(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
<定義>
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0026】
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0027】
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0028】
本明細書において、「研磨速度(Polishing Rate)」とは、単位時間当たりに材料が除去される速度(Removal Rate)を意味する。
【0029】
本明細書において、「タングステン用研磨剤」とは、タングステン材料を研磨するための研磨剤を意味する。「タングステン材料」とは、タングステンを50モル%以上含む材料を意味し、タングステン、タングステン合金、タングステン化合物(例えば、タングステンシリサイド及び窒化タングステン)等が挙げられる。
【0030】
<研磨剤>
本実施形態に係る研磨剤は、研磨時に被研磨面に触れる組成物であり、例えばCMP用の研磨剤である。本実施形態に係る研磨剤は、砥粒と、過酸化水素と、ケイモリブデン酸化合物と、水溶性高分子と、を含有するタングステン用研磨剤である。
【0031】
本実施形態に係る研磨剤では、過酸化水素と、ケイモリブデン酸化合物と、水溶性高分子とを併用することにより、タングステン材料を高い研磨速度で研磨できると共に、エッチング速度を抑制できる。このような効果が得られる作用機序は明らかになっていないが、本発明者は次のように考える。
【0032】
ケイモリブデン酸化合物はタングステン材料の表面を酸化させる。そして、酸化されたタングステン材料(例えばH
2WO
4)と水溶性高分子とが反応して新たな反応層が形成される。この反応層は、ケイモリブデン酸化合物の化学的作用に対しては充分な抵抗力を有するが、砥粒の機械的作用によっては容易に除去できる。そのため、このような反応層の形成は、エッチング速度を抑制しつつ、タングステン材料に対する高い研磨速度を達成することに有効であると考えられる。
【0033】
これに対し、水溶性高分子を用いずにケイモリブデン酸化合物を用いた場合、タングステン材料に対する研磨速度は高いが、エッチング速度も高くなる。
【0034】
また、前記作用機序が発現するためには、ケイモリブデン酸化合物及び水溶性高分子に加えて、過酸化水素を併用する必要がある。過酸化水素を併用することにより、タングステン材料に対するエッチング速度を抑制しながら研磨速度を向上させることができる。この理由は明らかになっていないが、ケイモリブデン酸化合物と過酸化水素とを併用することで、ケイモリブデン酸化合物とタングステン材料との化学反応が促進されるためと考えられる。過酸化水素を多量に用いたとしても、含有量の増加に伴い研磨速度が向上するわけではない。このことから、過酸化水素が、ケイモリブデン酸化合物とタングステン材料との化学反応に対する触媒として働いていると考えられる。
【0035】
以下、研磨剤に含まれる成分について詳細に説明する。
【0036】
(砥粒)
本実施形態に係る研磨剤は、砥粒を含有する。砥粒の構成材料としては、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア等の酸化物、セリウム等の水酸化物、樹脂などが挙げられる。これらは、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。中でも、砥粒の構成材料としては、他の種類の砥粒と比較してタングステン材料との親和性が高く、タングステン材料との接触頻度が増加し、タングステン材料に対する良好な研磨速度が得られ易い観点から、酸化物が好ましく、シリカ及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましく、シリカが更に好ましい。
【0037】
シリカとしては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられる。中でも、シリカとしては、タングステン材料に対する研磨速度が更に高い点、研磨傷が少ない点、及び、粒子径の選択が容易である点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0038】
シリカの含有量の下限は、砥粒の全質量基準で、50質量%を超えることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が非常に好ましい。
【0039】
砥粒の含有量の下限は、充分な機械的研磨力が得られ易く、タングステン材料に対する研磨速度が更に高くなる傾向がある観点から、研磨剤の全質量基準で、0.10質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましく、0.30質量%以上が更に好ましい。砥粒の含有量の上限は、研磨剤の粘度の上昇を避け易い点、砥粒の凝集を避け易い点、研磨傷が低減し易い点、研磨剤の取り扱いが容易である点等から、研磨剤の全質量基準で、15.00質量%以下が好ましく、10.00質量%以下がより好ましく、7.00質量%以下が更に好ましく、4.00質量%以下が特に好ましく、3.00質量%以下が極めて好ましく、2.50質量%以下が非常に好ましい。
【0040】
砥粒の平均粒子径の下限は、充分な機械的研磨力が得られ易くタングステン材料に対する研磨速度が更に高くなる傾向がある観点から、10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましく、50nm以上が特に好ましい。砥粒の平均粒子径の上限は、砥粒の分散安定性が良好である観点から、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、130nm以下が更に好ましい。
【0041】
前記砥粒の平均粒子径は、光子相関法で測定できる。具体的には例えば、マルバーンインスツルメンツ社製の装置名:ゼータサイザー3000HS、ベックマンコールター社製の装置名:N5等で平均粒子径を測定できる。N5を用いた測定方法は、例えば、下記のとおりである。まず、研磨剤を純水で希釈して、砥粒の含有量を0.2質量%に調整した水分散液を調製し、この水分散液を1cm角のセルに約4mL(Lは「リットル」を示す。以下同じ)入れ、測定装置内にセルを設置する。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行うことで得られる値を砥粒の平均粒子径として採用できる。
【0042】
(酸化剤)
本実施形態に係る研磨剤は、タングステン材料に対する酸化剤として過酸化水素を含有する。過酸化水素は、他の酸化剤に比べてタングステン材料に対する標準電極電位が大きいことから、他の種類の酸化剤と比べてタングステン材料に対する化学反応が促進され易いと考えられる。
【0043】
本実施形態に係る研磨剤は、過酸化水素以外の酸化剤(ケイモリブデン酸化合物を除く)を含有することができる。このような酸化剤としては、例えば、過酢酸;過安息香酸;過マンガン酸化合物;過硫酸アンモニウム;ヘテロポリ酸化合物(ヘテロポリ酸(ケイモリブデン酸を除く)及びヘテロポリ酸塩(ケイモリブデン酸塩を除く))が挙げられる。過マンガン酸化合物としては、過マンガン酸カリウム等が挙げられる。ヘテロポリ酸としては、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸等が挙げられる。ヘテロポリ酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。ナトリウム塩としては、リンモリブデン酸ナトリウム、リンタングステン酸ナトリウム等が挙げられる。カリウム塩としては、リンモリブデン酸カリウム、リンタングステン酸カリウム等が挙げられる。アンモニウム塩としては、リンモリブデン酸アンモニウム、リンタングステン酸アンモニウム等が挙げられる。過酸化水素以外の酸化剤は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
酸化剤(過酸化水素を含む。ケイモリブデン酸化合物を除く。)の含有量の下限は、研磨速度の向上効果が得られ易い観点から、研磨剤の全質量基準で、0.10質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましい。酸化剤(過酸化水素を含む。ケイモリブデン酸化合物を除く。)の含有量の上限は、タングステン材料に対するエッチング速度を抑制し易く、タングステン材料に対する研磨速度をコントロールし易い観点から、研磨剤の全質量基準で、10.00質量%以下が好ましく、7.00質量%以下がより好ましく、4.00質量%以下が更に好ましい。
【0045】
過酸化水素の含有量の下限は、エッチング速度を更に抑制する観点から、酸化剤(ケイモリブデン酸化合物を除く)の全質量基準で、50質量%を超えることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が非常に好ましい。
【0046】
過酸化水素の含有量の下限は、研磨速度の向上効果が得られ易い観点から、研磨剤の全質量基準で、0.10質量%以上が好ましく、0.50質量%以上がより好ましく、1.00質量%以上が更に好ましい。過酸化水素は、ケイモリブデン酸化合物とタングステン材料との化学反応に対する触媒として働くと考えられるため、多量に添加しなくてもよい。過酸化水素の含有量の上限は、タングステン材料に対するエッチング速度を抑制し易く、タングステン材料に対する研磨速度をコントロールし易い観点から、研磨剤の全質量基準で、10.00質量%以下が好ましく、7.00質量%以下がより好ましく、4.00質量%以下が更に好ましい。
【0047】
(ケイモリブデン酸化合物)
本実施形態に係る研磨剤は、ケイモリブデン酸化合物を含有する。「ケイモリブデン酸化合物」とは、ケイモリブデン酸構造を有する化合物であり、具体的には、ケイモリブデン酸、ケイモリブデン酸塩等が挙げられる。ケイモリブデン酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。ケイモリブデン酸化合物は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
研磨剤がケイモリブデン酸化合物を含有することにより、タングステン材料に対する研磨速度が高くなる。ケイモリブデン酸化合物を用いることなく、ケイモリブデン酸化合物以外の他のヘテロポリ酸化合物を用いても、タングステン材料に対する研磨速度を高くする効果は小さい。
【0049】
この理由は明らかになっていないが、下記の理由が考えられる。ケイモリブデン酸化合物には、ヘテロ原子としてケイ素が含まれるため、砥粒とケイモリブデン酸化合物との間に相互作用が働き、他のヘテロポリ酸化合物に比べて砥粒に吸着し易い。この場合、砥粒がタングステン材料と接触すると同時に、砥粒に吸着したケイモリブデン酸化合物がタングステン材料に接触することにより、タングステン材料が酸化されて研磨速度が高くなる。なお、ヘテロタングステン酸は、タングステン材料と同じタングステンを含むため、タングステン材料に対する酸化力がヘテロモリブデン酸よりも乏しい。
【0050】
また、カルボキシル基を有する重合体(例えば、後述する(メタ)アクリル酸系重合体)を水溶性高分子として用いると共に、表面に水酸基(ヒドロキシ基)を有し得る砥粒(シリカ等)を用いる場合には、更に高い研磨速度を得ることができる。この理由は明らかになっていないが、下記の理由が考えられる。すなわち、水溶性高分子のカルボキシル基と、砥粒とが水素結合により吸着し易い。また、水溶性高分子及びケイモリブデン酸化合物は親水性であるため、タングステン材料に近接して存在し易い。これにより、砥粒に吸着したケイモリブデン酸化合物がタングステン材料に接触する際に水溶性高分子もタングステン材料に接触し易いと考えられる。この場合、タングステン材料がケイモリブデン酸化合物によって酸化され、酸化されたタングステン材料と水溶性高分子とが反応して新たなタングステン反応層が形成され易い。これにより、更に高い研磨速度を得ることができると考えられる。
【0051】
ケイモリブデン酸化合物の含有量の下限は、タングステン材料に対する研磨速度の充分な向上効果が得られ易い観点から、研磨剤の全質量基準で、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上が更に好ましく、0.10質量%以上が特に好ましい。ケイモリブデン酸化合物の含有量の上限は、タングステン材料に対するエッチング速度を抑制し易い観点から、研磨剤の全質量基準で、3.00質量%以下が好ましく、2.50質量%以下がより好ましく、2.00質量%以下が更に好ましく、1.50質量%以下が特に好ましく、1.00質量%以下が極めて好ましい。
【0052】
(水溶性高分子)
本実施形態に係る研磨剤は、水溶性高分子を含有する。研磨剤が水溶性高分子を含有することにより、タングステン材料に対するエッチング速度が抑制される。このような作用機序が得られ易い観点から、水溶性高分子は、カルボキシル基を有する重合体を含むことが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選択される少なくとも一種を重合させて得られる構造を有する重合体を含むことがより好ましい。アクリル酸及びメタクリル酸に由来するカルボキシル基が、酸化されたタングステン材料(例えばH
2WO
4)の水酸基と相互作用して新たな反応層が形成され易いと考えられる。
【0053】
水溶性高分子としては、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群より選択される少なくとも一種を単量体成分として含む組成物を重合させて得られる構造を有する共重合体(以下「(メタ)アクリル酸系重合体」という)、アクリル酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも一種を単量体成分として含む組成物を重合させて得られる構造を有する共重合体等が挙げられ、(メタ)アクリル酸系重合体が好ましい。(メタ)アクリル酸系重合体は、アクリル酸の単独重合体(ポリアクリル酸)、メタクリル酸の単独重合体(ポリメタクリル酸)であってもよい。水溶性高分子は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。(メタ)アクリル酸系重合体を得るための組成物は、アクリル酸及びメタクリル酸以外の単量体成分(例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキル)を含んでいてもよい。なお、(メタ)アクリル酸系重合体としては、アクリル酸及びメタクリル酸からなる単量体成分を重合させて得られる構造を有する共重合体(アクリル酸/メタクリル酸共重合体)が好ましい。
【0054】
(メタ)アクリル酸系重合体は、アクリル酸及びメタクリル酸以外の前記単量体成分を用いることにより、アミド基、水酸基、ウレア基、カルボキシル基、アルキル基(メチル基等)、スルホ基等の側鎖を有していてもよい。(メタ)アクリル酸系重合体の重合形態としては、特に制限はないが、ブロック共重合、ランダム共重合等が挙げられる。
【0055】
(メタ)アクリル酸系重合体における、アクリル酸及びメタクリル酸の共重合比(モル比)は特に制限はないが、メタクリル酸に対するアクリル酸の共重合比(アクリル酸/メタクリル酸)は、タングステン材料に対する高い研磨速度と、タングステン材料に対する低いエッチング速度を更に高度に両立する観点、及び、溶解性に優れる観点から、1/99〜95/5が好ましい。
【0056】
水溶性高分子の重量平均分子量の下限は、タングステン材料に対するエッチング速度が抑制され易い観点から、1000以上が好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量の下限は、高い研磨速度が発現し易い観点から、3000以上がより好ましく、4000以上が更に好ましく、5000以上が特に好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量の上限は、特に制限はないが、研磨剤への溶解性及び研磨剤の保存安定性に優れる観点から、500万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、50万以下が更に好ましく、10万以下が特に好ましく、5万以下が極めて好ましく、3万以下が非常に好ましく、1万以下がより一層好ましい。前記観点から、水溶性高分子の重量平均分子量は、1000以上500万以下が好ましい。
【0057】
重量平均分子量(Mw)は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いて下記の条件により測定し、「Mw」として得られる値を読み取ることで測定できる。
使用機器(検出器):株式会社日立製作所製、「L−3300型」液体クロマトグラフ用示差屈折率計
ポンプ:株式会社日立製作所製、液体クロマトグラフ用「L−7100」
デガス装置:なし
データ処理:株式会社日立製作所製、GPCインテグレーター「D−2520」
カラム:昭和電工株式会社製、「Shodex Asahipak GF−710HQ」、内径7.6mm×300mm
溶離液:50mM−Na
2HPO
4水溶液/アセトニトリル=90/10(v/v)
測定温度:25℃
流量:0.6mL/min
測定時間:30min
試料:樹脂含有量が2質量%に調整されるように溶離液と同じ組成の溶液で樹脂含有量を調整し、0.45μmのポリテトラフルオロエチレンフィルターでろ過して調製した試料
注入量:0.4μL
標準物質:Polymer Laboratories製、狭分子量ポリアクリル酸ナトリウム
【0058】
水溶性高分子の含有量の下限は、タングステン材料に対するエッチング速度を更に抑制できる観点から、研磨剤の全質量基準で、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上が更に好ましい。水溶性高分子の含有量の上限は、タングステン材料を更に高い研磨速度で研磨する観点から、研磨剤の全質量基準で、2.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましく、0.50質量%以下が更に好ましく、0.30質量%以下が特に好ましく、0.20質量%以下が極めて好ましい。
【0059】
(液状媒体)
本実施形態に係る研磨剤は、他の成分の分散媒又は溶媒として作用する液状媒体を含有することが好ましい。液状媒体としては、純水、超純水、蒸留水等の水;アルコール類、エーテル類、エステル類等の有機溶媒(例えば、水に対して溶解性を有する有機溶媒)が挙げられる。液状媒体は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0060】
(添加剤)
本実施形態に係る研磨剤は、研磨剤中の砥粒の分散性の向上、研磨剤の化学的安定性の向上、研磨速度の向上等の目的で、前記成分以外の添加剤を更に含有することができる。このような添加剤としては、酸成分(前記酸化剤に該当する化合物を除く)、腐食防止剤、消泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。研磨剤中の添加剤の含有量は、研磨剤の特性を損なわない範囲で任意に決定できる。
【0061】
酸成分を用いて研磨剤のpHを制御することにより、研磨剤(例えば水系分散体)の分散性、安定性及び研磨速度を更に向上できる。酸成分としては、有機酸、無機酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限はないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコ−ル酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。無機酸としては、特に制限はないが、塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸等が挙げられる。酸成分は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0062】
本実施形態に係る研磨剤が腐食防止剤を含有することにより、タングステン材料に対するエッチング速度を更に抑制できる。腐食防止剤としては、特に制限はないが、トリアゾール骨格を有する化合物、ピリミジン骨格を有する化合物、イミダゾール骨格を有する化合物、グアニジン骨格を有する化合物、チアゾール骨格を有する化合物、ピラゾール骨格を有する化合物等が挙げられる。腐食防止剤は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0063】
腐食防止剤としては、タングステン材料に対する研磨速度を高く維持しつつタングステン材料に対するエッチング速度を更に抑制する観点からから、トリアゾール骨格を有する化合物、及び、イミダゾール骨格を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。
【0064】
腐食防止剤の含有量の下限は、タングステン材料に対するエッチング速度の抑制効果が得られ易い観点から、研磨剤の全質量基準で、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。腐食防止剤の含有量の上限は、タングステン材料に対する研磨速度を高く維持し易い観点から、研磨剤の全質量基準で、5.00質量%以下が好ましく、3.00質量%以下がより好ましい。
【0065】
(研磨剤のpH)
本実施形態に係る研磨剤のpHの下限は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましく、2.2以上が特に好ましく、2.3以上が極めて好ましい。研磨剤のpHがこのような範囲であると、タングステン材料の表面が負のゼータ電位を有し、かつ、当該ゼータ電位の絶対値が充分に大きくなる。これにより、タングステン材料に吸着する砥粒の量を充分に確保し易いため、充分な機械的研磨力が得られ易い。本実施形態に係る研磨剤のpHの上限は、砥粒の分散安定性が良好な観点から、6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.5以下が更に好ましく、4.0以下が特に好ましい。これらの効果を両立する観点から、研磨剤のpHは、1.0〜6.0が好ましい。研磨剤のpHは、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドリド)等の塩基成分、前記酸成分などにより調整してもよい。なお、研磨剤のpHは、液温25℃におけるpHと定義する。
【0066】
研磨剤のpHは、ガラス電極を用いた一般的なpHメータによって測定できる。例えば、株式会社堀場製作所の商品名:Model(F−51)を使用できる。フタル酸塩pH標準液(4.01)と、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)と、ホウ酸塩pH標準液(pH9.18)とをpH標準液として用いてpHメータを3点校正した後、pHメータの電極を研磨剤に入れて、2min以上経過して安定した後の値を測定することでpHが得られる。このとき、標準緩衝液及び研磨剤の液温は、例えば、共に25℃とすることができる。
【0067】
研磨剤の配合方法及び希釈方法は、特に制限はないが、例えば、翼式攪拌機による攪拌又は超音波分散等で、各成分を分散又は溶解させることにより調整できる。また、液状媒体(例えば水)に対する他の成分の混合順序は限定されない。
【0068】
<研磨剤用貯蔵液>
本実施形態に係る研磨剤は、輸送、保管等に必要なコスト、スペース等を低減する観点から、使用時に予定される量より液状媒体(例えば水)の量を減じて保管することが可能であり、使用時に液状媒体(例えば水)で希釈されて使用される研磨剤用貯蔵液として保管することができる。本実施形態に係る研磨剤用貯蔵液は、研磨剤を得るための研磨剤用貯蔵液であり、液状媒体で希釈する(例えば、質量基準で1.5倍以上に希釈する)ことにより研磨剤が得られる。本実施形態では、研磨の直前に液状媒体で貯蔵液を希釈して研磨剤を調製してもよい。また、定盤(研磨定盤)上に貯蔵液と液状媒体を供給し、定盤上で研磨剤を調製してもよい。
【0069】
なお、X倍に希釈するとは、研磨剤用貯蔵液に液状媒体を加えることによって、研磨剤の質量が、もとの研磨剤用貯蔵液の質量のX倍になることとして定義される。例えば、研磨剤用貯蔵液の質量に対して同質量の液状媒体を加えて研磨剤を得ることは、2倍に希釈することと定義される。
【0070】
<研磨方法>
本実施形態に係る研磨方法は、本実施形態に係るタングステン用研磨剤を用いて被研磨面を研磨する研磨工程を有する。被研磨面は、少なくともタングステン材料を含むことが好ましい。研磨工程においては、例えば、タングステン材料を研磨して除去する。タングステン材料は、例えば、膜状(タングステン材料を含むタングステン材料膜)であってもよい。
【0071】
研磨工程では、例えば、基体(例えば基板)の被研磨面を定盤の研磨布に押しあて、基体の裏面(被研磨面とは反対の面)から基体に所定の圧力を加えた状態で、基体の被研磨面と研磨布との間に研磨剤を供給して、基体を定盤に対して相対的に動かすことで被研磨面を研磨する。
【0072】
研磨装置としては、例えば、回転数を変更可能なモータ等が取り付けてあり、研磨布(パッド)を貼り付け可能な定盤と、基体を保持するホルダーとを有する一般的な研磨装置が使用できる。研磨布としては、特に制限はないが、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等が使用できる。研磨条件には、特に制限はないが、基体が飛び出さないように定盤の回転速度を200min
−1(rpm)以下の低回転に調整することが好ましい。研磨している間、例えば、研磨布には研磨剤をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨剤で覆われ、かつ、研磨の進行による形成物が連続的に排出されることが好ましい。
【0073】
本実施形態に係る研磨方法は、研磨布の表面状態を常に同一にしてCMPを行うために、研磨工程の前に、研磨布のコンディショニング工程を有することが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いて、少なくとも水を含有する液で研磨布のコンディショニングを行ってもよい。続いて、研磨工程において本実施形態に係る研磨方法を実施した後に、基体洗浄工程を実施することが好ましい。
【0074】
研磨終了後の基体は、流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて基体上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。また、公知の洗浄方法(例えば、市販の洗浄液を基体表面に流しつつ、ポリウレタンから構成されるブラシを回転させながら当該ブラシを基体に一定の圧力で押し付けて基体上の付着物を除去する方法)を実施した後に乾燥させることがより好ましい。
【0075】
本実施形態に係る研磨方法の一例として、
図1を用いて、一般的なダマシンプロセスによる配線形成を説明する。まず、
図1(a)に示すように、研磨前の基板100を準備する。基板100は、表面に溝が形成された絶縁材料1と、絶縁材料1の表面の凹凸に追従するように形成されたバリア材料2と、凹部を埋めるように堆積された配線金属3とを有している。ここで、バリア材料2としては、タンタル、窒化タンタル、チタン、窒化チタン等が挙げられる。配線金属3はタングステン材料である。
【0076】
次に、
図1(b)に示すように、本実施形態に係る研磨剤を用いてCMPを行い、バリア材料2が露出するまで配線金属3を除去して基板200を得る(第一の研磨工程)。続いて、
図1(c)に示すように、バリア材料用の研磨剤を用いてCMPを行い、絶縁材料1の凸部が露出するまでバリア材料2を除去して基板300を得る(第二の研磨工程)。第二の研磨工程においては、絶縁材料1を余分に研磨するオーバー研磨を行ってもよい。このようなオーバー研磨により、研磨後の被研磨面の平坦性を高めることができる。
【0077】
タングステン材料に対する研磨速度の下限は、40.0nm/min以上が好ましく、42.5nm/min以上がより好ましく、45.0nm/min以上が更に好ましい。研磨速度が40.0nm/min以上であることにより、研磨時間を短縮することができる。
【0078】
タングステン材料に対するエッチング速度の上限は、15.0nm/min以下が好ましく、13.0nm/min以下がより好ましく、10.0nm/min以下が更に好ましい。エッチング速度が15.0nm/min以下であることにより、タングステン材料の表面にキーホール等の腐食痕が発生することが抑制され、良好な仕上げ面を得ることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例においてpHの調整には、必要に応じてアンモニア又はリンゴ酸を用いた。
【0080】
<研磨剤の調製>
(実施例1)
ケイモリブデン酸0.40質量部と、水溶性高分子(アクリル酸/メタクリル酸共重合体1(AA/MA共重合体)、ブロック共重合体、共重合比:1/99、Mw:7000)0.05質量部とを容器に入れた。そして、超純水X質量部を容器に注いだ後、攪拌して各成分を溶解させた。次に、シリカ粒子の含有量として2.00質量部に相当する量のコロイダルシリカ(シリカ含有液)を添加した。最後に、過酸化水素の含有量として3.00質量部に相当する量の過酸化水素水を添加して研磨剤を得た。超純水の前記含有量Xとしては、研磨剤が100質量部となるように調整される含有量を用いた。
【0081】
(実施例2)
ケイモリブデン酸の含有量を0.40質量部から0.10質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0082】
(実施例3)
砥粒の含有量を2.00質量部から0.50質量部に変えたこと、及び、pHを2.6から2.5に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0083】
(実施例4)
過酸化水素の含有量を3.00質量部から0.50質量部に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0084】
(実施例5)
ケイモリブデン酸の含有量を0.40質量部から2.50質量部に変えたこと、及び、pHを2.6から2.4に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0085】
(実施例6)
研磨剤のpHを2.6から3.5に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0086】
(実施例7)
アクリル酸/メタクリル酸共重合体1をアクリル酸/メタクリル酸共重合体2(ブロック共重合体、共重合比:60/40、Mw:8000)に変えたこと、及び、pHを2.6から2.4に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0087】
(実施例8)
水溶性高分子をMwが2.5万のポリアクリル酸に変えたこと、及び、pHを2.6から2.4に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0088】
(実施例9)
シリカをアルミナに変えたこと、及び、pHを2.6から2.5に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0089】
(比較例1)
ケイモリブデン酸を用いなかったこと、及び、pHを2.6から2.7に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0090】
(比較例2)
ケイモリブデン酸及び過酸化水素を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0091】
(比較例3)
過酸化水素を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0092】
(比較例4)
過酸化水素及び水溶性高分子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0093】
(比較例5)
水溶性高分子を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0094】
(比較例6)
ヘテロポリ酸であるケイモリブデン酸に代えて、ポリ酸であるモリブデン酸を用いたこと、及び、pHを2.6から2.4に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0095】
(比較例7)
ケイモリブデン酸に代えてケイタングステン酸を用いたこと、及び、pHを2.6から2.4に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0096】
(比較例8)
ケイモリブデン酸に代えてリンモリブデン酸を用いたこと、及び、pHを2.6から2.5に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0097】
(比較例9)
ケイモリブデン酸に代えてリンタングステン酸を用いたこと、及び、pHを2.6から2.5に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0098】
(比較例10)
酸化剤として過酸化水素に代えて過ヨウ素酸を用いたこと、及び、pHを2.6から2.5に変えたこと以外は実施例1と同様にして研磨剤を得た。
【0099】
<平均粒子径の測定>
研磨剤を純水で希釈して、砥粒の含有量を0.2質量%に調整した水分散液を調製した。この水分散液を1cm角のセルに約4mL入れ、測定装置(ベックマンコールター社製の装置名:N5)内にセルを設置した。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行うことで得られる値を砥粒の平均粒子径として採用した。測定結果を表1及び表2に示す。
【0100】
<pHの測定>
研磨剤のpHは以下の条件により測定した。測定結果を表1及び表2に示す。
測定温度:25±5℃
測定装置:株式会社堀場製作所の商品名:Model(F−51)
測定方法:フタル酸塩pH標準液(4.01)と、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)と、ホウ酸塩pH標準液(pH9.18)とをpH標準液として用いてpHメータを3点校正した後、pHメータの電極を研磨剤に入れて、2min以上経過して安定した後の値を測定した。
【0101】
<研磨速度の評価>
厚さ600nmのタングステン膜をCVD法でシリコン基板上に形成した積層体を2cm角に切断して試験片を得た。次に、研磨装置(株式会社ナノファクター製、FACT−200)の基板取り付け用吸着パッドを貼り付けたホルダーに前記試験片を固定した。また、発泡ポリウレタンの研磨布を貼り付けた定盤上に、タングステン膜を下にしてホルダーを載せた後、加工荷重が300g/cm
2になるように重しを載せた。定盤上に、前記研磨剤を10mL/minで滴下しながら、定盤回転数を80min
−1に設定し、タングステン膜を60秒間研磨した。そして、研磨前後でのタングステン膜の膜厚をシート抵抗測定器(ナプソン株式会社製、RT−80/RG−80)を用いて測定し、膜厚差から研磨速度を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0102】
<不純物に起因する傷及び汚染の評価>
各実施例について、不純物(鉄イオン等)に起因する傷の発生及び汚染の有無を確認した。不純物に起因する傷の有無は、Applied Materials technology社製の欠陥検査装置ComPLUS3、及び、Applied Materials technology社製のReview SEM観察装置、SEM vision G3を用いて判断した。汚染の有無は、研磨後の試験片を3質量%過酸化水素水に3min浸漬した後、浸漬液(過酸化水素水)中の金属不純物をアジレント・テクノロジー社製の誘導結合プラズマ質量分析装置Agilent7700xで定量分析して判断した。結果は後述する。
【0103】
<エッチング速度の評価>
まず、研磨剤を60℃に維持した。次に、前記研磨速度の評価と同様の前記試験片を攪拌羽根に取付けた。攪拌機の回転数を100min
−1に設定して撹拌しつつ、前記試験片を研磨剤に5min浸漬した。浸漬前後のタングステン膜の膜厚差を電気抵抗値から換算して求めた、膜厚差と浸漬時間とからエッチング速度を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1に示されるように、砥粒と、過酸化水素と、ケイモリブデン酸化合物と、水溶性高分子とを含有する研磨剤を用いた場合(実施例1〜9)、タングステン材料に対する研磨速度が高いと共に、タングステン材料に対するエッチング速度が低い。また、不純物(鉄イオン等)に起因する傷の発生及び汚染は抑制されていた。
実施例1におけるタングステン材料に対する研磨速度は比較例3よりも高く、タングステン材料に対するエッチング速度は比較例3と同等である。
ケイモリブデン酸の含有量が少ない場合(実施例2)、ケイモリブデン酸の含有量が多い実施例1と比較して研磨速度及びエッチング速度は低い。これは、ケイモリブデン酸の含有量が多い実施例1において、ケイモリブデン酸によるタングステン材料への化学的作用が強いためと考えられる。
砥粒の含有量が少ない場合(実施例3)、実施例1と比較して研磨速度は低下するものの比較例1〜4、6〜9と比較して研磨速度が高く、比較例3〜5及び10と比較してエッチング速度が低い。
過酸化水素の含有量が少ない場合(実施例4)、研磨速度は実施例1よりも低く、エッチング速度は実施例1と同等である。これは、過酸化水素によるタングステン材料への化学的作用が弱いためと考えられる。
ケイモリブデン酸の含有量が多い場合(実施例5)、研磨速度は実施例1よりも高い。これは、ケイモリブデン酸によるタングステン材料への化学的作用が強いためと考えられる。
研磨剤のpHが高い場合(実施例6)、研磨速度は実施例1よりも高い。これは、研磨剤のpHが高いほど、タングステン材料がイオン化し易くなり、化学的作用が強いためと考えられる。
アクリル酸/メタクリル酸共重合体1から、共重合比及び重量平均分子量の異なるアクリル酸/メタクリル酸共重合体2に変えた場合(実施例7)、研磨速度及びエッチング速度は実施例1と同等である。
アクリル酸/メタクリル酸共重合体1からポリアクリル酸に変えた場合(実施例8)、研磨速度は実施例1と同等である。これは、ポリアクリル酸がアクリル酸/メタクリル酸共重合体1よりも、酸化されたタングステン材料との反応層を形成し難いためと考える。
砥粒をコロイダルシリカからアルミナに変えた場合(実施例9)、研磨速度は実施例1よりも高く、エッチング速度は実施例1と同等である。これは、アルミナがコロイダルシリカよりも硬いためと考えられる。
【0107】
表2に示されるように、研磨剤がケイモリブデン酸を含有しない場合(比較例1、2、6〜9)、タングステン材料に対する研磨速度は各実施例よりも低い。
比較例1の要因は、ケイモリブデン酸が存在しないことによりタングステン材料に対する過酸化水素の化学的作用が弱いためと考えられる。
研磨剤が水溶性高分子を含有するもののケイモリブデン酸及び過酸化水素を含有しない場合(比較例2)、タングステン材料に対する研磨速度は比較例1よりも低い。これは、研磨剤がケイモリブデン酸に加えて過酸化水素も含有しないため、タングステン材料に対する化学的作用が非常に弱いためと考えられる。比較例1及び2の対比から、比較例2における大幅な研磨速度の低下は、過酸化水素のみによる化学的作用を失ったことに起因するのではなく、過酸化水素及びケイモリブデン酸を併用することで促進される化学的作用を失ったことに起因すると考えられる。
比較例6では、タングステン材料に対するモリブデン酸の化学的作用がケイモリブデン酸よりも非常に弱いため、タングステン材料に対する研磨速度が低いと考えられる。
比較例7では、比較例6と同様に、タングステン材料に対するケイタングステン酸の化学的作用がケイモリブデン酸よりも非常に弱いため、タングステン材料に対する研磨速度が低いと考えられる。
比較例8では、比較例6と同様に、タングステン材料に対するリンモリブデン酸の化学的作用がケイモリブデン酸よりも非常に弱いため、タングステン材料に対する研磨速度が低いと考えられる。
比較例9では、比較例6と同様に、タングステン材料に対するリンタングステン酸の化学的作用がケイモリブデン酸よりも非常に弱いため、タングステン材料に対する研磨速度が低いと考えられる。
【0108】
研磨剤がケイモリブデン酸及び水溶性高分子を含有するものの過酸化水素を含有しない場合(比較例3)、タングステン材料に対する研磨速度は各実施例よりも低い。
研磨剤がケイモリブデン酸を含有するものの過酸化水素及び水溶性高分子を含有しない場合(比較例4)、タングステン材料に対するエッチング速度は各実施例よりも高い。
研磨剤がケイモリブデン酸及び過酸化水素を含有するものの水溶性高分子を含有しない場合(比較例5)、タングステン材料に対する研磨速度は実施例1よりもやや高いが、エッチング速度は各実施例よりも非常に高い。これは、水溶性高分子がタングステン材料に対する研磨速度を大幅に低下させることなくエッチング速度を抑制する働きを有するためと考えられる。
研磨剤がケイモリブデン酸及び水溶性高分子を含有するものの酸化剤として過酸化水素に代えて過ヨウ素酸を用いた場合(比較例10)、タングステン材料に対する研磨速度は高いが、エッチング速度も高い。これは、タングステン材料に対する過ヨウ素酸の化学的作用が過酸化水素よりも非常に強いため、タングステン材料に対する研磨速度及びエッチング速度が高いと考えられる。