(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0013】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0014】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常は製造ラインにおけるフィルム搬送方向と平行である。また、MD方向(mashine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの搬送方向であり、通常は長尺のフィルムの長手方向と平行である。さらに、TD方向(traverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、前記MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向と平行である。
【0015】
[1.樹脂フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂からなる樹脂フィルムである。以下の説明において、前記の樹脂を「結晶性樹脂」ということがある。結晶性樹脂に含まれる重合体の結晶化度は30%以上である。また、本発明の樹脂フィルムは、厚みムラTvが5%以下である。厚みムラTvについては後述する。そして、本発明の樹脂フィルムは、上記のような特徴を有することにより、耐屈曲性に優れる。
【0016】
〔1.1.結晶性樹脂〕
結晶性樹脂は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む。ここで、脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体であって、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物をいう。また、脂環式構造を含有する重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
脂環式構造を含有する重合体が有する脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0018】
脂環式構造を含有する重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を含有する重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。
また、脂環式構造を含有する重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0019】
結晶性樹脂に含まれる脂環式構造を含有する重合体は、結晶性を有する。ここで、「脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する〔すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる〕脂環式構造を含有する重合体をいう。脂環式構造を含有する重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する脂環式構造を含有する重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた樹脂フィルムを得ることができる。
【0020】
脂環式構造を含有する重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する脂環式構造を含有する重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0021】
脂環式構造を含有する重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する脂環式構造を含有する重合体は、成形加工性に優れる。
脂環式構造を含有する重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0022】
脂環式構造を含有する重合体のガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
【0023】
前記の脂環式構造を含有する重合体としては、例えば、下記の重合体(α)〜重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物等であって、結晶性を有するもの。
【0024】
具体的には、脂環式構造を含有する重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。脂環式構造を含有する重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0025】
以下、重合体(α)及び重合体(β)の製造方法を説明する。
重合体(α)及び重合体(β)の製造に用いうる環状オレフィン単量体は、炭素原子で形成された環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。環状オレフィン単量体の例としては、ノルボルネン系単量体等が挙げられる。また、重合体(α)が共重合体である場合には、環状オレフィン単量体として、単環の環状オレフィンを用いてもよい。
【0026】
ノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を含む単量体である。ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:エチリデンノルボルネン)及びその誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)等の、2環式単量体;トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)及びその誘導体等の、3環式単量体;7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセン及びその誘導体等の、4環式単量体;などが挙げられる。
【0027】
前記の単量体において置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;プロパン−2−イリデン等のアルキリデン基;フェニル基等のアリール基;ヒドロキシ基;酸無水物基;カルボキシル基;メトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;などが挙げられる。また、前記の置換基は、1種類を単独で有していてもよく、2種類以上を任意の比率で有していてもよい。
【0028】
単環の環状オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の環状モノオレフィン;シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエン等の環状ジオレフィン;等が挙げられる。
【0029】
環状オレフィン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。環状オレフィン単量体を2種以上用いる場合、重合体(α)は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0030】
環状オレフィン単量体には、エンド体及びエキソ体の立体異性体が存在するものがありうる。環状オレフィン単量体としては、エンド体及びエキソ体のいずれを用いてもよい。また、エンド体及びエキソ体のうち一方の異性体のみを単独で用いてもよく、エンド体及びエキソ体を任意の割合で含む異性体混合物を用いてもよい。中でも、脂環式構造を含有する重合体の結晶性が高まり、耐熱性により優れる樹脂フィルムが得られ易くなることから、一方の立体異性体の割合を高くすることが好ましい。例えば、エンド体又はエキソ体の割合が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。また、合成が容易であることから、エンド体の割合が高いことが好ましい。
【0031】
重合体(α)及び重合体(β)は、通常、そのシンジオタクチック立体規則性の度合い(ラセモ・ダイアッドの割合)を高めることで、結晶性を高くすることができる。重合体(α)及び重合体(β)の立体規則性の程度を高くする観点から、重合体(α)及び重合体(β)の構造単位についてのラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合の上限は、100%以下としうる。
【0032】
ラセモ・ダイアッドの割合は、
13C−NMRスペクトル分析により、測定しうる。具体的には、下記の方法により測定しうる。
オルトジクロロベンゼン−d
4を溶媒として、200℃で、inverse−gated decoupling法を適用して、重合体試料の
13C−NMR測定を行う。この
13C−NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン−d
4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルを同定する。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体試料のラセモ・ダイアッドの割合を求めうる。
【0033】
重合体(α)の合成には、通常、開環重合触媒を用いる。開環重合触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。このような重合体(α)の合成用の開環重合触媒としては、環状オレフィン単量体を開環重合させ、シンジオタクチック立体規則性を有する開環重合体を生成させうるものが好ましい。好ましい開環重合触媒としては、下記式(7)で示される金属化合物を含むものが挙げられる。
【0034】
M(NR
1)X
4−a(OR
2)
a・L
b (7)
(式(7)において、
Mは、周期律表第6族の遷移金属原子からなる群より選択される金属原子を示し、
R
1は、3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は、−CH
2R
3(R
3は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示す。)で表される基を示し、
R
2は、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示し、
Xは、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、及び、アルキルシリル基からなる群より選択される基を示し、
Lは、電子供与性の中性配位子を示し、
aは、0又は1の数を示し、
bは、0〜2の整数を示す。)
【0035】
式(7)において、Mは、周期律表第6族の遷移金属原子からなる群より選択される金属原子を示す。このMとしては、クロム、モリブデン及びタングステンが好ましく、モリブデン及びタングステンがより好ましく、タングステンが特に好ましい。
【0036】
式(7)において、R
1は、3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は、−CH
2R
3で表される基を示す。
R
1の、3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の炭素原子数は、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜15である。また、前記置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;などが挙げられる。これらの置換基は、1種類を単独で有していてもよく、2種類以上を任意の比率で有していてもよい。さらに、R
1において、3位、4位及び5位の少なくとも2つの位置に存在する置換基が互いに結合し、環構造を形成していてもよい。
【0037】
3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基としては、例えば、無置換フェニル基;4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−メトキシフェニル基等の一置換フェニル基;3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基等の二置換フェニル基;3,4,5−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリクロロフェニル基等の三置換フェニル基;2−ナフチル基、3−メチル−2−ナフチル基、4−メチル−2−ナフチル基等の置換基を有していてもよい2−ナフチル基;等が挙げられる。
【0038】
R
1の、−CH
2R
3で表される基において、R
3は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示す。
R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基の炭素原子数は、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10である。このアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。さらに、前記置換基としては、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;等が挙げられる。これらの置換基は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ベンジル基、ネオフィル基等が挙げられる。
【0039】
R
3の、置換基を有していてもよいアリール基の炭素原子数は、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜15である。さらに、前記置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。これらの置換基は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
R
3の、置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、R
3で表される基としては、炭素原子数が1〜20のアルキル基が好ましい。
【0041】
式(7)において、R
2は、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示す。R
2の、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基としては、それぞれ、R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。
【0042】
式(7)において、Xは、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、及び、アルキルシリル基からなる群より選択される基を示す。
Xのハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
Xの、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基としては、それぞれ、R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。
Xのアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
式(7)で示される金属化合物が1分子中に2以上のXを有する場合、それらのXは、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、2以上のXが互いに結合し、環構造を形成していてもよい。
【0043】
式(7)において、Lは、電子供与性の中性配位子を示す。
Lの電子供与性の中性配位子としては、例えば、周期律表第14族又は第15族の原子を含有する電子供与性化合物が挙げられる。その具体例としては、トリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ルチジン等のアミン類;等が挙げられる。これらの中でも、エーテル類が好ましい。また、式(7)で示される金属化合物が1分子中に2以上のLを有する場合、それらのLは、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0044】
式(7)で示される金属化合物としては、フェニルイミド基を有するタングステン化合物が好ましい。即ち、式(7)において、Mがタングステン原子であり、且つ、R
1がフェニル基である化合物が好ましい。さらに、その中でも、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体がより好ましい。
【0045】
式(7)で示される金属化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、特開平5−345817号公報に記載されるように、第6族遷移金属のオキシハロゲン化物;3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニルイソシアナート類又は一置換メチルイソシアナート類;電子供与性の中性配位子(L);並びに、必要に応じて、アルコール類、金属アルコキシド及び金属アリールオキシド;を混合することにより、式(7)で示される金属化合物を製造することができる。
【0046】
前記の製造方法では、式(7)で示される金属化合物は、通常、反応液に含まれた状態で得られる。金属化合物の製造後、前記の反応液をそのまま開環重合反応の触媒液として用いてもよい。また、結晶化等の精製処理により、金属化合物を反応液から単離及び精製した後、得られた金属化合物を開環重合反応に供してもよい。
【0047】
開環重合触媒は、式(7)で示される金属化合物を単独で用いてもよく、式(7)で示される金属化合物を他の成分と組み合わせて用いてもよい。例えば、式(7)で示される金属化合物と有機金属還元剤とを組み合わせて用いることで、重合活性を向上させることができる。
【0048】
有機金属還元剤としては、例えば、炭素原子数1〜20の炭化水素基を有する周期律表第1族、第2族、第12族、第13族又は14族の有機金属化合物が挙げられる。このような有機金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、フェニルリチウム等の有機リチウム;ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド等の有機マグネシウム;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等の有機亜鉛;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジイソブトキシド等の有機アルミニウム;テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ;等が挙げられる。これらの中でも、有機アルミニウム又は有機スズが好ましい。また、有機金属還元剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0049】
開環重合反応は、通常、有機溶媒中で行われる。有機溶媒は、開環重合体及びその水素化物を、所定の条件で溶解もしくは分散させることが可能であり、かつ、開環重合反応及び水素化反応を阻害しないものを用いうる。このような有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;これらを組み合わせた混合溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒としては、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、エーテル類が好ましい。また、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
開環重合反応は、例えば、環状オレフィン単量体と、式(7)で示される金属化合物と、必要に応じて有機金属還元剤とを混合することにより、開始させることができる。これらの成分を混合する順序は、特に限定されない。例えば、環状オレフィン単量体を含む溶液に、式(7)で示される金属化合物及び有機金属還元剤を含む溶液を混合してもよい。また、有機金属還元剤を含む溶液に、環状オレフィン単量体及び式(7)で示される金属化合物を含む溶液を混合してもよい。さらに、環状オレフィン単量体及び有機金属還元剤を含む溶液に、式(7)で示される金属化合物の溶液を混合してもよい。各成分を混合する際は、それぞれの成分の全量を一度に混合してもよいし、複数回に分けて混合してもよい。また、比較的に長い時間(例えば1分間以上)にわたって連続的に混合してもよい。
【0051】
開環重合反応の開始時における反応液中の環状オレフィン単量体の濃度は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。環状オレフィン単量体の濃度を前記範囲の下限値以上にすることにより、生産性を高くできる。また、上限値以下にすることにより、開環重合反応後の反応液の粘度を低くできるので、その後の水素化反応を容易に行うことができる。
【0052】
開環重合反応に用いる式(7)で示される金属化合物の量は、「金属化合物:環状オレフィン単量体」のモル比が、所定の範囲の収まるように設定することが望ましい。具体的には、前記のモル比は、好ましくは1:100〜1:2,000,000、より好ましくは1:500〜1,000,000、特に好ましくは1:1,000〜1:500,000である。金属化合物の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、十分な重合活性を得ることができる。また、上限値以下にすることにより、反応後に金属化合物を容易に除去できる。
【0053】
有機金属還元剤の量は、式(7)で示される金属化合物1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.2モル以上、特に好ましくは0.5モル以上であり、好ましくは100モル以下、より好ましくは50モル以下、特に好ましくは20モル以下である。有機金属還元剤の量を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合活性を十分に高くできる。また、上限値以下にすることにより、副反応の発生を抑制することができる。
【0054】
重合体(α)の重合反応系は、活性調整剤を含んでいてもよい。活性調整剤を用いることで、開環重合触媒を安定化したり、開環重合反応の反応速度を調整したり、重合体の分子量分布を調整したりできる。
活性調整剤としては、官能基を有する有機化合物を用いうる。このような活性調整剤としては、例えば、含酸素化合物、含窒素化合物、含リン有機化合物等が挙げられる。
【0055】
含酸素化合物としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、フラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エチルアセテート等のエステル類;等が挙げられる。
含窒素化合物としては、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、キヌクリジン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類;ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、2−t−ブチルピリジン等のピリジン類;等が挙げられる。
含リン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート等のホスフィン類;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;等が挙げられる。
【0056】
活性調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
重合体(α)の重合反応系における活性調整剤の量は、式(7)で示される金属化合物100モル%に対して、好ましくは0.01モル%〜100モル%である。
【0057】
重合体(α)の重合反応系は、重合体(α)の分子量を調整するために、分子量調整剤を含んでいてもよい。分子量調整剤としては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート等の酸素含有ビニル化合物;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン;等が挙げられる。
【0058】
分子量調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
重合体(α)を重合するための重合反応系における分子量調整剤の量は、目的とする分子量に応じて適切に決定しうる。分子量調整剤の具体的な量は、環状オレフィン単量体に対して、好ましくは0.1モル%〜50モル%の範囲である。
【0059】
重合温度は、好ましくは−78℃以上、より好ましくは−30℃以上であり、好ましくは+200℃以下、より好ましくは+180℃以下である。
重合時間は、反応規模に依存しうる。具体的な重合時間は、好ましくは1分間から1000時間の範囲である。
【0060】
上述した製造方法により、重合体(α)が得られる。この重合体(α)を水素化することにより、重合体(β)を製造することができる。
重合体(α)の水素化は、例えば、常法に従って水素化触媒の存在下で、重合体(α)を含む反応系内に水素を供給することによって行うことができる。この水素化反応において、反応条件を適切に設定すれば、通常、水素化反応により水素化物のタクチシチーが変化することはない。
【0061】
水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化触媒として公知の均一系触媒及び不均一触媒を用いうる。
均一系触媒としては、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の、遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドリドカルボニルビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
不均一触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の金属触媒;ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、前記金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させてなる固体触媒が挙げられる。
水素化触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0062】
水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で行われる。不活性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環族炭化水素類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。不活性有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、不活性有機溶媒は、開環重合反応に用いた有機溶媒と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、開環重合反応の反応液に水素化触媒を混合して、水素化反応を行ってもよい。
【0063】
水素化反応の反応条件は、通常、用いる水素化触媒によっても異なる。
水素化反応の反応温度は、好ましくは−20℃以上、より好ましくは−10℃以上、特に好ましくは0℃以上であり、好ましくは+250℃以下、より好ましくは+220℃以下、特に好ましくは+200℃以下である。反応温度を前記範囲の下限値以上にすることにより、反応速度を速くできる。また、上限値以下にすることにより、副反応の発生を抑制できる。
【0064】
水素圧力は、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上、特に好ましくは0.1MPa以上であり、好ましくは20MPa以下、より好ましくは15MPa以下、特に好ましくは10MPa以下である。水素圧力を前記範囲の下限値以上にすることにより、反応速度を速くできる。また、上限値以下にすることにより、高耐圧反応装置等の特別な装置が不要となり、設備コストを抑制できる。
【0065】
水素化反応の反応時間は、所望の水素化率が達成される任意の時間に設定してもよく、好ましくは0.1時間〜10時間である。
水素化反応後は、通常、常法に従って、重合体(α)の水素化物である重合体(β)を回収する。
【0066】
水素化反応における水素化率(水素化された主鎖二重結合の割合)は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。水素化率が高くなるほど、脂環式構造を含有する重合体の耐熱性を良好にできる。水素化率の上限は、100%以下としうる。
ここで、重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン−d
4を溶媒として、145℃で、
1H−NMR測定により測定しうる。
【0067】
次に、重合体(γ)及び重合体(δ)の製造方法を説明する。
重合体(γ)及び(δ)の製造に用いる環状オレフィン単量体としては、重合体(α)及び重合体(β)の製造に用いうる環状オレフィン単量体として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。また、環状オレフィン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
重合体(γ)の製造においては、単量体として、環状オレフィン単量体に組み合わせて、環状オレフィン単量体と共重合可能な任意の単量体を用いうる。任意の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素原子数2〜20のα−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香環ビニル化合物;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ジエン;等が挙げられる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
環状オレフィン単量体と任意の単量体との量の割合は、重量比(環状オレフィン単量体:任意の単量体)で、好ましくは30:70〜99:1、より好ましくは50:50〜97:3、特に好ましくは70:30〜95:5である。
【0070】
環状オレフィン単量体を2種以上用いる場合、及び、環状オレフィン単量体と任意の単量体を組み合わせて用いる場合は、重合体(γ)は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0071】
重合体(γ)の合成には、通常、付加重合触媒を用いる。このような付加重合触媒としては、例えば、バナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物から形成されるバナジウム系触媒、チタン化合物及び有機アルミニウム化合物から形成されるチタン系触媒、ジルコニウム錯体及びアルミノオキサンから形成されるジルコニウム系触媒等が挙げられる。また、付加重合体触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
付加重合触媒の量は、単量体1モルに対して、好ましくは0.000001モル以上、より好ましくは0.00001モル以上であり、好ましくは0.1モル以下、より好ましくは0.01モル以下である。
【0073】
環状オレフィン単量体の付加重合は、通常、有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、環状オレフィン単量体の開環重合に用いうる有機溶媒として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。また、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
重合体(γ)を製造するための重合における重合温度は、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−30℃以上、特に好ましくは−20℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下である。また、重合時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上であり、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0075】
上述した製造方法により、重合体(γ)が得られる。この重合体(γ)を水素化することにより、重合体(δ)を製造することができる。
重合体(γ)の水素化は、重合体(α)を水素化する方法として先に示したものと同様の方法により、行いうる。
【0076】
結晶性樹脂において、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、本発明の樹脂フィルムの耐熱性を高めることができる。脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体の割合の上限は、100重量%以下としうる。
【0077】
結晶性樹脂に含まれる脂環式構造を含有する重合体は、本発明の樹脂フィルムを製造するよりも前においては、結晶化していなくてもよい。しかし、本発明の樹脂フィルムが製造された後においては、当該樹脂フィルムを形成する結晶性樹脂が含む脂環式構造を含有する重合体は、通常、結晶化していることにより、高い結晶化度を有することができる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。樹脂フィルムに含まれる脂環式構造を含有する重合体の結晶化度を前記範囲の下限値以上にすることにより、樹脂フィルムに高い耐熱性や耐薬品性を付与することができる。
樹脂フィルムに含まれる脂環式構造を含有する重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0078】
結晶性樹脂は、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー、及び、軟質重合体等の、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
〔1.2.樹脂フィルムの物性〕
(樹脂フィルムの耐屈曲性)
本発明の樹脂フィルムは、上述した結晶性樹脂からなる。結晶性樹脂からなる従来の樹脂フィルムでは、一般に、耐屈曲性に十分には優れていない傾向があった。しかし、本発明の樹脂フィルムは、脂環式構造を含有する結晶化度が30%以上の重合体を含む樹脂でありながら、十分に優れた耐屈曲性を有する。ここで、耐屈曲性は、実施例の欄中の評価項目で説明するような方法で測定した破断屈曲回数で評価しうる。具体的には、破断屈曲回数が100千回以上の場合に耐屈曲性に十分に優れていると評価することができ、破断屈曲回数が200千回以上の場合に耐屈曲性に特に優れていると評価することができる。そして、本発明の樹脂フィルムは、上述のとおり十分に優れた耐屈曲性を有するので、光学フィルムの用途、並びに、導電性フィルム及びバリアフィルムの用途にも適したものとなる。
【0080】
(樹脂フィルムの結晶化度)
本発明の樹脂フィルムに含まれる重合体の結晶化度は、30%以上、好ましくは35%以上である。結晶化度の上限は、特に限定されず、従って100%以下としうるが、好ましくは85%以下である。重合体の結晶化度が前記下限以上であることにより、高い強度を得ることができる。重合体の結晶化度が前記上限以下であることにより、良好な耐屈曲性をより容易に達成しうる。
【0081】
(樹脂フィルムの厚みムラTv)
そして、上述のように耐屈曲性に十分に優れていると評価されるような本発明の樹脂フィルムは、当該樹脂フィルムの厚みムラTvが5%以下であり、好ましくは、4%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、また、理想的には厚みムラTvは0%であるが下限を0%超としてもよい。
【0082】
ここで、上記厚みムラTvは、下記式(8)に、樹脂フィルムの厚みの最大値Tmax、樹脂フィルムの厚みの最小値Tmin、及び、樹脂フィルムの厚みの平均値Taveを代入することによって求められる。
Tv[%]=[(Tmax−Tmin)/Tave]×100 (8)
【0083】
上記の最大値Tmax、最小値Tmin、及び、平均値Taveは、以下のようにして測定される。以下のようにして厚みを測定することで、樹脂フィルムの局所的な指標ではない、樹脂フィルムの全体的な指標としての、厚みムラTv及び厚みを評価することができる。
まず、樹脂フィルムの厚みの測定対象領域を樹脂フィルムの面上に定める。具体的には、樹脂フィルムの4辺(長辺及び短辺)の長さがいずれも1m以下の枚葉のフィルムの場合、フィルム面全体を測定対象領域とし、樹脂フィルムの4辺(長辺及び短辺)の長さのいずれかもしくはいずれもが1mを超える枚葉のフィルム又は長尺のフィルムの場合、フィルム面に含まれる短辺の長さ×短辺の長さのサイズの任意の領域を測定対象領域とする。
次に、上述のように定めた測定対象領域内で、樹脂フィルムの厚みの測定箇所を少なくとも30点定める。これら測定箇所は、フィルム面上において上記測定対象領域の外縁側に分布する測定箇所を直線で結んで形成される多角形の面積が、測定対象領域の70%以上を占めるようにする。ただし、外縁側に分布する測定箇所は、互いに隣り合う2点の測定箇所を結ぶ線分と、その線分の一方の端点とその端点の隣にある測定箇所とを結ぶ線分とがなす内角が180°以下であるという条件を満たす。外縁側に分布する測定箇所が定まる限りにおいて、他の測定箇所は上記多角形の領域内でその位置及び数を任意に定めることができる。ただし、任意の3点の測定箇所を結んだ三角形であってその辺上の点を含む内側領域上に他の測定箇所を含まない三角形の面積が50cm
2以下であり、かつ測定対象領域の面積の5%以下になるように測定箇所を定める。例えば、4辺の長さがいずれも1m以下の枚葉のフィルムの場合、実施例の欄中の評価項目で説明するような方法で測定箇所を定めうる。
そして、上記のように定めた測定箇所で樹脂フィルムの厚みを測定する。少なくとも30点の計測箇所で得られた厚みのうち、その最大値を、樹脂フィルムの厚みの最大値Tmaxとし、その最小値を、樹脂フィルムの厚みの最小値Tminとし、その平均値を、樹脂フィルムの厚みの平均値Taveとする。
【0084】
本発明の樹脂フィルムは、上述したように求められる厚みムラTvの値が小さいので、屈曲しても、不均一な応力集中が生じにくく、その結果、破断が生じにくいという効果を奏する。
【0085】
(樹脂フィルムの位相差ムラ及び配向ムラ)
本発明の樹脂フィルムは、光学特性が付与された光学フィルムである場合、通常は、厚みムラが小さいのと同様に、位相差ムラ及び配向ムラも小さい。したがって、本発明によれば、優れた光学フィルムを提供することができる。
【0086】
(樹脂フィルムの内部ヘイズ)
本発明の樹脂フィルムは、内部ヘイズが小さいことが好ましい。ここで、通常、ヘイズには、樹脂フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるものと、内部屈折率分布によるものとが含まれる。内部ヘイズとは、通常のヘイズから樹脂フィルムの表面にある微細な凹凸による光散乱によるヘイズを差し引いたものをいう。そのような内部ヘイズは、実施例の欄中の評価項目で説明するような方法で測定しうる。
好ましくは、樹脂フィルムの内部ヘイズは、3%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0.5%以下であり、また、理想的には内部ヘイズは0%であるが下限を0%超としてもよい。
【0087】
(樹脂フィルムの透明性)
本発明の樹脂フィルムは、透明性に優れることが好ましい。具体的には、本発明の樹脂フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。
樹脂フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm〜700nmの範囲で測定しうる。
【0088】
(樹脂フィルムの光学特性)
本発明の樹脂フィルムは、用途に応じて、レターデーションを有していてもよい。例えば、本発明の樹脂フィルムを位相差フィルム、光学補償フィルム等の光学フィルムとして用いる場合には、樹脂フィルムはレターデーションを有することが好ましい。
【0089】
(樹脂フィルムの厚み)
本発明の樹脂フィルムの厚みは、所望の用途に応じて適宜選択しうるが、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、特に好ましくは10μm以上であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは200μm以下である。樹脂フィルムの厚みを前記範囲の下限値以上にすることにより、適度の強度を得ることができる。また、上限値以下にすることにより、長尺のフィルムを製造する場合の巻取りを可能にすることができる。本発明の樹脂フィルムは、厚みムラが小さいので、ロールに巻き取るときの巻きムラを小さくすることができ、また、シワの発生も抑えられる。また、本発明の樹脂フィルムは、厚みムラが小さいので、表面に塗工層を設けるときの塗工ムラ及び塗工厚みのムラを抑えることもできる。
【0090】
(樹脂フィルムの用途)
本発明の樹脂フィルムは、任意の用途に用いうる。中でも、本発明の樹脂フィルムは、例えば、光学等方性フィルム及び位相差フィルム等の光学フィルム、電気電子用フィルム、バリアフィルム用の基材フィルム、並びに、導電性フィルム用の基材フィルムとして好適である。前記の光学フィルムとしては、例えば、液晶表示装置用の位相差フィルム、偏光板保護フィルム、有機EL表示装置の円偏光板用の位相差フィルム、等が挙げられる。電気電子用フィルムとしては、例えば、フレキシブル配線基板、フィルムコンデンサー用絶縁材料、などが挙げられる。バリアフィルムとしては、例えば、有機EL素子用の基板、封止フィルム、太陽電池の封止フィルム、などが挙げられる。導電性フィルムとしては、例えば、有機EL素子や太陽電池のフレキシブル電極、タッチパネル部材、などが挙げられる。
【0091】
[2.樹脂フィルムの製造方法]
本発明の樹脂フィルムは、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂からなる第1のフィルムを、当該第1のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態で、第1の温度T1以上でかつ第2の温度T2以下の範囲内の予熱温度Tphで予熱時間tphにわたって予熱して、第2のフィルムを得る予熱工程と;前記第2のフィルムに対して第1の温度T1以上でかつ第2の温度T2以下の範囲内の延伸温度Tstで延伸処理を施すことにより、第3のフィルムを得る延伸工程と;前記第3のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態で、前記第3のフィルムに対して、前記延伸温度Tstよりも高温であって、第3の温度T3以上でかつ前記重合体の融点Tm未満の範囲内の熱固定温度Ttsで熱固定時間ttsにわたって保持する熱固定工程とを含む、樹脂フィルムの製造方法にしたがって製造される。各工程における温度範囲及び時間については後述する。そして、上記の樹脂フィルムの製造方法にしたがうことにより、脂環式構造を含有し結晶性を有する重合体を含む樹脂から、強度に優れ、かつ、耐屈曲性に優れた樹脂フィルムを製造することができる。
【0092】
以下、この製造方法について詳細に説明する。
【0093】
〔2.1.第1のフィルムの用意〕
前記の樹脂フィルムの製造方法の実施に先立ち、第1のフィルムを用意する工程を行う。第1のフィルムは、結晶性樹脂からなり所望の厚みを有するフィルムである。ここで、第1のフィルムの所望の厚みは、後の延伸工程における延伸倍率を考慮して任意に設定しうる。かかる厚みは、通常は5μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常は1mm以下、好ましくは500μm以下である。
【0094】
第1のフィルムは、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法によって製造しうる。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法によって第1のフィルムを製造することが好ましい。押出成形法によって第1のフィルムを製造する場合、その押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20」℃以上であり、好ましくは「Tm+100」℃以下、より好ましくは「Tm+50」℃以下である。また、キャストロール温度は、好ましくは「Tg−50」℃以上であり、好ましくは「Tg+70」℃以下、より好ましくは「Tg+40」℃以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg−70」℃以上、より好ましくは「Tg−50」℃以上であり、好ましくは「Tg+60」℃以下、より好ましくは「Tg+30」℃以下である。このような条件で第1のフィルムを製造することにより、厚さ1μm〜1mmの第1のフィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は脂環式構造を含有する重合体の融点を表し、「Tg」は脂環式構造を含有する重合体のガラス転移温度を表す。
【0095】
〔2.2.予熱工程〕
本発明に係る樹脂フィルムの製造方法では、延伸工程に先立って予熱工程を実施する。この予熱工程は、延伸工程に先立って第1のフィルムを所定の温度範囲内にある状態で維持するために行われる。このために、予熱工程では、第1のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態で予熱温度Tphで予熱時間tphにわたって第1のフィルムを加熱する。そして、第1のフィルムの少なくとも二辺を保持することにより、保持された辺の間の領域において第1のフィルムの熱収縮による変形を抑制できる。通常、予熱工程と延伸工程とは連続して行われるので、予熱工程と延伸工程との間に他の工程は行われない。
【0096】
上記予熱温度Tphは、予熱工程で第1のフィルムが曝される加熱雰囲気の温度であり、通常は、加熱装置の設定温度と同じ温度となる。この予熱温度Tphは、第1の温度T1以上でかつ第2の温度T2以下の範囲内の温度である。好適な加熱装置は、非接触で第1のフィルムを加熱可能な加熱装置であり、具体例を挙げると、オーブン及び加熱炉が挙げられる。
【0097】
ここで、前記第1の温度T1は、予熱温度Tphがとり得る温度の範囲の下限であり、下記式(9)で示され、好ましくは下記式(9’)で示され、より好ましくは下記式(9”)で示される。
T1[℃]=(5×Tg+5×Tpc)/10 (9)
T1[℃]=[(5×Tg+5×Tpc)/10]+5 (9’)
T1[℃]=[(5×Tg+5×Tpc)/10]+10 (9”)
上記式(9)、(9’)及び(9”)中、Tgは、前記結晶性樹脂に含まれる重合体のガラス転移温度であり、かつ、Tpcは、前記結晶性樹脂に含まれる重合体の結晶化ピーク温度である。上記式(9)、(9’)及び(9”)からわかるように、通常、第1の温度T1は、ガラス転移温度Tgよりも高い温度であり、結晶化ピーク温度Tpcよりも低い温度である。
そして、予熱温度Tphが第1の温度T1以上であることにより、後の熱固定工程において生じる厚みの均一性の低下を大幅に抑制することができる。
【0098】
また、前記第2の温度T2は、予熱温度Tphがとり得る温度の範囲の上限であり、下記式(10)で示され、好ましくは下記式(10’)で示され、より好ましくは下記式(10”)で示される。下記式(10)、(10’)及び(10”)からわかるように、通常、第2の温度T2は、結晶化ピーク温度Tpcよりも高い温度であり、融点Tmよりも低い温度である。
T2[℃]=[(9×Tpc+1×Tm)/10] (10)
T2[℃]=[(9×Tpc+1×Tm)/10]−5 (10’)
T2[℃]=[(9×Tpc+1×Tm)/10]−10 (10”)
そして、予熱温度Tphが第2の温度T2以下であることにより、後続の延伸工程において生じる延伸不良を抑制したり、後の熱固定工程において生じる厚みの均一性の低下を大幅に抑制したりすることができる。さらには、予熱温度Tphが第2の温度T2以下であることにより、得られる樹脂フィルムのヘイズを小さくすることができ、白濁を抑制することができる。
【0099】
上記予熱時間tphは、延伸工程に先立って、第1のフィルムが所定の温度範囲内にある状態で維持されている時間であり、すなわち予熱工程で第1のフィルムが加熱雰囲気に曝されている時間である。ここで、所定の温度範囲とは、予熱温度Tphがとり得る温度の範囲と同一であり、すなわち、第1の温度T1以上でかつ第2の温度T2以下の範囲内の温度である。
【0100】
ここで、予熱時間tphの上限tph(max)は、下記式(11)で示され、好ましくは下記式(11’)で示され、より好ましくは下記式(11”)で示される。
tph(max)[秒]
=80×[(T1−Tph)/(T2−T1)]+90 (11)
tph(max)[秒]
=0.8×[80×{(T1−Tph)/(T2−T1)}+90] (11’)
tph(max)[秒]
=0.6×[80×{(T1−Tph)/(T2−T1)}+90] (11”)
そして、予熱時間tphが上限tph(max)以下であることにより、後続の延伸工程において生じる延伸不良を抑制したり、後の熱固定工程において生じる厚みの均一性の低下を大幅に抑制したりすることができる。さらには、予熱時間tphが上限tph(max)以下であることにより、得られる樹脂フィルムのヘイズを小さくすることができ、白濁を防止することができる。
【0101】
また、予熱時間tphの下限tph(min)は、1秒であり、好ましくは5秒である。これにより、第1のフィルムが不均一に加熱されることを防止することができる。そのため、後続の延伸工程での延伸不良に起因した厚みの均一性の低下を抑制することができる。
【0102】
上記の「第1のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態」とは、第1のフィルムにたわみが認められない程度に、保持具で又は離間された2つのローラーで第1のフィルムを保持した状態をいう。ただし、この状態には、第1のフィルムが実質的に延伸されるような保持状態は含まれない。また、実質的に延伸されるとは、第1のフィルムのいずれかの方向への延伸倍率が通常1.03倍以上になることをいう。
【0103】
第1のフィルムを保持する場合、適切な保持具によって第1のフィルムを保持する。保持具は、第1のフィルムの辺の全長を連続的に保持しうるものでもよく、間隔を空けて間欠的に保持しうるものでもよい。例えば、所定の間隔で配列された保持具によって第1のフィルムの辺を間欠的に保持してもよい。枚葉の第1のフィルムでは、その全ての辺を保持することが好ましい。具体例を挙げると、矩形の枚葉の第1のフィルムでは、四辺を保持することが好ましい。これにより、予熱工程における変形をより確実に抑制することができる。
【0104】
第1のフィルムの辺を保持しうる保持具としては、第1のフィルムの辺以外の部分では第1のフィルムと接触しないものが好ましい。このような保持具を用いることにより、より平滑性に優れる樹脂フィルムを得ることができる。
【0105】
また、保持具としては、保持具同士の相対的な位置を予熱工程においては固定しうるものが好ましい。このような保持具は、予熱工程において保持具同士の位置が相対的に移動しないので、予熱工程における第1のフィルムの実質的な延伸を抑制しやすい。
【0106】
好適な保持具としては、例えば、矩形の第1のフィルム用の保持具として、型枠に所定間隔で設けられ第1のフィルムの辺を把持しうるクリップ等の把持子が挙げられる。また、例えば、長尺の第1のフィルムの幅方向の端部にある二辺を保持するための保持具としては、テンター延伸機に設けられ第1のフィルムの辺を把持しうる把持子が挙げられる。
【0107】
長尺の第1のフィルムを用いる場合、その第1のフィルムの長手方向の端部にある辺(即ち、短辺)を保持してもよいが、前記の辺を保持する代わりに第1のフィルムの予熱処理を施される領域の長手方向の両側を保持してもよい。例えば、第1のフィルムの予熱処理を施される領域の長手方向の両側に、第1のフィルムを熱収縮しないように保持しうる保持装置を設けてもよい。このような保持装置としては、例えば、2つのロールの組み合わせ、押出機と引き取りロールとの組み合わせ、などが挙げられる。これらの組み合わせによって第1のフィルムを保持することで、予熱処理を施される領域において当該第1のフィルムの熱収縮を抑制できる。そのため、前記の組み合わせを保持装置として用いれば、第1のフィルムを搬送方向に送りながら当該第1のフィルムを保持できるので、樹脂フィルムの効率的な製造ができる。
【0108】
上述したようにして予熱工程を実施することにより、予熱された第1のフィルムとして第2のフィルムが得られる。
【0109】
〔2.3.延伸工程〕
本発明に係る樹脂フィルムの製造方法では、予熱工程で得られた第2のフィルムの延伸を行うための延伸工程を実施する。この延伸工程は、第2のフィルムが上述した所定の温度範囲内にある状態で開始される。このために、延伸工程では、第2のフィルムに対して延伸温度Tstで延伸処理が施される。
【0110】
上記延伸温度Tstは、延伸工程で第2のフィルムが曝される加熱雰囲気の温度であり、通常は、延伸機の設定温度と同じ温度となる。この延伸温度Tstは、上記第1の温度T1以上でかつ上記第2の温度T2以下の範囲内の温度である。したがって、延伸温度Tstに、予熱温度Tphと同じ温度を設定してもよく、また、この場合における延伸温度Tstと予熱温度Tphの温度差は、5℃以下とすることが好ましく、さらに好ましくは2℃以下である。延伸温度Tstとしてこのような温度を設定することにより、第2のフィルムに含まれる重合体分子を適切に配向させることができる。
【0111】
第2のフィルムの延伸方法に格別な制限は無く、任意の延伸方法を用いうる。例えば、第2のフィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、第2のフィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;第2のフィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、第2のフィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;第2のフィルムを幅方向に平行でもなく垂直でもない斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0112】
前記の縦一軸延伸法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用した延伸方法などが挙げられる。
また、前記の横一軸延伸法としては、例えば、テンター延伸機を用いた延伸方法などが挙げられる。
さらに、前記の同時二軸延伸法としては、例えば、ガイドレールに沿って移動可能に設けられ且つ第2のフィルムを固定しうる複数のクリップを備えたテンター延伸機を用いて、クリップの間隔を開いて第2のフィルムを長手方向に延伸すると同時に、ガイドレールの広がり角度により第2のフィルムを幅方向に延伸する延伸方法などが挙げられる。
また、前記の逐次二軸延伸法としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して第2のフィルムを長手方向に延伸した後で、その第2のフィルムの両端部をクリップで把持してテンター延伸機により幅方向に延伸する延伸方法などが挙げられる。
さらに、前記の斜め延伸法としては、例えば、第2のフィルムに対して長手方向又は幅方向に左右異なる速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加しうるテンター延伸機を用いて第2のフィルムを斜め方向に連続的に延伸する延伸方法などが挙げられる。
【0113】
第2のフィルムを延伸する場合の延伸倍率は、所望の光学特性、厚み、強度などにより適宜選択しうるが、通常は1.03倍以上、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、通常は20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下である。ここで、例えば二軸延伸法のように異なる複数の方向に延伸を行う場合、延伸倍率は各延伸方向における延伸倍率の積で表される総延伸倍率のことである。延伸倍率を前記範囲の上限値以下にすることにより、フィルムが破断する可能性を小さくできるので、樹脂フィルムの製造を容易に行うことができる。また、延伸処理に要する時間は、延伸倍率に応じて設定しうる。
【0114】
前記のような延伸処理を第2のフィルムに施すことにより、延伸された第2のフィルムとしての第3のフィルムが得られ、このような第3のフィルムを用いることにより所望の特性を有する樹脂フィルムを得ることができる。
【0115】
〔2.4.熱固定工程〕
本発明に係る樹脂フィルムの製造方法では、熱固定工程を実施する。この熱固定工程は、第3のフィルム中に含まれる脂環式構造を含有する重合体の結晶化を促進するために行われる。熱固定工程では、第3のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態で、熱固定温度Ttsで保持する。これによって、通常、脂環式構造を含有する重合体の結晶化度を30%未満から30%以上に高めることができる。そして、第3のフィルムの少なくとも二辺を保持することにより、保持された辺の間の領域において第3のフィルムの熱収縮による変形を抑制することができる。結晶化度を30%以上に高めることで、樹脂フィルムの強度を優れたものとすることができる。
【0116】
上記の「第3のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態」とは、上述の「第1のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態」と同じであるのでその説明を割愛する。また、保持具についても同じであるので、その説明を割愛する。
【0117】
上記熱固定温度Ttsは、熱固定工程で第3のフィルムが曝される加熱雰囲気の温度であり、通常は、加熱装置の設定温度と同じ温度となる。この熱固定温度Ttsは、延伸温度Tstよりも高温であって、第3の温度T3以上でかつ重合体の融点Tm未満の範囲内の温度である。また、熱固定温度Ttsは、予熱温度Tphよりも高温であることが好ましい。好適な加熱装置は、非接触で第3のフィルムを加熱可能な加熱装置であり、具体例を挙げると、オーブン及び加熱炉が挙げられる。このような温度範囲を採用することにより、得られる樹脂フィルムの白濁を抑制できる。
【0118】
ここで、前記第3の温度T3は、熱固定温度Ttsがとり得る温度の範囲の下限であり、下記式(12)で示され、好ましくは下記式(12’)で示され、より好ましくは下記式(12”)で示される。下記式(12)、(12’)及び(12”)からわかるように、通常、第3の温度T3は、結晶化ピーク温度Tpcよりも高い温度であり、融点Tmよりも低い温度である。
T3[℃]=[(9×Tpc+1×Tm)/10] (12)
T3[℃]=[(9×Tpc+1×Tm)/10]+10 (12’)
T3[℃]=[(9×Tpc+1×Tm)/10]+20 (12”)
【0119】
また、好ましくは、上記熱固定温度Ttsは、前記第3の温度T3以上でかつ第4の温度T4以下の範囲内にある。第4の温度T4は、熱固定温度Ttsが局所的にも融点Tmに到達してしまうことがないように見込んで設定した、熱固定温度Ttsがとり得る温度の範囲の上限である。
ここで、前記第4の温度T4は、好ましくは、下記式(13)で示され、より好ましくは下記式(13’)で示され、さらに好ましくは下記式(13”)で示される。下記式(13)、(13’)及び(13”)からわかるように、第4の温度T4は、結晶化ピーク温度Tpcよりも高い温度であり、融点Tmよりも低い温度である。
T4[℃]=[(2×Tpc+8×Tm)/10] (13)
T4[℃]=[(2×Tpc+8×Tm)/10]−20 (13’)
T4[℃]=[(2×Tpc+8×Tm)/10]−40 (13”)
【0120】
また、前記熱固定工程を行う熱固定時間ttsは、5秒以上である。ここで、熱固定時間ttsとは、熱収縮しないように少なくとも2辺を保持された第3のフィルムが所定の温度範囲内にある状態で維持されている時間である。この所定の温度範囲とは、熱固定温度Ttsがとり得る温度の範囲と同一であり、すなわち、上記第3の温度T3以上でかつ上記第4の温度T4以下の範囲内の温度である。また、好ましくは、熱固定時間ttsは、90秒以下である。
そして、熱固定時間ttsが5秒以上であることにより、重合体の結晶化度を十分に高めて、樹脂フィルムの強度を優れたものとすることができる。また、熱固定時間ttsを90秒以下にすることにより、得られる樹脂フィルムの白濁を抑制できるので、光学フィルムとしての使用に適した樹脂フィルムが得られる。したがって、熱固定時間ttsは、5秒以上90秒以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0121】
好ましくは、熱固定工程では、上記の「第3のフィルムの少なくとも二辺を保持した状態」に代えて、「第3のフィルムの少なくとも二辺を保持して緊張させた状態」とする。「第3のフィルムの少なくとも二辺を保持して緊張させた状態」とは、第3のフィルムに延伸に至らないまでもある程度の張力をかけることをいう。これは、熱固定工程では、予熱工程及び延伸工程よりも高い温度に第3のフィルムが曝されることによる熱収縮を考慮した方が好ましいためである。これにより、第3のフィルムの平滑性を損なうことなく、結晶化を進めることができる。
【0122】
前記のような熱固定処理を第3のフィルムに施すことにより、結晶化が促進された第3のフィルムとしての第4のフィルムが得られる。
【0123】
〔2.5.緩和工程〕
本発明では、熱固定工程の後で、熱固定工程で得られた第4のフィルムを熱収縮させ残留応力を除去するために、緩和工程を行うことが好ましい。緩和工程では、熱固定工程で得られた第4のフィルムを平坦に維持しながら、所定の温度範囲で、前記第4のフィルムの緊張を緩和する緩和処理を行う。
【0124】
第4のフィルムの緊張を緩和する、とは、保持装置によって保持されて緊張した状態から第4のフィルムを解放することをいい、第4のフィルムが緊張していなければ第4のフィルムが保持装置で保持されていてもよい。このように緊張が緩和されると、第4のフィルムは熱収縮を生じうる状態となる。緩和工程では、第4のフィルムに熱収縮を生じさせることによって、樹脂フィルムに加熱時において生じうる応力を解消している。そのため、本発明の樹脂フィルムの高温環境下での熱収縮を小さくできるので、高温環境下での寸法安定性に優れる樹脂フィルムが得られる。
【0125】
第4のフィルムの緊張の緩和は、一時に行ってもよく、時間をかけて連続的又は段階的に行ってもよい。ただし、得られる樹脂フィルムの波打ち及びシワ等の変形の発生を抑制するためには、緊張の緩和は、連続的又は段階的に行うことが好ましい。
【0126】
前記の第4のフィルムの緊張の緩和は、第4のフィルムを平坦に維持しながら行う。ここで第4のフィルムを平坦に維持する、とは、第4のフィルムに波打ち及びシワといった変形を生じないように第4のフィルムを平面形状に保つことをいう。これにより、得られる樹脂フィルムの波打ち及びシワ等の変形の発生を抑制できる。
【0127】
緩和処理の際の第4のフィルムの処理温度は、熱固定工程での熱固定温度Ttsとの温度差が20℃以下、好ましくは10℃以下の範囲内であることが好ましい。これにより、緩和工程における第4のフィルムの温度ムラを抑制したり、樹脂フィルムの生産性を高めたりできる。
【0128】
緩和工程において、第4のフィルムを前記の温度範囲に維持する処理時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上である。この処理時間の上限は、熱固定時間ttsと緩和工程での処理時間の合計が90秒以下(すなわち、熱固定時間tts+緩和工程での処理時間≦90秒)であり、かつ熱固定時間ttsの2倍が緩和工程での処理時間以上(すなわち、熱固定時間tts×2≧緩和工程での処理時間)となるように設定することが好ましい。処理時間を前記範囲の下限値以上にすることにより、本発明の樹脂フィルムの高温環境下での寸法安定性を効果的に高めることができる。また、上限値以下にすることにより、本発明の樹脂フィルムの高温環境下での寸法安定性を効果的に高めることができ、また、緩和工程における結晶化の進行による樹脂フィルムの白濁を抑制することができる。
【0129】
前記のような緩和工程において枚葉の第4のフィルムに緩和処理を施す場合、例えば、その第4のフィルムの四辺を保持しながら、保持部分の間隔を連続的又は段階的に狭める方法を採用しうる。この場合、第4のフィルムの四辺において保持部分の間隔を同時に狭めてもよい。また、一部の辺において保持部分の間隔を狭めた後で、別の一部の辺の保持部分の間隔を狭めてもよい。さらに、一部の辺の保持部分の間隔を狭めないで維持してもよい。また、一部の辺の保持部分の間隔は連続的又は段階的に狭め、別の一部の辺の保持部分の間隔を一時に狭めてもよい。
【0130】
また、前記のような緩和工程において長尺の第4のフィルムに緩和処理を施す場合、例えば、テンター延伸機を用いて、クリップを案内しうるガイドレールの間隔を第4のフィルムの搬送方向において狭めたり、隣り合うクリップの間隔を狭めたりする方法が挙げられる。
【0131】
前記のように、第4のフィルムを保持した状態で保持部分の間隔を狭めることで第4のフィルムの緊張の緩和を行う場合、間隔を狭める程度は、熱固定工程において得られた第4のフィルムに残留していた応力の大きさに応じて設定しうる。
通常、熱固定工程において得られた第4のフィルムには、既に延伸処理が施されているので、大きな応力が残留する傾向がある。そのため、この第4のフィルムの緊張を緩和するために間隔を狭める程度は、延伸処理が施されていないフィルムを用いる場合に比べて大きくすることが好ましい。
【0132】
緩和工程において保持間隔を狭める程度は、緩和工程での第4のフィルムの処理温度において第4のフィルムに緊張を与えない状態での熱収縮率S(%)を基準として定めうる。具体的には、保持間隔を狭める程度は、通常0.1S以上、好ましくは0.5S以上、より好ましくは0.7S以上、また通常1.2S以下、好ましくは1.0S以下、より好ましくは0.95S以下である。また、例えば直交する2方向で熱収縮率Sが異なる場合のように、前記熱収縮率Sに異方性がある場合は、各々の方向について前記範囲内で保持間隔を狭める程度を定めうる。このような範囲にすることで、樹脂フィルムの残留応力を十分に除去し、かつ平坦性を維持させることができる。
【0133】
第4のフィルムの熱収縮率Sは、下記の方法により測定しうる。
室温23℃の環境下で、第4のフィルムを150mm×150mmの大きさの正方形に切り出し、試料フィルムとする。この試料フィルムを、緩和工程の処理温度と同じ温度に設定したオーブン内で60分間加熱し、23℃(室温)まで冷却した後、試料フィルムの熱収縮率Sを求めたい方向に平行な二辺の長さを測定する。
測定された二辺それぞれの長さを基に、下記式(III)に基づいて、試料フィルムの熱収縮率Sを算出する。式(III)において、L
1(mm)は、加熱後の試料フィルムの測定した二辺の一方の辺の長さを示し、L
2(mm)はもう一方の辺の長さを示す。
熱収縮率S(%)=[(300−L
1−L
2)/300]×100 (III)
【0134】
前記のような緩和処理を第4のフィルムに施すことにより、製造対象であった樹脂フィルムが得られる。また、緩和処理を行わない場合には、第4のフィルムが樹脂フィルムとなる。
【0135】
〔2.6.熱固定工程及び緩和工程の第一の例〕
以下、上述した熱固定工程及び緩和工程の第一の例について説明する。第一の例は、枚葉の第3のフィルムを用いて枚葉の樹脂フィルムを製造する方法の例を示す。ただし、熱固定工程及び緩和工程は、この第一の例に限定されない。
【0136】
図1及び
図2は、保持装置の例を模式的に示す平面図である。
図1に示すように、保持装置100は、枚葉の第3のフィルム10を保持するための装置である。保持装置100は、型枠110と、型枠110に位置調整を可能に設けられた複数の保持具としてクリップ121、122、123及び124を備える。クリップ121、クリップ122、クリップ123及びクリップ124は、それぞれ、第3のフィルム10の辺11、辺12、辺13及び辺14を把持しうるように設けられている。
【0137】
このような保持装置100を用いて熱固定工程を行う場合、保持装置100に、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂からなる第3のフィルム10を取り付ける。具体的には、クリップ121〜124で第3のフィルム10を把持することで、第3のフィルム10の四辺11〜14を保持した状態にする。そして、このように保持した状態の第3のフィルム10を、図示しないオーブンにより、熱固定温度Ttsで加熱する。
【0138】
これにより、第3のフィルム10に含まれる脂環式構造を含有する重合体の結晶化が進行して、
図2に示すように、第4のフィルム20が得られる。この際、第3のフィルム10の四辺11〜14が保持した状態となっていたので、第4のフィルム20には熱収縮による変形は生じない。そのため、通常は、第4のフィルム20には、熱収縮を生じさせようとする応力が残留している。
【0139】
その後、前記のように製造された第4のフィルム20には、緩和工程が行われる。前記の第4のフィルム20は、熱固定工程が終わった時点においては、保持装置100のクリップ121、クリップ122、クリップ123及びクリップ124に、当該第4のフィルム20の辺21、辺22、辺23及び辺24において保持されている。緩和工程では、この第4のフィルム20を、引き続き熱固定温度Ttsとの温度差が20℃以下の範囲内の温度に加熱した状態で、保持装置100のクリップ121〜124の間隔I
121、I
122、I
123及びI
124を狭める。これにより、第4のフィルム20の熱収縮による寸法変化に追従するように、クリップ121〜124による第4のフィルム20の保持部分の間隔は狭まる。そのため、第4のフィルム20は、平坦に維持しながら緊張を緩和されて、枚葉の樹脂フィルムが得られる。
【0140】
こうして得られた樹脂フィルムでは、高温環境下における寸法変化の原因となり得るフィルム内の応力が解消されている。そのため、得られた樹脂フィルムにおいて、高温環境下での寸法安定性を向上させることができる。また、樹脂フィルムに含まれる脂環式構造を含有する重合体が結晶化されているので、この樹脂フィルムは、通常、耐熱性に優れる。
【0141】
〔2.7.熱固定工程及び緩和工程の第二の例〕
以下、上述した熱固定工程及び緩和工程の第二の例について説明する。第二の例は、長尺の第3のフィルムを用いて長尺の樹脂フィルムを製造する方法の例を示す。ただし、熱固定工程及び緩和工程は、この第二の例に限定されない。
【0142】
図3は、樹脂フィルムの製造装置の例を模式的に示す正面図であり、
図4は、樹脂フィルムの製造装置の例を模式的に示す平面図である。
図3及び
図4に示すように、製造装置200は、保持装置としてのテンター延伸機300、搬送ロール410及び420、並びに、加熱装置としてのオーブン500を備える。
【0143】
図4に示すように、テンター延伸機300は、フィルム搬送路の左右両脇に設けられた無端状のリンク装置310及び320、前記のリンク装置310及び320を駆動するためのスプロケット330及び340を備える。また、前記のリンク装置310及び320は、それぞれ複数の保持具としてクリップ311及び321が設けられている。
【0144】
クリップ311及び321は、第3のフィルム30の幅方向の端部の辺31及び32、第4のフィルム40の幅方向の端部の辺41及び42、並びに、樹脂フィルム50の幅方向の端部の辺51及び52を把持することによって、第3のフィルム30を保持しうるように設けられている。また、これらのクリップ311及び321は、リンク装置310及び320の回転に伴って移動可能に設けられている。
【0145】
リンク装置310及び320は、スプロケット330及び340で駆動されることにより、フィルム搬送路の両脇に設けられた図示しないガイドレールで規定される周回軌道に沿って、矢印A310及びA320で示すように回転できるように設けられている。よって、リンク装置310及び320に設けられたクリップ311及び321は、フィルム搬送路の両脇において所望の周回軌道に沿って移動できる構成を有している。
【0146】
さらに、クリップ311及び321は、適切な任意の機構により、オーブン500の入り口510近傍において第3のフィルム30の二辺31及び32を保持し、その保持した状態を維持したままでリンク装置310及び320の回転に伴ってフィルム搬送方向に移動し、オーブン500の出口520近傍において樹脂フィルム50を放すように設けられている。
【0147】
さらに、このテンター延伸機300は、フィルム搬送方向におけるクリップ311及び321の間隔W
MD並びに幅方向におけるクリップ311及び321の間隔W
TDを任意に調整できる構成を有している。ここに示す例では、パンタグラフ式のリンク装置310及び320を用いることによって、前記のようなクリップ311及び321の間隔W
MD及びW
TDを調整可能にした例を示す。
【0148】
図5及び
図6は、前記のリンク装置310の一部分を模式的に示す平面図である。
図5及び
図6に示すように、リンク装置310は、連結された複数のリンクプレート312a〜312dを備える。この例に示すリンク装置310では、これら複数のリンクプレート312a〜312dを輪状に連結させることにより、リンク装置310の形状を無端状にしている。
【0149】
また、リンク装置310は、軸受けローラー313a及び313bを備える。これらの軸受けローラー313a及び313bは、図示しないガイドレールによって形成される溝内を通りうるように設けられている。したがって、ガイドレールの軌道を調整することにより、そのガイドレールに沿って回転するリンク装置310の周回軌道を調整することができ、ひいては当該リンク装置310に設けられたクリップ311の走行軌道を調整できる。そのため、このリンク装置310は、ガイドレールの軌道を調整することにより、フィルム搬送方向の任意の位置で、幅方向におけるクリップ311の位置を変化させられる構成を有している。そして、このように幅方向におけるクリップ311の位置を変化させることにより、幅方向におけるクリップ311及び321の間隔W
TDを変化させることが可能である。
【0150】
さらに、
図5及び
図6に示す通り、リンク装置310の一単位は、(a)外側の軸受けローラー313a及び内側の軸受けローラー313bの両方の上に支点を持ち、さらに内側に延長し、その内側端にクリップ311を有するリンクプレート312a;(b)リンクプレート312aと軸受けローラー313b上において共通する支点を有し、別の軸受けローラー313a上のもう一点の支点に延長するリンクプレート312b;(c)リンクプレート312bの支点間の部分に支点を有し、そこから内側に延長し、内側端にクリップ311を有するリンクプレート312c;並びに、(d)リンクプレート312cの内側端及び外側端との間に支点を有し、そこから外側に延長し、隣接する単位のリンクプレート312a上に支点を有するリンクプレート312d;を備える。ここで、外側とはフィルム搬送路から遠い側を表し、内側とはフィルム搬送路に近い側を表す。このようなリンク装置310では、ガイドローラの溝の間隔D1及びD2に応じて、リンクピッチを収縮状態と伸展状態との間で変化させることができる。そのため、このリンク装置310は、ガイドローラの溝の間隔D1及びD2を調整することにより、フィルム搬送方向における任意の位置で、フィルム搬送方向におけるクリップ311同士の間隔W
MDを変化させられる構成を有している。
【0151】
また、もう一方のリンク装置320は、フィルム搬送路に対してリンク装置310とは反対側に設けられていること以外は、前述したリンク装置310と同様の構成を有している。そのため、リンク装置320も、リンク装置310と同様の要領で、フィルム搬送方向におけるクリップ321同士の間隔W
MD及び幅方向におけるクリップ321の位置が調整可能な構成を有している。
【0152】
図3及び
図4に示すように、フィルム搬送方向においてテンター延伸機300の両側には、搬送ロール410及び420が設けられている。テンター延伸機300の上流側に設けられた搬送ロール410は第3のフィルム30を搬送しうるように設けられたロールであり、テンター延伸機300の下流側に設けられた搬送ロール420は樹脂フィルム50を搬送しうるように設けられたロールである。これらの搬送ロール410及び420は、搬送のために第3のフィルム30を保持しうるように設けられている。したがって、これらの搬送ロール410及び420は、テンター延伸機300(第3のフィルム30の熱固定処理を施される領域に相当する。)の長手方向の両側において、第3のフィルム30を熱収縮しないように保持した状態にしうる保持装置として機能できる。
【0153】
また、
図4に示すように、オーブン500は隔壁530を備え、この隔壁530によってオーブン500内の空間は、上流の熱固定室540及び下流の緩和室550に区画されている。
【0154】
このような製造装置200を用いて樹脂フィルム50を製造する場合、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂からなる長尺の第3のフィルム30を、搬送ロール410を経由してテンター延伸機300に供給する。
【0155】
テンター延伸機300へ送られた第3のフィルム30は、
図4に示すように、オーブン500の入り口510の近傍においてクリップ311及び321に把持されることにより、二辺31及び32をクリップ311及び321によって保持される。クリップ311及び321に保持された第3のフィルム30は、前記のクリップ311及び321による保持、並びに、搬送ロール410及び420による保持によって、好ましくは緊張した状態にされる。そして、第3のフィルム30は、このように保持された状態のままで、第3のフィルム30は入り口510を通ってオーブン500内の熱固定室540に搬送される。
【0156】
熱固定室540において、第3のフィルム30は、熱固定温度Ttsで加熱されて、熱固定工程が行われる。これにより、第3のフィルム30に含まれる脂環式構造を含有する重合体の結晶化が進行して、第4のフィルム40が得られる。この際、第3のフィルム30の二辺31及び32が保持された状態となっており、さらに搬送ロール410及び420による保持により保持された状態となっているので、第4のフィルム40には熱収縮による変形は生じない。そのため、通常は、第4のフィルム40には、熱収縮を生じさせようとする応力が残留している。
【0157】
その後、製造された第4のフィルム40は、二辺41及び42をクリップ311及び321で保持されたままで、オーブン500の緩和室550に送られる。緩和室550では、第4のフィルム40を、引き続き熱固定温度Ttsとの温度差が20℃以下の範囲内の温度に加熱した状態で、フィルム搬送方向におけるクリップ311及び321の間隔W
MD並びに幅方向におけるクリップ311及び321の間隔W
TDを狭める。これにより、第4のフィルム40の熱収縮による寸法変化に追従するように、クリップ311及び321による第4のフィルム40の保持部分の間隔は狭まる。そのため、第4のフィルム40は、平坦に維持しながら緊張を緩和されて、長尺の樹脂フィルム50が得られる。
【0158】
樹脂フィルム50は、出口520を通ってオーブン500の外へ送り出される。そして、樹脂フィルム50は、オーブン500の出口520の近傍においてクリップ311及び321から放され、搬送ロール420を経由して送り出され、回収される。
【0159】
こうして得られた樹脂フィルム50では、高温環境下における寸法変化の原因となり得るフィルム内の応力が解消されている。そのため、得られた樹脂フィルム50において、高温環境下での寸法安定性を向上させることができる。また、樹脂フィルム50に含まれる脂環式構造を含有する重合体が結晶化されているので、この樹脂フィルム50は、通常、耐熱性に優れる。
【0160】
〔2.8.任意の工程〕
本発明の樹脂フィルムの製造方法では、上述した予熱工程、延伸工程、熱固定工程及び緩和工程に組み合わせて、更に任意の工程を行ってもよい。
例えば、得られた樹脂フィルムに表面処理を行ってもよい。
【0161】
[3.導電性フィルム]
本発明の樹脂フィルムは、前記のように、耐屈曲性に優れるので、無機層の形成工程などのような高温プロセスを含む成膜工程を実施した場合に、樹脂フィルムと導電性層の間で生じる応力差を小さくすることができ、もって、良好な成膜が可能である。
そこで、このように優れた性質を活かして、本発明の樹脂フィルムを導電性フィルムの基材フィルムとして用いてもよい。この導電性フィルムは、本発明の樹脂フィルムと、この樹脂フィルム上に直接又は間接的に設けられた導電性層とを備える複層構造のフィルムである。通常、樹脂フィルムは導電性層との密着性に優れるので、導電性層は、樹脂フィルムの表面に直接に設けることができるが、必要に応じて平坦化層などの下地層を介して設けてもよい。
【0162】
導電性層の材料としては、銀、銅等の金属;ITO(インジウム錫オキサイド)、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、ZnO(酸化亜鉛)、IWO(インジウムタングステンオキサイド)、ITiO(インジウムチタニウムオキサイド)、AZO(アルミニウム亜鉛オキサイド)、GZO(ガリウム亜鉛オキサイド)、XZO(亜鉛系特殊酸化物)、IGZO(インジウムガリウム亜鉛オキサイド)などの導電性の無機材料;ポリチオフェン化合物などの有機導電性材料が挙げられる。
【0163】
導電性層の厚みは、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であり、好ましくは250nm以下、より好ましくは220nm以下である。
【0164】
導電性層を形成することにより、得られる導電性フィルムに電極としての機能を付与しうる。このような導電性フィルムの導電性層側の面の表面抵抗率は、使用する目的に応じて適宜選択しうるが、通常は1000Ω/sq.以下、好ましくは100Ω/sq.以下である。下限に特に制限は無いが、例えば0.1Ω/sq.以上にしうる。
【0165】
導電性層の形成方法に制限は無い。例えば、金属ナノワイヤを含む組成物やポリチオフェン化合物の塗布によって、導電性層を形成してもよい。また、例えば、基材フィルムとは別に用意した導電性層を、基材フィルムとしての樹脂フィルムに貼り合わせることにより、樹脂フィルムの面に導電性層を形成してもよい。
さらに、例えば、導電性材料を、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法、アーク放電プラズマ蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法、鍍金法、及びこれらの組み合わせ等の成膜方法によって樹脂フィルムの面に成膜することで、導電性層を形成してもよい。
これらの中でも、蒸着法及びスパッタリング法が好ましく、スパッタリング法が特に好ましい。スパッタリング法では、厚みが均一な導電性層を形成できるので、導電性層に局所的に薄い部分が発生することを抑制できる。したがって、前記の薄い部分による抵抗の増大を抑制できるので、例えば静電容量式タッチセンサーとして用いた場合に、静電容量の変化の検知感度を高められる。
本発明の樹脂フィルムは高温環境下での寸法安定性及び耐熱性に優れるので、高出力で成膜を行うことができ、そのため平坦で導電性に優れた導電性層を迅速に成膜できる。
また、樹脂フィルムの面に導電性層を形成する前に、樹脂フィルムの前記面には、表面処理を施してもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、薬品処理等が挙げられる。これにより、樹脂フィルムと導電性層との結着性を高めることができる。
さらに、導電性層の形成方法は、例えばエッチング法等の膜除去法によって導電性層を所望のパターン形状に成形することを含んでいてもよい。
【0166】
また、前記の導電性フィルムは、樹脂フィルム及び導電性層に組み合わせて、光学機能層やバリア層など任意の層を備えうる。
【0167】
[4.バリアフィルム]
本発明の樹脂フィルムは、前記のように、耐屈曲性に優れる。そのため、無機層の形成工程などのような高温プロセスを含む成膜工程を実施した場合に、樹脂フィルムとバリア層の間で生じる応力差を小さくすることができ、もって、良好な成膜が可能である。
【0168】
そこで、このように優れた性質を活かして、本発明の樹脂フィルムをバリアフィルムの基材フィルムとして用いてもよい。このバリアフィルムは、本発明の樹脂フィルムと、この樹脂フィルム上に直接又は間接的に設けられたバリア層とを備える複層構造のフィルムである。通常、樹脂フィルムはバリア層との密着性に優れるので、バリア層は、樹脂フィルムの表面に直接に設けることができるが、必要に応じて平坦化層などの下地層を介して設けてもよい。
【0169】
バリア層の材料としては、例えば、無機材料を用いうる。このような無機材料の例としては、金属酸化物、金属窒化物、金属酸化窒化物、及びこれらの混合物を含む材料が挙げられる。金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸化窒化物を構成する金属の例としては、珪素、アルミニウムが挙げられ、特に珪素が好ましい。より具体的には、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸化窒化物の組成の例としては、それぞれSiOx(1.5<x<1.9)、SiNy(1.2<y<1.5)、及びSiOxNy(1<x<2および0<y<1)で表される組成が挙げられる。このような材料を用いることにより、透明性及びバリア性に優れたバリアフィルムが得られる。
【0170】
バリア層の厚みは、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上であり、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1000nm以下である。
バリア層の水蒸気透過率は、その上限が、0.1g/m
2・day以下であることが好ましく、0.01g/m
2・day以下であることがより好ましい。
【0171】
バリアフィルムは、本発明の樹脂フィルム上にバリア層を形成する工程を含む製造方法によって製造しうる。バリア層の形成方法は、特に限定されず、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト蒸着法、アーク放電プラズマ蒸着法、熱CVD法、プラズマCVD法等の成膜方法により形成しうる。アーク放電プラズマ法では、適度なエネルギーを有する蒸発粒子が生成され、高密度のバリア層を形成することができる。また、複数種類の成分を同時に蒸着又はスパッタリングすることで、これら複数の成分を含むバリア層を形成することができる。また、ポリシラザン系化合物を本発明の樹脂フィルム上に塗布、乾燥した後、ポリシラザン系化合物をシリカガラスに転化させる方法によってもバリア層を形成することができる。
【0172】
前記のようなバリアフィルムの製造方法の具体例を、それを行う装置の例を参照して説明する。
図7は、バリア層をCVD法により無機層として成膜しうる成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。
図7に示すように、成膜装置700は、フィルム巻き取り式のプラズマCVD装置であり、長尺の樹脂フィルム50のロール体701から繰り出される樹脂フィルム50に、CVD法にてバリア層を連続的に成膜してバリアフィルム70を得て、このバリアフィルム70をロール体702として巻き取る一連の操作を行う。
【0173】
成膜装置700は、ガイドロール711、キャンロール712、及びガイドロール713を有し、これにより、繰り出された樹脂フィルム50を矢印A1で示される向きに導き、製造工程に供することができる。ガイドロール711、キャンロール712、及びガイドロール713の位置及びこれらが樹脂フィルム50に賦与する張力を適宜調整することにより、樹脂フィルム50は、キャンロール712により導かれる間、キャンロール712に密着した状態とされる。
【0174】
キャンロール712は、矢印A2で示す方向に回転し、その上の樹脂フィルム50は、反応管721に近づいた状態で搬送される。その際、電源723から電極722に電力を印加し、一方、キャンロール712を適切な接地手段(不図示)により接地し、かつガス導入口724から矢印A3の方向にバリア層の材料のガスを導入する。これにより、樹脂フィルム50の面上にバリア層を連続的に形成することができる。かかる一連の操作は、真空槽790で囲繞された空間内で行なわれる。真空槽790内の圧力は、真空排気装置730を操作することにより減圧し、CVD法に適した圧力に調整しうる。
【0175】
このような工程を高出力で実施した場合、仮に樹脂フィルム50が高温環境下での寸法安定性に劣ると、キャンロール212からの樹脂フィルム50の浮きが発生したり、樹脂フィルム50の変形が生じたりしやすいので、良好なバリア層の連続的な形成が困難となる可能性がある。しかし、本発明の樹脂フィルム50は、高温環境下での寸法安定性に優れるので、前記のような浮きが発生し難い。そのため、本発明の樹脂フィルム50を用いれば、平坦かつ均一なバリア層を連続的に形成できるので、バリアフィルム70の効率の良い製造が可能である。また、本発明の樹脂フィルム50は耐熱性に優れるので、樹脂フィルム50への熱ダメージを抑制できる。そのため、水蒸気透過率の小さいバリアフィルム70を容易に製造できる。
【0176】
また、前記のバリアフィルムは、樹脂フィルム及びバリア層に組み合わせて任意の層を備えうる。このような任意の層の例としては、帯電防止層、ハードコート層、及び汚染防止層等が挙げられる。これらの任意の層は、例えば、バリア層上に任意の層の材料を塗布し硬化させる方法、又は、熱圧着により貼付する方法などの方法により設けうる。
【実施例】
【0177】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。さらに、以下の説明において、「sccm」は気体の流量の単位であり、1分間当たりに流れる気体の量を、その気体が25℃、1atmである場合の体積(cm
3)で示す。「試験片」とは、以下に述べる実施例及び比較例に係る樹脂フィルム又は導電性フィルム又はバリアフィルムを所定のサイズに切り出したものをいう。
【0178】
[評価方法]
〔厚みの測定方法〕
試験片の樹脂フィルムの厚み(μm)は、接触式ウェブ厚さ計(明産社製、製品名「RC−101」)を用いて測定した。
【0179】
〔厚みムラTvの測定方法〕
試験片の樹脂フィルムの厚みムラTv(%)は、下記式(14)にしたがって求めた。
Tv[%]=[(Tmax−Tmin)/Tave]×100 (14)
上記式(14)中、
Tmaxは、試験片の樹脂フィルムの厚みの最大値であり、
Tminは、試験片の樹脂フィルムの厚みの最小値であり、かつ、
Taveは、試験片の樹脂フィルムの厚みの平均値である。
すなわち、試験片の樹脂フィルムの厚みムラTvは、樹脂フィルムの複数個所の厚みを測定した時の厚みの最大値Tmaxと厚みの最小値Tminの差の絶対値を厚みの平均値Taveで割ったものを百分率(%)で表したものである。
【0180】
ここで、試験片の樹脂フィルムの厚みの最大値Tmax及び最小値Tmin及び平均値Taveは、以下のようにして求めた。
試験片の樹脂フィルムの4辺のうち、互いに向き合う1組の辺をAとし、かつ、辺Aに直交するもう1組の辺をBとし、辺Aに平行な3本の直線をフィルム面上に定めた。3本の直線のうち、1本は、一方の辺Aから、辺Bの長さの1/20の距離だけ離れた直線とし、1本は、辺Bの中点を通る直線とし、残りの1本は、他方の辺Aから、辺Bの長さの1/20の距離だけ離れた直線とした。各直線上において、一方の辺Bから辺Aの長さの1/20にある距離の点を厚みの計測箇所の始点とし、他方の辺Bから辺Aの長さの1/20にある点を終点として、等間隔で互いに離れた10点の計測箇所を定め、各計測箇所で、厚みを計測した。
そして、合わせて30点の計測箇所で得られた厚みのうち、その最大値を、試験片の樹脂フィルムの厚みの最大値Tmaxとし、その最小値を、試験片の樹脂フィルムの厚みの最小値Tminとし、その平均値を、試験片の樹脂フィルムの厚みの平均値Taveとした。
【0181】
〔結晶化度の測定方法〕
重合体の結晶化度(%)は、X線回折法によって測定した。
【0182】
〔内部ヘイズ〕
試験片の樹脂フィルムの内部ヘイズは以下のようにして測定した。まず、試験片の樹脂フィルムとして、50mm×50mmのサイズに切り出したものを用意した。続いて、試験片の樹脂フィルムの両表面に、厚み50μmの透明光学粘着フィルム(3M社製、8146−2)を介して、シクロオレフィンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム「ZF14−040」、厚さ40μm)を貼合した。次いで、シクロオレフィンフィルムを貼り合わせた試験片の樹脂フィルムのヘイズを、ヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定した。測定の結果得られたヘイズ値から、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和0.04を差し引いた値を試験片の樹脂フィルムの内部ヘイズとした。
ここで、シクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和を求めるために、シクロオレフィンフィルム、透明光学粘着フィルム、透明光学粘着フィルム、及び、シクロオレフィンフィルムをこの順に備える積層体を形成した。そして、この積層体のヘイズ値を測定し、得られた測定値をシクロオレフィンフィルム2枚分のヘイズ値と透明光学粘着フィルム2層分のヘイズ値の和とした。
【0183】
〔破断屈曲回数の測定方法〕
試験片の樹脂フィルムの耐屈曲性を評価するために、破断屈曲回数(×千回)を以下のようにして測定した。具体的には、まず、試験片の樹脂フィルムとして、幅50mm×長さ100mmのサイズに切り出したものを用意した。そして、試験片の樹脂フィルムの破断屈曲回数の測定を、ユアサシステム機器社製の卓上型耐久試験機「DLDMLH−FS」を用いた面状体無負荷U字伸縮試験の方法にしたがって行った。伸縮試験の条件として、試験片の樹脂フィルムの曲げ半径1mm、伸縮速度80回/分の条件を設定した。ここでは、樹脂フィルムが、ほぼ平坦な状態から半径1mmの屈曲部を有する状態にまで曲げられ、再びほぼ平坦な状態になるまでを屈曲回数1回として計数している。そして、試験片の樹脂フィルムの屈曲を繰り返し行った。屈曲回数1万回までは1000回毎に、1万回を超えて5万回までは5000回毎に、5万回を超えた以降は1万回毎に試験機を一旦停止して、試験片の樹脂フィルムの破断(クラック)がわずかでも生じたかどうかを目視で確認した。クラックが生じた時点での屈曲回数を「破断屈曲回数」とした。このような破断屈力回数の測定を5枚の試験片の樹脂フィルムに対して行った(N=5)。5枚の試験片の樹脂フィルムについて得られた破断屈曲回数のうち、最も少ないものを耐屈曲性の評価に用いた。
ここで、破断屈曲回数が多いほど樹脂フィルムが耐屈曲性に優れることを意味し、破断屈曲回数が100千回(10万回)以上の場合に、樹脂フィルムが耐屈曲性に十分に優れていると評価され、破断屈曲回数が200×千回(20万回)超の場合に、樹脂フィルムが耐屈曲性に特に優れていると評価される。
【0184】
〔重合体の水素化率の測定方法〕
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン−d
4を溶媒として、145℃で、
1H−NMR測定により測定した。
【0185】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法〕
重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC−8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0186】
〔重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法〕
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン−d
4を溶媒として、200℃で、inverse−gated decoupling法を適用して、重合体の
13C−NMR測定を行った。この
13C−NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン−d
4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0187】
〔ガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tpcの測定方法〕
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷し、これにより、非晶質性の重合体を得た。続いて、非晶質性の重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg、融点Tm及び結晶化ピーク温度Tpcを測定した。
【0188】
〔フィルム変形量の測定方法〕
導電性フィルムの試験片の耐屈曲性を評価するために、フィルム変形量(μm)を以下のように測定した。
まず、導電性フィルムの試験片として、50mm×50mmの大きさに切り出したものを用意した。次いで、導電性フィルムの樹脂フィルム側の面を上にして、導電性フィルムを平らなステージ上に置いた。この導電性フィルムの上に、厚さ100μm、50mm×50mmの大きさのガラス板を、互いの4つの角が一致するように重ねた。この状態で、ガラス板の4つの角における、ステージ上面からガラス板上面までの高さを、超深度顕微鏡(キーエンス社製「VK−9500」)を用いて測定した。こうして得られた測定値から、下記式を用いて、導電性フィルムのフィルム変形量を算出した。
式:フィルム変形量(μm)=4つの角における高さの測定値の平均値−樹脂フィルムの厚みの平均値−ガラス板の厚み
また、バリアフィルムの試験片の耐屈曲性を評価するために、バリアフィルムの試験片についても、上記と同じ方法で、フィルム変形量を測定した。
ここで、フィルム変形量の値が大きいほど、導電性フィルムの試験片及びバリアフィルムの試験片に用いた樹脂フィルムに生じていた大きな変形ムラに起因して、導電性層又はバリア層を積層する際に樹脂フィルムとの間で大きな内部応力差がかかったことを意味し、その場合、導電性フィルムの試験片及びバリアフィルムの試験片の耐屈曲性は十分に優れているとはいえないと評価される。
【0189】
[製造例1.ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の製造]
樹脂フィルムを構成しうる重合体として、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を以下のようにして製造した。
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1−ヘキセン1.8部を加え、53℃に加温した。
【0190】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解した溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n−ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,830および29,800であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.37であった。
【0191】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2−エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP−HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0192】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行った。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0193】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上であることが確認され、ガラス転移温度Tgは97℃、融点Tmは266℃、結晶化ピーク温度Tpcは136℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0194】
[製造例2A.厚み50μmの第1のフィルムの製造]
樹脂フィルムに延伸処理を施す前の第1のフィルムを以下のようにして製造した。
製造例1で得たジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合して、樹脂フィルムの材料となる結晶性樹脂を得た。
【0195】
前記の結晶性樹脂を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM−37B」)に投入した。前記の二軸押出機によって、樹脂を熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターにて細断して、樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:270℃〜280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0196】
引き続き、得られた樹脂のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。フィルム成形機の運転条件として、バレル温度280℃〜290℃、ダイ温度270℃、及びスクリュー回転数30rpmを設定した。そして、このフィルム成形機は、樹脂ペレットが溶融した溶融樹脂を、回転するキャストロール上に向けて、幅500mmのフィルム状に、押し出した(キャスト)。このときのキャストロールの回転速度は、6m/分に設定した。その後、押し出された溶融樹脂は、ロール上で冷却されることにより、長尺のフィルム状に成形された。これにより、第1のフィルムを得た。得られた第1のフィルムの厚みは、50μmであった。
【0197】
[製造例2B.厚み25μmの第1のフィルムの製造]
キャストロールの回転速度を12m/分に変更したこと以外は、製造例2Aに係る第1のフィルムの製造と同様にして、フィルム成形機を運転させた。その結果得られた第1フィルムの厚みは、25μmであった。
【0198】
[実施例1]
〔1−1.予熱工程〕
製造例2Aで得た厚み50μmの第1のフィルムを、任意の部位で350mm×350mmの正方形に必要な枚数分だけ切り出した。この切り出しは、切り出された厚み50μmの第1のフィルムの正方形の一対の二辺が、長尺の第1のフィルムのMD方向に平行になるように行った。そして、切り出された厚み50μmの第1のフィルムを、小型延伸機(東洋精機製作所社製「EX10―Bタイプ」)に設置した。この小型延伸機は、フィルムの四辺を把持しうる複数のクリップを備え、このクリップを移動させることによってフィルムを延伸できる構造を有している。この小型延伸機を用いて、厚み50μmの第1のフィルムを、四辺を保持した状態で、クリップ間の距離を変更することなく、オーブン(予熱ゾーン)を用いて、予熱温度Tphで予熱時間tphにわたって予熱した。予熱温度Tphは、120℃に設定し、また、予熱時間tphは、80秒間に設定した。このようにして、予熱済みの第1のフィルムとして、第2のフィルムを得た。
【0199】
〔1−2.延伸工程〕
〔1−1〕で得た第2のフィルムは、引き続き、小型延伸機のオーブン(延伸ゾーン)内に載置された状態で、直ちに、クリップ間の距離を徐々に拡大させることにより(このとき、延伸倍率の値が1超の値をとる)、第2のフィルムをTD方向に延伸させた。クリップ間の距離の拡大は、フィルムの延伸倍率が設定した延伸倍率に到達した時点で停止させた。このときの延伸速度は、1000mm/分に設定した。また、延伸倍率は、2.5倍に設定した。延伸温度Tstは、120℃に設定した。このようにして、延伸処理済みの第2のフィルムとして、第3のフィルムを得た。得られた第3のフィルムの厚みの平均値を求めたところ、20μmであった。
【0200】
〔1−3.熱固定工程〕
引き続き、〔1−2〕で得た第3のフィルムの四辺を小型延伸装置のクリップで保持した状態で、小型延伸装置に付属した一対の二次加熱板を第3のフィルムの両面に接近させることにより、熱固定処理を行った。二次加熱板の大きさは300mm×300mmで、一対の加熱板と第3のフィルムとの接近距離は上下各々8mmとなるように調整した。これにより、第3のフィルムは、熱固定温度Ttsで30秒間、一対の加熱板で画成される熱固定ゾーン内で加熱される状態が保持された。このようにして、第3のフィルムに含まれる重合体の結晶化を促進させる結晶化工程を熱固定温度Ttsで熱固定時間ttsにわたって行って、結晶化処理が施された第3のフィルムとして、第4のフィルムを得た。熱固定温度Ttsは、180℃に設定した。熱固定時間ttsは、30秒であった。
得られた第4のフィルムに含まれる重合体の結晶化度を測定したところ、73%であった。
【0201】
〔1−4.緩和工程〕
第4のフィルムの四辺を保持した状態で、第4のフィルムを、熱固定工程における熱固定温度Ttsと同じ設定温度で、TD方向に3%、MD方向に1%、5秒間かけて同時にクリップ間距離を縮小させ、そのまま同じ温度で10秒間保持した。これにより、試験片を切り出すための実施例1に係る樹脂フィルムを得た。
得られた樹脂フィルムの内部ヘイズを測定したところ、0.07%であった。また、樹脂フィルムの破断屈曲回数を測定したところ、130千回(13万回)であった。
【0202】
[実施例2]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを40秒に設定し、かつ予熱温度Tphを125℃に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを125℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0203】
[実施例3]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを65秒に設定した。以上の事項以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0204】
[実施例4]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを130℃に設定し、かつ、予熱時間tphを30秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを130℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0205】
[実施例5]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを40秒に設定した。以上の事項以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0206】
[実施例6]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを50秒に設定した。以上の事項以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0207】
[実施例7]
前記の工程〔1−3.熱固定工程〕において、熱固定温度Ttsを155℃に設定した。以上の事項以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0208】
[実施例8]
前記の工程〔1−3.熱固定工程〕において、熱固定温度Ttsを235℃に設定した。以上の事項以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0209】
[実施例9]
前記の工程〔1−3.熱固定工程〕において、熱固定温度Ttsを250℃に設定した。以上の事項以外は実施例4と同様の操作を行った。
【0210】
[実施例10]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを135℃に設定し、かつ、予熱時間tphを20秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを135℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
[実施例11]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを30秒に設定した。以上の事項以外は実施例10と同様の操作を行った。
[実施例12]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを40秒に設定した。以上の事項以外は実施例10と同様の操作を行った。
【0211】
[実施例13]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを140℃に設定し、かつ、予熱時間tphを10秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを140℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
[実施例14]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを30秒に設定した。以上の事項以外は実施例13と同様の操作を行った。
【0212】
[実施例15]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを145℃に設定し、かつ、予熱時間tphを15秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを145℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0213】
[実施例16]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、製造例2Bで得た厚み25μmの第1のフィルムを用い、予熱温度Tphを130℃に設定し、かつ、予熱時間tphを30秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを130℃に設定し、かつ、延伸倍率を1.25倍に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0214】
[実施例17]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを50秒に設定した。以上の事項以外は実施例16と同様の操作を行った。
【0215】
[比較例1]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを110℃に設定し、かつ、予熱時間tphを100秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを110℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0216】
[比較例2]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを115℃に設定し、かつ、予熱時間tphを60秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを115℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0217】
[比較例3]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを105秒に設定した。以上の事項以外は比較例2と同様の操作を行った。
【0218】
[比較例4]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱時間tphを95秒に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0219】
[比較例5]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを125℃に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを125℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0220】
[比較例6]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを130℃に設定し、かつ、予熱時間tphを70秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを130℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0221】
[比較例7]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを130℃に設定し、かつ、予熱時間tphを30秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを130℃に設定し、また、前記の工程〔1−3.熱固定工程〕において、熱固定温度Ttsを140℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0222】
[比較例8]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを135℃に設定し、かつ、予熱時間tphを55秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを135℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0223】
[比較例9]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを140℃に設定し、かつ、予熱時間tphを45秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを140℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0224】
[比較例10]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを145℃に設定し、かつ、予熱時間tphを30秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを145℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0225】
[比較例11]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを150℃に設定し、かつ、予熱時間tphを5秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを150℃に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0226】
[比較例12]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを155℃に設定し、また、それに続く前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを155℃に設定した。前記の工程〔1−1.予熱工程〕における予熱時間tphは実質0秒であった。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0227】
[比較例13]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、製造例2Bで得た厚み25μmの第1のフィルムを用い、予熱温度Tphを110℃に設定し、かつ、予熱時間tphを100秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを110℃に設定し、かつ、延伸倍率を1.25倍に設定した。以上の事項以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0228】
[比較例14]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを130℃に設定し、かつ、予熱時間tphを70秒に設定し、さらに、前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを130℃に設定した。以上の事項以外は比較例13と同様の操作を行った。
【0229】
[比較例15]
前記の工程〔1−1.予熱工程〕において、予熱温度Tphを155℃に設定し、また、それに続く前記の工程〔1−2.延伸工程〕において、延伸温度Tstを155℃に設定した。前記の工程〔1−1.予熱工程〕における予熱時間tphは実質0秒であった。以上の事項以外は比較例13と同様の操作を行った。
【0230】
[結果]
上述した実施例1〜17の製造条件を表1に示し、その評価結果を表2に示す。また、上述した比較例1〜15の製造条件を表3に示し、その評価結果を表4に示す。下記の表1〜4において、略称の意味は、以下の通りである。表1及び表3において、厚みの平均値は、第1のフィルムの厚みの平均値を示す。表2及び表4において、厚みの平均値は、樹脂フィルムの厚みの平均値を示す。
「Tph」:予熱温度。
「tph」:予熱時間。
「Tst」:延伸温度。
「Tts」:熱固定温度。
「tts」:熱固定時間。
「Tv」:厚みムラ。
【0231】
【表1】
【0232】
【表2】
【0233】
【表3】
【0234】
【表4】
【0235】
以下、実施例18〜21並びに比較例16〜19を説明する。これらの実施例及び比較例では、得られた樹脂フィルムを用いて、以下のように、導電性フィルムの試験片及びバリアフィルムの試験片を得て、フィルム変形量(μm)の測定を行った。
【0236】
[実施例18]
〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕
まず、樹脂フィルムの片面にスパッタ法で導電性層を形成しうる成膜装置を用意した。この成膜装置は、当該装置内を連続的に搬送される長尺のキャリアフィルム上に固定された樹脂フィルムの表面に、所望の導電性層を形成しうるフィルム巻き取り式のマグネトロンスパッタリング装置である。また、キャリアフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0237】
実施例4の樹脂フィルムの一部を、100mm×100mmの大きさの正方形に必要な枚数分だけ切り出した。切り出した樹脂フィルムをキャリアフィルムにポリイミドテープで固定した。そして、このキャリアフィルムを成膜装置に供給し、樹脂フィルムの片面に導電性層を形成した。この際、スパッタリングのターゲットとしては、In
2O
3−SnO
2セラミックターゲットを用いた。また、成膜条件は、アルゴン(Ar)流量150sccm、酸素(O
2)流量10sccm、出力4.0kw、真空度0.3Pa、フィルム搬送速度0.5m/minとした。
【0238】
その結果、ITOからなる厚さ100nmの透明な導電性層が、樹脂フィルムの片面に形成されて、導電性層及び樹脂フィルムを備える導電性フィルムが得られた。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は4μmであった。
【0239】
[実施例19]
前記の工程〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕において、実施例16の樹脂フィルムの一部を用いた。以上の事項以外は実施例18と同様の操作を行った。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は7μmであった。
【0240】
[比較例16]
前記の工程〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕において、比較例6の樹脂フィルムの一部を用いた。以上の事項以外は実施例18と同様の操作を行った。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は25μmであった。
【0241】
[比較例17]
前記の工程〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕において、比較例14の樹脂フィルムの一部を用いた。以上の事項以外は実施例18と同様の操作を行った。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は31μmであった。
【0242】
[結果]
上述した実施例18及び19並びに比較例16及び17の結果を表5に示す。
【0243】
【表5】
【0244】
[実施例20]
〔20−6.バリアフィルムの製造工程〕
まず、樹脂フィルムの片面にCVD法でバリア層を形成しうる成膜装置を用意した。この成膜装置は、
図7に示した成膜装置と同様に、当該装置内を搬送されるフィルムの表面に所望のバリア層を形成しうるフィルム巻き取り式のプラズマCVD装置である。ただし、ここで使用する成膜装置は、枚葉の樹脂フィルムにバリア層を形成するため、キャリアフィルムに固定された樹脂フィルムにバリア層を形成しうる構造を有している。具体的には、用意された成膜装置は、当該装置内を連続的に搬送される長尺のキャリアフィルム上に樹脂フィルムを固定した場合に、その樹脂フィルムの表面に所望のバリア層を形成しうる構造を有している。また、キャリアフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0245】
前記の工程〔1−4.緩和工程〕で得た実施例4の樹脂フィルムの一部を、100mm×100mmの大きさの正方形に必要な枚数分だけ切り出した。切り出した樹脂フィルムをキャリアフィルムにポリイミドテープで固定した。そして、このキャリアフィルムを前記の成膜装置に供給し、樹脂フィルムの片面にバリア層を形成した。この際の成膜条件は、テトラメチルシラン(TMS)流量10sccm、酸素(O
2)流量100sccm、出力0.8kW、全圧5Pa、フィルム搬送速度0.5m/minとし、RFプラズマ放電により成膜を行った。
【0246】
その結果、SiOxからなる厚さ300nmのバリア層が、樹脂フィルムの片面に形成されて、バリア層及び樹脂フィルムを備えるバリアフィルムが得られた。バリアフィルムの試験片のフィルム変形量は3μmであった。
【0247】
[実施例21]
前記の工程〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕において、実施例16の樹脂フィルムの一部を用いた。以上の事項以外は実施例18と同様の操作を行った。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は4μmであった。
【0248】
[比較例18]
前記の工程〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕において、比較例6の樹脂フィルムの一部を用いた。以上の事項以外は実施例18と同様の操作を行った。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は19μmであった。
【0249】
[比較例19]
前記の工程〔18−5.導電性フィルムの製造工程〕において、比較例14の樹脂フィルムの一部を用いた。以上の事項以外は実施例18と同様の操作を行った。導電性フィルムの試験片のフィルム変形量は22μmであった。
【0250】
[結果]
上述した実施例20及び21並びに比較例18及び19の結果を表6に示す。
【0251】
【表6】
【0252】
[検討]
表2及び表4中の予熱温度Tphと予熱時間tphをプロットしたグラフを
図8に示す。ただし、
図8に示されているのは、厚みが50μmの第1のフィルムを用いた実施例1〜15並びに比較例1〜6及び8〜12の予熱温度Tphと予熱時間tphの関係である。
図8からわかるように、予熱温度TphがT1〜T2の範囲内において、実施例と比較例との間で予熱時間tphの臨界(上限tph(max))が認められた。ここで、上限tph(max)の集合は、
図8中で、予熱温度TphがT1〜T2の間に示す二点鎖線の近傍にあることが分かる。また、言い換えると、実施例と比較例との間の臨界が認められた予熱時間tphは、予熱温度TphがT1〜T2の範囲であった。したがって、本発明にしたがって樹脂フィルムの厚みムラTvを5%以下に小さくするためには、
図8に示されるように、予熱温度TphをT1〜T2の範囲内の温度に設定し、かつ、予熱時間tphを、その上限tph(max)以下の時間に設定すればよいことが分かった。
【0253】
前記の実施例1〜17で測定した厚みムラTvは、いずれも5%以下であり、その場合に、破断屈曲回数は100千回を超えること、すなわち、耐屈曲性に優れることが確認された。また、比較例7に示されるように、熱固定温度Ttsが低いと、結晶化の進行が遅いことが確認された。
【0254】
また、比較例7では、熱固定時間ttsを他の実施例と同様に30秒としたにもかかわらず、結晶化度が26%にまでしか到達せず、そのため、樹脂フィルムの強度及び耐屈曲性が十分に優れているとはいえないものであった。その理由は、熱固定温度Ttsが140℃と低すぎたためであると考えられる。一方で、比較例7は、130℃での予熱時間tphが十分に確保されていたために、厚みムラTvを小さくすることができたと考えられる。このことから、予熱工程において第1のフィルムを一定の温度で十分な時間にわたって予熱しておくことにより、メカニズムは特定されないものの、後の熱固定工程において厚みの均一性が損なわれる事態を抑制又は均質化することができたものと推測される。厚みの均一性が損なわれる事態としては、高温に曝されることによる、フィルム内部での局所的な収縮又は局所的な弛緩が挙げられる。
【0255】
また、実施例18〜21によれば、樹脂フィルムを導電性層を形成するための基材フィルムとして用いることによりフィルム変形量が小さく良好な導電性フィルムが得られること、及び、導電性層を形成するための基材フィルムとして用いることによりフィルム変形量が小さく良好な導電性フィルムが得られることが確認された。