(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
担体粒子(5)が分散した分散液(7)中に存在する、発光材料を含むターゲット(9)にレーザ光(11)を照射し、前記発光材料を含む粒子(3)と前記担体粒子とが結合した波長変換ナノ粒子(1)を製造し、
前記担体粒子はコロイダルシリカである波長変換ナノ粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を説明する。
(1)担体粒子
担体粒子の材質は特に限定されず、適宜選択することができる。担体粒子の材質としては、例えば、シリカ(例えばコロイダルシリカ)が挙げられる。また、担体粒子の材質は、例えば、後述する発光材料を含んでいてもよい。担体粒子の材質として、発光材料が含まれていると、波長変換ナノ粒子の発光強度を一層高くすることができる。
【0010】
担体粒子の平均粒径は、100nm以下が好ましく、50nm以下であることが一層好ましい。担体粒子の平均粒径が前記範囲内であれば、可視光や近赤外光の吸収や散乱を一層抑制することができる。また、担体粒子が分散液中に一層安定して存在することができる。なお、担体粒子の平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定することができる。
【0011】
分散液における担体粒子の濃度は、2〜10質量%の範囲が好ましい。この範囲内であれば、波長変換ナノ粒子を効率よく製造することができる。
(2)分散液
分散液は、液体の分散媒を含む。分散媒としては、例えば、水(例えば純水)、メタノール、エタノール、プロパノール等の極性溶媒や、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒のうちいずれか1種、又はいずれか2種以上の混合溶媒等が挙げられる。分散液は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、各種界面活性剤等が挙げられる。
【0012】
(3)ターゲット
ターゲットは、発光材料を含む。ターゲットは、発光材料から成るもの(実質的に他の成分を含まないもの)であってもよいし、他の成分(例えばバインダー、添加剤等)を含んでいてもよい。
【0013】
発光材料としては、例えば、紫外光を吸収し、可視光(例えば、585nmを中心とする波長領域の光)又は近赤外光(例えば、980nmを中心とする波長領域の光)の発光を行う波長変換材料が挙げられる。
【0014】
このような発光材料としては、例えば、半導体材料に、ドーパントをドープしたものが挙げられる。半導体材料としては、例えば、ZnO、ZnS、ZnSe、及びそれらの混合体から選択されるものが挙げられる。ドーパントとしては、例えば、Yb、Mn等が挙げられる。
【0015】
発光材料におけるドーパントの濃度は、例えばZnS:Mnの場合、モル濃度で表せば、0.27〜0.38mol%の範囲が好ましい。また、質量濃度で表せば、0.25〜0.35質量%の範囲が好ましい。この範囲内である場合、発光材料の発光強度が一層高くなる。なお、上記のMnの濃度は、材料の全量に占めるMnの率であり、必ずしも全てのMnがZnと入れ替わっているわけではない。
【0016】
また、発光材料は、その他の波長変換材料(例えば、アップコンバージョン材料)であってもよい。
(4)レーザ光
レーザとしては、例えば、固体レーザ、ガスレーザ、半導体レーザ等が挙げられる。レーザ光の波長は、例えば、300〜1100nmとすることができる。この範囲内である場合、波長変換ナノ粒子を一層効率的に製造できる。レーザ光の強度は、例えば、70〜100mJ/pulseとすることができる。この範囲内である場合、波長変換ナノ粒子を一層効率的に製造できる。レーザ光の照射時間は、例えば、20〜40分間とすることができる。この範囲内である場合、波長変換ナノ粒子を一層効率的に製造できる。
【0017】
レーザの発振方式は、パルス発振であってもよいし、連続発振であってもよい。ターゲットにおいてレーザ光が入射する部位は、時間の経過とともに変化することが好ましい。この場合、ターゲットの一部が偏って掘り下げられ、レーザ光がターゲットの表面に届きにくくなる現象を抑制できる。
【0018】
ターゲットにおいてレーザ光が入射する部位を変化させる方法として、例えば、レーザ光の照射中、継続的に又は間欠的にターゲットを回転又は変位させる方法がある。ターゲットを回転又は変位させる方法としては、例えば、ターゲットを回転自在又は変位自在に保持しておき、レーザ光がターゲットに入射すると、その反動により、ターゲットが回転又は変位するようにすればよい。
【0019】
また、ターゲットにおいてレーザ光が入射する部位を変化させる他の方法として、例えば、レーザ光の光路を時間の経過とともに変化させる方法が挙げられる。レーザ光の光路を変化させる方法としては、例えば、レーザ光の光路を構成するミラーやレンズの角度や位置を変化させる方法がある。
【0020】
(5)波長変換ナノ粒子
図1に示すように、波長変換ナノ粒子1は、発光材料を含む粒子3と担体粒子5とが結合した構造を有する。発光材料を含む粒子3は、分散液7中に存在するターゲット9にレーザ光11を照射したときに発生するレーザアブレーションにより、ターゲット9から生じると推定される。
【0021】
波長変換ナノ粒子の平均粒径は、100nm以下が好ましく、50nm以下であることが一層好ましい。波長変換ナノ粒子の平均粒径が前記範囲内であれば、可視光の吸収や散乱を一層抑制することができる。
【0022】
発光材料を含む粒子3の一部は、担体粒子5と結合せず、発光材料を含む粒子3同士で凝集することがある。この場合、遠心分離等の方法により、発光材料を含む粒子3同士で凝集した凝集物と、分散液7中に安定して存在する波長変換ナノ粒子1とを分離することができる。
【0023】
波長変換ナノ粒子は、種々の用途に用いることができる。例えば、波長変換ナノ粒子が、紫外光を吸収し、可視光又は近赤外光の発光を行うものである(すなわち、紫外光を可視光又は近赤外光に変換するものである)場合、波長変換ナノ粒子を含む材料(例えば、波長変換ナノ粒子を、光を透過する材料(例えばガラスや透明樹脂)中に混合した材料)を、太陽電池上に設置することができる。
【0024】
この場合、太陽光のうち、発電に寄与する可視光又は近赤外光は、前記の材料を透過し、太陽電池に至る。また、そのままでは発電に寄与しない紫外線は、前記の材料中の波長変換ナノ粒子により、可視光又は近赤外光に変換され、太陽電池に至る。そのため、前記の材料を用いれば、太陽光のうち、紫外光も発電に利用することができるようになるので、太陽電池の発電効率が向上する。
(実施例1)
1.波長変換ナノ粒子を製造するための装置
図2、
図3A、
図3Bに基づき、波長変換ナノ粒子を製造するための装置(以下では、製造装置13とする)の構成を説明する。
図2に示すように、製造装置13は、パルスレーザ15と、パルスレーザ15から射出されたレーザ光11の光路を形成するレーザステアリングミラー17及び集光レンズ19を備える。また、製造装置13は、集光レンズ19により集光されたレーザ光11の光路上に、試料収容部21を備える。
【0025】
図3A、
図3Bに示すように、試料収容部21は、外側容器23と、内側容器25と、複数のベアリング球27とを備える。外側容器23及び内側容器25は、それぞれ、上方が開口した円筒状の中空容器である。内側容器25は、外側容器23よりも一回り小さく、外側容器23の内部に収容されている。内側容器25の底25Aは外側容器23の底23Aに接している。また、内側容器25の上端25Bは、外側容器23の上端23Bより低い。
【0026】
内側容器25の外周面と外側容器23の内周面との間には隙間があり、複数のベアリング球27はその隙間に収容されている。以上の構成により、内側容器25は、その中心軸29を回転中心として、容易に回転することができる。
【0027】
内側容器25の内部には、ターゲット9を収容することができる。また、外側容器23の内部には、分散液7を収容することができる。分散液7の液面7Aは、ターゲット9の上端9Aより高くすることができる(すなわち、ターゲット9の全体が分散液7中に存在するようにすることができる)。
【0028】
2.波長変換ナノ粒子の製造方法
前記の製造装置13を用い、次のようにして波長変換ナノ粒子を製造した。まず、以下の組成(単位はモル比)を有するターゲット9を、内側容器25内に収容した。
【0029】
ZnO:LiO
2:Yb
2O
3=98:0.5:0.5
なお、ターゲット9は、ZnO:Ybと表記できる。ターゲット9は、ドーパントとしてYbを含み、ドーパント発光を行う発光材料の一例である。
【0030】
また、外側容器23の内部に、分散液7を収容した。このとき、ターゲット9の全体が、分散液7中に存在するようにした。分散液7は、日産化学工業株式会社製のスノーテックス20(製品名)を水で5倍に希釈したものである。分散液7は、コロイダルシリカを4質量%含み、残りは水である。コロイダルシリカの平均粒径は10〜20nmである。コロイダルシリカが担体粒子5に該当する。
【0031】
次に、以下の条件でターゲット9に向けてレーザ光11を照射した。
レーザ波長:1064nm
レーザ強度:75mJ/pulse
照射時間:30分間
なお、レーザ光11は、分散液7内を通り、ターゲット9に達する。レーザ光11の照射中、内側容器25は、入射したレーザ光11の反動により、継続的に回転した。その結果、ターゲット9においてレーザ光11が入射する部位は、時間の経過とともに変化した。このことにより、ターゲット9の一部が偏って掘り下げられ、レーザ光11がターゲット9の表面に届きにくくなる現象を抑制できた。
【0032】
最後に、遠心分離により、分散液7から、沈殿している凝集物を除去した。以下では、前記のように凝集物を除去した後の分散液7を、分散液S1とする。
3.波長変換ナノ粒子の評価
(1)形状と組成の評価
分散液S1から粒子を分離し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。また、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により、その粒子の各部分における元素分析を行った。TEM写真を
図4に示す。また、EDXによる分析結果の一例を
図5に示す。
【0033】
その結果、分散液S1から分離した粒子は、
図4に示すように、発光材料(ZnO:Yb)を含む粒子3と、シリカから成る担体粒子5とが結合した波長変換ナノ粒子1であることが確認できた。なお、
図5は、
図4における、発光材料を含む粒子3の部分の分析結果であり、Zn、Yb、Oを検出している。分散液S1から分離した波長変換ナノ粒子1の平均粒径は、10nmであった。
【0034】
前記の波長変換ナノ粒子1は、以下のようにして生じたと推定される。すなわち、分散液7中に存在するターゲット9にレーザ光11を照射したとき、
図6に示すように、レーザアブレーションにより、発光材料を含む粒子3が生じる。そして、その発光材料を含む粒子3と担体粒子5とが結合して、波長変換ナノ粒子1が生じる。
【0035】
(2)紫外光照射時における発光の評価
分散液S1に紫外光を照射し、そのときの発光強度を測定した。紫外光の強度は太陽光レベルとし、励起波長は380nmとした。その結果を
図7に示す。
【0036】
また、比較例として、レーザ光11を照射していない分散液7についても、同様に測定を行った。その結果を
図7においてR1として示す。
また、比較例として、分散液7の代わりに、純水を外側容器23に収容し、その他の条件は前記「2.波長変換ナノ粒子の製造方法」と同様の工程を行った。その場合の純水についても、同様に測定を行った。その測定結果を
図7においてR2として示す。
【0037】
また、比較例として、分散液7の代わりに、純水を外側容器23に収容し、その純水にはレーザ光11を照射しない場合についても、同様に測定を行った。その測定結果を
図7においてR3として示す。
【0038】
図7に示すように、分散液S1では、Yb発光に対応する波長領域(980nmを中心とする波長領域、近赤外光)での強い発光強度が観測された。一方、R1〜R3では、Yb発光に対応する波長領域での強い発光強度は観測されなかった。このことから、分散液S1中に存在する波長変換ナノ粒子1は、紫外光を吸収し、近赤外光の発光を行うことが確認できた。
【0039】
(3)光透過特性の評価
分散液S1について、各波長での透過率を測定した。その結果を
図8に示す。また、比較例として、レーザ光を照射していない純水についても、同様に測定を行った。その測定結果を
図8においてR3として示す。
【0040】
図8に示すように、分散液S1は、可視光及び近赤外光の波長領域において、純水(R3)と同程度の透過率を有すること(分散液S1に含まれる波長変換ナノ粒子1は、可視光及び近赤外光を吸収したり散乱したりしにくいこと)が確認できた。
【0041】
波長変換ナノ粒子1が可視光及び近赤外光を吸収したり散乱したりしにくい理由は、分散液S1中で波長変換ナノ粒子1が凝集しにくく、粒径が過大になりにくいためであると推定できる。
(実施例2)
1.波長変換ナノ粒子の製造方法
製造装置13を用い、基本的には前記実施例1と同様にして、波長変換ナノ粒子を製造した。ただし、本実施例では、ターゲット9の組成(単位は質量%)を以下のものとした。
【0042】
ZnS:Mn=99.65〜99.75:0.25〜0.35
なお、ターゲット9は、ZnS:Mnと表記できる。ターゲット9は、ドーパントとしてMnを含み、ドーパント発光を行う発光材料の一例である。
【0043】
また、本実施例における分散液7は、日産化学工業株式会社製のスノーテックス20(製品名)を水で10倍に希釈したものである。この分散液7は、コロイダルシリカを2質量%含み、残りは水である。コロイダルシリカの平均粒径は10〜20nmである。コロイダルシリカが担体粒子5に該当する。
【0044】
本実施例において、レーザ照射後、沈殿した凝集物を除去した分散液をS2とする。
2.波長変換ナノ粒子の評価
(1)形状と組成の評価
分散液S2から粒子を分離し、TEMで観察した。また、EDXにより、その粒子の各部分における元素分析を行った。TEM写真を
図9に示す。
【0045】
その結果、分散液S2から分離した粒子は、
図9に示すように、発光材料(ZnS:Mn)を含む粒子3と、シリカから成る担体粒子5とが結合した波長変換ナノ粒子1であることが確認できた。波長変換ナノ粒子1の平均粒径は10nmであった。
【0046】
前記の波長変換ナノ粒子1は、以下のようにして生じたと推定される。すなわち、分散液7中に存在するターゲット9にレーザ光11を照射したとき、
図10に示すように、レーザアブレーションにより、発光材料を含む粒子3が生じる。そして、その発光材料を含む粒子3と担体粒子5とが結合して、波長変換ナノ粒子1が生じる。
【0047】
(2)紫外光照射時における発光の評価
分散液S2に紫外光を照射し、そのときの発光を測定した。紫外光の強度は太陽光レベルとし、励起波長は380nmとした。その結果を
図11に示す。
【0048】
また、比較例として、レーザ光11を照射していない分散液7についても、同様に測定を行った。その結果を
図11においてR4として示す。
また、比較例として、分散液7の代わりに、純水を外側容器23に収容し、その他の条件は前記「1.波長変換ナノ粒子の製造方法」と同様の工程を行った。その場合の純水についても、同様に測定を行った。その測定結果を
図11においてR5として示す。
【0049】
また、比較例として、純水を外側容器23に収容し、その純水にはレーザ光を照射していない場合についても、同様に測定を行った。その測定結果を
図11においてR6として示す。
【0050】
図11に示すように、分散液S2では、Mn発光に対応する波長領域(585nmを中心とする波長領域、可視光)での強い発光強度が観測された。一方、R4〜R6では、Mn発光に対応する波長領域での強い発光強度は観測されなかった。このことから、分散液S2中に存在する波長変換ナノ粒子1は、紫外光を吸収し、可視光の発光を行うことが確認できた。
【0051】
(3)光透過特性の評価
分散液S2について、各波長での透過率を測定した。その結果を
図12に示す。また、比較例として、レーザ光を照射していない純水についても、同様に測定を行った。その測定結果を
図12においてR6として示す。
【0052】
図12に示すように、分散液S2は、可視光及び近赤外光の波長領域において、純水(R6)と同程度の透過率を有すること(分散液S2に含まれる波長変換ナノ粒子1は、可視光及び近赤外光を吸収したり散乱したりしにくいこと)が確認できた。
【0053】
波長変換ナノ粒子1が可視光及び近赤外光を吸収したり散乱したりしにくい理由は、分散液S2中で波長変換ナノ粒子1が凝集しにくく、粒径が過大になりにくいためであると推定できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得る。
前記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合させたりしてもよい。また、前記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、前記実施形態の構成の一部を省略してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
上述した波長変換ナノ粒子の製造方法の他、波長変換ナノ粒子、波長変換ナノ粒子の製造装置等、種々の形態で本発明を実現することもできる。