(実施例1)、初期プロピレン収率は若干低いものの、芳香族の収率は低く抑えられ、結果として340時間以上の長い触媒寿命が達成された(図5参照)。
【0082】
反応試験後に触媒上へ析出したカーボン量を測定したところ、アルミナバインダーを用いた試料では100時間で24wt%、シリカバインダーを用いた試料では340時間で4.8wt%となり(図2)、析出カーボン量は1/5以下にまで低減されることがわかった。また、FeGaAl−MFIゼオライトについても、シリカバインダーで成形複合化した試料(実施例2)を用いることで、同様の効果が見られた(図2)。シリカバインダーで成形複合化することで、ゼオライトの外表面酸点が被覆・不活性化され、芳香族の生成が抑えられることでカーボン析出抑制能が著しく向上し、結果として長い触媒寿命を与えることが確認された。
【0083】
(実施例3)
次に、実施例3のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法について説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた(図3参照)。
【0084】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比68wt%/32wt%)の調製方法を説明する。
上記の手順に沿って合成した粉末状のNa型FeGaAl−MFIゼオライト、シリカ粉末、でんぷんを用いて、実施例1と同様の方法によって成形化・イオン交換し、混合比を変えた円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=68wt%/32wt%となった(図3参照)。
【0085】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比68wt%/32wt%)の性能評価試験方法について説明する。
上記の手順に沿って調製した円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を、長さが1.0〜2.0mmの範囲内に収まるように整粒し、性能評価用の触媒試料とした。反応試験はn−ヘキサンの接触分解反応を固定床流通式反応装置にて行った。触媒1.44g(ゼオライト含有量0.98g:充填容積としては2.0mLとなる)を内径12.6mmのステンレス反応管(SUS316製)に充填し、触媒層の前後にガラスウールを、さらにその前後にアルミナビーズを充填した。
【0086】
反応条件は、反応温度565℃、全圧0.1MPa、n−ヘキサンのWHSV(Weight Hourly Space Velocity)を6.0h−1(n−ヘキサンの供給流量5.9g/h)として、n−ヘキサン接触分解反応を約360時間行った。反応を開始してから約30時間後に気相および液相生成物を採取してガスクロマトグラフィー分析を行い、原料転化率(wt%)および低級オレフィン(エチレン、プロピレン)と芳香族炭化水素の収率(wt%)を求め、反応初期の触媒性能の指標とした。また、一定時間毎に生成物の採取およびガスクロマトグラフィー分析を行って、触媒性能の経時変化を求めた。さらに、LECO−Carbon分析法により、反応試験後の触媒上への炭素析出量を測定した。本試料の触媒性能のまとめを図4に示す。
【0087】
(実施例4)
次に、実施例4のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた(図3参照)。
【0088】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法を説明する。
上記の手順に沿って合成した粉末状のNa型FeGaAl−MFIゼオライト、シリカ粉末、でんぷんを用いて、実施例1と同様の方法によって成形化・イオン交換し、混合比を変えた円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった(図3参照)。
【0089】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、触媒充填量を1.09g(ゼオライト含有量0.98g:充填容積としては2.0mLとなる)、反応時間を約480時間とした以外は実施例3と同様の方法で反応試験を実施した。また、LECO−Carbon分析法により、反応試験後の触媒上への炭素析出量を測定した。
【0090】
本試料の触媒性能のまとめを図4に、触媒性能の経時変化を図5にそれぞれ示す。
図4は混合組成が異なるFeGaAl−MFI/SiO複合体触媒の性能についてまとめたものである。ゼオライトの含有率が異なる試料を3種類調製(68wt%,74wt%,90wt%)し、初期性能について検討したところ、ゼオライトの含有率が高くなるにしたがい、反応転化率、低級オレフィン収率、芳香族収率は増加した。また、どの試料を用いても芳香族収率は5.0wt%以下の低い値に抑えられ、結果として340時間以上の長い触媒寿命を実現した。とりわけ、高いゼオライト含有率(90wt%)を有する試料(実施例4)においても、初期芳香族収率は4.6wt%と低く抑えられ、480時間以上の極めて長い触媒寿命が達成された(図5参照)。
従って、シリカバインダーによる複合体触媒は、幅広いシリカ混合率(10〜30wt%程度)で高いプロピレン収率と長い触媒寿命を同時に与えることが確認された。
【0091】
(実施例5)
次に、実施例5のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0092】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法を説明する。
実施例4と同様にして、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった(図6参照)。
【0093】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法について説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、n−ヘキサンのLHSVを6.0h−1(n−ヘキサンの供給流量12.0mL/h)、反応時間を約30時間(サンプリングは反応を開始してから5、24、30時間後に実施した)とした以外は実施例4と同様の方法で反応試験を実施した。本試料の初期触媒性能を図6に示す。
【0094】
(実施例6)
次に、実施例6のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0095】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法について説明する。
実施例4と同様にして、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった(図6参照)。
【0096】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、n−ヘキサンのLHSVを7.0h−1(n−ヘキサンの供給流量14.0mL/h)、反応時間を約30時間(サンプリングは反応を開始してから5、24、30時間後に実施した)とした以外は実施例4と同様の方法で反応試験を実施した。本試料の初期触媒性能を図6に示す。
【0097】
(比較例2)
次に、比較例2のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0098】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法を説明する。
実施例4と同様にして、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった(図6参照)。
【0099】
次に、比較例2としてのFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、n−ヘキサンのLHSVを15.0h−1(n−ヘキサンの供給流量30.0mL/h)、反応時間を約30時間(サンプリングは反応を開始してから5、24、30時間後に実施した)とした以外は実施例4と同様の方法で反応試験を実施した。本試料の初期触媒性能を図6に示す。
【0100】
図6はFeGaAl−MFI/SiO複合体触媒の初期性能におけるLHSV(接触時間)の影響についてまとめたものである。実施例4を基準として4.5→6.0→7.0→15.0h−1とLHSVを上げる(接触時間を短くする)にしたがい、反応転化率、低級オレフィン収率、芳香族収率は徐々に低下したが、LHSV 4.5〜7.0h−1でのプロピレン収率の低下はごく僅かであった(15.6→15.1wt%)。一方、芳香族収率は約半分にまで低下した(4.6→2.2wt%)。従って、シリカバインダーを用いた複合体触媒は、広いLHSV(接触時間)領域にて15wt%を超える高いプロピレン収率を与えることが確認された。なお、図6では、n−ヘキサンとの接触時間を、LHSVの逆数を示しており、LHSV4.5,6.0、7.0、15.0h−1の逆数として、0.23(実施例4)、017(実施例5)、0.14(実施例6)、0.07(比較例2)に設定して実験を行っている。
【0101】
(実施例7)
次に、実施例7のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0102】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法を説明する。
実施例4と同様にして、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった(図7参照)。
【0103】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、反応温度を585℃、反応時間を約15時間(サンプリングは反応を開始してから5、15時間後に実施した)とした以外は実施例5と同様の方法で反応試験を実施した。本試料の初期触媒性能を図7に示す。
【0104】
(実施例8)
次に、実施例8のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0105】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法について説明する。
実施例4と同様にして、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった(図7参照)。
【0106】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、反応温度を635℃、反応時間を約15時間(サンプリングは反応を開始してから5、15時間後に実施した)とした以外は実施例5と同様の方法で反応試験を実施した。本試料の初期触媒性能を図7に示す。
【0107】
図7はFeGaAl−MFI/SiO複合体触媒の初期性能における反応温度の影響についてまとめたものである。実施例5を基準として565℃→585℃→635℃と温度を上げるにしたがい、反応転化率、低級オレフィン収率、芳香族収率は向上し、635℃ではエチレン収率13.3wt%、プロピレン収率20.5wt%もの高い低級オレフィン収率を達成した。一方、芳香族収率は635℃においても6.5wt%であり、アルミナバインダーとの複合体触媒(比較例1)を用いた565℃での反応試験における値(7.3wt%, 図2参照)よりも低くなった。従って、シリカバインダーを用いた複合体触媒は、600℃を超える高い反応温度で接触分解に供しても芳香族生成を抑えつつ高い低級オレフィン収率を与えることが確認された。
【0108】
(実施例9)
次に、実施例9のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=121.3)の合成方法を説明する。
実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=121.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0109】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の調製方法を説明する。
実施例4と同様にして、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=90wt%/10wt%となった。
【0110】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比90wt%/10wt%)の性能評価試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とした。実施例1〜8と同一の反応試験装置を使用し、触媒充填量を2.0mL、全圧を0.1MPaとした上で(触媒の充填方法も実施例1〜8と同様)、下記の操作条件にて約1,000時間のn−ヘキサン接触分解反応を実施した。
【0111】
Step1(反応開始〜約200時間):反応温度を565℃とし、n−ヘキサンのLHSVを7.0h−1とした。
Step2(反応開始後約200時間〜約380時間):反応温度565℃のままとし、n−ヘキサンのLHSVを6.0h−1としてn−ヘキサンとの接触時間を延ばした。
Step3(反応開始後約380時間〜約540時間):反応温度565℃のままとし、n−ヘキサンのLHSVを5.0h−1としてn−ヘキサンとの接触時間を延ばした。
Step4(反応開始後約540時間〜約620時間):反応温度565℃のままとし、n−ヘキサンのLHSVを4.5h−1としてn−ヘキサンとの接触時間を延ばした。
【0112】
Step5(反応開始後約620時間〜約740時間):反応温度570℃に上げ、n−ヘキサンのLHSVを4.5h−1に保持した。
Step6(反応開始後約740時間〜約835時間):反応温度580℃に上げ、n−ヘキサンのLHSVを4.5h−1に保持した。
Step7(反応開始後約835時間〜約920時間):反応温度585℃に上げ、n−ヘキサンのLHSVを4.5h−1に保持した。
Step8(反応開始後約920時間〜約1,000時間):反応温度595℃に上げ、n−ヘキサンのLHSVを4.5h−1に保持した。
【0113】
上記の操作条件下で反応を開始した後、一定時間毎に生成物の採取およびガスクロマトグラフィー分析を行い、触媒性能の経時変化を求めた。本試料の触媒性能の経時変化を図8(n−ヘキサンの転化率およびエチレン収率/プロピレン収率の経時変化)と図9(n−ヘキサンの転化率および芳香族炭化水素収率の経時変化)に示す。
【0114】
実施例4〜8での検討結果から、LHSVが4.5〜7.0h−1(反応温度は565℃に固定)の領域ではプロピレン収率の低下はごく僅かであること、ならびに反応温度が635℃程度までは芳香族収率が低く抑えられる(LHSVは6.0h−1に固定)という知見を得た。そこで、芳香族生成(触媒寿命)に大きく影響するこれらの操作因子を適切に組合せることで、触媒寿命がどの程度まで延長可能であるかを検討した。触媒試料は実施例4〜8で用いたFeGaAl−MFI/SiO複合体触媒とし、反応開始時の条件は芳香族収率がより低く抑えられるように、反応温度を565℃に設定し、LHSVを7.0h−1に設定して反応を開始し、触媒性能(反応転化率)の低下に合わせてLHSVを順次7.0→6.0→4.5h−1と下げる(接触時間を長くする)ことで補償操作を行い、反応転化率を上げてプロピレン収率を維持させた。その後は、LHSVを4.5h−1に固定して、反応温度を565℃→570℃→580℃→585℃→595℃と順次上げることで補償操作を行い、同様に反応転化率を上げてプロピレン収率を維持させた。これらの条件操作により、触媒寿命は1,000時間以上持続可能であることが確認された(図8および図9参照)。
【0115】
(実施例10)
次に、実施例10のFeGaAl−MFIゼオライト(Si/(Fe+Ga+Al)=31.3)の合成方法を説明する。
コロイダルシリカ58.9g (SiO 30.6wt%、NaO 0.4wt%、HO 69.0wt%)、水酸化ナトリウム2.25gからなる溶液をA液、硫酸アルミニウム・n水和物0.76g、硝酸ガリウム・n水和物0.44g、硝酸鉄・9水和物0.98g、臭化テトラプロピルアンモニウム4.65g、精製水187.2gからなる溶液をB液とした以外は実施例1と同様にして、Na型のFeGaAl−MFIゼオライトを合成した。このゼオライトの元素モル組成比は蛍光X線測定により、Si/(Fe+Ga+Al)=31.3、Fe/(Fe+Ga+Al)=0.4、Ga/(Fe+Ga+Al)=0.3、Al/(Fe+Ga+Al)=0.3と求められた。
【0116】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比65wt%/35wt%)の調製方法を説明する。
上記の手順に沿って合成した粉末状のNa型FeGaAl−MFIゼオライト、シリカ粉末、でんぷんを用いて、実施例3と同様の方法によって成形化・イオン交換し、円筒状のプロトン型FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒を調製した。この複合体触媒の重量組成は蛍光X線測定により、ゼオライト/シリカ=65wt%/35wt%となった。
【0117】
次に、FeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体触媒(Zeolite/SiO混合比65wt%/35wt%)の触媒再生試験方法を説明する。
上記の手順に沿って調製した、円筒状のFeGaAl−MFIゼオライト/シリカ複合体を1.0〜2.0mmに整粒したものを性能評価用の触媒試料とし、反応時間を約45時間(サンプリングは反応を開始してから2、20、28、32、44時間後に実施した)とした以外は実施例1と同様の方法で反応試験を実施した。また、反応開始後約45時間が経過した時点で一旦反応試験を停止し、下記の操作条件にて触媒の再生処理(触媒上へ析出したカーボンの燃焼除去処理)を実施した。
【0118】
Step1:n−ヘキサン原料の反応器への供給を停止し、窒素流通下で常温まで自然冷却した。
Step2:窒素で希釈された空気(酸素濃度0.5vol%)を約67NL/hの流量で供給しながら、触媒層温度を徐々に約100℃まで昇温させた後、1時間保持した。
Step3:窒素で希釈された空気(酸素濃度0.5vol%)を約67NL/hの流量で供給しながら、触媒層温度を徐々に約350℃まで昇温させた後、1時間保持した。
Step4:窒素で希釈された空気(酸素濃度0.5vol%)を約67NL/hの流量で供給しながら、触媒層温度を徐々に約450℃まで昇温させた後、2時間保持した。
Step5:窒素で希釈された空気(酸素濃度1.0vol%)を約67NL/hの流量で供給しながら、触媒層温度を徐々に約500℃まで昇温させた後、18時間保持した。
Step6:窒素で希釈された空気(酸素濃度2.0vol%)を約67NL/hの流量で供給しながら、触媒層温度を約500℃で1時間保持した。
Step7:窒素で希釈された空気(酸素濃度2.0vol%)を約67NL/hの流量で供給しながら、触媒層温度を徐々に約535℃まで昇温させた後、2時間保持した。
Step8:流通ガスを純窒素に切替えた後、触媒層の加熱を停止して常温まで自然冷却した。
【0119】
上記の触媒再生処理を実施した後、生成物のサンプリング周期(反応を開始してから2、5、20、27、44時間後に実施した)以外は初回と同一の条件下にて反応試験を再開した。図10は触媒性能(n−ヘキサンの転化率)の経時変化を示している。
【0120】
本実施例では触媒の再生について検討した。本実施例においては、反応原料にはスチーム等の希釈剤は使用せず、炭化水素原料のみを触媒に供給しているため、触媒活性の劣化要因は基本的にカーボン析出のみと考えてよい。従って、析出したカーボンを除去すれば触媒活性は回復し、繰り返し使用が可能である。そこで、触媒反応試験を行い(本実施例では酸密度が大きい試料(Si/(Fe+Ga+Al)=31.3)を用いることで、短時間で触媒活性を低下させた)、活性低下が観測された時点で一旦反応を停止し、上記の操作方法(Step1〜8)に沿って希釈された空気(酸素濃度:0.5〜2.0vol%)を供給し、カーボンを燃焼除去した。
【0121】
再生処理後に反応試験を再開したところ、反応転化率は1回目の反応試験と同様の履歴をたどって推移したことが観測されたため(図10参照)、カ−ボンの燃焼除去処理が適切に為されていることが確認された。従って、本発明により、シリカバインダーと成形複合化したFeGaAl−MFIゼオライトあるいはFeAl−MFIゼオライトを適切な条件下で用いることで、効率良いプロピレン生成が極めて長時間持続されるとともに、活性が低下した触媒はカ−ボンの燃焼除去処理により再生され、繰り返し使用が可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10