特許第6406239号(P6406239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406239
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】タッチパネルフィルムとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20181004BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20181004BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20181004BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G06F3/041 490
   G06F3/041 495
   B32B7/02 104
   B32B9/00 A
   C23C14/08 N
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-251045(P2015-251045)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-117153(P2017-117153A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】 円子 英紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−152727(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/140275(WO,A1)
【文献】 特開2014−130811(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054532(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/069162(WO,A1)
【文献】 特開2014−073642(JP,A)
【文献】 特開2010−224350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
B32B 7/02
B32B 9/00
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、基板側から第一誘電体膜層、第二誘電体膜層および透明導電層が順に積層されたタッチパネルフィルムにおいて、
上記第一誘電体膜層が、Nb25層により構成され、
上記第二誘電体膜層が、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜され、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)により構成されると共に、
上記透明導電層が、ITO(Indium Tin Oxide)層により構成されていることを特徴とするタッチパネルフィルム。
【請求項2】
上記透明導電層を構成するITO層の波長450nm〜650nmにおけるパターン部と非パターン部の平均分光反射率差が0.05%以下であることを特徴とする請求項1に記載のタッチパネルフィルム。
【請求項3】
上記第一誘電体膜層、第二誘電体膜層、透明導電層の各光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した光学的膜厚が波長550nm×(1/8)〜波長550nm×(3/8)に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のタッチパネルフィルム。
【請求項4】
基板を構成する樹脂フィルムの少なくとも片面に、第一誘電体膜層を構成するNb25層、第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)、および、透明導電層を構成するITO層が順に積層されたタッチパネルフィルムの製造方法において、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用い、かつ、酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)を成膜することを特徴とするタッチパネルフィルムの製造方法。
【請求項5】
真空チャンバ内を搬送される長尺樹脂フィルムに対し、ロールトゥロール方式により第一誘電体膜層を構成するNb25層、第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)、および、透明導電層を構成するITO層を順に成膜することを特徴とする請求項4に記載のタッチパネルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に透明導電層を有し、静電容量型タッチパネルに用いられるタッチパネルフィルムに係り、特に、透明導電層のパターン部と非パターン部の差が目立たないタッチパネルフィルムの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電容量型タッチパネルは、スマートフォン、音楽プレーヤー、カーナビゲーション等に幅広く採用されているが、静電容量型タッチパネルに用いられるタッチパネルフィルムは基板の少なくとも片面に成膜された透明導電層を有している。そして、タッチされた位置を検出するため、上記透明導電層をエッチング加工して形成された数mmのアイランド状パターン部が設けられている。上記透明導電層はITO(Indium Tin Oxide)等の透明材料で構成されているが、アイランド状パターン部を形成すると、パターン部と非パターン部の反射率が異なるためパターン部が目立ってしまうことがある。人間の目は僅か1%程度の反射率差も見分けることができる。
【0003】
そこで、パターン部と非パターン部の差が目立たないようにするため、透明導電層の下地に複数の誘電体層を積層する光学薄膜理論に基づいた手法が特許文献1〜4に記載されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、透明導電層の下地として基板側から高屈折率層(チタン、タンタル、ニオブ、インジウム、スズのいずれかの酸化物若しくは窒化物を主材料とする)と低屈折率層(酸化ケイ素膜若しくはフッ化マグネシウム膜のいずれか)を順に成膜したパネル体が記載され、特許文献2においては、透明導電層の下地として基板側から有機物層(メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂層)と無機物層(SiO2層)を順に形成した透明導電性フィルムが記載され、また、特許文献3においては、透明導電層の下地として基板側から第一透明誘電体層(酸化インジウムおよび酸化セリウムを少なくとも含む複合酸化物層)と第二透明誘電体層(SiO2層)を順に形成した透明導電性フィルムが記載され、更に、特許文献4においては、パターニングされた透明導電層の下地として基板側から第一誘電体層[SiOx層(x≧1.5)を主成分とするシリコン酸化物層]、第二誘電体層[Nb、Ta、Ti、Zr、Hfから成る群より選択される1以上の金属の酸化物を主成分とする金属酸化物層]、第三誘電体層[SiOy層(y>x)を主成分とするシリコン酸化物層]を順に形成した透明電極付き基板が記載されている。
【0005】
特許文献1〜4に記載されている膜構成はそれぞれ異なるものの、各膜層の光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した全膜層の光学的膜厚は可視波長域(400〜700nm)の中心波長(λ=550nm)の1/4程度にされ、所謂、全膜層で(λ/4)膜が構成される設定になっており、カメラレンズ等光学部品の「反射防止膜」のように(λ/4)膜と(λ/2)膜の組み合わせを基本構成とする光学薄膜ではない。上記光学部品の「反射防止膜」のような膜構成を採用していない理由は、ITO等の高価なターゲットを使用する透明導電層を(λ/4)膜ほど厚く設定しなくても十分な導電性が得られることと、透明導電層を(λ/4)膜ほど厚く設定すると透明導電層のパターン部と非パターン部の反射率差を低下さることが困難になるからである。
【0006】
しかし、タッチパネルフィルムにおける透明導電層のパターン部と非パターン部の差を目立たなくする要求は年々高くなり、パターン部と非パターン部の差を更に目立たなくしたタッチパネルフィルムが求められている。
【0007】
ところで、タッチパネルフィルムにおける透明導電層のパターン部と非パターン部の差を目立たなくするためには、上記パターン部と非パターン部の反射率差を可能な限り小さくする必要がある。
【0008】
しかし、図1に示すようにパターン化された透明導電層(図1に厚さ22nmのITO層が例示されている)の屈折率が、タッチパネルフィルムに存在する他の媒質(図1に厚さ35nmのSiOx層と厚さ6nmのNb25層が例示されている)の屈折率と異なる場合、透明導電層のパターン部と非パターン部の有無により分光反射特性が完全に同じになることはあり得ないため、透明導電層のパターン部と非パターン部の差を目立たなくさせるには限界が存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−152809号公報(請求項1〜2)
【特許文献2】特開2009−76432号公報(請求項4〜5、実施例1)
【特許文献3】特開2010−23282号公報(請求項1、5、10)
【特許文献4】WO2013/069162号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、透明導電層のパターン部と非パターン部の差が目立たないタッチパネルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
タッチパネルフィルムにおける透明導電層のパターン部と非パターン部の差を目立たなくするためには上述したようにパターン部と非パターン部の反射率差を可能な限り小さくする必要があり、上記パターン部と非パターン部の分光反射特性を如何に近づけるかについて基板と各層の「屈折率」と「消衰係数」を考慮した光学薄膜理論に基づく計算により求めることになる。しかし、光学薄膜の特別な用途を除くと、誘電体の光学薄膜は完全に酸化させた透明(消衰係数=0)の状態で構成されている。尚、物理気相成長法を用いて誘電体層を成膜する場合、成膜中の酸素ガス導入量を少なめに制御することで僅かに着色した消衰係数がゼロではない誘電体層を成膜することが可能となる。
【0012】
そして、タッチパネルフィルムにおける透明導電層のパターン部と非パターン部の僅かな反射率差も肉眼では識別されるが、タッチパネルフィルムは透かして見る訳ではないため、全体的にタッチパネルフィルムが僅かに着色していてもその着色を肉眼で識別することは困難である。しかも、タッチパネルフィルムが僅かに着色した場合、タッチパネルフィルムにおける透明導電層のパターン部と非パターン部の差を肉眼で目立たなくさせることが可能となる。
【0013】
そこで、このような技術的発見に基づき本発明者が透明導電層の下地層として僅かに着色した誘電体層の採用を試みたところ、透明導電層のパターン部と非パターン部の差が目立たないタッチパネルフィルムを完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、基板側から第一誘電体膜層、第二誘電体膜層および透明導電層が順に積層されたタッチパネルフィルムにおいて、
上記第一誘電体膜層が、Nb25層により構成され、
上記第二誘電体膜層が、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜され、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)により構成されると共に、
上記透明導電層が、ITO(Indium Tin Oxide)層により構成されていることを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載のタッチパネルフィルムにおいて、
上記透明導電層を構成するITO層の波長450nm〜650nmにおけるパターン部と非パターン部の平均分光反射率差が0.05%以下であることを特徴とし、
また、第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載のタッチパネルフィルムにおいて、
上記第一誘電体膜層、第二誘電体膜層、透明導電層の各光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した光学的膜厚が波長550nm×(1/8)〜波長550nm×(3/8)に設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
次に、本発明に係る第4の発明は、
基板を構成する樹脂フィルムの少なくとも片面に、第一誘電体膜層を構成するNb25層、第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)、および、透明導電層を構成するITO層が順に積層されたタッチパネルフィルムの製造方法において、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用い、かつ、酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)を成膜することを特徴とし、
第5の発明は、
第4の発明に記載のタッチパネルフィルムの製造方法において、
真空チャンバ内を搬送される長尺樹脂フィルムに対し、ロールトゥロール方式により第一誘電体膜層を構成するNb25層、第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)、および、透明導電層を構成するITO層を順に成膜することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
樹脂フィルムから成る基板の少なくとも片面に、基板側から第一誘電体膜層、第二誘電体膜層および透明導電層が順に積層された本発明に係るタッチパネルフィルムによれば、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用いた物理気相成長法により成膜され、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)により第二誘電体膜層が構成されている。
【0017】
そして、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007であるSiOx層(但し、1.9<x<2)で構成された第二誘電体膜層は僅かに着色し、かつ、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)で構成された第二誘電体膜層は波長550nmにおける屈折率がおおよそ1.46であるSiO2層と同様に低屈折率層として機能するため、タッチパネルフィルムにおける透明導電層のパターン部と非パターン部の差を肉眼で目立たなくさせることが可能となる効果を有する。
【0018】
また、基板を構成する樹脂フィルムの少なくとも片面に、第一誘電体膜層を構成するNb25層、第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)、および、透明導電層を構成するITO層が順に積層される本発明に係るタッチパネルフィルムの製造方法によれば、
SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用い、かつ、酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)を成膜しているため、透明導電層のパターン部と非パターン部の差を肉眼で目立たなくしたタッチパネルフィルムを製造することが可能となる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るタッチパネルフィルムの膜構成と透明導電層のパターン部と非パターン部における反射率の差を示す説明図。
図2】本発明に係るタッチパネルフィルムの第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)を成膜する際のインピーダンス制御設定値に対応して得られるSiOx膜の分光透過特性を示すグラフ図。
図3】波長550nmにおける消衰係数がk(k=0、k=0.005、および、k=0.010の3種類)であるSiOx層(但し、1.9<x<2)で第二誘電体膜層が構成されたタッチパネルフィルムの透明導電層におけるパターン部と非パターン部の分光反射率を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
(1)タッチパネルフィルムの基本構成
代表的な樹脂フィルムであるPETフィルムの波長550nmにおける屈折率は1.66である。光学薄膜は低屈折率物質層と高屈折率物質層の屈折率差が大きい程、膜層数が少なくとも設計の自由度(目標とする分光光学特性に近づけられる自由度)が高い。耐久性の高い酸化物誘電体層の最も屈折率が低い物質はSiO2(波長550nmにおける屈折率はおよそ1.46)であり、最も屈折率が高い物質はTiO2(波長550nmにおける屈折率はおよそ2.40)である。これ等の酸化物誘電体層とPETフィルムの屈折率を比較すると、PETフィルムの屈折率は低い方になり、設計の自由度を考慮すると、PETフィルム側から第1層目は高屈折率物質層(第一誘電体膜層)が望ましい。
【0022】
第一誘電体膜層を構成する高屈折率物質は、波長550nmにおける屈折率が高い順に、TiO2、Ta25、Nb25となる。TiO2は成膜温度や後処理により結晶構造がアナターゼからルチルに変わってしまうため屈折率が変動し易く、安定した分光光学特性を得ることが難しい。Ta25は原料価格が高く、コスト的な問題がある。Nb25は、Ta25の波長550nmにおける屈折率とほぼ同一であるにも拘わらず、原料価格が安く、安定供給が可能な原料であり、1990年代から非常によく採用されるようになってきた。このような理由から、第1層目の高屈折率物質層(第一誘電体膜層)としてNb25が選択される。
【0023】
次に、第1層目の高屈折率物質層(第一誘電体膜層)としてNb25が選択されたため、第2層目の低屈折率物質層(第二誘電体膜層)としては、設計の自由度を考慮すると波長550nmにおける屈折率が最も低いSiO2が選択される。
【0024】
そして、PETフィルム側から第3層目に、波長550nmにおける屈折率が高い透明導電層が成膜される。
【0025】
ここで、PETフィルム側から透過する水分に起因したNb25層への悪影響を防止するため、PETフィルムと第1層目のNb25層間に水分のバリア性が高いSiO2層を挿入してもよい。PETフィルムとSiO2層の波長550nmにおける屈折率は互いに近いため、薄いバリア層(SiO2層)を挿入しても分光光学特性が大きく変わってしまうことはない。
【0026】
(2)第二誘電体膜層を構成するSiOx層(但し、1.9<x<2)
ところで、タッチパネルフィルムにおける下地層の第一誘電体膜層や第二誘電体膜層等が全て透明な膜材料で構成された場合、各層の膜厚について光学薄膜理論に基づく計算によるシミュレーションにより調整したとしても、透明導電層のパターン部と非パターン部の差を目立たなくさせること、すなわち、透明導電層のパターン部と非パターン部の分光反射特性を近づけさせるには上述したように限界がある。そこで、本発明においては、PETフィルム側から第2層目である低屈折率物質層(第二誘電体膜層)のSiO2層について若干着色されたSiOx層(但し、1.9<x<2)に置き換えることで光学薄膜設計の自由度を高くすることが可能となった。
【0027】
ここで、低屈折率物質層(第二誘電体膜層)を構成する若干着色されたSiOx層については、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料を用い、かつ、酸素ガスの導入量を制御した物理気相成長法により成膜された、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007で、波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49であるSiOx層(但し、1.9<x<2)であることが好ましい。波長550nmにおける屈折率が1.43〜1.49のSiOx層(但し、1.9<x<2)は、波長550nmにおける屈折率がおおよそ1.46であるSiO2層と同様に低屈折率層として機能し、また、波長550nmにおける消衰係数が0.001未満あるいは0.007を超えたSiOx層(但し、1.9<x<2)の場合、後述するようにITOで構成される透明導電層のパターン部と非パターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率差を0.05%以下に調整することが難しくなり、パターン部と非パターン部の差が目立ってしまうからである。尚、上記物理気相成長法としては、真空蒸着法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0028】
他方、上記透明導電層のパターン部と非パターン部の差を肉眼で目立たなくさせる光学的膜厚の設定に関しては、特許文献1〜4に記載された同様の条件、すなわち、第一誘電体膜層、第二誘電体膜層、透明導電層の各光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した総光学的膜厚が可視波長域の中心波長λ(=550nm)の(λ/4)、すなわち、550nm×(1/4)程度となるように設定する。
【0029】
そこで、第一誘電体膜層、第二誘電体膜層、透明導電層の各光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した総光学的膜厚について、波長550nm×(1/8)=69nm〜波長550nm×(3/8)=206nmの範囲に設定し、パターン部と非パターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率差が小さくなるように3層(すなわち、第一誘電体膜層、第二誘電体膜層、透明導電層)を透明層(消衰係数k=0)で構成し、光学薄膜理論に基づく計算シミュレーションにより3層の膜厚を調整する。但し、透明導電層を構成するITOの膜原料費が高価であるため、目的の導電性を得る最小膜厚以上は必要であるが、可能な限り透明導電層を薄くしたい。
【0030】
この光学薄膜理論に基づく計算シミュレーションを行った結果、表1に示す膜構造を有するタッチパネルフィルムが設定された。第一誘電体膜層(Nb25)、第二誘電体膜層(SiOx)、透明導電層(ITO)の各光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した総光学的膜厚は、表1に示すように108nmになる。
【0031】
【表1】
【0032】
上記第一誘電体膜層、第二誘電体膜層、透明導電層の各光学的膜厚(物理的膜厚×屈折率)を合計した総光学的膜厚に基づいて表1に示す各層の膜厚が決定されたので、次に、波長450〜650nmにおけるパターン部と非パターン部の平均分光反射率差が小さくなるSiOx層の消衰係数を求めたところ、波長450〜650nmにおけるパターン部と非パターン部の平均分光反射率差が0.05%以下となるためにはSiOx層の消衰係数が0.001〜0.007のときである。尚、SiOx層の消衰係数kが「k=0」、「k=0.005」、「k=0.010」の場合における透明導電層(ITO)のパターン部と非パターン部における分光反特性を図3に示す。
【0033】
ところで、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料(ターゲット)としては、SiCおよびSiを主成分とする成膜材料であれば任意の材料が適用できる。
【0034】
例えば、SiCとSiを含有する材料より構成され、かつ、SiCの体積比率(%)=[SiCの全体積/(SiCの全体積+Siの全体積)]×100とした場合のSiCの体積比率が50%〜70%であるスパッタリングターゲット(国際公開公報:WO 2004/011690号公報参照)、あるいは、SiC粉末を、鋳込み成形法、プレス成形法または押出し成形法により成形し、この成形体に対し、真空中または減圧非酸化雰囲気中で、1450℃以上2200℃以下の温度で溶融したSiを含浸させて上記成形体の気孔を金属Siで満たすと共に、SiCと金属Siを含みSiに対するCの原子比が0.5以上0.95以下であるスパッタリングターゲット(国際公開公報:WO 01/027345号公報参照)等が挙げられる。
【0035】
(3)第一誘電体膜層、透明導電層および基板
次に、表1に示した高屈折率物質層(第一誘電体膜層)を構成するNb25層のスパッタリングターゲットには金属Nbターゲット(住友金属鉱山株式会社製)が用いられ、透明導電層を構成するITO層のスパッタリングターゲットにはITOターゲット(住友金属鉱山株式会社製)が用いられている。
【0036】
また、基板を構成する樹脂フィルムの材質は特に限定されないが、透明であるものが好ましく、量産性を考慮した場合、後述する乾式のスパッタリングロールコーティングが可能となるフレキシブル基板であることが好ましい。フレキシブル基板は、従来のガラス基板等に比べて廉価・軽量・変形性に富むといった点においても優れている。
【0037】
そして、上記基板を構成する樹脂フィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。また、樹脂フィルムの片面あるいは両面にさらに樹脂を塗布するハードコート処理を施したハードコート付樹脂フィルムを用いてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
はじめに、SiCおよびSiを主成分とするスパッタリングターゲットを成膜材料とし、基板には300mmにスリットした厚さ100μmのハードコート付きPETフィルムを用いると共に、成膜時に酸素ガスの導入量を制御して得られたSiOx(1.9<x<2)膜(層)で構成される低屈折率物質層(第二誘電体膜層)の酸素導入量による分光光学特性を調べた。
【0040】
SiOx(1.9<x<2)膜(層)の成膜にはスパッタリングロールコータ装置を用い、上記低屈折率物質層(第二誘電体膜層)を成膜するためのスパッタリングターゲットにはSiCとSiを主成分とするターゲット(但し、SiC:Siは重量比で70〜90%:30〜10%のもの)、あるいは、高純度SiCから成るターゲットを用いた。
【0041】
高屈折率物質層(第一誘電体膜層)を構成するNb25層のスパッタリングターゲットには金属Nbターゲットを用い、透明導電層を構成するITO層のスパッタリングターゲットにはITOターゲットを用いた。
【0042】
排気ポンプにはドライポンプ、メカニカルブースタポンプとターボ分子ポンプを用いた。SiCとSiを主成分とするスパッタリングターゲット、金属Nbターゲット、ITOターゲットを用い、全てデュアルマグネトロンスパッタリングでスパッタリングを行い、酸素ガス導入はインピーダンスモニターにより制御した。インピーダンス制御設定値が小さくなっているとき程、酸素ガスが多く導入されていることを示している。
【0043】
ここで、デュアルマグネトロンスパッタリングとは、絶縁膜を高速成膜するために2つのターゲットに中周波(40kHz)パルスを交互に印加してアーキングの発生を抑制し、ターゲット表面における絶縁層の形成を防ぐスパッタリング方法である。
【0044】
また、インピーダンスモニターは、酸素導入量によってターゲット電極間のインピーダンスが変化する現象を応用し、形成する膜が金属モードと酸化物モードの間の遷移領域にある所望の遷移モードの膜となるように、酸素導入量を制御かつモニターして酸化物誘電体膜層を高速成膜するために使用される。
【0045】
SiCとSiを主成分とするスパッタリングターゲットを用い、スパッタリングロールコータ装置を用いて成膜されるSiOx膜(層)は、成膜時の酸素分圧が高くなる(成膜時の酸素導入量が多くなる)につれて、SiOx膜(層)のxの値が2に近づいていく。
【0046】
インピーダンス制御設定値が、36、38、40、42、44、46、48、49として成膜されたSiOx(1.9<x<2)膜(層)における波長と透過率の関係を示す「分光透過特性」を図2に示す。図2のグラフ図において、インピーダンス制御設定値が36、38、40、42、44、46、48、49の順に対応して、成膜されたSiOx膜の波長550nmにおける透過率が順に高くなっている(すなわち、インピーダンス制御設定値を36に設定して成膜されたSiOx膜の波長550nmにおける透過率が一番高く、インピーダンス制御設定値を49に設定して成膜されたSiOx膜の波長550nmにおける透過率が一番低い)。
【0047】
また、基板はポリエチレンテレフタレート(PET)であり、SiOx膜(層)の物理的膜厚は35nmである。また、SiOxの成膜時におけるインピーダンス制御設定値と4kW入力時のカソード電圧、および、波長550nmにおけるSiOx膜の消衰係数を表2にそれぞれ示す。
【0048】
尚、成膜時におけるインピーダンス制御設定値が38以下のときに、SiOx膜は目視にて透明に見える。更に、インピーダンス設定値が35のときと比較して45のときは、同じ4kW入力時の成膜速度が約30%向上しているので、成膜時間(生産コスト)の削減も期待できる。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されているように、SiCおよびSiを主成分とするスパッタリングターゲットを成膜材料とし、真空蒸着法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法により成膜し、かつ、インピーダンスモニターを用いて成膜中の酸素導入量を制御し、成膜時に導入する酸素ガスを減じることにより、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.050のSiOx膜(層)を得ることができる。
【0051】
本実施例において、SiCとSiを主成分とするスパッタリングターゲットを用い、波長550nmにおける消衰係数が0.001〜0.007のSiOx(1.9<x<2)膜を成膜するには、表2に示されているようにインピーダンス制御設定値を36〜38に設定すればよい。
【0052】
そして、本実施例では、SiOx層の波長550nmにおける消衰係数が0.005になるようにインピーダンス設定値を「37」にした。
【0053】
尚、SiOx膜の消衰係数が0.001未満あるいは0.007を越えた場合、透明導電層におけるパターン部と非パターン部の波長450〜650nmの平均分光反射率差を0.05%以下にすることが困難になることが確認されている。
【0054】
更に、高屈折率物質層(第一誘電体膜層)を構成するNb25層のスパッタリングターゲットには上述した金属Nbターゲットを用い、透明導電層を構成するITO層のスパッタリングターゲットにはITOターゲットを用いてデュアルマグネトロンスパッタリングによる成膜を行い、かつ、酸素ガスの導入はインピーダンスモニターにより制御した。
【0055】
但し、高屈折率物質層(第一誘電体膜層)を構成するNb25層と透明導電層を構成するITO層については、意図的に着色させる必要がない(消衰係数=0)ため、インピーダンスモニターにより高速成膜が可能な遷移モードにしているが、インピーダンス電圧が最も低くなるまで酸素ガスの導入制御をしている。
【0056】
そして、フィルム搬送速度2m/分の条件で、表1に示す膜構成のタッチパネルフィルムの各層を成膜して実施例に係るタッチパネルフィルムを製造した。尚、各層の膜厚は、デュアルマグネトロンスパッタリング電源の投入電力で調整した。
【0057】
得られた実施例に係るタッチパネルフィルムのITO層をエッチング処理によりパターンを形成し、かつ、自記分光光度計(日本分光社製)を用いてITO層がパターン化された実施例に係るタッチパネルフィルムの分光反射特性を測定した。
【0058】
測定結果を図3に示すと共に、ITO層のパターン部と非パターン部における波長450〜650nmの各「平均分光反射率(%)」並びに「平均分光反射率差(%)」を以下の表3に示す。尚、図3において上記「波長550nmにおける消衰係数が0.005」を「SiOx k=0.005」と表記している。
【0059】
[比較例1]
低屈折率物質層(第二誘電体膜層)を構成するSiOx層の成膜時におけるインピーダンス設定値が「35」である(波長550nmにおける消衰係数<0.001)点を除き実施例と同様にして、実施例と膜構成が同一の比較例1に係るタッチパネルフィルムを製造した。
【0060】
得られた比較例1に係るタッチパネルフィルムのITO層をエッチング処理によりパターンを形成し、かつ、自記分光光度計(日本分光社製)を用いてITO層がパターン化された比較例1に係るタッチパネルフィルムの分光反射特性を測定した。
【0061】
測定結果を図3に示すと共に、ITO層のパターン部と非パターン部における波長450〜650nmの各「平均分光反射率(%)」並びに「平均分光反射率差(%)」を以下の表3に示す。尚、図3において上記「波長550nmにおける消衰係数<0.001」を「SiOx k=0」と表記している。
【0062】
[比較例2]
低屈折率物質層(第二誘電体膜層)を構成するSiOx層の成膜時におけるインピーダンス設定値が「40」である(波長550nmにおける消衰係数が0.010)点を除き実施例と同様にして、実施例と膜構成が同一の比較例2に係るタッチパネルフィルムを製造した。
【0063】
得られた比較例2に係るタッチパネルフィルムのITO層をエッチング処理によりパターンを形成し、かつ、自記分光光度計(日本分光社製)を用いてITO層がパターン化された比較例1に係るタッチパネルフィルムの分光反射特性を測定した。
【0064】
測定結果を図3に示すと共に、ITO層のパターン部と非パターン部における波長450〜650nmの各「平均分光反射率(%)」並びに「平均分光反射率差(%)」を以下の表3に示す。尚、図3において上記「波長550nmにおける消衰係数が0.010」を「SiOx k=0.010」と表記している。
【0065】
【表3】
【0066】
『確 認』
(1)実施例に係るタッチパネルフィルムにおいて、ITO層のパターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率は「6.54(%)」、ITO層の非パターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率は「6.56(%)」で、上記パターン部と非パターン部の波長450〜650nmにおける平均分光反射率差は0.05%以下の「0.02%」であることが表3に示されている。
【0067】
このため、実施例に係るタッチパネルフィルムにおいては透明導電層のパターン部と非パターン部の差が肉眼で目立たなくなっていることが確認される。
【0068】
(2)他方、比較例1に係るタッチパネルフィルムにおいて、ITO層のパターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率は「6.56(%)」、ITO層の非パターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率は「6.48(%)」で、上記パターン部と非パターン部の波長450〜650nmにおける平均分光反射率差は0.05%を超える「0.08%」になっており、また、比較例2に係るタッチパネルフィルムにおいて、ITO層のパターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率は「6.52(%)」、ITO層の非パターン部における波長450〜650nmの平均分光反射率は「6.63(%)」で、上記パターン部と非パターン部の波長450〜650nmにおける平均分光反射率差も0.05%を超える「0.11%」になっていることが表3に示されている。
【0069】
そして、ITO層のパターン部と非パターン部における反射率差が大きいため、比較例1〜2に係るタッチパネルフィルムにおいては透明導電層のパターン部と非パターン部の差が肉眼で目立っていることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係るタッチパネルフィルムによれば、透明導電層のパターン部と非パターン部における差が肉眼で目立たなくなっているため、高精細の液晶パネルや有機ELパネルと組み合わせて利用される産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3