(54)【発明の名称】アルミナおよびこれを含有するスラリー、ならびにこれを用いたアルミナ多孔膜、積層セパレータ、非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4に記載のアルミナスラリーを正極、負極またはセパレータの少なくとも一つの表面に塗工した後、乾燥させてアルミナ多孔膜を形成する工程を含む非水電解液二次電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るアルミナおよびこれを含有するスラリー、ならびにこれを用いたアルミナ多孔膜、積層セパレータ、非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法について詳しく説明する。本発明のかかるアルミナは、二つの態様があるので、第1の態様と第2の態様とを区別して説明するが、両方の態様に共通する事項は共通事項として述べる。
【0029】
本発明の第1の態様のアルミナ
本発明の第1の態様に係るアルミナは、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上を、合計で200〜50000質量ppm含有し、前記1種以上の元素の表面濃度が、合計で0.5〜20at%(原子%)である。
以下、各構成について詳述する。
【0030】
[K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上:合計で200〜50000質量ppm]
本発明の第1の態様に係るアルミナは、当該元素からなる群から選択される1種以上を、合計で200〜50000質量ppm含有する。当該元素が少ないと電解液安定性が劣化し、一方、多すぎると、当該元素が過剰となることにより、当該元素の凝集物が生成し、生成した凝集物がアルミナ多孔膜の孔を閉塞して、イオン透過性を低下させる恐れがある。
【0031】
当該元素の含有量は、500質量ppm以上であることが好ましく、2000質量ppm以上であることがより好ましく、20000質量ppm以下であることが好ましく、10000質量ppm以下であることがより好ましい。
【0032】
[K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上の元素の表面濃度:合計で0.5〜20at%]
本発明者らは、アルミナ表面における当該元素の濃度を測定するための手段としてX線光電子分光法を用い、アルミナ表面における当該元素の濃度を制御し、電解液安定性について検討を行った。その結果、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上の元素の表面濃度を、合計で0.5〜20at%であるように制御することにより、電解液安定性に優れたアルミナを得ることができることを見出した。当該元素のアルミナ表面濃度が小さいと、当該元素が不足することにより電解液安定性が劣化し、一方、大き過ぎると、当該元素が過剰となることにより、アルミナ表面との結合が不十分となった当該元素成分が遊離し、電池充放電時のイオン輸送を阻害する恐れがある。
【0033】
本明細書において、「表面濃度」とは、X線光電子分光法で測定したアルミナ表面における元素の濃度を意味する。なお、X線光電子分光法において測定される元素は、通常、試料表面から数nm程度である。X線源としては、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaを測定できるものであれば特に限定されないが、AlKα線を用いるのが好ましい。
【0034】
当該元素のアルミナ表面濃度は、1at%以上であることが好ましく、3at%以上であることがより好ましく、15at%以下であることが好ましく、10at%以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明の第1の態様に係るアルミナは、特に限定はされず、αアルミナ、γアルミナ、ηアルミナ、θアルミナ、δアルミナ、χアルミナまたはκアルミナであってよく、また、結晶水を含有するようなアルミナ水和物として、ベーマイト、ジアスポア、ギブサイト、バイヤライトまたはノルストランダイトであってもよい。これらは1種でもよく、2種以上を混合してもよい。それらの中でも、絶縁性および耐熱性に優れ、化学的に安定なαアルミナが好ましい。本発明でいうαアルミナは、α相を主結晶相とするアルミナのことを指し、他の結晶相のアルミナやアルミナ水和物等を含んでいても、α相が主結晶相であるものはαアルミナと称する。結晶相は例えば粉末X線回折法などにより特定が可能である。粉末X線回折法により、回折角度2θが10〜70degの範囲を測定して得られるすべての回折ピークのうち、最も強度の大きいピークがα相のアルミナに帰属される場合を、α相を主結晶相とするアルミナと称する。
【0036】
本発明の第1の態様に係るアルミナは、粒子の形態で用いるのが好ましい。本発明の第1の態様に係るアルミナにおいて、アルミナを構成する全てのアルミナ粒子の数に対して、1.0μmより小さい粒子径を有するアルミナ粒子の割合が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることが最も好ましい。また、当該割合の上限は特に限定されず、100%であってもよい。当該割合を有するアルミナを用いることにより、アルミナ多孔膜の空隙率を好ましい範囲に制御することができ、イオン透過性および電解液保持性能に優れたアルミナ多孔膜を得ることができる。アルミナ粒子の粒径分布は、レーザー粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折法により測定することができる。
【0037】
また、当該割合を有するアルミナから得られたアルミナ多孔膜においては、アルミナ粒子同士の接点が増えるため、好ましい空隙率を維持しながらも強固な3次元ネットワークを形成することができる。その結果、アルミナ多孔膜の強度が高く、またアルミナの粉落ちが少なくなるため、例えば、セパレータの耐熱性および寸法安定性が向上し、より安全性の高い非水電解液二次電池を得ることができる。
【0038】
本発明の第1の態様に係るアルミナの純度は、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaを除いた他の成分中、通常99質量%以上であり、99.9質量%以上が好ましい。
なお、本発明の第1の態様に係るアルミナの「純度」は、アルミナ100質量%中に含まれるK、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量並びにSiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量を用いて、下記式(III)から算出される。その測定法は、アルミナがαアルミナである場合を例として実施例にて後述する。
純度(質量%)
=100×{100−(K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量の総和[質量%])−(SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量の総和[質量%])}÷{100−(K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量の総和[質量%])}
式(III)
特に本発明の第1の態様に係るアルミナがαアルミナである場合、例えば電池用途においてその純度が99質量%を下回ると、αアルミナに含まれるSi、NaまたはFe等が多くなり、良好な電気絶縁性が得られなくなるばかりでなく、短絡の原因となる金属性異物の混入量が多くなり好ましくない。
【0039】
本発明の第1の態様に係るアルミナのBET比表面積は、好ましくは1m
2/g以上であり、より好ましくは5m
2/g以上であり、好ましくは20m
2/g以下、より好ましくは15m
2/g以下である。BET比表面積が大きいと、後述の方法にてアルミナ多孔膜を作製する際に、バインダーとの結着性が向上し、強度の高いアルミナ多孔膜が得られる。しかし、BET比表面積が大き過ぎると、後述の方法にてアルミナ多孔膜を作製する際に、乾燥による水分の除去が困難となり、電池への持込み水分が増えるため好ましくない。
【0040】
αアルミナの製造方法としては、例えば、バイヤー法で製造された水酸化アルミニウムを焼成する方法;アルミニウムアルコキシド法で製造された水酸化アルミニウムを焼成する方法;有機アルミニウムを使って、合成する方法;その原料に遷移アルミナまたは熱処理により遷移アルミナとなるアルミナ粉末を、塩化水素を含有する雰囲気ガス中にて焼成する方法;特開平11−049515号公報、特開2010−150090号公報、特開2008−100903号公報、特開2002−047009号公報または特開2001−354413号公報などに記載の方法などが挙げられる。
【0041】
バイヤー法としては、過飽和状態のアルミン酸ナトリウム水溶液を製造し、この水溶液に種子を添加して水溶液中に含まれるアルミ分を析出させ、得られた水酸化アルミニウムを含むスラリーを洗浄し、それを乾燥させることにより乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを得る方法などが挙げられる。
【0042】
得られた乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを焼成することにより、目的とするαアルミナを得ることができる。
水酸化アルミニウムの焼成は通常、焼成容器に充填して行われる。焼成容器としては、例えば鞘または匣鉢などが挙げられる。
また、焼成容器の材質は、得られるαアルミナの汚染防止の観点からアルミナであることが好ましく、特に高純度のαアルミナであるのがよい。ただし、焼成容器の耐熱性および使用サイクル特性の観点から、適切な範囲でシリカ成分などを含むものを用いてもよい。
水酸化アルミニウムの焼成容器への充填方法は特に制限されないが、自重で充填してもよいし、圧密してから充填してもよい。
【0043】
水酸化アルミニウムの焼成に用いる焼成炉としては、例えば、トンネルキルン、回分式通気流型箱型焼成炉、回分式並行流型箱型焼成炉などに代表される材料静置型焼成炉、ロータリーキルンまたは電気炉などが挙げられる。
【0044】
水酸化アルミニウムの焼成温度、焼成温度までの昇温速度及び焼成時間は、所望の物性を有するαアルミナとなるように適宜選定する。
【0045】
水酸化アルミニウムの焼成温度は、例えば1000℃以上1450℃以下、好ましくは1000℃以上1350℃以下であり、この焼成温度まで昇温するときの昇温速度は、通常30℃/時間以上500℃/時間以下であり、水酸化アルミニウムの焼成時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上20時間以下である。
【0046】
水酸化アルミニウムの焼成は、例えば大気雰囲気中の他、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼成してもよく、プロパンガスなどの燃焼によって焼成するガス炉のように、水蒸気分圧が高い雰囲気中で焼成してもよい。通常、水蒸気分圧が高い雰囲気中で焼成すると大気雰囲気中とは違い、その水蒸気の効果により、得られる粒子は焼き締まり易くなる。
【0047】
得られた焼成後のαアルミナは、平均粒子径が10μmを超えた状態で凝集している場合がある。その場合は平均粒子径が1.0μmより小さくなるように解砕することが好ましい。
【0048】
その場合の解砕は、例えば振動ミル、ボールミルおよびジェットミルなどの公知の装置を用いて行うことができ、乾式状態で解砕する方法、および、湿式状態で解砕する方法のいずれも採用することができる。また、乾式状態で解砕する場合において生産性向上を目的として公知の助剤を添加したり、分級装置を組み合わせたりしてもよい。
【0049】
解砕するための条件は、特に限定されないが、ボールミルを用いる場合には、ミル最外周の周速は、例えば、0.1m/s以上10m/s以下、好ましくは、0.5m/s以上5m/s以下であり、ミル時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上20時間以下である。粉砕メディアとして使用するボール直径は、例えば、0.5mm以上50mm以下、好ましくは、5mm以上50mm以下である。粉砕メディアの材質としては特に制限はなく、アルミナボールやジルコニアボール、チタニアボール、鉄芯入り樹脂ボール等が使用できるが、異種元素の混入防止や耐摩耗性の点からアルミナボールが好ましい。
【0050】
本発明の第1の態様において、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上をアルミナに含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、それらの酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩または硝酸塩(以下、酸化物等ということがある)をアルミナに添加して混合した後、得られた混合物を焼成する方法であってよい。
【0051】
当該酸化物等は、固体またはその溶液としてアルミナに添加してよい。当該溶液の調整に用いる溶媒は、当該酸化物等の溶解度および濃度等を考慮して、適切に選択してよい。
【0052】
当該酸化物等の添加後の混合方法は、特に限定されないが、ボールミルや混合ミキサーを用いたり、アルコール溶液中に超音波で分散して蒸発乾固させたりすることで行ってもよく、ボールミル等によるアルミナの解砕時に同時に行われてよい。
【0053】
当該酸化物等をアルミナ表面に固定化させるため、得られた混合物を加熱することが好ましい。加熱条件は、特に限定されないが、乾燥炉や焼成炉などの加熱装置を用いて行うことができ、ボールミル等による混合時に同時に加熱してもよく、加熱温度は、例えば、100℃以上1000℃以下、好ましくは400℃以上800℃以下であり、この加熱温度まで昇温するときの昇温速度は、通常30℃/時間以上500℃/時間以下であり、加熱時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上5時間以下である。ただし、加熱温度が1000℃を超えると、アルミナの焼結が進行して粒子界面に添加元素が取り込まれる等により、アルミナ表面におけるK、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの濃度が低下する恐れがあるため、加熱温度は1000℃以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の第1の態様に係るアルミナは、さらに表面処理等が施されていてもよい。表面処理方法としては、本発明により得られる効果が著しく損なわれない限りは特に限定されないが、カップリング剤、界面活性剤などの表面処理剤を用いる方法が挙げられる。カップリング剤として、その分子構造内にアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などの官能基を有していてもよい。これらの官能基を有するカップリング剤でアルミナを表面処理することにより、バインダーとの結着性が向上したり、後述のアルミナスラリー中のアルミナの分散性が向上するなどの効果がある。
【0055】
本発明の第1の態様に係るアルミナは、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナであり、本発明の前記目的の観点から、好ましくはMg、Ca、Sr、BaおよびLaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナであり、さらに好ましくはMg、CaおよびLaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナである。本発明の第1の態様に係るアルミナは、空気中の水分に対する反応耐性の観点から、よりさらに好ましくはMgおよびLaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナであり、水中に分散させたときの元素溶出耐性の観点から、特に好ましくはMgを含むアルミナである。本発明の第1の態様に係るアルミナは、K、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナ、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナ、またはMgおよびCaからなる群から選択される1種以上を含むアルミナであってもよい。
【0056】
本発明の第2の態様のアルミナ
本発明の第2の態様に係るアルミナは、フーリエ変換赤外分光法により得られるアルミナの赤外吸収スペクトルにおいて、3400cm
−1および3500cm
−1における強度を結ぶ線分をベースラインとして、当該ベースラインよりも強度が大きく、且つ半値幅が90cm
−1以下であるピークが、3400〜3500cm
−1の範囲に無い。このような赤外吸収スペクトルを有する本発明の第2の態様に係るアルミナは、アルミナ表面におけるアルミナ三水和物中の水和水の量が少なく、優れた電解液安定性を有する。一方、3400〜3500cm
−1の範囲に当該ピークを有する場合、当該水和水の量が多くなるため、リチウムイオン二次電池等で汎用的に使用される電解質と当該水和水との反応が促進され、ガス成分が発生しやすくなる。
【0057】
3400〜3500cm
−1の範囲に現れる吸収は、アルミナ三水和物中の水和水のOH基に起因するものであり、アルミナ三水和物として、ギブサイト、バイヤライトまたはノルストランダイトが挙げられ、Al
2O
3・3H
2OあるいはAl(OH)
3で表される。アルミナ表面に存在するアルミナ三水和物中の水和水の量を低減させることにより、優れた電解液安定性が得られる。
【0058】
本発明の第2の態様に係るアルミナは、熱重量分析において、下記式(I)で表されるアルミナの質量減少率Aが0.3%以下であってよく、且つ下記式(II)で表されるアルミナの質量減少率Bが0.05%以下であってよい。
質量減少率A[%]
=(25℃におけるアルミナの質量[g]−150℃におけるアルミナの質量[g]) ÷ 25℃におけるアルミナの質量[g]×100 式(I)
質量減少率B[%]
=(200℃におけるアルミナの質量[g]−260℃におけるアルミナの質量[g]) ÷ 25℃におけるアルミナの質量[g]×100 式(II)
150℃までの加熱で質量減少が生じるのは、アルミナ表面に吸着している水成分等が脱離するためであり、質量減少率Aを0.3%以下にすることにより、使用状態における電池が高温になった際にもアルミナから脱離する水成分等を少なくすることができ、結果的に電解質や電解液の分解が抑制され、電池の長寿命化につながる。また、200℃〜260℃の温度範囲で質量減少が生じるのは、アルミナ三水和物中の水和水が水成分として脱離するためであり、質量減少率Bを0.05%以下にすることにより、アルミナ表面に存在するアルミナ三水和物中の水和水の量をより低減させることができ、さらに優れた電気安定性が得られる。
【0059】
電池内への水成分持込みを最小限化する観点から、質量減少率Aは、0.3%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることがさらに好ましい。質量減少率Aは、小さいほど好ましいが、通常、0.01%以上である。
さらに優れた電気安定性を得る観点から、質量減少率Bは、0.05%以下であることがより好ましく、0.02%以下であることがさらに好ましい。質量減少率Bは、小さいほど好ましいが、通常、0.001%以上である。
【0060】
また、200〜260℃の範囲におけるアルミナの10℃あたりの質量減少率、すなわち、下記式(IV)で表されるアルミナの質量減少率Cの最大値が0.01%以下であることが好ましい。当該最大値を0.01%以下とすることにより、電池が高温になった際に、アルミナと電解液との反応によるガス発生をさらに抑制することができる。
質量減少率C[%]
=(t[℃]におけるアルミナの質量[g]−(t+10)[℃]におけるアルミナの質量[g]) ÷ t[℃]におけるアルミナの質量[g]×100 式(IV)
ここで、200≦t≦250である。
【0061】
熱重量分析の条件としては、25℃より低い温度から昇温を開始し、且つ260℃より高い温度で昇温を終了する連続した測定である限りは特に限定されず、昇温速度は、例えば5℃/分〜20℃/分で適宜選択してよい。測定するアルミナは、測定前にあらかじめ80℃以上100℃以下の温度で8時間以上乾燥させたのち、JIS Z8703−1983(試験場所の標準状態)の標準温度状態2級および標準湿度状態2級(温度23±2℃、相対湿度50±5%)において24時間以上状態調整してから熱重量分析を行う。
【0062】
本発明の第2の態様に係るアルミナの純度は、通常99質量%以上であり、99.9質量%以上が好ましい。
なお、本発明の第2の態様に係るアルミナの「純度」は、アルミナ100質量%中に含まれるSiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量を用いて、下記式(V)から算出される。その測定法は、アルミナがαアルミナである場合を例として実施例にて後述する。
純度(質量%)
=100−(SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量の総和[質量%])
式(V)
【0063】
特に本発明の第2の態様に係るアルミナがαアルミナである場合、例えば電池用途においてその純度が99質量%を下回ると、αアルミナに含まれるSi、NaまたはFe等が多くなり、良好な電気絶縁性が得られなくなるばかりでなく、短絡の原因となる金属性異物の混入量が多くなり好ましくない。
【0064】
本発明の第2の態様に係るアルミナは、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの合計の含有量が、200質量ppm未満であることが好ましく、150質量ppm以下であることがより好ましく、100質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明の第2の態様に係るアルミナのBET比表面積は、好ましくは1m
2/g以上であり、より好ましくは5m
2/g以上であり、好ましくは20m
2/g以下、より好ましくは15m
2/g以下である。BET比表面積が大きいと、後述の方法にてアルミナ多孔膜を作製する際に、バインダーとの結着性が向上し、強度の高いアルミナ多孔膜が得られる。しかし、BET比表面積が大き過ぎると、後述の方法にてアルミナ多孔膜を作製する際に、乾燥による水分の除去が困難となり、電池への持込み水分が増えるため好ましくない。
【0066】
本発明の第2の態様に係るアルミナは、特に限定はされず、αアルミナ、γアルミナ、ηアルミナ、θアルミナ、δアルミナ、χアルミナまたはκアルミナであってよい。また、本発明の第2の態様に係るアルミナは、本発明により得られる効果が著しく損なわれない限度で、結晶水を含有するようなアルミナ一水和物(Al
2O
3・H
2OあるいはAlO(OH)で表される)、すなわちベーマイトまたはジアスポアを含み得る。これらは1種でもよく、2種以上を混合してもよい。それらの中でも、絶縁性および耐熱性に優れ、化学的に安定なαアルミナが好ましい。本発明でいうαアルミナは、α相を主結晶相とするアルミナのことを指し、他の結晶相のアルミナやアルミナ水和物等を含んでいても、α相が主結晶相であるものはαアルミナと称する。結晶相は例えば粉末X線回折法などにより特定が可能である。粉末X線回折法により、回折角度2θが10〜70degの範囲を測定して得られるすべての回折ピークのうち、最も強度の大きいピークがα相のアルミナに帰属される場合を、α相を主結晶相とするアルミナと称する。
【0067】
本発明の第2の態様に係るアルミナは、粒子の形態で用いるのが好ましい。本発明の第2の態様に係るアルミナにおいて、アルミナを構成する全てのアルミナ粒子の数に対して、1.0μmより小さい粒子径を有するアルミナ粒子の割合が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることが最も好ましい。また、当該割合の上限は特に限定されず、100%であってもよい。当該割合を有するアルミナを用いることにより、アルミナ多孔膜の空隙率を好ましい範囲に制御することができ、イオン透過性および電解液保持性能に優れたアルミナ多孔膜を得ることができる。アルミナ粒子の粒径分布は、レーザー粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折法により測定することができる。
また、当該割合を有するアルミナから得られたアルミナ多孔膜においては、アルミナ粒子同士の接点が増えるため、好ましい空隙率を維持しながらも強固な3次元ネットワークを形成することができる。その結果、アルミナ多孔膜の強度が高く、またアルミナの粉落ちが少なくなるため、例えば、セパレータの耐熱性および寸法安定性が向上し、より安全性の高い非水電解液二次電池を得ることができる。
【0068】
αアルミナの製造方法としては、例えば、バイヤー法で製造された水酸化アルミニウムを焼成する方法;アルミニウムアルコキシド法で製造された水酸化アルミニウムを焼成する方法;有機アルミニウムを使って、合成する方法;その原料に遷移アルミナまたは熱処理により遷移アルミナとなるアルミナ粉末を、塩化水素を含有する雰囲気ガス中にて焼成する方法;特開平11−049515号公報、特開2010−150090号公報、特開2008−100903号公報、特開2002−047009号公報または特開2001−354413号公報などに記載の方法などが挙げられる。
【0069】
バイヤー法としては、過飽和状態のアルミン酸ナトリウム水溶液を製造し、この水溶液に種子を添加して水溶液中に含まれるアルミ分を析出させ、得られた水酸化アルミニウムを含むスラリーを洗浄し、それを乾燥させることにより乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを得る方法などが挙げられる。
【0070】
得られた乾燥粉末状の水酸化アルミニウムを焼成することにより、目的とするαアルミナを得ることができる。
水酸化アルミニウムの焼成は通常、焼成容器に充填して行われる。焼成容器としては、例えば鞘または匣鉢などが挙げられる。
また、焼成容器の材質は、得られるαアルミナの汚染防止の観点からアルミナであることが好ましく、特に高純度のαアルミナであるのがよい。ただし、焼成容器の耐熱性および使用サイクル特性の観点から、適切な範囲でシリカ成分などを含むものを用いてもよい。
水酸化アルミニウムの焼成容器への充填方法は特に制限されないが、自重で充填してもよいし、圧密してから充填してもよい。
【0071】
水酸化アルミニウムの焼成に用いる焼成炉としては、例えば、トンネルキルン、回分式通気流型箱型焼成炉、回分式並行流型箱型焼成炉などに代表される材料静置型焼成炉、ロータリーキルンまたは電気炉などが挙げられる。
【0072】
水酸化アルミニウムの焼成温度、焼成温度までの昇温速度及び焼成時間は、所望の物性を有するαアルミナとなるように適宜選定する。
水酸化アルミニウムの焼成温度は、例えば1000℃以上1450℃以下、好ましくは1000℃以上1350℃以下であり、この焼成温度まで昇温するときの昇温速度は、通常30℃/時間以上500℃/時間以下であり、水酸化アルミニウムの焼成時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上20時間以下である。
【0073】
水酸化アルミニウムの焼成は、例えば大気雰囲気中の他、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で焼成してもよく、プロパンガスなどの燃焼によって焼成するガス炉のように、水蒸気分圧が高い雰囲気中で焼成してもよい。通常、水蒸気分圧が高い雰囲気中で焼成すると大気雰囲気中とは違い、その水蒸気の効果により、得られる粒子は焼き締まり易くなる。
【0074】
得られた焼成後のαアルミナは、平均粒子径が10μmを超えた状態で凝集している場合がある。その場合は平均粒子径が1.0μmより小さくなるように解砕することが好ましい。
【0075】
その場合の解砕は、例えば振動ミル、ボールミルおよびジェットミルなどの公知の装置を用いて行うことができ、乾式状態で解砕する方法、および、湿式状態で解砕する方法のいずれも採用することができる。また、乾式状態で解砕する場合において生産性向上を目的として公知の助剤を添加したり、分級装置を組み合わせたりしてもよい。
【0076】
解砕するための条件は、特に限定されないが、ボールミルを用いる場合には、ミル最外周の周速は、例えば、0.1m/s以上10m/s以下、好ましくは、0.5m/s以上5m/s以下であり、ミル時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上20時間以下である。粉砕メディアとして使用するボール直径は、例えば、0.5mm以上50mm以下、好ましくは、5mm以上50mm以下である。粉砕メディアの材質としては特に制限はなく、アルミナボールやジルコニアボール、チタニアボール、鉄芯入り樹脂ボール等が使用できるが、異種元素の混入防止や耐摩耗性の点からアルミナボールが好ましい。
【0077】
本発明の第2の態様においては、アルミナ表面に存在するアルミナ三水和物中の水和水の量を減少させるために、例えば、解砕したアルミナを250℃以上で加熱する方法、酸や塩基でアルミナ水和物を溶解除去する方法、または有機成分若しくは無機イオンなどをアルミナ三水和物中の水和水と反応させたりする方法が可能である。中でも、水和水を確実に除去できる観点から加熱による方法が好ましい。加熱条件は、250℃以上である限りは特に限定されないが、乾燥炉や焼成炉などの加熱装置を用いて行うことができ、ボールミル等による解砕時に同時に加熱してもよい。水和水を脱離させるだけでなく、アルミナ表面を改質し再水和を防止する観点から、加熱温度は、300℃以上1000℃以下であることが好ましく、400℃以上800℃以下であることがより好ましい。加熱温度まで昇温するときの昇温速度は、通常30℃/時間以上500℃/時間以下であり、加熱時間は、通常0.5時間以上24時間以下、好ましくは1時間以上5時間以下である。ただし、加熱温度が1000℃を超えると、アルミナ粒子同士の焼結が進行し、100μmを超えるような粗大な粒子が生成してしまう恐れがあるため、加熱温度は1000℃以下であることが好ましい。
【0078】
本発明の第2の態様に係るアルミナは、さらに表面処理等が施されていてもよい。表面処理方法としては、本発明により得られる効果が著しく損なわれない限りは特に限定されないが、カップリング剤、界面活性剤などの表面処理剤を用いる方法が挙げられる。カップリング剤として、その分子構造内にアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などの官能基を有していてもよい。これらの官能基を有するカップリング剤でアルミナを表面処理することにより、バインダーとの結着性が向上する、後述のアルミナスラリー中のアルミナの分散性が向上するなどの効果がある。
【0079】
本発明に係る第1の態様のアルミナおよび第2の態様のアルミナに共通する事項
以下、本発明の第1の態様のアルミナおよび第2の態様のアルミナに共通する事項をまとめて記載する。この場合、「本発明に係るアルミナ」という文言は、本発明の第1の態様に係るアルミナと、本発明の第2の態様に係るアルミナの両方を意味する。
<2.アルミナスラリー>
本発明に係るアルミナスラリーは、本発明に係るアルミナと、バインダーと、溶媒とを含む。
バインダーとしては公知のものを使用することができ、後述のアルミナ多孔膜において、アルミナ粒子同士の結着やアルミナ多孔層とセパレータとの接着、あるいはアルミナ多孔層と負極および/または正極との接着に使用でき、主として有機物で構成されるものを指す。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル等のポリアクリル酸誘導体;ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル等のポリメタクリル酸誘導体;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(以下、CMC)、ポリアクリロニトリル及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂等またはこれらの塩でも用いることができ、単独あるいは2種類以上を混合してもよい。
【0080】
また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸及びヘキサジエンより選択される2種類以上の材料の共重合体を用いてもよい。
【0081】
溶媒としては、公知のものを使用することができ、具体的には、水、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、シクロヘキサン、キシレン、シクロヘキサノンまたはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0082】
本発明に係るアルミナスラリーにおけるバインダーの含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明に係るアルミナ100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。また、本発明に係るアルミナスラリーにおける溶媒の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明に係るアルミナ100質量部に対して、10〜500質量部であることが好ましい。
【0083】
また、本発明に係るアルミナスラリーには、上記成分のほかにも分散安定化または塗工性の向上などを目的として、分散剤、増粘剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、酸またはアルカリを含むpH調整剤および電解液分解などの副反応を抑制する機能を有する添加剤などの各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、非水電解液二次電池の使用範囲において化学的に安定であり、電池反応に大きく影響しなければ特に限定されない。また、これらの各種添加剤はアルミナ多孔膜形成時に除去できるものが好ましいが、多孔膜内に残存してもよい。それぞれの添加剤の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、本発明に係るアルミナ100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。
【0084】
本発明に係るアルミナと、バインダーと、溶媒とを混合し、分散させることにより本発明に係るアルミナスラリーを調製することができる。アルミナスラリーの分散方法は特に限定されるものではなく、公知のプラネタリーミキサーなどによる攪拌方式または超音波照射、ビーズミルによる分散方法を用いることができる。
【0085】
<3.アルミナ多孔膜、二次電池およびその製造方法>
このようにして得られたアルミナスラリーから製造されるアルミナ多孔膜は、耐熱性が高く、絶縁性である。このアルミナ多孔膜は、正極、負極またはセパレータの少なくとも一つの表面に形成され、正極、負極およびセパレータと共に積層して形成した電極群(積層型電極群)、又はアルミナ多孔膜を、正極、負極およびセパレータと共に積層して巻回して形成した電極群(巻回型電極群)と、電解液とを含む非水電解液二次電池に好適に用いられる。尚、本明細書中において、「セパレータ」とは正極と負極を分離する膜であればどのようなものでもよく、主として二次電池、特に非水電解液二次電池用のセパレータを意味する。
【0086】
このような非水電解液二次電池を好適に製造する方法としては、電極活物質(正極活物質あるいは負極活物質)とバインダーとを含む電極合剤層からなる正極および/または負極の表面に上記のアルミナスラリーを塗工、乾燥させて、アルミナ多孔膜を形成する工程を含む製造方法が挙げられる。また、正極および/または負極の表面ではなく、セパレータの表面に上記のアルミナスラリーを塗工、乾燥させて、アルミナ多孔膜を形成する工程を含む製造方法でもよい。
【0087】
より具体的な製造方法として、例えば、負極にアルミナ多孔膜を形成した巻回型電極群を含む非水電解液二次電池の製法の場合、アルミナ多孔膜を表面に付与した負極リード接合部に負極リードの一端を、正極リード接合部に負極リードの一端を接合し、正極と負極とをセパレータを介して積層、巻回して巻回型電極群を構成し、この電極群を上部と下部の絶縁リングではさまれた状態で電池缶に収納して、電解液を注入後、電池蓋にて塞ぐ方法が挙げられる。
【0088】
セパレータは、二次電池において正極と負極との間に配置される膜状の多孔質フィルムである。
【0089】
かかる多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質かつ膜状の基材(ポリオレフィン系多孔質基材)であればよく、その内部に連結した細孔を有す構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であるフィルムである。
【0090】
多孔質フィルムは、電池が発熱したときに溶融して、無孔化されることにより、該セパレータにシャットダウン機能を付与するものである。多孔質フィルムは、1つの層からなるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0091】
多孔質フィルムの突刺強度は3N以上が好ましい。当該突刺強度が小さすぎると、電池組立プロセスの正負極とセパレータとの積層捲回操作や、捲回群の圧締操作、または電池に外部から圧力がかけられた場合等において、正負極活物質粒子によってセパレータが突き破られ、正負極が短絡するおそれがある。また、多孔質フィルムの突刺強度は、10N以下が好ましく、8N以下がより好ましい。
【0092】
多孔質フィルムの膜厚は、非水電解液二次電池を構成する非水電解液二次電池用部材の膜厚を考慮して適宜決定すればよく、4〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、6〜15μmであることがさらに好ましい。
【0093】
多孔質フィルムの体積基準の空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、20〜80%であることが好ましく、30〜75%であることがより好ましい。また、多孔質フィルムが有する細孔の平均径(平均細孔径)は、セパレータとして用いたときに、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができるように、0.3μm以下であることが好ましく、0.14μm以下であることがより好ましい。
【0094】
多孔質フィルムにおけるポリオレフィン系樹脂の割合は通常、多孔質フィルム全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。多孔質フィルムのポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が5×10
5〜15×10
6の高分子量成分が含まれていることが好ましい。特に多孔質フィルムのポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分が含まれることにより、多孔質フィルムの強度が高くなるため好ましい。
【0095】
多孔質フィルムに含まれるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体又は共重合体を挙げることができる。多孔質フィルムは、これらのポリオレフィン系樹脂を単独で含む層、及び/又は、これらのポリオレフィン系樹脂の2種以上を含む層、であり得る。特に、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレンが好ましい。なお、多孔質フィルムは、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含むことを妨げない。
【0096】
多孔質フィルムの透気度は、通常、ガーレ値で30〜500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50〜300秒/100ccの範囲である。多孔質フィルムが、前記範囲の透気度を有すると、セパレータとして用いた際に、十分なイオン透過性を得ることができる。
【0097】
多孔質フィルムの目付は、強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、二次電池のセパレータとして用いた場合の当該電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くできる点で、通常、4〜20g/m
2であり、4〜12g/m
2が好ましく、5〜10g/m
2がより好ましい。
【0098】
次に、多孔質フィルムの製造方法について説明する。ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムの製法は、例えば、多孔質フィルムが超高分子量ポリオレフィンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量炭化水素を含む場合には、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
【0099】
すなわち、(1)超高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量1万以下の低分子量炭化水素と、孔形成剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を圧延ロールにて圧延してシートを成形する工程(圧延工程)、(3)工程(2)で得られたシート中から孔形成剤を除去する工程、(4)工程(3)で得られたシートを延伸して多孔質フィルムを得る工程、を含む方法により得ることができる。なお、上記工程(3)におけるシート中から孔形成剤を除去する操作の前に、上記工程(4)におけるシートを延伸する操作を行なってもよい。
【0100】
上記低分子量炭化水素としては、ポリオレフィンワックス等の低分子量ポリオレフィン、及び、フィッシャートロプシュワックス等の低分子量ポリメチレンが挙げられる。上記低分子量ポリオレフィン及び低分子量ポリメチレンの重量平均分子量は、好ましくは200以上、3000以下である。重量平均分子量が200以上であると多孔質フィルムの製造時に蒸散する虞がなく、また、重量平均分子量が3000以下であると超高分子量ポリオレフィンとの混合がより均一に成されるため好ましい。
【0101】
上記孔形成剤としては、無機フィラー、及び可塑剤などが挙げられる。無機フィラーとしては、酸を含有する水系溶剤、アルカリを含有する水系溶剤、または、主に水からなる水系溶剤、に溶解し得る無機フィラーが挙げられる。
【0102】
酸を含有する水系溶剤に溶解しうる無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び硫酸カルシウム等が挙げられ、安価で微細な粉末が得やすい点から炭酸カルシウムが好ましい。アルカリを含有する水系溶剤に溶解しうる無機フィラーとしては、珪酸、及び酸化亜鉛等が挙げられ、安価で微細な粉末が得やすいため、珪酸が好ましい。主に水からなる水系溶剤に溶解しうる無機フィラーとしては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0103】
上記可塑剤としては、流動パラフィン、及びミネラルオイル等の低分子量の不揮発性炭化水素化合物が挙げられる。
【0104】
アルミナ多孔膜は、必要に応じて、多孔質フィルムであるセパレータの片面または両面に積層される。
【0105】
上記アルミナスラリーのセパレータへの塗布方法、つまり、必要に応じて親水化処理が施されたセパレータの表面へのアルミナ多孔膜の層の形成方法は、特に制限されるものではない。セパレータの両面にアルミナ多孔膜の層を積層する場合においては、セパレータの一方の面にアルミナ多孔膜を形成した後、他方の面にアルミナ多孔膜を形成する逐次積層方法や、セパレータの両面にアルミナ多孔膜を同時に形成する同時積層方法を適用することができる。
【0106】
アルミナ多孔膜の形成方法としては、例えば、アルミナスラリーをセパレータの表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;アルミナスラリーを適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去してアルミナ多孔膜を形成した後、このアルミナ多孔膜とセパレータとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;アルミナスラリーを適当な支持体に塗布した後、塗布面に多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;および、アルミナスラリー中にセパレータを浸漬し、ディップコーティングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。
【0107】
アルミナ多孔膜の厚さは、塗工後の湿潤状態(ウェット)の塗工膜の厚さ、樹脂と微粒子との重量比、アルミナスラリーの固形分濃度(樹脂濃度と微粒子濃度との和)等を調節することによって制御することができる。尚、支持体として、例えば、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、またはドラム等を用いることができる。
【0108】
上記アルミナスラリーをセパレータまたは支持体に塗布する方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。アルミナスラリーの塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができる。このような方法として、具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、およびスプレー塗布法等が挙げられる。
【0109】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、および減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。上記乾燥には、通常の乾燥装置を用いることができる。
【0110】
尚、セパレータまたは支持体に形成されたアルミナスラリーの塗膜から溶媒(分散媒)を除去するために加熱を行う場合には、多孔質フィルムの細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、セパレータの透気度が低下しない温度、具体的には、10〜120℃、より好ましくは20〜80℃で行うことが望ましい。
【0111】
上述した方法により形成される上記アルミナ多孔膜の膜厚は、セパレータを基材として用い、セパレータの片面または両面にアルミナ多孔膜を積層して積層セパレータを形成する場合においては、0.5〜15μm(片面当たり)であることが好ましく、2〜10μm(片面当たり)であることがより好ましく、2〜5μm(片面当たり)であることがさらに好ましい。
【0112】
アルミナ多孔膜の膜厚が1μm以上(片面においては0.5μm以上)であることが、アルミナ多孔膜を備える積層セパレータにおいて、電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができ、また、アルミナ多孔膜における電解液の保持量を維持できるという面において好ましい。一方、アルミナ多孔膜の膜厚が両面の合計で30μm以下(片面においては15μm以下)であることが、アルミナ多孔膜を備える積層セパレータ全域におけるリチウムイオン等のイオンの透過抵抗の増加を抑制し、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、レート特性やサイクル特性の低下を防ぐことができる面、並びに、正極および負極間の距離の増加を抑えることにより二次電池の大型化を防ぐことができる面において好ましい。
【0113】
アルミナ多孔膜の物性に関する下記説明においては、多孔質フィルムの両面に多孔質層が積層される場合には、二次電池としたときの、多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層されたアルミナ多孔膜の物性を少なくとも指す。
【0114】
アルミナ多孔膜の単位面積当たりの目付(片面当たり)は、積層セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよいものの、積層セパレータを部材として含む非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、通常、1〜20g/m
2であり、4〜15g/m
2であることが好ましく、4〜12g/m
2であることがより好ましい。アルミナ多孔膜の目付が上記範囲内であることが、アルミナ多孔膜を備える積層セパレータを部材とする非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができ、当該電池の重量が軽くなるため好ましい。
【0115】
アルミナ多孔膜の空隙率は、アルミナ多孔膜を備える積層セパレータが充分なイオン透過性を得ることができるという面において、20〜90体積%であることが好ましく、30〜70体積%であることがより好ましい。また、アルミナ多孔膜が有する細孔の孔径は、アルミナ多孔膜を備える積層セパレータが充分なイオン透過性を得ることができるという面において、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0116】
上記積層セパレータの透気度は、ガーレ値で30〜1000秒/100mLであることが好ましく、50〜800秒/100mLであることがより好ましい。上記積層セパレータが上記透気度を有することにより、上記積層セパレータを非水電解液二次電池用の部材として使用した場合に、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0117】
透気度が上記範囲を超える場合には、積層セパレータの空隙率が高いために積層セパレータの積層構造が粗になっていることを意味し、結果としてセパレータの強度が低下して、特に高温での形状安定性が不充分になるおそれがある。一方、透気度が上記範囲未満の場合には、上記積層セパレータを非水電解液二次電池用の部材として使用した場合に、充分なイオン透過性を得ることができず、非水電解液二次電池の電池特性を低下させることがある。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の評価方法は次の通りである。
【0119】
本発明の第1の態様のアルミナ
(純度)
(K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量および純度)
アルミナの純度(質量%)は、アルミナ100質量%中に含まれるK、Mg、Ca、SrBaおよびLaの含有量、並びにSiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量を用いて、下記式(III)式から求めた。
純度(質量%)
=100×{100−(K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量の総和[質量%])−(SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量の総和[質量%])}÷{100−(K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量の総和[質量%])}
式(III)
K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの含有量は、評価試料をICP発光分析法にて測定することにより求めた。
【0120】
また、SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量は、評価試料をICP発光分析法にて測定して得たSi、Na、Cu、FeおよびZrの含有量を、それぞれの元素に対応する酸化物(SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2)の含有量に換算することにより求めた。
【0121】
(BET比表面積)
比表面積測定装置として、島津製作所社製の「フローソーブII 2300」を使用し、JIS−Z8830(2013)に規定された方法に従って、窒素吸着法一点法により求めた。ただし、測定前の乾燥処理として、窒素ガス流通下において200℃で20分間加熱して行った。
【0122】
(K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの表面濃度)
X線光電子分光装置(KRATOS社製AXIS−ULTRA)を用いて、Al、O、Na、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの表面濃度を算出した。測定試料は、装置専用の試料保持台に導電性カーボンテープを貼り、そこに固定したワッシャー内に紛体試料を充填し、下記に示す条件で測定を行った。得られたスペクトルは、Quadratic Savitzky−Golay法により、カーネル幅(スムージング点数)を11に設定してスムージングを行った。C1sのピークを284.6eVとして帯電補正を行った後、直線法にてバックグラウンドを差し引き、各元素の感度係数(装置付属の「VISION2」の値を使用)を用いて、Al、O、Na、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの原子数濃度として算出した。
【0123】
・測定モード:ナロースキャンモード
・X線源:Alkα
・X線出力:15kV、15mA
・パスエネルギー:20eV
・測定ステップ幅:0.10eV
・測定領域:700μm×300μm以上
・測定真空度:1×10
−7torr以下
・電荷中和機構:使用
・測定元素:Al2p、O1s、Na1s、K2p、Mg1s、Ca2p、Sr3d、Ba3d、La3d
【0124】
(粒子径)
レーザー粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3300EXII」〕を用いてレーザー回折法により、質量基準で累積百分率50%相当粒子径を平均粒子径とした。測定に際しては、0.2質量%のヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液で5分間超音波分散し、屈折率は1.76とした。
【0125】
(基材多孔質フィルム(セパレータ)の作製)
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)を70質量%と、質量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞株式会社製)30質量%と、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計100質量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4質量部と、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1質量部と、ステアリン酸ナトリウム1.3質量部とを加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒子径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。溶融押出された該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5質量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で6倍に延伸して基材多孔質フィルム(厚み:16.2μm、目付量:7.3g/m
2、透気度:140秒/100cc)を得た。
【0126】
(評価用積層多孔質フィルムの作製)
アルミナ多孔膜の評価用の試料フィルムとして、以下の方法で評価用の積層多孔質フィルムを作製した。
ダイセルファインケム株式会社製CMC;品番1110(3質量部)、イソプロピルアルコール(51.6質量部)、純水(292質量部)及びアルミナ(100質量部)を順に混合撹拌した後に、メディア径φ0.65mmのビーズミルで30分間分散し、目開き10μmの網メッシュでろ過することでスラリーを調製した。
次いで、基材多孔質フィルム上に、バーコーター(#20)にて前記スラリーを塗工した後に乾燥温度65℃で乾燥し、基材多孔質フィルム表面にアルミナ多孔膜が形成された評価用の積層多孔質フィルムを得た。
【0127】
(スラリー粘度)
粘度測定装置として東機産業株式会社製「TVB10M」を使用し、No.3のローターを6rpmで回転させて、評価用の積層多孔質フィルムを作製する際に使用したスラリーの粘度を測定した。
【0128】
(アルミナ多孔膜の塗膜厚み)
厚み(単位:μm)は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測定機「VL−50A」で測定した。アルミナ多孔膜の塗膜厚みD(μm)は、積層多孔質フィルムの厚みから基材多孔質フィルムの厚みを差し引いた上で算出した。
【0129】
(アルミナ多孔膜の目付量)
積層多孔質フィルムから8cm×8cmの正方形のサンプルを切り出し、当該サンプルの質量W(g)を測定し、積層多孔質フィルムの目付量(g/m
2)=W/(0.08×0.08)をまず算出した。ここから基材多孔質フィルムの目付量を差し引いて、アルミナ多孔膜の目付量B(g/m
2)を算出した。
【0130】
(アルミナ多孔膜の空隙率)
基材多孔質フィルムから8cm×8cmの正方形のサンプルを切り出し、当該サンプルの質量W’(g)を測定し、W(g)とW’(g)の差からアルミナ多孔膜の質量を算出した。アルミナ多孔膜の質量およびスラリーの組成から、積層多孔質フィルムから切り出した8cm×8cmの正方形のサンプル中のアルミナの質量W1(g)およびCMCの質量W2(g)を、それぞれ計算で求め、下記式(VI)式から空隙率(体積%)を求めた。なお、αアルミナの真密度ρ1は、3.98(g/cm
3)とし、CMCの真密度ρ2は、1.6(g/cm
3)とした。
空隙率(体積%)=100−(B÷D)÷[(W1+W2)÷{(W1÷ρ1)+(W2÷ρ2)}]×100 式(VI)
【0131】
(加熱形状維持率)
積層多孔質フィルムから8cm(MD方向)×8cm(TD方向)の正方形のサンプルを切り出し、当該サンプルに6cm(MD方向)×6cm(TD方向)の正方形を書き入れ、書き入れた正方形のMD方向に平行な2つの辺の長さを正確に測定(cm単位で小数点以下第二位)し、その平均値L1を算出した。次に、当該サンプルを紙に挟んで、150℃に加熱したオーブンに入れた。1時間後、オーブンから当該サンプルを取り出し、書き入れた正方形のMD方向に平行な2つの辺の長さを正確に測定し、その平均値L2を算出した。L1およびL2を用いて、下記式(VII)からMD加熱形状維持率を算出した。
MD加熱形状維持率(%)=(L2÷L1)×100 式(VII)
【0132】
(透気度)
JIS P8117(2009)に準拠して、株式会社東洋精機製作所製のガーレ式デンソメータで積層多孔質フィルムのガーレ値を測定した。
【0133】
(電解液安定性試験)
アルミナを120℃で8時間真空乾燥した後、露点を−30℃以下に保ったグローブボックス内で、アルミラミネート袋に当該アルミナ1gと電解液2mgとを封入し、封入後のアルミラミネート袋の質量を測定した。電解液には、キシダ化学製のLiPF
6溶液(1mol/L、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジエチルカーボネート=30体積%:50体積%:20体積%)を使用した。熱処理前に、封入後のアルミラミネート袋の比重および体積をアルキメデス法により測定した後、当該アルミラミネート袋を85℃で72時間熱処理した。熱処理後の当該アルミラミネート袋の比重および体積をアルキメデス法により測定し、熱処理前後の体積変化をガスの発生量として算出した。
【0134】
(実施例1〜3)
バイヤー法で作製した水酸化アルミニウムを原料に用い、ガス炉にて焼成した後、ボールミルで粉砕して、平均粒子径=0.5μm、BET比表面積6m
2/gのα相のアルミナ粉末を得た。
【0135】
硝酸マグネシウム6水和物のエタノール溶液に、前記αアルミナ粉末を分散させ、60℃で減圧乾燥したのち、600℃で2時間加熱して、表1に示すMg=690〜8700質量ppmを含むMg修飾アルミナ粉末(1)〜(3)を得た。
【0136】
得られたMg修飾アルミナ粉末(1)〜(3)の表面Mg量は1.1〜3.7at%と高く、電解液安定性試験の結果、ガスの発生量は10〜22mL/gと非常に少なかった。
【0137】
得られたMg修飾アルミナ粉末(1)の不純物量はSi=0.02質量%、Na=0.03質量%、Fe=0.01質量%、Cu=10質量ppm以下、Zr=10質量ppm以下であり、添加したMgを除くアルミナの純度は99.9質量%以上であった。また、平均粒子径は0.5μm、BET比表面積は6m
2/gであり、α相のアルミナであった。
【0138】
さらに、前記αアルミナ粉末(1)から、上述した方法によりαアルミナスラリーを調製すると、平均粒子径は0.5μm、粘度は91mPa・sであった。このスラリーを基材多孔質フィルム上に塗工して、アルミナ多孔膜が表面に形成された評価用の積層多孔質フィルムを作製した。アルミナ多孔膜の空隙率は38%であり、また、得られた積層多孔質フィルムのMD加熱形状維持率は98%であった。その他、塗膜厚み、目付量、透気度などの評価結果は表2に示す。得られたアルミナ多孔膜はイオン透過に対する十分な空隙率、透気度、並びに高い耐熱性を持つことから、このアルミナ粉末を用いることで、少ない目付量でも電池性能が良好で、かつ安全性の高い非水電解液二次電池が得られることがわかる。
【0139】
(実施例4〜16)
実施例1〜3の硝酸マグネシウム6水和物の代わりに、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウムおよび酢酸ランタンのエタノール溶液を用いる以外は、実施例1〜3と同様に処理して、K、Ca、Sr、BaおよびLaを表1に示す含有量(wtppm)および表面濃度(at%)で含む金属修飾アルミナ粉末(4)〜(16)を得た。このアルミナ粉末を用いて、上述の電解液安定性試験を行い、結果を表1に記載した。
【0140】
(比較例1)
バイヤー法で作製した水酸化アルミニウムを原料に用い、ガス炉にて焼成した後、ボールミルで粉砕して、平均粒子径=0.5μm、BET比表面積6m
2/gのα相のアルミナ粉末(A)を得た。いずれの異種元素の添加も行わなかった。得られたアルミナ粉末(A)のK、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの合計含有量は176質量ppmであり、アルミナ表面のK、Mg、Ca、Sr、BaおよびLaの合計表面濃度は0.1at%であった。電解液安定性試験の結果、ガスの発生量は75mL/gと多く、電解液安定性が悪かった。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
本発明の第2の態様のアルミナ
(赤外吸収スペクトル)
フーリエ変換赤外分光光度計として、Nicolet社製MAGNA760を用いて、以下の条件にて拡散反射法により、アルミナの赤外吸収スペクトルを測定し、得られた赤外吸収スペクトルをKubelka−Munk変換した。
【0144】
真空加熱型拡散反射セル:エス・ティ・ジャパン製 HC−900
検出器:DTGS KBr
ビームスプリッタ:KBr
ミラー速度:0.6329
サンプルゲイン:8
分解能:4cm
−1
スキャン回数:512回
バックグラウンド:KBr
真空度:0.5torr以下。
Kubelka−Munk変換後の赤外吸収スペクトルにおいて、3400cm
−1および3500cm
−1における強度を結ぶ線分をベースラインとして、当該ベースラインよりも強度が大きく、且つ半値幅が90cm
−1以下であるピークが、3400〜3500cm
−1の範囲に存在するか否か判定した。
【0145】
(熱重量分析)
熱重量分析装置として、リガク社製ThermoPlus TG8120を用いて、以下の条件でアルミナの熱重量分析を行った。
雰囲気ガス:He 300ml/min
昇温速度:20℃/min
昇温範囲:室温(25℃以下)〜480℃
得られた熱重量分析結果から、下記式(I)および式(II)式を用いて、質量減少率AおよびBを算出した。
質量減少率A[%]=(25℃におけるアルミナの質量[g]−150℃におけるアルミナの質量[g]) ÷ 25℃におけるアルミナの質量[g]×100 式(I)
質量減少率B[%]=(200℃におけるアルミナの質量[g]−260℃におけるアルミナの質量[g]) ÷ 25℃におけるアルミナの質量[g]×100 式(II)
また、下記式(IV)を用いて、200〜260℃の範囲におけるアルミナの10℃あたりの質量減少率Cを算出し、その最大値を求めた。
質量減少率C[%]
=(t[℃]におけるアルミナの質量[g]−(t+10)[℃]におけるアルミナの質量[g]) ÷ t[℃]におけるアルミナの質量[g]×100 式(IV)
ここで、200≦t≦250である。
【0146】
(純度)
アルミナの純度(質量%)は、アルミナ100質量%中に含まれるSiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量を用いて、下記式(V)から求めた。
純度(質量%)
=100−(SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量の総和[質量%])
式(V)
【0147】
SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2の含有量は、評価試料をICP発光分析法にて測定して得たSi、Na、Cu、FeおよびZrの含有量を、それぞれの元素に対応する酸化物(SiO
2、Na
2O、CuO、Fe
2O
3およびZrO
2)の含有量に換算することにより求めた。
【0148】
(BET比表面積)
比表面積測定装置として、島津製作所社製の「フローソーブII 2300」を使用し、JIS−Z8830(2013)に規定された方法に従って、窒素吸着法一点法により求めた。ただし、測定前の乾燥処理として、窒素ガス流通下において200℃で20分間加熱して行った。
【0149】
(粒子径)
レーザー粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3300EXII」〕を用いてレーザー回折法により、質量基準で累積百分率50%相当粒子径を平均粒子径とした。測定に際しては、0.2質量%のヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液で5分間超音波分散し、屈折率は1.76とした。
【0150】
(電解液安定性試験)
アルミナを120℃で8時間真空乾燥した後、露点を−30℃以下に保ったグローブボックス内で、アルミラミネート袋に当該アルミナ1gと電解液2mLとを封入し、封入後のアルミラミネート袋の質量を測定した。電解液には、キシダ化学製のLiPF
6溶液(1mol/L、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジエチルカーボネート=30体積%:50体積%:20体積%)を使用した。熱処理前に、封入後のアルミラミネート袋の比重および体積をアルキメデス法により測定した後、当該アルミラミネート袋を85℃で72時間熱処理した。熱処理後のアルミラミネート袋の比重および体積をアルキメデス法により測定し、熱処理前後の体積変化をガスの発生量として算出した。
【0151】
(実施例17)
バイヤー法で作製した水酸化アルミニウムを原料に用い、ガス炉にて焼成した後、ボールミルで解砕した。解砕後のアルミナ粉末を600℃で2時間熱処理して、平均粒子径=0.4μm、BET比表面積6m
2/gのαアルミナ粉末(17)を得た。
【0152】
図1に示すように、αアルミナ粉末(17)は、フーリエ変換赤外分光法により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、3400cm
−1および3500cm
−1における強度を結ぶ線分をベースラインとして、当該ベースラインよりも強度が大きく、且つ半値幅が90cm
−1以下であるピークが、3400〜3500cm
−1の範囲に無かった。また、質量減少率Aが0.11%、質量減少率Bが0.01%、質量減少率Cの最大値が0.002%、純度99.89質量%であった。このように、αアルミナ粉末(17)は、アルミナ表面に存在するアルミナ三水和物中の水和水の量が少ないため、電解液安定性試験の結果、ガスの発生量は30mL/gと非常に少なく、電解液安定性に優れていた。当該ピークの有無、質量減少率AおよびB、BET比表面積並びに電解液安定性の評価結果を表3に示す。なお、表3中、「赤外吸収スペクトルにおけるピーク」とは、「フーリエ変換赤外分光法により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、3400cm
−1および3500cm
−1における強度を結ぶ線分をベースラインとして、当該ベースラインよりも強度が大きく、且つ半値幅が90cm
−1以下であるピーク」を意味する。
【0153】
(比較例2)
実施例17と同様に、バイヤー法で作製し水酸化アルミニウムを原料に用い、ガス炉にて焼成した後、ボールミルで解砕して、平均粒子径=0.4μm、BET比表面積6m
2/gのα相のアルミナ粉末(B)を得た。いずれの異種元素の添加も熱処理も行わず、αアルミナ粉末(B)を得た。
【0154】
図1に示すように、αアルミナ粉末(B)は、フーリエ変換赤外分光法により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、3400cm
−1および3500cm
−1における強度を結ぶ線分をベースラインとして、当該ベースラインよりも強度が大きく、且つ半値幅が90cm
−1以下であるピークが、3400〜3500cm
−1の範囲に存在した。また、質量減少率Aが0.14%、質量減少率Bが0.07%、質量減少率Cの最大値が0.02%、純度99.89質量%であった。このように、αアルミナ粉末(B)は、アルミナ表面に存在するアルミナ三水和物中の水和水の量が多いため、電解液安定性試験の結果、ガスの発生量は75mL/gと多く、電解液安定性が劣っていた。当該ピークの有無、質量減少率AおよびB、BET比表面積並びに電解液安定性の評価結果を表3に示す。
【0155】
【表3】