(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂フィルム基板表面に接着剤を介することなくニッケル合金からなる下地金属層と、前記下地金属層の表面に下地金属層の表面に銅薄膜層と銅電気めっき層で構成される銅層を設けた金属積層体の配線が設けられた2層フレキシブル配線用基板において、
前記下地金属層の膜厚が50nm以下で、
電子線後方散乱回折法(EBSD)により測定した前記金属積層体における前記樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの範囲に含まれる結晶の001方位の結晶割合OR001に対する111方位の結晶割合OR111との比(OR111/OR001)が7以下、
前記銅層の(111)結晶配向度指数が1.2以上、かつ、
耐折れ性試験(JIS C−5016−1994に規定される耐折れ性試験)の実施前後において得られる前記銅層の結晶配向比[(200)/(111)]の差d[(200)/(111)]が、0.03以上であること
を特徴とする2層フレキシブル配線用基板。
前記厚み範囲が、前記銅層の表面から前記樹脂フィルム基板方向に前記銅電気めっき層の膜厚の10%であることを特徴とする請求項4記載の2層フレキシブル配線用基板。
前記樹脂フィルム基板が、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルムから選ばれた少なくとも1種以上の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の2層フレキシブル配線用基板。
樹脂フィルム基板の表面に接着剤を介することなく乾式めっき法により下地金属層と前記下地金属層の表面に銅薄膜層を成膜し、前記銅薄膜層の表面に銅電気めっき法により銅めっき被膜を成膜する請求項1から6のいずれか1項に記載の2層フレキシブル配線用基板の製造方法であって、
前記乾式めっき法による成膜時の雰囲気が、アルゴン窒素混合ガスであり、
前記銅電気めっき層が、前記銅電気めっき層の表面から前記樹脂フィルム基板方向に前記銅電気めっき層膜厚の10%以上の厚み範囲において、周期的に短時間の電位反転を行うPeriodic Reverse電流による銅電気めっき法によって形成されることを特徴とする2層フレキシブル配線用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板は、その屈曲性を活かしてハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなど電子機器の屈折ないし屈曲を要する部分や、液晶ディスプレイ内の屈折配線などに広く用いられている。
かかるフレキシブル配線板の製造には、銅層と樹脂層が積層したフレキシブル配線用基板(フレキシブル銅張積層板、FCCL:Flexible Copper Clad Laminationとも称す)を、サブトラクティブ法等を用いて配線加工する方法が用いられている。
【0003】
このサブトラクティブ法とは、一般に銅張積層板の銅層を化学エッチング処理して不要部分を除去する方法である。即ち、フレキシブル配線用基板の銅層のうち導体配線として残したい部分の表面にレジストを設け、銅に対応するエッチング液による化学エッチング処理と水洗を経て、銅層の不要部分を選択的に除去して導体配線を形成するものである。
【0004】
ところで、フレキシブル配線用基板(FCCL)は、3層フレキシブル配線用基板(以下、3層FCCLと称す)と2層フレキシブル配線用基板(2層FCCLと称す)に分類することができる。
3層FCCLは、電解銅箔や圧延銅箔をベース(絶縁層)の樹脂フィルムに接着した構造(銅箔/接着剤層/樹脂フィルム)となっている。一方、2層FCCLは、銅層若しくは銅箔と樹脂フィルム基材とが積層された構造(銅層若しくは銅箔/樹脂フィルム)となっている。
【0005】
また、上記2層FCCLには大別して3種のものがある。
即ち、樹脂フィルムの表面に下地金属層と銅層を順次めっきして形成したFCCL(通称メタライジング基板)、銅箔に樹脂フィルムのワニスを塗って絶縁層を形成したFCCL(通称キャスト基板)、及び銅箔に樹脂フィルムをラミネートしたFCCL(通称ラミネート基板)でがある。
【0006】
上記メタライジング基板、即ち樹脂フィルムの表面に下地金属層と銅層を順次めっきして形成したFCCLは、銅層の薄膜化が可能で、且つポリイミドフィルムと銅層界面の平滑性が高いため、キャスト基板やラミネート基板あるいは3層FCCLと比較して、配線のファインパターン化に適している。
例えば、メタライジング基板の銅層は、乾式めっき法及び電気めっき法により層厚を自由に制御できるのに対し、キャスト基板やラミネート基板あるいは3層FCCLは使用する銅箔によって、その厚みなどは厚さ等が制約されてしまう。るからである。
【0007】
また、一方、フレキシブル配線基板の配線に用いられる銅箔については、例えば、銅箔に熱処理を施す方法(特許文献1参照。)や、圧延加工を行う方法(特許文献2参照。)により、耐屈折れ性の向上が図られている。
しかし、これらの方法は、3層FCCLの圧延銅箔や電解銅箔、2層FCCLのうちのキャスト基板とラミネート基板に用いられる銅箔自体の処理に関するものである。
【0008】
なお、銅箔の耐屈折れ性の評価には、「JIS C−5016−1994」等や「ASTM D2176」で規格されるMIT耐屈折度試験(Folding Endurance Test)が工業的に使用されている。
この試験では、試験片に形成した回路パターンが断線するまでの屈折回数をもって評価し、この屈折回数が大きいほど耐屈折れ性が良いとされている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)2層フレキシブル配線用基板
まず、本発明の2層フレキシブル配線用基板について説明する。
本発明の2層フレキシブル配線用基板は、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルム基板の少なくとも片面に接着剤を介さずに下地金属層と銅層が逐次的に積層された金属積層体を備えた積層構造を採り、そして、その銅層は、銅薄膜層と銅電気めっき層により構成されている。
【0022】
図1は、メタラインジング法で作製された金2層フレキシブル配線用基板6の断面を示した模式図である。
樹脂フィルム基板1にポリイミドフィルムを用い、そのポリイミドフィルム1の少なくとも一方の面には、ポリイミドフィルム1側から下地金属層2、銅薄膜層3、銅電気めっき層4の順に成膜され積層されている。銅薄膜層3と銅電気めっき層4から銅層5を構成し、その銅層5と下地金属層2を合わせて金属積層体7の積層構造を形成している。
【0023】
使用する樹脂フィルム基板1としては、ポリイミドフィルムのほかに、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、液晶ポリマーフィルムなどを用いることができる。
特に、機械的強度や耐熱性や電気絶縁性の観点から、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
さらに、フィルムの厚みが12.5〜75μmの上記樹脂フィルム基板が好ましく使用することができる。
【0024】
下地金属層2は、樹脂フィルム基板と銅などの金属層との密着性や耐熱性などの信頼性を確保するものである。従って、下地金属層の材質は、ニッケル、クロム又はこれらの合金の中から選ばれる何れか1種とするが、密着強度や配線作製時のエッチングしやすさを考慮すると、ニッケル・クロム合金が適している。
【0025】
そのニッケル・クロム合金の組成は、クロム15重量%以上、22重量%以下が望ましく、耐食性や耐マイグレーション性の向上が望める。
このうち20重量%クロムのニッケル・クロム合金は、ニクロム合金として流通し、マグネトロンスパッタリング法のスパッタリングターゲットとして容易に入手可能である。また、ニッケルを含む合金には、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト等を添加しても良い。
さらに、クロム濃度の異なる複数のニッケル・クロム合金の薄膜を積層して、ニッケル・クロム合金の濃度勾配を設けた下地金属層を構成しても良い。
【0026】
下地金属層2の膜厚は、3nm〜50nmが望ましい。
下地金属層の膜厚が3nm未満では、ポリイミドフィルムと銅層の密着性を保てず、耐食性や耐マイグレーション性で劣る。一方、下地金属層の膜厚が50nmを越えると、サブトラクティブ法で配線加工する際に、下地金属層の十分な除去が困難な場合が生じる。その下地金属層の除去が不十分な場合は、配線間のマイグレーション等の不具合が懸念される。
【0027】
銅薄膜層3は、主に銅で構成され、その銅薄膜層の膜厚は、10nm〜1μmが望ましい。
銅薄膜層の膜厚が10nm未満では、銅電気めっき層を電気めっき法で成膜する際の導電性が確保できず、電気めっきの際の外観不良に繋がる。銅薄膜層の膜厚が1μmを越えても2層フレキシブル配線用基板の品質上の問題は生じないが、生産性が劣る問題がある。
【0028】
この下地金属層2と銅薄膜層3は、後述するように乾式めっき法で成膜し、銅層4は湿式めっき法で成膜することもできる。
そして、得られたフレキシブル配線用基板6は、樹脂フィルム基板1の表面から金属積層体7の0.4μmまでの膜厚範囲の電子線後方散乱回折法(EBSD)で測定した結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111との比(OR
111/OR
001)が7以下であることが必要である。
【0029】
この結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111との比(OR
111/OR
001)が7を超えると、配線パターンの断面形状の底部の幅Bと頂部の幅Tと高さCから下記(1)式で求められるエッチングファクター(F
E)が5未満となり、底部が幅広く、頂部の幅が狭くなる裾広がりの狭ピッチ化配線には不向きな配線パターンの断面形状となってしまう。
【0030】
すなわち、配線パターンのピッチ(配線の中心間距離)は、隣接する配線パターンとの絶縁性を確保するため、配線パターン間の間隔を確保し、かつ配線パターンの断面の底部の幅も考慮する必要があり、配線パターンの断面形状が底部に裾広がりであると、底部の幅を考慮するため、狭ピッチ化には不向きである。
上記結晶の方位比を満たした本発明に係るフレキシブル配線用基板は、サブトラクティブ法により配線加工しても配線パターンが狭ピッチ化したプリント配線基板を得ることができる。
【0032】
サブトラクティブ法により配線加工する際に用いる銅層用のエッチング液は、狭ピッチ化に対応した特別な配合の塩化第二鉄と塩化第二銅と硫酸銅とを含む水溶液や特殊な薬液には限定されず、一般的な比重1.30〜1.45の塩化第二鉄水溶液や比重1.30〜1.45の塩化第二銅水溶液を含む市販のエッチング液を用いても配線パターンの断面形状は底部の幅B値と頂部の幅Tと高さCから上記(1)式より求められるエッチングファクター(F
E)が5以上となる効果を得ることができる。
【0033】
なお、フレキシブル配線用基板をエッチング加工しても、配線の樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚の範囲の結晶の方位比は変わることは無い。
【0034】
(2)下地金属層と銅薄膜層の成膜方法
下地金属層および銅薄膜層は、乾式めっき法で形成することが好ましい。
乾式めっき法には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等が挙げられるが、乾式めっき法では、下地金属層の組成制御等の観点から、スパッタリング法が望ましい。
樹脂フィルム基板にスパッタリング成膜するには公知のスパッタリング装置で成膜することができ、長尺の樹脂フィルム基板に成膜するには、公知のロール・ツー・ロール方式スパッタリング装置で行うことができる。このロール・ツー・ロールスパッタリング装置を用いれば、長尺のポリイミドフィルムの表面に、下地金属層および銅薄膜層を連続して成膜することができる。
【0035】
図2はロール・ツー・ロールスパッタリング装置の一例である。
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置10は、その構成部品のほとんどを収納した直方体状の筐体12を備えている。
筐体12は円筒状でも良く、その形状は問わないが、10
−4Pa〜1Paの範囲に減圧された状態を保持できれば良い。
この筐体12内には、長尺の樹脂フィルム基板であるポリイミドフィルムFを、供給する巻出ロール13、キャンロール14、スパッタリングカソード15a、15b、15c、15d、前フィードロール16a、後フィードロール16b、テンションロール17a、テンションロール17b、巻取ロール18を有する。
【0036】
巻出ロール13、キャンロール14、前フィードロール16a、巻取ロール18にはサーボモータによる動力を備える。巻出ロール13、巻取ロール18は、パウダークラッチ等によるトルク制御によってポリイミドフィルムFの張力バランスが保たれるようになっている。
テンションロール17a、17bは、表面が硬質クロムめっきで仕上げられ張力センサーが備えられている。
スパッタリングカソード15a〜15dは、マグネトロンカソード式でキャンロール14に対向して配置される。スパッタリングカソード15a〜15dのポリイミドフィルムFの巾方向の寸法は、長尺樹脂フィルムポリイミドフィルムFの巾より広ければよい。
【0037】
ポリイミドフィルムFは、ロール・ツー・ロール真空成膜装置であるロール・ツー・ロールスパッタリング装置10内を搬送されて、キャンロール14に対向するスパッタリングカソード15a〜15dで成膜され、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2に加工される。
キャンロール14は、その表面が硬質クロムめっきで仕上げられ、その内部には筐体12の外部から供給される冷媒や温媒が循環し、略一定の温度に調整される。
【0038】
ロール・ツー・ロールスパッタリング装置10を用いて下地金属層と銅薄膜層を成膜する場合、下地金属層の組成を有するターゲットをスパッタリングカソード15aに、銅ターゲットをスパッタリングカソード15b〜15dにそれぞれ装着し、ポリイミドフィルムを巻出ロール13にセットした装置内を真空排気した後、アルゴン等のスパッタリングガスを導入して装置内を1.3Pa程度に保持する。
【0039】
スパッタリング雰囲気は、一例としてアルゴン・窒素混合ガスを用い、その窒素配合比は、1体積%以上、12体積%以下とすることが望ましいが、巻取式スパッタリング装置の形状など装置固有の影響を受ける可能性があることに留意して定める必要がある。
例えば、最終的な電気めっきまで行い、得られる金属積層体の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比を確認しながら、スパッタリング雰囲気を適宜検討すればよい。
また、アルゴン・窒素混合ガスの窒素の配合比が12体積%を超えると、得られた金属積層体をフレキシブル配線板などの配線に利用した場合、その配線の耐熱強度が低下する恐れがあるので、望ましくない。なお、アルゴン・窒素混合ガスによるスパッタリング雰囲気の一例を示しているが、スパッタリング雰囲気は、目的の結晶状態を実現できれば、アルゴン・窒素混合ガスに限定されない。
【0040】
また、銅薄膜層の結晶配向は、スパッタリング雰囲気の影響も受ける。
スパッタリング雰囲気がアルゴンのみでは、銅薄膜層のX線回折による結晶のWilsonの配向度指数では面心立方格子構造の(111)面は見られるが、面心立方格子の(200)面、EBSDでは001方位に相当する面は、ほとんど又は全く観測されない。
そこで、スパッタリング雰囲気のアルゴンに窒素を加えていくと、銅薄膜層には面心立方格子の(200)面、EBSDでは001方位に相当する面が観測されるようになる。
このような条件と後述する電気めっきの条件により、配線加工した際に配線の頂部と底部の幅の差が少ないフレキシブル配線用基板を実現できるのである。
【0041】
(3)銅電気めっき層とその成膜方法
銅電気めっき層は、電気めっき法により成膜される。その銅電気めっき層の膜厚は、1μm〜20μmが望ましい。
ここで、使用する電気めっき法は、硫酸銅のめっき浴中にて、不溶性アノードを用いて電気めっきを行う。また、使用する銅めっき浴液の組成は、通常用いられるフレキシブル配線板のスルーホールめっきなどで使用されるハイスロー硫酸銅めっき浴でも良い。
【0042】
図3は、本発明に係る2層フレキシブル配線用基板の製造に用いることができるロール・ツー・ロール連続電気めっき装置(以下めっき装置20という)の一例である。
下地金属層と銅薄膜層を成膜して得られた銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、巻出ロール22から巻き出され、電気めっき槽21内のめっき液28への浸漬を繰り返しながら連続的に搬送される。なお、28aはめっき液の液面を指している。
銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、めっき液28に浸漬されている間に電気めっきにより金属薄膜の表面に銅層が成膜され、所定の膜厚の銅層が形成された後、金属化樹脂フィルム基板である2層フレキシブル配線用基板Sとして、巻取ロール29に巻き取れられる。なお、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2の搬送速度は、数m〜数十m/分の範囲が好ましい。
【0043】
具体的に説明すると、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、巻出ロール22から巻き出され、給電ロール26aを経て、電気めっき槽21内のめっき液28に浸漬される。電気めっき槽21内に入った銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2は、反転ロール23を経て搬送方向が反転され、給電ロール26bにより電気めっき槽21外へ引き出される。
このように、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2が、めっき液への浸漬を複数回(
図3では20回)繰り返す間に、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2の金属薄膜上に銅層を形成するものである。
【0044】
給電ロール26aとアノード14から24aの間には電源(図示せず)が接続されている。
給電ロール26a、アノード12から24a、めっき液、銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2および前記電源により、電気めっき回路が構成される。また、不溶性アノードは、特別なものを必要とせず、導電性セラミックで表面をコーティングした公知のアノードでよい。なお、電気めっき槽21の外部に、めっき液28に銅イオンを供給する機構を備える。
【0045】
めっき液28への銅イオンの供給は、酸化銅水溶液、または水酸化銅水溶液、炭酸銅水溶液等で供給する。もしくはめっき液中に微量の鉄イオンを添加して、無酸素銅ボールを溶解して銅イオンを供給する方法もある。銅の供給方法は上記のいずれかの方法を用いることができる。
【0046】
めっき中における電流密度は、アノード24aから搬送方向下流に進むにつれて電流密度を段階的に上昇させ、アノード24oから24tで最大の電流密度となるようにする。
このように電流密度を上昇させることで、銅層の変色を防ぐことができる。特に銅層の膜厚が薄い場合に電流密度が高いと銅層の変色が起こりやすいために、めっき中の電流密度は、後述するPR電流の反転電流を除き0.1A/dm
2〜8A/dm
2が望ましい。電流密度が高くなると銅電気めっき層の外観不良が発生する。
【0047】
本発明に係る2層フレキシブル配線用基板を製造するためには銅電気めっき層の膜厚の表面から10%以上の範囲でPR電流を用いて形成する。
PR電流を使用する場合、反転電流は正電流の1〜9倍の電流を加えると良い。
反転電流時間割合としては1〜10%程度が望ましい。
また、PR電流の次の反転電流が流れる周期は、10m秒以上が望ましく、より望ましくは20m秒〜300m秒である。
図4はPR電流の時間と電流密度を模式的に示したものである。
なお、めっき電圧は、上述の電流密度が実現できるように適宜調整すればよい。
【0048】
本発明に係る2層フレキシブル配線用基板を、ロール・ツー・ロール連続電気めっき装置で製造するには、搬送経路の下流側から1つ以上のアノードでPR電流を流せばよく、PR電流を流すアノード数は、銅電気めっき層の表面からポリイミドフィルム側にPR電流で成膜する範囲の割合をどのようにするかで決まる。すなわち、少なくともアノード24tはPR電流が流れ、必要に応じてアノード24s、アノード24r、アノード24qにPR電流が流れることとなる。
なお、全アノードにPR電流を流してもよいが、PR電流用の整流器が高価な為、製造コストが増加する。そこで、本発明に係る2層フレキシブル配線用基板では、銅電気めっき層の表面からポリイミド方向に膜厚の10%をPR電流で成膜すれば、耐折れ性試験(JIS C−5016−1994)の実施前後での前記銅層の結晶配向比[(200)/(111)]の差d[(200)/(111)]が0.03以上となるので、結果的に耐折れ性試験(MIT試験)の向上が望める。
【0049】
PR電流を使用した銅電気めっきが望ましい理由は、電流を反転させると、銅電気めっき層の銅の結晶粒径は200nm程度以上とすることができ、結晶粒界を少なくできるので、粒界で発生するクラックの起点を少なくすることができるためである。
【0050】
一般に電気めっき法では、めっき析出する銅は、銅めっきされる基材の表面の影響を受けるが、銅電気めっき層の表面から膜厚の10%以上をPR電流で成膜すれば、結晶粒界を制御でき、銅電気めっき層の耐折れ性に対する効果を得ることができる。従って、2層フレキシブル配線用基板の銅電気めっき層の表面から膜厚の10%以上が、耐折れ性に合致した結晶になっていれば、銅電気めっき層の耐折れ性に対する効果が得られ、本発明の課題を達成することができる。
【0051】
(4)銅電気めっき層の特徴
本発明のフレキシブル配線用基板の銅層の特徴は、1.2以上の銅の(111)結晶配向度指数を示すことである。この状態では、MIT耐折れ試験(JIS C−5016−1994)において、結晶が滑りやすくなる。なお、本発明のフレキシブル配線用基板の銅層には(111)配向のほかに(200)、(220)、(311)配向も含むが、そのうち(111)配向が殆どを占め、その結晶配向度指数が1.20以上を示すということである。
【0052】
さらに、MIT耐折れ性試験(JIS C−5016−1994)前後における結晶の配向比[(200)/(111)]の差が0.03以上の結晶状態となることである。この状態は、MIT耐折れ試験をすることで結晶が滑り、再結晶が起こったと考えられる。
表面の光沢性は、表面の凹凸が切り欠きの要因とならないよう光沢膜が好ましい。
【0053】
また、平均結晶粒径の大きさは、大きいほど良いが、銅張積層基板をサブトラクティブ法でフレキシブル配線基板に配線加工する際の銅層のエッチングにも影響するので留意する必要がある。
サブトラクティブ法での銅層のエッチングに塩化第二鉄水溶液を用いる場合には、銅層の結晶粒径は影響しないこともあるが、銅層の結晶粒子の粒界をエッチングする場合には、結晶粒径が配線の形状にも影響するのである。平均結晶粒径としては、200nm〜400nm程度が望ましい。200nm以下であると結晶粒界が多く、破断の起点となるクラックが入りやすくなり、400nm以下とするのは、金属表面の平滑性を保つためである。さらに破断の起点となるクラックが入らないように表面粗さRa0.2μm以下にすることが望ましい。
【0054】
即ち、本発明のフレキシブル配線用基板の銅電気めっき層は、上記成膜方法で得られ、(111)結晶配向度指数が1.2以上で、MIT耐折れ試験前後における結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.03以上であるという特性等を有する層となる。なお、銅電気めっき層の結晶配向はX線回折のWilsonの配向度指数から知ることができる。
【0055】
さらに、上記の方法で得られた銅電気めっき層における銅結晶は、屈折時に常温下での動的再結晶効果を有する。耐折れ性試験後の平均結晶粒径は再結晶で100nm〜200nm程度となる傾向である。
一般に、銅の電気めっきによる成膜は、常温下で動的再結晶しないと考えられてきた。しかし、本発明のフレキシブル配線用基板においては、その銅電気めっき層は常温下で動的再結晶を起こし、結果的に、MIT試験のような屈折試験を行うと試料が切れ難い。その平均結晶粒径と常温下での動的再結晶は、断面SIM像で観察することができる。
【0056】
電気めっき法により成膜される銅電気めっき層の結晶方位は、銅薄膜層の結晶の方位の影響を受けるが、銅電気めっき層と銅薄膜層の結晶の方位は異なるものとなる。例えば、銅薄膜層の結晶の方位に(200)面、EBSDでの001方位に相当する面が観測されなくても、銅電気めっき層の結晶の方位には(111)面がみられる。
【0057】
本発明に係るフレキシブル配線用基板のさらなる特徴的な点は、銅薄膜層付樹脂フィルムの銅薄膜層の結晶の方位と、その銅薄膜層上に銅電気めっきにより設けられた銅電気めっき層の樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚の範囲の電子線後方散乱回折法(EBSD)で測定した結晶の方位が異なること、及び銅電気めっき層の樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚範囲における電子線後方散乱回折法(EBSD)で測定した結晶の方位比によって配線の断面形状の底部幅Bと頂部幅Tの関係が変化することである。
【0058】
即ち、本発明に係るフレキシブル配線用基板の金属積層体は、樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚範囲における電子線後方散乱回折法(EBSD)で測定した結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比(OR
111/OR
001)が7以下である。
そして、このような金属積層体を配線とするために、サブトラクティブ法で配線加工すると、その断面形状は底部幅Bと頂部幅Tと銅膜厚Cから、下記(2)式で求められるエッチングファクター(F
E)で表される効果を得ることができる。
【0060】
すなわち、エッチングファクター(F
E)が5以上では、底部幅B値と頂部幅Tが近い値である効果を示している。
【0061】
なお、金属積層体の結晶の方位の測定には、公知の電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いることができる。
本発明に係るフレキシブル配線用基板は、樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚範囲の金属積層体における電子線後方散乱回折法(EBSD)による結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比(OR
111/OR
001)が7以下であることを確認することができる。
なお、金属積層体は下地金属層を含むものであるが、下地金属層の膜厚は3〜50nmと極めて薄いために、電子線後方散乱回折法(EBSD)による結晶の方位測定の結果には殆ど寄与せず、実質的には銅薄膜層と銅電気めっき層の銅層内の結晶状態から、その測定結果が得られる。
【0062】
本発明に係るフレキシブル配線用基板の特徴の1つである樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚範囲の金属積層体における電子線後方散乱回折法(EBSD)による結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比(OR
111/OR
001)が7以下を得る方法の一例としては、下地金属層と銅薄膜層のスパッタリング成膜の雰囲気を窒素の割合が1体積%〜12体積%含むアルゴン・窒素混合ガスを用い、且つ、銅電気めっき層の銅薄膜層の表面から膜厚1μm〜2.5μmの範囲では電流密度が1A/dm
2とする成膜方法があげられる。
【0063】
フレキシブル配線用基板のMIT耐折れ性試験の結果は、配線幅が細くなると、悪化する。
JIS C−5016−1994に従った耐折れ性試験では配線幅が1mmであるが、液晶ディスプレイ内の屈曲配線に用いられるフレキシブル配線板では、配線幅が50μm以下であり、さらに高精細な25μm以下の配線幅に移行している。配線幅1mmのフレキシブル配線板に加工され、十分な耐折れ性を実現できるフレキシブル配線用基板であっても、配線幅50μm以下では十分な耐折れ性を実現できないことがある。
もちろん、配線幅1mmのフレキシブル配線板で不十分な耐折れ性となるフレキシブル配線用基板では、配線幅50μ以下でも不十分な耐折れ性の結果となる。
そこで、配線幅50μm以下のフレキシブル配線板で配線の断面形状と、耐折れ性の関係を検討すると、配線の底部幅Bと頂部幅Tが近いエッチングファクター(F
E)が5を越えることで、その耐折れ性の向上が見られた。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
図1に示すようなロール・ツー・ロールスパッタリング装置10を用いて銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2を以下のように製造した。
先ず、下地金属層2を成膜する為のニッケル−20重量%クロム合金ターゲットをスパッタリングカソード15aに、銅ターゲットをスパッタリングカソード15b〜15dにそれぞれ装着した。
次に、樹脂フィルム基板Fとして厚み38μmのポリイミドフィルム(カプトン 登録商標 東レ・デュポン社製)を用い、そのフィルムをセットした装置内を真空排気した後、スパッタリングガスを導入して装置内を1.3Paに保持して銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2を製造した。下地金属層(ニッケル−クロム合金)2の膜厚は20nm、銅薄膜層3の膜厚は200nmであった。
【0065】
得られた銅薄膜層付ポリイミドフィルムF2に、
図3に示すようなめっき装置20を用いて銅電気めっきを行い、銅電気めっき層4を成膜した。めっき液28はpH1以下の硫酸銅水溶液を用い、アノード24oから24tは特に断らない限り最大の電流密度(PR電流の反転電流を除く)となるようにし、最終的に銅電気めっき層4の膜厚が8.5μmとなるように電流密度を調整した。
【0066】
耐折れ性試験は、塩化第二鉄をエッチング液にもちいてサブトラクティブ法で「JIS−C−5016−1994」のテストパターンを形成し、同規格に従った評価と、試験片に配線幅を50μmとした試験片(以下、試験片50μmという)と、配線幅を20μmとした試験片(以下、試験片20μmという)を用いた以外は「JIS−5016−1994」に準じた評価を行った。
耐折れ性試験前後の銅電気めっき層の結晶配向は、X線回折でWilsonの配向度指数を用い測定した。
【0067】
金属積層体についてEBSD法で銅結晶の方位と方位比率を測定した。その測定結果を樹脂フィルム基板表面側から膜厚0.4μmまでの範囲と、膜厚0.4μmを超えた範囲に分けて解析した。
【0068】
実施例で用いた電子線後方散乱回折法(EBSD)の測定条件は、以下の通りである。
[電子線後方散乱回折法(EBSD)の測定条件]
回折装置として、Oxford Instruments製(HKL Channel 5)を用い、加速電圧:15kV、測定ステップ:0.05μmの条件で測定した。また、結晶粒の(111)面配向の割合は、(111)面の法線方向に±15°の範囲で配向している結晶粒を、測定範囲の面積の占有率で算出した。
【0069】
サブトラクティブ法による配線加工で用いたエッチング液は、塩化第二鉄水溶液(比重1.35、温度45℃)であった。
【実施例1】
【0070】
スパッタリングガス(スパッタリング雰囲気)は、1.3Paのアルゴンと5体積%窒素の混合ガスとした。
銅層のうち銅薄膜層表面から膜厚1.5μmの範囲を成膜するアノード24a〜24fの電流密度を1A/dm
2以下にした結果、金属積層体の樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚範囲における電子線後方散乱回折法(EBSD)により得られた結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比(OR
111/OR
001)は、0.7であった。
【0071】
銅電気めっき層4の表面から10%の膜厚範囲までをPR電流を用いてで電気めっきを行う為に、アノード24tにPR電流を流して、実施例1の2層フレキシブル配線用基板を作製した。この時の負電流時間割合を10%としてめっき皮膜を得た。
【0072】
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層(111)結晶配向度指数が1.34であった。
MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.04の実施例1のMIT耐折れ性サンプルは、配線幅1mmで895回、試験片50μmでは78回、試験片20μmでは50回という良好な結果を得た。
そのエッチングファクターは、試験片50μmでは6.3、試験片20μmでも6.3であった。
【実施例2】
【0073】
スパッタリング雰囲気をアルゴンと1体積%の窒素の混合ガスとした以外は実施例1と同様に2層フレキシブル配線用基板を作製した。金属積層体の樹脂フィルム基板表面から0.4μmまでの膜厚範囲における電子線後方散乱回折法(EBSD)により得られた結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比(OR
111/OR
001)は、3.3であった。
【0074】
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層(111)結晶配向度指数が1.34であった。
MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差が0.04の実施例2のMIT耐折れ性サンプルは、配線幅1mmで851回、試験片50μmでは69回、試験片20μmでは45回という良好な結果を得た。
そのエッチングファクターは、試験片50μmでは5.3、試験片20μmでは5.5であった。
【0075】
(比較例1)
スパッタリング雰囲気のみアルゴンガスを用いた以外は、実施例1と同様にして2層フレキシブル配線用基板を作製した。
電子線後方散乱回折法(EBSD)による測定で得られた結晶の001方位の結晶割合OR
001に対する111方位の結晶割合OR
111の比(OR
111/OR
001)は、7.3であった。
【0076】
MIT耐折れ性試験前の銅電気めっき層(111)結晶配向度指数は1.20であった。
MIT耐折れ性試験前後のX線配向度指数で表す結晶配向比[(200)/(111)]の差は0.03であった。
【0077】
上記特性を示す比較例1のサンプルの耐折れ性は、配線幅1mmで541回、試験片50μmでは27回、試験片20μmでは20回という配線幅50μm以下では振るわない結果を示し、明らかに本発明に係る実施例1より劣っている結果であった。
そのエッチングファクターは、試験片50μmでは3.9、試験片20μmでは4.1であった。
表1に配線幅20μm、50μmの実施例、比較例における、配線形状(ボトム幅B、トップ幅T、銅膜厚C)とスパッタ雰囲気、算出したエッチングファクターF
E、及びMIT耐折れ性試験結果を纏めて示す。
【0078】
【表1】