(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405287
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】トランスおよびこれを用いたマイクロ波発生装置
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20181004BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20181004BHJP
H01F 19/04 20060101ALI20181004BHJP
H01J 23/34 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
H01F30/10 C
H01F27/28 K
H01F19/04 U
H01J23/34 B
H01J23/34 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-110235(P2015-110235)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-225452(P2016-225452A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木崎 久雄
(72)【発明者】
【氏名】小畑 英幸
(72)【発明者】
【氏名】北澤 弘則
【審査官】
右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−47731(JP,A)
【文献】
特開平5−159945(JP,A)
【文献】
特開平4−56370(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0162384(US,A1)
【文献】
特開2000−286082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/10
H01F 19/04
H01F 27/28
H01J 23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、該コアの外周に1次側巻線が巻装され、前記1次側巻線の外周に絶縁材を挟んで2次側巻線が巻装されているトランスにおいて、
前記2次側巻線は複数本の巻線からなり、該巻線が相互に密接した1組の巻線として同一段に巻装され、所望の特性を得るために必要な巻数だけ複数段巻装されているとともに、
前記コア表面から巻装された前記2次側巻線表面までの寸法が、前記2次側巻線の直径の8〜11倍の範囲となるように前記1次側巻線と前記2次側巻線が前記コアに巻装されていることを特徴とするトランス。
【請求項2】
請求項1記載のトランスにおいて、前記1次側巻線は複数の巻線が並列に接続していることを特徴とするトランス。
【請求項3】
パルス電圧を生成するトランスを備え、該トランスにより生成されたパルス電圧により駆動するマイクロ波発生装置において、
前記トランスは、コアと、該コアの外周に前記1次側巻線が巻装され、該1次側巻線の外周に絶縁材を挟んで2次側巻線が巻装されているトランスであって、前記2次側巻線は複数本の巻線からなり、該巻線が相互に密接した1組の巻線として同一段に巻装され、所望の特性を得るために必要な巻数だけ複数段巻装されているとともに、
前記コア表面から巻装された前記2次側巻線表面までの寸法が、前記2次側巻線の直径の8〜11倍の範囲となるように前記1次側巻線と前記2次側巻線が前記コアに巻装されていることを特徴とするマイクロ波発生装置。
【請求項4】
請求項3記載のマイクロ波発生装置において、前記1次側巻線は複数の巻線が並列に接続していることを特徴とするマイクロ波発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を発振あるいは増幅するマグネトロン、TWT、CFA等のマイクロ波発生装置をパルス駆動するために用いられるトランスおよびこれを用いたマイクロ波発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波発生装置の一例として、船舶用、陸上用、気象用等のパルスレーダ装置に用いられるマグネトロンの駆動回路図を
図6に示す。この種のマグネトロンでは、
図6に示すように数百ボルト(V)の電圧の直流電源10と接地電位との間に、トランス11の1次側巻線とFETやIGBTからなるスイッチングトランジスタ12とが直列接続されている。スイッチングトランジスタ12のゲートには、ゲートパルス発生回路13から所定の周波数のパルス信号が印加され、スイッチングトランジスタ12の導通・非導通が制御される。スイッチングトランジスタ12が導通すると、トランス11の1次側巻線に電流が流れ、2次側巻線に接地電位に対して負電圧が発生する。発生した数kVの負電圧がマグネトロン14の陰極に供給されると、陽極・陰極間に陽極電流が流れ(陽極・陰極間の電圧を陽極電圧という)、これによりマグネトロン14が所定の周波数および出力でパルス発振することになる。この種のマグネトロンは、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
この種のマグネトロンのパフォーマンスチャートを
図7に示す。
図7(a)はマグネトロンの陽極電流と陽極電圧の関係を示し、定格動作点の周辺領域ではわずかな陽極電圧の変動でも陽極電流が大きく変動することがわかる。また
図7(b)はマグネトロンの陽極電流と発振出力の関係を示し、暗流部を除き、陽極電流と発振出力は比例関係にあることがわかる。これらの関係からマグネトロンの陽極電圧が変動すると、発振出力が大きく変動することがわかる。
【0004】
一方
図8はカレントプッシング特性と呼ばれるマグネトロンの陽極電流と発振周波数の関係を示す説明図である。陽極電流の変動で、発振周波数が変動することがわかる。陽極電流は、
図7(a)で説明したように陽極電圧が変動すると大きく変動するため、陽極電圧が変動すると、発振周波数が大きく変動することになる。この発振周波数の変動が発振パルス内で発生すると、周波数成分の積算である発振スペクトラムが悪化する問題があった。
【0005】
また
図9はマグネトロンの陽極電流の変動を説明する波形図を示す。
図9(a)は陽極電流が時間と共に上昇する場合、逆に
図9(b)は陽極電流が時間と共に下降する場合を示している。このように陽極電流が変動すると、パルス内の発振出力や発振周波数に変動が生じ、不安定となる。また
図9(a)および
図9(b)に示すように陽極電流の変動が大きい場合には、定格動作ができない、発振出力にばらつきが生じる、発振スペクトラムが悪化する、不安定な発振となる等の問題が発生する。
【0006】
また、
図9(b)に示すようにパルスの立ち上がりエッジにオーバーシュートが生じるとマグネトロンに過電流が流れ、場合によっては陰極が損傷し、マグネトロンの短寿命化を引き起こすことがあった。そこでオーバーシュートの問題を解決し、陽極電流が所定の電流範囲のときだけマグネトロンが動作するように制限をかけることも可能である。しかしながら
図9(a)に示すように陽極電流値が一定になるまでに時間を要する場合、陽極電圧の立ち上がりが制限値に達するまで動作しないことになり、所定のパルス幅以上のパルス動作しかできず、短いパルス動作に不適となる。また、短いパルス動作を行うために制限値を設けない場合には、ピークレベルが低くなるという問題もあった。
【0007】
以上説明したように、陽極電流の変動を抑えることがマグネトロンの安定動作に重要な要件となる。ところで陽極電流の変動は、換言すれば陽極電圧の変動であり、トランスからマグネトロンの陰極に供給される電圧の変動である。つまりトランスの2次側巻線に発生する負電圧の変動を抑えることがマグネトロンの安定動作にとって重要な要件となることがわかる。
【0008】
マグネトロンの陰極に供給される電圧が変動するという問題は、マグネトロンをパルス駆動するパルスモジュレータを構成する回路素子や回路の引き回しにより、本来のパルス電圧発生には不要なリアクタンス成分が影響しているためであり、特にモジュレータを構成するトランスの不要なリアクタンス成分の影響を低減することが効果的であることが知られている。
【0009】
トランスの不要なリアクタンスとしては、例えばリーケージインダクタンスLe(μH)や巻線容量Cw(pF)があげられる。リーケージインダクタンスや巻線容量が増加すると、次式で表される最大伝送周波数fmaxが低下する。
fmax=(2/Le・Cw)
1/2×10
3/2π
【0010】
最大伝送周波数fmaxが低下することは、短いパルス波形の場合に、2次側に十分な伝送が行われず、1次側の波形が再現されず、ピークレベルが低下したり、長いパルス波形においても早い立ち上がりや立ち下がりが再現できなくなることになる。
【0011】
図10に従来のトランスを示す。
図10に示すトランスは、中心に鉄心1(コア)を有するボビン2に、2次側巻線3a、別の2次側巻線4a、1次側巻線5、2次側巻線3b、別の2次側巻線4bの順にそれぞれ巻き付け、2次側巻線3b、4bで1次側巻線5を挟み込んだ構造となっている。このような構造のトランスが不要なリアクタンス成分を持つ原因は、1次側巻線5と2次側巻線3a、4aは密に結合されるが、2次側巻線3b、4bと鉄心1の間隔が拡がること、2次側巻線3a、3bと鉄心1間の距離と別の2次側巻線4a、4bの鉄心1間の距離が異なってしまうこと、2次側巻線3a、3bの巻き径と別の2次側巻線4a、4bの巻き径が変わること等があげられる。
【0012】
そこでこのような不要なリアクタンス成分の影響を抑制し、1次側のパルス波形を忠実に再現するため、1次巻線と2次巻線の結合を密にする方法が提案されている。例えば特許文献2には、1次側巻線と2次側巻線をバイファイラ巻にすることで結合を密にする方法が提案されている。
【0013】
しかしながら、バイファイラ巻が効果を発揮するのは、印加される電圧範囲が低いときに限られ、数百V〜数十kVという高い電圧範囲で動作するマグネトロン等のマイクロ波発生装置のパルスモジュレータとして用いる場合、1次側巻線と2次側巻線の巻数比を大きくする必要があり、2次側巻線全体をバイファイラ巻することは困難であった。また巻線を層間で絶縁するため、絶縁材6を厚くする必要があり、バイファイラ巻では結合が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−135027号公報
【特許文献2】特開平08−055738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来提案されているトランスの不要なリアクタンス成分を抑制する方法は、印加される電圧範囲が低い場合には効果的であるが、マグネトロン等のマイクロ波発生装置に使用されるような高い電圧範囲では、所望の特性を得ることができなかった。本発明はこのような問題点を鑑み、マイクロ波を発振、増幅するマグネトロン、TWT等をパルス駆動するのに好適な、トランスおよびそれを用いたマイクロ波発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、コアと、該コアの外周に1次側巻線が巻装され、前記1次側巻線の外周に絶縁材を挟んで2次側巻線が巻装されているトランスにおいて、前記2次側巻線は複数本の巻線からなり、該巻線が相互に密接した1組の巻線として同一段に巻装され、所望の特性を得るために必要な巻数だけ複数段巻装されているとともに、前記コア表面から巻装された前記2次側巻線表面までの寸法が、前記2次側巻線の直径の8〜11倍の範囲となるように前記1次側巻線と前記2次側巻線が前記コアに巻装されていることを特徴とする。
【0017】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のトランスにおいて、前記1次側巻線は複数の巻線が並列に接続していることを特徴とする。
【0018】
本願請求項3に係る発明は、パルス電圧を生成するトランスを備え、該トランスにより生成されたパルス電圧により駆動するマイクロ波発生装置において、前記トランスは、コアと、該コアにの外周に前記1次側巻線が巻装され、該1次側巻線の外周に絶縁材を挟んで2次側巻線が巻装されているトランスであって、前記2次側巻線は複数本の巻線からなり、該巻線が相互に密接した1組の巻線として同一段に巻装され、所望の特性を得るために必要な巻数だけ複数段巻装されているとともに、前記コア表面から巻装された前記2次側巻線表面までの寸法が、前記2次側巻線の直径の8〜11倍の範囲となるように前記1次側巻線と前記2次側巻線が前記コアに巻装されていることを特徴とする。
【0019】
本願請求項4に係る発明は、請求項3記載のマイクロ波発生装置において、前記1次側巻線は複数の巻線が並列に接続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のトランスは、鉄心表面から2次側巻線の巻き終わり表面までの寸法を適切に設定することで、1次側と2次側のカップリングが良好となり、漏れ磁束が抑制され、不要のリアクタンス成分を抑制することが可能となる。
【0021】
特に1次側巻線を複数の巻線が並列に接続する構成とすると、複数本の巻線を鉄心に巻き付けた構造と等価となり、鉄心表面から1次側巻線表面までの寸法を短く、かつ均一にすることができ、1次側巻線の外周に絶縁材を挟んで巻き付けられる2次側巻線の長さを長くすることで高い昇圧電圧を得ることができたり、あるいはトランスの小型化ができるという利点がある。
【0022】
また本発明のトランスを使用したマイクロ波発生装置は、不要なリアクタンスが低減されリプル率の低いパルス電圧が供給されるため、安定的な定格動作が可能となり、発振出力のばらつき、発振スペクトラムの悪化、不安定発振などのない良好な特性を得ることが可能となる。また、パルス電圧の立ち上がり、立ち下がりが早いため、短いパルス信号でも充分なピーク出力が得られる動作が可能となるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施例のトランスの説明図である。
【
図2】寸法Aを2次側巻線の直径で割った値と本発明のトランスをパルス動作させた際の出力電圧パルスのリプル率との関係を示すグラフである。
【
図3】巻幅を2次側巻線の直径で割った値と本発明のトランスをパルス動作させた際の出力電圧パルスのリプル率との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の第2の実施例のトランスの説明図である。
【
図5】本発明のトランスを用いたパルスモジュレータによって駆動したマグネトロンの陽極電流の波形図である。
【
図6】パルスレーダ装置に用いられるマグネトロンの駆動回路説明図である。
【
図7】この種のパルスレーダ装置に用いられるマグネトロンのパフォーマンスチャートである。
【
図8】この種のパルスレーダ装置に用いられるマグネトロンのカレントプッシング特性の説明図である。
【
図9】この種のパルスレーダ装置に用いられるマグネトロンの陽極電流の変動を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のトランスは、鉄心(コア)の外周に1次側巻線が巻き付けられ、絶縁材を挟んで複数本の2次側巻線が所望の特性を得るために必要な巻数だけ巻き付けられている。ここで本発明では、複数本の2次側巻線を束ねたり、撚り合わせるようにして複数本の巻線が相互に密接した1組の巻線として使用する。その結果、複数の巻線は同一段に巻き付けられることになり、複数本の巻線からなる2次側巻線でも、鉄心表面から2次側巻線表面までの寸法(以下、「寸法A」という)を同一に保つことが可能となる。また、寸法Aが2次側巻線の直径の8〜11倍の範囲となるようにすると、1次側巻線と2次側巻線の結合を良好に保つことが可能となる。この条件を満たすため、巻幅は適宜設定すればよい。一般的に使用される巻線では、巻幅は2次側巻線の直径の24〜80倍の範囲とし、7層を越えないように2次側巻線が巻き付けられた構造とするのが好ましい。また本発明のマイクロ波発生装置は、上記トランスをパルストランスとして動作させた構造となっている。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
まず、本発明のトランスについて説明する。
図1は、本発明の第1の実施例のトランスの説明図である。
図1に示すように、中心に鉄心1(コア)を有するボビン2に1次側巻線5を巻き付け、絶縁材6を介して2次側巻線3および別の2次側巻線4を巻き付けた構造となっている。2次側巻線を巻き付けるときには、
図1に示すように2本の巻線を平行に並べて巻き付ける方法や、撚った状態で巻き付ける。このようにすることで2本の2次側巻線を同一段に巻き付けた構造とすることができる。なお
図1では、説明の便宜上、巻線間に空隙があるように記載しているが、通常のトランス同様、巻線は相互に密接した状態で巻き付けられる。
【0026】
一般的に所望の電圧を得るために、2次側巻線の巻数を所望の数に設定する必要がある。そこで本発明では、2次側巻線の直径、巻幅を調整し、2次側巻線の巻き終わり寸法(寸法A)を所定の範囲とすることで、不要リアクタンス成分の影響を低減している。
【0027】
まず、2次側巻線の直径について説明する。
図2は、鉄心1表面から巻き終えた2次側巻線表面までの寸法(寸法A)を2次側巻線の直径で割った値と本実施例のトランスをパルス動作させた際の出力電圧パルスのリプル率との関係を示している。ここで寸法Aはボビン2や絶縁材6の厚さを含んだ寸法となっている。
【0028】
図2に示すように、寸法Aを2次側巻線の直径で割った値が、8〜11の範囲とするとリプル率が低下、すなわちリアクタンス成分の影響を低減できることがわかる。
図2に示す例は、2次側巻線の直径が0.8mmとした場合の特性であるが、巻線の直径が異なる場合も同様の傾向であることが確認されている。これはこの範囲から外れた場合には、漏れ磁束が大きくなり、結合が悪くなってしまうためと考えられる。
【0029】
また所望の特性を得るために巻数を多くする必要があるときは、巻幅を広くすることで寸法Aを2次側巻線の直径の8倍から11倍の範囲となるように調整することもできる。
図3は、巻幅を2次側巻線の直径で割った値と本実施例のトランスをパルス駆動させた際の出力電圧パルスのリプル率との関係を示している。
【0030】
図3に示すように、巻幅を2次側巻線の直径の24倍から80倍の範囲となるように調整するとリプル率が低下、すなわちリアクタンス成分の影響を低減できることがわかる。
図3に示す例は、2次側巻線の直径が0.8mmとした場合の特性であるが、径が異なる場合も同様に傾向であることが確認されている。
【0031】
実際にトランスを設計する場合には、
図2で説明した2次側巻線の表面までの寸法が2次側巻線の直径に対して所定の割合となるように、巻幅と2次側巻線の直径を選定することで、良好な特性のトランスを設計することが可能となる。
【0032】
また1次側巻線と2次側巻線を鉄心に巻き付ける構造とするため、巻線の直径の差が大きくなると密に巻くことが難しくなる。そこで、1次側巻線の直径と2次側巻線の直径の差を±20%に抑えるのが好ましい。さらに1次側巻線と2次側巻線のインピーダンスの比を1:150以下の範囲で設計すると、本発明の効果が十分に得られることが確認されている。
【実施例2】
【0033】
上記実施例1において、1次側巻線の構造を複数の巻線を並列に接続した構造としてもよい。
図4は3本の巻線を1組として鉄心に巻き付けた構造を示している。このような構造とすることで、1次側巻線の巻数が少なくなり、鉄心表面から1次側巻線の表面までの寸法を小さくでき、インダクタンスのリンケージを低減することが可能となる。
【実施例3】
【0034】
次に第3の実施例として、上記実施例で説明したトランスを用いたパルスモジュレータによって駆動するマイクロ波発生装置について説明する。マイクロ波発振装置の一例として、マグネトロンについて説明する。本実施例のマグネトロンは、
図6で説明したマグネトロンにおいて、上記実施例で説明したトランスを用いれば良い。その場合、
図1に示す2次側巻線4は陰極に接続し、別の2次側巻線5は図示しないヒーターに接続するように構成する。
【0035】
図5は、本発明のマグネトロンの陽極電流の一例を示す。
図5ではパルス幅を0.06μs〜1.0μsと変化させたときの陰極・陽極間に流れる陽極電流を示している。
図5に示すように、本発明のトランスを用いたマグネトロンでは、パルス波形の早い立ち上がりと立ち下がりが実現できている。特に最もパルス幅の狭い0.06μsの場合でも、ピーク電流は、他のパルス幅の広い場合と比較しても低下はみられず、短いパルス動作が可能であることがわかる。
【0036】
図5では、パルスの立ち上がりエッジにオーバーシュートが生じているが、この問題を解決するためは、陽極電流が所定の電流範囲のときだけマグネトロンを動作するように制限をかけることができる。特に、従来例ではこの制限をかけることができないパルス幅の狭い0.06μsの場合でも制限をかけ、オーバーシュートを抑えることができる効果は大きい。また、パルス信号のピーク値はフラットで、リプル率が小さいこともわかる。
【0037】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、本発明のトランスに用いられる2次側巻線は、2本に分割される場合に限らず、3本以上であっても良い。また本発明のトランスは、マグネトロンに限らず、パルス駆動するマイクロ波発生装置に用いると効果が大きい。
【符号の説明】
【0038】
1:鉄心、2:ボビン、3a、3b、4a、4b:2次側巻線、5:一次側巻線、10:直流電源、11:トランス、12:スイチングトランジスタ、13:ゲートパルス発生回路、14:マグネトロン