特許第6405275号(P6405275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6405275水素の製造方法、および水素製造システム
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  • 特許6405275-水素の製造方法、および水素製造システム 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405275
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】水素の製造方法、および水素製造システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/38 20060101AFI20181004BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   C01B3/38
   C01B3/56 Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-59295(P2015-59295)
(22)【出願日】2015年3月23日
(65)【公開番号】特開2016-175818(P2016-175818A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100161274
【弁理士】
【氏名又は名称】土居 史明
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高田 吉則
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/140994(WO,A1)
【文献】 特開2012−218994(JP,A)
【文献】 特開平09−115541(JP,A)
【文献】 特開2014−024696(JP,A)
【文献】 特開平04−231328(JP,A)
【文献】 特開2003−142140(JP,A)
【文献】 特開2008−247636(JP,A)
【文献】 米国特許第08852456(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素から、ドライリフォーミング反応により水素と一酸化炭素を含む改質ガスを得るドライリフォーミング工程と、
上記改質ガスと水蒸気とを接触させて行う一酸化炭素変成反応により、水素と二酸化炭素を含む混合ガスを得る一酸化炭素変成工程と、
上記混合ガスから水素を濃縮して回収する水素精製工程と、
上記水素精製工程において水素回収後に導出されるオフガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、を備え、
上記二酸化炭素分離工程を経た、上記オフガスよりも二酸化炭素濃度が高い二酸化炭素富化ガスを、上記ドライリフォーミング工程に付される前の上記原料ガスに添加する、水素の製造方法。
【請求項2】
上記水素精製工程においては、上記混合ガスから、二酸化炭素を含む、水素以外の成分の少なくとも一部を圧力変動吸着式ガス分離法により吸着除去する、請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項3】
上記二酸化炭素分離工程においては、二酸化炭素を優先的に透過させるためのガス分離膜により、上記オフガスを、上記ガス分離膜を透過する二酸化炭素富化ガスおよび上記ガス分離膜を透過しない非透過ガスに分離する、請求項1または2に記載の水素の製造方法。
【請求項4】
上記ガス分離膜は、有機系高分子分離膜または無機系分離膜である、請求項3に記載の水素の製造方法。
【請求項5】
炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素を含む改質ガスを得るための、ドライリフォーミング装置と、
上記改質ガスと水蒸気から、水素と二酸化炭素を含む混合ガスを得るための、一酸化炭素変成装置と、
上記混合ガスから水素を濃縮して回収するための水素精製装置と、
上記水素精製装置において水素回収後に導出されるオフガスから二酸化炭素を分離するための、二酸化炭素分離装置と、
上記二酸化炭素分離装置を経た、上記オフガスよりも二酸化炭素濃度が高い二酸化炭素富化ガスを、上記ドライリフォーミング装置に供給される前の上記原料ガスに添加するための、ガス送り手段と、を備える、水素製造システム。
【請求項6】
上記水素精製装置は、上記混合ガスから、吸着剤が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、二酸化炭素を含む、水素以外の成分の少なくとも一部を吸着除去するための、圧力変動吸着式ガス分離装置として構成される、請求項5に記載の水素製造システム。
【請求項7】
上記二酸化炭素分離装置は、二酸化炭素を優先的に透過させるガス分離膜を有し、上記オフガスを、上記ガス分離膜を透過する二酸化炭素富化ガスおよび上記ガス分離膜を透過しない非透過ガスに分離して導出するための、膜式ガス分離装置として構成される、請求項5または6に記載の水素製造システム。
【請求項8】
上記ガス分離膜は、有機系高分子分離膜または無機系分離膜である、請求項7に記載の水素製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系原料の改質反応を利用する水素の製造方法および水素製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の原料などの炭化水素に代わるエネルギー源として、また風力発電や太陽光発電などの出力変動の大きなエネルギーのエネルギー貯蔵媒体として、水素が注目されている。水素の製造方法としては、たとえば天然ガスやメタノールなどの炭化水素系原料の改質により得る方法や、コークス炉ガスなど水素含有ガスから分離する方法が知られている。
【0003】
炭化水素系原料の改質方法としては、炭化水素系原料に水を加えて行うスチームリフォーミング法(水蒸気改質法)や、炭化水素系原料に炭酸ガス(二酸化炭素)を加えて行うドライリフォーミングなどがある。スチームリフォーミング法は、改質反応によって水素を製造する場合において、一般的に用いられる手法である。スチームリフォーミング法においては、メタンやメタノールなどの炭化水素系の原料ガスに水蒸気を添加して高温状態を保ちながら改質反応を進行させ、二酸化炭素と水が生成される。スチームリフォーミング法(水蒸気改質法)に関する技術は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【0004】
スチームリフォーミング法では、水を蒸発させて所定の高温状態に保たれた水蒸気とする必要がある。スチームリフォーミング反応を継続するためには、水から水蒸気への状態変化に伴う潜熱(気化熱)の影響により、多大なエネルギーが必要となる。したがって、スチームリフォーミング法では、エネルギー的に、水素の製造に係るコストが高くなるといった問題があった。
【0005】
一方、ドライリフォーミング法では、上述のスチームリフォーミング法のような潜熱の影響を受けないので、スチームリフォーミング法に比べてエネルギー的に有利である。その反面、副生する二酸化炭素量が多いため、環境面から見ると好ましくないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−192302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであって、大気中への二酸化炭素の放出量を低減した、エネルギー的に有利なドライリフォーミング法での水素の製造方法を提供することを主たる課題としている。
【発明を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される水素の製造方法は、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素から、ドライリフォーミング反応により水素と一酸化炭素を含む改質ガスを得るドライリフォーミング工程と、上記改質ガスと水蒸気とを接触させて行う一酸化炭素変成反応により、水素と二酸化炭素を含む混合ガスを得る一酸化炭素変成工程と、上記混合ガスから水素を濃縮して回収する水素精製工程と、上記水素精製工程において水素回収後に導出されるオフガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、を備え、上記二酸化炭素分離工程を経た、上記オフガスよりも二酸化炭素濃度が高い二酸化炭素富化ガスを、上記ドライリフォーミング工程に付される前の上記原料ガスに添加する。
【0009】
好ましくは、上記水素精製工程においては、上記混合ガスから、二酸化炭素を含む、水素以外の成分の少なくとも一部を圧力変動吸着式ガス分離法により吸着除去する。
【0010】
好ましくは、上記二酸化炭素分離工程においては、二酸化炭素を優先的に透過させるためのガス分離膜により、上記オフガスを、上記ガス分離膜を透過する二酸化炭素富化ガスおよび上記ガス分離膜を透過しない非透過ガスに分離する。
【0011】
好ましくは、上記ガス分離膜は、有機系高分子分離膜または無機系分離膜である。
【0012】
本発明の第2の側面によって提供される水素製造システムは、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素を含む改質ガスを得るための、ドライリフォーミング装置と、上記改質ガスと水蒸気から、水素と二酸化炭素を含む混合ガスを得るための、一酸化炭素変成装置と、上記混合ガスから水素を濃縮して回収するための水素精製装置と、上記水素精製装置において水素回収後に導出されるオフガスから二酸化炭素を分離するための、二酸化炭素分離装置と、上記二酸化炭素分離装置を経た、上記オフガスよりも二酸化炭素濃度が高い二酸化炭素富化ガスを、上記ドライリフォーミング装置に供給される前の上記原料ガスに添加するための、ガス送り手段と、を備える。
【0013】
好ましくは、上記水素精製装置は、上記混合ガスから、吸着剤が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、二酸化炭素を含む、水素以外の成分の少なくとも一部を吸着除去するための、圧力変動吸着式ガス分離装置として構成される。
【0014】
好ましくは、上記二酸化炭素分離装置は、二酸化炭素を優先的に透過させるガス分離膜を有し、上記オフガスを、上記ガス分離膜を透過する二酸化炭素富化ガスおよび上記ガス分離膜を透過しない非透過ガスに分離して導出するための、膜式ガス分離装置として構成される。
【0015】
好ましくは、上記ガス分離膜は、有機系高分子分離膜または無機系分離膜である。
【0016】
ドライリフォーミング法による改質反応の反応式は、例えば炭化水素系の原料ガスがメタンの場合、下記の式(1)で表される。また、式(1)の反応で生成された、一酸化炭素を含む改質ガスと、水蒸気とを接触させて行う一酸化炭素変成反応の反応式は、下記の式(2)で表される。
【0017】
【化1】
【化2】
【0018】
上記の式(1)、(2)をまとめると、下記の式(3)となり、メタンガス量1モルを改質するのに、二酸化炭素が1モル必要であり、また二酸化炭素が2モル副生していることが分かる。
【0019】
【化3】
【0020】
副生した二酸化炭素は、通常大気に放出されるため、温暖化を引き起こし、環境的には好ましくない。本発明では、副生した二酸化炭素を分離した後、再度原料として用いることで、別途原料として二酸化炭素を準備する必要はなくなり、コスト的にも有利である。
【0021】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る水素製造システムの概略構成を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る水素の製造方法を実行するのに使用することができる水素製造システムXの概略構成を示している。
水素製造システムXは、ドライリフォーミング装置1と、気化器2と、一酸化炭素変成装置3と、水素PSA装置4と、二酸化炭素分離装置5と、を備えている。
【0025】
ドライリフォーミング装置1は、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素により、ドライリフォーミング反応(例えば上記の式(1)で示した反応)を生じさせる装置である。ドライリフォーミング装置1は、例えば固定床流通管型反応器の形態が採用されており、内部には反応触媒が充填されている。当該反応触媒としては、例えばニッケル系の粒状触媒が挙げられる。ドライリフォーミング装置1は、ドライリフォーミング反応を進行するために加熱され、その内部が所定の反応温度(例えば850℃)に維持される。
【0026】
ドライリフォーミング装置1には、ガス供給ラインL1およびガス移送ラインL2が接続されている。ガス供給ラインL1は、炭化水素系の原料ガスをドライリフォーミング装置1に供給するための流路である。ガス移送ラインL2は、ドライリフォーミング装置1を経たガスを一酸化炭素変成装置3に移送するための流路である。
【0027】
炭化水素系の原料ガスとしては、メタン、エタンやプロパンなどの飽和炭化水素、あるいはブテンなどの不飽和炭化水素が挙げられる。以下においては、原料ガスがメタンであるものとして説明を進める場合もあるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
ドライリフォーミング反応によって得られるガス(改質ガス)は、水素および一酸化炭素である。ドライリフォーミング装置1から導出されるガスは、上記の改質ガス(水素および一酸化炭素)と、未反応のメタンおよび二酸化炭素と、を含んでいる。
【0029】
ガス移送ラインL2には、熱交換器6が設けられている。ドライリフォーミング装置1からガス移送ラインL2に導出されるガスは、熱交換器6において、後に一酸化炭素変成装置3で一酸化炭素変成反応を行うのに適した温度(例えば180℃程度)に冷却される。
【0030】
ガス移送ラインL2の途中には、水供給ラインL3が分岐状に連結されている。水供給ラインL3は、水(水蒸気)を供給するためのものであり、ガス移送ラインL2において熱交換器6よりも下流側に連結している。
【0031】
気化器2は、水を蒸発気化するためのものであり、水供給ラインL3に設けられている。水は、後述の一酸化炭素変成反応の原料の一つであり、水供給ラインL3に設けられたポンプ7および流量調整弁8を経て所定の供給流量に調節されたうえで、気化器2に導入される。気化器2では、例えば150℃まで水蒸気加熱する。
【0032】
一酸化炭素変成装置3は、改質ガス(一酸化炭素)と水蒸気とを接触させて、一酸化炭素変成反応(上記の式(2)で示した反応)を生じさせる装置である。一酸化炭素変成装置3は、ガス移送ラインL2の下流側端に接続されている。一酸化炭素変成装置3には、ドライリフォーミング装置1において生成された改質ガスと、気化器2を経た水蒸気とが導入される。一酸化炭素変成装置3の内部には、例えばプラチナ系触媒が充填されている。一酸化炭素変成装置3では、例えば180℃に調節され、一酸化炭素と水蒸気との反応(一酸化炭素変成反応)により、水素と二酸化炭素が生成する。
【0033】
一酸化炭素変成装置3には、ガス移送ラインL4が接続されている。ガス移送ラインL4は、一酸化炭素変成装置3を経たガスを水素PSA装置4に移送するための流路である。一酸化炭素変成装置3から導出されるガスは、一酸化炭素変成反応により得られた水素および二酸化炭素と、未反応成分(一酸化炭素、水分)と、を含む混合ガスである。
【0034】
ガス移送ラインL4には、熱交換器9および圧縮機10が設けられている。熱交換器9は、一酸化炭素変成装置3からガス移送ラインL4に導出される混合ガスを、後の水素PSA装置4での処理に適した温度(例えば30℃程度)に冷却する。熱交換器9により冷却された混合ガスは、圧縮機10により後述の吸着工程を行うのに適した圧力(例えば0.7MPaG程度)に昇圧されて、水素PSA装置4に導入される。
【0035】
水素PSA装置4は、混合ガスから水素を濃縮して回収するものである。水素PSA装置4は、水素、二酸化炭素、および不純物成分(一酸化炭素、水分)を含む混合ガスから難吸着成分が濃縮された非吸着ガスと易吸着成分が濃縮された脱着ガスとを分離回収するべく、圧力変動吸着式ガス分離法(PSA法)による操作を実行可能に構成されたものである。
【0036】
水素PSA装置4は、吸着剤が充填された複数の吸着塔、ポンプ、およびこれらを繋ぐガス流路(いずれも図示略)を備えている。当該吸着剤は、二酸化炭素、一酸化炭素、および水分を優先的に吸着するものが用いられる。二酸化炭素、一酸化炭素を吸着するための吸着剤としては、例えば、活性炭やゼオライトが挙げられる。水分を吸着するための吸着剤としては、例えばアルミナが挙げられる。水素PSA装置4は、例えば4つの吸着塔を備えた4塔式の構成とされるが、吸着塔の数は特に限定されるものではなく、例えば2塔式や3塔式のPSA装置として構成してもよい。
【0037】
PSA法によるガス分離では、単一の吸着塔について、例えば吸着工程、脱着工程、および洗浄工程を含む1サイクルが繰り返される。吸着工程は、塔内が所定の高圧状態にある吸着塔に混合ガスを導入して当該混合ガス中の二酸化炭素および不純物成分を吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から非吸着ガス(水素が濃縮された精製水素ガス)を導出するための工程である。脱着工程は、ポンプの作動により吸着塔内を減圧して吸着剤から二酸化炭素および不純物成分を脱着させ、塔内のガス(主に脱着ガス)をオフガスとして塔外に導出するための工程である。洗浄工程は、脱着工程を終了した吸着塔を、吸着工程にある他の吸着塔から導出される非吸着ガスの一部を利用して洗浄する工程である。
【0038】
水素PSA装置4には、水素回収ラインL5およびオフガスラインL6が接続されている。水素回収ラインL5は、吸着塔から導出される精製水素ガスを回収するための流路である。オフガスラインL6は、吸着塔から導出されるオフガスを二酸化炭素分離装置5に移送するための流路である。当該オフガスは、二酸化炭素の他に、一酸化炭素、水分や水素を含む。
【0039】
オフガスラインL6には、圧縮機11が設けられている。水素PSA装置4から導出がされたオフガスは、圧縮機11により所定の圧力(例えば0.3MPaG程度)に昇圧されて、常温下で二酸化炭素分離装置5に導入される。
【0040】
二酸化炭素分離装置5は、PSA法により水素回収後に導出されるオフガスから二酸化炭素を分離するものである。二酸化炭素分離装置5は、ガス分離膜5Aを有し、膜式ガス分離装置として構成されたものである。ガス分離膜5Aは、二酸化炭素を優先的に透過させるものであり、有機系高分子分離膜または無機系分離膜である。上記有機系高分子分離膜としては、例えばポリイミド系の多孔質樹脂膜が挙げられる。上記無機系分離膜としては、例えばセラミック多孔性基材にアルミナやシリカ等の無機酸化物の薄膜を形成したものが挙げられる。
【0041】
二酸化炭素分離装置5は、ドライリフォーミング装置1での反応に必要な二酸化炭素量だけがガス分離膜5Aを透過できる分離性能に設計されたものである。二酸化炭素分離装置5には、リサイクルラインL7および排出ラインL8が接続されている。
【0042】
リサイクルラインL7は、ガス分離膜5Aの透過側にあるガス導出口5bに接続されている。リサイクルラインL7には、ガス分離膜5Aを透過した、二酸化炭素濃度の高いガス(二酸化炭素富化ガス)が導出される。リサイクルラインL7の下流側端は、ガス供給ラインL1の途中に連結されている。リサイクルラインL7を流れた二酸化炭素富化ガスは、ガス供給ラインL1を流れる、ドライリフォーミング装置1に供給される前の原料ガスに添加され、原料ガスとともにドライリフォーミング装置1に供給される。
【0043】
排出ラインL8は、ガス分離膜5Aの非透過側にあるガス導出口5cに接続されている。排出ラインL8には、ガス分離膜5Aを透過しなかったガスが導出される。ガス分離膜5Aを透過しなかったガスは、二酸化炭素の他に、一酸化炭素や水素を含む。排出ラインL8を流れるガスは、燃焼器(図示略)により無害化し、ドライリフォーミング装置1、気化器2あるいは一酸化炭素変成装置3の熱源として熱交換・熱回収した後、大気中に排出される。
【0044】
上記構成の水素製造システムXの稼働時には、原料ガス、および二酸化炭素分離装置5を経た二酸化炭素富化ガスが、ドライリフォーミング装置1に供給される。ドライリフォーミング装置1では、ドライリフォーミング反応により、炭化水素系の原料ガスと二酸化炭素から、水素および一酸化炭素(改質ガス)が生成される(上記の式(1)参照)。そして、ドライリフォーミング装置1において生成された改質ガスと、気化器2を経た水蒸気とが、一酸化炭素変成装置3に導入される。一酸化炭素変成装置3では、一酸化炭素変成反応により、一酸化炭素と水蒸気から、水素と二酸化炭素が生成する(上記の式(2)参照)。水素PSA装置4では、水素が濃縮分離され、二酸化炭素および不純物成分を含むオフガスが導出される。二酸化炭素分離装置5では、ガス分離膜5Aを透過することにより二酸化炭素が濃縮され、この二酸化炭素富化ガスが、リサイクルラインL7を介して、ドライリフォーミング装置1に供給される前の原料ガスに添加される。
【0045】
なお、水素製造システムXの起動時には、リサイクルラインL7から送られるガスがないので、例えば仮想線で示すように、ガス供給ラインL9を介して外部から二酸化炭素が供給される。外部から供給された二酸化炭素、および原料ガスにより、ドライリフォーミング装置1においてドライリフォーミング反応が進行する。その後、リサイクルラインL7を介して二酸化炭素富化ガスが供給されるようになれば、外部からの二酸化炭素の供給を停止する。
【0046】
本実施形態においては、一酸化炭素変成反応により副生した二酸化炭素を二酸化炭素分離装置5で分離した後、再度、ドライリフォーミング反応の原料として用いることができる。したがって、別途原料としての二酸化炭素を供給し続ける必要はなく、コスト的に有利である。また、一酸化炭素変成反応により副生する二酸化炭素の約半分(上記の式(3)参照)は水素製造システムX内でリサイクルされるので、大気中への二酸化炭素の放出量が低減され、環境面においても優れている。
【0047】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本発明に係る水素の製造方法を実行する水素製造システムにおける各部の構成も種々に変更可能である。
【0048】
上記実施形態において、水素製造システムXの起動時にガス供給ラインL9を介して外部から二酸化炭素を供給する場合について説明したが、二酸化炭素の供給に代えて、起動時のみ水蒸気を供給してもよい。起動時にドライリフォーミング装置1に水蒸気を供給する場合、気化器2から水蒸気の供給を受けることが可能であり、起動時のみドライリフォーミング装置1においてスチームリフォーミング反応を生じさせる。スチームリフォーミング反応により生成する成分はドライリフォーミング反応と同様に水素と一酸化炭素であるので、その後一酸化炭素変成装置3での二酸化炭素生成反応が上記実施形態と同様に行われる。そして、ガス分離膜5Aを透過する二酸化炭素富化ガスのリサイクルが始まれば、ドライリフォーミング装置1への水蒸気の供給を停止すればよい。
【0049】
原料ガスがメタンの場合、メタンを主原料とする天然ガスをドライリフォーミング装置1に供給する原料ガスとして用いてもよい。また、天然ガスに所定濃度以上の二酸化炭素が含まれる場合、その二酸化炭素含有の天然ガスを原料ガスとして供給すれば、水素製造システムXの運転起動時における外部からの二酸化炭素の導入は不要となる。
【0050】
水素PSA装置4を経たオフガスから二酸化炭素を濃縮分離する手法としては、上記実施形態の膜分離に限定されず、例えばPSA装置により上記オフガスから二酸化炭素を分離してもよい。
【実施例】
【0051】
次に、本発明の有用性を実施例により説明する。
【0052】
本実施例では、図1に示した水素製造システムXを用いて、上記実施形態において説明した各装置での生成反応やガス分離により、水素を製造した。
【0053】
ドライリフォーミング装置1は、固定床流通管型反応器として構成されており、内部に反応触媒としてのNi/Al23粒状触媒を7.92L充填した。反応器の内部温度を850℃に維持しつつ、原料ガスたるメタンを1NL/minのガス量で供給した。また、起動時のみ、二酸化炭素を別途1.2NL/minのガス量で導入した。反応器の内部圧力は0.1MPaGに調整された。ドライリフォーミング装置1でのドライリフォーミング反応により得られた、水素と一酸化炭素を含む改質ガスを、熱交換器6で180℃まで冷却した後、一酸化炭素変成装置3に導入した。気化器2において水を150℃の水蒸気に加熱し、当該水蒸気を2.5NL/minのガス量で一酸化炭素変成装置3に導入した。
【0054】
一酸化炭素変成装置3の内部にはプラチナ系触媒が12.06L充填されており、内部温度を180℃に維持した。一酸化炭素変成装置3での一酸化炭素変成反応により得られた、水素と二酸化炭素を含む混合ガスを、熱交換器9で室温まで冷却した後、圧縮機10で0.7MPaGまで昇圧して4塔式の水素PSA装置4に導入した。水素PSA装置4においては、水素が濃縮精製され、純度99.999%の精製水素ガスが3.2NL/minのガス量で得られた。
【0055】
精製水素ガスの取得と並行して、水素PSA装置4から導出された、二酸化炭素を含むオフガスを、圧縮機11で0.3MPaGに昇圧した上で二酸化炭素分離装置5に導入した。二酸化炭素分離装置5には、ガス分離膜5Aとして、ポリイミド系高分子炭酸ガス分離膜(膜厚10μm、膜面積0.13m2)が装着された。二酸化炭素分離装置5では、二酸化炭素1.2NL/minを含む、ガス分離膜5Aの透過ガス1.3NL/minが得られ、起動時に外部から供給していた二酸化炭素のドライリフォーミング装置1への導入を停止し、上記透過ガス全量1.3NL/minを、ドライリフォーミング装置1に導入した。ドライリフォーミング装置1への上記透過ガスの導入後の定常運転時において、水素PSA装置4により得られた精製水素ガスは、起動時と同様に純度が99.999%、ガス量が3.2NL/minであった。
【0056】
ガス分離膜5Aを透過しなかった、二酸化炭素を含む非透過ガスのガス量は、0.8NL/minであった。当該非透過ガスは、一酸化炭素や水素を含むため、燃焼処理により無害化し、ドライリフォーミング装置1、気化器2あるいは一酸化炭素変成装置3の熱源として熱交換・熱回収した後、大気中に排出した。
【符号の説明】
【0057】
X 水素製造システム
1 ドライリフォーミング装置
2 気化器
3 一酸化炭素変成装置
4 水素PSA装置(圧力変動吸着式ガス分離装置)
5 二酸化炭素分離装置
5A ガス分離膜
5b,5c ガス導出口
6 熱交換器
7 ポンプ
8 流量調整弁
9 熱交換器
10,11 圧縮機
L1 ガス供給ライン
L2 ガス移送ライン
L3 水供給ライン
L4 ガス移送ライン
L5 水素回収ライン
L6 オフガスライン
L7 リサイクルライン(ガス送り手段)
L8 排出ライン
L9 ガス供給ライン
図1