【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業/研究成果最適展開支援プログラム「高強度・高放熱接合技術による次世代パワーデバイスの特性向上」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0016】
(1)接合用組成物
本発明の実施の形態にかかる接合用組成物は、異なる金属部材同士の間に介在し、両者を接合するために用いられる。接合用組成物は、金属粒子として、平均粒径が0.5〜22μmである毬栗状の導電粉(マイクロサイズ銀粒子)、および有機溶媒を少なくとも含む混合物であり、必要に応じて分散剤等を含有する。以下、これら各成分について説明する。
【0017】
(1−1)導電粉(マイクロサイズ銀粒子)
本発明の実施の形態にかかる接合用組成物の金属粒子としては、平均粒径が0.5〜22μmである毬栗状の導電粉を用いることが好ましい。また、金属粒子の平均粒径は、が1〜15μmであることが好ましく、3〜10μmであることがさらに好ましい。平均粒径をマイクロサイズとすることで、ナノサイズの粒子と比較して分散性及び安定性が向上するため、分散性及び安定性を確保するために必要となる有機物の量を大幅に低減することができる。加えて、例えば平均粒径を10μm以下とすることで、金属粒子間の接点等を確保するために十分な表面積を得ることができる。導電粉の平均粒径は、レーザー方式のパーティクルカウンターにより測定することができるし、あるいは電子顕微鏡写真から実測することもでき、さらには、当該電子顕微鏡写真から、画像処理装置を用いて算出することもできる。
【0018】
また、本実施形態の接合用組成物の金属粒子として好ましいのは、以下の(a)、(b)を備える導電粉である。
(a)導電材料としての銀を結晶成長させるための核物質であって、当該核物質として、金属系粒子又はセラミック系粒子を含んでなり、核物質の平均粒径が0.01〜10μmである核物質
(b)凹凸{即ち、粒子(または核物質)の中心からみて放射状に延設された凸部(突起と称することがある)、及び当該凸部同士の間隙にある凹部(窪みと称することがある)}
なお、核物質の平均粒径は、0.1〜5μmであることが好ましく、0.5〜3μmであればより好ましい。
【0019】
この導電粉によれば、放射状に延設された凸部同士、及び放射状に延設された凸部と当該凸部の間隙の凹部とが良好に接触し、低温(150〜350℃)に保持することで当該接触部分から焼結が効果的に進行する。
【0020】
核物質は、金属系粒子又はセラミック系粒子(無機系粒子)であることが好ましい。この理由は、金属系粒子を使用することにより、比重や粒径の調整が容易になるばかりか、形状保持性や電気抵抗率の調整についても容易になるためである。さらに、セラミック系粒子を使用することにより、比重や粒径の調整が容易になるばかりか、形状保持性や耐熱性等の特性についてもさらに向上させることができるためである。
【0021】
ここで、金属系粒子としては、銀粒子、金粒子、銅粒子、アルミニウム粒子、亜鉛粒子、半田粒子、錫粒子、ニッケル粒子等の一種単独又は二種以上の組合せが挙げられるが、銀粒子を用いることが好ましい。さらに、セラミック系粒子としては、シリカ粒子(ホワイトカーボン)、酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化亜鉛粒子、酸化スズ粒子、酸化ニオブ粒子等の一種単独又は二種以上の組合せが挙げられる。特に、これらの粒子のうち、シリカ粒子(ホワイトカーボン)や酸化チタン粒子を使用することにより、比重や粒径、あるいは電気抵抗率の調整が容易になるばかりか、形状保持性等の特性についても著しく向上させることができることから、好ましい核物質である。
【0022】
また、核物質の種類に関して、多孔質であるか、あるいは凝集粒子であることが好ましい。この理由は、多孔質や凝集粒子の核物質を中心として、放射状に凸部を均一に延設することができ、粒度分布がさらに狭く、かつ形状保持性に優れた導電粉を得ることができるためである。したがって、多孔質や凝集粒子からなる核物質に関して、BET表面積を0.01〜500m
2/gの範囲内の値とすることが好ましい。なお、核物質が多孔質、あるいは凝集粒子であるか否かは、電子顕微鏡観察によって、容易に確認することができる。
【0023】
核物質の添加量は、全体量に対して、0.01〜30重量%の範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、かかる核物質の添加量が0.01重量%未満の値になると、核物質を中心として、放射状に凸部を均一に延設することが困難になる場合があるためである。一方、かかる核物質の添加量が30重量%を超えると、導電粉の電気抵抗率が著しく上昇する場合があるためである。したがって、核物質の添加量を、全体量に対して、0.1〜20重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5〜10重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。なお、核物質の添加量は、所定量以上、例えば、1重量%以上であれば、一例として、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて測定することができる。
【0024】
導電粉の凸部の形状は、針状(若しくは繊維状)、桿状、及び花弁状からなる群から選択される少なくとも一つの形状であることが好ましい。更には、接合用組成物に、凸部の形状が針状からなる導電粉、凸部の形状が桿状からなる導電粉、及び凸部の形状が花弁状からなる導電粉を全て含むことが好ましい。
【0025】
針状の凸部を有する銀粉と、桿状の凸部を有する銀粉と、花弁状の凸部を有する銀粉とを組合せることにより、接点の形成が容易となって、低温焼結性がさらに向上する。より具体的には、導電粉の全体量を100重量%としたときに、針状の凸部を有する銀粉を10〜50重量%、桿状の凸部を有する銀粉を15〜50重量%、及び花弁状の凸部を有する銀粉を20〜50重量%の範囲内で適宜混合使用することが好ましい。
【0026】
凸部の長さは、当該凸部の先端に接して囲む閉曲面の成す球の平均半径の40%より大きいことが好ましい。この理由は、このような凸部であれば、適当な大きさを有することになり、凹部との嵌合連結がより確実なものとなり、嵌合部分の機械的安定性も向上するためである。
【0027】
凹部は、凸部同士の間隙に設けられた窪み形状であって、断面方向横(粒子の中心を通過する平面を切断面とする断面における該断面と直交する方向)からみた場合に、異なる導電粉の凸部が入り込むことのできる形状(より理想的には、異なる導電粉の凸部がこの凹部に嵌合連結可能な形状)であればよい。この理由は、このように構成することにより、隣接する導電粉間で、凸部と凹部とが容易に嵌合連結することができるためである。また、凹部の深さ(大きさ)を導電粉に占める凹部の体積、すなわち凹部からなる空隙率で表すことが可能である。具体的には、凸部の先端を囲む閉曲線からなる球の体積を100容量%としたときに、凹部からなる空隙率を40容量%以上の値とすることが好ましい。この理由は、かかる凹部からなる空隙率が40容量%未満の値となると、凸部と凹部との嵌合連結が不十分となる場合があるためである。一方、かかる凹部からなる空隙率が過度に大きくなると、導電粉の機械的強度が著しく低下する場合がある。したがって、凹部からなる空隙率を42〜70容量%の範囲内の値とすることがより好ましく、45〜60容量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0028】
接合用組成物における導電粉の含有量は70〜80質量%とすることが好ましく、70〜74質量%とすることがより好ましい。導電粉の含有量が70質量%以上であると、被接合面に塗布した接合用組成物が加熱された際に導電粉同士の接触を担保することができ、十分な接合強度を得ることができ、80質量%以下であると、被接合面に接合用組成物を均一に塗布しやすい。また、当該質量%の範囲内でより導電粉の含有量が少ない範囲、具体的には、70〜74質量%とすることで、比較的高価な導電粉の使用量をより低減させることができる(接合強度は維持される)。
【0029】
ここで、接合用組成物の導電粉の含有量が少なくなると導電粉同士の接点が少なくなり、接合強度が著しく低下するのが一般的である。これに対し、本発明の接合方法においては、導電粉として比較的大きなマイクロサイズ銀粒子を使用していることに加え、当該マイクロサイズ銀粒子は表面に放射状に延設された凸部を有していることから、接合用組成物中の導電粉の含有量が70〜80質量%と少ない場合であっても十分な接合強度を発現することができる。
【0030】
本実施の形態にかかる接合用組成物の金属粒子は、上述の特徴を有する導電粉(マイクロサイズ銀粒子)であれば特に制限されないが、例えば、化研テック株式会社製の導電粉を好適に用いることができる。
【0031】
(1−2)有機溶剤
本実施の形態にかかる接合用組成物に用いる有機溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲で種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、テルペン系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、セロソルブ系溶剤、カルビトール系溶剤等が挙げられる。より具体的には、ターピネオール、メチルエチルケトン、アセトン、イソプロパノール、ブチルカービトール、デカン、ウンデカン、テトラデカン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、ケロシン等の有機溶媒を用いることができる。
【0032】
(1−3)その他
本実施の形態にかかる接合用組成物には、上記の成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、使用目的に応じた適度な粘性、密着性、乾燥性又は印刷性等の機能を付与するために、分散媒や、例えばバインダーとしての役割を果たすオリゴマー成分、樹脂成分、有機溶剤(固形分の一部を溶解又は分散していてよい。)、界面活性剤、増粘剤又は表面張力調整剤等の任意成分を添加してもよい。かかる任意成分としては、特に限定されない。
【0033】
任意成分のうちの分散媒としては、本発明の効果を損なわない範囲で種々のものを使用可能であり、例えば炭化水素及びアルコール等が挙げられる。
【0034】
炭化水素としては、脂肪族炭化水素、環状炭化水素及び脂環式炭化水素等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
脂肪族炭化水素としては、例えば、テトラデカン、オクタデカン、ヘプタメチルノナン、テトラメチルペンタデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トリデカン、メチルペンタン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
【0036】
環状炭化水素としては、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0037】
脂環式炭化水素としては、例えば、リモネン、ジペンテン、テルピネン、ターピネン(テルピネンともいう。)、ネソール、シネン、オレンジフレーバー、テルピノレン、ターピノレン(テルピノレンともいう。)、フェランドレン、メンタジエン、テレベン、ジヒドロサイメン、モスレン、イソテルピネン、イソターピネン(イソテルピネンともいう。)、クリトメン、カウツシン、カジェプテン、オイリメン、ピネン、テレビン、メンタン、ピナン、テルペン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0038】
また、アルコールは、OH基を分子構造中に1つ以上含む化合物であり、脂肪族アルコール、環状アルコール及び脂環式アルコールが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、OH基の一部は、本発明の効果を損なわない範囲でアセトキシ基等に誘導されていてもよい。
【0039】
脂肪族アルコールとしては、例えば、ヘプタノール、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等)、デカノール(1−デカノール等)、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、オクタデシルアルコール、ヘキサデセノール、オレイルアルコール等の飽和又は不飽和C
6−30脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0040】
環状アルコールとしては、例えば、クレゾール、オイゲノール等が挙げられる。
【0041】
脂環式アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール等のシクロアルカノール、テルピネオール(α、β、γ異性体、又はこれらの任意の混合物を含む。)、ジヒドロテルピネオール等のテルペンアルコール(モノテルペンアルコール等)、ジヒドロターピネオール、ミルテノール、ソブレロール、メントール、カルベオール、ペリリルアルコール、ピノカルベオール、ソブレロール、ベルベノール等が挙げられる。
【0042】
本実施の形態にかかる接合用組成物中に分散媒を含有させる場合の含有量は、粘度などの所望の特性によって調整すればよく、接合用組成物中の分散媒の含有量は、1〜30質量%であるのが好ましい。分散媒の含有量が1〜30質量%であれば、接合用組成物として使いやすい範囲で粘度を調整する効果を得ることができる。分散媒のより好ましい含有量は1〜20質量%であり、更に好ましい含有量は1〜15質量%である。
【0043】
樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ブロックドイソシアネート等のポリウレタン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂又はテルペン系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
有機溶剤としては、上記の分散媒として挙げられたものを除き、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、重量平均分子量が200以上1,000以下の範囲内であるポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、重量平均分子量が300以上1,000以下の範囲内であるポリプロピレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、グリセリン又はアセトン等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
増粘剤としては、例えば、クレイ、ベントナイト又はヘクトライト等の粘土鉱物、例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂又はブロックドイソシアネート等のエマルジョン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、キサンタンガム又はグアーガム等の多糖類等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
また、上記有機成分とは異なる界面活性剤を添加してもよい。多成分溶媒系の金属コロイド分散液においては、乾燥時の揮発速度の違いによる被膜表面の荒れ及び固形分の偏りが生じ易い。本実施の形態にかかる接合用組成物に界面活性剤を添加することによってこれらの不利益を抑制し、均一な導電性被膜を形成することができる接合用組成物が得られる。
【0047】
本実施の形態において用いることのできる界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の何れを用いることができ、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。少量の添加量で効果が得られるので、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0048】
なお、有機成分量を所定の範囲に調整する方法は、加熱を行って調整するのが簡便である。また、導電粉を作製する際に添加する有機成分の量を調整することで行ってもよい。加熱はオーブンやエバポレーターなどで行うことができ、減圧下で行ってもよい。常圧下で行う場合は、大気中でも不活性雰囲気中でも行うことができる。更に、有機成分量の微調整のために、アミン(及びカルボン酸)を後で加えることもできる。
【0049】
本実施の形態にかかる接合用組成物の粘度は、固形分の濃度は本発明の効果を損なわない範囲で適宜調整すればよいが、例えば0.01〜5000Pa・sの粘度範囲であればよく、0.1〜1000Pa・sの粘度範囲がより好ましく、1〜100Pa・sの粘度範囲であることが特に好ましい。当該粘度範囲とすることにより、被接合材に接合用組成物を塗布する方法として幅広い方法を適用することができる。
【0050】
粘度の調整は、導電粉の粒径の調整、有機物の含有量の調整、分散媒その他の成分の添加量の調整、各成分の配合比の調整、増粘剤の添加等によって行うことができる。接合用組成物の粘度は、例えば、コーンプレート型粘度計(例えばアントンパール社製のレオメーターMCR301)により測定することができる。
【0051】
本発明の接合方法で用いる接合用組成物は、上述の導電粉及び有機溶媒等を従来公知の種々の方法で均一に混合することにより得ることができる。なお、混合方法は、乾式混合であってもよいし、溶媒等を用いて湿式混合を実施してもよい。
【0052】
(2)接合方法
本実施形態の金属接合用組成物を用いれば、加熱を伴う部材同士の接合において高い接合強度を得ることができる。
図1は、本実施の形態にかかるマイクロサイズ銀粒子を含む接合用組成物を用いた部材の接合方法を示すフローチャートである。
図2〜4は、本実施の形態にかかるマイクロサイズ銀粒子を含む接合用組成物を用いた部材の接合方法を説明する模式図である。まず、上述した金属接合用組成物Pを第1の被接合部材100に塗布する(ステップS1:接合用組成物塗布工程)。ステップS1では、
図2に示すように、第1の被接合部材100の上面にペースト状の金属接合用組成物Pを塗布する。
【0053】
ここで、「塗布」とは、金属接合用組成物Pを面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗布されて、加熱により焼成される前の状態の金属接合用組成物からなる塗膜の形状は、所望する形状にすることが可能である。したがって、金属接合用組成物Pは、面状の接合層及び線状の接合層のいずれも含む概念であり、これら面状の接合層及び線状の接合層は、連続していても不連続であってもよく、連続する部分と不連続の部分とを含んでいてもよい。
【0054】
金属接合用組成物を被接合部材に塗布する工程では、種々の方法を用いることが可能であるが、上述のように、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー式、バーコート式、スピンコート式、インクジェット式、ディスペンサー式、ピントランスファー法、刷毛による塗布方式、流延式、フレキソ式、グラビア式、又はシリンジ式等のなかから適宜選択して用いることができる。また、予め被接合部材表面に界面活性剤又は表面活性剤等を塗布しておくことも可能である。
【0055】
第1の被接合部材100に接合用組成物Pを塗布した後、無加圧下、所定の予熱温度(例えば250℃以下、好ましくは110〜150℃)および所定の時間(例えば10分)で、第1の被接合部材100上の接合用組成物Pを加熱する(ステップS2:加熱工程)。ステップS2では、粒子同士の焼結を抑制しつつ、接合用組成物Pに含まれる有機溶剤を蒸発させる。ステップS2における温度は、例えば接合用組成物Pに含まれる有機溶剤の沸点程度であって、マイクロサイズ銀粒子同士が接合しない程度の温度に設定される。ステップS2により、第1の被接合部材100に接合用組成物Pがプリコートされた成形体を得ることができる。
【0056】
その後、有機溶剤が蒸発した接合用組成物P上に第2の被接合部材101を載置し(
図3参照)、所望の温度(例えば150℃以上350℃以下、例えば300℃)および所望の圧力(例えば10MPa)下で焼成して接合する(ステップS3:接合工程)。これにより、接合用組成物Pを介して第1の被接合部材100と第2の被接合部材101とを接合することができる(
図4参照)。この際、外部から加圧するほか、第2の被接合部材101の自重圧下のみで接合用組成物Pを加圧するようにしてもよい。また、焼成を行う際、段階的に温度を上げたり下げたりすることもできる。なお、接合工程の温度が、加熱工程の予熱温度より下回る場合があるが、加熱工程は無加圧下で行っているため、例えば予熱温度を250℃としても接合用組成物P同士の接合(焼結)や、接合用組成物Pと第1の被接合部材100または第2の被接合部材101との接合が進行することはない。一方、接合用組成物Pをナノサイズとすると、例えば無加圧下で予熱温度を250℃とした場合に接合用組成物P同士の接合(焼結)が進行するため、接合用組成物がプリコートされた成形体を得ることはできない。
【0057】
本実施形態において用いることのできる第1の被接合部材及び第2の被接合部材としては、金属接合用組成物を塗布して加熱により焼成して接合することのできるものであればよく、特に制限はないが、接合時の温度により損傷しない程度の耐熱性を具備した部材であるのが好ましい。
【0058】
このような被接合部材を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー、セラミクス、ガラス又は金属等を挙げることができるが、なかでも、金属製の被接合部材が好ましい。金属製の被接合部材が好ましいのは、耐熱性に優れているとともに、無機粒子が金属である本発明の金属接合用組成物との親和性に優れているからである。
【0059】
また、被接合部材は、例えば板状又はストリップ状等の種々の形状であってよく、リジッドでもフレキシブルでもよい。基材の厚さも適宜選択することができる。接着性若しくは密着性の向上又はその他の目的ために、表面層が形成された部材や親水化処理等の表面処理を施した部材を用いてもよい。
【0060】
上記のようにプリコート後の塗膜を、被接合部材を損傷させない範囲で、例えば350℃以下の温度で加熱することにより焼成し、本実施形態の接合体を得ることができる。本実施形態においては、先に述べたように、本実施形態の金属接合用組成物を用いるため、被接合部材に対して優れた密着性を有する接合層が得られ、強い接合強度がより確実に得られる。
【0061】
以上説明した実施の形態によれば、金属接合用組成物塗布工程での金属接合用組成物として、上述した本実施の形態の金属接合用組成物を用いるとともに、予熱工程において第1の被接合部材100に接合用組成物Pがプリコートされた成形体を作製するようにしたので、第1の被接合部材100と第2の被接合部材101とを接合する作業者が、プリコートされた成形体を用いて第1の被接合部材100と第2の被接合部材101とを接合することで、比較的低い接合温度であっても接合強度を確保しつつ、部材同士を確実かつ簡易に接合することができる。
【0062】
また、上述した実施の形態によれば、予熱工程において接合用組成物Pの有機溶剤を蒸発させるようにしたので、接合用組成物Pにおける金属粒子が高密度となり、部材同士を確実かつ簡易に接合することができる。
【0063】
また、従来のようなナノサイズの導電粉を用いる場合は有機物の蒸発により、接合中の体積変化が大きくなってしまうという問題が存在するが、上述した実施の形態ではマイクロサイズの導電粉を用いるようにしたので、ナノサイズの導電粉を用いる場合と比して接合中の体積変化を抑制することができる。
【0064】
なお、上述した実施の形態において、金属接合用組成物がバインダー成分を含む場合は、接合層の強度向上及び被接合部材間の接合強度向上等の観点から、バインダー成分も焼結することになるが、場合によっては、各種印刷法へ適用するために接合用組成物の粘度を調整することをバインダー成分の主目的として、焼成条件を制御してバインダー成分を全て除去してもよい。
【0065】
上記焼成を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知のオーブン等を用いて、被接合部材上にプリコートされた金属接合用組成物の温度が、例えば350℃以下となるように焼成することによって接合することができる。上記焼成の温度の下限は必ずしも限定されず、被接合部材同士を接合できる温度であって、かつ、本発明の効果を損なわない範囲の温度であることが好ましい。ここで、上記焼成後の金属接合用組成物においては、なるべく高い接合強度を得るという点で、有機物の残存量は少ないほうがよいが、本発明の効果を損なわない範囲で有機物の一部が残存していても構わない。
【0066】
また、本発明の接合方法で用いる金属接合用組成物には、有機物が含まれているが、従来の例えばエポキシ樹脂等の熱硬化を利用したものと異なり、有機物の作用によって焼成後の接合強度を得るものではなく、上述したように融着した導電粉の融着によって十分な接合強度が得られるものである。このため、接合後において、接合温度よりも高温の使用環境に置かれて残存した有機物が劣化ないし分解・消失した場合であっても、接合強度が低下するおそれはなく、したがって耐熱性に優れている。
【0067】
本発明の接合方法で用いる金属接合用組成物によれば、例えば150〜250℃程度の低温加熱による焼成でも高い導電性を発現する接合層を有する接合を実現することができるため、比較的熱に弱い被接合部材同士を接合することができる。また、焼成時間は特に限定されるものではなく、焼成温度に応じて、接合できる焼成時間であればよい。
【0068】
本実施形態においては、上記被接合部材と接合層との密着性を更に高めるため、上記被接合部材の表面処理を行ってもよい。上記表面処理方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理を行う方法、基材上にあらかじめプライマー層や導電性ペースト受容層を設ける方法等が挙げられる。
【0069】
接合工程の雰囲気は特に制限されず、大気中、不活性ガス雰囲気下、減圧下等で行うことができる。
【0070】
また、上述した実施の形態では、毬栗状の導電粉を用いるものとして説明したが、毬栗状の導電粉に加え、球状の導電粉を含んでいてもよい。球状の導電粉は、毬栗状の導電粉同士の焼結により生じた導電粉間の間隙に収容または嵌合可能な径(例えば数μm程度)を有することが好ましい。
【0071】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、導電粉としてマイクロサイズ銀粒子のみを使用した場合について説明したが、例えば、接合用組成物にナノ粒子等を適宜添加して使用することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明のマイクロサイズ銀粒子を用いた接合方法の実施例について詳細に説明する。
【0073】
≪接合体の作製≫
化研テック株式会社製の微細な突起を有する銀粒子と有機溶剤(テルピネオール)とを混合し、銀粒子の含有量が77質量%であるペースト状の接合用組成物1を得た。
図5に、用いたマイクロサイズ銀粒子のSEM写真を示す。銀粒子の平均粒径は約3μmであり、放射状に伸びた微細な突起部と中心部に結晶成長させるための核物質とを含むような独特な形状をしていることが確認できる。
【0074】
接合体は、無酸素銅からなる接合試験片同士、または金メッキからなる試験片同士を接合用組成物により接合することにより得た。接合に用いた無酸素銅からなる接合試験片、または金メッキが施された接合試験片は、例えば
図3,4に示した形状をなす。それぞれの試験片の接合面はRmax=3.2Sとなるように旋盤加工により仕上げ、アセトン中での超音波洗浄と塩酸中での酸洗浄とを行った後、水洗と乾燥を経て試験に供した。大きい方の円板試験片(第1の被接合部材100)の接合面に接合用組成物Pを一定量塗布し、無加圧下で予熱を与えること(加熱工程)によって接合用組成物Pの銀粒子がプリコートされた成形体をそれぞれ形成した。本実施例では、窒素雰囲気下において予熱温度を110℃、130℃、150℃、170℃、190℃、210℃、230℃および250℃にそれぞれ設定した予熱を行った。また、予熱時間は、10分とした。
図6に、150℃に設定した予熱工程後のマイクロサイズ銀粒子のSEM写真を示す。
図6に示すように、加熱工程後のマイクロサイズ銀粒子においては、各粒子同士の焼結が生じていない。これにより、予熱工程では、有機溶剤が蒸発し、マイクロサイズ銀粒子が円板試験片上にプリコートされた成形体が形成されたことが分かる。
【0075】
接合用組成物Pの導電粉がプリコートされた成形体を形成後、小さい方の試験片(第2の被接合部材101)を接合用組成物Pに重ねて接合試験片を調整した。当該試験片を、窒素雰囲気下において300℃の接合温度(本加熱)で接合試験を行なった。接合に際しては、加圧力10MPaで加圧を行い、接合時間は10分とした。なお、試験後は試験片を装置内で徐冷し、徐冷後、試験片を装置外に取り出した。
【0076】
≪せん断強度測定試験≫
接合試験により得られた接合体について、ボンドテスターを用いてせん断試験を行い、接合強度を求めた。
図7は、本発明の実施例により得られた接合体のせん断強度を示すグラフであって、無酸素銅からなる接合試験片同士を接合した接合体のせん断強度を示している。
図8は、本発明の実施例により得られた接合体のせん断強度を示すグラフであって、金メッキが施された接合試験片同士を接合した接合体のせん断強度を示している。なお、本実施例では、予熱温度の異なる8つの接合体(予熱温度:110℃〜250℃)を作製し、それぞれの接合体についてせん断強度を測定するせん断試験を行った。なお、
図7,8では、各予熱温度において4回の測定結果の平均、最大値および最小値を示している。
【0077】
図7に示すとおり、無酸素銅からなる接合試験片同士を接合した接合体は、各予熱温度において、いずれも良好な接合強度を示している。具体的には、予熱温度が110℃でせん断強度(平均)が19.6MPa、予熱温度が130℃でせん断強度(平均)が19.2MPa、予熱温度が150℃でせん断強度(平均)が19.9MPa、予熱温度が170℃でせん断強度(平均)が18.8MPa、予熱温度が190℃でせん断強度(平均)が23.9MPa、予熱温度が210℃でせん断強度(平均)が27.8MPa、予熱温度が230℃でせん断強度(平均)が27.2MPa、予熱温度が250℃でせん断強度(平均)が28.1MPaである。いずれの場合においても、平均値で20MPa程度のせん断強度を示している。特に、予熱温度が190°以上の場合は、平均値が20MPaを超えている。一般的な高温はんだ(例えばPb−5Sn)を用いた場合のせん断強度が20MPa程度であり、本発明の接合方法においては、用いる銀粒子がマイクロサイズであっても十分な接合強度が得られるといえる。
【0078】
また、
図8に示すとおり、金メッキが施された接合試験片同士を接合した接合体においても、各予熱温度において、いずれも良好な接合強度を示している。具体的には、予熱温度が110℃でせん断強度(平均)が21.4MPa、予熱温度が130℃でせん断強度(平均)が22.6MPa、予熱温度が150℃でせん断強度(平均)が22.7MPa、予熱温度が170℃でせん断強度(平均)が22.3MPa、予熱温度が190℃でせん断強度(平均)が29.1MPa、予熱温度が210℃でせん断強度(平均)が30.3MPa、予熱温度が230℃でせん断強度(平均)が30.1MPa、予熱温度が250℃でせん断強度(平均)が33.0MPaである。いずれの場合においても、平均値で20MPa以上のせん断強度を示している。特に、予熱温度が210°以上の場合は、平均値が30MPaを超えている。上述したように、一般的な高温はんだと比しても、本発明の接合方法により、用いる銀粒子がマイクロサイズであっても十分な接合強度が得られるといえる。
【0079】
ここで、予熱温度の上昇に伴い接合強度が上昇する傾向にある理由としては、接合状態までの進行度の差によるものと考えられ、予熱温度が高い方が、焼結作用が働く状態に近くなるため、接合工程において速やかに焼結状態に移行でき、接合強度が高まると考えられる。
【0080】
以上のように、本発明にかかる接合方法は、接合強度を確保しつつ、部材同士を確実かつ簡易に接合する点で有用である。