(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリアルキレンオキシドが、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、及びブチレンオキシド単位からなる群から選択された少なくとも1種のモノマー単位を含む、請求項1または2に記載の水溶性金属加工油剤。
前記ポリアルキレンオキシドが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、エチレンオキシド−ブチレンオキシド共重合体、及びプロピレンオキシド−ブチレンオキシド共重合体からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、例えば特許文献1に開示されたような水溶性金属加工油剤を金属材料の切削加工、研削加工などに用いた場合、使用開始直後においては、水溶性金属加工油剤のミストの飛散は抑制されるものの、繰り返し使用しているとミストの飛散が大きくなるという新たな課題が見出された。特に、高剪断力が加わる金属加工では、ミスト飛散の抑制効果が低下しやすく、新しい水溶性金属加工油剤を頻繁に補給しなければならない場合があることが明らかとなった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みなされた発明である。すなわち、本発明は、金属材料の切削加工、研削加工などに使用された際に、ミストとなって飛散することが長期間にわたって抑制される水溶性金属加工油剤、及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを含む水溶性金属加工油剤とすることにより、金属材料の切削加工、研削加工などに使用された際に、当該水溶性金属加工油剤のミストの飛散が長期間にわたって抑制されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の水溶性金属加工油剤及びその製造方法を提供する。
項1. 重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを含む、水溶性金属加工油剤。
項2. 前記ポリアルキレンオキシドを構成するモノマー単位の炭素数が2〜4である、項1に記載の水溶性金属加工油剤。
項3. 前記ポリアルキレンオキシドが、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、及びブチレンオキシド単位からなる群から選択された少なくとも1種のモノマー単位を含む、項1または2に記載の水溶性金属加工油剤。
項4. 前記ポリアルキレンオキシドが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、エチレンオキシド−ブチレンオキシド共重合体、及びプロピレンオキシド−ブチレンオキシド共重合体からなる群から選択された少なくとも1種である、項1〜3のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
項5. 前記ポリアルキレンオキシドの含有量が、0.1〜5質量%である、項1〜4のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
項6. 粘度が5〜10,000mPa・sである、項1〜5のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
項7. 金属材料の切削加工用または研削加工用である、項1〜6のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤。
項8. 重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを混合する工程を備える、項1〜7のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤の製造方法。
項9. 重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを含む水溶性組成物の金属加工への使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属材料の切削加工、研削加工などに使用された際に、ミストとなって飛散することが長期間にわたって抑制される水溶性金属加工油剤、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水溶性金属加工油剤は、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを含むことを特徴とする。以下、本発明の水溶性金属加工油剤とその製造方法、水溶性金属加工油剤を用いた金属加工方法について詳述する。
【0013】
1.水溶性金属加工油剤
本発明の水溶性金属加工油剤は、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを含む。本発明の水溶性金属加工油剤は、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを含む水溶性組成物であって、金属加工に使用されるものである。
【0014】
ポリアルキレンオキシドとしては、上記範囲の重量平均分子量を有し、アルキレンオキシドをモノマー単位として含むものであれば、特に制限されない。水溶性金属加工油剤が切削加工、研削加工などに使用された際、水溶性金属加工油剤のミストの飛散を長期間にわたって抑制する観点からは、ポリアルキレンオキシドを構成するモノマー単位の炭素数としては、好ましくは2〜4程度、より好ましくは2〜3程度が挙げられる。
【0015】
また、水溶性金属加工油剤のミストの飛散を長期間にわたって抑制する観点から、好ましいアルキレンオキシド単位としては、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、ブチレンオキシド単位などの炭素数が2〜4の脂肪族アルキレンオキシド単位が挙げられ、より好ましくは、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位などの炭素数が2〜3の脂肪族アルキレンオキシド単位が挙げられる。なお、例えばプロピレンオキシド単位としては、1,2−プロピレンオキシド単位及び1,3−プロピレンオキシド単位が挙げられる。また、例えばブチレンオキシド単位としては、1,2−ブチレンオキシド単位、2,3−ブチレンオキシド単位、及びイソブチレンオキシド単位が挙げられる。これらのアルキレンオキシド単位は、1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。また、ポリアルキレンオキシドは、これらのアルキレンオキシド単位のうち少なくとも1種を含むブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0016】
特に好ましいポリアルキレンオキシドの具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、エチレンオキシド−ブチレンオキシド共重合体、プロピレンオキシド−ブチレンオキシド共重合体などが挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリアルキレンオキシドは、1種類単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、100,000〜1,000,000程度である。本発明においては、水溶性金属加工油剤にこのような特定の分子量を有するポリアルキレンオキシドが含まれているため、水溶性金属加工油剤のミストの飛散を長期間にわたって抑制することが可能となる。水溶性金属加工油剤のミストの飛散が抑制される機構の詳細は必ずしも明らかではないが、例えば、次のように考えることができる。すなわち、本発明の水溶性金属加工油剤においては、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量が100,000〜1,000,000程度と特定の範囲内にあるため、例えば重量平均分子量が1,000,000を超えるポリアルキレンオキシドに比して、長時間にわたって高い剪断力が加わった際にも、ポリアルキレンオキシド分子鎖が切断されにくく、水溶性金属加工油剤の微粒子化が抑制されているものと考えられる。また、本発明の水溶性金属加工油剤においては、100,000未満のポリアルキレンオキシドに比して、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量が大きいため、水溶性金属加工油剤が微粒子になりにくいと考えられる。
【0018】
水溶性金属加工油剤のミスト飛散の抑制効果をさらに高める観点からは、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、130,000〜950,000程度であることが好ましく、300,000〜750,000程度であることがより好ましい。上記の通り、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量が100,000未満の場合、水溶性金属加工油剤を切削加工、研削加工などに使用すると、ミスト飛散の抑制効果が著しく低下する場合がある。一方、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量が1,000,000を超える場合に、水溶性金属加工油剤が長期間の剪断力を加えられると、ミストの飛散抑制効果が持続せず、ミスト飛散の抑制効果が低下しやすい。なお、ポリアルキレンオキシドの重量平均分子量は、標準サンプルとしてポリエチレンオキシドを用いたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値である。
【0019】
ポリアルキレンオキシドは、従来公知の方法で製造してもよいし、市販品を使用してもよい。ポリアルキレンオキシドの市販品としては、例えば、住友精化株式会社製の商品名:PEO−L2Z(重量平均分子量:10万〜15万)、PEO−1(重量平均分子量:15万〜40万)、商品名:PEO−2(重量平均分子量:40万〜60万)、商品名:PEO−3(重量平均分子量:60万〜100万)などが挙げられる。なお、「PEO」は、住友精化株式会社の登録商標である。
【0020】
本発明の水溶性金属加工油剤において、ポリアルキレンオキシドの含有量としては、特に制限されないが、水溶性金属加工油剤のミストの飛散を長期間にわたって抑制する観点からは、好ましくは0.1〜5質量%程度、より好ましくは0.3〜4.8質量%程度が挙げられる。
【0021】
水溶性金属加工油剤の粘度は、特に制限されず、通常5〜10,000mPa・s程度、好ましくは7〜2000mPa・s程度が挙げられる。なお、水溶性金属加工油剤の粘度は、B型回転式粘度計(TOKIMEC社製のB型粘度計)を用いて、回転速度を毎分60回転として、3分後の25℃における粘度を測定した値である。測定に使用するローターは、80mPa・s未満の場合はローターNo.1を使用し、80mPa・s以上400mPa・s未満の場合はローターNo.2を使用し、400mPa・s以上1,600mPa・s未満の場合はローターNo.3を使用し、1,600mPa・s以上の場合はローターNo.4を使用する。
【0022】
本発明の水溶性金属加工油剤に含まれる水としては、特に制限されず、例えば、工業用水、水道水、精製水、イオン交換水、純水などが挙げられる。また、水溶性金属加工油剤に含まれる水の含有量は、金属材料の切削加工、研削加工などにおいて、潤滑剤や冷却剤として機能できる量であれば、特に制限されないが、通常30〜99質量%程度、好ましくは50〜95質量%程度、より好ましくは70〜95質量%程度である。
【0023】
本発明の水溶性金属加工油剤は、上記のポリアルキレンオキシドに加えて、一般には基油を含む。基油としては、特に制限されず、水溶性金属加工油剤に一般的に使用される基油が挙げられ、例えば、JIS K2241−2000に記載されているA1種、A2種、またはA3種の水溶性切削油剤に用いられる、公知のものが挙げられる。基油の含有量は、特に制限されず、通常0.01〜20質量%程度、好ましくは0.1〜15質量%程度とすることができる。
【0024】
本発明の水溶性金属加工油剤は、必要に応じて、添加剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤としては、特に制限されず、例えば公知の水溶性金属加工油剤に含まれる添加剤が挙げられる。添加剤としては、例えば、潤滑剤、極圧添加剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、防食剤、防腐剤、界面活性剤などが挙げられる。添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
潤滑剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の潤滑剤が挙げられる。潤滑剤の具体例としては、鉱物油、合成油、炭素数6以上の脂肪族カルボン酸、炭素数6以上の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。潤滑剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が潤滑剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜20質量%程度、好ましくは0.1〜15質量%程度とすることができる。
【0026】
極圧添加剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の極圧添加剤が挙げられる。極圧添加剤の具体例としては、塩素系極圧添加剤、硫黄系極圧添加剤、リン系極圧添加剤等などが挙げられる。塩素系極圧添加剤としては、例えば、塩素化パラフィン,塩素化脂肪酸、塩素化脂肪油等が挙げられる。硫黄系極圧添加剤としては、硫化オレフィン、硫化ラード、アルキルポリサルファイド、硫化脂肪酸等が挙げられる。リン系極圧添加剤としては、リン酸エステル(塩)系、亜リン酸エステル(塩)系、チオリン酸エステル(塩)系、ホスフィン系、リン酸トリクレジル等が挙げられる。極圧添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が極圧添加剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜20質量%程度、好ましくは0.1〜15質量%程度とすることができる。
【0027】
消泡剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の消泡剤が挙げられる。消泡剤の具体例としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ジメチルポリシロキサン,変性ポリシロキサン等のシリコン系消泡剤などが挙げられる。消泡剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が消泡剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜10質量%程度、好ましくは0.1〜5質量%程度とすることができる。
【0028】
防腐剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の防腐剤が挙げられる。防腐剤としては、例えば、トリアジン系防腐剤、イソチアゾリン系防腐剤、フェノール系防腐剤などの防腐剤が挙げられる。トリアジン系防腐剤の具体例としては、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。イソチアゾリン系防腐剤の具体例としては、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。フェノール系防腐剤の具体例としては、オルトフェニルフェノール、2,3,4,6−テトラクロロフェノール等が挙げられる。防腐剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が防腐剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜10質量%程度、好ましくは0.1〜5質量%程度とすることができる。
【0029】
防食剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の防食剤が挙げられる。防食剤としては、例えば、トリアゾール類などが挙げられる。トリアゾール類の具体例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、3−アミノトリアゾールなどが挙げられる。防食剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が防食剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜10質量%程度、好ましくは0.1〜5質量%程度とすることができる。
【0030】
防錆剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の防錆剤が挙げられる。防錆剤としては、例えば、有機カルボン酸、有機アミンなどが挙げられる。有機カルボン酸の具体例としては、ジメチルオクタン酸、ペラルゴン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などが挙げられる。また、有機アミンとしては、具体例としては、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、アルキルアミンなどが挙げられる。防錆剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が防錆剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜10質量%程度、好ましくは0.1〜5質量%程度とすることができる。
【0031】
界面活性剤としては、特に制限されず、例えば水溶性金属加工油剤に使用される公知の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸アミン石鹸、石油スルホネート、硫酸化油、アルキルスルホンアミドカルボン酸塩、カルボキシ化油脂等のアニオン系界面活性剤;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アルキロールアミド等のノニオン系界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性金属加工油剤が界面活性剤を含む場合、その含有量は、特に制限されないが、通常0.01〜10質量%程度、好ましくは0.1〜5質量%程度とすることができる。
【0032】
2.水溶性金属加工油剤の製造方法
本発明の水溶性金属加工油剤は、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリアルキレンオキシドと、水とを混合することにより製造することができ、通常、上記したような一般的な基油をさらに混合する。また、本発明の水溶性金属加工油剤の製造方法においては、必要に応じて、上記の添加剤の少なくとも1種を混合してもよい。ポリアルキレンオキシドと、水と、基油と、必要に応じて用いられる添加剤との混合方法は、特に制限されず、例えば、上記のポリアルキレンオキシドと、基油と、必要に応じて上記の添加剤とを、上記の含有量となるように、水に加え、常温常圧下で攪拌することにより、容易に製造することができる。
【0033】
3.金属加工方法
本発明の水溶性金属加工方法では、加工対象となる金属材料の加工部分に本発明の水溶性金属加工油剤を接触させながら加工を行う。より具体的には、高速回転する加工具と金属材料の被加工部とに本発明の水溶性金属加工油剤を供給しながら、被加工部の潤滑性を高め、かつ冷却して摩擦熱を除去しながら加工を行う。本発明の水溶性金属加工方法によれば、高速回転する加工具によって発生する水溶性金属加工油剤のミストの飛散を長期間にわたって抑制することができる。このため、作業環境が水溶性金属加工油剤で汚染されることを効果的に抑制することができる。
【0034】
加工対象となる金属材料としては、特に制限されないが、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、金、銀、プラチナ、及びこれらのうち少なくとも1種を含む合金などが挙げられる。
【0035】
加工方法としては、特に制限されないが、例えば、切削加工、研削加工などが挙げられる。切削加工の具体例としては、旋削加工、穴あけ加工、中ぐり加工、フライス削り加工、歯切り加工などが挙げられる。研削加工の具体例としては、内面研削などが挙げられる。本発明の水溶性金属加工油剤は、ミストとなって飛散することが効果的に抑制されている。このため、本発明の水溶性金属加工油剤は、これらの加工方法の中でも、特にミストが飛散しやすい、旋削加工、フライス削り加工などの加工方法に特に好適に使用することができる。金属加工に用いられる加工具としては、特に制限されないが、例えば、ドリル、バイト、フライス、エンドミル、リーマー、ホブ、ピニオンカッター、ダイス、ブローチ、砥石車などが挙げられる。また、これらの加工具を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、鋼、超硬合金、セラミックス、サーメット、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素などが挙げられる。
【0036】
本発明の金属加工方法においては、本発明の水溶性金属加工油剤を金属材料の被加工部に供給しながら加工を行うことにより、被加工部の潤滑性を高め、摩擦によって生じる熱を除去することができる。さらに、本発明の水溶性金属加工油剤は、加工時のミスト飛散が効果的に抑制されるため、長期間にわたって繰り返し使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0038】
[実施例1]
市販の金属切削用油剤(株式会社エーゼット製、水溶性切削油)25gと水475gを混合し、そこにポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)5.0gを投入し、ジャーテスター(株式会社宮本製作所製、ジャーテスターMJS−8S)にて3時間撹拌し、水溶性金属加工油剤505.0g(ポリエチレンオキシドの含有量:1.0質量%、粘度:7.4mPs)を得た。なお、ポリエチレンオキシドの重量平均分子量及び水溶性金属加工油剤の粘度は、以下の方法により測定した。他の実施例及び比較例においても同様である。
【0039】
<重量平均分子量の測定>
ポリエチレンオキシドの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、HLC−8220 GPC)を用いて測定した。カラムは、Shodex OHpack SB−804 HQ(昭和電工株式会社製)を2本直列に接続して用いた。なお、カラム温度は30℃、移動相は0.02質量%NaNO
3水溶液、流速は1.0mL/minとした。上記条件にて、標準サンプルとしてポリエチレンオキシドを用いて重量平均分子量を算出した。
【0040】
<粘度の測定>
水溶性金属加工油剤の粘度は、B型回転式粘度計(TOKIMEC社製のB型粘度計)を用いて、回転速度を毎分60回転として、3分後の25℃における粘度を測定した値である。測定に使用したローターは、80mPa・s未満の場合はローターNo.1を使用し、80mPa・s以上400mPa・s未満の場合はローターNo.2を使用し、400mPa・s以上1,600mPa・s未満の場合はローターNo.3を使用し、1,600mPa・s以上の場合はローターNo.4を使用した。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)の使用量を、5.0gから12.5gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水溶性金属加工油剤512.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:2.4質量%、粘度:20.6mPs)を得た。
【0042】
[実施例3]
実施例1において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)5.0gを、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−3、重量平均分子量:750,000)2.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、水溶性金属加工油剤502.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:0.5質量%、粘度:8.6mPs)を得た。
【0043】
[実施例4]
実施例3において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−3、重量平均分子量:750,000)の使用量を、2.5gから5.0gに変更したこと以外は実施例3と同様にして、水溶性金属加工油剤505.0g(ポリエチレンオキシドの含有量:1.0質量%、粘度:22.6mPs)を得た。
【0044】
[実施例5]
実施例3において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−3、重量平均分子量:750,000)の使用量を、2.5gから12.5gに変更したこと以外は実施例3と同様にして、水溶性金属加工油剤512.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:2.4質量%、粘度:252mPs)を得た。
【0045】
[実施例6]
実施例3において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−3、重量平均分子量:750,000)の使用量を、2.5gから22.5gに変更したこと以外は実施例3と同様にして、水溶性金属加工油剤522.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:4.3質量%、粘度:4660mPs)を得た。
【0046】
[実施例7]
実施例1において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)5.0gを、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−L2Z、重量平均分子量:130,000)25.0gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、水溶性金属加工油剤525.0g(ポリエチレンオキシドの含有量:4.8質量%、粘度:107mPs)を得た。
【0047】
[実施例8]
実施例5において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−3、重量平均分子量:750,000)を、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−3、重量平均分子量:950,000)に変更したこと以外は実施例5と同様にして、水溶性金属加工油剤512.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:2.4質量%、粘度:232mPs)を得た。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)5.0gを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、水溶性金属加工油剤500g(粘度:3.2mPs)を得た。以下の評価試験においては、この水溶性金属加工油剤の評価結果をブランクとした。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)5.0gを、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−4、重量平均分子量:1,300,000)2.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、水溶性金属加工油剤502.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:0.5質量%、粘度:9.0mPs)を得た。
【0050】
[比較例3]
比較例2において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−4、重量平均分子量:1,300,000)の使用量を、2.5gから5.0gに変更したこと以外は比較例2と同様にして、水溶性金属加工油剤505.0g(ポリエチレンオキシドの含有量:1.0質量%、粘度:22.4mPs)を得た。
【0051】
[比較例4]
比較例2において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−4、重量平均分子量:1,300,000)の使用量を、2.5gから12.5gに変更したこと以外は比較例2と同様にして、水溶性金属加工油剤512.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:2.4質量%、粘度:261mPs)を得た。
【0052】
[比較例5]
実施例1において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1、重量平均分子量:300,000)5.0gを、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1K1LZ、重量平均分子量:90,000)2.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、水溶性金属加工油剤502.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:0.5質量%、粘度:3.2mPs)を得た。
【0053】
[比較例6]
比較例5において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1K1LZ、重量平均分子量:90,000)の使用量を、2.5gから5.0gに変更したこと以外は比較例5と同様にして、水溶性金属加工油剤505.0g(ポリエチレンオキシドの含有量:1.0質量%、粘度:3.2mPs)を得た。
【0054】
[比較例7]
比較例5において、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製の商品名:PEO−1K1LZ、重量平均分子量:90,000)の使用量を、2.5gから12.5gに変更したこと以外は比較例5と同様にして、水溶性金属加工油剤512.5g(ポリエチレンオキシドの含有量:2.4質量%、粘度:8.2mPs)を得た。
【0055】
【表1】
【0056】
[ミスト飛散の抑制効率の評価方法]
(1)ミストの飛散試験
水溶性金属加工油剤のミスト飛散の抑制効率を評価するため、以下に示す方法で、実施例1〜8及び比較例1〜7で得られた水溶性金属加工油剤について、ミスト飛散試験を行った。
図1に示すような装置を用いて、エアーブラシ(アネスト岩田株式会社製、エアーブラシハイラインHP−CH、ノズル口径0.3mm)を用い、紙に対して水溶性金属加工油剤(試験試料)を噴射した。試験条件は、装置の吹付圧力を0.1MPa、液流量を10g/min、エアーブラシから紙までの距離を300mm、エアブラシの高さを500mm、試験試料の噴射量を1mLとした。得られた結果を表1に示す。なお、エアブラシの高さは、ブランクとする水溶性金属加工油剤を噴射して紙に形成される円形状が、紙の中に収まるように適宜設定することができる。表1中のミスト飛散の抑制効率欄「−」の表記は、得られた水溶性金属加工油剤の粘度が高過ぎて、ミストが紙まで届かず、飛散直径を測定することが出来なかったことを示す。
【0057】
(2)ミスト飛散の抑制効果の評価
前記(1)ミストの飛散試験で得られた噴霧模様は、
図2及び
図3の模式図に示すような円形状となった。ミスト飛散の抑制効率は、以下の式を用いて算出した。
ミスト飛散の抑制効率=D
2/D
1×100
上記式において、D
1は、ポリエチレンオキシドを含まない比較例1の試験試料を噴射させたときに形成された噴霧模様の直径を示す(
図2を参照)。また、D
2は、実施例1〜8及び比較例2、3、5〜7の各試験試料を噴射させたときに形成された噴霧模様の直径を示す(
図3を参照)。なお、上記の通り、比較例4の試験試料は、粘度が高過ぎて、円形の噴霧模様が形成されなかった。上記式で算出される値が小さいほど、ミスト飛散の抑制効果が高いと判断できる。得られた結果を表1に示す。
【0058】
(3)剪断処理後の飛散直径およびミスト飛散の抑制効果の評価
実施例1〜8及び比較例1〜7で得られた各試験試料に対して、次のような剪断処理条件で剪断力をかけた。剪断処理は、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、T.K.ホモミキサーMARKII2.5型)を用いて、各試験試料を15,000rpmで2分間撹拌して、剪断処理を行った。2分間の剪断処理後の各試験試料について、上記(1)及び(2)と同様にして、ミスト飛散の抑制効果を評価した。結果を表1に示す。同様に、実施例1〜8及び比較例1〜7で得られた各試験試料に対して、10分間、15分間の剪断処理を上記と同様にして行った後の各試験試料について、ミスト飛散の抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0059】
実施例1〜8の結果から、重量平均分子量が100,000〜1,000,000のポリエチレンオキシドを含む水溶性金属加工油剤は、ミスト飛散の抑制効率が良好であり、さらに、剪断力を長時間かけた場合にも、ミスト飛散の抑制効率が持続していることが明らかとなった。
【0060】
比較例1の結果は、上記の通り、ポリエチレンオキシドを含まない試験試料を噴射させたときの結果である。比較例2及び3の結果より、重量平均分子量が1,000,000を超えるポリエチレンオキシドを使用した場合、初期のミスト飛散の抑制効率は良好であるが、この抑制効率は剪断力を加える時間の影響を受けやすく、剪断力を加える時間の経過と共に、抑制効率が低下することが明らかとなった。また、比較例4の結果から、重量平均分子量が1,000,000を超えるポリエチレンオキシドの使用量を多くすると、粘度が高過ぎて、水溶性金属加工油剤としての使用には適さないことが明らかとなった。さらに、比較例5〜7の結果から、重量平均分子量が100,000未満のポリエチレンオキシドを使用した場合には、ミスト飛散の抑制効率が低いことが明らかとなった。