(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6406375
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】凝集剤注入制御方法、制御装置および水処理システム
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20181004BHJP
C02F 1/52 20060101ALI20181004BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20181004BHJP
C02F 1/76 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
B01D21/30 A
C02F1/52 Z
C02F1/56 Z
C02F1/76 Z
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-47570(P2017-47570)
(22)【出願日】2017年3月13日
(65)【公開番号】特開2018-149495(P2018-149495A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2017年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 昭宏
【審査官】
目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/053051(WO,A1)
【文献】
特開2016−043327(JP,A)
【文献】
特開2014−054603(JP,A)
【文献】
特開2003−154206(JP,A)
【文献】
特開昭51−000164(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0213895(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/30
B01D21/01
C02F1/52−1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水にカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御方法において、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定し、測定された流動電位値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量を求め、この添加量にてカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加する凝集剤注入制御方法であって、
事前試験により凝集処理水の流動電位値の最適値と実際の凝集処理水の流動電位値との差から無機凝集剤の不足濃度Aを求め、
無機凝集剤の添加量をa・Aとし、該カチオン性高分子凝集剤の添加量をb・Aとすることを特徴とする凝集剤注入制御方法。
ただし、a=0.1〜0.9
b=0.001〜0.008
【請求項2】
請求項1において、測定された凝集処理水の流動電位値の誤差を補正するために、凝集処理水の流動電位値の測定前もしくは後に標準溶液の流動電位を測定し、標準溶液の流動電位値に基づいて、実際の凝集処理水の流動電位値を補正して補正値を得、凝集処理水の流動電位値の最適値と補正値との差から、無機凝集剤の不足濃度Aを算出することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【請求項3】
請求項2において、補正を次式で行うことを特徴とする凝集剤注入制御方法。
E2=E1×(R2/R1)
ただし、E1:凝集処理水の流動電位値(実測値)[mV]
E2:凝集処理水の流動電位値(補正値)[mV]
R1:標準液の流動電位値(事前の机上試験評価時)[mV]
R2:標準液の流動電位値(凝集処理水の流動電位測定前もしくは後)[mV]
【請求項4】
被処理水にカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御方法において、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定し、測定された流動電位値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量を求め、この添加量にてカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加する凝集剤注入制御方法であって、
凝集処理水の一部を測定容器にサンプリングして流動電位を測定し、
測定された流動電位値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量Bを滴定により計測し、
カチオン性高分子凝集剤の追加添加量をc・Bとし、無機凝集剤の追加添加量をd・Bとすることを特徴とする凝集剤注入制御方法。
ただし、c=0.1〜0.9
d=5〜90
【請求項5】
被処理水にカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御方法において、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定し、測定された流動電位値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量を求め、この添加量にてカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加する凝集剤注入制御方法であって、
被処理水を測定容器にサンプリングし、
測定された流動電位値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量Cを滴定により計測し、
カチオン性高分子凝集剤の添加量をe・Cとし、無機凝集剤の添加量をf・Cとすることを特徴とする凝集剤注入制御方法。
ただし、e=0.1〜0.9
f=5〜90
【請求項6】
被処理水にカチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御装置において、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定する流動電位計と、
該流動電位計の計測値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量をそれぞれ求める算出手段を有する凝集剤注入制御装置であって、
前記算出手段が、事前試験により求めた凝集処理水の流動電位値の最適値と制御流動電位の測定値との差から無機凝集剤の不足濃度Aを求める手段と、
無機凝集剤の添加量をa・Aとし、該カチオン性高分子凝集剤の添加量をb・Aとする手段と
を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
ただし、a=0.1〜0.9
b=0.001〜0.008
【請求項7】
請求項6において、前記算出手段は、凝集処理水の流動電位値の測定前もしくは後に標準溶液の流動電位を測定する測定手段と、
標準溶液の流動電位値に基づいて、測定された凝集処理水の流動電位値の補正値を得る手段と、
凝集処理水の流動電位値の最適値と補正値との差から、無機凝集剤の不足濃度Aを算出する手段と
を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項8】
被処理水にカチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御装置において、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定する流動電位計と、
該流動電位計の計測値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量をそれぞれ求める算出手段を有する凝集剤注入制御装置であって、
凝集処理水の一部を受け入れる測定容器と、
該測定容器に設けられた前記流動電位計と、該流動電位計の計測値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量Bを滴定により計測する手段と、
該カチオン性高分子凝集剤の追加添加量をc・Bとして算出し、無機凝集剤の追加添加量をd・Bとして算出する手段と
を備えたことを特徴とする凝集剤注入装置。
ただし、c=0.1〜0.9
d=5〜90
【請求項9】
被処理水にカチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御装置において、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定する流動電位計と、
該流動電位計の計測値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量をそれぞれ求める算出手段を有する凝集剤注入制御装置であって、
被処理水の一部を受け入れる測定容器と、
該測定容器に設けられた前記流動電位計と、
該流動電位計の計測値が負から0の値を示すまでに必要な該カチオン性高分子凝集剤の添加量Cを滴定により計測する手段と、
カチオン性高分子凝集剤の添加量をe・Cとして算出し、無機凝集剤の添加量をf・Cとして算出する手段と
を備えたことを特徴とする凝集剤注入制御装置。
ただし、e=0.1〜0.9
f=5〜90
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項において、凝集処理水中の凝集フロック間の空隙における濁度を計測するための、光散乱式微粒子センサ又は光遮断式微粒子センサを備えていることを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の凝集剤注入制御装置を有する水処理システムであって、
凝集処理水を固液分離する固液分離手段を有することを特徴とする水処理システム。
【請求項12】
請求項11において、被処理水のORP値の測定手段と、被処理水のORP値が300mV以上となるように、被処理水へ酸化剤を添加する添加手段とを有することを特徴とする水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業排水や工業用水等を凝集処理する際における、カチオン性高分子および無機凝集剤の最適な凝集剤量を決定するための制御方法及び装置に関する。また、本発明は、この制御装置を有する水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種排水・用水の前処理において、濁質および有機物を除去するために凝集処理が用いられている。凝集処理に用いられる凝集剤としては、塩化鉄やポリ塩化アルミニウムなどの鉄系凝集剤やアルミ系無機凝集剤が用いられることが一般的であるが、カチオン性高分子凝集剤を無機凝集剤と併用する凝集処理も行われる。こうした2種類の薬品を用いることで、凝集フロックの粗大化が生じ後段の固液分離操作が容易になるほか、無機凝集剤の添加量を抑えることによる汚泥発生量の削減が可能となる(特許文献1、2)。
【0003】
凝集剤の添加量は被処理水の水質に応じて適切な量を添加する必要がある。薬品量が不足すれば、被処理水中に含まれる濁質や有機物の除去が不十分となり、処理水質の悪化が起こる。一方、薬品量が過剰であれば薬品が後段へリークし、後段処理での負荷増大や汚染を引き起こす可能性がある。
【0004】
最適な薬品量を決定するためには、ジャーテストを行うことが一般的であるが、多大な手間を要し、被処理水の水質変動のたびにジャーテストを行うことは、実際の水処理において、変動に即時対応することができず、現実的ではない。凝集剤注入量の自動制御においては、被処理水の特定の水質、例えば、濁度や有機物濃度などに基づく制御が行われている(特許文献3、4)。また、凝集処理水の流動電流計の値を指標として、凝集剤注入量を制御する方法が報告されている(特許文献5)。
【0005】
凝集反応は一般的に、凝集剤による荷電中和により促進されるため、流動電位(流動電流)およびゼータ電位などを利用した界面動電現象に基づく測定を利用した方が、特定の水質項目に注目した制御に比べ、より広い範囲を対象とした被処理水に対し、制御が適用できるものと期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2938270号
【特許文献2】特許第6028826号
【特許文献3】特許第4746385号
【特許文献4】特許第5103747号
【特許文献5】特許第5349378号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3の制御においては、添加量の制御される薬品は1種に限られ、カチオン性高分子凝集剤と無機凝集剤の2種類の薬品を併用した二剤添加処理においては、各薬品の最適添加量までは算出することができない。
【0008】
本発明は、被処理水に対し、凝集剤として、カチオン性高分子および無機凝集剤の2種類の薬品を添加する系(二剤添加処理)において、2種類の薬品添加量をそれぞれ適切に制御する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次を要旨とする。
【0010】
[1] 被処理水にカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御方法であって、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定し、測定された流動電位値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量を求め、この添加量にてカチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤を添加することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【0011】
[2] [1]において、事前試験により凝集処理水の流動電位値の最適値と実際の凝集処理水の流動電位値との差から無機凝集剤の不足濃度Aを求め、
無機凝集剤の添加量をa・Aとし、該カチオン性高分子凝集剤の添加量をb・Aとすることを特徴とする凝集剤注入制御方法。
ただし、a=0.1〜0.9
b=0.001〜0.008
【0012】
[3] [2]において、測定された凝集処理水の流動電位値の誤差を補正するために、凝集処理水の流動電位値の測定前もしくは後に標準溶液の流動電位を測定し、標準溶液の流動電位値に基づいて、実際の凝集処理水の流動電位値を補正して補正値を得、凝集処理水の流動電位値の最適値と補正値との差から、無機凝集剤の不足濃度Aを算出することを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【0013】
[4] [3]において、補正を次式で行うことを特徴とする凝集剤注入制御方法。
【0014】
E2=E1×(R2/R1)
ただし、E1:凝集処理水の流動電位値(実測値)[mV]
E2:凝集処理水の流動電位値(補正値)[mV]
R1:標準液の流動電位値(事前の机上試験評価時)[mV]
R2:標準液の流動電位値(凝集処理水の流動電位測定前もしくは後)[mV]
【0015】
[5] [1]において、凝集処理水の一部を測定容器にサンプリングして流動電位を測定し、
測定された流動電位値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量Bを滴定により計測し、
カチオン性高分子凝集剤の追加添加量をc・Bとし、無機凝集剤の追加添加量をd・Bとすることを特徴とする凝集剤注入制御方法。
ただし、c=0.1〜0.9
d=5〜90
【0016】
[6] [1]において、被処理水を測定容器にサンプリングし、
測定された流動電位値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量Cを滴定により計測し、
カチオン性高分子凝集剤の添加量をe・Cとし、無機凝集剤の添加量をf・Cとすることを特徴とする凝集剤注入制御方法。
ただし、e=0.1〜0.9
f=5〜90
【0017】
[7] 被処理水にカチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤を添加し、固液分離を行う水処理システムにおける凝集剤注入制御装置であって、
被処理水、又は凝集剤を添加した凝集処理水の流動電位を測定する流動電位計と、
該流動電位計の計測値に基づき、上記カチオン性高分子凝集剤及び無機凝集剤の添加量をそれぞれ求める算出手段を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【0018】
[8] [7]において、前記算出手段が、事前試験により求めた凝集処理水の流動電位値の最適値と制御流動電位の測定値との差から無機凝集剤の不足濃度Aを求める手段と、
無機凝集剤の添加量をa・Aとし、該カチオン性高分子凝集剤の添加量をb・Aとする手段と
を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【0019】
[9] [8]において、前記算出手段は、凝集処理水の流動電位値の測定前もしくは後に標準溶液の流動電位を測定する測定手段と、
標準溶液の流動電位値に基づいて、測定された凝集処理水の流動電位値の補正値を得る手段と、
凝集処理水の流動電位値の最適値と補正値との差から、無機凝集剤の不足濃度Aを算出する手段と
を有することを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【0020】
[10] [7]において、凝集処理水の一部を受け入れる測定容器と、
該測定容器に設けられた前記流動電位計と、該流動電位計の計測値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の添加量を滴定により計測する手段と、
該カチオン性高分子凝集剤の追加添加量をc・Bとして算出し、無機凝集剤の追加添加量をd・Bとして算出する手段と
を備えたことを特徴とする凝集剤注入装置。
ただし、c=0.1〜0.9
d=5〜90
【0021】
[11] [7]において、被処理水の一部を受け入れる測定容器と、
該測定容器に設けられた前記流動電位計と、
該流動電位計の計測値が負から0の値を示すまでに必要な該カチオン性高分子の添加量Cを滴定により計測する手段と、
カチオン性高分子凝集剤の添加量をe・Cとして算出し、無機凝集剤の添加量をf・Cとして算出する手段と
を備えたことを特徴とする凝集剤注入制御装置。
ただし、e=0.1〜0.9
f=5〜90
【0022】
[12] [7]〜[11]のいずれかにおいて、凝集処理水中の凝集フロック間の空隙における濁度を計測するための、光散乱式微粒子センサ又は光遮断式微粒子センサを備えていることを特徴とする凝集剤注入制御装置。
【0023】
[13] [7]〜[12]のいずれかに記載の凝集剤注入制御装置を有する水処理システムであって、
凝集処理水を固液分離する固液分離手段を有することを特徴とする水処理システム。
【0024】
[14] [13]において、被処理水のORP値の測定手段と、被処理水のORP値が300mV以上となるように、被処理水へ酸化剤を添加する添加手段とを有することを特徴とする水処理システム。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、被処理水に対し、カチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤の2種類の凝集剤を添加する二剤添加処理において、被処理水の水質変動が起きた場合でも各凝集剤の適切な添加量を算出し、凝集不良による後段処理の汚染を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の形態に係る凝集剤注入制御装置の構成図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る凝集剤注入制御装置の構成図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る凝集剤注入制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0028】
図1は第1の実施の形態に係る制御装置を示す構成図である。原水は原水槽1に導入され、必要があれば、原水槽1に備えられたORP計2及び原水槽薬品注入制御装置4により、ORPが300mV以上になるよう酸化剤が添加される。酸化剤としては、次亜塩素酸塩や二酸化塩素化合物が使用できる。
【0029】
凝集剤添加前にpHを一定に調整する必要がある場合は、原水槽1にpH計3を設置し、原水槽1の前段にpH調整槽1aを設ける形態を取っても良い。pH調整剤として、水酸化ナトリウム、消石灰、塩酸、硫酸などを用いることができる。
【0030】
原水槽1内の原水は次いで、凝集槽5に導入されるが、一部がサンプリングセル6に導入される。サンプリングセル6では、一定体積の原水が封入され、滴定装置7によってカチオン性高分子凝集剤溶液による滴定を行うことで、流動電位計8の計測値が負から0の値を示すまでに必要なカチオン性高分子凝集剤の濃度(添加量)を計測することができる。なお、滴定を行う前に、一定時間原水をサンプリングセル6に通水したのち、サンプリングセル6の原水側に取り付けたバルブ9で流れを一旦停止するストップトフロー方式を採用することが望ましい。
【0031】
滴定に用いるカチオン性高分子凝集剤は、凝集剤として用いるカチオン性高分子凝集剤と同じものを用いることが望ましい。
【0032】
また、流動電位計8の測定部およびサンプリングセル6内を定期的に洗浄できるよう、サンプリングセル6に洗浄液を導入できるようにしておくことが望ましい。洗浄液としては、被処理水の水質に応じ、酸、アルカリ、酸化剤の1種または2種以上を使用することが望ましい。
【0033】
凝集槽5では、カチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤の2種類の薬品に加え、凝集処理水のpHを一定に調整するためのpH調整剤が凝集剤注入制御装置10によって添加される。
【0034】
用いられるカチオン性高分子凝集剤としては、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル)、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート塩化ベンジル四級塩、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ(メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル)、ポリ(2−ビニル−1−メチルピリニジウム)、ジアルキルアミン‐エピクロルヒドリン重縮合物、ポリリジン、キトサン、ジエチルアミノエチルデキストランなどが挙げられる。無機凝集剤としては塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの鉄系無機凝集剤や塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなどのアルミ系無機凝集剤が挙げられる。2種類以上のカチオン性高分子凝集剤の混合物を凝集剤として用いても良いし、2種類以上の無機凝集剤の混合物を無機凝集剤として用いても良い。
【0035】
カチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤の添加量は、前述の滴定により求めたカチオン性高分子凝集剤の濃度より算出される(詳細は後述)。カチオン性高分子凝集剤と無機凝集剤は図示の通り別々の凝集槽5,11に添加しても良いし、図示は省略するが同一の凝集槽に添加しても良い。添加順序については、どちらを先に添加しても良く、同時に添加しても良い。
【0036】
pH計12で検出される凝集槽11内のpHが所定pHとなるようにpH調整剤が添加される。
【0037】
凝集槽5内の凝集処理水は次いで凝集センサ槽13に導入される。凝集センサ槽13は、微粒子センサ14を備えている。微粒子センサ14としては、凝集フロックの空隙の濁度を測定するための、レーザー光を放射するための発光器と、散乱したレーザー光を検出するためのプローブを備えた光散乱式微粒子センサ(例えば特許第3925621号に記載のものなど)又は光遮断式微粒子センサなどを用いることができる。
【0038】
微粒子センサ14で計測された凝集フロックの空隙の濁度が上昇した場合は、水質変動に対する凝集剤二剤の添加量の不足あるいは過剰、または、カチオン性高分子凝集剤と無機凝集剤の添加量の比率が不適切な場合のいずれかの理由で凝集の不良が生じていると考えられる。
【0039】
なお、流動電位計8の計測値に基づく凝集剤添加量の自動調節は、定期的な間隔で実施するよう設定しても良いし、あるいは/かつ、微粒子センサ14で計測した凝集フロックの空隙の濁度の上昇時に実施するよう設定しても良い。
【0040】
凝集センサ槽13内の凝集処理水は処理水ポンプ15を介して、固液分離処理設備へ送水される。固液分離処理としては、膜分離処理、砂ろ過処理、沈殿処理、加圧浮上処理が挙げられる。
【0041】
流動電位計8で求めた滴定値から、カチオン性高分子凝集剤および無機凝集剤の添加量をそれぞれ算出する方法は例えば
図2のような結果から求めることができる。
【0042】
図2はカチオン性高分子凝集剤の添加濃度と流動電位値の関係の一例を示した滴定曲線である。例えば、荷電中和に必要な滴定量(C)は、流動電位値が0mVに達したときのカチオン性高分子凝集剤の添加濃度(ここでは約5mg/L)である。
【0043】
無機凝集剤の添加量は、被処理水の水質および使用する無機凝集剤の種類にもよるが、Cより多く、好ましくはCの5〜90倍(すなわちC×5〜C×90)特に10〜50倍の範囲内になるよう調整設定することが望ましい。カチオン性高分子凝集剤の添加量は、被処理水の水質および使用するカチオン性高分子凝集剤の種類にもよるが、Cより少なく、好ましくはCの0.1〜0.9倍(すなわちC×0.1〜C×0.9)特に0.5〜0.9倍の範囲内になるよう調整設定することが望ましい。
【0044】
図3は本発明の別の実施の形態に係る凝集剤注入制御装置の構成の概略図である。
【0045】
図3の制御装置は、
図1のフィードフォワード制御をフィードバック制御に変更したものである。すなわち、サンプリングセル6は、凝集センサ槽13からの凝集処理水の一部を受け入れ、測定後の水を凝集センサ槽13に戻すように設置されている。
【0046】
このサンプリングセル6には流動電位計8が設けられている。前記と同様のカチオン性高分子凝集剤を用いた滴定により、現在の薬品注入量から不足した分の凝集剤量を計測することができる。なお、サンプリングセル6は、凝集槽11からの凝集処理水を導入するように設置されてもよく、固液分離装置の後段に設置して固液分離処理水を導入しても良い。
【0047】
流動電位計8から得られた荷電中和に必要な滴定量(B)から、無機凝集剤の追加添加量は、被処理水の水質および使用する無機凝集剤の種類にもよるが、Bよりも多く、好ましくはBの5〜90倍(すなわちB×5〜B×90)好ましくはBの10〜50倍の範囲内になるよう調整設定することが望ましい。また、カチオン性高分子凝集剤の追加添加量は、被処理水の水質および使用するカチオン性高分子凝集剤の種類にもよるが、Bよりも少なく、好ましくはBの0.1〜0.9倍(すなわちB×0.1〜B×0.9)好ましくはBの0.5〜0.9倍の範囲内になるよう調整設定することが望ましい。
【0048】
なお、被処理水の水質にもよるが、Bの滴定値が、0.1mg/L未満であった場合は、カチオン性高分子凝集剤と無機凝集剤の添加量をそれぞれ5%以下の範囲で削減するよう設定することが望ましい。
【0049】
図4はさらに別の実施の形態に係る制御装置を示している。
図4の制御装置は、
図3の構成からサンプリングセル6での滴定装置を不要としたものであり、凝集処理水の流動電位値の最適値を事前評価により求めておく必要がある。
図4では、
図3と同様にサンプリングセル6は凝集センサ槽13から凝集処理水を受け入れるように設置されているが、
図3の場合と同様に、サンプリングセル6は、凝集槽11から凝集処理水を導入してもよく、固液分離装置の後段に設置して固液分離処理水を導入しても良い。ただし、固液分離処理水を導入する場合は、固液分離処理水の流動電位値の最適値を事前評価により求めておく必要がある。
【0050】
凝集処理水の流動電位値の最適値は、例えば
図5のような結果から最適値を求めることができる。
【0051】
図5は事前の机上試験にて評価した、無機凝集剤添加量と流動電位値、凝集処理水水質の関係を示しており、凝集処理水水質はMFF値で表されている。
【0052】
MFF値の測定方法は次の通りである。MF膜を吸引ろ過装置にセットし、−67kPaの減圧下で溶解性高分子物質および微粒子フリーの基準水150mLの透過時間T0を測定した後に、測定試料(150mL)の1回目通水時間T1、2回目通水時間T2を測定する。MFF値=T2/T1である。
【0053】
MFFの値が良好となったとき、流動電位は特定の値を示しており、この値が凝集処理水の流動電位値の最適値である(ここでは約−300mV)。このような無機凝集剤添加量と流動電位値の相関図を凝集制御装置に記録しておき、実際の凝集処理水の流動電位値が示す無機凝集剤濃度と流動電位値が最適値となる無機凝集剤濃度(ここでは約200mg/L)の差から、無機凝集剤の不足濃度(A)を算出する。
【0054】
無機凝集剤の追加添加量は、被処理水の水質および使用する無機凝集剤の種類にもよるが、Aの0.1〜0.9倍(すなわちA×0.1〜A×0.9)好ましくはAの0.2〜0.5倍の範囲内になるよう調整設定することが望ましい。また、カチオン性高分子凝集剤の追加添加量は、被処理水の水質および使用するカチオン性高分子凝集剤の種類にもよるが、Aの0.001〜0.008倍(すなわちA×0.001〜A×0.008)好ましくはAの0.005〜0.008倍の範囲内になるよう調整設定することが望ましい。
【0055】
なお、実際の凝集処理水の流動電位値が凝集処理水の流動電位値の最適値よりも高くなった場合は、カチオン性高分子凝集剤が過剰となっている可能性が高いため、凝集剤添加量の設定値の見直しを行う必要がある。
【0056】
図4の構成における流動電位計8のオンライン計測における問題点は、被処理水中に含まれる濁質や有機物、添加した凝集剤などにより流動電位計8の測定部が汚れることで、流動電位値の絶対値が正確に計測できないところにある。測定毎に洗浄を行う方法も考えられるが、洗浄液の消費量は増大すること、洗浄の間は計測が行えないなどの問題が新たに生じる。
【0057】
この問題を解決するため、標準液の流動電位値を測定し、実測値を補正する手法を以下に示す。標準液としては、電気伝導性を持たせるために低濃度の塩やpH緩衝剤を溶解した溶液に、ポリスチレンラテックス粒子あるいはシリカ粒子などを加えた分散液が使用できる。粒子の大きさは、粒子の沈降が生じないよう、粒子径数百nm以下のコロイド粒子であることが望ましい。
【0058】
補正のための換算式は以下の通りである。
E2=E1×(R2/R1)
ここで、
E1:凝集処理水の流動電位値(実測値)[mV]
E2:凝集処理水の流動電位値(補正値)[mV]
R1:標準液の流動電位値(事前の机上試験評価時)[mV]
R2:標準液の流動電位値(凝集処理水の流動電位測定前もしくは後)[mV]
【実施例】
【0059】
<試験方法>
以下の実施例及び比較例で用いた試験被処理水、試薬は以下の通りである。
試験被処理水:工場排水の生物処理水(ORP:100〜200mV)
カチオン性高分子:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)
無機凝集剤:塩化第二鉄(38%)
酸化剤:次亜塩素酸ナトリウム
【0060】
[実施例1]
図1に示した凝集剤注入制御システムの構成にて、原水槽のORPが325±25 mVの範囲に収まるよう、原水槽へ酸化剤を添加し、凝集剤添加量の自動調節値の設定は、
カチオン性高分子:C×0.8[mg/L]
無機凝集剤:C×8[mg/L]
として凝集処理を行った。得られた凝集処理水のMFF値の経時変化を測定した。
【0061】
[比較例1]
図1に示したシステム構成にて、凝集剤添加量の自動調節を行わず、カチオン性高分子の添加量を0.5mg/L、無機凝集剤の添加量を50mg/Lの定量注入とした。その他は実施例1と同様である。
【0062】
実施例1及び比較例1の結果を
図6に示す。時間経過による被処理水の水質変動により滴定量C値も同様に変動しており、比較例1では水質変動とともに凝集処理水質が悪化した。一方、実施例1ではC値を基準として2種類の凝集剤添加量を自動調節することで、凝集処理水質の悪化はほとんど見られず、かつ、変動しなかった。
【0063】
[実施例2]
図1に示したシステム構成にて、原水槽のORPが325±25mVの範囲に収まるよう、原水槽へ酸化剤を添加し、凝集剤添加量の自動調節値の設定は、
カチオン性高分子:C×0.2[mg/L]
無機凝集剤:C×30[mg/L]
として凝集処理を行った。
また、システム後段の固液分離処理として膜分離処理(PVDF、孔径0.02μm、運転条件:運転Flux(透過流束)4m/D、逆洗間隔 28 min)を行い、膜間差圧の上昇速度を測定した。
【0064】
[比較例2]
図1に示したシステム構成にて、原水槽へ酸化剤を添加せず、凝集処理を行った。その他は実施例2と同様である。
【0065】
実施例2及び比較例2の結果を表1に示す。実施例2では原水槽へ酸化剤を添加したこ
とにより、C値が比較例2に比べ低下していた。これは、被処理水の酸化による改質によ
るものと思われる。また、差圧上昇速度は実施例2の方が低く、良好な凝集処理水が得られていることが分かった。このことから、流動電位計を用いて二種類の剤の添加量を自動調節しても、原水槽のORPが一定値以上に調節されていないと、凝集制御が十分に行えないことが明らかとなった。
【0066】
【表1】
【0067】
[実施例3]
図1に示したシステム構成にて、システム後段の固液分離処理として膜分離処理(PVDF、孔径0.02μm、運転条件:運転Flux2〜4m/D、逆洗間隔 10〜28 min)を行った。また、凝集センサ槽に備えられた光散乱式微粒子センサにより、連続通水中の凝集処理水中の凝集フロックの空隙の濁度(フロック間濁度)と膜間差圧の上昇速度の関係を測定した。
【0068】
結果を
図7に示す。フロック間濁度が上昇すると差圧上昇速度も高くなり、強い相関が見られることが分かった。フロック間濁度の上昇は、被処理水の水質が急激に変動し、凝集不良の発生が生じたか、あるいは、被処理水の水質が極めて大幅に変動し、流動電位計で測定した値(A、B、Cの値)に対する、2種類の凝集剤の自動添加量の調整設定が不適切となったことが原因と考えられる。
【0069】
従って、フロック間濁度が一定値以上に上昇した際に、流動電位計の計測による凝集剤添加量の自動調節を行うように設定する方法や、2種類の凝集剤の自動添加量の調整設定を新たな値に設定し直す方法が考えられる。このように。凝集センサ槽に備えられた粒子センサにより、凝集不良が生じていないか確認する警報センサとして利用することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1 原水槽
5,11 凝集槽
6 サンプリングセル
13 凝集センサ槽