(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)は、収束させた照射電子線を試料上に照射及び走査した際に発生する信号電子を検出し、各照射位置の信号強度を照射電子線の走査信号と同期して表示することで、試料表面の走査領域の二次元画像を得るものである。また、集束させたイオンビームを試料上に照射及び走査して試料を加工するための集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam:FIB)を、SEMと組合せて一体の装置としたFIB-SEM複合装置が知られている。このFIB-SEMでは、FIBによる加工状況をSEMにより高分解能で観察できるため、透過電子顕微鏡(Trans mission Electron Microscope:TEM)で観察するための薄膜試料の作製など、より精密な試料の形状加工が可能となる。
【0003】
近年、半導体の最先端デバイスの開発現場において、FIB-SEMがウェハ形状の試料の加工によく用いられている。このような分野では、SEM観察時の電子線照射に伴う試料の帯電およびダメージの回避、並びに極表面の試料情報を得る目的で、照射エネルギー約1 keV以下の低加速観察性能が重要視されている。しかし、一般的なSEMでは低加速域で色収差が増大し、高分解能が得られない。この色収差を低減するには、照射電子線を高速で対物レンズを通過させて、照射電子線を試料直前で減速させて照射する、減速光学系が有効である。
【0004】
減速光学系は、電圧の印加方法の違いによって、リターディング法とブースティング法に大別される。リターディング法は、SEMカラムの対物レンズ側は接地電位に保ち、試料に負電圧を印加する。ブースティング法は、SEMの対物レンズの内磁路の内壁に沿って正電圧を印加する筒状の電極を設け、試料は接地電位にする。両者とも、対物レンズから電子源側の照射電子線の通過領域が試料よりも高電位であることが特徴であり、この電位差により形成される、照射電子線が試料に向かって減速する電界をレンズ場として利用する。照射電子線が磁界レンズを高速で通過することで、減速電界がない場合と比べて低加速域で対物レンズ収差を低減でき、高分解能が得られる。さらに、試料から発生した信号電子はこの電界により加速・収束されてSEM対物レンズを通過する。このような系では、減速電界を発生させるために試料よりも高電位に設定した空間の内部に配置した検出器(以下,SEMカラム内検出器)により、対物レンズを通過した信号電子を効率よく検出することが可能となる。
【0005】
上記の減速光学系による分解能と信号電子検出率の改善効果は、試料近傍の減速電界の強度に依存しており、電界が強いほど効果的である。分解能と検出効率を改善するには、減速電界を形成するための電位差を大きくすればよい。ただし、SEMに減速光学系を適用する場合、SEMの光軸に対する電界分布の軸対称性が重要となる。FIBカラムなどSEMカラムの周囲に設置される構造物や、傾斜された試料によって減速電界の分布が非軸対称となると、SEMの観察性能が著しく劣化する。
【0006】
半導体分野においてFIBでウェハ形状の試料を加工する際、試料面はFIB光軸と垂直な配置となり、SEMの減速電界として試料近傍に形成される電界の非対称性が増大する。通常の減速光学系を適用しない系では上記のような影響がないため、試料の表面凹凸や傾斜状況に依存することなく、試料上のSEM光軸とFIB光軸の交点(以下、コインシデントポイント)近傍に照射電子線及び照射イオンビームが到達する。ところが、試料近傍の電界分布の対称性が良好でない場合、照射電子線、照射イオンビームの軌道が曲がり、試料上のコインシデントポイントに誘導されなくなる。また、軌道の変位量が大きくなるだけでなく、非対称な収差成分の増大によって照射位置でのビーム径が増大し、SEM観察時の分解能劣化を招く。さらに、信号電子の軌道が乱され、信号電子がSEMカラム内検出器へ到達することが困難となる。このように、SEMの減速電界に起因する非対称な電界分布は、SEMおよびFIBの照射系、検出系性能を劣化させる要因となる。
【0007】
上記のような理由から、試料の傾斜角度を大きく変えて使用するFIB-SEMのような装置構成で高分解能を得る場合は、減速光学系を適用せずに、対物レンズから磁界漏洩して収差を低減するレンズ方式が使われることが多い。しかし、試料近傍にSEM対物レンズからの磁界漏洩がある場合、FIBの照射イオンビームに含まれる同位体イオンの軌道が分離してしまい、FIB加工中のSEMによる同時観察ができなくなる点が課題となる。上記の課題は、磁界漏洩の小さいSEMの対物レンズにブースティング法を適用し、試料周囲に形成される非対称な電界分布をできるだけ小さくするよう構成することによって回避される。
【0008】
特許文献1には、このようなSEMを搭載したFIB-SEMにおいて、SEM先端に設けた環状電極とFIB光軸との間にシールド電極を設ける例が記載されている。特許文献1では、対物レンズ先端部から漏洩する非対称な電界による照射電子線到達位置の変化を環状電極への電圧印加で抑制し、環状電極への電圧印加によって形成された電界によるイオンビーム到達位置の変化をシールド電極によって抑制する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0019】
なお、実施例および変形例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
[第1実施例]
図1は、第1実施例に係る複合荷電粒子線装置を示す概略断面図である。
図1の複合荷電粒子線装置は、FIBカラム(第1の荷電粒子ビームカラム)6とSEMカラム(第2の荷電粒子ビームカラム)1とを備えるFIB-SEMである。
図1のSEMカラム1には、ブースティング手段が適用されている。
【0021】
SEMカラム1は、大まかに、試料9に対して照射電子線を照射するための機構を備えた電子銃2と、照射電子線の径を制限するためのアパーチャ(図示せず)と、コンデンサレンズ(図示せず)や対物レンズ5などの電子レンズと、照射電子線を試料9上で走査するための偏向器(図示せず)と、試料9から発生する信号電子を検出するための検出器3とを含む。
【0022】
FIBカラム6は、大まかに、イオンビームを照射するための機構を備えたイオン銃7と、照射イオンビームを集束させるためのFIB集束レンズ8と、照射イオンビームを偏向させるための偏向器(図示せず)とを含む。
【0023】
なお、SEMカラム1及びFIBカラム6は、上記した以外に他の構成要素(レンズ、電極、検出器など)を含んでもよく、上述した構成に限定されない。
【0024】
さらに、FIB-SEMは試料室を備える。試料室には、試料9を搭載する試料台10が設けられる。試料台10は、試料9を傾斜及び移動させるための機構を備え、この機構により試料9の加工領域又は観察領域を決めることができる。試料台10は、試料9の表面をFIBカラム6の光軸に対向する方向と、SEMカラム1の光軸に対向する方向の少なくとも2つの方向に保持できるように構成される。その他、FIB-SEMは、カラムを真空排気するための真空排気設備(図示せず)を備える。
【0025】
FIB-SEMは、SEM及びFIBの全体を制御する制御部20を備える。制御部20は、SEM及びFIBの構成要素を制御するとともに、各種情報処理を実行する。制御部20は、画像表示装置(図示せず)を備える。制御部20は、検出器3から得られた情報から生成されたSEM像及びSIM(Scanning Ion Microscope:SIM)像を画像表示装置に表示する。
【0026】
制御部20は、例えば、汎用のコンピュータを用いて実現されてもよく、コンピュータ上で実行されるプログラムの機能として実現されてもよい。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、メモリなどの記憶部と、ハードディスクなどの記憶装置を少なくとも備える。制御部20の処理は、プログラムコードとしてメモリに格納し、プロセッサが各プログラムコードを実行することによって実現されてもよい。なお、制御部20の一部が、専用の回路基板などのハードウェアによって構成されてもよい。
【0027】
本実施例で示すSEMカラム1の対物レンズ5は、試料9に対し漏洩磁界が小さいアウトレンズ型である。SEMカラム1は、減速光学系としてブースティング手段を備える。具体的には、SEMカラム1において、対物レンズ5の対物レンズ磁路51の内壁に沿って筒状電極4が設置されている。また、FIB-SEMは、筒状電極4に電圧を印加するためのブースティング電圧源15を備える。なお、ブースティング電圧源15からの電圧は、上述した制御部20によって制御される。筒状電極4は、対物レンズ磁路51よりも高電位に設定される。これにより、筒状電極4の試料側端部と対物レンズ磁路51の試料側端部との間に照射電子線に対する減速電界が形成され、照射電子線がこの電界を通過する際に次第に減速される構成となっている。
【0028】
なお、ブースティング手段としては、筒状電極4が対物レンズ5の近傍の空間に設置される形態や、筒状電極4が電子銃2から対物レンズ5までの空間に設置される形態など様々な形態がある。本実施例で説明する構成の効果は、各種のブースティングの形態において得ることができる。
【0029】
筒状電極4と対物レンズ磁路51との間の間隙部、および筒状電極4とSEMのカラム鏡筒との間の間隙部は、図示しない絶縁体によって電気的に絶縁されるように構成される。なお、同様の効果を得るために、磁性体で作製した筒状電極4を対物レンズ磁路51の一部として利用することも可能である。この場合は、筒状電極4と対物レンズ5が磁気的に結合している範囲で、図示しない絶縁体によって電気的に互いに絶縁されるように構成される。
【0030】
特に照射電子線の照射エネルギーが5 keV以下の観察条件において高分解能を得るには、試料9に対して筒状電極4を高電位に設定し、減速電界を形成する必要がある。本実施例の構成の場合、試料9と筒状電極4との電位差V
bは約10 kVに設定される。この時、SEMの対物レンズ5からの漏洩電界が強いほど、試料9の近傍に焦点距離の短いレンズ作用を得ることができる。これにより、照射電子線の対物レンズ通過に伴い発生する色収差が低減され、分解能の改善効果が大きくなる。この分解能改善効果はWD(WD:対物レンズの先端と試料との間の距離)が短いほど高く、特にWDが10mm以下の場合に効果が高い。
【0031】
また、FIB-SEMの場合、試料をコインシデントポイント位置に固定した状態で観察、加工、分析等の全作業を行えることが望ましい。ところが、ブースティング法を適用したSEMでは、照射エネルギー約2keV以下で、静電レンズ作用が強く働きフォーカス可能な作動距離が短く制限されてしまうことがある。WDが短いと試料周辺の空間が狭く、例えばEDX(Energy Dispersive X-ray spectrometer)、WDX(Wavelength Dispersive X-ray spectrometer)、EBSP(Electron Back-Scattering Pattern)、CL(Cathodoluminescence)などの各種分析装置の検出器の配置が困難となる。これに加え、分析時に試料から放出される信号の検出立体角も制限され、S/Nの低下が課題となる。このため、分析を行うには例えば5mm以上のWDであることが望ましい。この問題を回避するには、SEMの対物レンズ5からの漏洩電界を強くし、より長いWDで低加速の照射電子線をフォーカスできるようにすれば良い。これにより分析と低照射エネルギーでの観察を同一のWDで行うことができ、操作が容易となり、スループットが向上する。上記の目的を達成するために、照射エネルギー0.1〜2 keVの電子線で、5〜20mmのWDで観察できることが望ましく、照射エネルギー0.1〜1 keVの電子線で、5〜10mmのWDで観察できることがより望ましい。
【0032】
一方で、SEMの漏洩電界はFIBの光路上にも及ぶ。試料近傍の電界分布の対称性が良好でない場合、照射イオンビームが偏向作用を受ける。漏洩電界が強いほど、この偏向作用は大きくなる。例えば、低加速でのSEM分解能向上のために漏洩電界が大きく、FIB光軸17上でFIB光軸17に対して垂直な方向の電界成分の絶対値が、FIBカラム6先端と試料9との間において最大値で50kV/m以上の値を持つ構成を想定する。この場合、照射エネルギー2keV以下で試料9に到達するイオンビームは、試料上で所望の位置より数百μm以上離れた位置に到達する。この量をFIBに設置されるビームシフト用途の電磁偏向器のみで補正することは、一般的には困難である。
【0033】
本実施例では、SEMの対物レンズ5の先端から離れた位置での電界が強い構成となっている。例えば、SEMカラム1で生成される電界であって、FIB光軸17上でFIB光軸17に対して垂直な方向の電界の成分の絶対値が、FIBカラム6の先端と試料9との間において、最大値で50kV/m以上の値を持つことを特徴とする。この条件では、例えば照射エネルギー1keVの照射電子線が7mm以上のWDにフォーカスして観察することができる。
【0034】
試料台10は傾斜機構を備え、SEM光軸16とFIB光軸17に対して試料表面を少なくとも2種の方向に保持できる機能を有する。試料9がウェハ形状となっている場合、典型的には、試料台10は、FIB加工時にはFIB光軸17に垂直に近い角度に、SEM高分解能観察時にはSEM光軸16に垂直に近い角度に、試料面を保持できる機能を備える。
【0035】
電子線又はイオンビームを試料9に照射した際の信号電子は、筒状電極4内に設置された検出器3によって検出される。図示しない信号処理部又は制御部20が、検出器3での検出信号に基づいてそれぞれSEM像又はSIM像を生成する。筒状電極4に印加された高電圧によって作られる試料近傍の電界により、試料9から発生した信号電子はSEMの対物レンズ5方向へ加速されながら、筒状電極4内に進行する。そのため、SEMカラム1の内側に検出器3を設けることにより、高い検出収量を期待できる。
【0036】
検出器3は、例えばSEM光軸16に対して回転対称な円環状の検出面を備えたものである。また、検出器3は、複数個の検出面を備えてもよく、信号電子の軌道に応じて信号電子を別々に検出できる構成としてもよい。この場合、試料9から放出された際の信号電子のエネルギーや角度に対応した像を取得することができる。また、変換電極を設置し、信号電子が変換電極に衝突した際に発生する荷電粒子を検出することでも同様の像を得ることができる。また、電界または磁界による偏向器を配置し、偏向作用を用いてSEM光軸16の外側に設置した検出器に信号電子を導いてもよい。
【0037】
SEMの対物レンズ5の先端の近傍位置には、先端電極11が設置されている。先端電極11は、対物レンズ磁路51と電気的に絶縁されている。また、FIB-SEMは、先端電極11に電圧を印加するための先端電極電圧源12を備える。先端電極11はSEM光軸16について軸対称な電極形状であることが望ましく、例えば、SEM光軸16に対して環状形状を有する。なお、先端電極11の形状は、FIBカラム6の先端形状によってはこれに限定されない。また、先端電極11は、SEMの対物レンズ磁路51と磁気的に結合されてもよく、対物レンズ磁路51及び先端電極11を一つの磁気回路として機能するように構成することも可能である。
【0038】
また、先端電極11は、例えば、
図1及び
図4に示すように、対物レンズ5の先端部及び筒状電極4と試料9との間の位置まで延びるように配置されてもよい。この構成では、試料9の近傍の電界の非対称性をより制御し易くなる。なお、先端電極11の構成はこれに限定されない。例えば、別の例としては、先端電極11は、対物レンズ5の先端部から試料9側に突き出さないように配置されてもよい(例えば、
図8参照)。この場合では、漏洩電界を強くし易い。
【0039】
本実施例の特徴として、FIBカラム6の先端の周辺の位置には、試料9の近傍に形成される電界分布を補正するための電界補正電極13が設置されている。電界補正電極13は、SEMカラム1の先端からの漏洩電界を適切に補正するための電極である。また、FIB-SEMは、電界補正電極13に電圧を印加するための電界補正電極電圧源14を備える。
【0040】
図2は、SEMカラム1、FIBカラム6、及び電界補正電極13の位置関係を示す概念図である。電界補正電極13は、FIBカラム6と試料9との間で、かつ、FIBカラム6を挟んでSEM光軸16に対して反対側に設置される。電界補正電極13は、コインシデントポイントの位置に固定された試料9のWDを変更せずに試料9の傾斜角度が変わった場合にも、立体的に干渉しない位置に設置されていることが望ましい。
【0041】
電界補正電極13は、FIBカラム6に対して電気的に絶縁されていることが望ましい。ただし、電界補正電極13をFIBカラム6と電気的に接続し、FIBカラム6と同電位とした場合も、本質的に本実施例と同様の効果が得られる。
【0042】
電界補正電極13は、電極の位置を変更する位置移動機構を備えてもよい。位置移動機構により、試料形状、試料傾斜角度、試料室内に設置されるそのほかの構成物の状況に合わせ、電界補正電極13の位置を変更するようにしてもよい。これにより、試料室内の状況に応じて柔軟性に電界補正電極13の位置を変更できるという利点がある。
【0043】
図3は、電界補正電極13を具備しない従来のFIB-SEMでの等電位線の分布を説明する図である。
図3は、ブースティング法を適用したSEMカラムを搭載している従来のFIB-SEMにおいて、FIBカラム6に対向するように試料9を配置した場合の試料周辺部の概念図である。
【0044】
一般的に、FIB-SEMでイオンビームによる加工を行う場合、
図3のように、ウェハ状の試料9はFIB光軸17に対して対面するように傾斜して配置される。このため、試料9はSEM光軸16に対して非軸対称な構造物となる。この時、試料9と筒状電極4との電位差によって発生する電界はSEM光軸16及びFIB光軸17に対して非対称となり、各軸に対して横方向の強度をもつ。
【0045】
SEMの対物レンズ磁路51、FIBカラム6、及び試料9は、全て接地電位とし、筒状電極4に正電圧を印加する。この場合、
図3に示すように、試料9の近傍の等電位線は歪曲し、SEM光軸16及びFIB光軸17に対して非軸対称な分布となる。この等電位線の分布によって、照射電子線、照射イオンビーム、信号電子の軌道は偏向される。照射電子線及び照射イオンビームは、試料9の近傍に漏洩電界がない場合に想定される地点とは異なる位置に到達する。
【0046】
ある一つの典型的なFIB-SEMの形状では、試料9とSEMカラム1との間に10kVの電位差を設けた場合、エネルギー約1keVで試料9に照射される電子線は、試料9上で所望の位置より300μm以上離れた位置に到達する。また、エネルギー1keVで試料9に照射されるイオンビームは、試料9上で所望の位置より500μm以上離れた位置に到達する。加えて、試料9より発生する信号電子の大半は、SEM先端近傍の構造物に衝突し、筒状電極4内に設けた検出器には到達しない。
【0047】
図4は、本実施例に係るFIB-SEMにおける試料周辺部の等電位線の分布を説明する図である。SEMの対物レンズ5の先端位置に先端電極11が配置され、かつ、FIBカラム6の先端位置の近傍に電界補正電極13が配置されている。
【0048】
図4の例では、先端電極11と電界補正電極13に適切な負電圧が印加される。先端電極11と電界補正電極13に負電圧を印加することで、SEM光軸16とFIB光軸17の周りの電界を各光軸に対して同時に軸対称に近い分布となるように補正できる。この時、電界補正電極13がない場合(
図3)と比べ、照射電子線及び照射イオンビームの試料9上でのビームシフト量は低減される。また、SEMの対物レンズの収差を低減することで分解能を改善することができる。加えて、信号電子を適切に筒状電極4内のSEMカラム1内検出器3に導くことができる。
【0049】
本効果を得るために、電界補正電極13は、SEMカラム1から漏洩する電界を、FIBカラム6の先端部から試料9までの領域に渡ってFIB光軸17に対して軸対称に近い分布になるように整える役割を担う。しかしながら、電界補正電極13によりSEM近傍でSEM光軸16に対して対称な電界が乱されることは避ける必要がある。このため、電界補正電極13は、試料9とFIBカラム6との間で、かつ、FIB光軸17に対してSEMカラム1の反対側に位置することが望ましい。また、これを満たす範囲内で複数の電界補正電極13が設置されてもよい。
【0050】
図5は、本実施例のFIB-SEMにおける電界補正電極13の変形例を示す。例えば、
図5に示すように、複数の電界補正電極13がFIB光軸17を取り囲むように配置されてもよい。複数の電界補正電極13を用いることで、より対称性の良い電界分布を達成しやすくなり、SEM性能および FIB性能の更なる向上が期待される。また、試料室内に、例えばガスインジェクションノズルや各種分析器の検出器などの、SEMカラム1、FIBカラム6、及び試料9以外の構造物がある場合、それらの構造物からの電界への影響を軽減するためにも、複数の電界補正電極13は有用である。
【0051】
先端電極11と電界補正電極13が試料9に対して低い電位となるように、各電極11、13に電圧が印加されることが望ましい。これにより、より好適な電界に補正することが可能となる。例えば、筒状電極4と試料9との間に10kVの電位差を設けた場合、典型的には、SEMの先端電極11と電界補正電極13が試料9に対して600V程度の負電位になるよう電圧を印加する。これにより、電圧を印加しない場合と比べて照射電子線の到達位置の変化量を10分の1以下とすることができる。また、照射イオンビーム到達位置の変化量を数分の1以下にすることができる。加えて、信号電子を適切にSEMカラム1内に導くことができる。
【0052】
本実施例の場合、先端電極11と電界補正電極13の好適な形状及び好適な印加電圧は、SEMの対物レンズ5の先端部、FIBの集束レンズ8(例えば、対物レンズなど)の先端形状、及び試料9と筒状電極4の電位差によって決まり、照射電子線の加速電圧、照射イオンビームの加速電圧、試料9の傾斜角度に依存しない。つまり、SEM観察条件及び/又はFIB加工条件を変更した場合でも、先端電極11と電界補正電極13に印加する電圧は一定でよく、各光学系の制御が容易となる。したがって本実施例は、観察条件及び/又は加工条件を変えた際の光軸調整等の手間を軽減できる利点がある。
【0053】
また、減速光学系の条件(例えば、筒状電極4への印加電圧)の変化に対しても、先端電極11と電界補正電極13への印加電圧を制御すればよく、柔軟に対応することができる。制御部20が、先端電極11と電界補正電極13に印加する電圧を制御してもよい。例えば、制御部20が、筒状電極4に印加する電圧に基づいて、先端電極11と電界補正電極13に印加する電圧を制御してもよい。これにより、ブースティング電圧を変化させた場合も、同様の原理に従って電界分布の非対称性により劣化するSEM性能とFIB性能を改善することができる。
【0054】
また、先端電極11及び電界補正電極13の位置と形状を最適化することで、先端電極11と電界補正電極13に同一の電圧を印加してもよい。これにより、試料9近傍の電界分布を補正して、SEM性能とFIB性能を改善することも可能である。この構成によれば、先端電極11及び電界補正電極13が共通の電圧源に接続される。したがって、電圧源を統一し、電圧源の個数を減らすことができる利点がある。
【0055】
本実施例によれば、減速光学系を適用したSEMカラムの周囲に、SEM光軸に対して軸非対称な構造物(例えば、FIBや傾斜状況が変わるウェハ形状の試料や凹凸の大きい試料など)がある場合でも、先端電極11及び電界補正電極13に適切な電圧を印加することによって、試料9の近傍に適切な電界分布を形成する。これにより、SEM光学性能とFIB光学性能を同時に改善することができる。すなわち、SEMの照射電子線のスポット形状およびビームシフト量、FIBの照射イオンビームのビームシフト量、及び、SEM対物レンズを通過した位置で検出される信号電子の検出率を同時に改善することができる。
【0056】
また、従来の構成(例えば、特許文献1)では、シールド電極形状によるFIBの照射イオンビーム曲がりを低減するための電界遮蔽効果と、SEMの光学系性能を向上するための軸対称性を改善する効果はトレードオフの関係にあり、SEMカラムからの漏洩電界が強い系でSEMとFIBの性能を同時に改善することは困難であった。本実施例では、電界漏洩が大きいSEMをFIB-SEMに搭載する場合でも、試料傾斜角度を変えた場合にFIBの照射系性能を損なうことなく、SEMの高い光学系性能を維持することができる。
【0057】
特に、SEMの対物レンズと試料との間の漏洩した電界強度が強く、低加速の照射電子線が比較的長い作動距離までフォーカス可能な装置構成において、例えば照射エネルギー1keVの照射電子線がSEMカラム先端から5mm以上、特に7mm以上長い位置(試料表面)にフォーカス可能な場合に効果が高い。
【0058】
[第2実施例]
以下では、減速光学系としてリターディング手段を適用したSEMを搭載したFIB-SEMの実施例について説明する。SEMカラム単体について考えた場合、SEMカラムと試料との間の電位差による減速電界を用いるという点で、ブースティング光学系とリターディング光学系に本質的な違いはない。すなわち、ブースティング光学系で有効である本発明は、リターディング光学系を備えるSEMに関しても同様の効果が得られる。
【0059】
FIB-SEMを考えた場合、ブースティング光学系とリターディング光学系の違いは、試料9とFIBカラム6との間の電位差である。ブースティング光学系の場合、試料9とFIBカラム6は一般的には同電位に置かれるため、両者の間に形成される電界分布は、SEMカラム1からの漏洩電界に起因するものである。
【0060】
一方で、試料9に負電圧を印加するリターディング光学系の場合、試料9とFIBカラム6との間に電位差が生じる。このため、ブースティング光学系の場合と比較して、両者の間にできる電界は強い状況となる。つまり、FIB光軸17について非軸対称な構造物がある場合、FIB光軸17に対して非対称な電界が生じるため、FIB光軸17上で軸に垂直な成分の電界強度がブースティング光学系を適用した場合と比べて強くなる。
【0061】
第1実施例で述べたように、本発明は、SEMからの漏洩電界が大きく、FIB光軸17に沿った電界のFIB光軸17に対して垂直な成分が大きい場合に有用である。すなわち、試料9とFIBカラム6との間の電界が比較的強くなるリターディング光学系においても、軸非対称な電界をFIB-SEMの各光軸16、17について対称に近い分布となるように補正し、SEMの照射性能とFIB照射性能を改善する効果が得られる。この効果を得るために必要な、先端電極11の電圧V
aと電界補正電極13の電圧V
cは、SEMカラム形状と、FIBカラム形状と、試料9に印加する電圧V
dと、電界補正電極13の配置及び形状とによってほぼ一意に決まる。
【0062】
リターディング光学系を適用した装置において、電界補正電極13がなく、試料表面がFIB光軸17に対して対向する方向へ傾斜している場合を想定する。この場合、試料9の電位がFIBカラム6の電位より低いため、電子線又はイオンビームが試料9に照射された際に発生する信号電子は、試料9とFIBカラム6の電位差により形成された電界による偏向作用を受けてFIBカラム6の方向へ進行しやすい。このため、SEMカラム1内検出器3での検出収量が著しく低下する。
【0063】
これに対して、本実施例では、電界補正電極13が、試料9とFIBカラム6との間で、かつ、FIB光軸17に対してSEMカラム1の反対側に配置されている。この電界補正電極13に負電圧を印加することで、信号電子をSEMカラム1の方向に導くことができる。信号電子の軌道は、SEMカラム形状と、FIBカラム形状と、電界補正電極13の配置及び形状と、先端電極11の電圧V
aと、電界補正電極13の電圧V
cとによって決まる。つまり、任意のSEMカラム形状及びFIBカラム形状において、先端電極11にV
aを印加し、かつ電界補正電極13にV
cを印加した場合に、信号電子がSEMカラム1内に設けた検出器3に到達するように、電界補正電極13の形状及び配置を最適化する。これにより、SEM照射系性能、FIB検出系性能、及び信号電子検出性能を同時に改善することができる。
【0064】
図6は、減速光学系としてリターディング光学系を備えたSEMを搭載したFIB-SEMの概略構成図である。FIB-SEMの基本的な構成要素は第1実施例に記載したものと同様である。
【0065】
本実施例で示すSEMの対物レンズ5は、磁界を試料9に浸透させるセミインレンズ型である。セミインレンズ型の対物レンズ5は焦点距離の短い磁界レンズとなることから、磁界を試料9に漏洩しないアウトレンズ型に比べ、収差が小さく高分解能を達成することができる。更に、リターディング光学系を用いることにより、特に低加速域で高分解能な観察を行うことが可能となる。
【0066】
試料台10は、試料9に電圧を印加できる電圧源18を備える。なお、電圧源18からの電圧は、制御部20によって制御されてもよい。典型的には、SEMカラム1及びFIBカラム6は接地電位に置き、試料9に負極性の電圧V
dを印加する。これにより、SEMカラム1と試料9との間に、照射電子線に対する減速電界が発生し、SEMの分解能を向上させることができる。分解能向上のために試料9に印加する負電圧は、試料9とSEMの対物レンズ5の先端との間の電位差が1kV以上となるように設定されることが望ましく、電位差が大きいほど分解能向上効果は増大する。ただし、好適な電圧値は、試料9と対物レンズ5の先端部との間の作動距離(WD)により変わりうるため、これに限定されるものではない。
【0067】
電子線又はイオンビームを試料9に照射した際の信号電子は、SEMカラム1内に設置された検出器3によって検出される。検出器3での検出信号に基づいてそれぞれSEM像又はSIM像が得られる。
【0068】
検出器3は、例えばSEM光軸16に対して回転対称な円環状の検出面を備えたものである。また、検出器3は、複数個の検出面を備えてもよく、信号電子の軌道に応じて信号電子を弁別して検出してもよい。この場合、試料9から放出された際の信号電子のエネルギーや角度に対応した像を取得することができる。また、検出器3の検出面と同じ位置に変換電極を設置し、信号電子が変換電極に衝突した際に発生する荷電粒子を変換電極近傍に設置した検出器により検出することでも同様の像を得ることができる。また、電界または磁界による偏向器をSEMカラム1内に配置してもよく、偏向作用を用いてSEM光軸16の外側に設置した検出器に信号電子を導いてもよい。
【0069】
SEMの対物レンズ5の先端の位置には、先端電極11が設置されている。先端電極11の配置は、第1実施例で記載した通りである。先端電極11は、対物レンズ磁路51と電気的に絶縁されている。また、FIB-SEMは、先端電極11に電圧を印加するための先端電極電圧源12を備える。先端電極11はSEM光軸16について軸対称な電極形状であることが望ましいが、FIBカラム6の先端形状によってはこれに限定されない。また、先端電極11は、SEMの対物レンズ磁路51と磁気的に結合されてもよい。対物レンズ磁路51及び先端電極11を一つの磁気回路として機能するように構成することも可能である。
【0070】
FIBカラム6の先端の近傍の位置には、試料9の近傍に形成される電界分布を補正するための電界補正電極13が設置されている。また、FIB-SEMは、電界補正電極13に電圧を印加するための電界補正電極電圧源14を備える。電界補正電極13の配置は、第1実施例で記載した通りである。すなわち、電界補正電極13は、FIBカラム6と試料9との間に設置される。加えて、電界補正電極13は、FIBカラム6を挟んでSEM光軸16に対して反対側に設置される。
【0071】
電界補正電極13は、FIBカラム6に対して電気的に絶縁されていることが望ましい。ただし、電界補正電極13をFIBカラム6と電気的に接続し、FIBカラム6と同電位とした場合も、本質的に本実施例と同様の効果が得られる。
【0072】
また、電界補正電極13は、電極の位置を変更する位置移動機構を備えてもよい。位置移動機構により、試料形状、試料傾斜角度、試料室内に設置されるそのほかの構成物の状況に合わせ、電界補正電極13の位置を変更するようにしてもよい。これにより、試料室内の状況に応じて柔軟性に電界補正電極13の位置を変更できる。
【0073】
図7は、従来のFIB-SEMでの等電位線の分布を説明する図である。
図7は、リターディング光学系を備えるSEMカラムを搭載している従来のFIB-SEMにおいて、SEMカラム1に対して試料9を傾斜させた場合の試料近傍の概念図である。
【0074】
SEMの対物レンズ磁路51及びFIBカラム6は接地電位とし、試料9に電圧を印加して負電位としたリターディング光学系を用いる。この場合、
図7に示すように、等電位線は歪曲し、SEM光軸16及びFIB光軸17に対して非軸対称な分布となる。この等電位線の分布によって照射電子線、照射イオンビーム、信号電子の軌道は偏向される。照射電子線及び照射イオンビームは、試料9の近傍に漏洩電界がない場合に想定される地点とは異なる位置に到達する。
【0075】
漏洩電界による軌道変化は、SEMカラム1の先端形状及びFIBカラム6の先端形状に依存するが、例えば、ある一つの典型的な形状を仮定する。試料9と両カラムとに1kVの電位差を設けた場合、エネルギー約1keVで試料9に照射される電子線は、試料9上で所望の位置から500μm以上離れた位置に到達する。また、試料9より発生する信号電子の大半がSEMカラム1の先端近傍の構造物に衝突するか、又は、FIBカラム6の方向へ向かう。したがって、信号電子は、対物レンズ5を通過した信号電子を検出するためのSEMカラム内検出器に到達しない。加えて、SEM光軸16に対する非軸対称な電界分布により、SEMの対物レンズ収差が増大し、照射電子線の分解能が劣化する。特にコマ収差、非点収差が顕著に増大する。非点収差は非点補正器を用いて補正できるが、コマ収差は補正できない。
【0076】
図8は、本実施例に係るFIB-SEMにおける等電位線の分布を説明する図である。
図8は、SEMの対物レンズ5の先端位置に先端電極11を配置し、かつ、FIBカラム6の先端位置の近傍に電界補正電極13を配置した場合の、試料近傍の概念図である。
【0077】
先端電極11と電界補正電極13に負電圧を印加することで、SEM光軸16とFIB光軸17の周りの電界を各軸に対して対称な分布に近づけるよう同時に補正を行うことができる。
図8の例では、先端電極11と電界補正電極13に適切な負電圧が印加されている。先端電極11と電界補正電極13に電圧を印加することで、照射電子線の経路上の電界はSEM光軸16に対して軸対称に近い等電位線となり、照射イオンビームの経路上の電界はFIB光軸17に対して軸対称に近い等電位線となる。これにより、電極に電圧を印加しない場合(
図7)に比べ、照射電子線及び照射イオンビームの試料9上の到達位置は改善される。また、SEMの対物レンズ収差を低減することで分解能を改善することができる。
【0078】
加えて、電界補正電極13の形状および配置を最適化することにより、信号電子の軌道を適切にSEMカラム1内へ向けることができる。
【0079】
先端電極11と電界補正電極13が試料9に対して低い電位となるように、各電極11、13に電圧が印加されることが望ましい。これにより、より好適な電界に補正することが可能となる。例えば、リターディング電圧として1kVの負電圧を試料9に印加する場合を想定する。この場合、典型的には、先端電極11と電界補正電極13が試料9に対して100V程度負電位になるように各電極11、13に電圧を印加することで、照射電子線の到達位置変化を、電圧印加のない場合に比べて5分の1以下に低減できる。加えて、信号電子を適切にSEMカラム1内に導くことができる。
【0080】
また、本実施例ではセミインレンズ型の対物レンズ5を用いた構成で説明したが、磁性体試料の観察やFIBとの同時観察のためにアウトレンズ型の対物レンズを用いても、原理的には同様であり、同様の効果を得ることができる。また、磁界漏洩のないアウトレンズ型対物レンズと、磁界漏洩のあるセミインレンズ型又はシングルポール型の対物レンズとを組合せて、磁界の漏洩状況を切替え可能な構成にすることで、用途に合わせた観察を行うことができる。
【0081】
[第3実施例]
第1及び第2実施例では、SEMカラム1の先端に設置した先端電極11と、FIBカラム6の先端近傍に設置した電界補正電極13の両者に負電圧を印加する構成を説明した。この構成によれば、非対称な電界によるSEM及びFIB性能への悪影響を改善することができる。原理的には、先端電極11に負電圧を印加すると、漏洩電界が小さくなり、SEM光軸16に対する非対称性を軽減することができる。しかし、これは減速電界を弱めることになり、結果的に静電レンズの焦点距離が先端電極11に電圧を印加しない場合に比べて長くなる。これによりSEMの色収差及び球面収差が増大し、本来備えていた観察性能を最大限発揮することができなくなる。そこで、本実施例では、先端電極を用いずに、電界補正電極13と、電界補正電極13に印加する電圧を制御する制御装置とを用いることで、同様の課題を解決する方法を述べる。
【0082】
減速光学系を用いたSEMを搭載したFIB-SEMにおいて、非対称な構造物に起因する電界分布の乱れによるSEM性能及びFIB性能への悪影響については、第1及び第2実施例ですでに述べた。これらの悪影響を改善するには、SEM観察の際にはSEM光軸16に対する電界の対称性が保たれていればよく、FIB加工の際にはFIB光軸17に対する電界の対称性が保たれていれば良い。
【0083】
図9は、第3実施例に係る複合荷電粒子線装置(FIB-SEM)を示す概略構成図である。FIB-SEMは、ブースティング法又はリターディング法を用いた減速光学系を備える。電界補正電極13は、FIBカラム6と試料9との間で、かつ、FIB光軸17に対してSEMカラム1の反対側(FIBカラム6を挟んでSEM光軸16に対して反対側)に設置される。また、FIB-SEMは、電界補正電極13に電圧を印加するための電界補正電極電圧源14と、電界補正電極13に印加する電圧を制御する電圧制御部19を備える。なお、電圧制御部19は、上述の制御部20に実装されてもよい。
【0084】
減速光学系を用いた場合、軸非対称な構造物があると、電界分布に非対称性が生じる。これは、SEM性能及びFIB性能に悪影響を及ぼす。これに対して、電界補正電極13に適切な電圧V
semを印加することで、試料9の近傍の電界をSEM光軸16に対して対称に近づけることができる。この時、SEMの照射電子線は試料上の所望の位置に収束及び誘導される。加えて、信号電子は、適切にSEMカラム1内に設けられた検出器3に導かれる。なお、電圧V
semは、照射電子線の試料到達位置、及び、電子線が試料9に照射された際に発生する信号電子のSEMカラム内検出器3への到達量に基づいて設定される。
【0085】
同様に、電界補正電極13に別の適切な電圧V
FIBを印加することで、試料9の近傍の電界をFIB光軸17に対して対称に近づけることができる。この時、照射イオンビームは試料上の所望の位置に集束及び誘導される。なお、電圧V
FIBは、照射イオンビームの試料到達位置に基づいて設定される。
【0086】
ここで、電圧制御部19は、試料9に照射されている荷電粒子線の種類に合わせて、電界補正電極13に印加する電圧を制御する。具体的には、FIB-SEMは、試料9に照射する照射電子線と照射イオンビームを切り替える機構を備える。電圧制御部19は、照射イオンビームが試料9に照射されているときは、電界補正電極13に電圧V
FIBを印加する。一方、電圧制御部19は、照射電子線が試料9に照射されているときは、電界補正電極13に電圧V
semを印加する。電圧制御部19は、荷電粒子線の照射のタイミングに合わせて、電圧V
FIBと電圧V
semとを切り替える。これにより、SEM観察時のSEM性能と、FIB加工時のFIB性能を改善することができる。
【0087】
本構成では、SEMに先端電極11がない構成(先端電極への電圧印加なしの構成)において、試料9近傍の電界の非対称性を軽減することができる。従って、SEMの持つ本来の性能を最大限に引き出した観察が行える。これは例えば、FIBで加工した後に試料9の最終状態を観察する際に特に有効である。
【0088】
また、電界補正電極13のみを用いた場合、原理的にはSEMとFIBの性能を同時に改善することはできない。これに対して、本実施例では、試料9に照射する照射電子ビームと照射イオンビームを切り替える機構を設ける。そして、電圧制御部19は、試料に照射されている荷電粒子線の種類に合わせて、電界補正電極13にそれぞれに対応した電圧を印加する。
【0089】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0090】
上述では、FIB-SEMの実施例について説明したが、本発明は、本願発明の思想を逸脱しない範囲において他の2つ以上の荷電粒子線装置を組み合わせた複合荷電粒子線装置にも適用可能である。
【0091】
上述した制御部19、20の処理は、それらの機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施例の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0092】
ここで述べたプロセス及び技術は本質的に如何なる特定の装置に関連することはなく、コンポーネントの如何なる相応しい組み合わせによってでも実装できる。更に、汎用目的の多様なタイプのデバイスが使用可能である。ここで述べた処理を実行するのに、専用の装置を構築するのが有益である場合もある。つまり、上述した制御部19、20の一部が、例えば集積回路等の電子部品を用いたハードウェアにより実現されてもよい。
【0093】
さらに、上述の実施例において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。